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ダンジュー修道院40



(『青き狼たち』とリンクしています。その点をご了承の上でお読みください)

 (そろそろ・・頃合いかなぁ?)
ラウールは時計を確認すると、静かにベッドを離れる。
いつものように、夜の街へ遊びに出ようという魂胆だ。
これまたいつものように、慣れた足取りで、気づかれずに、ラウールは院内を移動する。
 (アレ?)
ラウールは、ふと立ち止まる。
夜の闇の中に、怪しい影を見つけたのだ。
 (誰だろう?)
物陰に潜み、ラウールは様子を伺う。
その影は、おどおどしてして、見ていて危なっかしい。
こういうことに慣れていないのは明らかだった。
 (ってアレ!?チサちゃん!?)
ラウールは、親友であるチサトだと気づく。
(僕に気づいたわけじゃないみたいだし・・。嘘!?チサちゃんが自分から抜け出すつもりなの!?)
ラウールは驚く。
街に遊びに出ようとした自分を連れ戻すためならともかく、チサトが自分から修道院を抜けだそうとするとは。
(あっ!?何か抱えてる!?)
同時に、ラウールはチサトが何か包みのようなものを抱えていることに気づく。
(何なんだろう?よし・・!!)
謎を突きとめてやろう。
そう決意したラウールは、チサトを追いかけはじめた。
 夜の闇の中、チサトは林の中を進んでゆく。
普段、ラウールを連れ戻すために通っているからか、その足取りには迷いもためらいも無い。
ラウールも慣れた道のため、スイスイと進んでゆく。
やがて、二人にはなじみの小屋が見えてきた。
 小屋は昔、修道院の山林の管理人が住んでいたもの。
今では廃屋になっているが、ラウールが夜遊びに行く時の服やお金の隠し場所として使っている。
チサトはあたりを見回し、誰もいないことを確かめる。
そして、ドアを潜る前にもう一度、慎重に周りを確かめてから、入っていった。
 (中に・・何が?)
チサトの奇妙な様子に、ラウールはさらに疑念を深める。
ラウールは慎重に小屋に近づき、窓から中を覗き込む。
 中にいたのは、チサトと、もう一人の人物。
チサトと同年代の少年で、怪我をしているらしく、身体のあちこちに手当ての跡がある。
チサトは包みを開くと、中からパンなどの食料を取り出す。
飢えているのか、食料を見るなり、少年は飛びつくように食べ始めた。
 (一体何者だろう?)
怪訝に思いながら、ラウールは観察を続ける。
不意に、少年は、顔を上げ、こちらを見つめる。
 (気づかれた!?)
次の瞬間、ラウールは嫌な予感を覚える。
屈んで顔を引っ込めた直後、乾いた音とともに、ガラスが割れる。
さらに、ドアが乱暴に開いたかと思うと、少年が、硝煙の匂いが残る拳銃を構えて現れた。
 「動くんじゃない!!撃たれたくなければな!?」
銃口を向けながら、マチウス・ハーモニカは警告する。
「だ、ダメですよっ!?ラ、ラウールさん!?」
チサトは地面に座り込んでいるラウールに気づく。
 「ま、待って下さい!!こ、この人は僕の友人です!!」
チサトはラウールの前に立ち、マチウスを説得しようとする。
それに対し、マチウスが何やらまくしたてるが、チサトは必死に説得する。
チサトの言うことを受け入れたのか、ようやくのことでマチウスは拳銃を降ろした。
 「あ・・ありがとう・・チサちゃん・・・」
「い・・いいえ・・。よかった・・」
ラウールとチサトは、互いに顔を合わせて、安堵の息をつく。
 「でも・・どういうことなの?」
「はい・・。実は・・・」
チサトはかいつまんで、事情を話す。
林の中での仕事をしていたとき、偶然、怪我を負って倒れているマチウスを見つけたこと、皆に知らせようとしたが、マチウスがすごい剣幕で誰にも知らせるな、と言ったこと、怪我の中には誰かに殴られたりしたようなものもあったことなど、から、密かに小屋に匿っていること、を話す。
 「そうだったんだ・・」
「お、お願いです!だ、誰にも言わないで下さい!!」
「で、でもさ・・。後で厄介事に・・・」
そこで、ラウールはマチウスの姿が目に入る。
マチウスは、思わずラウールがギョッとしそうになるほど怖い顔を浮かべ、腰から銃を抜く素振りを見せる。
無意識に身の危険を感じるや、必死に首を縦に振っていた。


 数日後・・・・。
(そろそろか・・・・)
傷の具合を見ながら、マチウスはそう呟く。
だいぶ治って来ており、旅立てるようになるのは時間の問題だった。
 そのとき、外から物音が聞こえる。
ハッとして、マチウスは愛用の拳銃を抜く。
「誰だ?」
「ぼ、僕だよ!チサちゃんの友達の!?」
ラウールは窓から顔を見せて呼びかける。
 「何の用だ?チサトはどうしたんだ?」
「そ、そのことだよ!?チサちゃんが変な奴らに捕まったんだよ!!」
「何だと!?まさか・・」
「心当たりあるの!?」
「少しあるさ。どこへ連れてかれたんだ?連れていけ!!」
マチウスは、ラウールにそう言うと、小屋を後にした。
 ふもとの町の郊外、その一角に、今は廃墟となった、古い石造りの建物がある。
その建物のアーチから、縄で縛られ、チサトが吊るされていた。
修道服のあちこちが破れ、暴行を受けたのは明らかだった。
 「クソ・・!!ガキのクセに・・!?」
男は苛立った様子で、吐き捨てるように呟く。
マチウスの居場所を吐かせようと、散々に痛めつけたにも関わらず、吐かないからだ。
 「どうだ?吐いたのか?」
リーダー格の男が、拷問をしていた部下に尋ねる。
男はアジア系の顔立ちで、顔には生々しい傷跡がある。
部下同様、暴力を生業としている雰囲気を、全身から醸し出していた。
「ダメです。ガキのクセにしぶといヤツで・・・・」
「それで済むか!何としてもマチウスの居場所を吐かせろ!!ヤツのせいで、組長(オヤジ)や若頭(カシラ)、そして俺達がどうなったか、忘れたのか?」
「んなワケ・・ありませんや・・!!」
二人は顔を見合わせ、憎悪に顔を歪める。
彼らは元日本のヤクザ。
日本屈指の広域暴力団『芹沢組』の下部組織の構成員だった。
上部団体の命で、彼らの組はアメリカへ進出。
地元組織と友好や敵対関係を築きながら、徐々に勢力を拡大していた。
だが、ある時、重要な取引の際、警察の手入れを受けた。
その際の銃撃戦で、警察に協力していたブロンソン・マチウス父子によって、組長と若頭を撃たれて失ったのだ。
それによって、組は壊滅、生き残った組員達も散り散りとなった。
彼らも生き残りであり、各地を放浪しながら、ハーモニカ父子への復讐を狙っていた。
そのため、ヨーロッパへ来ていたところへ、同じようにやって来ていたマチウスを見つけ、復讐のために襲撃した。
あと一歩のところまで行ったのだが、そこでチサトによって、助けられたため、チサトをさらい、隠れ家を吐かせようとしているのである。
 「兄貴・・!!ヤツが・・ヤツが来ました!?」
不意に、別の男がリーダーに注進に来る。
「確かか?」
「はい!間違いありません!!」
「よし!!ハジキは持ってるな!?今度こそ・・逃がすな!!」
元ヤクザ達は、それぞれ、ズボンや上着の下に隠していた拳銃を手にする。
緊張した面持ちで、復讐に燃える元ヤクザ達が見守る中、ゆっくりとマチウスが姿を現した。
マチウスは首にハーモニカを下げ、愛用の帽子とロングコートを身につけている。
少年とは思えない、堂々とした態度で、ゆっくりと、ヤクザ達の方へと向かってゆく。
「チサちゃんっ!!」
ヤクザ達の意識がマチウスに行っている隙をつき、ラウールはチサトを降ろす。
「ど、どうして知らせたんですか!?」
「いいからっ!早くこっちっ!!」
ラウールはチサトを連れて、安全なところに隠れる。
そして、恐る恐る、様子を伺う。
 ヤクザ達は、拳銃を構えたまま、ジッとマチウスを注視する。
緊張のあまり、顔から汗がドッと噴き出し、顎から滴り落ちる。
だが、彼らは発砲しない。
抗争の経験から、拳銃はあまり距離があると、当たらないと知っているからだ。
撃ちたくなるのを堪え、ヤクザ達はジッとマチウスが間合いに入るのを待つ。
マチウスはゆっくりと、ヤクザ達に向かって進んでゆく。
そして、ついに拳銃の間合いに入ったその時、ヤクザ達は引き金を引いた。
 パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!
4発の銃声が響いた直後、倒れたのはヤクザ達の方だった。
マチウスは全員、息絶えていることを確かめると、銃をガンベルトに戻す。
 「うっわ・・!!」
ラウールは思わず感嘆していた。
ヤクザ達は既に銃を手にし、いつでも発砲出来る状態だった。
対して、マチウスはガンベルトに拳銃を納めていた。
既に銃を構えている複数の相手に、発砲する隙も与えずに返り討ちにするなど、早撃ちなどという次元では無い。
 「う・・・・!!」
一方、チサトは今にも吐きそうな表情を浮かべる。
確かに、彼らは悪党だ。
実際、自分も彼らに拷問された。
マチウスやラウールが助けに来てくれなかったならば、殺されていただろう。
だが、それでも、彼らヤクザの死を喜ぶことなど出来なかった。
無意識に、チサトはヤクザ達のために、十字を切る。
その間に、マチウスは去ってゆく。
だが、不意に別のヤクザ二人が、こっそり、物陰からライフルと散弾銃を構えているのが見えた。
 「危ないっ!!」
とっさにチサトは声を上げる。
気づいたマチウスは振り返り、隠れていたヤクザ二人に発砲する。
銃声と共に、ヤクザ達は銃を放り出し、地面へと倒れて息絶えた。
その後、再びマチウスは去って行った。


 それからしばらく経ったある日、懺悔室にチサト達二人とバルバロッサの姿があった。
「なるほど・・・。そんな理由で・・ヤクザどもにさらわれたと・・?」
「は・・はい・・・」
恐ろしい顔で睨むバルバロッサに、戦々恐々とした様子で、チサトは返事をする。
マチウスの一件で、ラウール共々聞かれているのだ。
既にバレているし、嘘がつけないため、チサトは正直に全てを話したのである。
 「こんバカッ!!何でそんな大事なこと隠しとったんじゃいっ!!」
マチウスをかくまっていたことを、バルバロッサは叱る。
「ご・・ごめんなさい・・!誰にも・・言うなって・・・」
「馬鹿正直に言う通りにする奴があるか!!チサト・・こげん真似して・・覚悟は出来とるやろうな?」
「は・・はい・・」
「だったら・・来いや・・・」
チサトはゆっくりと立ち上がると、おずおずとバルバロッサの方へと向かう。
そして、いつものように、バルバロッサの膝にうつ伏せになる。
バルバロッサは慣れた手つきで、チサトのお尻を出すと、片手で押さえつける。
 「行くで?覚悟はエエな?」
「は・・はい・・・」
恐怖を感じながらも、チサトは頷く。
それを見ると、バロバロッサは思い切り手を振りかぶった。


 バッシィィィ~~~ンンンッッッ!!
「い・・いたぁぁぁ・・!!」
最初から容赦ない平手打ちに、チサトは悲鳴を上げる。
 バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!
「いっ!きゃんっ!やあっ!ああんっ!いたぁぁ!!」
強烈な平手打ちに、とても耐えきれず、チサトは悲鳴を上げ、身体を悶えさせる。
そんなチサトの姿を、ラウールは戦々恐々として、見つめていた。
 バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!
「こんバカタレッ!バカタレッ!どないして、見つけた時に、せめてワシにくらいは言わんかったんやっ!!」
バルバロッサは怒りを込めて、お尻を叩く。
バルバロッサもかつて、裏社会の人間だったため、その恐ろしさをよく知っている。
 バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!
「ご・・ごめんなさいっ!だ・・誰にも・・言わないでくれって・・ひいんっ!!」
「馬鹿正直に守る奴があるかいっ!?下手すれば、殺されとったんやぞ!?」
「ご・・ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」
チサトは必死に謝るが、バルバロッサが許すはずもない。
 「謝るんは当たり前や!二度とせえへんように・・骨身に沁みさせたるっ!!」
バルバロッサはそう言うと、叩き方を変える。
バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!
「きゃああああ!!ごめんなさいっ!!ごめんなさいっ!!いやっ!きゃああああ!!ごめんなさぁいっ!ごめんなさぁぁいい!!」
その後、ラウールが顔面蒼白で見つめる中、チサトの悲鳴が響き続けた。


