ザ・クリーナー(後始末屋)5 暗鬼・中村主水(スパ少、二次創作要素あり)
(注:スパが少なめです。また、必殺シリーズの中村主水が登場し、またかなり改変を加えております。許容出来る方のみご覧下さい)
ネオンサインが一晩中輝き、喧騒激しい大都会。
しかし、そんな都会の喧騒とは全くかけ離れた場所もある。
緑豊かな公園の傍ら、ひっそりと佇むようにその寺はあった。
ろくに手入れもされていないのか、廃寺といっていいほど荒れ果てた寺にふらふらと一人の女が入ってゆく。
境内に入った女はその中でもさらに奥まったひっそりとした場所に建てられた小さな祠に向かう。
祠の前にやって来ると、女は供え物を置くための石の上に出せるだけの金を置く。
そして必死の形相と声で祠に向かって訴えはじめた。
しばらくして、やがてどこからともなく声が聞こえてくる。
「本当にそれを望むのかい?お前はこの場で死んだ上、何百年にも渡って責め苦を受けるんだぜ。先に死んじまった家族のとこにも行けなくなるぜ?」
「構い・・ません・・。あの子が亡くなった今・・・私にあるのは・・恨み・・憎しみ・・だけ・・。今なお・・・大手を振って・悪事をしているなどということを・・考えるだけで・・。お願いです・・この・・無念・・恨み・・・是非とも・・お願いします!!」
「わかった・・・お前さんの・・恨みと・・魂・・受け取った」
「あ・・・ありがとう・・ございます・・・」
直後、不思議なことが起こった。
女の胸元がほのかに光ったかと思うと、そこから赤い光の糸が現れ、祠に備えた金とつながる。
同時に金がジワリジワリと赤く染め上がってゆき、対象的に女の肌は死者のように蒼白に変わってゆく。
やがて、金が完全に赤く染め上がると同時に女は息絶える。
女が息絶えるや、暗がりの中から手が現れ、赤く染め上がった金を掴んでそのまま消え去った。
「ふふふ・・・ふふふふ・・笑いがとまらぬなぁ」
修験者を思わせる格好をした男は、金ピカの悪趣味なデザインの像や祭壇の前でニヤニヤと卑しげな笑みを浮かべて金勘定をしている。
男はある新興宗教の教祖で、奇跡を起こすと称して様々なパフォーマンスを行い、最近とみに勢力を拡大していた。
「ふふふ・・それにしても・・しがない三流占い師だったこの俺が・・・今や教祖様。全く・・この本様様だなぁ」
男はまるで恋人でも抱くかのような、後生大事な手つきで抱えている本を見つめている。
本は今にもカビが生えそうなくらいの古書。
表装などからオカルトがらみの本だと推察できた。
男が悦に入っているとき、不意にどこからともなく鳴き声が聞こえてきた。
それはこの世のものとは思えないもので、聞いているだけで背筋が寒くなりそうな代物。
「ああくそ・・・また喚いてるのか・・・全く・・」
愚痴をもらしながら教祖は部屋の片隅へ行く。
隅にある床板を上げると、下から鉄格子が現れる。
教祖は身を屈めて、鉄格子の向こうにある下の空間を覗き込んだ。
鉄格子の下の部屋は頑丈な石材で四方を囲んだ厳重なつくりになっている。
その部屋の中で、何かがギャアギャアと声を上げて喚き叫んでいた。
声の主は身長は1メートル程度、筋肉質な体格をした醜悪な感じの人型の生き物。
口は大きく裂けて鋭い牙が並んでおり、頭には角が生えている。
その生き物は一匹だけでなく、数匹が何やら呪文だかお経のようなものを刻み込んだ鉄製の鎖で繋がれた姿で、叫び室内を走り回っていた。
「うるさいぞ!飯の時間はまだだろうが!!」
怪物たちに教祖はそう怒鳴る。
「くっそ・・・いつもいつも腹すかしやがって・・・。奇跡を起こせなきゃ飢え死にさせてやるところだぜ・・」
苦虫を噛み潰したような表情で教祖はそう呟く。
彼らの正体は下級の鬼。
教祖が持っているオカルト書に記された魔術によって呼び出された存在だ。
