眼鏡事件(最遊記より:八/空)



(最遊記を題材にした二次創作です。原作とキャラのイメージが異なっている可能性があります。許容出来る方のみご覧下さい)


 「やっべぇ・・・・・・」
悟空は顔を真っ青にして、ジッとそれを見つめている。
視線の先にあるのはケースの中にある砕けたガラスの破片。
八戒の予備の片眼鏡のなれの果てだった。
 「どど・・どうしよう!?ってか俺のバカー!何してんだよ~!?」
慌てながら、悟空は数分前までの自分を振り返らずにはいられなかった。


 しばらく前・・・・。
「あー・・・腹減ったなー」
部屋でボーっとしたまま、悟空は呟く。
いつもだったら悟浄がからかったり、三蔵がまたか、と言いたげな表情を浮かべるが、あいにく皆外出中。
悟空一人なので、何も反応が無かった。
 (何か・・ねぇかなぁ・・・)
そう思いながら、悟空は宿の部屋に備え付けの冷蔵庫を開けてみる。
だが、あいにく入っているのは酒ばかり。
酒は全然飲まない悟空には、用の無い品だった。
 「どっかに・・あっ!!」
食べ物を探し求め、部屋を見回すうちに、悟空の表情が変わる。
一行の荷物の中に、野宿になった時のための保存食があることを思い出したのだ。
 あっという間に、悟空は荷物の元へ駆けつける。
「って・・どれだよ~?」
一まとめに置かれたバッグや袋に、悟空は困惑した表情を浮かべる。
どれに入っているか、わからないからだ。
 「これじゃ全部出してみるしかねーじゃんかよー」
思わずぼやきたくなるが、食欲には代えられない。
悟空はバッグや袋を開けては中身を取り出す、という作業を続ける。
 だが、幾ら出しても食料らしいものは見つからない。
「何でだよっ!あるはずじゃねーのかよっ!?」
幾ら探しても見つからない食料に、悟空は苛立ちを覚える。
「ああもうっ!面白くねえっ!腹立つっ!!」
空腹と、食べ物が見つからないことから来る苛立ちで、悟空は床に出した荷物に八つ当たりし始める。
そのとき、振りまわした足が、ケースらしきものに命中し、吹っ飛ばした。
蹴飛ばされた衝撃で、ケースは壁に命中し、音を立てて床に落ちる。
 「ん?あ・・!?」
自分がふっ飛ばしたケースに気づき、悟空は慌てて拾う。
恐る恐る、悟空はケースの蓋を開け、中を覗きこむ。
中から現れたのは片眼鏡。
八戒が使っているものだ。
といっても、予備の方だが。
 ケース内の片眼鏡を見るや、悟空の顔から血の気が引く。
蹴っ飛ばされ、壁に当たった衝撃のせいか、割れてしまっていたからだ。
「や・・やっべぇぇ・・・・・」
悟空はこの世の終わりと言わんばかりの表情になる。
バレたら八戒にお仕置きされてしまう。
 (ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイじゃんかよ!?)
悟空は必死に考えを巡らせる。
このままではお仕置きは免れない。
(か、隠さねえと!?)
隠し場所を探して、悟空は必死に部屋の中を見回す。
だが、焦っているからか、なかなか隠し場所が見つからない。
そうこうするうちに、足音が近づいてくるのが聞こえてきた。
 (やべえっ!?戻ってきた!?)
悟空はさらに慌てだし、さらに激しく室内を見回す。
とっさにゴミ箱が目に入ると、ケースごと投げ込んだ。
 「ただいま・・ってどうしたんですか?これは?」
八戒は空になった袋やバッグ、床に置かれた中身に、思わず悟空に尋ねる。
 「あ~・・実は腹減っちまって・・く、食い物無いかなーって・・・」
悟空はドギマギしながら尋ねる。
「それで全部荷物出しちゃったんですか?」
「う・・ゴ、ゴメンって」
悟空はシュンとして謝る。
 「まぁやってしまったのは仕方ありません。片付けますから、悟空も手伝って下さいね」
部屋の状況から片付けるのが先決と、八戒はそう言う。
「わ、わかったよ」
悟空はそういうと、片付けを手伝いはじめる。
だが、片付けながら、悟空は恐る恐る、八戒の様子を伺う。
それが一度や二度ならともかく、何度もやるものだから、八戒も訝しむ。
 「どうしたんですか?何か言いたいことでもあるんですか?」
「い、いや、な、なななな何でもねえよ!?」
悟空は誤魔化そうとするが、あからさまに怪しい素振りに、八戒の疑念はさらに大きくなる。
 「悟空、何か隠してませんか?」
「な、何言ってんだよっ!?な、何もないって!?」
必死に否定するが、その動揺ぶりが何かあることを物語っている。
 「悟空、何かあるなら正直に言って下さい」
「ないっ!ないってばっ!?あっ!?」
必死に否定しながら、悟空は思わず声を上げてしまう。
八戒がゴミ箱のそばまで来たからだ。
声を上げた悟空の視線を八戒はすかさず追う。
それが、そばのゴミ箱に注がれているのを、八戒はすぐに見てとった。
 八戒は無造作に、ゴミ箱を取り上げようとする。
「あ・・!!だ、だめーーーっっ!!!」
思わず悟空はゴミ箱を奪い取ろうとする。
だが、それを見越した八戒が後ろに下がり、空しく手が空ぶる。
直後、予備の片眼鏡のケースを、八戒がゴミ箱から取り出した。
 「悟空・・・何ですか、これは?」
ゴミ箱から取り出したケースを見せながら、八戒は尋ねる。
「め・・眼鏡の・・ケース・・・」
「そうですね。でも、どうしてこれがこんなところにあるんですか?知ってるなら話してもらえます?」
出来るだけ優しい声で、自分から話してくれるように、そう願いながら八戒は尋ねる。
 「し、知らねえよ!か、勝手に中に入ったんじゃねえのかよ?」
だが、悟空はあくまでも誤魔化そうとする。
「そんなはずはないでしょう?ちゃんと僕の荷物袋にしまっておいたんですから」
「は、八戒の勘違いじゃねえの?お、俺は知らねえってば!!」
ここまで来れば誤魔化しは効かないのだが、それでも悟空は否定しようとする。
そんな悟空にため息をつきつつ、八戒はケースを開ける。
隠してあったということは、中身に何か起こったはず。
そう判断したのだ。
中から壊れた片眼鏡が現れ、八戒は確信する。
 「あ・・・!!」
壊れた片眼鏡が現れ、悟空の顔から血の気が引く。
直後、悟空は逃げ出そうとした。
 「悟空、待って下さい」
「やだっ!やだやだっ!離せってばーー!!」
恐怖のあまり、悟空は必死に抵抗する。
 「悟空、あなたがやったんですか?」
怖がらせないように、出来るだけ優しい声で八戒は尋ねる。
「ひぃんっ!わ、わざとじゃねーよっ!!」
「やっと話してくれましたね・・・」
ようやく話した悟空に、八戒は安堵の息をつく。
だが、再び悟空に尋ねた。
 「悟空、どうして最初からちゃんと話してくれなかったんですか?」
「だ、だってよ、ば、バレたらお仕置きするじゃんか!!」
「だからって誤魔化したり嘘をつく方がもっとよくないでしょう?仕方ありませんね・・」
ため息をつくと、八戒はベッドの縁に腰を降ろし、悟空を膝に乗せる。
 「ま、待ってくれよっ!何するんだよっ!?」
「悟空、悪い子はお仕置きですよ。わかってるでしょう?」
悟空のお尻を出しながら、八戒はそう言う。
「や、やだやだっ!壊したのは謝るから~~!!勘弁してくれよ~~!!」
「そういうわけにはいかないんですよ。それに、壊したのを怒ってるんじゃないですよ」
今にも泣きそうな悟空にそう言いつつ、八戒は片手で悟空を押さえる。
そして、もう一方の手をゆっくりと振り上げた。


 バッシィィィ~~~ンッッッ!!
「うわああんっっ!!痛えええっっ!!」
弾けるような音と共に、お尻に走った痛みに悟空は悲鳴を上げる。
 パアンッ!パシンッ!ピシャンッ!パアアンッ!
「ぎゃんっ!ひっ!ひぃんっ!痛っ!」
平手が振り下ろされるたび、悟空は悲鳴を上げる。
 「ダメじゃないですか、眼鏡壊したのはともかく、隠したり嘘をついたりなんかして」
お尻を叩きながら、八戒はお説教をする。
パシッ!ピシャンッ!パアンッ!パシンッ!ピシャンッ!
「ぎゃあっ!痛っ!痛いっ!痛えっ!痛えってばあっ!!」
お尻を叩かれる苦痛に、悟空は悲鳴を上げ、両脚をバタつかせる。
 「お仕置きなんですから、痛いのは仕方ないでしょう?それより、ダメでしょう?誤魔化すだなんて」
「だ、だって・・ば、ばれたら怒られるじゃんかよっ!!」
悟空は泣きながら、弁解する。
 「正直に言ってくれれば僕だって怒ったりしませんよ。まぁお説教くらいはしますけど」
お尻を叩きながら、八戒はそう言う。
「でも、お仕置きが嫌だからって、誤魔化したのはいけませんね。それは悪いことですよ。わかってますよね?」
平手を振り下ろしつつ、八戒は確かめるように言う。
 「ひぃん・・だ・・だって・・だって・・・」
「だってじゃないでしょう?嘘ついたり誤魔化したりするのは悪いことだって、僕や他の皆から教わって来たでしょう?」
言い訳をしようとする悟空に、八戒はわざと怖い顔を浮かべてみせる。
 「ひぃん・・!な、何だよっ!は、八戒がお仕置きとかするからじゃんかよ!?」
厳しい八戒の態度に、思わず悟空はそう言う。
「そうだぜっ!八戒がお仕置きとかするから悪いんじゃんかよ!そうじゃなきゃあ俺だって隠そうなんて思わなかったってのっ!なのに何で俺が怒られなきゃならないんだよっ!!」
自分は悪くないと言わんばかりに、悟空はそう言う。
 「悟空、本気で言ってるんですか?」
一旦お尻を叩く手を止め、八戒は尋ねる。
「だ・・だったら何だよっ!い、いい加減に離せよっ!お、俺だって本気で怒るからなっ!!」
一瞬恐怖を感じるも、悟空はそう言い放つ。
 「そうですか・・。では・・仕方ありませんね・・」
ため息をつくと、八戒は膝を組む。
おかげで、悟空はお尻を突き上げた体勢になる。
 「ちょ、何すんだよっ!?」
さらにお仕置きが痛くなる体勢に、悟空は慌てる。
「ちゃんと反省してくれれば許すつもりだったんですが・・。そうはいかないようですね」
八戒はそう言うと、再び手を振り下ろした。
 ビッダァァァァァァ~~~~~~ンンンッッッッッ!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~~~~~~~~ッッッッッ!!!!!
「うっわあああああああああ!!!!!!!」
激しい平手打ちの嵐に、悟空は絶叫する。
 バアッジィィィィィ~~~~~~~ンッッッッ!!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~~ッッッッ!!!
「ひぃぃぃぃぃ!!!!!八戒ぃぃぃぃ!!!言いすぎたのは謝るからぁぁぁ!!勘弁してくれよぉぉぉ!!!!!」
とても耐えきれず、悟空は必死に謝る。
 「ダメですよ。しっかり反省して下さいね」
「そ、そんな~~~っっっ!!!!うわああああんんん!!!!痛ええええ!!!ごめんってばーー!!やめてっ!ごめんなさぁぁぁいいぃぃ!!!」
絶望のあまり、泣き叫びながら必死に謝る悟空の声、激しくお尻を叩く音、それらがない交ぜになって部屋に響きわたった。