 「ごめん・・なさい・・ごめんな・・さい・・」
涙目になりながら、チサトは必死に謝る。
お尻は熱した石炭のように赤く、且つ熱くなっていた。
 「反省したんか?」
「し・・しました・・。大事なこと・・隠して・・危ない目に遭って・・心配かけて・・ごめん・・なさい・・・」
「わかっとるようやな・・・」
バルバロッサはチサトを起こすと、膝の上で抱きしめる。
 「チサト・・。人助けや・・その優しさはエエ・・。だがな・・・。そのために、危ない目に遭うこともあんのや・・・。下手をすれば・・ホンマに殺されとったんや・・。せめてのう・・そこのバカ以外には、ワシは言うとくれ。お前さんに何かあったら・・ワシはホンマに悲しいのや・・・」
「ごめんなさい・・・。心配かけて・・・」
「いいのや。チサト、お前さんは医務室行って、手当てしてもらえ。ワシは今度はヤツに用があるけぇのう」
ラウールを指差しながら、バルバロッサは言う。
チサトはお尻をしまうと、痛みを堪えながら、懺悔室を後にする。
 「さてと・・・・・」
バルバロッサは、今度はラウールと向き合う。
「ご・・ごめんなさい・・。僕・・急にお腹の調子が・・」
そう言って出て行こうとするが、バルバロッサが逃がすはずもない。
 「待てや。お前さんの腹痛はケツを叩けば治るで」
「い・・いやあああ~~~っっ!!」
逃げる間もなく、ラウールはバルバロッサの膝に乗せられ、お尻を出されてしまう。
直後、バルバロッサの手が、今度はラウールのお尻に叩きつけられた。
 バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!
「こんバカタレッ!チサトはともかく・・お前までどうして大事なこと、黙っとったんじゃいっっ!!」
チサトに対する時以上の怒りを込めながら、バルバロッサはお尻を叩く。
 バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!
「ひいいっ!チサちゃんに・・どうしてもって・・頼まれたんですってばーー!!」
「ダ阿呆ッッ!!理由になるかっ!!話聞けば、ヤバイことに巻き込まれそうなのは、わかりそうなもんだろうがっっ!!」
弁解するラウールに、バルバロッサはさらに怒りを燃え上がらせる。
命にかかわる事態になるかもしれなかったのだ。
きちんと、上に報告をしてもらわなければ困るのである。
 バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!バシーンッ!
「ひいいっ!だ・・だって・・言えば・・バルバロッサさん・・怒るかも・・しれなかったし・・・・」
「隠しといて、こんな騒ぎになった方が、もっと怒るだろうが!?ワレ・・実家のお袋さんも話聞いて、たまげたのやぞ!?」
「え!?か、母さんが!?」
バルバロッサの話に、ラウールは驚く。
普段はいい加減なラウールだが、実家の母への愛は人一倍。
それだけに、驚かずにはいられなかった。
 「そうや・・。お前さんがヤクザ連中の撃ち合いに飛び込んでったと聞いてな・・・エライ心配しとったんや・・。怪我はありませんか?とかな」
「そ・・そうだったんだ・・・」
さすがのラウールも母を心配させてしまったことに、罪悪感を覚える。
 「さすがに少しは悪いと思ったか?なら・・・行くで・・」
「ちょ、ちょっと待・・・!!」
慌てるラウールだが、それより先に、バルバロッサの平手が降り注ぐ。
 バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!
「ひいいいいーーーーーっっ!!や、やめてぇぇぇぇええ!!!」
集中豪雨のような平手打ちに、ラウールは絶叫する。
 バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!バンバンバンッ!
「実家のお袋さんにまで心配かけおって!死ぬほど反省しいや!!」
「いやあああああああ!!ごめんなさぁぁぁいイイ!!!許してぇぇぇぇえ!!」
その後、チサトより長い間、ラウールの悲鳴が響き続けた。


 「うう・・冷やしてるのに・・お尻・・熱いよぉぉ・・・」
「ラウールさん、大丈夫ですか?」
お尻の熱さを嘆くラウールに、チサトは心配そうに尋ねる。
二人とも、真っ赤なお尻をタオルで冷やしながら、医務室のベッドにうつ伏せになっていた。
 「な・・何とか・・」
「ごめんなさい・・。僕のせいで・・・」
「いいんだよ。僕とチサちゃんの仲だし。いつもは僕のせいでお仕置きされてるから、コレでおあいこだよ」
申し訳なさそうに言うチサトに、ラウールは笑顔で答える。
そんなラウールの姿に、チサトは少し表情が和らいだ。


 後日・・・。
パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!
「うわあ~んっ!母さんっ!ごめんなさーいっ!!」
お尻を叩く音と共に、ラウールの悲鳴が響く。
 パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!
「なりません!ラウール、私が連絡を受けて、どれだけ心配したと思っているのです!?」
膝の上の息子のお尻を叩きながら、クラリスはお説教をする。
先日の一件で修道院から報告を受け、そのことで息子を叱りに来たのである。
 パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!パアーンッ!
「ごめんなさーいっ!反省・・してる・・から・・・!!」
「当然です!二度と心配かけるようなことをしないよう、きつく叱ってあげます!!」
クラリスはそう言うと、息子のお尻を叩き続ける。
ようやく許された時には、バルバロッサのとき以上に、お尻が赤く、熱くなっていたらしい・・・・。

 ―完―
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ダンジュー修道院39 探検の代償(微バイオレンス要素あり)



(『修道騎士マクシミリアン』とリンクしています。バイオレンス要素もありです。その点をご了承の上でお読み下さい)


 「ラウールさん、どこに行ったんですかー?」
籠や草刈り鎌などの山菜取り用の道具を提げたまま、チサトは森の中を歩いていた。
持っている道具から想像出来るようにラウール達と一緒に森へ山菜とりに来ている。
だが、ラウールの姿が見えなくなったので、探しているのである。
 「あっ、チサちゃん、こっちこっち~」
不意にラウールの声が聞こえ、チサトは声のした方へ向かう。
「もう!どこに行ってたんですか~!!」
「ごめんごめん。ちょっと面白そうなもの見つけちゃってさ~」
ラウールは謝りながら、背後にあるものを指差す。
指差した方向には、洞窟がある。
鉄格子で塞がれていたようだが、長年風雨にさらされていたからか、すっかり錆ついて腐食しており、人が通ることが可能な状態になっていた。
 「洞窟・・ですか?」
「うん。たまたま見つけてさ~。ねぇ、入ってみない~?」
「だ、ダメですよ!勝手なことしたら!?それに・・看板があるじゃないですか!?」
チサトは慌てて止める。
目の前の洞窟には、汚れていて見えにくいが『危険 立ち入り禁止』と書かれた看板がしっかりと脇に立っていた。
 「何言ってるの!だから面白そうなんじゃないか~!入らなきゃ損だよ!!」
「だ、ダメです~~!!」
入ろうとするラウールを、チサトは背後から抱き止めにかかる。
 「コラッ!山菜取りもせえへんで何しとんのや!?」
不意に聞こえた声に二人は思わず硬直して振り向く。
するといつの間にかバルバロッサが立っていた。
 「あ、バルバロッサさん・・・・」
「あ、じゃないやろ!勝手に離れおってからに!危ないから勝手に離れるな言うたんを忘れたんか!?」
「「ご・・ごめんなさい」」
二人は慌てて謝る。
 「ん?コイツは・・・・」
「あれ?知ってるんですか?」
洞窟を見て怪訝な表情を浮かべたバルバロッサに、二人は思わず尋ねる。
 「いや、わしもようは知らんが、岩塩の採掘か何かをやっとったらしい。だが、随分前に落盤事故が起きたりしたんで、廃坑・閉鎖になったはずや」
「ふ~ん、そうだったんだ~」
「おぃ、まさか入ろうとか思っとんやないやろうな?」
洞窟に向けるラウールの視線に、思わずバルバロッサは問いかける。
 「え?そ、そんなワケないですよ!?」
バルバロッサの問いに思わずラウールはそう返す。
「ホンマか?」
だが、バルバロッサは疑わしげに尋ねる。
「ほ、本当ですよ!?そんなこと考えてませんよ!」
「ならええ。じゃがな・・ここは随分放っとかれとるし・・・落盤なんかも起きたらしいからな。危険やから絶対に入るんやないぞ。ええか?」
「わ、わかってますよ!」
「だったらええ・・。行くぞ。いつまでも油売っとるわけにもいかんからな」
そういうとバルバロッサは歩き出す。
慌てて二人も後を追うようにしてその場を離れた。


 数日後・・・。
「ほ・・・本当にやるんですか?や・・やめた方が・・・」
チサトは先日見つけた洞窟の入り口を見やると、恐る恐るラウールに言う。
 「当たり前じゃない~。何のためにわざわざ外での作業を買って出たと思ってるのさ~」
ラウールはそんなことを言う。
いつもだったら体力的にキツい外での労働など上手くサボることを考えるラウールだったが、今日は珍しく自分から買って出たのだ。
だが、それは外に出るための理由が欲しかったため。
うまく理由をつけて外に出たら、例の洞窟を探検してやろう。
そう考えていたのである。
ちなみに、チサトは最初この計画を打ち明けられた際、さすがにマズイと反対したのだが、人がよいゆえに押し切られ、断りきれずに一緒についてきたのである。
 「せっかくここまで来たんだからやらなきゃ損だよ!チサちゃんが嫌っていうなら帰ってもいいよ。僕一人で行くから」
「そ・・そんなわけにはいきません!ら、ラウールさんを放ってだなんて!!」
チサトは思わず叫ぶ。
 確かにここで帰って誰かに知らせる方が本当はいいだろう。
だが、それはラウールを見捨てることになる。
それはしたくなかった。
 一緒に入れば同罪、バレれば自分もお仕置きされるだろう。
それでも、友人を見捨てて自分だけ逃げるようなことはしたくなかった。
「それじゃあ決まりだね。さ、行こう」
「わかりました。そうまで・・言うなら・・・」
ため息をつきつつ、チサトは嬉しそうな顔を浮かべるラウールについて、洞窟へと足を踏み入れた。


 「う・・うわあっっ!!」
「わっ!だ、大丈夫!?」
何かに躓いて転びそうになったチサトを、慌ててラウールが背後から首根っこを掴んで止める。
 「す、すみません、ラウールさん」
「もう~。気をつけなきゃダメじゃないか~」
「ご、ごめんなさい」
ラウールの言葉にすっかりチサトは恐縮してしまう。
懐中電灯であたりを照らしながら、二人は奥へと進んでゆく。
「何か・・・不気味ですね・・・」
洞内を見回しながら、チサトは呟く。
元々は坑道だったからか、洞窟にはトロッコ用の線路が敷かれ、天井には電灯がぶら下がっている。
だが、それらはいずれも長い間放っておかれたため、すっかりボロボロになっている。
それが何とも不気味さや気味悪さを醸し出し、お化け屋敷のような雰囲気を纏っていた。
 「そう?でもそういうところがさぁ、かえって雰囲気が出て面白いじゃない。全然怖くなさそうなところなんか探検したってつまらないじゃない」
ラウールは楽しそうな表情でそんなことを言いやる。
「そ・・そういうもの・・ですか?」
「そうだよ~。何か出てこないかな~」
ラウールがそんなことを言ったときだった。
 不意に何やら機械音のようなものが聞こえてきた。
「何だろ?」
思わずラウールは怪訝な表情を浮かべる。
「機械を・・・誰かが動かしてるんでしょうか?」
「廃坑に響く怪しい機械音・・・イイよ!よしっ!確かめてやろっ!」
「あっ!待って下さい~~!!」
走りだしたラウールを、チサトは慌てて追いかけた。
 機械音を追ううちに、二人はやがて部屋のようになっている場所にたどり着く。
そこでは、自家発電装置が設置され、大きな印刷機械らしきものを動かしている。
「何でしょう?これ?」
チサトは怪訝な表情を浮かべて機械を見つめる。
「あっ!コレ見てよ!」
「何ですか?」
ラウールが引っ張り出したものを見てみると、紙の一面に紙幣が印刷されている。
 「お札・・ですか?でも・・何で?」
チサトは怪訝な表情を浮かべる。
紙幣は国の然るべき施設で印刷されるもの。
それが何故こんなところで?
疑問に思うのも当然である。
 「きっと偽札だよ!じゃなきゃあこんなところで造らないよ!」
「ラウールさんっ!警察に知らせないと!?」
事態を知るや、チサトは思わず叫ぶ。
「そうだね。これ以上は僕らじゃ無理だし」
「それなら早・・うわっ!」
「チサちゃんっ!ぎゃんっ!」
二人ともほぼ同時に頭に鈍い痛みを感じたかと思うと、そのまま気を失い、崩れ落ちた。