この鬼達を行使して重病患者を治す等の奇跡を行い、勢力を拡大して来たのである。
「クソ・・全然おさまらん・・仕方ない・・エサでも食わせるか」
そう呟くと、教祖は呼び鈴を鳴らす。
すると、しばらくして修験者風の姿をした別の男が現れた。
格好こそ宗教者風だが、その人相は典型的な悪人面で、悪辣な商売でもやっている方が似合っていた。
「どうしたんですかい、ダンナ?」
男は悪党風な口調で尋ねる。
「こいつらがうるさいんでな。とっ捕まえた奴らを食わせてやれ」
「へい」
命令を受けた男が去ってしばらくすると、鬼達のいる室内に変化が現れる。
壁の一室が開いたかと思うや、突き飛ばされるようにしてホームレスらしい男が入って来た。
それまで暴れていた鬼達はホームレスを見るや、目の色を変えて飛びかかる。
哀れな男は逃げる暇もなく、四方八方から引き裂かれ、むさぼり食われてしまった。
(ったく・・・生きた人間じゃねえと食わんとはな。全く手のかかる奴らだ)
胸の悪くなるような光景を、まるで食事でもするかのように平然と見下ろしながら教祖は呟く。
鬼達の食べ物は人肉。
そのため、人をさらったり、あるいは信者を騙しては餌として与えていた。
(まあいい。馬鹿な奴らにお布施だの何だの言ってインチキ数珠でも売りつけて巻き上げりゃいいだけのことだ。金さえありゃサツだろうがブンヤだろうが黙らせられる)
そんなことをインチキ宗教者が考えていたときだった。
突然、ドアが開く音がし、思わず教祖は振り返る。
すると、やくざ風な手下が再び現れた。
「おぃ、どうした?呼んでなどいないぞ」
思わず教祖はムッとした表情で言うが、何だか奇妙な表情で部下の男はフラフラとこちらへやって来る。
やがて、教祖の目の前までやって来るや、そのまま倒れ込むようにして教祖へ寄りかかった。
「おぃ!何を・・・」
ズルズルと床へ沈むように倒れゆく部下に、さすがに教祖も異様に思う。
だが、床に倒れ込んだ部下の背中を見るやギクリとする。
部下の背中に見たのは刺し傷。
刃物で背後から突き刺されたのは容易に想像できた。
「な・・・!!誰か!誰かいないのか!!」
思わず教祖は声を上げて助けを求める。
「へぇ・・・ここにおりますだ」
返すようにして、何だか頭の巡りが悪そうな男が現れた。
「ノロマか。おい!早く他の者を呼んで来い」
「へぇい・・。それにしても・・何があったんですだか?」
「ええい!見てわからんのか!全く・・このノロマがっ!!」
教祖は刺殺体となっている部下の男を指しながら罵る。
現れた男は教祖の召使いとして使われている男で、知的障害者であることからノロマというあだ名で使われていた。
「はれ?この人寝てるんですか?」
「だから違うといってるだろうが!!ん?どうした?」
教祖はノロマこと召使いの男がキョロキョロしだしたことに気付く。
「おい、何をしている?」
「へぇ。何か怪しい奴を見かけたみたいで・・」
「何!?どこだ!」
思わず教祖が身を乗り出したときだった。
「がふっっ!!」
苦痛の声と共に、教祖の表情が苦悶に歪む。
視線を落とすと、悪徳教祖の腹に深々と脇差が突き立てられているのが見えた。
ゆっくりと視線を移動してゆくと、ノロマが逆手に脇差を持って背を向けたまま突き刺している。
「な・・・貴様・・・」
震える声で教祖はノロマへ呼びかける。
「ノロマで悪かったな。鬼どもがお待ちかねだぜ」
ノロマが脇差を引き抜くと同時に、教祖はフラフラと後ろへ歩く。
いつの間にか鉄格子が無くなっており、教祖の身体はドサリと下の部屋へ落下する。
鬼達は落ちてきた教祖を見るや、咆哮と共に飛びかかり、そのまま引き裂いて食ってしまった。
主人が鬼達の餌食になるのを見届けるや、ノロマの全身にひびが走る。
やがて、乾ききった粘土のようになったかと思うと、パラパラと崩れ落ち、中から全く別の姿が現れた。