 「ひぃん・・痛ってぇ・・痛ぇ・・痛えよぉぉ・・・」
ボロボロ大粒の涙をこぼしながら、悟空は泣いていた。
そのお尻は、今や本物のサル顔負けの濃厚な赤に染め上がっている。
 「悟空・・・反省しましたか?」
一旦お尻を叩く手を止めて、八戒は尋ねる。
「ひぃん・・。したっ・・したってばぁぁ・・。眼鏡・・壊して・・ごめんってばぁ・・・」
許して欲しくて、悟空は必死に謝る。
 「違いますよ、悟空、僕が言いたいことは」
八戒はそういうと、悟空を抱き起こし、膝の上に座らせ、顔を合わせる。
「いいですか、悟空、僕は眼鏡を壊したことを怒ってるんじゃないんですよ」
「え?」
八戒の言うことがわからず、悟空は頭に?マークを浮かべる。
 「壊したのは仕方ありませんよ、事故ですから。それで怒るなんてことはしませんよ。でも、それを隠して誤魔化そうとしたでしょう?それはいけないことですよ。だから怒ったんですよ」
「そ・・そっか・・。ご・・ごめん・・。隠したり・・嘘ついたりして・・・」
ようやく八戒の意図に気づき、悟空は謝る。
「いいんですよ、わかってくれれば。それじゃあ、お仕置きは終わりですよ」


 「ひ・・!痛っ!?」
「沁みましたか?」
顔をしかめた悟空に、八戒は尋ねる。
 「うん・・。ちょ、ちょっと・・うう・・。八戒、叩きすぎじゃねーのかよー?ケツ、痛すぎだってー」
思わず涙目になりながら、悟空はそう言う。
「まぁしっかり反省して欲しかったですからね。悟空、次からは隠したりしないでちゃんと言って下さいね?」
「わかってるよー。こんなにケツ叩かれるの、もう懲り懲りだってー」
「ならいいんですよ。まぁ今日は結構痛い思いさせましたからね、夕飯は肉料理たくさん用意しておきますよ」
「やったっ!!」
夕飯の楽しみに、悟空はすっかり機嫌を治す。
それを見て、八戒も安堵の表情を浮かべた。


 ―完―

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人の言うことは・・・(最遊記より:八/三)



(最遊記を題材にした二次創作です。原作とキャラが異なっている可能性があります。許容出来る方のみご覧下さい)


 「あああ~~、暑っちぃぃぃ~~~~!!!!」
汗ダラダラ、うちわで顔を仰ぎながら、悟空はそう叫ぶように言う。
「おぃ、何やってんだよ、余計に暑苦しいだろうが」
「んなこと言ったってよ~、暑いんだよ~」
全身汗だくになりながら、悟空はそう言う。
滞在中の街が嫌がらせかと思うほどの灼熱地帯にあるせいか、窓を開けていても暑い。
「バタバタうちわ動かしてるの見てっと余計に暑く感じるんだよ。少しは頭使えっ!馬鹿っ!!」
「三蔵、あまりそんなこと言うものじゃありませんよ。悟空だって暑くてたまらないんですから」
八戒の言葉に三蔵は不機嫌そうな表情で黙ると、再び新聞に目を通す。
 「あれ?八戒どっか行くのかよ?」
出かけようとする八戒に気づき、悟空はそう尋ねる。
「ええ、必要なものを買い出しに行ってきます。悟空も来ますか?」
「悪いけどやめとく。こう暑ぃと参っちまうもん」
「そうですね。それじゃあ二人とも留守番お願いします」
そういうと、八戒は部屋を出ようとする。
 「ああ、二人とも、暑いですからちゃんと水分取って下さいね」
「わーってるって」
「け、んなこと言われねえでもわかってんだよ」
「ならいいんですが。悟空はともかく、三蔵の方は妙に我慢しそうですからね」
「うるせえな・・。とっとと行けよ」
「もう少し言わせて下さい。二人とも、喉が渇いたと思ったら、ちゃんと水分取って下さい。熱中症とか怖いですからね。でも・・・お酒はダメですからね」
「ああん?」
「え?何でだよ?暑い日の夜とかよく三蔵とか飲んでるじゃんかよ?」
八戒の言葉に三蔵は露骨に嫌そうな表情をし、悟空は怪訝な表情を浮かべる。
酒も水分なのだから、飲んでも大丈夫だと思っていたのだ。
 「実は本当はあまりよくないんですよ。お酒飲むとトイレとか行きたくなったり、汗かくでしょう?悟浄や三蔵見てて気づきません?」
「あ・・・そういやそうかも・・」
自分は酒は飲まないのでよくわからないものの、酒を飲んでいる時の三蔵達の姿を思い出し、悟空は何となくわかったような表情を浮かべる。
 暑いときは冷たいビール、という人は多いが、酒を飲むと利尿作用などで水分が出てしまうため、飲んだのと同じ量の水分を取らないと、脱水症状を起こす危険がある。
だから水分補給のつもりで酒を飲むと、却って逆効果、自分から熱中症になるようなものである。
 「そうなんですよ。ですからお酒を飲むと水分取ってるつもりでも、逆に却って出てしまうんですよ。だから暑いときに飲むのは逆効果なんです。だからお酒は飲まないで下さいね、三蔵」
「ああん?何で俺だけなんだよ?」
「だって悟空は飲まないじゃないですか。飲むとしたら三蔵か悟浄だけでしょう?」
「ふん・・・・。大きなお世話だ」
「まぁとにかく・・くれぐれも気をつけて下さいね。じゃあ僕は行ってきます」
そういうと、今度こそ八戒は部屋を後にした。


 「あ~~~、やっぱ暑っちぃぃ~~~!!!」
相変わらずうちわを動かし、汗だくになりながら、悟空は呟く。
「もう我慢できね・・ジュースでも飲も」
そう呟くと、悟空は備え付けの冷蔵庫へと向かう。
 「あったあった・・ってあれ?」
目当てのジュースやお茶などのドリンク類を取り出した悟空は、いつの間にかビールやその他の酒類が無くなっていることに気づく。
「何でだよ?」
悟空は思わず怪訝な表情を浮かべる。
ジュースを飲もうと思うまで、冷蔵庫を開けた覚えは一切ない。
 「ん・・?この匂い・・」
不意に酒の匂いを感じ、思わず悟空はジュース類の瓶を抱えたまま、匂いを追って部屋を後にした。
 「何やってんだよ!」
匂いの元を見つけるなり、悟空は思わず声を上げる。
目の前では三蔵が酒を飲んでいる。
全て中身が開けられており、かなり飲んでいるのは明らかだった。
 「ああん?俺が何飲もうが勝手だろうが!」
「八戒に言われたじゃんかよ!?こんな暑いときに酒なんかヤバイって!!」
「るせえな・・。何であんなやつの言うこと聞かなきゃいけねえんだよ・・・。それより新しいの買って来い」
「そ・・そういう・・わけには・・いかねえよ・・」
「ああん?テメェ、俺の言うことが聞けねえのか!?」
悟空が拒否したため、三蔵は声を荒げる。
 「だって・・三蔵が倒れたりすんの・・ヤダぜ・・」
「テメェなんかに心配されたくねえよ・・。とっとと買ってこいって言ってんだよ」
かなり酒が入っているからか、理不尽なことを言う。
「だからダメだって言ってるじゃんかよ!もう十分じゃんかよ!」
悟空は思わず三蔵から酒を取り上げようとする。
 「ああ!何すんだよ!?」
「何すんだよじゃねえよ!もうやめとけって!」
「テメェ・・いい度胸だな・・・」
三蔵はそう呟くと、悟空を膝の上に引き倒す。
 「待てよっ!何すんだよっ!?」
何をされるかすぐに想像できたため、悟空は抵抗しようとする。
三蔵は悟空を押さえると、慣れた手つきでお尻をむき出しにし、手を振り上げた。


 ビッダァァァ~~~~~~ンッッッッッ!!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~~~~~~~~~~ッッッッッ!!!!!
「ひぃぃぃんっ!痛ってぇえええええ!!!」
最初から容赦のない平手打ちに悟空は泣き叫ぶ。
 バアッジィィィィィィ~~~~~~ンッッッッ!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~~~!!!!!
「三蔵っ!やめてくれってばーーー!!マジ痛ぇよぉぉーーー!!!」
両脚をバタつかせながら、悟空は必死に訴えかける。
「だったら酒買ってくりゃいいんだよ」
「だからそれはヤバイって言ってるじゃんかー!」
「買わねえ気ならテメェのケツが本物のサルみてぇになるだけだぜ」
「そんなーーー!!!」
絶望のあまり悟空が叫ぶの尻目に、三蔵は酔った勢いで激しい平手打ちを振り下ろし続ける。
熱中症の危険があるほど暑く、酒が大量に入り、しかも豪雨のような平手打ちという激しい運動をしたらどうなるか?
間違いなく自殺行為である。
理不尽なお仕置きの痛みに泣き叫んでいた悟空だが、やがて平手が振り下ろされなくなることに気づく。
 「ひぃん・・・。三蔵・・?」
さすがに理性を取り戻してやめてくれたのかと思い、振り返ってみるや、悟空は驚く。
三蔵は虚ろな表情になり、全身から力が抜けてだらんとしている。
 「げ・・!何だよこれ・・!?」
額を触ってみるや、尋常ではない高熱に悟空は驚く。
「や・・やべえっ!?は、八戒っ!八戒に知らせねえと・・痛ってぇええええ!!」
慌てて三蔵の膝から降りた拍子に滑り落ち、お尻をもろに床にぶつけてしまう。
 「ひぃぃん・・痛ぇぇぇ・・」
涙目でお尻をさすりつつ、何とか立ち上がり、服も直すと急いで部屋を飛び出した。