 しばらくして目を覚ました二人は、ロープでしっかりと縛り上げられ、猿轡を噛まされて転がされていることに気づいた。
「んんんーっ!(チサちゃんっ!)」
「うんんんーーっっ!(ラウールさんーっ!)」
二人はくぐもった声で呼びかけながら互いににじり寄ろうとする。
そこへ、慌ただしい足音が幾つも重なって近づいてきた。
 現れたのは中東或いは北アフリカ系と思われる男達。
中には銃を手にしている者もいる。
リーダーらしい男は、ジロリとチサト達を見やると、仲間達とヒソヒソ話を始める。
言葉はわからないが、その様子から二人にとってははなはだ都合の悪い事態だと容易に想像出来る。
やがて、リーダーの指図と共に、二人が足を踏み出したかと思うと、こちらへ銃口を向けたから、確信に変わった。
 銃口を向けられ、二人の顔から血の気が一気に引いてゆく。
思わず、二人とも死を覚悟したときだった。
 突然、悲鳴と銃声らしい音が聞こえてきた。
思わず、男達の表情が緊張に包まれる。
同時に、チサト達に銃を向けている二人を除く全員が、出入り口の方を振り向き、銃を構えた。
 転がされ、銃を向けられたままの状態でチサトとラウールもジッと出入り口の方を見つめる。
緊迫した空気があたりを支配し、二人とも胃が痛くなってくる。
男達とチサト達が顔や手に汗をジワリと滲ませ、目を皿にして出入り口を見つめる中、何かが飛びこんで来た。
同時に乾いた音が幾重にも響きわたり、銃口が火を吹く。
 悲鳴が上がり、声の主の身体がダンスでも踊っているかのように打ち震え、体中に赤い花が咲く。
何かに気づいたのか、一人が叫び、仲間達を止める。
銃声が止まり、硝煙の煙が晴れると、男達はジッと自分達が撃った相手を見つめる。
同時に、彼らにハッとした表情が広がった。
 撃たれたのは、彼らと同じ肌や顔立ちをした男。
見張りに残した仲間の一人だった。
仲間を撃ってしまったことに、一瞬動揺が生じる。
 その隙を突くように、黒い影がゆっくりと入って来た。
現れたのは長く美しい金髪に女性と見まがうばかりの美しい容貌の青年。
神父服と戦闘服を合わせたような服装に、短めのがっしりした剣を手にしている。
 「貴様は・・・!」
男達は現れた青年の姿を見るや、ハッとする。
「見つけたぜ・・・!!」
マクシミリアンは男達の姿を見ると、怒りに目を燃え上がらせる。
 しばらく前、マクシミリアンは中東のある国の教会の警護をしていた。
そのとき、教会をテロリストが襲撃した。
無事撃退したが、襲った者達への怒りは醒めやらず、フランスの方で襲撃者一味のメンバーが何かをやらかしているということを聞き、ドイツの本部から勝手に追いかけてきたのである。
 「また・・邪魔をしおって・・・!!」
リーダーの男もマクシミリアンに負けず怒りに顔を歪める。
彼のせいで教会を襲撃するどころか、散々の体たらくで撤退せざるを得なかった。
思い出すたびに今でも腸が煮えくりかえる。
 「よくも教会を襲ってくれやがったな!?後悔させてやるぜ!!」
「それはこっちの台詞だ!皆の者!こいつを蜂の巣にしてやれっっ!!」
リーダーの命令と共に、再び銃口が一斉に火を噴いた。
だが、マクシミリアンは横に飛んでかわす。
「食らいやがれっっ!!」
叫ぶと同時に、マクシミリアンは男達目がけて剣を振り下ろす。
直後、鈍い音と共にテロリストの一人が吹っ飛んだ。
その胸には、まるで豪速球の野球ボールを叩きつけたかのような跡がついていた。
「らあああっっっ!!!」
さらに二度、三度マクシミリアンは剣を振り下ろす。
そのたびに、鈍い音と共に、数メートルも離れているはずなのに肋骨が折れそうなほどの衝撃が襲いかかり、男達は吹っ飛んだり、のけ反って倒れる。
「ケッ!たわいもねぇ!」
吹っ飛ばされた男達に、マクシミリアンは吐き捨てるように言う。
マクシミリアンが使ったのは修道会に伝わる剣技の一つ『主の息吹』。
超人的な速度と勢いで剣を振るい、衝撃波を発生させて離れた敵を攻撃する、いわゆる飛び道具系の技だ。
修道会には、このような都市伝説のレベルにでも達しそうな技を操る戦闘術が古くより伝わっている。
マクシミリアンはその術を習得した者の一人だった。
 「何をしている!撃て撃て!!」
リーダーの命令で残る部下達が発砲する。
だが、マクシミリアンはそれをかわしたかと思うと、地面を蹴って飛び上がる。
テロリストたちの中に飛び込んだかと思うと、剣を振るい、あっという間に手下達をなぎ倒す。
 「おのれ・・!!」
テロリスト一味のリーダーはピストルを構えて発砲する。
マクシミリアンは銃弾を難なく見きってかわしたかと思うと、一瞬で間合いを詰める。
すぐに再度発砲しようとするも、それより早く、マクシミリアンの剣が突き出された。 
 「ぐぅぅぅ!!!」
腹を刺すと同時に、マクシミリアンはそのままヒョイッと放り投げる。
テロリストの身体が宙を舞ったかと思うと、チサト達の前に落下した。
 「ぎ・・!ひ・・!ぎっひ・・!!」
腹から血を流し、男は苦痛に顔を歪める。
そんな男を睨みつけながら、マクシミリアンはゆっくりと近づいてゆく。
その目は炎のように燃え盛っており、止めを刺そうというのは明らかだった。
 (大変・・・!!このままじゃ・・!!)
チサトは二人の姿に焦燥感に駆られる。
剣を手にした若者が、男を殺そうとしているのは明らかだった。
そんなことをさせてはいけない。
 殺されようとしているのは、犯罪者で自分達を殺そうともした男。
そのことは許せるわけではない。
だが、犯罪者だからといって殺していいわけではないし、問答無用で殺されてよいわけでもない。
縛られたままにも関わらず、チサトは何とか起き上がる。
 「ん・・?んんーーっっ!!(うわっ!やめなよっ!危ないってばー!!)」
くぐもった声でラウールが言う間もなく、チサトは走り出していた。


 怒りに燃えるマクシミリアンが男を追いつめ、止めを刺さんと剣を振り上げたそのときだった。
「んんーっ!んんんーーーっっ!!(ダメっ!ダメですーーー!!!)」
縛られ、猿轡を噛まされたまま、チサトは男の前に立ちはだかる。
 「んだテメェ!?どきやがれ!!」
止めを刺そうとしたところを邪魔され、マクシミリアンはカッとなって叫ぶ。
だが、チサトは首を左右に振って拒否する。
「だったらテメェも叩っ斬ってやる!!」
カッとなったマクシミリアンは邪魔なチサトを斬らんと剣を振り上げる。
チサトは思わず目をつぶる。
ラウールもチサトが斬られる、と思ったそのときだった。
 突然どこからともなくタマゴのようなものが飛び出したかと思うと、それがもろにマクシミリアンの顔面に命中する。
命中と同時に割れたかと思うと、中身の粉末が飛び散った。
 「ぐわぁぁぁぁぁ!!!!カユイぃぃぃぃぃぃ!!!!」
マクシミリアンは思わず叫ぶ。
粉末が付着するや、全身を凄まじい痒みが襲う。
耐えがたい痒さにマクシミリアンは全身を掻き始める。
 その隙をつくようにして、騎士修道会の隊服を纏った男達数人が取り囲む。
マクシミリアンがハッとしたときには既に遅く、彼らに制圧され、暴れられないように拘束されてしまっていた。
「畜生おおおっっっ!!!離しやがれーーーっっっっ!!!!」
叫ぶマクシミリアンを、男達はそのまま担ぎあげて外へ連れ出した。
 一連の事態をラウールもチサトもボーッとしたように眺めていると、縄や猿轡が解かれるのを感じる。
「大丈夫か?」
不意に声をかけられ、思わず振り返ると、マクシミリアンと同じような格好をした青年が二人の縄を解いていた。
 「あ、ありがとうございます。ええと・・あなたは?」
「俺はルートヴィヒ、ドイツのある修道会に所属している。うちの若い者が迷惑をかけてすまない」
「い・・いえ・・・」
「もう警察には連絡をしてある。おっつけ来るだろう。俺達はあいつを連れ帰らないといけないから、これで失礼する」
そういうと、ルートヴィヒは拘束されたマクシミリアンを連れ、部下達と共にその場を後にする。
しばらくすると警官達が踏み込み、倒れているテロリスト達を確保し、チサト達を保護した。


 懺悔室の冷たい石床の上で、いつものように二人は正座していた。
二人とも落ちつかない様子で、何度もドアの方を振り返る。
あの後、警察から連絡を受け、引き取りに来たバルバロッサと共に帰って来るなり、いつものように懺悔室で待っていろと言われ、こうしているのである。
「うぅ・・・。もうダメッッ!!無理っっ!!」
「あっ!どこに行くんですか!?ダメですよ!!」
立ちあがるなり部屋を飛び出そうとしたラウールに、チサトは思わず止めに入る。
 「チサちゃん!今のうちに逃げようよ!このままいたら絶対にお尻叩かれちゃうよ!!」
「そんなことしたらもっとひどいことになりますってば!素直にここにいましょう!」
「そうしたら確実にお尻叩かれるじゃないか~~!!」
「それは・・・仕方・・ないですよ・・・」
歯切れの悪い声でチサトがそう言ったときだった。
 「何を騒いどんのや?」
ドアが開き、バルバロッサが入って来た。
バルバロッサの姿に、再び二人は正座する。
 「さてと・・・お前ら・・・。何でここにおるんか・・わかっとんな?」
バルバロッサは不良やチンピラですら震えあがりそうな目で二人を睨みながら尋ねる。
「は・・はぃ・・・」
恐怖を堪えてチサトは答える。
 「なら・・チサト・・お前さんからや。ええな?」
バルバロッサはチサトの方を向くと、膝を軽く叩きながら言う。
お仕置きの合図に、一瞬チサトは表情を強張らせるも、素直にバルバロッサの傍らへ行く。
だが、脇に立ったかと思うと、ジッと膝を見つめる。
 膝に乗らなくてはいけない。
頭ではそう思っていても、やはりいざとなると躊躇ってしまう。
だが、それをバルバロッサが許すはずもない。
 「何マゴマゴしとんや?さっさとせんかい」
静かな、だが有無を言わせぬ口調でバルバロッサが言う。
慌てたようにチサトがすぐに膝に飛び乗ると、バルバロッサは慣れた手つきで上着を捲り上げ、ズボンを降ろしてお尻をあらわにする。
 お尻が外気に触れるや、チサトは思わず身を固くする。
同時にバルバロッサが左手でチサトの身体をしっかりと押さえつけた。
「行くで。ええな?」
バルバロッサの問いに、チサトは黙って頷く。
おずおずとラウールが見守るのを尻目に、バルバロッサのいかつい右手が振り上げられた。


 バアッシィィィ~~~~ンッッッッッ!!!
「ひゃああんんっっ!!」
いきなり最初から容赦ない打撃がお尻に叩きつけられた。
思わず背をのけ反らせ、悲鳴が上がる。
お尻に赤い手形が浮かび上がる間もなく、続きの平手が振り下ろされる。
 ビッダァァァ~~~~~~ンッッッッッ!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~!!!!
「きゃああああ!!痛っ!痛ぁぁぁ!!ひぃぃぃんんっっっ!!」
初っ端からの激しい平手打ちの嵐に、耐えきれるわけも無くチサトは両脚をバタつかせて悲鳴を上げる。
 「こんの・・!バカタレがっっっ!!!」
バアッジィィィ~~~~~ンッッッッッ!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~ッッッッッ!!!!!
バルバロッサは最初から怒りを燃え上がらせ、チサトの小ぶりなお尻に大きな平手の豪雨を降らせる。
お尻はあっという間に全体が満遍なく赤く染まってゆき、両脚のバタつきもより激しくなる。
 「ああいうとこは危ないと言うたろうが!!絶対に入るなと言うたやろ!!」
バシバシと容赦なく平手の嵐を降らせながら、バルバロッサはお説教を始める。
「きゃあんっ!ひぃんっ!ひゃあんっ!痛っ!痛ぁぁぁ!!ひぃぃぃんっっ!!」
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~ッッッッ!!!
チサトの悲鳴と激しくお尻を叩く音が入り混じって響きわたる。
 「それなのに・・言う通りにせんで入りおって!!ホンマに何しとんのや!!」
「ご・・ごめ・・ひゃあっ!ごめん・・なさい・・ごめん・・なさい・・」
チサトは必死に謝る。
だが、バルバロッサが簡単に許すはずもない。
 「アホウッッ!!ごめんなさいは当たり前やろうが!言いつけ破ってどうなったと思うとるんや!テロリストにとっ捕まったんやぞ!!」
ビッダァァァ~~~ンッッッッ!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~ッッッッ!!!
 「運よく助かったがなぁ・・・下手をすりゃあ死んどったんや!!わかっとんのかぁぁぁぁぁ!!」
既に真っ赤になっているお尻を容赦なく叩きながら、バルバロッサは叫ぶように言う。
「ご・・ごめんなさいっ!ごめんなさぁいっ!」
「馬鹿野郎!今日はちぃとやそっとじゃ許さねえ!どんなに泣いても謝っても百叩きはすっからな!!」
その宣告と同時に、バルバロッサはさらに平手の勢いを強める。
その後、長い間、激しい平手打ちの音とチサトの悲鳴が懺悔室に響きわたった。


 「ご・・ごめん・・なさい・・ごめん・・なさい・・ごめんなさい・・・」
チサトは必死になって謝り続ける。
既にお尻はワインレッドを超えた色に染め上がり、触ると火傷するのではと思うくらいに熱を帯びている。
 「反省したんか?」
お尻を叩く手を止め、声の調子を少し優しいものに変えて尋ねる。
「ひぃん・・・し・・して・・ます・・。言いつけ・・破って・・迷惑・・かけて・・心配・・させて・・ごめん・・なさい・・」
苦しげな息を吐きながら、チサトは必死に謝る。
 「わかっとるようやな。ならええ」
そういうと、バルバロッサはチサトを抱き起こし、膝の上に座らせて抱きしめる。
「バルバ・・ロッサ・・さん・・?」
チサトは心なしかバルバロッサが震えていることに気づく。
 「よかった・・・。ホンマに・・無事で・・・・」
「ごめんなさい・・・。心配させて・・・・・」
微かに震えるバルバロッサに、チサトは思わず罪悪感が沸いてくる。
「もう・・二度と・・せえへんな?」
「はい・・。もう・・しません・・・」
「それでええ。医務室に連れてってやるさかいな」
バルバロッサはそういうと、チサトを抱えあげる。
ドアの外では別の修道士が待っており、チサトを医務室へと連れていった。
 「さてと・・・おい、覚悟はええな?」
バルバロッサは今度はラウールにそう問いかける。
「いいわけないじゃないですか!!」
そう叫んで逃げようとするが、あっという間に捕まってしまう。
 「うわああっ!!離して~~~!!!」
必死に抵抗するラウールだったが、それも空しく拘束台の方まで引きずるように連れて行かれると、お尻を突き出した体勢で拘束されてしまう。
 お尻をむき出しにして準備を整えると、バルバロッサは鞭を手にする。
「ま・・まさか・・・」
鞭にラウールは顔から血の気が引いてゆく。
「コイツでたっぷり仕置きしてやる。覚悟しいや」
「い・・いやぁぁぁ~~~!!やめて~~~!!」
叫ぶラウールだったが、聞き入れられるわけもない。
鞭が振り上げられたかと思うと、女性さながらに白っぽくて綺麗なお尻めがけて振り下ろされた。
 バアッシィィィィ~~~~~ンッッッッ!!!
「ひぃぃぃぃっっっっ!!!」
鞭の鋭い痛みに、ラウールは背をのけ反らせて絶叫する。
 ビシィ!ビシッ!シュンッ!ビシッ!ビシッ!
「ひっ!ひいっ!痛っ!痛ぁぁっ!ひっ!ひぃぃぃ!!」
一打ごとにラウールは叫び、背をのけ反らせる。
思わずお尻を庇おうとするが、拘束されていて、それも叶わない。
 「こんアホンダラッッ!!なして言いつけ破りおったんじゃああ!!」
ラウールのお尻に容赦なく蚯蚓腫れを刻みつけながら、バルバロッサは叫ぶように言う。
 「ひぃん・・!だってぇぇ・・。面白・・そうだった・・からぁ・・ひぃんっ!」
叩かれるたびに痛みでラウールはお尻をクネクネさせる。
「ダアホ!理由になるかっ!しかも・・・テメェ一人だけやのうて・・・チサトまで共犯にしおって!!」
ビシャーーーーーンンン!!
バシィーーーーーンンン!!
ビダァァーーーーンンン!!
バアジィィーーーンンン!!
 「ひ・・一人じゃ・・つまらないじゃ・・ないですかぁぁ・・ひぎゃああ~~んっっ!!」
目尻に涙を浮かべて弁解するラウールに、さらに容赦ない鞭が振り下ろされる。
「馬鹿野郎!テメェの面白半分に他人まで巻き込むんやないっ!テメェどころかチサトまで巻き添え食わせて殺されるところだったんやぞ!!」
バアジィィーーーーンンンッッッ!!!
ビダァァァーーーーンンンッッッ!!!
ビバジィィーーーーンンンッッッ!!!
本当に危険な事態だったため、バルバロッサの怒りも凄まじい。
お尻はどんどん蚯蚓腫れが刻みつけられてゆく。
 「ひぃぃぃんんんっっ!!ちょっとした出来心だったんですってば~~~!!!だから許して下さいよ~~~!!!」
「馬鹿野郎!この程度で許すか!一週間は椅子に座れなくしてやる!いや!歩くのすらキツくなるから覚悟しやがれ!!」
「そ・・そんなぁぁ~~~~っっっ!!!許してぇぇ~~~~!!!」
泣き叫ぶラウールだったが、容赦なく鞭が振り下ろされる。
鋭い鞭の音とラウールの悲鳴が懺悔室に長い間響きわたった。


