ザ・クリーナー(後始末屋)5 暗鬼・中村主水(スパ少、二次創作要素あり)



(注:スパが少なめです。また、必殺シリーズの中村主水が登場し、またかなり改変を加えております。許容出来る方のみご覧下さい)


 ネオンサインが一晩中輝き、喧騒激しい大都会。
しかし、そんな都会の喧騒とは全くかけ離れた場所もある。
緑豊かな公園の傍ら、ひっそりと佇むようにその寺はあった。
ろくに手入れもされていないのか、廃寺といっていいほど荒れ果てた寺にふらふらと一人の女が入ってゆく。
 境内に入った女はその中でもさらに奥まったひっそりとした場所に建てられた小さな祠に向かう。
祠の前にやって来ると、女は供え物を置くための石の上に出せるだけの金を置く。
そして必死の形相と声で祠に向かって訴えはじめた。
しばらくして、やがてどこからともなく声が聞こえてくる。
 「本当にそれを望むのかい?お前はこの場で死んだ上、何百年にも渡って責め苦を受けるんだぜ。先に死んじまった家族のとこにも行けなくなるぜ?」
「構い・・ません・・。あの子が亡くなった今・・・私にあるのは・・恨み・・憎しみ・・だけ・・。今なお・・・大手を振って・悪事をしているなどということを・・考えるだけで・・。お願いです・・この・・無念・・恨み・・・是非とも・・お願いします!!」
「わかった・・・お前さんの・・恨みと・・魂・・受け取った」
「あ・・・ありがとう・・ございます・・・」
 直後、不思議なことが起こった。
女の胸元がほのかに光ったかと思うと、そこから赤い光の糸が現れ、祠に備えた金とつながる。
同時に金がジワリジワリと赤く染め上がってゆき、対象的に女の肌は死者のように蒼白に変わってゆく。
やがて、金が完全に赤く染め上がると同時に女は息絶える。
女が息絶えるや、暗がりの中から手が現れ、赤く染め上がった金を掴んでそのまま消え去った。


 「ふふふ・・・ふふふふ・・笑いがとまらぬなぁ」
修験者を思わせる格好をした男は、金ピカの悪趣味なデザインの像や祭壇の前でニヤニヤと卑しげな笑みを浮かべて金勘定をしている。
男はある新興宗教の教祖で、奇跡を起こすと称して様々なパフォーマンスを行い、最近とみに勢力を拡大していた。
 「ふふふ・・それにしても・・しがない三流占い師だったこの俺が・・・今や教祖様。全く・・この本様様だなぁ」
男はまるで恋人でも抱くかのような、後生大事な手つきで抱えている本を見つめている。
本は今にもカビが生えそうなくらいの古書。
表装などからオカルトがらみの本だと推察できた。
 男が悦に入っているとき、不意にどこからともなく鳴き声が聞こえてきた。
それはこの世のものとは思えないもので、聞いているだけで背筋が寒くなりそうな代物。
「ああくそ・・・また喚いてるのか・・・全く・・」
愚痴をもらしながら教祖は部屋の片隅へ行く。
隅にある床板を上げると、下から鉄格子が現れる。
教祖は身を屈めて、鉄格子の向こうにある下の空間を覗き込んだ。
 鉄格子の下の部屋は頑丈な石材で四方を囲んだ厳重なつくりになっている。
その部屋の中で、何かがギャアギャアと声を上げて喚き叫んでいた。
声の主は身長は1メートル程度、筋肉質な体格をした醜悪な感じの人型の生き物。
口は大きく裂けて鋭い牙が並んでおり、頭には角が生えている。
その生き物は一匹だけでなく、数匹が何やら呪文だかお経のようなものを刻み込んだ鉄製の鎖で繋がれた姿で、叫び室内を走り回っていた。
 「うるさいぞ!飯の時間はまだだろうが!!」
怪物たちに教祖はそう怒鳴る。
「くっそ・・・いつもいつも腹すかしやがって・・・。奇跡を起こせなきゃ飢え死にさせてやるところだぜ・・」
苦虫を噛み潰したような表情で教祖はそう呟く。
彼らの正体は下級の鬼。
教祖が持っているオカルト書に記された魔術によって呼び出された存在だ。
この鬼達を行使して重病患者を治す等の奇跡を行い、勢力を拡大して来たのである。
 「クソ・・全然おさまらん・・仕方ない・・エサでも食わせるか」
そう呟くと、教祖は呼び鈴を鳴らす。
すると、しばらくして修験者風の姿をした別の男が現れた。
格好こそ宗教者風だが、その人相は典型的な悪人面で、悪辣な商売でもやっている方が似合っていた。
「どうしたんですかい、ダンナ?」
男は悪党風な口調で尋ねる。
「こいつらがうるさいんでな。とっ捕まえた奴らを食わせてやれ」
「へい」
命令を受けた男が去ってしばらくすると、鬼達のいる室内に変化が現れる。
壁の一室が開いたかと思うや、突き飛ばされるようにしてホームレスらしい男が入って来た。
 それまで暴れていた鬼達はホームレスを見るや、目の色を変えて飛びかかる。
哀れな男は逃げる暇もなく、四方八方から引き裂かれ、むさぼり食われてしまった。
(ったく・・・生きた人間じゃねえと食わんとはな。全く手のかかる奴らだ)
胸の悪くなるような光景を、まるで食事でもするかのように平然と見下ろしながら教祖は呟く。
鬼達の食べ物は人肉。
そのため、人をさらったり、あるいは信者を騙しては餌として与えていた。
 (まあいい。馬鹿な奴らにお布施だの何だの言ってインチキ数珠でも売りつけて巻き上げりゃいいだけのことだ。金さえありゃサツだろうがブンヤだろうが黙らせられる)
そんなことをインチキ宗教者が考えていたときだった。