 意識を取り戻した三蔵の視界に入って来たのは、悟空のホッとしたような表情だった。
「三蔵、気がついたのかよ!」
「あん・・?何だってこんなとこにいんだよ?」
病室らしい部屋にいることに気づくと、三蔵はそう尋ねる。
「宿屋で意識を失って、病院へ搬送されたんですよ」
「何だと・・?く・・ぐっぶ・・!!」
体内から苦いものがこみ上げ、思わず三蔵は中身を吐き出してしまう。
 「くそ・・!!気分悪ぃ・・・」
「それは当然でしょうねぇ。あんな暑いのに脱水症状になるくらい酒飲んで、激しい運動したんですから」
「テメェ・・・当てつけかよ?」
「事実を言ったまでです。とにかく・・今は大人しくしてて下さい」
八戒の言葉に、不機嫌な表情を浮かべた三蔵だが、その通りだからか、ムスッと押し黙ったまま、ベッドに横になった。


 (くそ・・・!俺としたことが・・)
退院して宿に戻って来る間、三蔵はずっと不機嫌だった。
八戒の忠告を無視して酒を飲んだ挙句、悟空に理不尽なお仕置きをしたり、倒れて病院に運ばれたのだ。
情けないなどというものではない。
どうしてあんな馬鹿なことをしたのか、自分を問い詰めたくもなる。
 「三蔵、ちょっといいですか?」
「何だよ?さっさと出てけよ」
機嫌が悪いところに来たからか、三蔵はさらに不機嫌な表情になる。
 「ちょっと話がしたいんですがね」
「ああん?俺にはねえよ」
「あなたには無くても僕にはあるんですよ」
「チ・・!手早く済ませろよ・・」
大人しく引き下がるような八戒ではないのはよく知っているから、やむなく三蔵は八戒を部屋に入れる。
 「で・・何なんだよ、話ってのは?」
早く終わらせろ、といかにもな態度で三蔵は問いかける。
「ええ、三蔵が倒れたことについてなんですが」
「ああん?俺には話なんてねえよ」
話の内容に、三蔵はにべもない態度になる。
 「そうはいきませんよ。三蔵、僕、言いませんでしたっけ?熱中症の危険があるからお酒は飲まないで下さいって?」
「だったら何だってんだよ?」
「三蔵、どうして人の言うことをちゃんと聞いてくれないんですか?」
「ああん?何でテメェの言うことなんか聞かなきゃならねえんだよ?」
機嫌を悪くした三蔵は、そう言いやる。
 「その結果どうなりました?酒によって悟空に理不尽なお仕置きをしたり、挙句の果てには熱中症起こして倒れたじゃないですか?」
「るせぇな・・・。だったらどうだってんだよ?」
「どうだってんだよじゃないですよ。反省してますか?」
「るせぇ・・・。何でんなことしなきゃあならねえんだよ・・」
「やっぱりそうですか・・仕方ありませんね・・」
八戒はため息をつくと、三蔵の手首を掴んで引き倒した。
 「おいっ!何しやがるっ!?」
膝の上に乗せられるや、三蔵はそう叫ぶ。
「決まってるじゃないですか、お仕置きですよ」
慣れた手つきで三蔵のお尻を露わにしながら、八戒はそう答える。
「ざけんじゃねえ!?何でそんなことされなきゃならねえんだ!?」
お仕置きなどと言われ、三蔵は思わず叫ぶ。
 「三蔵が何したかちゃんと言ったはずですけど?それとも・・本気でわからなかったんですか?」
痛いところを突かれ、三蔵は不機嫌な表情で押し黙る。
「うるせぇ・・とっとと離しやがれ・・!!」
「そうはいきませんよ。覚悟して下さいね」
八戒はそういうと、片手で三蔵を押さえつけ、もう片方の手を振り上げた。


 パアシィ~ンッッッ!!
「・・!!」
弾けるような音と共にお尻に痛みが走る。
思わず声が出そうになるが、必死に押し殺した。
 パシィンッ!ピシャンッ!パアアンッ!パアチィンッ!ピシャンッ!
「テメェ・・!何しやがる・・!!」
甲高い音と共にお尻に痛みが走る中、三蔵は不機嫌な声でそう言う。
 「お仕置きだって言ってるじゃないですか。ちゃんと反省して下さい」
バシッ!バンッ!バチンッ!ビダンッ!バアアンッ!
八戒は勢いを強めて叩きながら、そう言いやる。
 バシィンッ!ビダァンッ!バアンッ!バシィンッ!バアジィンッ!ビダァンッ!
「テメェ・・!やめろ・・!やめねえか・・!この・・野郎・・!!」
全然反省の見られない態度で、三蔵は憎まれ口を叩き続ける。
 「やめろじゃないでしょう?三蔵、あなた一体何をやってるんです?」
バアシィンッ!ビダァンッ!バアアンッ!バアジィンッ!バアッシィンッ!
「・・・!く・・テメェ・・!いい加減に・・しや・・がれ・・!!」
お説教を始める八戒に、相変わらず三蔵は暴言を吐き続ける。
 バアジィンッ!ビッダァンッ!バッアァンッ!バアッジィンッ!ビバッダァンッ!
「言ったはずですよね?こういう暑い日にお酒を飲むのはわざわざ自分から熱中症になるようなものだって?」
バアシィンッ!ビダァンッ!バアアンッ!バアジィンッ!ビバダァンッ!
「う・・うるせぇ・・!とっと・・やめ・やがれぇ・・!くぅ・・!」
暴言を吐きながらも、さすがに辛くなってきたのだろう、微かに表情に苦痛が見えはじめる。
 バアッジィンッ!ビバッダァンッ!バッアァンッ!ビバッジィンッ!バアッジィンッ!ビバッダァンッ!バッアアンッ!
「だから飲まないで下さいって言ったのに・・どうして飲むんですか、全く・・・」
呆れたような声で、ため息をつきながら、八戒はそうお説教する。
 「るせえっ!俺が何しようが勝手だろうが!?何でイチイチテメェに許してもらわなきゃならねえんだっ!!テメェは俺のお袋かよ!?」
お尻を叩かれている屈辱、自分でも情けない、恥ずかしいと思っている事実を指摘され責められる屈辱感に三蔵は思わず叫ぶ。
 「三蔵、酒を飲むなとは言いませんよ。ですけど、そのせいで皆に迷惑や心配をかけないで下さい。悟空だって心配したから止めようとしたんですよ?それを・・幾ら酔ってるとはいえ・・お尻叩くなんて・・少しは恥ずかしいと思わないんですか?」
八戒の言葉に、三蔵の苛立ちはさらに燃え上がる。
恥ずかしい、情けないと思わないはずが無い。
だからこそ、それを指摘されるのが腹立たしくてたまらないのだ。
逆ギレなのはわかっていても、そう思わずにはいられない。
 「はん・・!テメェがサルに余計なこと吹きこむから悪いんだよ!大人しく買ってこねえから引っぱたいてやっただけだろが!」
「三蔵・・本気で言ってるんですか?」
一旦お尻を叩く手を止め、八戒が静かな声で尋ねる。
今までとは比べ物にならない怒りが籠っていた。
三蔵も言いすぎたと思ったが、ここで謝るなど絶対にしたくない。
 「へっ・・だったらどうだってんだよ?何度でも言ってやろうか?」
「いい加減に・・しなさい!!」
バアッジィィ~~~ンッッッッッ!!!
「ぐ・・・!!」
さらに強烈な平手打ちに、さすがの三蔵も目から火花が飛び出したような感覚を覚える。
 「自分が悪いのに・・謝るどころか・・・そんな暴言・・・。絶対に許しませんからね!!」
完全に怒った八戒はパドルを取り出したかと思うと、思い切り振り下ろした。
バアッジィィィ~~~~~ンッッッッ!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~~~~!!!!!!
「ぐっ・・!!ぐっうぅぅ・・・!!」
激しいパドルの嵐に、さすがの三蔵も表情が苦痛に歪む。
 「テメェ・・!!殺す気かよ!?」
「そこまではしませんよ。ですが・・謝るまではやめませんからね」
「ケ・・!誰がそんなことすっかよ!」
「なら・・仕方ありません」
八戒はそう言うと、パドルを振り下ろし続ける。
激しい打撃音とあくまでも暴言を吐き続ける三蔵の声がない交ぜになって部屋に響きわたった。


 (僕としたことが・・。相変わらず・・懲りてませんね・・・)
ベッドにうつ伏せになっている三蔵の姿を見やりながら、八戒は反省する。
お尻はワインレッドを超えた色に染め上がっており、触ると焼けた石炭のように熱い。
身体はぐったりしていて、じっとりと汗ばんでいた。
 あの後、頑として三蔵が謝ろうとしなかったため、気を失うまで叩いてしまったのである。
(もう少し・・・気をつけないと・・でも・・どうしたらいいんでしょうかねぇ・・)
気を失ったままの三蔵の手当てをしながら、八戒はそう考えていた。


 ―完―

風邪とプライド(最遊記より:八/三)



(『虫歯騒ぎ』の続編です。キャラのイメージが原作と異なっている可能性があります。許容出来る方のみご覧下さい)


 「あん?何みてやがんだよ?」
新聞を読んでいた三蔵は、悟空がこちらを見ていることに気づくと、不機嫌そうな表情を浮かべる。
「いや・・。何か・・顔赤っぽくねぇ?」
「ああ?何言ってやがんだ。んなわけねえ・・コフ・・・」
否定しようとしたところに、三蔵は小さく咳き込む。
 「だ、大丈夫かよ!?」
思わず悟空は駆け寄ろうとするが、三蔵にジロリと睨まれ、足が止まってしまう。
「何ともねぇよ・・。これくらい・・・」
「で・・でも・・」
悟空は心配そうな表情を浮かべる。
何だか顔や声が苦しそうに見えたのだ。
 「何ともねえって言ってんだろうが。それよりテメェ・・・。毎晩ちゃんと歯磨きしてんだろうな?」
「し・・してるよ・・・」
悟空はそう返事をする。
この前虫歯になり、そのことが原因で騒ぎを起こしたせいか、そういう健康管理に対して厳しい目が向けられるようになったのだ。
 「人の事心配する前にテメェの健康管理考えたらどうなんだよ?また虫歯になんぞなりやがったら、百や二百叩きぐれえじゃ済まさねえからな」
「こ、怖いこと言うなよ~~!!ちゃ、ちゃんと反省してるし、歯磨きもしてるって!!」
恐ろしいことを言われ、悟空は今にも泣き出しそうになる。
三蔵の事だ、もしまた虫歯になってしまったら、本当にやるだろう。
 「用がねえんならさっさと行けよ。俺は機嫌が悪いんだよ」
三蔵にそう言われては悟空も為すすべなく、すごすごと部屋を後にしようとする。
だが、やはり三蔵のことが気になるのか、出て行き際に三蔵の方をチラリと見やる。
三蔵が早く出て行け、と言わんばかりに睨みつけると、慌てて悟空は部屋を出て行った。
 「クソ・・・・」
不機嫌そうに呟くと、三蔵の身体から力が抜ける。
同時に顔がさらに火照ったようになり、表情もより苦しげなものへと変わる。
 (俺と・・したことが・・・)
三蔵は自身を罵りたくなる。
少し前から身体がだるいと思っていたら、喉や口の中が痛くてたまらない。
咳や熱も感じている。
風邪だろう、というのは三蔵も察していた。
 (クソ・・・!!何だって・・・こんなことに・・・!!)
三蔵は苛立ちを抑えかねながら、心の中で叫ぶ。
先日、虫歯になったのに、歯医者を嫌がる悟空を叱ったばかりだ。
その際、八戒に病気についての自分の行動について釘を差すようなことを言われた。
そのときは、ただウザったいとしか思わなかった。
悟空と一緒にするなど心外だと言わんばかりに。
 だが、今度は自分が体調を崩してしまった。
三蔵にも、医者に行くべきだとわかっている。
だが、そうしたくはなかった。
 別に医者が怖いわけではない。
病気になるということは、普段の自身の生活態度や習慣にも問題がある。
イコール自身がだらしない生活をしている、ということでもある。
医者に行くということは、自分がそういうだらしない生活をしていたことを白状するようなもの。
三蔵にしてみれば、そちらの方がずっと恥ずかしい。
無意味なプライドなのはわかっていても、自分が病気なのを知られるよりはと、こういう方法を取らずにはいられなかった。
 「クソ・・・!!」
不機嫌な表情で舌打ちしつつ、三蔵は新聞に目を通していた。