 「ぐぅぅぅぅ・・・!!」
「大丈夫・・ですか?あぅぅ・・・!!」
チサトは隣のベッドのラウールに呼びかけるが、自分も痛みに顔を顰める。
二人とも医務室のベッドにうつ伏せになり、お尻に氷袋を載せていた。
 「だ・・大丈夫・・。結構・・痛いけど・・。チサちゃんは?」
「ぼ・・僕も・・・何とか・・・」
「なら・・よかった・・。それよりごめんね。また僕のせいで一緒にお尻叩かれるような目に遭わせちゃって」
「いいんですよ、これくらい。でも・・もうダメですよ?」
「う・・うん・・・。でも・・ちょっと・・名残惜しいなぁ・・・」
まだ全部は探検していないからか、ラウールは未練がましい表情を浮かべる。
 「ダメですよ!またやったら今度こそお尻が壊れちゃいますよ!!」
「そ・・そうだね。お尻の・・方が・・大事だもんね・・・」
そうは言いつつも、ラウールはまだ未練たらたらな表情を浮かべる。
そんなラウールに、チサトは苦笑するしかなかった。


 同じ頃・・・・市内の宿屋。
「だああっ!やめろっ!やめろっつってんだろーがぁぁぁ!!!」
お尻を叩く音が響く中、マクシミリアンが噛みつかんばかりの勢いで叫ぶ。
むき出しにされたお尻は既に赤く染め上がっている。
 「・・ったく・・やめろじゃなくて、もっと他に言うことがあるだろう?」
ルートヴィヒはそう言いながら、膝の上に載せたマクシミリアンのお尻を叩く。
「うるせぇぇぇ!!!何だってケツなんか叩かれなきゃいけねーんだよっ!!離しやがれぇぇぇぇぇ!!!」
だが、マクシミリアンは謝るどころか、さらに反抗的になる。
 「本気で言ってるのか?」
お尻を叩きながら、ルートヴィヒはそう尋ねる。
「そもそもあいつらが悪いんだよ!教会を襲いやがったんだからよ!あいつらがそんなことしなきゃ俺だって締めてやろうなんて思わなかったんだ!俺は悪くねぇ!!」
マクシミリアンは心底から言う。
「やれやれ・・・。全然反省してないなぁ・・・・」
ルートヴィヒはため息をつく。
教会を守るのが任務である以上、教会を襲った者達への怒りを抱いたりするのは仕方ないかもしれない。
だからといって、仕返しをしてよいわけではない。
しかも、ただ仕返しをしようとしただけでなく、相手を殺そうとした上、止めに入った地元の修道士まで斬ろうとした。
これは絶対に許すわけにはいかない。
 バアッジィィィ~~~~ンッッッ!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~ッッッッ!!!!
「だぁぁぁ!!何すんだっ!やめろっ!離しやがれーーーー!!!!」
さらに厳しくなったお仕置きにマクシミリアンは叫ぶ。
だが、ルートヴィヒはそれに構わず、お尻を叩き続ける。
その後、長い長い間、マクシミリアンの暴言と悲鳴と、お尻を叩く音が宿屋の部屋に響きわたった。


 ―完―

ダンジュー修道院38 風邪と雪遊び



 「ケホ・・・ケホケホ・・」
「どうしたの、チサちゃん?大丈夫?」
チサトと共に礼拝堂の掃除をしていたラウールは、隣でチサトが咳き込むと思わず声をかける。
 「いえ・・・これくらい・・何でもないです・・」
「そう?何か顔赤いみたいだけど?」
赤く上気した頬や潤んだ目にラウールは心配そうな表情になる。
「これくらい・・。平気です・・。それより・・早く掃除しないと・・怒られ・・ちゃいます・・よ・・」
「そ、そうだね。マゴマゴしてたらまたお尻叩かれちゃうし!」
チサトの言葉にラウールも慌て、普段の様子からは想像できないほど熱心に礼拝堂を掃除する。
最近また懲りずに修道院を抜け出しては夜遊びをしていたこと、それを止めにチサトも夜中抜け出していたことなどがバレてしまい、バルバロッサに怒られた上、二人だけで礼拝堂の罰掃除も言い渡されてしまった。
それなので、ちゃんとやっていないと思われると、またお尻を叩かれてしまいかねない。
 「う・・うぅ・・あぅぅ・・・」
チサトは長椅子を拭いていたが、だんだん表情が苦しそうなものになっていくと、やがて床に崩れ落ちて膝をついてしまう。
「チサちゃん!!」
思わずラウールもモップを手離し、チサトに駆け寄った。
 「どうや?ちゃんとやっと・・どうしたんや?」
二人の様子を見に来たバルバロッサは長椅子に辛うじて身体を支えているような体勢のチサトに思わず声を上げる。
 「あっ!バルバロッサさん!何か・・チサちゃんの様子が・・」
「何?」
バルバロッサは急いでチサトのもとに駆けつける。
苦しげな息づかい、上気した頬や額にすぐ体調が悪いことに気づく。
すぐにバルバロッサはチサトを抱きかかえると、急いで医務室へ向かった。
 「あ・・あれ・・?」
目を覚ますと、チサトはいつの間にか医務室にいることに気がついた。
「おぅ、目が覚めたんやな」
「あ・・。バルバロッサさん・・ケホ・・・」
バルバロッサに気づいて声をかけようとするが、言いかけて咳き込んでしまう。
 「こら。あまり無理するんやない。調子が悪いんやからな」
「す・・すみません・・コホ・・コホ・・・」
「ここんところ寒かったし、ラウールの野郎を追っかけて何度も夜中に出たりしとったからな。それで体調を崩してしもたんやろ」
「ご・・ごめんなさい・・。迷惑・・かけて・・」
「そんなこと気にするんやない。今はしっかり休んで早く治すことや。皆も心配しとるからな」
「は・・はぃ・・・」
「もう休みや。傍におるから、何かあったら声かけや」
「は・・はい・・。それじゃあ・・お言葉に甘えて・・」
そういうと、チサトは再び目を閉じた。


 その二、三日後・・・。
「うわぁ・・・。真っ白ですねぇ」
一面の銀世界に、チサトは思わず感嘆の声を漏らす。
前日の夜中から雪が降り、修道院全体を見事なまでに白く染め上げていた。
 「チサトー、いつまで外に出とるんや?」
外に出て雪に覆われた庭を見ているチサトに、思わずバルバロッサが声をかける。
「す、すみません。綺麗な雪景色だったからつい・・・」
「あんまり外に出とるとぶり返してしまうで。まだ本調子やないんやからな」
「す、すみません」
チサトは謝ると、慌てて建物の中へと入っていった。
 「ふぅぅ・・・綺麗だけど・・やっぱり・・寒いなぁ・・・・」
寒さで白くなった息を吐き、目の前に広がる雪を見つめながら、チサトは思わず呟いた。
見た目には美しい雪景色だが、どんなに美しくても雪は雪。
寒くてたまらない。
 しかし、そんな寒さをものともせず、マフラーや手袋、手編み帽子などを身に付けた姿で、子供達は元気にはしゃいでいる。
子供達が遊びに来たので、いつものようにチサトが遊び相手をしているのだ。
とはいえ、まだ身体が本調子では無いので、チサトは屋根のあるところで子供達を見守っているだけだったが。
 「ねぇ~、チサトお兄ちゃん~~」
「どうしたの?遊びすぎて疲れちゃった?」
雪の中ではしゃいでいた子供の一人が駆け寄ってきたため、チサトは思わず声をかける。
「ううん、ねぇ、チサトお兄ちゃんも遊んでよ~」
「え?」
子供達のお願いにチサトは困ってしまう。
まだ体調は本調子ではない。
子供達の相手をして、雪の中を走り回るようなことをすればぶり返してしまうだろう。
 「ご・・ごめんね。今日は・・ちょっと・・」
「ええ~。何で~~。遊んでよ~~」
「遊んで~~~」
子供達は不満そうな表情を浮かべてさらにせがむ。
 体調のことがあるから無理はしてはいけない。
そう思いつつも、せがむ子供達を邪険には出来ない。
しばらく悩んだ末に、チサトは言ってしまう。
「そ・・それじゃあ・・ちょっと・・だけね」
「わぁぁ~いっ。やった~」
喜ぶ子供達を尻目にちょっと困った表情になりつつも、チサトは子供達の輪に入って、一緒に遊び始めた。
 「おぃ、何をしとるんや?」
子供達と一緒に雪遊びをしているチサトに気づくと、バルバロッサは声をかける。
「あ、バルバロッサさん。皆の・・遊び相手を・・」
バルバロッサの問いにチサトはちょっと気まずい表情になる。
 「それはわかっとる。チサト・・お前・・自分の身体の事・・わかっとるんか?」
「す・・すみません・・。でも・・・お願いです・・少しだけ・・・。子供達も・・寂しがってますから・・・」
チサトの様子にバルバロッサは少し考え込む。
体調を考えれば子供達と遊ばせるわけにはいかない。
だが、子供達にしてみればチサトと遊べないのは残念だし、本人もそうだろう。
体調が気にかかるが、むげに却下するのも、と思い、渋々しながらもバルバロッサは許可をする。
「しゃあないのう・・。少し・・だけやぞ・・・」
「あ・・ありがとうございます・・」
渋々ながら、許可してくれたバルバロッサに礼を言うと、チサトは再び子供達の輪に戻る。
取りあえず大丈夫そうなのを見届けると、バルバロッサはその場を立ち去った。


 それからしばらく経った頃・・・・。
(元気な・・もんやな・・・)
屋内で作業をしていたバルバロッサは、庭から聞こえてくる子供達の声に感心せずにはいられない。
もう結構時間が経っているのに、声には疲れた様子がみられない。
それどころか、寒い中を平気で走り回りながら、雪合戦を始めているようだった。
どこにそんな体力があるんだ、思わずそう言いたくなりそうになったときだった。
 子供達の声に混じって、チサトの声も聞こえてきた。
どうやら途中で切り上げないで、一緒にまだやっているらしい。
(何や・・まだやっとったのか)
チサトの声にバルバロッサの表情がやや険しくなる。
一旦作業を中断すると、バルバロッサは外へと出ていった。
 再びバルバロッサがやって来ると、子供達に混じってチサトの姿もみられる。
「それっ!!」
「あっ!やったねーっ!」
相手チームの子供が雪玉を投げると、チサトも加減しつつも、雪玉を投げ返す。
子供達と一緒に雪が積もった庭を駆けまわり、雪玉を投げ合っているからか、修道服のあちこちが雪で白くなっており、さらに、よく見ると服がところどころ当たった雪で濡れていた。
 「チサト!いつまで遊んどるんや!!寒いし風邪気味なんやからそろそろやめや!!」
バルバロッサは子供達と一緒に遊んでいるチサトに呼びかける。
だが、一瞬チサトは動きが止まったものの、子供達の輪から抜けることは無く、雪合戦を続けようとする。
さすがにバルバロッサは口だけではダメだと判断したのか、連れ出そうと近づいてゆく。
 不意に相手チームの子供の一人がバルバロッサの方へ向かって走り出した。
それを見たチサトが振り返り、雪玉を投げつける。
だが、雪玉は子供の頭上越しに飛んだかと思うと、そのままもろにバルバロッサの顔へと命中してしまった。
 「あ・・・」
さすがにチサトもまずいといった表情を浮かべる。
しかも、悪いことに味方チーム、相手チームの子供達の投げた雪玉もあちこちから飛来し、バルバロッサの顔や身体にもろに命中してしまった。
 「チサト・・・」
「ご・・ごめんな・・え・・?」
思わず謝ろうとすると、チサトは不意に目まいを覚える。
同時にがくんと身体が傾いだかと思うと、そのまま崩れ落ちてしまった。
 「チサトッ!!」
バルバロッサはすぐにも駆けつけ、抱き起こすと同時にチサトの額に手を当てる。
額はまるで火が燃え盛るかのように、熱かった。
すぐにチサトを抱きかかえると、急いで医務室へと駆け込んだ。


 それから数日経ったある日・・・。
懺悔室の石床の上で、チサトは緊張した面持ちで正座していた。
まんじりとしない表情を浮かべつつ、チサトはドアの方へ耳を傾ける。
やがて、ドアが軋んだような音にビクリと身体を震わせ、恐る恐る振り向いた。
 じっと見つめる中、ドアがゆっくりと開く。
大きくドアが開いたかと思うと、バルバロッサが懺悔室へと入って来た。
「チサト・・・」
「は・・はぃ・・・」
静かだが、有無を言わせない口調に、思わずチサトは震えあがりそうになる。
「何で・・・呼ばれたか・・わかっとるな?」
「は・・はい・・。この前の・・ことです・・よね・・」
恐る恐るチサトは尋ねる。
「なら・・・わかっとるな?」
バルバロッサは椅子に腰を降ろすと、軽く膝を叩いて合図をする。
それを見ると、チサトは泣きそうな表情を浮かべる。
だが、それでもゆっくりと立ち上がると、おずおずとバルバロッサのもとへ行き、いつものように膝の上にうつ伏せになった。
 チサトがうつ伏せになると、バルバロッサもいつものように慣れた手つきであっという間にお尻を出す。
お尻に冬の冷たい外気が触れるや、チサトは思わず表情が歪む。
「行くぞ・・。ええな?」
バルバロッサの問いかけに、チサトは黙って頷く。
それを見ると、バルバロッサはゆっくりと右手を振り上げた。