 突然、ドアが開く音がし、思わず教祖は振り返る。
すると、やくざ風な手下が再び現れた。
「おぃ、どうした?呼んでなどいないぞ」
思わず教祖はムッとした表情で言うが、何だか奇妙な表情で部下の男はフラフラとこちらへやって来る。
やがて、教祖の目の前までやって来るや、そのまま倒れ込むようにして教祖へ寄りかかった。
 「おぃ!何を・・・」
ズルズルと床へ沈むように倒れゆく部下に、さすがに教祖も異様に思う。
だが、床に倒れ込んだ部下の背中を見るやギクリとする。
部下の背中に見たのは刺し傷。
刃物で背後から突き刺されたのは容易に想像できた。
 「な・・・!!誰か!誰かいないのか!!」
思わず教祖は声を上げて助けを求める。
「へぇ・・・ここにおりますだ」
返すようにして、何だか頭の巡りが悪そうな男が現れた。
「ノロマか。おい!早く他の者を呼んで来い」
「へぇい・・。それにしても・・何があったんですだか?」
「ええい!見てわからんのか!全く・・このノロマがっ!!」
教祖は刺殺体となっている部下の男を指しながら罵る。
 現れた男は教祖の召使いとして使われている男で、知的障害者であることからノロマというあだ名で使われていた。
「はれ?この人寝てるんですか?」
「だから違うといってるだろうが!!ん?どうした?」
教祖はノロマこと召使いの男がキョロキョロしだしたことに気付く。
 「おい、何をしている?」
「へぇ。何か怪しい奴を見かけたみたいで・・」
「何!?どこだ!」
思わず教祖が身を乗り出したときだった。
 「がふっっ!!」
苦痛の声と共に、教祖の表情が苦悶に歪む。
視線を落とすと、悪徳教祖の腹に深々と脇差が突き立てられているのが見えた。
 ゆっくりと視線を移動してゆくと、ノロマが逆手に脇差を持って背を向けたまま突き刺している。
「な・・・貴様・・・」
震える声で教祖はノロマへ呼びかける。
「ノロマで悪かったな。鬼どもがお待ちかねだぜ」
ノロマが脇差を引き抜くと同時に、教祖はフラフラと後ろへ歩く。
いつの間にか鉄格子が無くなっており、教祖の身体はドサリと下の部屋へ落下する。
鬼達は落ちてきた教祖を見るや、咆哮と共に飛びかかり、そのまま引き裂いて食ってしまった。


