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狩人の月(ハンターズ・ムーン)前伝 摩茄路仁奇談2



 (注:スパシーンが少ししかありません。それでもOKという方のみご覧ください)


 それはカブトガニのような外観をしていた。
卵から飛び出したそれは久也の顔面めがけて飛びかかる。
それの腹がまるで食いつこうとするかのようにぱっくりと開き、今にも久也の顔に飛びつくかと思えたそのときだった。
 突然、奇妙なカブトガニがバラバラに吹っ飛んだ。
不意の出来事に全員が一瞬、硬直する。
そこへ乾いた音がしたかと思うとある男が全身を震わせる。
彼らはそれぞれハッとして自分の胸を見やる。
すると胸にはぽっかりと大きな穴が開いているではないか。
さらに男はすぐ後ろに立っていた別の男の方を振り向く。
すると背後にいた男、さらにその背後にいた男も完璧に胸に風穴を空けていた。
残る二人も自分の状態に気づいたのか慌てて自分の胸を見やる。
だがさすがに生命力が尽きたのだろう、全員そのままドサリと倒れてしまった。
 そのとき、一人が何かを指差した。
それにつられて全員が指さされた方を見やる。
すると大きな煙が見えた。
煙は少しずつ晴れてゆく。
やがて闇の中から何者かが姿を現した。
現れたのは持安剛。
持安は銃を構えている。
その銃は何と全長が150センチ近くあり、スコープや小型の二脚が装着されている。
見るものが見れば、戦闘ヘリや装甲車相手に使用される対物ライフルの仲間だというのがわかっただろう。
 持安はライフルを構えたまま、立て続けに引き金を引く。
一回ごとに持安の姿を覆い隠してしまうほどの硝煙が生じ、それが幾重にも重なって持安の姿が見えなくなる。
仮面の集団は次々と身体を撃ち抜かれ、バタバタと倒れてゆく。
対物ライフル相手では叶わないと判断したのだろう、一部の者が慌てふためいて逃げ出す。
 持安は片眼をスコープに当てて逃げようとする仮面の面々にジッと狙いをつける。
やがて逃げてゆく者全員が少しずつだが一列に重なり合う。
そこを狙って持安はライフルの引き金を引いた。
大量の硝煙と共に銃弾が一直線に逃げるもの達を貫く。
全員、一瞬動きが止まったかと思うと顔から地面に突っ込むようにしてうつ伏せに倒れ伏した。
 全員に止めを刺したことを確かめると、持安はライフルを石碑の方へ向ける。
またライフルをぶっ放したかと思うと鎖がちぎれ飛んだ。
 久也は自由の身になると地面にヘナヘナと座り込む。
「へたり込んでる暇はないぞ。さっさと立て」
持安は久也の傍まで寄るとそういいやった。
「そ・・そんなこと・・言ったって・・・」
久也はそう言うが持安は構わずに久也の腕を引っ張って強引に立たせるとそのまま走りだす。
抗議しようとする久也を無視して持安は追われるもののごとき勢いでひたすら走った。


 久也が今にもへたばりそうなくらい息を切らしながらついてくるのを尻目に持安は林の入口へ向かって走ってゆく。
だが、突然立ち止まったかと思うと、銃を構えて周囲を見回し始めた。
 「じ・・持安さん・・・?」
突然の持安の行動に久也は思わず声をかける。
持安はそれに構わず、何かを探しているように銃をせわしなく動かす。
やがて持安のライフルはゆっくりと上へ上がってゆき、樹上に狙いを定めた。
 だが、闇夜とはいえ、持安の銃口の先には何も見えない。
(何考えてるんだろ?何も無いところに?)
久也はそう思わずにはいられなかった。
しかし、持安の表情は真剣そのもの。
何も無いはずの空間を睨むうちに表情はどんどん緊張したものになってゆく。
やがて何を思ったか、いきなり持安は虚空に向かって引き金を引いた。
 持安の全身を覆う程の硝煙と共に鈍い銃声が轟く。
同時に何も無いはずの樹上で火花が散り、堅い金属を思いっきり金槌で叩いたような音がした。
(え・・・!?)
久也は目と耳を疑った。
何も無いはずのところから火花が生じ音がしたのだ。
(何かが・・・いる!?)
久也は思わず樹上を見上げる。
よく見るとかなり重いものが載っているのか、枝が傾いでいる。
見えない何かがいる。
その事実に久也は恐怖がジワリジワリとこみ上げてくる。
 突然、フラッシュでも焚いたかのような光が生じた。
本能的に久也は目をつぶって背を丸める。
直後、轟音と共に持安が吹っ飛んだ。
 「ごぶあっっっ!!!!」
胸に風穴が開いてもおかしくないほどの衝撃を受け、持安は数メートル後方の幹に思いっきり叩きつけられる。
「ひいいっっ!!!」
久也は腰を抜かして地面にへたり込んでしまう。
直後、重いものが落下する音が響く。
ハッとして久也が振り返ると、枝が折れ、足跡がつく。
見えない何かが持安が吹っ飛ばされた方へ向かって歩いているのだ。
 「がっはぁ・・・ぐっお・・・・」
持安は胸を押さえ苦痛に顔を歪めている。
上着は破れて大きな穴が開いており、胸や腹があらわになっている。
胸には火傷が生じ、そこからブスブスと焦げくさい匂いと煙が微かに漂っていた。
 (くそっ・・・!あばらがイカれたな・・・)
持安は手触りでそれを感じ取る。
だが、いつまでも蹲っているわけにはいかない。
持安はゆっくりと立ち上がると目の前をジッと凝視する。
同時に腰から別の銃を引き抜いた。
ライフルは先ほどの衝撃で壊れているからだ。
手にしたのは水平二連式の猟銃をコートに隠せるくらい短く詰めたもの。
いわゆるソードオフ・ショットガンといわれるやつで、犯罪映画などでおなじみの代物だ。
 (さぁ・・・来い!!)
持安に向かって来ているはずのものに向かって心の中で呼びかける。
それを見えざる相手も感じたのか、突然虚空からバチバチと小さな雷の群れのようなものが生じた。
やがて、雷の群れの下からそれが姿を現した。
 現れたのは人間によく似た体格をした生物。
身長は230センチ、プロレスラー顔負けの筋肉質で逞しい身体つきをしている。
頭部は奇妙なデザインのヘルメットで覆い隠されており、ヘルメットと同質と思しき金属でつくられた装甲を胸部や肩、両腕や腰回りに身につけている。
右肩には小型の砲らしきものが装着され、金属製の槍を手にしていた。
 「う・・・・嘘・・そんな・・・馬鹿な・・・」
目の前に現れた異形の存在に久也は驚愕していた。
彼の前にいたのはまぎれもなく、人間達の間でプレデタ―と呼ばれている存在だった。
(そんな・・でも・・あれは・・映画じゃないか!?)
心の中でそう叫ぶ。
だが、目の前の光景がそれを否応なしに否定していた。
 プレデタ―は姿を現すと同時に再び持安目がけて肩のプラズマキャノンを発射する。
持安は身体を沈めてプラズマキャノンをかわすと同時にプラズマキャノンを狙って改造猟銃をぶっ放す。
鈍い音と共にスラッグ弾が発射されるや、ショルダーキャノンに命中する。
直後、キャノンが爆発し、衝撃でプレデタ―が傾いだ。
続けてもう一発、スラッグ弾をぶっ放す。
だが、プレデタ―が態勢を立て直したために銃弾は胸甲に当たってしまった。
 (まずい!?)
持安はすぐにも予備の弾丸を込めにかかる。
だが、それよりも早くプレデタ―がタックルを仕掛けてきた。
まるでバイクがぶつかったかのような強烈な衝撃に持安は足の感覚が無くなったと思う間もなく再びある木の幹に背中から叩きつけられる。
幹と地面に叩きつけられた衝撃に思わずうめくも、ジャンプしたプレデタ―が槍を構えて急降下してきた。
 とっさに持安は横へ転がって急降下攻撃をかわす。
同時に持安は素早く立ち上がりながら予備の弾丸を込める。
そしてプレデタ―が槍を引き抜こうとしているところへ鎧の隙間めがけてぶっ放した。
スラッグ弾が至近距離からプレデタ―の露出している脇腹に叩き込まれる。
だが、プレデタ―は一瞬よろめいたものの、槍を地面から引き抜きながら持安を横薙ぎに殴りつけた。
鈍い音と共に持安の身体が浮き上がる。
プレデタ―は宙に浮いた持安の足を掴むや、思いっきり振りまわし始めた。
プロレスでお馴染みのジャイアントスイングだ。
鈍い音と共に持安の身体は何度も周りの木に叩きつけられる。
ようやくプレデタ―が手を放すと同時に持安の身体はすっとび、近くの幹に思いきり叩きつけられる。
 「ごう・・・がっはぁ・・・・」
背中や側頭部に激しい衝撃を受け、持安は激しくせき込み、うめき声を上げる。
持安は頭の中で鐘がガンガンと響き渡っているような感覚を覚える。
視界は歪んで霞みががったようなものになっており、槍を構えてこちらへ近づいてくるプレデタ―が何人も重なり合っているように見えた。
それでも持安は立ち上がろうとする。
プレデタ―には命乞いなど無意味、一度戦う意思を見せた以上、倒す以外に道はないことはよく知っていたからだ。
 荒い息を吐き、手足が疲労と負傷で震えながらも、持安は構えてジッとプレデタ―を睨みつける。
「さぁ。来い!どうした!?醜い化け物!来いよ!」
持安は聞いているものが耳をふさぎたくなるほどの悪態をつきまくる。
プレデタ―にもその意図がわかったのだろう、怒りをあらわにするかのように凄まじい咆哮を上げたかと思うや、一気に踏み込んで槍を繰り出した。
猛烈な勢いで持安の胴目がけて穂先が襲いかかる。
持安は串刺しにされるのを待っているかのようにジッとしている。
だが、今にも穂先が腹に突き立てられようという刹那、持安はスッと横へ回り込むように動いた。
突きの勢いでプレデタ―はそのまま前へ突き進む。
持安は避けながら後ろへ回り込む。
回り込むと同時に持安は左手を繰り出した。
繰り出された左掌はプレデタ―の背後、胸甲に覆われていない部分にピタリとつけられる。
直後、鼓膜が破れるかと思う程の轟音と大量の煙が生じた。
 プレデタ―は前方に向かって思いっきり吹っ飛び、持安も反動で地面にぶっ倒れる。
持安はよろめきながら立ち上がってきたが、それを見た久也は我が目を疑った。
案内人の左腕が異様なものに変化していたのだ。
破れてボロボロになった袖の下から見える持安の左腕は鋼鉄製だった。
肘の隙間や掌の付け根にある銃口らしい穴からブスブスと煙を吐き出している。
機械の腕を覆い隠していた外皮は一部分だけ残っていて腕のあちこちにへばりついていたが、それが何とも無残な印象を与えていた。
 「畜生・・・マックスは・・さすがにキツイか・・・」
持安は反動が与えた衝撃に顔をしかめる。
だが、苦痛に顔をゆがめつつもプレデタ―の方に視線を向ける。
プレデタ―の方も起き上がってこようという努力をしていた。
だが、プレデタ―の胴には拳一つ楽に入るほどの大きな穴が開いている。
あくまでも戦おうと言っているかのように、プレデタ―は自身の槍に手を伸ばそうとする。
だが、その動きはだんだん弱々しくなってくる。
やがて、プレデタ―はピクリとも動かなくなった。
 「死んだ・・ん・・ですか・・?」
全く動かなくなったプレデタ―を見やりながら恐る恐る久也は尋ねる。
「あぁ・・。完全にな・・」
「それにしても・・・。何なんです?一体?これ・・プレデタ―じゃ・・?それに・・持安さんの・・その腕は・・?」
「話は後だ。それより・・今は一刻も早くここを離れる。行くぞ」
持安は満身創痍とは思えぬ足取りで歩きだす。
慌てて久也も後を追っていった。