 バシィンッッッ!!
「きゃっ・・!!」
肌を打つ音と共に、チサトの口から悲鳴が漏れる。
白い肌には大きな手形が浮かび上がり、ジィンという鈍い痛みが放射状に、お尻全体へ広がってゆく。
 バシィンッ!バチィンッ!バンッ!ビダァンッ!バアンッ!バシィンッ!
強めの平手打ちがたて続けに小ぶりなお尻に降り注ぐ。
チサトは声を漏らすまいと口を閉じ、両手でバルバロッサの上着の裾をしっかりと握りしめる。
 ビダァンッ!バシィンッ!バアンッ!バチンッ!ビダァンッ!ビシャンッ!
「・・ぁ・・・ぅ・・・ぁ・・・っ・・・ぁ・・・ぅ・・・・」
耐えようとするも、身体は正直なのか、意思とは裏腹に口から微かに声が漏れてしまう。
 バシィンッ!ビダァンッ!バアアンッ!バチンッ!バァンッ!バシィンッ!
「あ・・あぅ・・あく・・ひぃん・・・ひゃあん・・あっ・・」
表情にさらに苦痛の色が増し、声もより大きくなる。
赤い手形は満遍なくお尻に刻み込まれ、同時に折り重なってお尻を赤く染め上げてゆく。
 「・・ったく・・何を考えとるんや!!」
バシィンッ!ビダァンッ!バシィンッ!ビダァンッ!バアンッ!バシィンッ!
強めにお尻を叩きながら、バルバロッサはいつものようにお説教を開始する。
 ビダァンッ!バアジィンッ!ビシャアンッ!バッジィンッ!バアアンッ!
「ひ・・ぎ・・・ひゃ・・ひぃん・・・ひゃあん・・・」
だんだんと強くなる平手の衝撃に、チサトの表情はさらに苦しさを増す。
「体調が悪いのはわかりきっとったやろ!!むげにアカンいうのも、と思うたからちぃとは許したが・・・。切り上げ時というもんがあるやろうが!!」
「ご・・ごめんな・・さい・・・。あ・・遊んでる・・うちに・・つ・・つい・・楽しくて・・・」
「それでどうなった!!言う通りにせんで遊び続けて・・・そいでぶり返しおったやろうが!!」
 ビッダァァ~~ンッッ!!バアッジィィ~~ンッッ!!ビッシャ~~ンッッ!!バッアァァ~~ンッッ!!バアッジィィ~~ンッッッ!!
「きゃっ!!ひゃあんっ!!ひぃっ!!やああんっっ!!」
さらに強烈になった平手打ちにチサトは両脚をバタつかせる。
 「ぶり返した挙句に・・・3,4日も寝込むことになったやろうが!!それで皆がどれくらい心配したと思っとるんや!!」
バアッジィィ~~ンッッ!!ビッダァァ~~~ンッッ!!ビバッジィィ~~ンッッッ!!バアッジィィ~~ンッッ!!ビッダァァ~~ンッッ!!バアッジィィ~~ンッッ!!
「ひゃぁん・・ひぃんっ・・ごめん・・なさい・・ごめんなさぁ~~いっっ!!」
両脚をバタつかせながら、チサトは必死に謝る。
 「アホウッッッ!!『ごめんなさい』は当たり前じゃろが!!無茶しおって・・・心配かけて・・・!!今日は・・ちぃとやそっとじゃ許さん!!」
そういうと、バルバロッサは足を組む。
既に真っ赤に染まったお尻が突き上げられると同時に、さらにしっかりと身体を押さえつける。
右手が振り上げられたかと思うと、今までよりもさらに勢いよく振り下ろされた。
 ビッダァァァァ~~~~~~ンンンッッッッッ!!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~ッッ!!!
「ひゃっ!ひゃあああんっ!!ごめ・・ごめんなさぁぁぁいいい!!!」
激しい平手打ちの嵐に、チサトは両脚をバタつかせて泣き叫ぶ。
 「馬鹿野郎!今日は本気で怒っとる言うとるやろ!!どんなに泣いても謝っても、百叩きはしてやるからな!!」
そういうと、バルバロッサはさらに平手の嵐を降らせる。
「きゃああんっ!!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさーいっっ!!」
激しい打撃音と悲鳴、許しを乞う声、それらがない交ぜになって長い間懺悔室に響きわたった。


 「ひぃん・・ひっ・・ひぃぃん・・・・ひゃ・・ひゃぁあん・・・」
両肩を上下させ、荒い息を吐きながら、チサトはしゃくり上げる。
疲れ果てているのか、身体はぐったりしており、お尻は濃厚なワインレッドに染め上がった上、火が燃えているかのように熱い。
 「ごめん・・なさい・・・ごめん・・なさぁぁい・・・・」
荒い息を吐きながら、チサトは必死に謝る。
「反省しとるか?」
一旦お尻を叩く手を止めてバルバロッサは尋ねる。
 「し・・してますぅぅ・・・。心配・・かけて・・ごめんなさぁぁい・・・」
「ちゃんと反省しとるようやな。ならお仕置きは終わりや」


 「う・・くぅぅ・・・」
「沁みたか?大丈夫か?」
チサトが顔をしかめると、バルバロッサは心配そうに尋ねる。
 「だ・・大丈夫です・・・」
「ならええんやが。痛いんならちゃんと言うんやで」
バルバロッサはそういうと、真っ赤なお尻に薬を塗り続ける。
 「これくらい・・平気です・・。それより・・心配かけちゃって・・・ごめん・・なさい・・・」
「別に構わんわ。そうや。お前さんに見せるモンがあったわ」
バルバロッサはチサトを抱きかかえると、外に出る。
 すると、外には小さな雪だるまがいつの間にか置かれていた。
「あれは・・?」
「遊びに来た子供らが、倒れたお前さんを心配してお土産に造ってったんや。皆心配してくれとる。やから・・しっかり治すんやで」
「はい・・。ありがとうございます・・・」
バルバロッサに抱きかかえられたまま、チサトはジッと雪だるまを見つめていた。


 ―完―

ダンジュー修道院37-2 火車のオザワ2



 (まだかなぁ・・・・)
その夜も、いつものようにチサトは廃屋でラウールを待っていた。
(どうしたのかな・・?)
思わずチサトは心配になってしまう。
普段だったらどんなに遅くなっても帰って来る頃だ。
礼拝に遅れたらバレるのだから。
 (何か・・・事故でも・・?)
中々帰って来ないラウールにチサトは悪い想像をせずにはいられなくなる。
そのとき、ドアが開いた。
 「た・・ただいまぁ・・・」
「ラウールさん、遅かっ・・・・」
ラウールに続いて、スーツ姿の強面な男達が現れ、途中まで出かかった言葉も消える。
 「ご・・ごめん!チサちゃん!お・・脅されてしゃべっちゃったんだ!!」
「ええ!?」
ラウールの言葉に、チサトも驚く。
 「まぁそういうことだ。さてと・・・。オザワの野郎のところへ案内してもらおうか。おっと、妙な真似をするなよ」
そういうと、男達の一人がサイレンサーをつけたベレッタ拳銃を突きつける。
「お前にはヤツのところまで連れて行ってもらうぞ。嫌だといえば、お友達が死ぬことになる」
そういうと、リーダー格の男が顎をしゃくってラウールの方を示す。
いかつい男がラウールを押さえつけ、拳銃を突きつけていた。
 「わ・・わかり・・ました・・」
逆らえないとわかると、チサトはやむなく従う。
「物分かりがよくて助かる。では、とっととやってもらうぞ」
リーダーの男は自分とラウールに銃を突きつけている男以外の全員に、チサトに従って修道院の方へと行かせた。
 オザワの部屋のドアの前に立つや、チサトはゴクリと息を呑む。
背後から一人が拳銃でつっついて急かしてくる。
中に入れればオザワは殺される。
だが、言う通りにしなければ自分が撃たれる。
いや、最悪ラウールも殺されてしまうかもしれない。
罪悪感と恐怖を胸に、チサトは恐る恐る鍵を出し、ドアを開けた。
 ドアが開くや、男達はチサトを押しのけて中へ踏み込む。
真っ暗な中、彼らはベッドに駆けつけるや、全員でサイレンサー付き拳銃を押しつけ、発砲した。
直後、彼らは違和感を覚える。
慌てて布団をめくってみると、中にあったのは枕。
 「おぃ」
不意に呼びかけられ、ハッとして男達は振り向く。
直後、固いものでたて続けに殴りつけられた。
衝撃で男達は倒れるが、さらに追い討ちを食らわされる。
 「殺気が・・・ダダ漏れだ・・・馬鹿が・・・」
暗闇の中から現れたオザワは、祭壇にあったマリア像を手放し、銃を回収しながら言う。
「だ・・・大丈夫・・ですか・・?」
恐る恐る部屋に入って来たチサトはオザワに呼びかける。
 「こんな奴ら、大したことは無い。それより・・・これだけじゃあるまい?まだ・・いるんだろう?」
「あ・・はいっ!小屋に・・・。そ、そうだ!ラウールさんが!お願いですっ!助けて下さい!!」
「チ・・・厄介なことになったな・・。まぁいい。ついでだ。何とかしてやる」
「あ・・ありがとうございます!!」
拳銃を腰にぶち込み、気絶しきっていない一人を引きずるようにして連れて行きながら、オザワは部屋を出ていった。


 ラウールは恐る恐る男達の様子を伺っていた。
男達は殺気立ち、ピリピリしている。
不意に、ドアをノックする音が響いた。
 男達はハッとすると、拳銃をドアに向ける。
「ルイか?ジャンか?」
リーダー格の男がドアに向かって問いかける。
 「ルイです。片付けてきました」
「よし。入れ」
ドアが開くと同時に、ゆっくりと男が入って来た。
その顔に打撲と血の跡があることにマフィアたちはハッとする。
同時に男の後ろにゆらりと動く影。
本能的に二人は銃を構えた。
 「ちょ・・ま、待ってく・・うわあああっっっ!!!!」
至近距離から仲間に撃たれ、男の身体はダンスでも踊るかのように跳ねる。
同時に男の身体の後ろからオザワが腕を突き出すや、奪った拳銃をぶっ放した。
呻き声と共に、残る二人も崩れ落ちる。
本物の撃ち合いに、ラウールは呆然とする。
 「大丈夫ですか!?ラウールさんっ!」
駆け寄ったチサトにようやくラウールは安堵する。
「チサちゃん~、助かったよ~」
ホッとしていうラウールだが、チサトはキョロキョロしている。
 「ん?どうしたの?チサちゃん?」
「あの人は!?オザワさんはどこです!?」
「さ・・さぁ・・・。出てったんじゃないの?」
そのとき、チサトはマフィアたちが持っていたはずの銃が無いことに気づく。
 「銃が・・・一つも・・・ない・・・・」
同時に、チサトはオザワが気絶させた男達から銃を回収していたことを思い出す。
「ラウールさん!この人達、どこから来たんですか!?」
「え?僕が遊んでたカジノだけど?」
「どこのです!」
「ええとね・・。確か・・」
ラウールが店の名前を告げるや、チサトは飛び出してしまった。
 「ああっ!チサちゃんっ!!どこに行くのっ!!」
「ラウールさんの言った店です!きっと・・オザワさんがそこに!!」
「ってチサちゃんが行ってもどうにもならな・・・ってああ~~っっっ!!!!」
ラウールの言葉など聞かず、チサトはそのまま街へ向かっていってしまう。
 「やばい・・・やばいってこれ~~!!」
ラウールは顔色が真っ青になる。
チサトの事だ、オザワを止めようとするか、連れ戻すつもりなのだろう。
(も・・もう僕の手に負えないよ!院長に話さないと!!)
事ここに至っては、そうするしかないとラウールは慌てて院長の元へと走っていった。


 (こ・・・ここが・・・)
カジノの目の前に立つと、チサトはゴクリと息を呑む。
今この間に、殺し合いが行われているかもしれないのだ。
二の足を踏んでしまうのも無理は無い。
だが、それよりも、別の情念がチサトを動かしていた。
 ドアを開けて、チサトは恐る恐る足を踏み入れる。
「!!!!」
入ってすぐ、目の前に倒れている男に気がついた。
その胸や腹は血で真っ赤に染まっている。
 「う・・・うぅうぅ・・・」
あまりに残酷な光景に、チサトは思わず吐いてしまう。
何度か吐いた上でようやく落ち着くと、チサトは中へ入ってゆく。
 普段だったら客やスタッフで賑わっているのだろうが、今は誰もいない。
銃弾の跡で壁に穴が空き、テーブルや椅子をはじめとする店の備品が滅茶苦茶に破壊されている。
恐る恐る進んでいくうちに、何度も死体に出会い、そのたびにギクリとする。
死体に遭うたびに、恐怖と嫌悪感を抑え、勇気を振り絞って顔を見つめ、オザワかどうかを確かめる。
 可能な限り死体を調べたが、オザワの死体は見つからない。
(まだ・・生きてるのかな・・・。でも・・どこに?)
そのとき、上の階から乾いた音がたて続けに聞こえて来た。
(上!?)
本能的にチサトは走ったかと思うと、上の階へと通じる階段を駆け上がっていた。
 「ハァ・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・」
ヤマダは息を切らせながら、廊下を走っていた。
走りながら、ヤマダは後ろを振り返る。
すると、ゆっくりとオザワがやって来るのが見えた。
オザワは右手に敵から奪った拳銃、同じく左手に敵から奪った日本刀をぶら下げている。
また、ベルトにもう一本、奪った日本刀を差していた。
 「クソッ!クソクソクソッ!!」
ヤマダは罵声を発しながら、ベレッタ拳銃をぶっ放そうとする。
だが、それよりも早くオザワが発砲し、ヤマダの手からベレッタを撃ち飛ばした。
 「くそっっ!!」
慌てて拾おうとするが、オザワはさらに発砲し、完全に手の届かないところへ銃を撃ち飛ばしてしまう。
 「ひ・・ぎひ・・・・」
喉元に日本刀を突きつけられ、ヤマダは息を呑む。
「覚悟は・・・いいか・・・・」
静かに、怒りを込めてオザワは宣告する。
 「ま・・ままま待ってくれ!!ど、どどどどうしてもお前が欲しかったんだよ!や、やりすぎたのは謝る!!な、何だったら代わりにいいタマ見つけてやるよ!だ、だから勘弁してくれ!!」
必死に命乞いするヤマダに対し、オザワは顔面への蹴りで返答する。
 「ご・・ごぶ・・・・」
「命乞いなど無駄だ・・・。だが・・・昔は・・・同じ組だったよしみだ。チャンスは与えてやる・・・・」
そういうと、オザワは腰から鞘ごと日本刀を抜きだし、投げ出した。
 「一対一だ・・・。お前も一端のヤクザだったら・・・・根性を見せてみろ・・・」
「ク・・・クソッッ!!」
ヤマダは投げ出された刀に飛びつくと、抜いて構える。
対して、オザワも刀を右手に持ち替え、ヤマダと対峙した。