 主人が鬼達の餌食になるのを見届けるや、ノロマの全身にひびが走る。
やがて、乾ききった粘土のようになったかと思うと、パラパラと崩れ落ち、中から全く別の姿が現れた。
 現れたのは何とサムライ。
初老らしいそのサムライは長めの面立ちで、茶色の羽織と地味な色合いのマフラーを身につけ、大小刀と一緒に十手を差している。
額には二本の曲がった牙のような角が生えており、この世のものではないことを示していた。
 サムライの名は中村主水(なかむらもんど)。
江戸末期の奉行所同心(警官)だった男だ。
しかし、それは表向きの姿。
彼は人間時代、仕事人と呼ばれる、悪党を専門に狙う殺し屋だった。
その世界でも第一人者中の第一人者であり、数え切れないほどの悪党を葬り去って来た。その中には老中をはじめとする当時の最高権力者も多数存在し、また桜田門外の変で命を落とした大老・井伊直弼(いいなおすけ)など、歴史に名を残した有名人の死にも密かに関わっているとも言われている。
それゆえ、かの『人斬り抜刀斎』こと緋村剣心、『子連れ狼』拝一刀などとともに伝説の暗殺者として知られている。
その暮らしぶりは現代もあまり変わらず、鬼として魔族の世界で小役人として働く傍ら、強い恨みを抱く人々によって呼び出され、命と魂、地獄の業火で殺人依頼の罪で焼かれる苦しみと覚悟と引き換えに、恨みを晴らし悪人を葬る魔族版仕事人として今なお現役だった。
「これで・・・満足か?」
主水は傍らに立って今や肉片と化した悪徳教祖を眺めている依頼人の霊に語りかける。
「はい・・。これで・・ようやく・・・騙されて全財産をみつがされた挙句・・・金を取れなくなるや、騙されてボロ雑巾のように鬼達に食い殺された家族の・・恨みを・・晴らせました・・」
「だったら・・行くかい、地獄へ」
主水がそう語りかけると、依頼人は静かに頷く。
やがてそのまま二人ともかき消すように消えてしまった。


 それからしばらく経った頃・・・・。
突然、天井にブラックホールのようなものが現れたかと思うや、何かが床に飛び降りた。
現れたのは目の覚めるような美貌の若い女。
気の強そうな感じで、紫色の長い髪、立派な角、蝙蝠のような翼に逆トゲ付きの尻尾の持ち主。
キアラだ。
 「やっと・・見つけたぜ~~~」
キアラは死んだ教祖が持っていた本を取りあげるや、ホッとした表情を浮かべる。
(落っことしちまってどこにやったか全然わかんなかったからな。時空の狭間に落ちた後、そっから転がり落ちて小悪党の手に入りやがったからな。ったく手こずらせやがって)
この本は元々キアラが持っていた、いや正確にはネロのところから数日前に持ち出したもの。
ところが空を飛んでいるときにうっかり落としてしまい、バレる前に戻そうと今まで必死で探していたのである。
ちなみに、落ちた本は時空の狭間と呼ばれる、一種の異空間に入り込んでしまっていた。
この空間は強力な磁場のようなもので、魔力が届かず、探索用の魔法を使っても空間内に渦巻く磁場に邪魔されて見つけられない。
目的のものを見つけるには本が磁場の外へ出るのを待たねばならなかった。
その後、磁場の働きによって本はタイムスリップして数年前、しがない三流占い師だった男の手に落ち、男を絶大な財力と権勢を誇る悪徳教祖へと押し上げたというわけだった。
 「ったく・・これで野郎に気づかれる前に・・?ん?」
キアラは室内を見回し、自分以外の魔族の気配が微かに残っていることに気付く。
(野郎じゃねえ・・。だが・・・誰か・・きやがった・・・)
とたんにキアラの表情が変わりだす。
(マズイ・・マズイぜ・・。そいつが誰だか知らねえが・・・俺が本落っことして・・・そいつが人間の手に渡っちまったことがバレるかも・・しれねぇ・・)
キアラは強烈な危機感を抱く。
魔族の法では、契約を結んだ場合などを除き、人間や人間界に魔族界の品々が流出することを禁じている。
だからこそクリーナーという職業が存在するわけである。
(くっそ・・どこの・・どいつだ。絶対突きとめて・・しゃべらねえようシメてやる!!)