 研究所へ戻る途中、車の中でようやく持安から聞きだした話は何とも異様なものだった。
いわく、あの人型の怪物は久也が想像した通り、プレデタ―と我々の世界では呼んでいる生物であること、また怪しい儀式を行った連中が持っていたのはエイリアンの卵であり、久也に襲いかかったのはフェイスハガーであり、彼らは架空の生物と世間には思われているが、そうではないことを持安は話した。
 持安によれば遙かな昔よりプレデタ―とエイリアンは地球にやってきていた。
一部の人間や文明にはその事実が記されており、「天駆ける狩人」「星を渡るもの」などといった呼び名でプレデタ―が、「黒き龍」「むさぼるもの」という名でエイリアンについて書かれた石碑や伝承などもあるという。
 また、彼らは太古においては神々や悪魔、魔物としてあるときは崇拝され、あるときは恐れられた。
現在でも彼らを大いなる存在として崇めるもの達が密かに教団を形成しており、久也を襲った者達もそうだった。
彼らは久也を宿主としてエイリアンをこの世に充ち溢れさせ、それによってプレデタ―を地上へ呼び寄せようとしたのである。
というのも、エイリアンはその戦闘力と繁殖力から生態系に対して極めて有害且つ脅威な存在である。
そのため、プレデタ―は彼らがどこかの星で繁殖する危険を察知すると駆除を専門とするプレデタ―を派遣してエイリアン達を殲滅する。
この事態が誤って伝承された結果、プレデタ―を地上へ呼び寄せるためにエイリアンを繁殖させるという行為が邪教集団によって行われるようになった。
それが久也が危うく犠牲となりかけた儀式なのである。
 なお、持安は以前はアウトローとして各地を旅しており、その間にこういった知識や経験を身につけていた。
その中で片腕を失う羽目になり、そこで大金を支払ってだが中に強力な火器を仕込んだ機械の義手を造ったのである。
それが持安の左腕で、普段は精巧な外皮によって隠してある。
だが、内臓火器の反動などが強烈なため、それを使用すると外皮が破れて機械の腕があらわになってしまうのであった。
 やがて研究所が見えてくると持安は車を止めて久也を降ろしてやる。
「一つだけ言っておく。今夜のことは絶対にしゃべるな。まぁしゃべっても誰も信じないだろうがな」
「は・・はぁ・・・・」
「それにもしお前がしゃべったことが知れたら今度こそお前はいけにえにされる。ああいうカルト連中は自分達の秘密を決して世間に漏らさせまいとするからな」
真剣な表情で持安はそう言い聞かせる。
さすがに久也にも伝わったのだろう、恐る恐るといった表情で頷いた。


 パンッ!パチィンッ!ピシャアンッ!パアアンッ!
「ごめんなさいっ!ごめんなさい~っ!ごめんなさい~~っ!」
久也は静香の膝の上で手足をばたつかせながら必死に謝っていた。
既にお尻は濃厚なワインレッドに染め上がっており、頬は涙でグショグショに濡れている。
 「ごめんなさいは当たり前でしょ!こんな時間に勝手に出かけて!しかも猪だか熊に追っかけられるようなことまでして!!」
静香は厳しい声で叱りつけると容赦なく年下の恋人のお尻に平手を叩きつける。
久也がいなくなったのがわかるや、無事帰ってくるまでずっと待っていたのだ。
ようやく無事に帰って来たのを見て一瞬ホッとしたものの、勝手に抜け出して出かけ、迷惑や心配をかけるようなことを仕出かしただけに静香の怒りは大きかった。
特に猪だか熊だかの獣に襲われそうになったという話を聞き(プレデタ―や邪教集団のことは話すわけにはいかなかったので、持安がうまく話をでっち上げたのである)、静香の心配と怒りは頂点に達した。
それで、当然のことながら久也は静香の膝に直行というわけであった。
 「ああ~んっ!ごめんなさい~~~っっっ!!!」
その後、久也の叫び声と肌を打つ音が一時間にわたって響き渡った。


 その数週間後、荒野がどこまでも続く中を一人突き進む男の姿があった。
男の正体は持安。
持安は革のケースに差した対物ライフルを巨大な剣のように背中に斜めに背負っている。
あの事件の後、持安は旅に出ていた。
邪教集団に対して攻撃を加えた以上、安穏とした生活を送ることは出来ないからだ。
それを示すかのように、バラバラと数人の男達が現れた。
男達はいずれも拳銃や猟銃を手にしている。
男達の姿を認めると、持安は立ち止まる。
邪教集団の追手なのはすぐにわかった。
数メートルの距離を保ったまま、両者はジッと睨みあっている。
持安は平然とした表情でジッと立っている。
しかし、討手側はだんだんと息が上がり、じっとりと額や頬が汗ばんでくる。
ゴクリと息をのみながら討手たちは標的を見つめる。
敵はまるで討手が眼中に無いかのような、静かな表情のままだった。
しかし、それが刺客達の不安や緊張を掻き立てる。
相手の超然とした様子に追手の方が恐怖を感じ、内臓が縮こまるかのような感覚を覚える。
とうとう、一人が耐え切れずに猟銃の引き金を引こうとしたときだった。
 突然、持安の両手がぶれたかと思うと一瞬かき消える。
だが、次の瞬間、それぞれの手にはソードオフ・ショットガンとリボルバーが握られていた。
二種類の銃が間髪入れずに咆哮をたてる。
同時に男達は発砲する間もなく案山子のようになぎ倒される。
やがて立っているのが持安だけになると、コートの下に得物を仕舞い、再び持安は歩きだした。


 ―完―


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theme : 自作小説
genre : 小説・文学

狩人の月(ハンターズ・ムーン)前伝 摩茄路仁奇談(まかろにきだん)1



 (注:有名作品のキャラクターが登場したり、それを元にオリジナルの設定を作り上げたりしています。それでも許容出来る方のみご覧ください)