 (どこ・・・?どこにいるの!?)
チサトは必死になってオザワを探す。
「ひぃ・・ひぎっ!!うぎゃあっ!!」
不意に男の悲鳴が聞こえてきた。
それを聞くや、チサトは悲鳴の元へと走り出す。
 決闘中の廊下へやって来たチサトの視界に飛び込んで来たのは、刀を構えたオザワの姿。
オザワは怒りと憎しみに満ちた目で、ジリジリと歩みを進める。
その視線の先にはヤマダの姿。
 「ひっ・・・ひっ・・・ひぃぃ・・・。助けて・・くれぇぇ・・・」
ヤマダは座りこんだ姿で後ずさりながら、必死に命乞いする。
体中を切り裂かれ、全身から血を流していた。
 「こんな・・ものじゃ・・こんな・・ものじゃ・・・なかった・・はずだ・・・」
オザワは怒りの炎を燃やしながら、にじり寄る。
やがて、オザワはゆっくりと刀を振り上げた。
 「や、やめてーーーーーっっっっ!!!」
大声で叫ぶと同時にチサトが飛び出した。
「お前・・・」
オザワは一瞬呆気に取られた表情を浮かべるが、すぐに元の表情に戻る。
 「どけ!!」
「そ・・そうはいきません!も、もう十分でしょう!?」
「これくらいでも・・・まだ・・足りないくらいだ!!庇うなら斬る!!」
オザワは刀を喉元に突きつけながら言う。
 「何故です・・・。どうしてここまで憎むんですか!?」
「こいつが・・・・。俺の・・・かけがえの無い者を殺したからだ・・・!!」
オザワの言葉に、チサトは衝撃を受ける。
同時に、ようやくオザワの行動に納得がいった。
 「その・・・十字架は・・もしかして・・・」
チサトは、オザワが首にかけているあの十字架を見やりながら言う。
「そうだ・・!俺が・・・送った・・!将来・・神父に・・なりたいから・・と!血こそ繋がらんが・・・息子も同じだったんだ!!」
オザワは心底からの叫びを上げた。
 夢に出て来た神父は彼の養子といえる若者。
共に日本から渡ったが、敵の手にかかって命を落とした親友の忘れ形見だ。
裏の世界には関わらせたくないと、ある教会に預けて育ててもらっていた。
 「それを・・・あんな・・惨い・・・方法で・・・・」
「お前を専属の殺し屋として欲しかったんだ!だが、お前は断った!引退したいからと!あの神父のためだってわかったから、そいつが・・・いなく・・なりゃあと・・・」
「あの子は裏の世界には関係ない!!それを・・・・うぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
怒りの雄たけびを上げるや、オザワは刀を降り下ろそうとする。
 「やめてーーーーーーっっっっっ!!!!!!そんなことしたらダメです!!!」
チサトは必死に叫んで立ちはだかる。
「邪魔をするな!!」
「ダメです!あなたが・・・そんなことをして・・・それでその人が喜ぶとでも思うんですか!!」
「黙れ!お前に何がわかる!!」
「確かにわかりません。でも・・・あなたがそんなことをしたら、もっとその人は悲しむんじゃないですか!神父を目指してたんでしょう!?そういう人が・・・あなたが・・・憎しみに駆られて人を殺す姿を見たら・・・それこそもっと辛い思いをさせるんじゃないですか!!」
チサトは必死になって説得しようとする。
これ以上、オザワに罪を重ねさせてはならない。
そんな思いに駆られていた。
 (今の・・うちだ・・)
ヤマダは必死になって撃ち飛ばされた銃までにじり寄ると、銃を取り上げる。
そして、ゆっくりと狙いをつけた。
 突然、オザワがチサトを突き飛ばした。
「きゃんっ!!」
チサトが倒れると同時に乾いた音が響く。
「ぐぅ・・!!」
オザワの脇腹に赤い染みが広がってゆき、同時に片膝をつく。
 「くそ・・!くたばれっ!この野郎っ!」
ヤマダは憎悪を込めてオザワを撃つ。
赤い染みが身体のあちこちに生じ、オザワは床に倒れる。
 「オザワさんっ!!」
チサトはオザワに駆け寄る。
「馬鹿・・・!!逃げろ!!」
「そ・・そうは・・いきませんっ!!」
「何言ってんだ!逃げろッ!馬鹿っっ!!」
オザワはチサトを自分の背後へ突き飛ばすと刀を振るって斬りかかる。
 「おぉぉぉぉぉ!!!!」
「馬鹿が。今日びヤクザだって銃の時代だってーの」
そういうや、ヤマダは拳銃をありったけぶっ放す。
「ぐ・・!!ぐぬぉ・・・ぐぉぉ!!」
銃弾が胸や腹をこれでもかと叩き込まれる。
だが、銃弾を食らいながらも、オザワはまるで憑かれたように進み続ける。
 「な・・テメェ!どうなってんだ!!」
必死に銃を撃ちまくるが、やがて弾が尽きてしまう。
「く・・くそっ!!」
慌てて弾倉を変えようとするが、そこへオザワの刀が叩きつけられた。
 「ぐ・・・ぐわあああああああ!!!!!!!」
銃を握ったまま、右腕が肘下から斬り落とされ、転がり落ちる。
「ぐぅえ・・・!!ええげぇぇぇ!!!!」
右腕からダラダラと血を流し、ヤマダは壁に寄りかかりながら、逃げ出す。
 「くそ・・!待て・・!ぐぬぅ・・・」
追いかけようとするオザワだったが、そのままドサリと床に崩れ落ちる。
「だ、大丈夫ですか!?」
慌ててチサトは駆け寄る。
「く・・クソ!目の前が・・・真っ暗に・・なってきや・・がったぁぁ・・・」
「い・・今助けを!!」
チサトは助けを呼びに行こうとするが、それをオザワが止める。
 「呼ばんでいい!それより・・・さっさと修道院に戻れ!!」
「で・・でも・・」
「馬鹿野郎!お前までサツに見つかったら、逃亡犯を匿ったって容疑で修道院に迷惑がかかるだろうが!!それを考えろ!!」
「わ・・わかりました・・・」
オザワの言葉に、チサトも已む無く頷く。
 「こ・・こいつを・・持ってけ・・・」
立ち去ろうとするチサトに、オザワは例の十字架を渡す。
「こんな・・大切なもの・・いただけ・・ません!!」
「俺には・・もう必要ない・・・。頼みが・・ある・・・。こいつを寄付するから・・・俺のせいで・・・殺された・・あの子の・・ために・・・祈って・・やってくれ・・・頼む!!」
「わかり・・ました・・・。そういう・・ことなら・・・」
チサトはオザワから十字架を受け取る。
「す・・すまん・・・。あの子の・・名前は・・・」
オザワは力を振り絞って、名前を伝える。
それを聞き届けると、チサトは十字架を握ってその場を立ち去る。
直後、オザワはついに力尽きた。
 (クソォ・・・最悪じゃねーか!!)
切断された腕からダラダラと血を流しながら、ヤマダは廊下を走っていた。
(クソクソクソッ!馬鹿にしやがって!たかが一匹狼の殺し屋のくせに!俺を誰だと思ってるんだ!)
オザワへの憎悪を燃え上がらせながら、ヤマダは走る。
 パーンッ!
不意に乾いた音が鳴り響き、コマのように回転しながら、ヤマダは崩れ落ちる。
「な・・何・・・・」
倒れたまま頭を動かすと、見えたのは包帯でぐるぐる巻きの顔。
顔を滅茶苦茶に殴りつけた部下だった。
部下の手には硝煙をくゆらす拳銃。
 「テメェ・・・!正気か!ボスを・・撃つとは・・・」
「正気だよ、変態野郎」
「な・・何?」
部下の男は目に憎悪の炎を燃やす。
 「もう、アンタにはウンザリなんだよ!毎度毎度やたらに高い上納金は吹っ掛ける!テメェの変態趣味のために神父をさらわせて献上させる!その変態趣味を邪魔されりゃあ滅茶苦茶にぶん殴る!組のために良かれと思ってアンタの傘下に入ったが、もううんざりだ!貴様とはこっちから縁切りだ!!」
「テメェ・・・わかってんのか・・!俺を殺れば・・組織自体を・・・」
「ふん。あいにくだったな。アンタと一番張りあってたお方にとっくに鞍替えしてるんだよ。むしろ、アンタをやれば俺も組ももっと上へ行ける!」
「く・・くっそぉぉ!!」
悔しさと怒りに満ちた叫びを上げた直後、銃弾が叩き込まれる。
こうして、ヤマダもその生涯を終えた。


 懺悔室の冷たい石床の上に跪き、ずっとチサトは祈っていた。
ドアが軋む音に、思わずチサトは振り返る。
入って来たのは、バルバロッサ。
 「チサト・・・・」
「は・・はい・・・・」
「わかってるな?」
バルバロッサはそういうと、椅子に腰を降ろし、膝を軽く叩いて合図する。
既に覚悟を決めていたのか、チサトはゆっくりと立ち上がるとバルバロッサの元へと向かい、膝にうつ伏せになった。
 チサトが載ると、バルバロッサは修道服の裾を捲り上げ、ズボンを降ろしてお尻をあらわにする。
同時に、膝を組んだ。
おかげで、チサトはお尻を突き上げた体勢になる。
「今日は半端なお仕置きやないでぇ・・・・覚悟しいや」
バルバロッサはそういうと、左手でチサトの身体をしっかりと押さえつける。
同時に、右手を高々と振り上げた。
 バアッジィィィ~~~~~ンンンッッッッ!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッッッ!!!!
「きゃあんっ!きゃああっ!ひゃあんっ!ひゃあああ~~~~んんっっっ!!!」
最初から容赦の無い平手打ちの嵐にチサトは絶叫する。
激しいお仕置きにとても耐えられるわけもなく、チサトは両脚をバタつかせる。
 「こん馬鹿っ!!何やってんだぁぁ!!」
ビッダァァァ~~~~~~~~ンンンッッッッ!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~~~~~~~ッッッッ!!!!
バルバロッサは心底からの怒りを燃え上がらせながら、平手を叩きつける。
あっという間にチサトのお尻は大きく真っ赤な手形で一杯になり、それが幾重にも重なってお尻を赤く染めてゆく。
 「手配中の殺し屋なんぞ匿っただと!?何考えてんだっ!!」
バルバロッサは激しい平手打ちを降らせながら叫ぶように叱る。
「ひぃん・・・。け・・怪我とか・・してて・・・放って・・おけな・・かったん・・ですぅぅ・・・」
チサトは涙を浮かべながら言う。
「馬鹿ッ!犬猫じゃねえんだっ!!どうして院長様に話さなかったっ!!しかも・・・・追っかけて、殺し合いの現場にまで行きやがって!!」
バアッジィィ~~~~ンッッッッ!!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~~~~~~~~~~~~ッッッッッ!!!!!
「ひゃああああんんっっ!!ごめんなさぁぁいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさい~~!!!」
両脚をバタつかせながら、チサトは必死に謝る。
「馬鹿野郎!無茶な真似しやがって!まだまだこんなもんじゃ許さんからな!!」
バルバロッサはそう叫ぶや、さらに容赦なく叩き続けた。


 「ひぃん・・・。ひぃひぃん・・・・」
ボロボロと涙を零してチサトは泣いていた。
お尻は今や倍近くに腫れ上がり、赤どころか、紫っぽくなってしまっている。
 「ひぃん・・・。ごめん・・なさい・・・ごめんなさい・・・」
泣きじゃくりながら、チサトは必死に謝る。
「反省したんか?」
一旦お尻を叩く手を止めてバルバロッサが尋ねる。
 「は・・はぃ・・・。無茶な・・ことして・・・・ごめんなさい・・・」
「それだけやないやろ?」
「は・・はぃ・・・。心配・・・かけて・・・ごめん・・なさい・・・・」
「よし・・よぉ言えたな」
バルバロッサはそう言うと、チサトを抱き起こし、しっかりと抱きしめる。
 「よかった・・・。ホンマに・・・かすり傷・・一つ・・無くて・・・」
心底からの安堵の声を漏らしながら、バルバロッサは微かに震える。
「お前に・・何か・・・あったら・・そう思うと・・お・・俺は・・とても・・生きてられん・・・。顔を見ちゃ・・おらんが・・・。オザワつて・・奴の・・気持ちも・・・俺には・・・わかる・・・・」
「バルバロッサさん・・・・」
「チサト・・・・。俺だけやない・・・皆・・・お前の事・・大事に・・思うとる・・。だから・・無茶な・・ことだけは・・したら・・あかん・・・ええな?」
「はい・・。もう・・しません・・・」


 それから数日・・・・。
チサトは礼拝堂のイエス像に祈っていた。
(イエス様・・・。お願いです・・・・。無残に殺されてしまった・・オザワさんの大切な人に・・・安らかな・・・眠りを・・・・。そして・・・・大切な人のために・・・血を流し続けた・・・オザワさんを・・許して・・・あげて下さい・・・・)