 それからさらに数日ほど経ったある日・・・関東のどこかにある魔物たちの役所。
終業の鐘が鳴ると同時に、大門からどっと大量の鬼達が姿を現した。
疲れた様子で、カバンを持ち、家路へと向かうその姿は、人間のサラリーマンや公務員とほとんど変わらない。
 (は~っ。疲れた疲れた・・・・)
同僚達に混じって、中村主水もため息をつきながら大門から通りへと出てゆく。
その中村主水を物陰に隠れてジッと見つめている者がいた。
 (あんにゃろうか・・・。しがない公務員かよ)
拍子抜けしつつもキアラはホッとする。
(あんなオヤジならちょっとシメりゃ誰にも話さねえな)
そう判断したのだ。
 キアラはゆっくりと主水の後をつけてゆく。
何度か通りを曲がるうち、人寂しいところへ入ってゆく。
他人が見ればキアラの方が誘い込まれていると見えただろう。
だが、主水を追ってシメることで頭が一杯なキアラは気付いていない。
やがて、主水が侘しい辻堂のような寺の境内へ入ってゆくのを見届けると、キアラも後を追って境内へ入ってゆく。
 辻堂の前で、主水はぼーっとした表情で小堂を見つめている。
(何してやがんだ?まあイイ。とにかくシメちまうか)
そう決めると、キアラは持って来たものを出す。
手にしたのは3~40センチの木製の柄にトゲ付き鉄球の頭部をつけた一種の棍棒。
モーニングスターと呼ばれ、ファンタジーものにもときどき出てくる武器だ。
何故か柄には『コンペイトー1号』などと刻まれている。
 コンペイトー1号を振り上げるや、キアラは勢いよく飛び出し、主水の後頭部めがけて振り下ろした。
思い切り後頭部を強打されるや、主水が前につんのめる。
直後、主水の足元から一瞬にして大きな魔法陣が展開した。
 (やべっっ!!)
罠だと気付いたときには既に遅く、魔法陣が発動したかと思うや、足元全体がねばねばした白いモチのようなものに捕らわれてしまう。
「チクショウっ!俺ゃあ鳥じゃねえぞ!!」
巨大なとりもちにかかったことに気付き、思わずキアラは声を荒げる。
だが、罠を罵っている余裕などなかった。
 あっという間に地面からキアラを取り囲むように鉄柱が現れたかと思うと、光る糸がキアラの身体を挟み込むように鉄柱同士を連結する。
(や・・やべぇ・・)
ギリギリ自分の身体に触れそうになっている光の糸にキアラはさらに危機感を募らせる。
とりもちで足を封じられた上、攻撃力のある光糸を張り巡らされたために全く抵抗できなくなってしまったのだ。
二重三重に罠を張り巡らせ、完全に抵抗を封じ込めるその老獪さにキアラは冷や汗が出てくる。
 不意にキアラは背中に冷水を浴びせられたかのような感覚を覚える。
強烈な殺気を感じたのだ。
(やべ!!来る来る来る来る来る来る来る来る来るっ!!!!)
キアラは思わず身体を動かそうとするが、そのとき張り巡らされた光の糸が身体に触れてしまう。
触れた瞬間、強烈な電撃が走った。
「ふべべべ!!!!」
思わず苦痛の声を漏らした直後、今度は腰に焼け火箸を突っ込まれたような苦痛を感じる。
やがて、視界が真っ暗になり、そのままキアラは意識を失った。


 目を覚ましたキアラの目に飛び込んできたのは見慣れた天井だった。
「な・・何で・・・」
「気付いたか」
聞き覚えのある声にキアラは思わず振り返る。
すると、ベッドの傍らにネロの姿があった。
 「おい!ここはどこだよ!?」
「お前の部屋だろう。忘れたのか?」
「そりゃわかってんだよ!何でこんなところにいやがる!!ん?」
身体の異和感に気づき、思わずキアラが視線を下げると、腹にグルグルと包帯が巻かれている。
 「く・・・何だこりゃ・・・」
「お前は後ろから腰を刺されたんだ。覚えていないのか?」
「くそっ!そうだ!あの野郎っ!絶対シメてやるっ!!」
キアラは気を失う直前のことを思い出すや、カッとなる。
 「やめておけ。貴様では勝てん」
「んだとっ!馬鹿にしてやがんのか!!」
「慎重と無謀は別物だ。それに・・・あの男に・・決して手を出してはならん・・」
「ああん?どういうこったよ?」
「あの男は・・・ただの小役人ではない・・・。凄腕の殺し屋だ」
「んだとぉ!?ただのオッサンにしか見えねえぞ!」
「見た目で相手を判断するな。痛い目を見たのを忘れたか?」
「う・・・うっせえよ・・・」
図星を刺され、思わずキアラは言葉に詰まる。
 「とにかく今は休め。全てはそれからだ」
ネロはそういうと部屋を出てゆく。
「冗談じゃねえ!こんなところでオチオチ休んでなんかいられるかってんだよ!!」
キアラはそういうとベッドから出る。
(このままノコノコいやがったらケツ叩かれんのはわかってんだよ!そうとわかって誰が大人しくしてるかってんだ!!)
キアラは心の中で毒づくと、窓を開け、飛び降りる。
 「へへ・・うまくい・・」
無事着地したキアラが思わずニシシとほくそ笑んだそのとき、足元が光ったかと思うや、魔法陣が発動する。
「チクショウっ!またかよ~~~~!!!」
思わずキアラは毒づくが、後の祭り。
再びキアラは目の前が暗くなるや、そのまま気を失った。