 「どうしたんですか?悟空?」
買い物から帰って来た八戒は、落ち着かない様子の悟空に気づくと、声をかける。
「あ、は、八戒・・・」
「何かあったんですか?」
困ったことでも起きたのかと、八戒は問いかける。
 「あ・・うん・・。サンゾーの様子が・・・何か・・おかしいんだよ」
「三蔵が?どういう風にです?」
「何か・・体調悪そうじゃ・・ねえかって・・。でも・・・」
悟空は言いにくそうに口を閉じる。
 「悟空が言っても素直に認めないし、医者にも行こうとしないんですね?」
悟空の様子から察しをつけてそう尋ねる。
「あ・・うん・・・。どうすりゃ・・いいんだろ?」
「わかりました。何とかしてみます」
「ありがと。八戒がそう言うんなら・・もう大丈夫だよな・・・」
悟空は安堵の表情を浮かべて出てゆく。
 (さてと・・・やっぱり心配した通りになりましたねぇ・・・)
悟空から話を聞くと、八戒は考え込むような表情になる。
(どうしましょうか・・・)
素直に医者に行くような三蔵では無いのはわかっている。
だが、悟空の話からはすぐに医者に連れていった方がよさそうだ。
しばらく考え込んでいたが、やがて案が浮かんだのだろう、表情が和らいだかと思うと、八戒も部屋を後にした。


 「何の用だ?」
八戒が入って来ると、三蔵は不機嫌な表情を浮かべる。
だが、八戒はそんな三蔵を見るなり、何だか小馬鹿にしたような表情を浮かべる。
 「おぃ、何だそのツラは?」
馬鹿にしているかのような八戒の表情に、三蔵は不機嫌さをさらに強める。
「おや。すみません。ついおかしいものですから」
「おかしい?」
「ええ。いやぁ、意外でしたねぇ。三蔵がそんなに怖がりだなんて」
「ああん!?何抜かしてんだぁ!?」
八戒の思いがけない言葉に、思わず三蔵は詰め寄る。
 「おや?怒ったんですか?」
「テメェ・・・いい度胸だな」
「そんな凄んだって怖くも何ともありませんよ。医者が怖いだなんて、子供みたいな三蔵ではねぇ」
「ん・・んだとぉ!?テメェ・・」
三蔵は今にも殴りかかりそうな表情になる。
 「だってそうじゃないですか。三蔵、明らかにあなた病気でしょう?どうして医者に行かないんですか?」
「ケッ・・。行こうが行くまいが、俺の勝手だろうが。テメェには関係ねえだろ」
「おやおや?やっぱり怖いんですか?それじゃあ悟空と同じじゃないですか」
「て・・テメェ!!」
三蔵は怒りに打ち震える。
 「おやおや?震えてますよ。それじゃあ本当に悟空と同じですねぇ。恥ずかしいと思わないんですか?」
「だ・・黙れ・・・!!」
(く・・悔しい!!)
三蔵は心の底からそう叫びたかった。
病気なのを見抜かれたのみならず、医者に行かないのを臆病ゆえだと取られたのだ。
プライドの高い三蔵にしてみれば、これほど屈辱的なことはない。
 「ウルっせえ!!俺はサルじゃねえ!!医者なんぞ怖くも何ともねえぜ!!」
「ほ~う、そうですかねぇ?だったら・・・証明してもらいましょうかねぇ?」
「ケッ!!行きゃあいいんだろ!!行きゃあ!!」
ここまで言って三蔵はハッとする。
こう言いきった以上、嫌でも医者に行かなくてはいけない。
 「では今すぐ行ってきて下さい。いいですね?」
八戒の問いかけに、三蔵は不機嫌極まりない表情になる。
見事にしてやられたことに気づいたからだ。
だが、言いだした以上、今さら後戻りは出来ない。
「ふん・・。行ってやるよ。それで・・いいだろうが。チッ・・!!」
悔しさを隠すために舌打ちすると、三蔵は渋々といった感じで行こうとする。
 「ああ、三蔵。ちゃんと領収書とか出して下さいよ。でないと証拠になりませんからね」
「イチイチ細けんだよ。チッ・・!!」
八戒の言葉にそう返すと、三蔵は今度こそ部屋を後にする。
 (やっと行ってくれましたね・・・。相変わらず・・世話が焼けるんですから・・・)
やっと医者に行った三蔵に八戒は苦笑する。
三蔵のことだから素直に行けといって行くわけが無い。
といって、体調が悪い以上、お仕置きで言うことを聞かせるわけにもいかない。
出来れば、自分からちゃんと医者に行ってもらいたい。
それには三蔵のプライドを逆手に取るのが一番だ。
そう考えて、わざと三蔵を挑発したのである。
実際作戦は図に当たって三蔵は医者へ行ったのだから。
(さてと・・・後の準備もしておかないとですね・・・)
医者から戻って来た後のために、八戒は用意に取りかかった。


 「・・・・・・・」
ムスッと不機嫌極まりない表情で、三蔵はベッドに入っていた。
「だ、大丈夫かよ?三蔵?」
「うるせえなぁ・・。湿っぽい面近づけんじゃねえよ」
「三蔵、そんなに邪険にするものじゃありませんよ。悟空だって心配してるんですから」
心配そうに尋ねる悟空に、三蔵がムッとした表情で返すと、八戒が窘める。
 「とにかくちゃんと休んで下さいよ。早く治したいんでしたら」
「ふん・・・」
三蔵は八戒の言葉にソッポを向くと、ベッドにそのまま横になる。
 「ここに薬置いておきますから。ちゃんと飲んで下さいよ」
「イチイチんなこと言うんじゃねえよ。とっとと出てけよ!!」
相変わらずの不機嫌な様子で三蔵がそういうと、悟空と八戒は出てゆく。
 「クソ・・・・!!」
一人きりになると、三蔵は舌打ちしながら、布団にくるまって横になる。
横になった三蔵は医者から出された薬をジッと見つめる。
 薬の袋を見ていると、改めて自分が風邪になったという事実を否応なしに思い知らされる。
それは、自分がだらしない、風邪でダウンしてしまうようなヤワな人間だと嘲弄されているように感じられる。
それが無意味なプライド、虚栄心なのは自分がよくわかっている。
だが、そうとわかっていても、そう感じずにはいられなかった。
 「チッ・・・!!」
三蔵は薬の袋を取り上げると、ゴミ箱めがけて放り投げる。
目障りな薬袋をゴミ箱に放り込むと、不貞寝するかのように再び横になった。


 「三蔵・・・。寝てるのかよ・・?」
悟空は恐る恐るドアを開けると、入って来る。
気になって様子を見に来たのだ。
 「何しに来たんだよ?」
悟空の姿に、三蔵はジロリといつもの不機嫌そうな表情で答える。
「ちょ・・ちょっと・・様子・・見に・・あれ?」
悟空は返事をしようとして、おかしなことに気づく。
 「あれ?どうしたんだよ?ここに薬袋あったはずだよな?」
「あん・・。知らねえよ・・・」
「知らねえよって・・・」
部屋を見回し、悟空はゴミ箱の中に薬袋があることに気づく。
 「三蔵、何でこんなところにあるんだよ?」
「あん。んなことどうでもいいだろうが」
「よくねえよ!何で捨てちゃうんだよ!!飲まなきゃ治んねえじゃんかよ!!」
「うるせえな・・・。寝てりゃあ治る・・・」
「んなワケねえじゃん!!ちゃんと飲めってば!!」
悟空は薬袋を三蔵に渡そうとする。
 「いらねえって言ってんだろうが。見たくもねえ」
「そういうわけにいかねえじゃんかよ」
三蔵のことが心配なのだろう、悟空は何とか薬を飲ませようとする。
「だからいらねえんだよ!うっとおしいんだよ!!」
薬を飲ませようとする悟空に、三蔵は苛立つ。
「何でんなこと言うんだよ!そんなことしたら苦しいだけじゃんかよ!!ちゃんと飲めよ!!」
あくまでも拒否する三蔵に、悟空は無理にでも薬を持ったまま迫ろうとする。
そんな悟空に三蔵は我慢がならなくなったのだろう、悟空の手を掴んだかと思うや、思い切りグイッと引っ張った。
 (え・・・?)
悟空が気づいた時には、ベッドの上で三蔵の膝の上に載せられている。
しかも、お尻がスースーする。
 バッシィィィ~~~ンッッッッ!!!
「いって・・・!!」
弾けるような音と共にお尻に痛みが走り、思わず声を上げる。
バシッ!バアンッ!バチンッ!ビダンッ!バアンッ!
「さ、三蔵っ!何やってんだよっっ!!」
「ああん?わかんねえのか?お仕置きだよ」
「な・・何でだよっ!?俺、悪いことしてねえよ!!」
「テメェが余計なことばっかりすっからだよ」
「そ、そんな~~~っっ!!!」
八つ当たりに近いことを言われて思わず悟空が叫ぶのを尻目に、三蔵の平手が振り下ろされる。
 パンッ!パンパンパンッ!パンパンパンパンッ!
「痛えっ!痛えって!やめてくれよっ!サンゾーッッ!!」
必死に頼んだり謝ったりする悟空だったが、それを無視して三蔵はお尻を叩き続けた。