現れたのは何とサムライ。
初老らしいそのサムライは長めの面立ちで、茶色の羽織と地味な色合いのマフラーを身につけ、大小刀と一緒に十手を差している。
額には二本の曲がった牙のような角が生えており、この世のものではないことを示していた。
サムライの名は中村主水(なかむらもんど)。
江戸末期の奉行所同心(警官)だった男だ。
しかし、それは表向きの姿。
彼は人間時代、仕事人と呼ばれる、悪党を専門に狙う殺し屋だった。
その世界でも第一人者中の第一人者であり、数え切れないほどの悪党を葬り去って来た。その中には老中をはじめとする当時の最高権力者も多数存在し、また桜田門外の変で命を落とした大老・井伊直弼(いいなおすけ)など、歴史に名を残した有名人の死にも密かに関わっているとも言われている。
それゆえ、かの『人斬り抜刀斎』こと緋村剣心、『子連れ狼』拝一刀などとともに伝説の暗殺者として知られている。
その暮らしぶりは現代もあまり変わらず、鬼として魔族の世界で小役人として働く傍ら、強い恨みを抱く人々によって呼び出され、命と魂、地獄の業火で殺人依頼の罪で焼かれる苦しみと覚悟と引き換えに、恨みを晴らし悪人を葬る魔族版仕事人として今なお現役だった。
「これで・・・満足か?」
主水は傍らに立って今や肉片と化した悪徳教祖を眺めている依頼人の霊に語りかける。
「はい・・。これで・・ようやく・・・騙されて全財産をみつがされた挙句・・・金を取れなくなるや、騙されてボロ雑巾のように鬼達に食い殺された家族の・・恨みを・・晴らせました・・」
「だったら・・行くかい、地獄へ」
主水がそう語りかけると、依頼人は静かに頷く。
やがてそのまま二人ともかき消すように消えてしまった。
それからしばらく経った頃・・・・。
突然、天井にブラックホールのようなものが現れたかと思うや、何かが床に飛び降りた。
現れたのは目の覚めるような美貌の若い女。
気の強そうな感じで、紫色の長い髪、立派な角、蝙蝠のような翼に逆トゲ付きの尻尾の持ち主。
キアラだ。
「やっと・・見つけたぜ~~~」
キアラは死んだ教祖が持っていた本を取りあげるや、ホッとした表情を浮かべる。
(落っことしちまってどこにやったか全然わかんなかったからな。時空の狭間に落ちた後、そっから転がり落ちて小悪党の手に入りやがったからな。ったく手こずらせやがって)
この本は元々キアラが持っていた、いや正確にはネロのところから数日前に持ち出したもの。
ところが空を飛んでいるときにうっかり落としてしまい、バレる前に戻そうと今まで必死で探していたのである。
ちなみに、落ちた本は時空の狭間と呼ばれる、一種の異空間に入り込んでしまっていた。
この空間は強力な磁場のようなもので、魔力が届かず、探索用の魔法を使っても空間内に渦巻く磁場に邪魔されて見つけられない。
目的のものを見つけるには本が磁場の外へ出るのを待たねばならなかった。
その後、磁場の働きによって本はタイムスリップして数年前、しがない三流占い師だった男の手に落ち、男を絶大な財力と権勢を誇る悪徳教祖へと押し上げたというわけだった。
「ったく・・これで野郎に気づかれる前に・・?ん?」
キアラは室内を見回し、自分以外の魔族の気配が微かに残っていることに気付く。
(野郎じゃねえ・・。だが・・・誰か・・きやがった・・・)
とたんにキアラの表情が変わりだす。
(マズイ・・マズイぜ・・。そいつが誰だか知らねえが・・・俺が本落っことして・・・そいつが人間の手に渡っちまったことがバレるかも・・しれねぇ・・)
キアラは強烈な危機感を抱く。
魔族の法では、契約を結んだ場合などを除き、人間や人間界に魔族界の品々が流出することを禁じている。
だからこそクリーナーという職業が存在するわけである。
(くっそ・・どこの・・どいつだ。絶対突きとめて・・しゃべらねえようシメてやる!!)