 「これだ・・・・・」
野上秋成はそういうと目の前の木に茂っている葉を数枚摘んで採取する。
彼がいるのは摩茄路仁県中部に存在する山林地帯。
摩茄路仁県は本土から離れたところに存在する、北海道より一回り小さめの県だ。
本土とは違った環境下にあり、また手つかずの自然が残っている。
そのため独自の生態系が発達しており、そこへ学界や企業が目をつけて調査・研究に乗り出してきていた。
土方製薬もその一つで、摩茄路仁県に生息する動植物の中から製薬に利用できそうな生物の調査・研究を行っている。
その一環で野上達が出張してきていた。
 採取に没頭する野上の頭上にある枝で、何かが動いていた。
それは枝に巻きついた状態でするすると移動する。
動いているのは蛇。
蛇はゆっくりと枝を伝って野上の頭上へ向かってゆく。
やがて動きが止まったかと思うと下半身を枝に巻きつけ、今にも野上の頭上へ急降下しようとしたそのときだった。
 突然、何かが飛んできたかと思うと、蛇の頭を刎ねてしまう。
切り裂かれた首と胴は野上の足元へと落ちた。
「ひゃああっっ!!」
突然落ちてきた蛇に野上はビックリして後ろへ飛び退く。
「騒ぐな。もう死んでる」
不意に声がしたかと思うと背後から誰かが現れた。
 現れたのは30代前半らしい男。
猛禽を思わせる鋭い精悍な顔立ちで濃いめの無精ひげが野性味を強めている。
すらりとしたやや細身ながら狼やドーベルマンのようなしなやかさと強靭さを備えた身体つきをしている。
テンガロンハットやコートといった、摩茄路仁県ではよく使われている西部劇風の衣服を纏っており、全て黒で統一されている。
相当使い込んでいるのだろう、かなりくたびれた感じであった。
コートに隠れるようにして腰に太めの革ベルトを締めているが、それにはナイフの革鞘と猟銃の銃弾が装着されている。
手には水平二連式の猟銃を手にしていた。
 「何だぁ・・・持安さんかぁ・・・。おどかさないで下さいよぉ」
野上は現れた男の姿を見るとホッとする。
男の名は持安剛(じあんごう)。
狩猟や山の案内人で生活しており、新撰グループの研究チームに雇われてここの山林の案内役をしていた。
なお、摩茄路仁県は手つかずの自然が残っている場所が多いため野生動物が豊富である。
そのため、生活やスポーツとしての猟(漁)も盛んで県の主要な生業の一つとなっていた。
一方で野生動物が多いためにそれらと遭遇する危険も他県より多い。
そういう理由でこの県は職業的な猟師でない家でも猟銃などを保持していることが多かった。
従って、日本国内にしては珍しく銃が普及している土地でもあった。
 野上のボヤキを尻目に持安は蛇を仕留めるのに投げつけた狩猟用ナイフを回収する。
「そろそろ帰るぞ」
「え・・?もう・・?」
「遅いくらいだ。愚図愚図してると熊や猪と鉢合わせする」
「え・・!じゃ、じゃあ帰ります!あれ・・?久也君は?」
野上はキョロキョロと周囲を見回す。
一緒に採取をしていたはずの久也の姿が見えなかったからだ。
 「はぐれたか・・・」
持安はトランシーバーを取り出すと別の所にいる仲間に連絡する。
しばらくして他の研究員を案内していた仲間がやってくると野上を預けてその場を離れた。


 (あれ~?主任どこ行っちゃったんだろう・・・)
会津久也はキョロキョロと周囲を見回した。
どうやら採取の間にいつの間にかはぐれてしまったらしい。
(どっちから来たんだっけ~~?えーと・・・・)
必死にあたりを見回すものの、林での目印など知る由もなく途方に暮れてしまう。
(困ったなぁ・・・・どうしよう・・・・)
いい知恵が浮かばずため息をついたそのときだった。
 不意に久也は木々の奥に何かが見え隠れしていることに気づく。
(何だろう・・?)
好奇心に駆られ、久也はゆっくりと接近していく。
やがて久也は広場のように開けた空間に出た。
 そこには円状に列石が並べられている。
いわゆるストーンサークルというやつだ。
中央には大きな石が二つ立っている。
 (何かの・・・遺跡かな・・・?)
久也がさらに近付いて調べようとしたそのときだった。
「何をしてる!」
突然、強い力で久也は首根っこを掴まれて引っ張られる。
振り向くと見えたのは持安の顔。
「あ・・持安さん・・・」
「何をしてる・・・」
「え・・そこのを・・ちょっと・・」
遺跡を指さして答えようとすると、剛は凄まじい表情で久也を睨みつける。
思わず久也は恐怖を感じ、震えそうになった。
 持安は久也の腕を強引に引っ張るとズンズンと歩きだす。
「ちょ・・持安さん・・痛・・・」
久也が抗議しようとするが、有無を言わせぬ表情で睨みつけて黙らせると足早に持安は歩いて行く。
だが何か不安があるのか、いつでも猟銃を撃てる態勢を取っており、まるで危険な獣があたりに潜んでいるかのように周囲を見回しながら歩いていた。


 「で、どうだったの?話してくれたの?」
「それが全然ダメなんですよ~。聞くことすら許さないって感じで~」
久也は野上にそう答える。
山の近くにある社の研究所支局に戻った後、久也は休憩所で休みながら林で見たストーンサークルのことを野上に話した。
 「それにしても何なんだろうねぇ」
「まさか危ない宗教の集会所とか~?そこで生贄を奉げたりなんて・・・」
「バッカだなぁ、そんなことあるわけないじゃないか~。どっかのホラー小説じゃないんだからさ~」
「そうですよねぇ、あはははは」
二人はそう言って笑う。
しばらく話していたが、時刻も大分更けた頃、二人とも寝室の方へ引き上げていった。
 その夜中、廊下をこっそり歩く者の姿があった。
その足取りはいかにも抜き足差し足忍び足というべきもので、キョロキョロと闇の中を見回している。
やがて建物から出るや、星明かりが微かにその人物を照らす。
現れたのは久也。
久也は懐中電灯を手にし、昼間山林へ出かけたときと同じ格好をしている。
 (誰も・・・見てないよね・・・)
支局の裏口までやってくると、久也は再び周囲を見回し、誰もいないことを確かめる。
(よぉし・・・・)
久也はこっそり持ち出した裏口の鍵を取り出すと、慎重に鍵を回す。
ドキドキしながらうまく音を立てずに扉を開くとゆっくりと外へ出る。
そしてそのまま林へ向かう道を歩いて行った。


 ジリリリリ―――ンンンンン!!
リリリリリリリリリ――――ンンンンン!!
持安が寝室で眠っている最中、突然電話のベルが鳴り出した。
「どこの・・どいつだ・・?こんな時間に・・・」
持安は起きると電話の所へ行き、受話器を取る。
「もしもし・・?ん・・?研究所の人か?何・・・わかった・・ああ・・・」
持安は受話器を置くとすぐに着替える。
やがてどこかから長く真っ黒な包みを持ってきたかと思うと足早に家を後にした。


 (これか・・・)
懐中電灯の明かりを頼りに久也はストーンサークルを調べる。
明かりを向けてみると中央の大きい立石には何かが刻み込まれているようだった。
描かれているのは絵文字のようなもの。
久也はそれを見ると、以前テレビのドキュメンタリー番組や博物館の企画展で見た中南米の古代文明の絵文字を連想した。
さらに調べていくと二種類の像が彫り込まれていることにも気づく。
一つは人間に近い身体つきをしているが、肌は爬虫類のようで、顔も異様だった。
もう一つは何とも奇妙なものだった。
 それはナスのように長い頭部を持ち、細見の身体と長い尾を持つ奇妙な生き物。
非常におぞましい迫力を持って彫り込まれているせいか、久也は調べているうちに背筋が寒くなってくる。
もう一つの立石は像や文字が刻まれているものよりは小さく、てっぺんが窪んでいる。
それはそこに何かをセットするためであるように思えた。
 (ん・・・あれ・・?)
石の根元にある石のタイルなどを見ていて久也は妙なしみがあることに気がついた。
「何だろ・・・これ・・・」
懐中電灯の光を当てて久也はジッとそれを見つめる。
染みはどす黒くついてから相当時間が経っているようだった。
(暗過ぎて・・・よくわかんないなぁ・・・・・)
さらによく光を当てて久也はもっと調べようとした。
 暗闇の中、木陰からゆっくりと近づく者がいた。
山林、しかも闇夜にも関わらず慣れた足取りで彼は進んでゆく。
歩きながら彼は懐から何かを取り出した。
取り出したのは革製の棒。
ブラックジャックだ。
彼は足音を殺し猫のように歩み寄ったかと思うとすかさず久也の後頭部目がけてブラックジャックを振り下ろす。
鈍い微かな音と共に久也は一旦動きを止めたかと思うとそのままヘナヘナと地面に崩れ落ちた。
 久也が意識を取り戻したと同時に聞こえたのは奇妙な音楽だった。
いまだはっきりしない視界の中で周囲を見回してみると、ストーンサークルの周りを激しく動き回っている者達がいる。
(何だ・・ろう・・?)
久也は身体の節々に痛みを覚えつつジッと見つめる。
少なくても17,8人はいるらしく、鉢や鐘、小型の太鼓などを激しく鳴らしながらとび跳ねたりしている。
それはまるでテレビのドキュメンタリー番組等で見る、アフリカや太平洋諸島の先住民族の踊りのようだった。
彼らはいずれも顔に仮面をつけて踊っている。
それは今まで見たことのないデザインの仮面だった。
それは爬虫類の顔を人にしたような感じのデザインで、ドレッドヘアー風の飾りを頭部に植え込んでいる。
月明かりやかがり火に照らされると仮面がより恐ろしく、またおぞましく見えた。
また、踊り手たちは爬虫類の皮膚をイメージしたようなデザインをびっしりと施した衣服を纏い、手槍や鉤爪、大型ナイフといった武器を持って踊っている。
 (あんな・・・もので引っかかれたら・・・)
思わず想像してしまったのだろう、久也はブルブルと震えが走る。
しばらくの間謎の集団は踊っていたが、やがて新たな人物が現れた。
 現れたのは鱗の刺繍をびっしりと施した巫女服に身を包んだ女。
他の者達よりもずっと手の込んだ仮面をつけていた。
女が現れると一同は静まる。
一瞬にして周囲は騒擾から静寂へと変わった。
 巫女服の女は御幣を激しく振りまわし何やら祝詞のようなものを唱えている。
それは今まで久也が全く聞いたことのないものだった。
(な・・何だろう・・?この・・感じ・・・)
久也は女の唱える祝詞に異様なものを感じる。
聞いているうちにチリチリと舌や喉が渇いてきたかと思うと汗が噴き出してくる。
足元から冷たいものが這いあがってくるような感覚を覚え、久也は背筋が寒くなる。
そして何とも言い知れようのない嫌悪感や不快感もこみ上げてきた。
 不快な祝詞と踊りはしばらく続いていたが、ようやく終わったのか、巫女姿の女はスゴスゴと引き下がる。
それを見て久也がホッとする間もなく、今度は別の光景が繰り広げられた。
今度は別の出で立ちをした男が現れたのだ。
その男も仮面をかぶっているが、こちらは目が無くナスのように曲がった長い後頭部を持っており、墨のような漆黒に塗られている。
鋭い鉤爪を植えた頑丈な手甲と体にぴったりした衣服を身につけていたが、それらも全て黒づくめだった。
 黒装束の男が現れると同時に踊り手の一人が進み出る。
両者は石碑である立石に向って咆哮を数度繰り返すと、互いに武器を構えて睨みあった。