 それからしばらく経った頃・・・・。
「すみません。遅くなり・・・・」
買い物袋を提げて帰って来た八戒は、ドアを開けるなり全身が固まる。
 「三蔵っ!ごめんってばー!!もう許してくれよーー!!」
「ああん?余計なことばっかりしやがって!!こんなもんじゃまだまだ勘弁しねえからな!!」
三蔵はそういうと、既に真っ赤になっている悟空のお尻へ容赦なく平手を振り下ろす。
平手が叩きつけられるたびに、悟空の両脚はバタバタと動き、悲鳴が上がる。
 「三蔵っ!!何してるんですか!?」
思わず八戒は駆け寄り、奪い取るようにして悟空を三蔵から引き離す。
「ひぃひぃん・・・。八戒ぃぃ・・・」
「もう大丈夫ですからね。よしよし・・・・」
八戒は泣いている悟空を抱き上げると、もう一つとってある部屋の方へと連れていった。
 (やっちまった・・・・)
一人になると、後悔や罪悪感といった感情がどっと押し寄せる。
(何で・・・あんなことやっちまうんだよ・・・・)
自身の言動を振り返り、三蔵はそう思わずにはいられない。
 悟空の行動は三蔵を心配してのことだ。
悟空のいうことも正しい。
それがわかっているにも関わらず、うっとおしいから、そんな理由で邪険にした上、お尻まで叩いた。
 (何が『お仕置き』だよ・・・。八つ当たり・・いや虐待じゃねえか・・・・)
先ほどの自身の振舞いを思い返すと、三蔵は自嘲せずにはいられない。
何も悪いことをしていないのに、理不尽にお尻を叩いてしまった。
悟空が傷つかないわけが無い。
どの面下げて悟空と顔を合わせられるのか、そう考えずにはいられなかった。
 不意に、ドアが開く音がした。
思わず三蔵は振り返ると同時に、普段の表情に戻る。
「何の用だ?」
現れた八戒に、三蔵はいつもの無愛想な表情で尋ねる。
 「何の用だじゃありませんよ・・・。三蔵・・あなた何てことしたんですか!!」
三蔵の顔を見るなり、八戒は叫ぶように言う。
「何のことだ?」
言いたいことはわかっていたが、素直に認めたくなくて、つい三蔵はしらを切る。
「とぼけるんですか?悟空のこと、叩いたでしょう?」
「それがどうしたってんだ?テメェだってやってるだろうが?」
(馬鹿野郎!何言ってんだ!?)
三蔵は歯噛みしたくなる。
 「それとこれとは違いますよ・・・。三蔵・・・。覚悟は出来てますか?」
ニコリと、だが目は笑っていない笑みを浮かべて、八戒は尋ねる。
「テメェ・・・病人に何するつもりだ?」
「薬よりもずっと今の三蔵に必要なことをするだけですよ」
八戒はそういうと、三蔵の手首を掴み、ベッドから引きずり出すように引き倒す。
直後、ベッドの縁に腰を降ろした八戒の膝の上にうつ伏せにされてしまった。
 「おぃ!何しやがる!!」
わかりきってはいたものの、それでも三蔵は抗議せずにはいられなかった。
そんな三蔵を無視して、八戒はいつものようにお尻をあらわにすると、左手で身体をしっかりと押さえて右手を振り上げた。


 バアッシィィィィ~~~~~ンッッッッッ!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~!!!!!
「ぐ・・・!!」
(くそ・・・!?本気で叩いてんな!?)
最初から容赦のない平手の嵐を降らせてくる八戒に、三蔵はそう判断する。
いつもだったらこんな強烈なお仕置きを最初からすることは無い。
それだけ八戒が怒っているということだろう。
 ビッダァァァァ~~~~~~~ンッッッッ!!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッッッ!!
「ぐ・・!ぐっ・・!ぎ・・!ぎぐ・・!!ぎっひ・・・!!」
(く・・くそ・・・さすがに・・キツい・・!!)
血管が浮き上がりそうになるくらい必死にベッドシーツを掴んで堪えようとしつつ、三蔵は思わず弱音を吐きそうになる。
ただでさえ病気で体力が落ちているのだ。
そんなところへお仕置きをされるのは辛い。
 (馬鹿・・!!こんなので泣いたらみっともねえだろ!!)
三蔵は弱音を吐きかける自身を叱咤する。
バアッジィィィィ~~~~~ンッッッッッ!!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッッッッ!!!!
「ぐ・・!!ぎ・・!!テメェ・・・何・・しや・・がんだぁぁ・・!!」
苦痛に顔を歪ませつつ、三蔵は振り返って抗議する。
 「見ればわかるでしょう?悟空にしたことと同じことをしてあげるんですよ」
八戒はそういうと、さらに容赦なく三蔵のお尻を叩き続ける。
ビッダァァァ~~~~~ンッッッッッ!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~~~~ッッッッ!!!
「て・・てめぇ・・・。ただで・・済むと・・思って・・んの・・か・・ぐぅ!!」
「三蔵こそ自分の立場とかわかってますか?あなた病人なんですよ?どうしてちゃんと薬を飲まないんですか?」
平手の嵐を降らせ、お尻を赤く染め上げてゆきながら、八戒はお説教を始める。
 「うるせぇ・・・。あんなモン・・飲まなくったって寝てりゃあ治るんだよ!!」
「そんなわけないでしょう?それに・・・。悟空は薬を飲ませようとしただけでしょう?それなのに・・・どうしてあんなことをしたんですか!」
バシィィィッッッッ!!
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッッッッッッ!!!!
「ぐ・・!!ぐぬ・・!!ぬ・・!!むぐぅ!!」
平手打ちの嵐に、ドッと汗が噴き出し、風邪と相まって三蔵の表情は何とも苦しげなものになる。
 「悟空は心配しただけでしょう?それなのに・・・邪険にして・・・しかも・・理不尽にお尻叩いたりして・・。悟空がどんな気持ちだったと思ってるんです!?僕がこっちに来る直前までずっと泣いてたんですよ!!」
お尻を叩きながら、八戒はさらに怒りがこみ上げてくる。
お仕置きをしに戻って来るまでの間、悟空を慰めていた。
心配しての行為だったのに、邪険にされ、挙句にお尻まで叩かれ、悟空はショックを受けてしまっていた。
それだけに、三蔵の行為が何とも許せない。
 「う・・うるせぇ・・。言うんじゃ・・ねえよ・・・」
ブルブルと全身を震わせ、八戒には見えないように顔を歪め、三蔵は言う。
罪悪感を刺激され、何ともたまらない気持ちになる。
 「人に心配かけて・・しかも八つ当たりで理不尽なお仕置きなんかして!!どうしてそういうことをするんですか!?少しは反省したらどうなんです!?」
「うるせえっ!!うるせえうるせえうるせえっ!!??」
(俺の・・馬鹿・・・が・・・)
カッとなって三蔵は叫び、同時に自分に呆れる。
 どうして悟空のように素直になれないのだろう。
そう思わずにはいられない。
だが、意思とは裏腹に口はどんどん動く。
「説教なんかアキアキなんだよっ!?サルもテメェも余計なことばっかりしやがって!!うっとおしいんだよっっ!!」
「三蔵・・・・本気で言ってるんですか?」
三蔵の態度に、八戒の表情がより険しくなる。
 (やっちまった・・・)
三蔵は自分に呆れていた。
どうして懲りもせず、同じことを繰り返してしまうのだろう。
つくづく自身の馬鹿さが情けない。
 しかし、言ってしまった以上、もう引っ込みはつかない。
八戒が許してくれるわけもなく、自分も許しを乞うつもりなど毛頭ない。
なるようになれ。
半ばやけくそで自身にそう言うと、三蔵は開き直って言い放った。
「だったらどうだってんだよ!!幾らでも言ってやるぜ!!」
バアッジィィィ~~~~ンッッッッッ!!!!
「ぐぅぅ・・・・!!!」
返事代わりの強烈な一発に、三蔵は背をのけ反らせる。
 「よく・・わかりました・・・。三蔵が全然反省していないってことは・・・」
八戒はそういうと、乱暴に三蔵をベッドに放り出す。
「おぃ!何しやがる!?」
思わず抗議するが、八戒はそれに構わず、三蔵の両手を後ろ手に紐で縛りあげ、さらに両脚も縛ってしまうと、腹の下に枕を入れ、ベッドの上で、うつ伏せでお尻を突き上げる体勢を取らせた。
さらに八戒はパドルを用意する。
 「三蔵・・・今日という今日は許しません・・!!」
「ケッ!そんなんでビビると思ってんのか!?」
この期に及んでも、なおもそんなことを言う三蔵を見やると、八戒は思い切りパドルを振り上げた。
 ビッダァァァァ~~~~~~~ンッッッッ!!!!
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~!!!!
「ごぶぁぁぁ!!ぐがっ!!ぎっびぃぃぃ!!!!ぐぐっ!!ぎぃぃぃぃ!!!!!」
パドルでの乱打に、三蔵は心底からの絶叫を上げそうになる。
(馬鹿・・野郎・・!!喚くんじゃ・・ねえ!!??)
三蔵は自身を叱咤し、決して屈するまいとする。
 バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~!!!!
「ぎぎぃぃぃ!!ぎばぁ!!ぎっ!!ぐぐ!!むぐっ!!ごぶぐっっ!!」
苦痛のあまりに泣き叫びたくなるのと、そうするまいとするプライドが相まって奇妙な悲鳴と表情で悶える中、激しい音と共にパドルが雨あられのように振り下ろされ続けた。


 (僕としたことが・・・)
ベッドの上で気を失い、ぐったりした三蔵の姿を見降ろしながら、八戒は反省する。
お尻はワインレッドを遥かに超えた色に染め上がり、風邪と相まって全身がグッショリと汗で濡れ鼠になっている。
 (相手は病人なんですよ?どうしてここまでするんですか・・・・)
中々謝らないからと、病人にも関わらず気を失うまで叩いてしまったことに、八戒は後悔や罪悪感が沸いてくる。
(これでは・・・僕も・・三蔵と変わりませんね・・・。どうしてこうなってしまうんでしょうか・・・・)
凄い色になっているお尻に薬を塗りながら、八戒はそう考えずにはいられなかった。


 「ぐぅ・・・ぐく!!」
目を覚ますと同時に、三蔵はお尻に猛烈な痛みを覚える。
「クソ・・相変わらず・・派手に叩きやがって・・・」
後ろを振り返り、濃厚に色づいた自身のお尻を見やりながら、三蔵はそう呟く。
 「ご機嫌とりのつもりかよ。これくらいで・・騙されるかよ・・」
傍に置いてある愛用のタバコを見やりながら、三蔵はそう呟く。
タバコを取り出し、吸おうとしたところへ、薬袋が目に入る。
『飲んで下さい。悟空が心配してますから』
『ウザいことしてごめん。でもお願いだから飲んでくれよ』
八戒と悟空の字でそう書かれた紙が袋と一緒に置かれていた。
 不機嫌そうな表情でしばらく眺めていた三蔵だが、おもむろに中から錠剤や粉薬を出したかと思うと、不満そうながらも、飲みだす。
そして、不機嫌そうに一息ついたかと思うと、ムスッとしたままベッドに横になった。