 同じ頃・・・・。
どこまでも広がる荒野、その荒野を行く車があった。
車といっても、自動車では無い。
蝙蝠の翼を持つ、荒々しい馬が引く馬車だった。
 その馬車は荷台の部分が頑丈な鉄格子になっているだけでなく、下の床から轟々と炎が燃え盛っている。
「あち!あちあちあちあちあちあちぃぃ~~~~っっっ!!!」
荷台の上では、火に焙られながら、ヤマダが絶叫していた。
「騒ぐな・・・。ますます熱くなる・・・」
その隣では、オザワがヤマダにそう言う。
 「うるっせぇ!熱いんだからしょうがねーだろ!!」
「騒いだって涼しくなるわけじゃない。地獄へ着けばこんなものではすまんだろうに」
「うるっせえ!ってかおいっ!何でよりによってコイツと一緒なんだよ!!」
ヤマダは御者の方を振り向いて文句を言う。
御者は角と蝙蝠の翼を持つ人型の怪物。
悪魔だ。
 「つべこべ言うな!罪人の分際で!」
悪魔はそう言うと、馬を走らせる。
彼は下級悪魔で、地獄から罪人を迎えに来る仕事をしていた。
戦いの果てに死んだオザワ達を護送中というわけだった。
 不意に馬車が止まった。
しばらくすると、馬車の脇についていた護衛の悪魔がドアを開けて、オザワに言う。
「おい、降りろ!」
「何・・・?」
オザワは怪訝な表情を浮かべる。
「とっとと降りろ!行き先変更だ!」
「変更だと?どこへだ?」
「ふん・・・。貴様は・・・煉獄(れんごく)だ」
「何・・・?」
オザワはさらに怪訝な表情を浮かべる。
 煉獄とは、地獄と似て非なるもの。
罪ある者が落ちて罰を受けるのは地獄と同じだが、こちらは定められた期間、罰を受ければ天国へ入れてもらえる。
対して、地獄に落ちると決して天国には行けない。
神父になろうとしていた若者からその話を聞いていたから、オザワは怪訝に思わずにはいられない。
 「とにかく降りろ!お前は煉獄に行くんだからな!」
悪魔の言葉に、オザワは黙って降りる。
「ちょっと待て!俺はどうなんだよ!!」
一人残されたヤマダが、噛みつくように悪魔たちに言う。
「お前は地獄だ。諦めろ」
「な、なな何ぃぃ!!どうしてこいつだけ!!」
抗議しようとするヤマダだが、無情にも馬車は走り出してしまう。
 「おぃ、行くぞ。こっちに乗れ」
迎えに来た悪魔に促され、オザワは煉獄行きの馬車に乗り込む。
(何故だ・・?)
怪訝に思いながら、オザワが馬車内に腰を下ろしたときだった。
 不意に何かが掌に向かって落ちて来た。
受け止めたそれを見てみると、小さな十字架。
チサトに渡したはずのものだった。
さらに、もうひとつ別の十字架が落ちてくる。
こちらは木を削ってつくった粗末なもの。
つくりも雑で、子供が作ったと思えるほどだった。
(こいつは・・・・)
オザワは思わず目を丸くする。
教会に預けた若者がまだ子供だった頃、教会を訪れたオザワに作ってくれたものだ。
殺し屋という稼業の手前、身につけることはなかったが、こちらも大切にしていたものだった。
 (そうか・・・・)
これでオザワは納得がいく。
チサトと、育てていた青年が自分のために祈ってくれたのだ。
その祈りが聞き届けられ、煉獄行きに罪が軽減されたのだと。
 (俺も・・・応えんとな・・)
オザワは決意を新たにする。
自分のために祈ってくれた者たちのために、煉獄で償ってくることを。
「おぃ!着いたぞ!降りろ!!」
ドアが開くと共に、オザワは降りる。
すると、煉獄の門が目の前にそびえていた。
オザワは背を伸ばし、門を見据える。
悪魔に従って、オザワはその門をくぐっていった。


 ―完―

ダンジュー修道院37-1 火車のオザワ1(バイオレンス・アダルト要素あり)



(バイオレンス・アダルト要素ありです。許容出来る方のみご覧下さい)


 ザァァァァァァァァ・・・・・。
どしゃ降りの雨が降り注ぐ中、森を歩く男の姿があった。
男は40代前半、髪や瞳、肌の色がアジア系であることを示している。
髪は高校球児のように短く切っており、整っているが、精悍さと剣呑さが混じり合った面立ちをしている。
ドーベルマンを思わせるすらりと引き締まり、無駄なく鍛え上げられた身体を高そうな暗色系のスーツに包んでいる。
だが、そのスーツはあちこちが切り裂かれ、所々出血している。
深い傷もあるのだろう、歩きながらポタポタと赤いものが地面に滴り落ちていた。
歩く中、不意に視界が朦朧とする。
(まだ・・まだ・・早い!!)
オザワは自身を叱咤しながら、上着の内ポケットから何かを取り出す。
取り出したのは小さな十字架。
首にかけて用いるタイプのものだ。
十字架を見つめていると、オザワの目が怒りと憎悪の炎を燃え上がらせる。
しばらく見つめているうちに意識がまたはっきりし始めると、オザワは再び歩き出した。
 (まだかなぁ・・・・)
廃屋となった森番小屋の中で、チサトは心配そうな表情を浮かべていた。
(ラウールさんにも困っちゃいますよね・・。何度も叱られてるのに・・・どうして・・)
チサトはラウールの顔を思い浮かべると、ため息をつく。
今夜もまた、懲りずに街へ夜遊びに出かけているのだ。
それで、いつものように、街へ出かけるときの着替えや遊びで稼いだ金品の隠し場所として使っているこの小屋で帰りを待っているのである。
 (雨が・・・ひどいなぁ・・・。大丈夫かなぁ・・?ラウールさん?)
窓の外では、大粒の雨が地面に叩きつけるように降り注いでいる。
念のためと思って折りたたみ傘を持っていったようだが、傘をさしていてもこの天気では大変だろう。
 不意にギシギシと扉が開く音に気づくと、ハッとしてチサトは振り返る。
「ラウールさん、遅かったじゃ・・・」
入って来た人物を見るなり、チサトはハッとする。
 現れたのは見知らぬ男。
どう見ても剣呑な雰囲気で、しかも拳銃まで持っている。
 一方、オザワも目の前に現れた、修道士らしい若者に一瞬だが、我が目を疑うような素振りを見せる。
だが、すぐに冷徹な裏の人間の顔に戻った。
「騒ぐな・・・本・・・物だ・・・」
オザワは、そう言いながら、手にしたマカロフ拳銃を見せつける。
拳銃を握ったまま、オザワはゆっくりと入ってくる。
拳銃を前にし、さすがに後ろへ下がるが、チサトはオザワの身体から血が滴り落ちていることに気づく。
「け・・怪我・・してるんですか・・・?」
「黙・・・れ・・・」
対してオザワは威圧的に命令するが、顔を苦痛に歪め、片膝をつく。
「い、医者を呼ばないと!!」
オザワが怪我をしていることに気づくや、チサトは外へ出ようとする。
 「騒ぐな・・と言ったはずだ!」
オザワは出て行こうとするチサトを後ろから襟首を掴んで引き戻すと、顔に真っ正面から拳銃を突きつける。
 「呼んだら・・撃つ・・」
オザワは荒い息を吐きながら、脅迫する。
その目は、言ったことを本当に実行する、狂暴な意思に溢れていた。
それが伝わり、チサトも恐怖に身が震える。
だが、恐怖に身を震わせつつも、滴り落ちる血が、チサトを突き動かす。
 「そ・・そういうわけにはいきません!せ、せめて・・手当てを・・・!!」
「聞こえんのか!!何もするな!殺され・・・・ぐぅぅ・・」
チサトの態度に苛立ったオザワが、思わず暴力的な行為に移ろうとした瞬間、不意にオザワが呻いた。
苦痛の声と共に、男の身体はゆっくりと崩れ落ちる。
 「どうしたんですか!?しっかりして下さい!!」
チサトは目の前のオザワに必死に呼びかける。
だが、オザワの目は焦点を失ったようにトロンとしている。
やがて、そのまま目を閉じたかと思うと、オザワは意識を失った。


 いつの間にか、オザワは教会にいた。
オザワはゆっくりとあたりを見回し、怪訝に思う。
自分がよく知っている、だが、もう二度と訪れることの無い教会だったからだ。
 不意に、礼拝堂の床に、何かがあることに気づく。
途端に、オザワの表情が変わり、懐からマカロフ拳銃を取り出すと、銃を構えながら、ジリジリと接近してゆく。
やがて、オザワは見つけたものの前までやってきた。
 それを見るや、オザワの顔から血の気が引く。
そこに倒れていたのは10代後半から20代初めらしい若者。
神父服姿であることから、教会の関係者であることが容易に想像できた。
 倒れている神父は、緑色の髪と瞳、愛らしい感じの面立ちと、どことなくチサトに似ている。
だが、その顔は今や恐怖と苦痛に硬直しきっていた。
喉には切り裂かれた跡があり、完全に息絶えてしまっている。
さらに、服は乱暴に引き裂かれ、その下からあらわになった身体には、凌辱の跡。
 オザワはゆっくりと、両膝をつくようにして崩れ落ちる。
背をのけ反らせ、天井を見上げ、オザワは声にならない叫び声を上げた。


 目を覚ましたオザワの目に飛び込んで来たのは、見知らぬ天井だった。
思わずオザワは身体を起こし、周囲を見回す。
質素で最低限の調度品だけが置かれた、簡素な部屋だった。
目立つものがあるとすれば、壁際に設置された、祈るための小さな祭壇らしきもの。
祭壇には、幼いイエスを抱いた、聖母マリアの像が置かれていた。
それを見ると、オザワの顔は様々な感情を併せ持った複雑なものへと変わる。
 オザワは身体がスースーすることに気づくと、自身の身体を見やる。
すると、上半身が裸になっており、包帯や大型の絆創膏が貼られている。
「気がつきました?」
不意にかけられた声に振り向くと、そこにはチサトの姿があった。
 「お前・・・・・」
オザワは廃屋で、自分が銃を突きつけた若い修道士だと気づく。
「大丈夫ですか?どこか痛いところはありませんか?」
チサトは心配そうな表情で尋ねるが、オザワはそれを無視して口を開く。
 「銃はどこだ?」
その言葉に、チサトは緊張した表情を浮かべる。
「何の・・ためです?」
「お前には関係ない。返せ」
「そ・・・そういうわけにはいきません!!」
「貴様・・・。覚悟があって言ってるのか?俺がどういう人間かは、これでわかるだろう?」
そう言って、オザワは背中を見せる。
その背中にあったのは、牛や馬の頭と人の身体を持つ恐ろしげな怪物たちが引く、炎が燃え盛る車。
車には人が罪人のように縛られて乗せられ、炎に悶え苦しむ姿が描かれている。
悪人が死ぬ際、地獄から迎えにやって来る火車(かしゃ)を描いた刺青だった。
 オザワは20年くらい前に日本から渡ってきたヤクザの一員だった。
詳しいことは不明だが、彼の所属する組が当時海を渡ってヨーロッパへやって来た。
ヨーロッパの裏社会へ食い込もうと在来勢力との抗争を繰り広げるも、組は壊滅、生き残った者たちも散り散りとなる中、オザワはフランスへ潜伏、そのままフランス裏社会へと根を下ろした。
そして、現在に至るまで裏の世界で生きて来たのである。
 母国を追われ、新たにやって来た土地でも組が壊滅するという事態になっても、留まって生きて来たのだ。
なまじの男ではない。
実際、オザワに一睨みされ、チサトは震えあがってしまいそうになる。
だが、それでもチサトは決意を変えない。
 「だ・・・ダメです!だ、誰かを撃ちに行くんでしょう!?そんなこと・・させるわけにはいきません!!」
「なら・・お前が死ぬか!?」
狂暴さをむき出しにしたオザワが片手を突き出したかと思うと、そのままチサトの首を引っ掴み、絞め上げにかかる。
万力のような強烈な力に、チサトは息がつまり、苦しげな表情を浮かべる。
「さぁ!銃を出せ!!」
オザワは本気で首を絞める。
「ダメ・・・ダメ・・です・・。そんなこと・・したら・・・。怪我・・してるのに・・。今・・出て・・いったら・・もっと・・ひどく・・・」
「渡さんとお前が死ぬぞ!」
さらにオザワは首を絞めにかかる。
「こ・・殺し・・たければ・・・殺して・・下さい・・。でも・・銃は・・決して・・・渡し・・ません・・・」
チサトは必死になって言う。
その言葉に、オザワはチサトの決意を読み取る。
 「チ・・・!!」
舌打ちすると、オザワはようやく手を離す。
自由の身になると、チサトはハァハァと荒い息を吐く。
だが、オザワも傷が痛むのか、表情が苦しげなものに変わる。
 「だ、大丈夫ですか!?」
そんなオザワに、チサトは慌てて駆け寄ろうとする。
「触る・・な!!」
だが、オザワは邪険にチサトを押しのける。
「で・・でも・・・」
「また絞め上げられたいのか!さっさと出て行け!!」
「わ・・わかりました。で・・でも・・・後で・・様子・・見に来ます・・から・・」
「うるさい!さっさと行け!!」
オザワは苛立ちをあらわにしながら言う。
さすがにチサトもこれ以上はまずいと判断したのか、慌てて部屋を飛び出した。
 「クソ・・・・」
チサトが去ると、オザワは舌打ちする。
(俺としたことが・・・)
そう思わずにはいられなかった。
 部屋の様子から、オザワは自分がいるのが、巡礼者や観光客が集まる大きな修道院や教会の宿泊施設だと、想像がついた。
また、先ほどのチサトの様子や、手当ての跡から、自分がチサトに助けられたことも。
 (甘い・・・甘すぎる・・・)
オザワはチサトに対する自分の素振りにも、舌打ちせずにはいられなかった。
日本人ながら、この国の裏社会でオザワは名の通っている男だ。
自分の目的のためなら、他人を痛めつけ、殺すことなど平気でやる。
実際、今までどれだけの血を流させて来たか、本人にも全くわからない。
 にも関わらず、チサトにはそれが出来なかった。
(こんなことで・・・果たせると・・思うのか!あの子の・・・恨み!苦しみ!痛み!それを・・・思い出せ!!)
組が潰され、多くの仲間が現地組織のヒットマンの手にかかる中、オザワがヨーロッパから逃げずに、20年近くに渡ってこの国にとどまり続けた理由。
それこそが、夢に現れた神父姿の若者だ。
彼のために留まり、手を汚し続けてでも金を稼いできた。
 だが、その彼ももはやこの世にない。
今、オザワに残されたのは、憎悪と復讐心。
どんなことをしてでも、凌辱した上に命まで奪った者たちに復讐をするつもりだった。
 (それを・・何てザマだ!!)
オザワは自身を叱咤する。
目的を果たすために銃は絶対必要なもの。
必ず取り返さねばならない。
だが、あの修道士の苦しむ顔を見ているうちに、手を緩めてしまった。
重なって見えたからだ。
 (あの子が死んだのはこの目で見ただろう!他人の空似だろうが!!)
オザワは自身を罵るが、どうにもチサトの顔がチラついてたまらない。
その時、ドアの前で気配がした。
 オザワは緊張した面持ちでドアに近づく。
恐る恐るドアを開けると、床にサンドイッチや牛乳を載せたお盆が置いてあった。
(食えということか・・・・)
オザワはお盆を持って中へ戻る。
 一瞬、何か仕込まれているのでは、という疑念に駆られたが、身体の欲求には逆らえず、ガツガツと食べ始めた。