それからさらに数日ほど経ったある日・・・関東のどこかにある魔物たちの役所。
終業の鐘が鳴ると同時に、大門からどっと大量の鬼達が姿を現した。
疲れた様子で、カバンを持ち、家路へと向かうその姿は、人間のサラリーマンや公務員とほとんど変わらない。
(は~っ。疲れた疲れた・・・・)
同僚達に混じって、中村主水もため息をつきながら大門から通りへと出てゆく。
その中村主水を物陰に隠れてジッと見つめている者がいた。
(あんにゃろうか・・・。しがない公務員かよ)
拍子抜けしつつもキアラはホッとする。
(あんなオヤジならちょっとシメりゃ誰にも話さねえな)
そう判断したのだ。
キアラはゆっくりと主水の後をつけてゆく。
何度か通りを曲がるうち、人寂しいところへ入ってゆく。
他人が見ればキアラの方が誘い込まれていると見えただろう。
だが、主水を追ってシメることで頭が一杯なキアラは気付いていない。
やがて、主水が侘しい辻堂のような寺の境内へ入ってゆくのを見届けると、キアラも後を追って境内へ入ってゆく。
辻堂の前で、主水はぼーっとした表情で小堂を見つめている。
(何してやがんだ?まあイイ。とにかくシメちまうか)
そう決めると、キアラは持って来たものを出す。
手にしたのは3~40センチの木製の柄にトゲ付き鉄球の頭部をつけた一種の棍棒。
モーニングスターと呼ばれ、ファンタジーものにもときどき出てくる武器だ。
何故か柄には『コンペイトー1号』などと刻まれている。
コンペイトー1号を振り上げるや、キアラは勢いよく飛び出し、主水の後頭部めがけて振り下ろした。
思い切り後頭部を強打されるや、主水が前につんのめる。
直後、主水の足元から一瞬にして大きな魔法陣が展開した。
(やべっっ!!)
罠だと気付いたときには既に遅く、魔法陣が発動したかと思うや、足元全体がねばねばした白いモチのようなものに捕らわれてしまう。
「チクショウっ!俺ゃあ鳥じゃねえぞ!!」
巨大なとりもちにかかったことに気付き、思わずキアラは声を荒げる。
だが、罠を罵っている余裕などなかった。
あっという間に地面からキアラを取り囲むように鉄柱が現れたかと思うと、光る糸がキアラの身体を挟み込むように鉄柱同士を連結する。
(や・・やべぇ・・)
ギリギリ自分の身体に触れそうになっている光の糸にキアラはさらに危機感を募らせる。
とりもちで足を封じられた上、攻撃力のある光糸を張り巡らされたために全く抵抗できなくなってしまったのだ。
二重三重に罠を張り巡らせ、完全に抵抗を封じ込めるその老獪さにキアラは冷や汗が出てくる。
不意にキアラは背中に冷水を浴びせられたかのような感覚を覚える。
強烈な殺気を感じたのだ。
(やべ!!来る来る来る来る来る来る来る来る来るっ!!!!)