 ―完―

虫歯騒ぎ(最遊記より:八/空)



(最遊記を題材にした二次創作です。キャラのイメージが原作と異なっている可能性があります。許容出来る方のみご覧下さい)


 その日、三蔵が宿屋の一室で新聞を読んでいたときだった。
突然、乱暴にドアが開き、悟空が飛び込んでくる。
「おい、何してんだ?うるせぇだろ?」
新聞を読むのを邪魔され、思わず三蔵は不機嫌そうな表情になる。
 「さ、三蔵っ!?かくまってくれよ!?」
一方、悟空は三蔵のもとにやって来るや、必死になって叫ぶ。
「あん?テメェ、また宿屋のメシ盗み食いしやがったのか?」
かくまってくれなどと言う悟空に、三蔵はそういう想像をし、さらに険しい表情になる。
 「ち・・違えよ!?そ、そんなことしてねえって!?」
「だったら何で『かくまってくれ』なんて言うんだよ?疾しいことがなきゃあそんな必要ねえだろうが?」
「本当に何もしてねえって!?って来たあっ!?」
思わず悟空は叫ぶと三蔵の背後に隠れるように回り込む。
同時に、八戒が入って来た。
 「こんなところにいたんですか?さぁ、行きましょう、悟空」
八戒は出来るだけ優しい声で呼びかける。
「やだっ!絶対行かねー!!」
悟空は三蔵を壁にして断固拒否する。
 「おい・・・。一体どうなってやがる?」
突然の事態に三蔵は不機嫌な表情で尋ねる。
「ああ、すみません。実は悟空が歯医者に行くのを嫌がりまして」
「歯医者?」
「ええ。どうも虫歯らしいんですよ」
八戒の言葉に三蔵は後ろを振り向くと、悟空を捕まえ、強引に口をこじ開ける。
すると、確かに真っ黒な虫歯が悟空の口内で自己主張していた。
 「おい、バカザル。テメェの口ん中にあんのは何だ?」
「む・・虫歯・・・」
「だったらさっさと行ってこい」
「で・・でも・・・」
歯医者に行けという三蔵に、悟空は泣きそうになる。
 「テメェはガキか!たかが歯医者だろうが!さっさと行って治してこいってんだよ!!」
「や・・ヤダってんだよ~!!滅茶苦茶痛ぇじゃんかよ~~!!」
「おい・・。サル・・。どうしても行かねえつもりか?」
「行かねえに決まってんだろっ!!死んだ方がマシだって!!」
「チ・・・仕方ねえな・・」
そういうと、三蔵は悟空の手を引っ張る。
悟空が気づいた時には三蔵の膝の上に載せられていた。
 「うわっ!な、何すんだよ~~~!!!」
お尻丸出しにされて慌てる悟空に、三蔵は平手を振り下ろす。
パンッ!パンパンッ!パンパンパンッ!パンパンパンパンッ!
「ちょ!痛っ!痛えって!やめっ!やめろってば!?」
「だったらさっさと歯医者に行くか?」
「そ・・それは・・・」
「行くって言うまでケツ叩くぞ?」
「わ・・わかったよ!!行くっ!行くってば!!だからケツ叩かねえでくれよーっっ!!」
「ならさっさと行ってこい」
三蔵にそう促され、お尻をさすりながら、悟空は八戒に連れられて部屋を出る。
 「・・ったく・・・。ガキじゃあるまいし・・・」
八戒に連れられてようやくのことで出て行った悟空に、三蔵は呆れたようにため息をつくと、再び新聞を読みだした。


 「う・・うぅ・・・」
悟空は歯医者の看板を目にするや、後ずさりしそうになる。
「さぁ、悟空。行きますよ?」
「は・・八戒ぃぃぃ・・・。どうしてもかよぉぉ・・?」
泣きそうになりながら、悟空は問いかける。
 「仕方ないでしょう。歯が痛いままじゃご飯も食べられませんよ。それでもいいんですか?」
「う・・・・」
八戒の言葉に悟空は言葉に詰まる。
歯医者は嫌だ。
だが、治さなければ食事も出来ない。
何度も懲りずに宿屋の食事を盗み食いしてはお仕置きされてしまうほど、食べることが好きな悟空にしてみれば、食事が出来ないのは虫歯よりも辛いことだった。
「わ・・わかったよぉぉ・・・」
ようやく覚悟を決めると、悟空は八戒に連れられて診療所へと入っていった。
 (大丈夫・・・ですかねぇ・・・)
待合室で八戒は心配そうに診察室のドアを見つめていた。
ようやく覚悟を決めてくれたようだが、それでも診察室で待っている間、ズッと恐怖で震えっぱなしだったのだ。
八戒が抱きかかえて出来るだけ恐怖を和らげていたものの、それでも不安と恐怖を拭い去るには不足だった。
(何も無ければ・・・いいんですが・・・)
八戒が思わず心の中で呟いたときだった。
 突然、診察室からものすごい音が響いてくる。
(何ですか!?)
思わず八戒が立ちあがると同時に、ドアが勢いよく開く。
開いたドアから悟空が凄まじい勢いで診察室は無論、診療所そのものから飛び出してしまった。
 「あっ・・!!どこへ行くんですか!?」
思わず八戒は止めようとするも、先ほどの轟音が気にかかる。
悟空を追う前に、八戒は診察室の方へ入っていった。
 「な・・・何ですか・・これ・・・」
八戒は診察室の惨状に思わず呟く。
鈍器で滅茶苦茶に殴りつけたかのように惨憺たる状態の、椅子や治療用機材の破片や部品が散らばっていたからだ。
 「あ・・あの・・。大丈夫ですか?」
診察室の片隅で、すっかり腰を抜かし、顔を青くしている歯科医を、八戒は助け起こす。
「はぁ・・はぁ・・。全く・・・。いきなり棒なんか取り出したかと思ったら・・・」
「すみません。もしかして・・・悟空のせいですか?」
室内の惨状を見やりながら、八戒は医師に尋ねる。
 「もしかしてじゃないですよ。いきなり棒なんか出したかと思ったら、滅茶苦茶振りまわして・・・!!ああっ!椅子も機材も高かったのに!?」
「すみません。きちんと僕らの方で弁償しますので」
「全くですよ!ちゃんと責任は取ってもらいますからね!!」
「本当にすみません」
八戒は懸命に歯医者に頭を下げていた。


 (ヤベぇ・・・。やっちまった・・・・・)
それからしばらく経った頃・・・。
悟空は困りきった表情で街を歩いていた。
 (俺の馬鹿~~~!!何だってあんなことしちまったんだよ~~!!)
数時間前のことを思い出し、悟空は自分を責めずにはいられなくなる。
覚悟を決めたはずなのに、いざ医者と顔を合わせると、恐怖がぶり返してしまったのだ。
怖くてたまらず、気づいたときには如意棒を取り出し、当たるに任せて振りまわした挙句に逃げ出したのである。
 (どうしよ・・。色々・・ぶっ壊しちまったし・・・。絶対・・怒られるじゃん・・・)
如意棒を振り回した際、それが色々な機材に当たり、機材類を壊してしまったのは微かに覚えている。
逃げただけでも怒られるのに、さらに器物破損も加われば、八戒はかなり怒っているだろう。
本能的にお尻に手を伸ばし、痛くも無いのにさすっていたときだった。
 「こんなところにいたんですか?」
突然聞こえた声に悟空はハッとする。
恐る恐る振り返ってみると、今絶対に会いたくない人物の姿。
 「は・・八戒・・・」
「探したんですよ、さぁ、帰りましょう?」
八戒はそういうと悟空を連れ帰ろうとする。
 「や・・やだっ!!離してくれよ~~~!!」
「そういうわけにはいかないんですよ。悟空、あまり暴れないで下さい」
「やだやだっ!帰ったら絶対お尻叩くじゃんかよ~~~!!!」
「仕方ないでしょう、悟空が悪い子だったんですから・・。悟空・・あまり聞きわけが無いと、ここでお尻叩きますけど、それでもいいんですか?」
「わ・・わかったよぉぉ・・・・」
ここでお仕置きなどと言われては、さすがに悟空もこれ以上抵抗できない。
肩を落とし、暗い表情でトボトボと歩きながら、悟空は八戒に連れられて帰っていった。


 「さてと・・・」
宿屋に帰って来ると、八戒はソファに腰を降ろして悟空を見やる。
お仕置きの恐怖か、悟空は落ち着かない様相をしている。
 「悟空・・・わかってますよね?」
「な・・なぁ・・。ほ・・本当にお仕置きすんのかよ?」
恐る恐る、悟空は尋ねる。
「当たり前でしょう。さぁ、早く来て下さい」
「や・・ヤダってば~~。な、なぁ、反省してるから許してくれよ~~」
何とか免除してもらおうと、悟空は必死になる。
 「そういうわけにはいきませんよ。悟空、悪いことしたらお仕置き、それはよくわかってるでしょう?」
「で・・でも・・」
「悟空?あまりワガママを言うと、僕にも考えがありますよ?」
これ以上優しい顔は出来ないと判断すると、八戒はわざと怖い顔を浮かべてみせる。
 「ひ・・!!わ、わかったから!!い、行くって!!」
慌てて悟空は八戒のもとに駆けつけると、膝にうつ伏せになる。
よほど怖いのか、全身ブルブルと熱病にでも罹ったかのように震えていた。
 (あらあら・・。でも・・手加減してあげるわけにはいきませんからねぇ・・)
恐怖に身を震わせる悟空に、ちょっとかわいそうに思いつつも、いつものようにズボンを降ろしてお尻をむき出しにする。
同時に左手で身体を押さえると、静かに口を開いた。
「では・・・いきますよ。いいですね?」
八戒の問いに悟空は震えながら頷く。
それを見ると、八戒はゆっくりと右手を振り上げた。