 激しい衝撃音と共に両者とも地面に吹っ飛ぶようにして倒れる。
すぐさま二人とも起き上がり、互いの武器で攻めかかる。
刃と刃が激しくぶつかり合い、汗や土が周囲に飛び散る。
異様な姿をした二人は互いに相手の命を奪わんとするかのような勢いで互いに相手に打ちかかる。
二人は一進一退の攻防を続けていたが、やがて黒づくめの方が押され始めた。
黒装束の方は撥ね退けようとするものの、だんだんこらえ切れなくなり、最後には片膝をついた態勢になる。
やがて槍を持った方が相手の鉤爪を巧みにもぎ取ったかと思うや、槍を思いっきり繰り出した。
 久也は蒼白になって目の前の光景を見つめていた。
黒づくめの男が地面に倒れ伏している。
対戦相手は何のためらいも無く倒れた相手へ止めを繰り出した。
「ひぃ・・・・」
目の前で行われた口にしたくもない行為に久也は心底から震えあがる。
 黒づくめの男が完全に息絶えたのを確認すると、勝者は槍を高く上げて勝利の雄叫びをあげる。
それに応えるように周囲の者達も咆哮を上げた。
(ひ・・ひぃぃ・・)
久也はもはや限界だった。
彼はこの異様な宴から逃げ出そうとする。
だが、その直後強い力で身体を取り押さえられた。
ハッとして振り返ると、数人の仮面の男達が久也を捕まえている。
本能的に久也は振りほどこうとしたが、それよりも先に彼らは久也を引っ立てる。
 「いやあああっっっ!!離してぇぇぇぇ!!!」
久也は必死に叫んだ。
だが、彼らはそれを無視し、中央の立石の元へ久也を引っ立ててゆく。
絵文字や像が彫り込まれた立石に久也を押さえつけたかと思うと、彼らはどこからともなく鉄鎖を取り出してきて、それで久也を石へ縛りつけてしまった。
 (な・・何が・・始まるんだ・・?)
久也は恐怖に戦きながら仮面の集団を見やる。
やがて巫女服の女が恭しく何かを頭上高くに掲げながら現れた。
それは卵に見えた。
だが、それは何と大きさが20~30センチはあろうという代物だった。
闇の中で見えにくいが、それは茶色で表面は何とも気持ち悪い。
巫女服の女は異様な祝詞を唱えながら進む。
その他の者達は全員跪いたかと思うと幾度も上体を起こして激しく叫ぶ。
どうやら謎の巨大卵は彼らにとって聖なるもののようだった。
 仮面の巫女は久也の前に置かれている低い石柱のてっぺんにあるくぼみに巨大卵をセットする。
足早に巫女は遠ざかったかと思うとさらに激しく呪文を唱えた。


 天駆ける狩人よ 星より来たりし荒ぶるものよ!
 大いなる獣よ! 万の子を生みし黒き龍よ!
 降りたまえ! 降りたまえ!
 天を駆け獲物を狩りし修羅の化身達よ!
 我ら御身らに至高の贈り物をせん!
 御身らの最も好みたまいしものを捧げん!
 我らこのものの血と肉を持って大いなる獣を地に下さん!

 大いなる獣よ! あらゆるものを貪り滅ぼす黒き龍よ!
 我ら神々のためにそなたを地に生まんとす!
 龍よ!産めよ!増えよ!地に満ちよ!
 さすれば天の狩人 大いなる神々が訪れん!
 獣よ!喰らえ!増えよ!貪れ!
 そして天の彼方より偉大なるもの 荒ぶるものを下さしめよ!

 巫女はこれ以上ないほど興奮した様子で祈りの言葉を叫ぶ。
それに反応したのか、卵に変化が生じた。
卵の表面が蠢きだしたのだ。
心臓が脈打っているかのような様子で卵の表面が動き出す。
同時に卵の上端に十字型の切り込みが現れた。
切り込みが現れると同時にゆっくりと卵は開きだした。
やがて中から細いカサカサと動くものが姿を現す。
現れたのは虫や蟹のそれに似た足。
八本の脚は自己主張するかのように激しく動いている。
足が動きながらカブトガニに似た奇妙な生き物が半身を見せたかと思う間もなく、猛烈な勢いで卵から飛び出した。


 ―続く―


theme : 自作小説
genre : 小説・文学

狩人の月(ハンターズ・ムーン)2 深夜の港



 一般市民ならとっくにベッドに入っている時刻、港の倉庫へやってくる者の姿があった。
それは僧服らしい服を纏った男とその付き人らしい数人の人間。
既存の宗派とは全く異なった衣服を纏っていることから、新興宗教系の連中だと想像できた。
「ここです・・。導師・・・」
付き人はある倉庫の前にやってくると導師と呼んだ僧服姿の男に声をかける。
導師が傲岸な感じで頷くと、付き人が先に立って倉庫内へ入っていった。
 倉庫の中では既に先客がいた。
先客はスーツ姿の男達。
いずれも一癖ありそうな面構えで、懐や腰の後ろの膨らみが拳銃を隠し持っていることを示している。
いわゆるヤクザ・暴力団などと呼ばれる手合いなのは一目瞭然だった。
 「待ってたぜ・・・」
ヤクザの頭株らしい男がやってきた導師一行を見るとニヤリと笑みを浮かべる。
「品物は持って参ったのか?」
時代劇の公家を彷彿とさせるイントネーションと口調でその導師はヤクザの頭に尋ねた。
「そっちこそちゃんと金持ってきたんだろうな?」
ヤクザの問いに付き人の一人が金属製のケースを置き、開いて見せる。
すると中には一万円札がびっしりと詰め込まれていた。
ちらりとそれを見せると付き人はすぐにケースを閉じる。
 それを見ると今度はヤクザの方が部下に頷いてみせた。
命令を受けるとヤクザ達はどこからか人一人が入れそうな長方形の鋼鉄製の檻を運んでくる。
格子の間から中にいるものの姿が見えた。
中にいるのはのが2メートルはあろう巨大なムカデ。
ムカデは閉じ込められて怒っているのだろう、大きく頑丈な顎をガチガチとかき鳴らし、顎の先端から毒液を滴らせている。
 「ほっほぅ・・。素晴らしい!本物の鬼百足(おにむかで)じゃ・・・」
導師は興奮を隠せない表情で言う。
鬼百足とは檻の中にいる巨大百足のこと。
彼らこそ日本の伝説や民話に語り伝えられる巨大ムカデ系モンスターの正体だった。
その大きな身体と兇暴性や猛毒などから日本国内に存在するモンスターの中でも土蜘蛛などと並んで狩人の月日本支部により最危険レベルの生物に指定されている。
しかし、それ故に密かに取引や飼育を企む者がおり、対モンスター機関ではそういう者達に目を光らせていた。
 互いに品物を引き渡そうとしたそのときだった。
ドンッ!ドンドンドンッッ!!
「何の音だ!?」
突然、銃声らしい音があたりにこだまする。
「おい・・あんたまさか・・!」
裏切ったかと思い、ヤクザの一人が銃を導師側に向ける。
「違うわ!我々ではない!」
「じゃあ誰だってんだ!?」
「それはこいつに聞いてみることだな」
別の声が聞こえるや、ハッとして全員振り返る。
すると導師の付き人と同じなりをした、プロレスラーのようないかつい体格で坊主頭の男が立っていた。
男は見知らぬ若い女を連れている。
 「離しやがれっ!タコ入道野郎っ!」
純銀から造り上げたような見事な銀髪の女は美しい顔を怒りに歪め、口汚く罵る。
「何だこのガキは・・?」
ヤクザの頭が尋ねるように言うと坊主頭の男は女から取り上げた銃と手帳らしいものを投げやる。
ヤクザや導師は手帳に縫いつけられた月をモチーフにしたバッジを見るや、表情が強張った。
 「もう嗅ぎつけたのか・・・」
ヤクザ達を憎々しげに見やり、ときおり唾を床に吐く素振りを見せている高校生か大学生くらいの若い娘を見つめながら、全員忌々しげな表情を浮かべる。
手帳に縫いつけられているのは狩人の月のエンブレム。
この手帳は狩人の月に正式登録されているハンターであることを示す身分証だった。
狩人の月はモンスターの闇取引を行う者も追跡の対象にしていたからだ。
 「愚図愚図してる暇はねぇ!このアマっ子を始末してずらかるぞ!」
ヤクザのボスが命令を下すや、手下達は拳銃を懐や腰の後ろから取り出す。
そして捕虜である銀髪の女、通称シルヴァー・シャークに銃口を向けてぶっ放そうとしたそのときだった。