キアラは思わず身体を動かそうとするが、そのとき張り巡らされた光の糸が身体に触れてしまう。
触れた瞬間、強烈な電撃が走った。
「ふべべべ!!!!」
思わず苦痛の声を漏らした直後、今度は腰に焼け火箸を突っ込まれたような苦痛を感じる。
やがて、視界が真っ暗になり、そのままキアラは意識を失った。
目を覚ましたキアラの目に飛び込んできたのは見慣れた天井だった。
「な・・何で・・・」
「気付いたか」
聞き覚えのある声にキアラは思わず振り返る。
すると、ベッドの傍らにネロの姿があった。
「おい!ここはどこだよ!?」
「お前の部屋だろう。忘れたのか?」
「そりゃわかってんだよ!何でこんなところにいやがる!!ん?」
身体の異和感に気づき、思わずキアラが視線を下げると、腹にグルグルと包帯が巻かれている。
「く・・・何だこりゃ・・・」
「お前は後ろから腰を刺されたんだ。覚えていないのか?」
「くそっ!そうだ!あの野郎っ!絶対シメてやるっ!!」
キアラは気を失う直前のことを思い出すや、カッとなる。
「やめておけ。貴様では勝てん」
「んだとっ!馬鹿にしてやがんのか!!」
「慎重と無謀は別物だ。それに・・・あの男に・・決して手を出してはならん・・」
「ああん?どういうこったよ?」
「あの男は・・・ただの小役人ではない・・・。凄腕の殺し屋だ」
「んだとぉ!?ただのオッサンにしか見えねえぞ!」
「見た目で相手を判断するな。痛い目を見たのを忘れたか?」
「う・・・うっせえよ・・・」
図星を刺され、思わずキアラは言葉に詰まる。
「とにかく今は休め。全てはそれからだ」
ネロはそういうと部屋を出てゆく。
「冗談じゃねえ!こんなところでオチオチ休んでなんかいられるかってんだよ!!」
キアラはそういうとベッドから出る。
(このままノコノコいやがったらケツ叩かれんのはわかってんだよ!そうとわかって誰が大人しくしてるかってんだ!!)
キアラは心の中で毒づくと、窓を開け、飛び降りる。
「へへ・・うまくい・・」
無事着地したキアラが思わずニシシとほくそ笑んだそのとき、足元が光ったかと思うや、魔法陣が発動する。
「チクショウっ!またかよ~~~~!!!」
思わずキアラは毒づくが、後の祭り。
再びキアラは目の前が暗くなるや、そのまま気を失った。
ビッダァ~ンッ!バッジィ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビッバダァ~ンッ!
「畜生っ!離せっ!離しやがれっ!このクサレ○○○ッッ!!」
お尻を叩く音が響き渡る中、キアラは相変わらずの暴言を吐く。
「全く・・・勝手なことをした挙句・・・性懲りもなく逃げ出すとは・・・」
やや呆れた感じでネロは弟子のお尻めがけて手を振り下ろす。
「うっせえよっ!てめえにこんなことされる筋合いねえっての!!さっさと降ろしやがれ!!」
「いい加減にしろ!!」
ビッダァ~~~~ンンンッッッ!!!!
思わずネロは容赦のない平手打ちをキアラのお尻に叩きこむ。
「ぎゃああああっっ!!テメエッ!殺気込めて叩いてんだろっ!!」
キアラは振り返るや、噛みつかんばかりの勢いで叫ぶ。
「貴様・・・全然わかっていないのか?何故・・・自分が生きているのか?」
「うっせえなっ!それがどうしたってんだ!!」
「わざと生かしておいたのだ、奴は。奴は急所を外してお前を刺し、しかも出血しないように凶器も抜かなかった。しかも、あの後正体を明かさないようにだが、俺の元にまで連絡もよこしたのだ」
「あん?随分甘えやつだな?」
「違う。これは奴の警告だ。二度と人のことに首を突っ込むな。次は命がないとな」
「んだあっ!馬鹿にしやがって!次こそシメてやるっっ!!」
「まだ・・・わからんのか・・・」
自分がどれだけ危ない事態に首を突っ込んだかわかっていないキアラにネロの表情が険しくなる。
不意にネロは手を別の方向へ伸ばしたかと思うと、魔力で何かを引き寄せる。
ネロが魔法で取ったものを見るや、キアラの表情が変わる。
「お・・おいっ!ちょっと待て待て待て!待ちやがれっ!」
ネロが大きなパドルを手にしたのを見ると、さすがにキアラの顔が青ざめる。
「おのれがどれだけ危険なことをしたのか・・・その身でしっかり覚らせてやろう」
「やめろ~~~っっ!!殺す気か~~~~~!!!!」
キアラは必死で逃げようとするが、ネロはしっかりと押さえ込むとパドルを振り下ろす。
その後、激しくパドルを打ち降ろす音と若い娘の叫び声、厳しく叱りつける男の声が入り混じり、長い長い間響き渡った。
―完―
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