 パアッシィィィ~~~ンッッッッ!!!
「ひ・・・!!」
弾けるような音と共に痛みが広がり、悟空は思わず声を上げる。
パアシィンッ!ピシャンッ!パアンッ!パチィンッ!パアシィンッ!
「ひ・・!ひんっ!痛っ!痛あっ!痛あっ!」
平手が振り下ろされるたびに悟空は声をあげる。
 ピシャンッ!パチンッ!パンッ!パアアンッ!パチィンッ!ピシャアンッ!
「ちょ・・!八戒っ!痛っ!痛えって!?痛っ!痛ああっ!!」
両脚をバタつかせながら、悟空は叫ぶようにして訴えかける。
 パアンッ!ピシャンッ!パアシィンッ!ピシャンッ!パアアンッ!
「痛いのは仕方ないでしょう?お仕置きなんですから。痛くなければ意味なんてないじゃないですか」
文句を言う悟空に、八戒はそう言ってお尻を叩き続ける。
 ピシャンッ!パアシィンッ!ピシャンッ!パアアンッ!パアンッ!
「悟空・・・そもそもどうしてお仕置きされてるんです?」
「そ・・それは・・・・」
八戒の言葉に悟空は言葉に詰まりそうになる。
 パアシィンッ!ピシャンッ!パアアンッ!ピシャンッ!パアアンッ!
「悟空・・悪いことしたのは誰ですか?」
「う・・お・・俺・・・」
自分のしたことを否定できず、悟空はそう認めるしかなかった。
 「そうですよね。悟空が悪い子だったからお仕置きされてるんですよね?反省してないんですか?」
「そ・・そうじゃ・・ねえけど・・」
「だったらちゃんとお仕置きを受けて下さい。あまりワガママを言うと・・・」
「わ・・わかったってばー!?ちゃ、ちゃんと受けるって!!だからこれ以上はキツくしねえでくれよー!!」
あまり言うと本気で怒られて凄く厳しいお仕置きをされかねない。
三蔵がそうされているのを見たことがあるから、身に沁みてわかっている。
 「なら・・・素直に受けてくれますね?」
「う・・うん・・・」
拒否しきれず、悟空がそういうと、少し八戒は表情を和らげる。
そして、再び手を振り下ろし始めた。
 バシンッ!バンッ!バチンッ!バアンッ!ビダァンッ!
「ひ・・!ひゃっ!痛っ!痛えっ!痛あっ!!」
先ほどより平手の勢いが強くなり、悟空の声はさらに大きくなる。
「ダメでしょう?歯医者で如意棒を振りまわして暴れたりしたら」
お尻を叩きながら、八戒は本格的にお説教を始める。
 ビダンッ!バアンッ!バジィンッ!ビシャンッ!バアアンッ!
「ひぃん・・。だって・・怖かったんだよぉぉ・・」
「だからってあんなことしたらダメじゃないですか。下手をすれば怪我人が出ていたかもしれないんですよ?そうでなくても、色々壊したりして・・・。皆にも迷惑になるんですよ。わかってますか?」
言い聞かせるようにお説教しながら、八戒は悟空のお尻を赤く染め上げてゆく。
 「それに・・・その後診療所を飛び出して、何時間も帰らなかったでしょう?どうしてそんなことしたんですか」
「だ・・だって・・。捕まったら・・絶対・・お尻叩くじゃんかよ~~~~!!!」
「だからって帰らなかったら、皆心配するでしょう?」
「でも・・・」
「それに悟空、歯医者が嫌だからって、虫歯を放っておいたら困るのは自分ですし、そういうのを見ていて周りの皆も心配するでしょう?」
「う・・ごめん・・・」
八戒の言う通りなため、悟空は素直に謝る。
 「反省してます?」
「う・・うん・・。迷惑・・かけて・・・心配させて・・ごめん・・・」
「じゃあ・・・これから仕上げのお仕置きをします。今までよりずっと痛いですよ。いいですね?」
「わ・・わかった・・。こ・・怖えけど・・・。お・・俺が・・悪いし・・」
悟空は覚悟を決めると、両手で八戒のズボンをしっかりと掴む。
それを見ると、八戒はゆっくりと右手を振り上げた。
 パアッアア~~~~ンッッッッ!!!!
パァンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン~~~~ッッッ!!!
「ひぃいいっっ!!痛っ!痛あっ!痛えっ!!ひゃあんっ!!」
平手打ちの嵐に悟空は両脚をバタつかせて悲鳴を上げる。
 「ひぃぃんっ!!八戒っ!ごめんってばー!!もうしねえよーっっ!!」
もがきながら謝る悟空だったが、敢えて八戒はお仕置きを続ける。
「ごめんなさいっ!ごめんなさーいっっ!!ごめんなさぁぁーーーいっっっ!!」
八戒の平手打ちが続く中、必死に謝る悟空の声が響きわたった。


 「ひぃひぃん・・・。うぇぇぇ・・・・」
ボロボロと涙をこぼして悟空は泣いていた。
お尻は既に濃厚なワインレッドに染め上がっている。
 「悟空・・・反省しましたか?」
八戒はお尻を叩く手を止めて尋ねる。
「した・・。したよぉぉ・・・。迷惑かけて・・・心配させて・・ごめんってばぁぁ」
「それじゃあ、今度はちゃんと治療してくるって約束出来ます?」
「する・・。も・・もう・・暴れねえし・・。ちゃんと・・受けるぅぅ・・・」
「よく言えましたね。それじゃあ・・終わりですよ」


 数日後・・別の診療所の治療室。
「はい~。それじゃあ行きますよ~」
歯医者の言葉に悟空は表情を強張らせる。
恐る恐る、付き添いで一緒にいる八戒の方を振り向くと、八戒は安心させるような笑みを浮かべ、つないでいる手に力を込める。
傍に八戒がいることに恐怖が多少和らいだのか、悟空は泣きそうになりつつも、口を開く。
そこへ歯医者のドリルがゆっくりと差し込まれた。


 「ったくこん馬鹿がっっ!!」
ピッシャ~~~ンッッッッ!!
「だからごめんって言ってるじゃんかー!!」
膝の上で三蔵にお尻を叩かれながら、悟空は必死に叫ぶ。
 「テメェがゴネて歯医者に行かねえわ、行ったらいったで騒ぎ起こしやがって!!こっちがどれだけ迷惑蒙ったって思ってんだっ!!」
「だからごめんってばー!!謝るから許してくれよーー!!!」
必死に叫ぶ悟空だったが、怒っている三蔵は容赦ない。
 「馬鹿野郎。今日はこの程度じゃ許さねえからな。まだまだ引っぱたいてやるから覚悟しとけよ」
「そ・・そんな~~~っっっ!!!」
その後、悟空の悲鳴が再び宿屋に響きわたった。
 それから数時間後・・・。
「サルは?」
八戒が部屋に戻って来ると、三蔵はおもむろに尋ねる。
「落ち着いたみたいです。ぐっすり寝てますよ」
「そうか・・・ふん・・・」
相変わらず不機嫌そうだが、どこかホッとしたような表情を浮かべる。
 「ですが三蔵・・・。ちょっと厳しいんじゃないですか?」
「ああん?何言ってんだ?二度とこんな真似されたら困るだろうが。甘やかしたらタメにねらねえだろうが」
「それはそうですけど。でも・・三蔵だって人のことは言えないでしょう?体調が悪いのに平気な振りとかして」
「テメェ・・。何が言いてえんだ?」
三蔵は喧嘩を売るなら買うぞ、とでも言いたげに問いかける。
 「三蔵・・・。ああして悟空のこと叱った以上・・。何かあったらちゃんと医者に行って下さいよ。いいですね?」
八戒は念を押すように言う。
三蔵も悟空と似たようなことをやらかす危険があったからだ。
もっとも、悟空と違って、三蔵の方は高すぎるプライドから、病気になることを恥ずべきものと考えることが原因だが。
だが、それだけに恐怖心から医者等を嫌がる悟空より厄介だ。
そこで、釘を刺しておきたいと思ったのである。
 「ふん・・・。俺はサルとは違えよ・・・」
悟空と一緒にされたと感じたのか、三蔵は憮然とした表情を浮かべる。
「ならいいんですが。でも三蔵・・くれぐれもお願いしますよ」
「くどいって言ってんだろ!!さっさと出てけよ!!」
すっかり不機嫌になった三蔵に、八戒はこれ以上はまずいと思ったのか、部屋を後にする。
 「クソ・・・!!馬鹿にしやがって・・・」
憮然とした表情を浮かべると、三蔵は不機嫌を取りのけようと、再び新聞に目をやった。


 (大丈夫・・でしょうかねぇ?)
先ほどの三蔵の態度に、思わず八戒はそう思う。
(わかってくれていれば・・・いいんですけど・・・)
自分の言い方や態度にも問題があったとは思うが、三蔵にああ言わずにはいられなかった。
三蔵も、自分の身体を大事にしないところがあるからである。
それだけに、三蔵のことがどうにも気にかかる。
(何でしょう・・?この不安は・・・?)
八戒はいつものように作業をしつつ、何故か不安を拭えなかった。


 ―続く―

タバコ禁止令(最遊記より:八/三)



(最遊記を題材にした二次創作です。キャラのイメージが原作と異なっている可能性があります。許容出来る方のみご覧下さい)


 「おや、また吸ってるんですか?」
いつものようにタバコを吸っている三蔵の姿に、思わず八戒が声をかける。
「あん?今さら何言ってんだよ?」
三蔵は怪訝な表情で問い返す。
「確かに今さらですけど、でも最近前よりやたら増えてませんか?」
「あん?そんなの知るかよ」
「自分じゃわかってないからタチが悪いんですよ。これ以上吸ってると、本当に肺ガンになっちゃいますよ?」
「ふん・・・・別に構わねえよ」
「そういうわけにはいきませんよ。このままだと本当に身体壊しかねないですからね」
そういうと、八戒は三蔵からタバコを取り上げてしまった。
 「おぃ!何すんだ!!」
いきなりタバコを取り上げられ、三蔵は抗議する。
「今日からタバコ禁止です。文句がありますか?」
「ああん?決まってんだろうが!?」
三蔵は思わず詰め寄る。
 「まぁ別に嫌だっていうならいいですけどねぇ・・・。でも・・・全然我慢の出来ない人だなんて思いもしませんでしたねぇ」
「テメェ・・・」
小馬鹿にするような口調の八戒に三蔵は思わずカッとなりかける。
「おや?図星指されて怒ってるんですか?ますます大人げないと思いますけど?」
(こ・・この・・野郎・・・)
三蔵は怒りと屈辱に震える。
プライドの高い三蔵にしてみれば、こんな風に馬鹿にされるのは我慢ならない。
 「チッ・・!!吸わなきゃあいいんだろうが!?」
「ええ。そうですよ。でも、約束出来ますかねぇ?吸いたくて吸いたくてしょうがないって人が?」
「テメェ・・・俺を舐めてんのか?んなモン・・・屁でもねえぜ」
「それなら・・・今、持ってるタバコ全部僕に預けてもらえます?」
「ふん・・好きにしやがれ」
三蔵がそう言うと、八戒は三蔵が持っていたタバコを全部回収する。
 「それじゃあ・・・約束してもらいますよ。タバコはもう吸わないって」
「イチイチ言わねえでもわかってんだよ」
「約束・・破ったら・・ひどいですからね?」
「わかってるって言ってんだろーが!!」
三蔵はそう言うと、不機嫌そうな表情で腰を降ろした。