 突然、何かが勢いよく伸びる音がしたかと思うと細く長いワイヤーが檻に巻きついた。
ワイヤーは巻きつくや否や、思いっきりケージをひっくり返す。
ひっくり返された衝撃で、何とケージの入口が開いてしまい、鬼百足が這い出してきた。
 「ゲッッ・・・・」
全員慌てふためいた表情を浮かべる。
一人二人が思わず百足に向かって銃をぶっ放す。
だが、その巨体からは想像できない敏捷性で銃弾をかわしたかと思うや、あっという間に接近し、襲いかかった。
悲鳴と共にバリバリと骨をかみ砕く音が鳴り響く。
 突然の事態に全員ハッとしていたが、すぐに我に返るや、ムカデを撃ち殺そうとする。
全員、ムカデに気をとられていたため、シルヴァー・シャークへの注意がおろそかになる。
鈍い音がしたかと思うとシルヴァー・シャークを取り押さえていた一人が顔を押さえて身体をくの字に折り曲げる。
気づいたときにはヤクザの一人から奪ったアメリカ製の自動拳銃をシルヴァーは構えている。
ヤクザ達が引き金を引くよりも先にシルヴァーが奪った銃が火を吹いていた。
 数人のヤクザが撃つ間もなく次々とシルヴァーの銃に倒される。
「へっ。ざまぁ見や・・ぶうっっ!!!」
シルヴァーが不意に強烈な衝撃に吹っ飛ばされる。
苦痛をこらえて立ち上がると、もう一頭の鬼百足が檻を破り、下半身の方で吹っ飛ばしたことに気づいた。
同時に倉庫内には怪物たちと自分以外いないことも。
百足達の口は真っ赤に染まっており、周囲にはヤクザやカルト教団員の残骸が残っていた。
 「ファッキュー!!汚らしいゲジゲジ共っっ!!!」
自分を吹っ飛ばした百足達に向かって叫ぶとシルヴァーは今度は怪物たち相手にヤクザから奪った銃をぶっ放す。
だが、強靭なムカデの外殻に阻まれ、弾かれてしまう。
「畜生!」
ぶっ放しながらも女は周囲を見回す。
するとやや離れたところにヤクザ達に取り上げられた自分の対モンスター用リボルバーが転がっていることに気づいた。
本能的にシルヴァーは飛び出して銃を取ろうとする。
だが、百足も飛び出し、その大きな顎で銃を弾き飛ばしてしまった。
 「く・・・・・」
鎌首をもたげてジリジリと迫って来る二匹の怪物百足に対し、シルヴァーが死を覚悟したそのときだった。


 いきなり、一匹の百足が身をくねらせて悶え始めた。
ハッとして注視すると、背中にガンマンまがいの黒装束男がへばりついてる。
(ジャンゴ!?)
彼女は相棒が逆手に黒いナイフを握り締め、外殻の間から突き刺すのを見る。
百足は必死に暴れて持安を振り落とそうとするが、持安は全身を左右に激しく揺らしつつも必死に巨大昆虫にしがみつく。
仲間の背中に持安がしがみついていることに気づくや、もう一匹のお化け百足が救援に向かおうとする。
それを見るや、今度こそと言わんばかりに彼女は自分の銃に飛びつくようにして拾う。
シルヴァーは咥えていた長楊枝を吐き出すや、両手に構えた二丁のリボルバーをぶっ放す。
耳をつんざく轟音が立て続けに響き渡り、頭と言わず胴と言わず大百足の身体に銃弾が命中する。
命中するたびに銃弾に仕込まれた特殊薬品の煙が上がり、熱したナイフを突き立てられたバターのように傷口からジュウジュウとムカデの外骨格が溶けてゆく。
ようやく銃声がやんだときには巨大な顎しか残っていなかった。
 右腕でしっかりとつかまりつつ、持安は機械の左腕を伸ばして大百足の頭に手を置く。
直後、鋼鉄製の持安の手の下で大きな衝撃が発生し、その反動で持安は宙高く舞い上がる。
持安が1,2メートルほど離れたところに着地すると同時に、頭上から百足の肉片や体液がドッと降り注ぎ、おかげで持安は怪物の肉片や体液でベタベタになってしまった。


 「あーはっはっはっ!今思い出しても笑えんな~~っ!汚物まみれになったアンタの姿~~~~」
シルヴァーは大笑いしながらグラスを傾けていた。
頭上から体液などをまともに引っかぶり、凄まじい姿となった持安がよほどおかしかったのだろう、涙が出るくらいシルヴァーは笑っている。
持安はそんなことは平気のへざといった感じで宿のルームサービスで取り寄せたスコッチを飲んでいる。
 「シルヴァー・・・・」
「あん?何だよ?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらシルヴァーは持安を見やる。
「何故・・・持ち場を離れた?」
その言葉にシルヴァーは一瞬ギクリと表情が強張る。
「な・・何の・・ことだよ・・?」
シルヴァーは誤魔化そうとするが、態度から見え見えだった。
 「抜け駆けの功名でも狙ったか?」
持安の問いにさらにシルヴァーの表情は強張った。
それを見て持安は確信する。
 「言っておいたはずだ・・。勝手な行動は許さんと・・・」
「べ・・別にいいじゃねえかよ!悪党どもは死んだしムカデは始末したんだしよ!結果オーライじゃねえか!」
持安相手にそんな言い訳が通用しないのはわかっていつつもシルヴァーはつい弁解しようとする。
 「結果オーライだと?お前・・・ほとほと馬鹿だな」
「んだとぉ!喧嘩売ってんかあっ!クソオヤジッッッ!!!」
持安に馬鹿にされたと感じたのか、女はいきり立つと拳銃を引き抜こうとする。
だが、持安は素早く女の腕を押さえ、もう一方の手で拳銃を取り上げてしまった。
 「お前が勝手な行動を取ったために必要のない殺しや後始末をする羽目になった。わかっているのか?」
持安たちは悪党どもを殺さずに生け捕りにする計画だった。
国によっては荒っぽい行為を嫌うため、捕えて適当な理由をつけて司法当局へ引き渡す必要があったからだ。
だが、シルヴァーが勝手な行動を取ったためにそれがオジャンとなってしまったわけだ。
一応後始末のための工作をしてきておいたが、場合によっては面倒なことになりかねない。
だからハンターには余計なトラブルを引き起こさないための配慮や頭脳が求められもした。
 「うっせえよっ!えらそうに説教すんじゃねえっ!」
自分の決断を責められ、シルヴァーは頭に来る。
本能的に殴りかかるが、持安はシルヴァーの繰り出してきたパンチを払うともう一方の腕で腹にパンチを叩き込む。
「ぐっっ・・・・!!」
思いっきりパンチを食らわされ、彼女は身体を曲げる。
間髪入れずに持安は身を入れると彼女の手首を取り、引っ張るようにして引き寄せる。
シルヴァーが気づいたときにはベッドの縁に腰かけた持安の膝の上にうつ伏せにされていた。
 「ってまたコイツかよっっ!!!離しやがれっっ!!」
今までの経験から即座に何をされるかに気づくや、シルヴァーは噛みつくような口調で抗議する。
怒りの声を上げるシルヴァーを無視して持安はいつものように娘ハンターのショートパンツを降ろしにかかる。
 「あっ!馬鹿っ!何しやがるっ!こんのスケベっ!チカンっ!訴えてやる~~~!!!」
シルヴァーはさらに激しく罵るが、持安はそれに構わずしっかりとシルヴァーを押さえつけると彼女のお尻目がけて手を振り下ろした。