 (よかった・・・休んでるみたい・・・)
食べ終わった後のお盆を回収し、恐る恐る様子を伺って眠っていることを確かめたチサトは安堵する。
 (でも・・どうしよう・・・・)
廊下を歩きながらチサトは困惑した表情を浮かべる。
素人のチサトにも、オザワが危険な稼業の人間なのはすぐにわかった。
本当ならば、関わりを持たない方がいいに違いない。
 しかし、傷を負って倒れたオザワをどうしても放っておけなかった。
ようやく帰って来たラウールと共に、必死になって修道院の巡礼者・観光客用の宿坊の空いている部屋へかつぎ込んだ。
幸い、チサトが世話や掃除を担当している部屋だから、他の修道士達にばれてはいない。
とはいえ、いつまでも隠し通せるか、自信は無かった。
 「チサちゃん、チサちゃん」
不意にこっそり呼びかけるようにしてラウールが話しかけてきた。
「どうしたんですか?」
「どうしたじゃないよ。さっき、警察が来たんだよ~」
「ええ!?」
ラウールの返事にさすがのチサトも表情が変わる。
 「ば、ばれたんですか!?」
「いや。それは大丈夫。うまく隠したから」
「そうですか。よかった・・・・」
「よかったじゃないよ~!警察よりもっとマズイよ!あいつの方が!警官の話だと『火車(かしゃ)のオザワ』とかいうあだ名がついてるくらい、そっちの方では有名らしいんだよ!しかも・・・最近、どっかのマフィアのボスだか幹部の別荘を襲撃して何人も撃ち殺したんで、マフィアからも追われてるらしいんだよ~~!!」
「えええ!!??」
ラウールの言葉にチサトはますます驚く。
 「ねぇ、チサちゃん。やっぱり・・警察に・・。せめて・・・体よく追い払っちゃおうよ!!」
「何言ってるんですか!そんなこと出来ません!!」
対して、チサトは珍しく大きな声を上げる。
 「相手がどんな人でも、そのまま放っておくわけになんかいきません!それに・・・。あの人は・・・誰かを撃つつもりです!そうしたら・・あの人にさらに・・罪を重ねさせて・・・いや・・・それだけじゃありません!あの人も・・殺されます!!そんなこと・・させたら・・・ダメなんです!!」
「わ・・わかったよ・・・」
ラウールも、説得は無理だと諦める。
 「すみません、ラウールさん」
「いいよ。チサちゃんのことだから、そういうと思ってたから。わかったよ。僕も何とかするから。だから、チサちゃんはあいつの面倒見てあげなよ」
「本当にすみません」
「いいんだよ、僕とチサちゃんの間なんだしさ」
そういうと、ラウールは立ち去った。
 (どういう・・・事情かは・・わからないけど・・。でも・・・)
例え、人を殺した悪人でも、傷つき苦しむ者を放っておくわけにはいかない。
それに、チサトはオザワがただの悪人とは思えなかった。
 (うなされてたとき・・・あの人は・・本当に・・悲しそうだった・・・。それに・・)
チサトはベッド脇のテーブルに置いた十字架を思い出す。
あの十字架をオザワは大事そうに持っていた。
オザワのような男が自分からああいうものを身につけるのは考えにくい。
大切な人からの贈り物だったのかもしれない。
 そして、まだ気を失っている間、夢を見ていたのだろう、オザワの口からある名前が連呼されるのも聞いた。
夢の中で何度も呼ぶのだ、きっと大切な人だったに違いない。
(僕に・・・どれだけのことが・・出来るか・・・わからないけど・・・でも・・!!)
チサトは、身も心も傷を負っているオザワのために、出来ることは全てしようと決意を新たにした。


 同じ頃・・・・隣町の繁華街にある中規模のビル。
「む・・むうっうぅぅ!!むっむっむっ!!」
「それぇ!ひゃはぁ!どうだ!どうだっ!!」
ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!
苦痛に満ちたくぐもった声、他人をいたぶることに喜びを見出している歪んだ声、鞭が肌を打つ音が室内に響きわたる。
 苦悶の声の主は20代前半くらいの青年。
猿ぐつわを咬まされ、両手首を紐で縛られて抵抗出来なくされている。
身にまとった神父服と、首から下げたロザリオから神父と想像できた。
 神父らしい青年はテーブルに上半身をうつ伏せにし、お尻を突き出した体勢を取らされている。
上着は捲りあげられ、ズボンは下ろされており、むき出しになったお尻には鞭の跡。
あまりにも過酷な鞭打ちを受けたせいか、出血までしてしまっていた。
 「クフフフフ・・・」
神父の背後には、一人の男が笑みを浮かべて立っていた。
男はオザワと同年代かもう少し年上、同じアジア系で、こちらはオザワよりさらにすらりとしてより長身で、何だか蛇のような感じだった。
上着を脱ぎ捨てて半裸になっているため、背中に刻まれた刺青が汗ばみながら映っている。
その刺青は、罪人を様々な器具で責め立てる鬼の姿を描いたものだった。
 男の名はヤマダ。
オザワ同様、20年ほど前に欧州へ渡って来たヤクザの一人だった男だ。
こちらも組織が壊滅した後、逃げ出さずにそのままヨーロッパの裏社会に根を下ろした男だった。
 だが、一匹狼の道を選んだオザワとは異なり、こちらはうまく立ち回って在来の組織の構成員となることに成功した。
その後、着々と自身の勢力を増し、自身の組織を手にした上、幾つかの下部組織も抱えるまでにのし上がった。
 「いいぞ・・・いいぞ・・・。尻を叩かれ、苦悶に悶える若く美しい神父・・・最高だぁぁぁぁ・・・・・」
ヤマダは手にした鞭を舐め、嗜虐的な笑みを浮かべる。
「ヒィハアッ!ハァハアッッ!!」
狂ったような笑みと共に、男は鞭を振り下ろす。
鞭は神父のお尻に叩きつけられ、さらに血を流す。
鋭い鞭の音と共に、神父のお尻が切り裂かれ、さらに血が流れ落ちる。
 「ハァハァ・・・。神父の・・・血ぃぃぃ・・・」
危ない光を目に宿し、ヤマダは血まみれのお尻を舐めまわし始める。
散々舐めまわした末にようやく飽きたのか、顔を離す。
顔を密着させて舐めたものだから、顔が血に染まって凄いことになっていた。
 「さてと・・・シメといくか・・・・」
ヤマダは残酷な笑みを浮かべると、チャックを降ろして自身の欲望器官を出す。
そして、腰を押さえると、思い切り腰を進めた。
 「ん・・!!んむぐぅ!!むぐっ!むっ!むっ!むっ!!」
神父は無理やりに中へ侵入され、苦痛に顔を左右に振るう。
「ハッハアッ!いいぞっ!いいぞぉぉ~~~!!!」
神父の苦しみをよそに、ヤマダはさらに犯し続ける。
 「うほおっ!締まるっ!締まるゥぅ!やっぱり・・・若い・・神父は・・最高だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
狂った笑みを浮かべながら、ヤマダが叫んだときだった。
 不意にポケットの携帯電話が鳴った。
「あー?何のつもりだ?今は電話入れるなと言ってあるだろうが!!」
不機嫌極まりない声で、男は携帯に向かって言う。
 「すみません、ボス。ですが、オザワのことで報告があるそうです」
「チ・・・仕方ねえ。通せ」
電話を通して命令すると、ようやく男は神父から自身を抜きとる。
 「おぃ!いつまで寝てんだ!さっさと出てけ!!」
自分が散々にいたぶっておきながら、ヤマダは非情なことを言いやると、神父を無理やり起き上がらせ、蹴飛ばし、小突きながらドアまで引き連れていき、乱暴に追いだした。
 「おぃ。逃げねえように閉じ込めておけ!」
ドアの外に立って見張りをしていた、いかにも強面の男達にそう命令すると、一人が傷ついた神父を担ぎあげて下の階へ連れてゆく。
 「クソ・・・!!」
楽しみを邪魔され、ヤマダは不機嫌極まりない表情を浮かべる。
ヤマダは非常に歪んだ嗜好の持ち主で、若く美しい青年や少年、特に神父や修道士を好んでいた。
そういう若く美しい聖職者をいたぶり、レイプして泣き叫ぶ姿を見る。
それが、何よりの楽しみだった。
逃げずにヨーロッパに残ったのも、うまくこちらで権力を得て自分の歪んだ趣味を満足させるためだった。
実際、先ほど犯していた神父は、騙して借金を背負わせ、自身の性奴隷としたのである。
自分好みの若く美しい神父を奴隷とし、飽きるまでいたぶっては、ゴミくずのように捨てる。
そんな所業を繰り返していた。
 (そういや・・・あいつも飽きたよなぁ・・・。あと一、二回くらい犯したら殺すか)
葉巻を吸いながら、ヤマダは吐き気を催すようなことを考える。
そんな中、ヤマダ自身の部下と共に、一人の男が入って来た。
 入って来たのは身なりのいい白人の男。
このビルの持ち主でヤマダの部下だ。
元々は独立した組織のボスだったが、中小組織がうまくやっていくためには、大組織の庇護が必要だった。
そのため、ヤマダの傘下に入り、手先として使われている日々だった。
「で、どういうことだ?」
ヤマダはふんぞり返って配下に尋ねる。
「はい、部下が探って来たんですが、オザワの野郎はどうも隣のダンジュー市に逃げ込んだそうです」
「ダンジュー市?あん?でっかい修道院があるって街か?」
「はい。俺の部下にちょうど向こうで商売やってるやつがいるんで、探らせているところです」
「ふん・・。まあいい。とっとと探して来い」
「はっ。失礼します」
そういって部下が立ち去ろうとしたときだった。
 不意にヤマダの護衛達が立ちはだかったかと思うと、左右から両腕を押さえて動きを封じてしまう。
同時にヤマダが両手にナックルダスター(手にはめてパンチ力を強化する小型武器)をはめた。
 「ボス・・な・・何を?」
「あーん?貴様、言っておいたはずだが?俺は、お楽しみを邪魔されるのが何よりも嫌いなんだよ!!」
そういうと、ヤマダは拳を構える。
ナックルダスターはよりにもよってトゲが生えたタイプ。
それだけに皮膚や肉が切り裂かれ、より大きなダメージを負うことになる。
 「ひ・・!お・・お許しを・・!!」
必死に許しを乞う下部組織のボスだったが、ヤマダは容赦なく顔面に拳を叩きつける。
「ごああっっ!!」
男の悲鳴と共に顔が切り裂かれ、血が出る。
そこへさらにヤマダは顔や腹へ幾度も容赦なく拳を叩きつけた。


 「お待ちしてま・・・ど・・どうしたんですか!?」
カジノの支配人は、現れたボスの顔を見るなり、驚きの声を上げる。
ボスの顔は包帯でぐるぐる巻き状態になっており、目と顎の部分だけが出ているような状態だったからだ。
 「く・・。ボスにな・・・。お楽しみを邪魔したってんで・・・」
「ああ・・・なるほど・・・・」
支配人は思わず同情するような顔になる。
ボスのボスであるヤマダのことは支配人も聞いていたからだ。
 「それより・・・何かわかったか?」
「はい。奴をご覧下さい」
支配人は、監視カメラ映像に映る一人の若者を指す。
そこには、私服姿のラウールがルーレットに興じている姿が映っていた。
 「あれは?」
「ダンジュー修道院のラウールって修道士です。金持ちのボンボンで遊び好きなもんで、よく抜け出しては夜遊びしてます。同業者の間ではよく知られてる奴ですよ」
「なるほど?それが?」
「オザワが逃げ込んだのが修道院のある山なんです。その後誰も見ていないってわけなんですよ」
「そういうことか・・・」
「少し締めあげてやれば何かわかると思います」
「わかった。そういうことなら任せる」


 (あわわわわ・・・どうしよう・・)
ラウールは顔面蒼白になっていた。
いつものように遊んでいたら、カジノの用心棒に呼ばれたのだ。
支配人室へ呼ばれたかと思うと、いかつくて強面な男達に取り囲まれてしまった。
 「さて・・実はちょっとお尋ねしたいことがありましてねぇ」
支配人はにこやかな、だが目は笑っていない笑みを浮かべる。
「な・・何ですか?」
恐る恐るラウールは尋ねる。
「この男、知りませんかね?」
そう言って支配人が出した写真に、ラウールは一瞬ギクリとする。
オザワの写真だったからだ。
 「さ、さぁ。ぼ、僕は知らないですよ」
「そうですか・・・・」
ラウールの返事に支配人は淡々とした声で言う。
直後、不意に妙な音が聞こえて来た。
 何だと思ってラウールが振り向くと、何故か男達が砥石を用意し、ナイフを研いでいる。
(ちょ、ちょちょっと待ってよ!?)
支配人と男達をラウールは交互に見やる。
誰も何も言わず、ただひたすら砥石の音のみが響く。
 (何!?まさか・・言わないと殺す気!?)
砥石の音と共に、ラウールの恐怖はどんどん高まっていく。
ついに、ラウールは耐えきれなくなった。
「ひぃぃぃぃ!!言います!言いますってば!だから助けて下さいっっ!!」
「物分かりがよくて助かりますよ。さぁ、ではお願いしますよ」
「は・・はぃぃぃ・・・・」
恐怖に負けたラウールは、オザワに出会って以来のことを全てしゃべってしまった。


 ―続く―

プロフィール

山田主水

Author:山田主水
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