 (クソ・・・・落ち着かねえ・・・)
三蔵は、普段よりも不機嫌で、落ち着かない表情で新聞を読んでいた。
八戒に上手くしてやられ、タバコ禁止令を了承してしまったため、タバコを全然吸えず、そのせいでイライラが募っていた。
 (俺と・したことが・・・馬鹿なこと・・やっちまったぜ・・)
三蔵は八戒の挑発に乗せられ、まんまと禁煙を強制させられた己の愚かさを自嘲する。
だが、後悔などしても無意味だった。
 (クソ・・クソクソ・・。落ち着かねえ!?)
タバコのことを考えまいとするも、却ってタバコを意識してしまい、ますますタバコが欲しくなる。
(馬鹿野郎・・・テメェで・・・言ったことも守れねえのか!?)
三蔵は自身を叱咤する。
例え、いけすかない策でハメられたとはいえ、「タバコはもう吸わない」と約束をした。
自らそう誓った以上、それを守るのが筋というもの。
自分が言ったことを違えるのは、三蔵にとっては何よりも嫌なことだった。
 だが、既にタバコの虜になり果てた身体は、意思に反して否応なしにタバコを求める。
やがて、いてもたってもいられなくなり、立ち上がるや、八戒の荷物をひっくり返し始める。
何だか凄まじく、鬼気迫るような目つきで、八戒の荷物をまとめたバッグの中身を放り出してゆく。
やがて、タバコを見つけるや、ようやく三蔵は安堵したような表情になった。
 すぐにもライターを取り出すや、火をつけては吸いだす。
一本吸ってホッとするも、タバコに飢えきった身体は一本では収まらない。
一本、また一本と出しては吸い、あっという間に箱一つを空にしてしまう。
箱一つ空にしてもまだあきたらず、さらに別の箱の封まで切りだした。
 「・・・・・・・・」
三蔵はムッツリと押し黙ったまま、灰皿とタバコの箱を見つめていた。
箱は全部開けられ、灰皿にはこんもりと吸いがらが山になってしまっている。
(クソ・・!!俺と・・したことが・・・!!)
三蔵は舌打ちせずにはいられなくなる。
 (何で我慢が出来ねえんだよ!俺の馬鹿!?)
約束を守れなかったどころか、タバコを欲しがらずにいられない自身の浅ましさに負けて、むさぼるように吸い尽くしてしまった。
あまりにも、自分が情けなくて、己に怒りすら沸いてくる。
 しかも、悪いことは重なるもの。
「ただいま戻りました・・・・」
聞き覚えのある声に思わず振り向くと、買い出しから戻って来た八戒がちょうど部屋に入って来るところだった。
 「おや?どうしたんですか?そんな驚いたような顔して?」
「あん?何でもねえよ」
とっさに平静を装ったが、それでも十分に八戒の疑念を掻きたてる。
「そうですか?でも・・・・」
話しかけようとして、八戒はヤニくさい匂いに気づく。
同時に、灰皿にこんもりと積もった吸殻と封が切られたタバコの箱も見てしまった。
 「三蔵・・・何ですか?これは?」
「さぁな」
「さぁなじゃありません。どう見ても、タバコですよね?」
「あん?だったらどうだってんだ?」
「どうしてこんなことになってるんですか?」
「あん?俺が知るかよ」
「知らないはずないでしょう?それより・・・・三蔵・・忘れたんですか?タバコは吸わないって約束したはずですよね?」
八戒はいつものようににこやかに、だが目は笑っていない笑みを浮かべて問いかける。
 「ふん・・・・だったら・・・どうだってんだよ?」
対して、三蔵は反抗的な目を向ける。
「それはよくわかってるんじゃないですか?」
「ふん・・・」
不機嫌そうに呟くと、三蔵は部屋を出て行こうとする。
 「どこへ行くんです?話は終わってませんよ?」
出て行こうとする三蔵を、八戒は手首を引いて止める。
「俺には話なんかねえよ」
「そっちにはなくても僕にはあるんですよ」
八戒はそう言うと、三蔵を強引に引き倒す。
直後、三蔵はいつものように、ベッドの縁に腰を降ろした八戒の膝の上にうつ伏せにされていた。
 「おぃ!何しやがる!!」
思わず三蔵は振り返ると、噛みつかんばかりに言う。
「決まってるじゃないですか、お仕置きですよ」
対して、八戒は慣れた手つきで三蔵のお尻を出しながら、そう言いやった。
 「ふざけんなぁ!?何で俺がそんなことされなきゃあならねえんだ!!」
「それは三蔵がよくわかってるんじゃないですか?まさか・・・わからないなんてこと、ありませんよね?」
「ぐ・・・・」
八戒の言葉に、三蔵は悔しそうな表情を浮かべる。
 事情はどうあれ、タバコは吸わないと約束したのは自分だ。
約束を破った以上、そのツケを払わなくてはいけないのはわかっている。
しかし、それを素直に認めるのは癪だった。
 「黙ってるところを見ると・・・黙秘ですか・・。まあいいですよ」
そういうと、八戒は左手で三蔵の身体を押さえ、右手に丹念に息を吐きかける。
「三蔵・・・覚悟はいいですね?」
「ふん・・・。イチイチ言わねえでやりたきゃ勝手にやれよ」
せめてもの意地に三蔵はそんなことを言いやる。
それを聞くと、八戒は思い切り手を振り下ろした。


 バッシィィィ~~~ンッッッ!!!
「ぐ・・・・」
最初から強めに叩かれ、思わず三蔵は声を漏らす。
パアシィ~ンッ!ピッシャ~ンッ!パッアァ~ンッ!パアッチィ~ンッ!ピッシャ~ンッ!パッアァ~ンッ!
 「おぃ・・・やめろ・・・やめねえか・・・」
お尻を叩かれながら、三蔵はそう言いやる。
「全く・・・・何をしてるんですか・・・」
パアッチィ~ンッ!パアッアァ~ンッ!ピッシャ~ンッ!パッアァ~ンッ!パアッチィ~ンッ!
 「タバコは吸わないって約束したんじゃないですか?」
パアッチィ~ンッ!ピッシャ~ンッ!パッアァ~ンッ!ピッシャ~ンッ!パッアァ~ンッ!
平手を振り下ろしながら、八戒はお説教を続ける。
最初はそれほどでもなかったが、だんだんとお尻が色づいてゆく。
 「う・・・うるせぇ・・・・」
「自分で約束したのに、守るどころか、隠れて吸うだなんて・・・。しかも・・・誤魔化そうとするなんて・・・そんなこと・・していいと思ってるんですか?」
ピッシャ~ンッ!パッアァ~ンッ!パッチィ~ンッ!パアッチィ~ンッ!ピッシャ~ンッ!パッアァ~ンッ!
「う・・うるせぇ・・」
それだけ呟くと、三蔵は押し黙ってしまう。
 約束を破って吸った上に誤魔化すなど、よくないことなのは三蔵だってわかっていた。
自分が悪いのはわかっている。
 しかし、それを素直に受け入れられるかとは別だった。
自分に非があるとはわかっていても、それを他人に言われるのは癪でたまらない。
無意味なプライド、意地だとはわかっていても、苛立たずにはいられない。
そして、そういう感情を抱く自分が間違っていることが、さらに三蔵を苛立たせる。
 「全く・・・あなたって人は・・・・」
バシバシとお尻を叩きながら、八戒はため息をつく。
「うる・・せぇ・・よ・・・」
三蔵は不機嫌な声で呟いたかと思うと、堰を切ったように叫んだ。
 「ゴチャゴチャうるせえんだよ!!エラッそうに説教なんかしやがって!!」
「三蔵・・・反省してないんですか?」
八戒は厳しい表情を受かべて問いかける。
 (クソ・・!!また・・・やっちまった・・・)
三蔵は心の中で舌打ちする。
自身の感情やプライドを優先して、墓穴を掘ってしまった。
何度も同じ失敗をしているのに、全然成長していない自分の愚かしさに自嘲したくなる。
だが、もうやってしまった以上、今さら謝っても八戒が許すわけもない。
それに、そんなことをするのは、三蔵にとっては死ぬよりも辛い。
自身のプライドを守るためなら、お尻が壊れた方がまだマシだった。
 「だったら・・・何だってんだよ?元々・・・テメェが俺をハメたんだろうが!!田舎ヤクザみてぇな真似してな!!何だってそんな約束、守らなきゃあならねえんだ!!」
「三蔵・・・それは・・・本心ですか?」
「だったらどうだってんだ!!さっさと離しやがれ!!」
「いい加減にしなさい!!」
ビッダァァァ~~~~~ンッッッッ!!!!
「ぐ・・・・」
再び思い切り叩かれ、三蔵は思わず苦痛の声を漏らす。
 「よく・・・わかりました・・・。全然・・・反省していないのは・・・・」
八戒は静かな、だが有無を言わせない声で呟く。
「そんな人は・・・絶対に・・・許しません!!」
八戒はそう言うと、おもむろに足を組んだ。
おかげで、三蔵はお尻を突き上げた、とても痛く感じる体勢になる。
 バアッジィィィ~~~~~ンッッッ!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~~~ッッッッ!!!!!!!
「ぐ・・・ぐぅくぅ・・・・!!!」
容赦ない平手の豪雨に、三蔵は顔を歪める。
 「テメェ・・・殺す気かよ・・・・」
三蔵は憎々しげな表情で振り返って睨みつける。
「三蔵が反省すればやめますよ。どうです?」
「ふん・・・・」
不機嫌な声でそう言うと、三蔵はプイッと横を向く。
 「反省の色無しですか・・・・」
八戒はそう呟くと、手を振り下ろす。
ビッダァァァ~~~ンンンッッッ!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~~~~~~~~ッッッッッ!!!!!
「ぐぅ・・・!ぐぁう・・・!!ぎ・・!!」
三蔵は声を漏らすまいと、必死に堪える。
それを尻目に、八戒は平手を嵐のように振り下ろし続けた。


 (やりすぎて・・・しまいましたね・・・)
ベッドの上でぐったりしている三蔵の姿を見やりながら、八戒は反省する。
三蔵は全身汗だくになっており、ぐったりしている。
お尻は全体が濃厚なワインレッドに染め上がっていた。
結局、三蔵が絶対に謝ろうとしなかったため、気を失うまで叩き続けざるを得なかったのだ。
(これでは・・・。本末転倒ですね・・。いや・・・初めからですね・・)
八戒は最初のタバコ禁止令のことから振り返り、そう思わずにはいられなかった。
 自分がタバコ禁止令を出したのは、三蔵の健康を慮ってのことだ。
三蔵の性格から、素直に禁煙などしないし、タバコ禁止令を出しても従うはずが無い、そう思い、言質を取るような小細工を弄した。
だが、それが果たしてよかったのか?
 こういうものは本人のやる気や意思も関わってくる。
罠にかけるような、そんな真似をしては、タバコ禁止令もいずれ破られるのは、想像出来るはずだった。
 (僕こそ・・・反省しないといけませんね・・・・)
気を失った三蔵のお尻に、薬を塗りながら、八戒はそう思わずにはいられなかった。


 ―完―

プロフィール

山田主水

Author:山田主水
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