 パアチィンッ!!
「・・・っ!!」
弾けるような音と共にシルヴァーは悔しげに唇をキッと噛みしめる。
ピシャアンッ!パシンッ!パアンッ!パチィンッ!
「クソッ!やめろっ!畜生っ!こんの野郎っっ!!」
シルヴァーは激しく両足をバタつかせながら叫ぶ。
 「いい加減に学習したらどうだ・・・・」
持安はさすがにやや呆れたような口調で話しだす。
ピシャアンッ!パアチィンッ!パアシィンッ!パアアンッ!
「うるせえよっ!毎回毎回ケツ引っぱたきやがって!俺ゃあガキじゃねえぞ!」
年頃の娘にとってはこれ以上ないであろう屈辱にシルヴァーは怒りの声を上げる。
「口で言ってもわからんのなら子供と変わらんと思うが?」
「うるせえよっ!とにかく離しやがれっっ!!」
シルヴァーはひたすらに抗議する。
「反省の色無しか・・・。なら仕方無い・・・」
そういうと持安は平手をまた振り下ろしはじめた。
 パアシィンッ!ピシャアンッ!パアアンッ!パシィンッ!
「やめろっ・・!馬鹿っ・・!畜生・・!こんにゃろう・・・!」
怒りと悔しさの入り混じった声でシルヴァーはひたすら罵る。
ピシャアンッ!パアシィンッ!パッチィンッ!パァアアンッ!
「いつも言っているはずだがな・・・・」
普段とは異なり、持安は珍しくお説教を始める。
ピシャアンッ!パアシィンッ!ピシャアンッ!パアシィンッ!
「うっせえっ!離せってんだろっ!この下種野郎っ!痴漢っ!セクハラ親父っっ!!」
怒り狂った手負いの獣とでもいうような勢いでシルヴァーは怒りの叫びを上げ続ける。
だが、持安はそれに構わず平手を振り下ろしながらお説教を続ける。
 「勝手な真似は許さんとな・・・・」
ピシャアンッ!パアシィンッ!パアシィンッ!ピシャアンッ!
「うるせえっ!減らず口叩くんじゃねえやっ!この梅●チ●●っ!腐りきったユルユル●●●から生まれやがったかさっかき犬野郎っっ!!!」
ピシャアンッ!ピシャアンッ!パアシィンッ!パアシィンッ!
「にも関わらず貴様はそれを破った・・・。自分が何をしたのかわかっているのか?」
バアッシィンッ!ビッダァンッ!バッジィンッ!バッアァンッッ!!
「うっぎゃあああっっ!!!」
突然、持安の平手の勢いが今までとは比較にならないほど強くなった。
 「てっめぇっ!何しやがんだっ!殺気込めて叩いてんだろ~~~っ!!!」
強烈な平手打ちに思わずシルヴァーは咆哮といってよい程の怒りの声を上げる。
「それがやれるものなら・・・してやりたいほどだ・・・・」
持安は静かな、だが有無を言わせない強い口調で言った。
その言葉に思わずシルヴァーは背筋に冷たいものが走る。
「今日という今日は・・・・許さん・・・」
「お・・おい・・。ちょっと・・待てよ・・」
何かヤバげなものを感じ、本能的にシルヴァーは呼びかける。
だが持安は答える代りによりしっかりと女を押さえつけると思いっきり平手を振り下ろした。


 「ひっひぃん・・ひっく・・ふぇぇ・・・・」
シルヴァーはボロボロと涙をこぼしながらしゃくり上げる。
そのお尻は今や濃厚なワインレッドに染め上がっていた。
二周りくらいは大きく腫れ上がり、触ると火傷しそうなくらい熱を放っている。
 「少しは反省したか?それとも・・・・」
ポンポンと軽くはたくように手を動かしながら持安は尋ねる。
「も・・もぉ・・やめ・・やめて・・くれよぉ・・・ケ・・ケツ・・マ・・マジ・・痛ぇよ・・ぉぉ・・・」
お尻の痛みにシルヴァーはボロボロと涙をこぼす。
徹底的に与えられた苦痛に今やプライドも意地も完全に折れていた。
 「だったら何が悪かったんだ?言ってみろ」
持安はややトーンを抑えて尋ねる。
「か・・勝手なことして・・・作戦・・ブチ・・壊しに・・したぁ・・ひっく・・」
「そうだ。で、何故それが悪い?」
「よ・・余計な・・・死人とか・・怪我人・・が・・出る・・」
「そうだ。いいか、よく聞け。俺達の仕事は遊びじゃない。人とモンスターとの命のやり取りだ。そこでは僅かなミスですら死につながる。今日はたまたま鬼百足も密輸屋どもも始末出来たが、運がよかっただけだ。下手をすれば二人とも死んでいた。わかるな?」
持安の問いにシルヴァーは黙って頷く。
「たった一人の勝手な行動が多くの死を招く。組んでやっている以上、それは絶対にあってはならんことだ。だからくどいほど教えている。わかったか?」
「わ・・わかった・・から・・・も・・もう・・しねぇ・・よぉ・・・」
「だったら言うことがあるだろう?」
「な・・何・・言え・・ってん・・だよぉ・・・?」
「こういうときは『ごめんなさい』だろう?」
持安の言葉にシルヴァーの表情は硬直する。
(じょ・・冗談じゃ・・ねぇ!ご・・『ごめんなさい』だなんて・・。そ・・それじゃ・・ガキじゃ・・ねえかよ!?)
最後に微かに残っていたシルヴァーのプライドが思わず抵抗の素振りを見せる。
 「どうした・・・?まだ反省するか?」
それを察したように持安が問うてきた。
その言葉に女は再び背筋が寒くなる。
(じょ・・冗談じゃねえっ!これ以上やられたらマジで死んじまうっっ!!!)
心の底からシルヴァーはそう叫びたくなる。
若き女ハンターは苦悶の表情を浮かべて唸り声を上げる。
だが、ようやく観念したといった表情を浮かべると肩を震わせながら口を開いた。
 「わ・・わかった・・言う・・言うよ・・・お・・俺が・・わ・・悪か・・った・・ご・・ごめ・・ごめん・・ごめん・・なさい・・・ごめんな・・さい・・。ま・・マジ・・悪・・かった・・から・・だ・・だから・・も・・もぅ・・許して・・くれよぉ・・ごめんなさい・・・ごめん・・なさい・・・」
ボロボロと悔しそうな涙をこぼしつつ、シルヴァーは必死に謝る。
(やれやれ・・。ようやく言えたか・・・)
持安はホッとしたような溜息をつくとようやく手を降ろした。


 ―完―

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

狩人の月(ハンターズ・ムーン)1


(注:エイリアンが登場します。こういうお遊びが許容出来る方のみご覧ください)

 頭に低くかかりそうなほど大きな満月が、夜空に照り輝き、眼下に光を降り注いでいる。
月光に照らされ、密林に隠れている石造りの廃神殿や見たこともないような奇妙な像が佇んでいる。
かつては遺跡のメインストリートだったであろう石畳の上に一人、ポツンと立っている女の姿があった。
 その女は年は16~20歳といったところ、尻に届くほど長く純銀から造り出したのではなかろうかというくらい見事な銀髪をしている。
ルビーのように見事な真紅の瞳が特徴的な美しい顔立ちをしているが、勝ち気で何者が相手でも噛みついてきかねない野性的な雰囲気がある。
口にくわえている削った長い木の枝が余計にそういう印象を強めていた。
 体格の方は一流モデルを目指せるほどすらりとして均整がとれたもので、さながら豹やチーターのような美しさとしなやかさを合わせ持った猫科の肉食獣をイメージさせた。
そんな誰からも羨ましがられるような身体を丈がみぞおちの上までの短い赤地のジャケットに同じくらいの丈の黒い短シャツ、ジャケット同様赤地のショートパンツと黒のオーバーニーとブーツ、赤地のポンチョといった服で覆っている。
ポンチョ、ジャケット、パンツの赤地の服にはいずれも獲物を貪り喰らう獰猛な鮫の絵が描かれていた。
さらに女の腰にはガンベルトに納めた拳銃が二挺、ぶら下がっていた。
ガンベルトに納まっているのはリボルバー。
どうやらマグナムリボルバー系の銃をベースに造られた改造銃のようだった。
 女は口にくわえた木の枝を揺らしながら石畳の上を歩いている。
不意に女が立ち止まったかと思うと腰の二挺拳銃を抜き放ち、器用に親指で撃鉄を起こす。
銃を撃てる用意をすると、女はジッと正面の石柱をジッと見つめていた。
 闇に紛れてわかりにくいが、石柱の背後に何かがいた。
ジッと見つめているとやたら長い頭部や、先端が鋭く尖り鞭のようにしなやかな尾がときどき見え隠れする。
やがてそれがゆっくりと石柱の影から姿を現した。
 月光のおかげで現れたものの姿がはっきりと闇に浮かび上がる。
金属的な光沢の外殻に覆われ、全身は墨のような黒。
眼窩や目は無く、異様に伸びた後頭部は何だか卑猥な器官を連想させる。
ミイラを思わせる細い身体つきと長い手足、そして身長に匹敵するほど長い尾をくねらせている。
 エイリアンという通称で呼ばれるその生物はジッと女と睨み合う。
女の方もいつでもぶっ放せる態勢で二丁の拳銃を構えている。
エイリアンはグルルルと唸り声を上げている。
歯をむき出しにして唸っているせいか、ダラダラと涎が垂れ、地面がべたべたになる。
不意にエイリアンが身体をグイと傾けかけたそのときだった。


 乾いた音が周囲に響き渡ったかと思うと、女の頭上でエイリアンの叫び声が上がる。
直後、女の背後に勢いよく落下してきた別のエイリアンが叩きつけられ、身体を傾けて飛びだそうとしていた正面のエイリアンの頭蓋に穴が開いたかと思うと一気にそれが広がり、頭が溶けて無くなってしまった。
 闇に紛れ、四方から数匹のエイリアンが飛び出してきた。
女はコマのように回転しながら両手のリボルバーをぶっ放す。
鼓膜が破れそうになるほどの轟音が響き、銃口が絶え間なく火を噴く。
弾丸が当たるや、エイリアンの外殻の表面に焦げたような匂いが立ったかと思うと巨大な穴が開くようにしてエイリアンの身体が溶けてしまう。
女の銃に使われている弾丸は特製の品物でエイリアンの身体を溶かしてしまう効果を持つ特注品だった。
 女の銃がようやく静かになったときには数体のエイリアンが物言わぬ躯になっていた。
いずれも頭蓋や胸、腹が溶解してポッカリと穴が開いたように無くなっている。
女は全てのエイリアンを倒したのを見るや、満足げにニヤリと笑みを浮かべる。
そしてその場を去ろうとしたときだった。
 突然、女は強い力で地面に引き倒される。
ハッとして振り返るや、足首にエイリアンの尾が巻きついているではないか。
一匹残っていたのだ。
女はしまったと言いたげな表情を浮かべる。
引き金を引くも、二丁とも虚しく撃鉄が落ちる音のみが響く。
エイリアンの表情に勝利を確信したような表情が浮かぶや、エイリアンは一気に尾を手繰り寄せる。
あっという間に女は引き寄せられ、エイリアンの細く長い、だが強靭な両腕で肩をしっかりと押さえられてしまう。
 「ぐ・・・・」
人間にはとても堪えがたい不快な匂いが鼻を突き、女は思わず顔を顰める。
エイリアンが身体を引いたかと思うや、勢いよく女に顔を近づけたそのときだった。
 突然、エイリアンが苦痛の声を上げた。
ハッとしてエイリアンは後ろを振り向く。
するとエイリアンの背後に見知らぬ人間が立ちはだかっているではないか。


 立っているのは三十代前半らしいアジア系の男。
猛禽を連想させる鋭く精悍な面立ちで濃いめの無精ひげがその印象をさらに強くしている。
背が高くすらりと引き締まった細身ながらも鍛え上げられた肉体の持ち主でさながら狼やドーベルマンといった雰囲気を漂わせている。
身につけているものはすべて黒地に統一されており、テンガロンハット、丈の長いコート、ズボンにブーツといったガンマンさながらの服装をしている。
背中には黒い革鞘に納めて全長150センチ近くもある長大な大口径ライフルを背負っており、コートの袖の上から右手には黒いガントレットをはめており、左手にストックと銃身を短く詰めた水平二連式の改造猟銃を手にしていた。
 エイリアンは怒りの咆哮を上げるや、黒ずくめの男に向って突進する。
男が引き金を引くや、スラッグ弾が発射される。
エイリアンはそれを難なく身体を捌いてかわす。
だが、男は慌てることなく右腕を振るう。
すると右腕のガントレットから真っ黒な鉤爪が飛び出した。
鉤爪は二本、光沢のある黒地で金属ではなく何かの生物の骨や外骨格から造り出されているように見えた。
 エイリアンは男に飛びかかるや、女にしたように男は地面に押し倒す。
そして自慢の顎で噛み砕こうと一気に顔を近づけたそのときだった。
男の右腕がフックの要領で動いたかと思うや、深々と鉤爪がエイリアンの側頭部に叩き込まれた。
頭蓋を貫かれ、エイリアンは一瞬動きが停止する。
男はゆっくりと鉤爪をエイリアンの頭部から引き抜くと、素早くエイリアンの下から転がり抜けるようにして脱出する。
直後、エイリアンはそのままドサリと地面にうつ伏せに倒れるや、そのまま動かなくなった。
 男はエイリアンが死んだのを確かめると腕を大きく振るって血振りをする。
血振りで飛散した体液が周囲の壁や石柱に当たったかと思うや、蒸気とともに石に穴が開く。
エイリアンの血は強酸性で、石だろうが金属だろうが溶かしてしまうからだ。
だが、その血を浴びたはずなのに鉤爪は溶けるどころか刃こぼれすらしていない。
この刃はエイリアン自身の外殻から造り出したものだったからだ。
エイリアンの身体は自分の血液に対して耐性を持っている。
だから幾ら血を浴びても溶けることは無い。
そのため、エイリアンを狩る者達はエイリアン自身の身体から造り出した刃物や鞭といった武器を所持していた。
 「銃弾は幾つ入ってるのか、何発撃ったか、それくらいきちんと頭に叩き込んでおけ。シルヴァー・シャーク」
男はタバコの煙を吐き出しながら女に言う。
黒尽くめの男は目の前の女ガンマンにシルヴァー・シャークという呼び名をつけていた。
見事な銀髪と服に描かれている鮫の図柄から取ったのだ。
「うるせぇ!余計なお世話だ!ジャンゴだろうが俺を馬鹿にすんじゃねえ!」
女は自分の失敗を指摘されたことにプライドを逆撫でされたのか、噛みつくような口調で叫ぶ。
ジャンゴ、黒装束の男の通り名がそれだった。
本当は持安剛(じあんごう)という名だが、姓名の順で読むとジャンゴっぽく聞こえるため、いつの間にかジャンゴと呼ばれるようになっていた。
 「5,6匹といったところか・・・」
「へん、どんなもんだよ。あんたは何・・・」
シルヴァー・シャークは倒したエイリアンの数に誇らしげな声をあげかける。
だが、持安の肩にかけられているものを見るやその声は尻すぼみに消えてしまった。
 持安の肩にはエイリアンの身体から造り上げたしっかりした紐がかかっている。
その紐には隠し顎付きのエイリアンの舌が吊るされている。
明らかにシルヴァー・シャークよりもずっと多い数で、しかもひときわ大きい舌がある。
大きさからすると群れのボスであるクイーン・エイリアンのものであることは間違いなかった。
 「おい。さっさと解体したらどうだ?証拠の舌がなきゃ手当が出んぞ」
「うるせえっ!わかってるよそれくらい!」
助けられた上に仕留めた数や質でも負けてしまったのが悔しかったのだろう、女は癇癪を起して叫んだかと思うと、不機嫌な様子でエイリアンの外殻から造り出したナイフで自分が仕留めたエイリアンの舌を切り取り始めた。


 その一週間ほど後・・・。
ロサンゼルス市内のややさびれた通りにそのホテルは建っていた。
ホテルとはいってもかなり年季の入ったオンボロ旅館といった感じだ。
そのおかげで通常の客は避けて通り、何だか一般人ではない感じの客が入って来ても違和感が全く無い。
 そのホテルの地下に奇妙な空間が広がっていた。
その空間は銀行の窓口のようで非常に広く、幾つもの窓口が用意されている。
それぞれの窓口では客が並んで何かを従業員に差し出していた。
従業員に差し出しているのは舌や牙、或いは見たこともない武器といったもの。
それらの量などに応じて従業員は客に紙幣の束を渡している。
 室内を見回してみると長椅子で換金を待っている客がおり、壁には色々とポスターのようなものが貼られている。
張ってあるのは手配書に似ているが、描かれているのは人間の手配犯ではなく、見たこともない動物たち。
一頭につき~○○ドルといった感じで写真の下には金額が提示されていた。
 ここは「狩人の月(ハンターズ・ムーン)」ロサンゼルス支部。
狩人の月とはハンターのための組織でイタリア・ローマに総本部があり、世界中に支部がある。
元々はドラゴンなど現代では伝承の中でのみ語られる生物を狩り、倒すために法王庁によって設立されたという。
時代が進み、現在は外国・他宗派の同様の機関等と合併をし、法王庁などからも独立した独自の国際秘密組織として活動している。
この組織には数えきれないほどのモンスター・ハンターとでもいうべき人間が登録をしており、賞金のかかったモンスターの追跡・狩り、モンスターに関する一切の調査、モンスターの存在にかんする世間に対しての一切の証拠の隠匿といった活動を行っていた。
 換金所にはバーが隣接しており、そこでは何人かの人間がくつろいだ様子で酒を飲んだり、誰かと商談らしい会話をしている。
その中に持安の姿もあった。
持安は傍らにライフルを立て懸け、バーボンを飲んでいる。
 不意に持安の正面に影がかぶさったかと思うと向かい側に誰かが座っていた。
「あんたか・・・・」
目の前の小太りの男を見やりながら持安は呟く。
彼は狩人の月のエージェント、ハンター達に対して仕事の紹介などをしていた。
「へへ、また稼いできたみたいだな」
「まぁな。しかしあんたも人が悪いな。今回のはレベル7だぞ」
モンスターにはその危険度に応じて1~7のレベルがつけられている。
数字が大きいほど危険度が高い。
わけてもレベル7となると最危険クラスで、エイリアンは彼らを地球へ持ち込んだ張本人であるプレデタ―族共々、レベル7の中でもさらに最危険ランクに分類されていた。
 「ヤバすぎる仕事を回したのは悪かったって。でもあんたくらいにしか出来ないと思ったんだよ。エイリアンキラーとして有名だからな、あんたは」
その言葉に持安はむっつりと黙りこむ。
持安は今までに多くのエイリアンを狩ったことがあったため、エイリアンキラーなどという呼び名が業界ではつけられていた。
そのおかげで高い報酬の仕事を得やすくもなったが、エイリアン狩りのときにはもっぱら彼が駆り出されることにもなっていた。
 「それで何の用だ・・?またエイリアン狩りでもしろと・・?」
「そう疑り深い顔するなって。幾ら俺でも立て続けにエイリアン狩りなんてさせると思うか?」
にっこり笑うエージェントに対して持安は相変わらず無愛想に黙っている。
「話だけ聞こう・・・。返事はそれからだ・・・・」
「ハハハ。そう来なきゃな・・。実はな・・・」
二人が商談に入ろうとしたそのとき、突然持安の持っている携帯がブルルルと震動した。
 「はい・・・。もしもし・・・・」
持安は携帯を取り出すと電話に出る。
するとみるみるうちに持安の表情が苦虫を噛み潰したようなものへ変わっていった。
「どうした・・・?」
持安の様子に怪訝な表情を浮かべてエージェントは尋ねる。
「悪いが急用が出来た。後でまた電話をくれ。他の奴に回すつもりでなければな」
そういうと持安は席を立ってバーを後にした。


 それから一時間ほど後、持安は自分が泊っているホテルにいた。
持安の目の前では不貞腐れているシルヴァー・シャークの姿があった。
 「で・・・何をした・・・?」
「うっせえなぁ。アンタにゃあ関係ないだろうが」
「そうはいかん・・・。一応組んでいる以上、貴様のケツは俺が持つことになる」
「ヘッ。おやさしいこったねぇ」
してやったりといった感じで笑みを浮かべるも、すぐに持安の鋭い眼光に気づいて女は表情を戻す。
 「もう一度聞く。何をした?」
男の問いに年下の娘ハンターは渋々といった口調で答える。
「向こうが悪いんだよ・・・。人様にケチつけてきやがるから・・・」
「だからブチのめした・・・。それも骨折するほどの大けがを負わせてな・・・」
持安の言葉に女はむっつりと押し黙る。
 先ほど持安は警察からシルヴァー・シャークを引き取ってきたばかりだった。
というのも、あるバーで彼女が喧嘩騒ぎを起こしたからだ。
シルヴァーは支部内のバーは嫌だったので外の店で飲んでいたのだが、そこでどうやら他の客ともめ事になり、その結果乱闘を繰り広げた末に数人を叩きのめし、そのうちの一人か二人には骨折するほどの大けがを負わせてしまったのだ。
 「前・・・言っておいたはずだ・・・。一切もめ事は起こすなと・・・」
実はシルヴァーは以前にも同じようなトラブルを起こしており、その際に持安に釘を刺されていた。
だが、シルヴァーはふて腐れたような表情を浮かべている。
どうやらあまり自分が悪いとは思っていないようだった。
 「おい、少しは反省してるのか?」
「あん?何で俺が反省しなきゃなんねえんだよ!」
女は心外だといわんばかりの口調で抗議する。
「どうやら前に俺が言ったことを全く理解していなかったようだな・・・」
持安はやれやれといった感じで息を吐くとおもむろに手を伸ばした。


 シルヴァーが気づいたときには、ホテルの床が目の前に迫っていた。
一瞬、何が起こったのか彼女はわからなかった。
直後、腹にゴツゴツした大人の男の膝の感触やショートパンツを降ろされる感覚を感じる。
(まさか・・・!?)
ハッとしてシルヴァーが振り返ると、ベッドの縁に腰かけた時安が彼女を膝に載せ、お尻をむき出しにしようとしているのが見えた。
 「ま・・待ちやがれっ!何してやがるっ!!」
慌てて女は噛みつくような口調で叫ぶ。
「躾に決まってるだろ・・・」
「躾だあっ!?ふざけんなあっ!俺ぁガキじゃねえぞっっ!!」
「一度言われただけでわからんのは十分ガキだと思うが?それにお前は未成年だろうが」
持安の言葉に一瞬シルヴァーは言葉に詰まる。
持安の言うとおりだったからだ。
だが、それを認めるなど業腹以外の何物でもない。
 「冗談じゃねえっ!離しやがれっ!このスケベッ!ドアホっ!クサレ●●●ヤロウッ!瘡っかきの梅●●●●ッッッ!!腐ったチーズみてぇな●●●から生まれやがったボロ犬のせがれ野郎っっ!!!」
年頃の娘とは思えない暴言を吐きながらシルヴァーは必死に抵抗する。
そんな暴言を柳に風といった感じで受け流しながらジャンゴは年下の相方のお尻をあらわにする。
 シルヴァーのお尻は丸みを帯びた形のよいお尻で、柔らかいながらもキュッと引き締まっていた。
健康的な小麦色の肌と相まって野性味と活発さに満ちた健康美とでもいうべき美しさを醸し出している。
 「み・・見んじゃねえよ・・。こん・・犬畜生ぉぉぉ・・・・」
お尻に視線を感じ、シルヴァーは屈辱感と悔しさでブルブルと震える。
だが、持安はそれに構うことなく右手をゆっくりと振り上げたかと思うと、彼女のお尻目がけて振り下ろした。


 パチィンッ!
「く・・・」
甲高い音と共にお尻の表面で痛みが弾ける。
痛みよりも屈辱感に思わずシルヴァーは悔しそうな声を漏らした。
 パアンッ!ピシャアンッ!パッシィンッ!パァチィンッ!
「てめえっ!やめろっ!ばかっ!こんちくしょうっ!!」
ピシャアンッ!パアアンッ!ピッシャアンッ!パアシィンッ!
「やめろっ!こん馬鹿っ!こんなことしやがってただで済むと思ってんのかあっ!!」
平手打ちが振り下ろされるたびに女は噛みつくように叫ぶ。
 「それはこっちの台詞だ。こんな騒ぎを起こしてお前こそただで済むとでも思っていたのか?」
「るせぇよ!離しやがれっ!」
シルヴァーは叫ぶと必死にもがく。
だが、持安はしっかりと押さえ込んでおり、いくら彼女がもがいてもビクともしない。
バシッ!バアンッ!バチンッ!ビダァンッ!
「う・・く・・あ・・つ・・・」
不意に平手の勢いが強くなった。
 バアチィンッ!ビッダァンッ!バアッシィンッ!バアッアアンッ!
「やめろっ!ばかっ!くそおっ!ちっきしょうっっ!!」
シルヴァーはひたすら暴言を吐き続ける。
バッシィンッ!バッアアンッ!ビッダァンッ!バッチィンッ!
「ちっくしょうう・・やめろ・・やめねえかぁ・・この・・犬野郎・・」
悔しさにシルヴァーは睨みつけんばかりの表情を浮かべるが、その中に苦痛が混じっている。
お尻は濃いめのワインレッドに染め上がっており、カっカッとよく焼けた鉄のような熱を発していた。
既にお尻はかなり痛めつけられていたが、それに構わず持安は平手を振り下ろし続けた。


 「はぁ・・・はぁ・・・はぁぁ・・・・」
途切れ途切れに女ハンターは荒い息を吐く。
目尻には光るものが滲んでおり、頬には涙の跡が残っている。
全身はぐったりとしており、散々暴れた末なのが容易に想像できた。
 「恥ずかしいか・・・?」
持安は膝の上でぐったりしているシルヴァーにそう尋ねる。
「た・・当たり前だろう・・が・・。よくもこんな目に遭わせやがって!ぶ・・ぶっ殺してやっからな!!」
怒りと悔しさがない交ぜになった声でシルヴァーは叫んだ。
 「だが何故こんな目に遭わされているのかは考えたか?」
その問いに女はむっつりと不機嫌そうな表情で押し黙る。
自分が喧嘩沙汰を仕出かしたからなのはよくわかっているからだ。
「その様子だと自覚はあるようだな・・・。だったら何をするべきかわかっているだろうな?」
「な・・何を・・しろってんだ・・・」
女は苦々しげな声で尋ねる。
「決まってるだろう。昔から悪さをしたら謝るものだ」
「ん・・んだとぉ・・・」
持安の言葉にシルヴァーは声が震えた。
 (そ・・そりゃ・・・確かに・・俺が悪いかも・・しんねえけどよ・・。ケツ引っぱたかれた上に・・あ・・謝るだぁ・・!そ・・そんな・・真似・・・恥ずかしくて・・で・・出来る・・かよっ!)
心の中で彼女はそう叫ぶ。
だが、そんなことを言えばお仕置きは続くだろう。
本音を言うともう限界だった。
これ以上お尻の痛みには耐えられない。
屈辱と苦痛の板挟みにシルヴァーは表情を歪める。
持安はジッとその様子を見守っている。
だが、中々踏ん切りがつかないらしく、しかめっ面を浮かべている。
このままでは埒が明かないと見たのだろう、おもむろに持安は口を開いた。
 「まだ・・・足りないか・・?」
その言葉にシルヴァーはギクリと身体を強張らせる。
同時に背中をしっかりと押さえつけられる感触を覚える。
(ほ・・本気で引っぱたく気だ!?)
彼女にもそれは読み取れた。
もはやプライドにこだわっているときではなかった。
 「わ・・わかったっ!謝るっ!悪かったってっ!謝るから許せ~~~~!!!!」
謝ってるのだか命令しているのかわからない口調だが、とにかくシルヴァーはようやく謝る。
「ようやく言えたか・・・・」
やれやれといった感じで言うと、持安は押さえていた腕の力を緩め、振りあげかけていた手を降ろした。


 「痛うう・・・」
ようやく解放されるも、お尻の痛みにシルヴァーは顔をしかめる。
「おい・・・」
不意に持安が呼びかけると、シルヴァーはキッと睨みつけるように振り返る。
「何だよ!まだ何かあんのかよ!?」
そう彼女が叫ぶと同時に持安は何かを放り投げる。
シルヴァーは空中でキャッチするとそれを眺める。
手中にあったのは軟膏。
 「何だよこいつは・・・?」
「腫れや打ち身によくきくそうだ。塗っておけ。これから痛むぞ」
だが、女はムッとした表情を浮かべたかと思うと投げ返してしまう。
そして乱暴な足取りでそのまま部屋を出て行った。
 (若いからか・・・頑固でしかも意地っ張りか・・・)
シルヴァーの態度に思わず持安は苦笑する。
(まぁあいつが後で後悔しても自業自得か・・。それはそれで奴も少しは懲りるかもしれんな・・・)
そう考えると持安は携帯電話を取り出す。
着信をチェックすると再びエージェントからの連絡が入っていた。
(次の・・仕事を取ってくるか・・・)
携帯を仕舞うと持安はおもむろに立ち上がり、部屋を後にした。


 ―完―


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