 ビッダァ~ンッ!バッジィ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビッバダァ~ンッ!
「畜生っ!離せっ!離しやがれっ!このクサレ○○○ッッ!!」
お尻を叩く音が響き渡る中、キアラは相変わらずの暴言を吐く。
 「全く・・・勝手なことをした挙句・・・性懲りもなく逃げ出すとは・・・」
やや呆れた感じでネロは弟子のお尻めがけて手を振り下ろす。
「うっせえよっ!てめえにこんなことされる筋合いねえっての!!さっさと降ろしやがれ!!」
「いい加減にしろ!!」
ビッダァ~~~~ンンンッッッ!!!!
思わずネロは容赦のない平手打ちをキアラのお尻に叩きこむ。
「ぎゃああああっっ!!テメエッ!殺気込めて叩いてんだろっ!!」
キアラは振り返るや、噛みつかんばかりの勢いで叫ぶ。
 「貴様・・・全然わかっていないのか?何故・・・自分が生きているのか?」
「うっせえなっ!それがどうしたってんだ!!」
「わざと生かしておいたのだ、奴は。奴は急所を外してお前を刺し、しかも出血しないように凶器も抜かなかった。しかも、あの後正体を明かさないようにだが、俺の元にまで連絡もよこしたのだ」
「あん?随分甘えやつだな?」
「違う。これは奴の警告だ。二度と人のことに首を突っ込むな。次は命がないとな」
「んだあっ!馬鹿にしやがって!次こそシメてやるっっ!!」
「まだ・・・わからんのか・・・」
自分がどれだけ危ない事態に首を突っ込んだかわかっていないキアラにネロの表情が険しくなる。
 不意にネロは手を別の方向へ伸ばしたかと思うと、魔力で何かを引き寄せる。
ネロが魔法で取ったものを見るや、キアラの表情が変わる。
「お・・おいっ!ちょっと待て待て待て!待ちやがれっ!」
ネロが大きなパドルを手にしたのを見ると、さすがにキアラの顔が青ざめる。
 「おのれがどれだけ危険なことをしたのか・・・その身でしっかり覚らせてやろう」
「やめろ~~~っっ!!殺す気か~~~~~!!!!」
キアラは必死で逃げようとするが、ネロはしっかりと押さえ込むとパドルを振り下ろす。
その後、激しくパドルを打ち降ろす音と若い娘の叫び声、厳しく叱りつける男の声が入り混じり、長い長い間響き渡った。


 ―完―
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theme : 自作小説(二次創作)
genre : 小説・文学

賞金稼ぎモンコ2



 「・・・・・・・・・」
モンコは無言で鍋の中身をジッと見つめていた。
その傍らではジェシカが戦々恐々として様子を伺っている。
「何だ、こりゃ?」
「ぽ・・・ポーク・・ビーンズ・・」
ジェシカは冷や汗タラタラといった表情で答える。
「俺にはケシズミに見えるぜ?」
モンコの言葉にジェシカは思わず目をそむける。
否定できなかったからだ。
アウトドア用のコンパクトな鍋の中に詰まっているのは真っ黒焦げになった、モザイクがかかりかねないような代物。
ジェシカがつくったものだ。
「もう一度聞くぜ?こりゃ何だ?」
「ケ・・ケシズミ・・・」
「俺はポークビーンズをつくれといったはずだよな?」
「ご・・ごめん・・なさい・・・。失敗・・しちゃった・・・」
ようやく、ジェシカは失敗を認める。
 「しょうがねえ・・・乾パンでも出してこい」
「う・・うん・・・」
おずおずとジェシカは言われたとおり、荷物の中から乾パンや干し肉といったそのままで食べられるものを取ってくる。
「とりあえずメシにするぜ」
「う・・うん・・」
焚き火を囲み、モンコが沸かしたアメリカンコーヒーを片手に、ジェシカは気まずい感じながらもモンコにならって食事をし始めた。


 それから数日後・・ある町の宿屋に二人は宿を取っていた。
「あれ?どこか行くの?マンゴー?」
出かける様子のモンコにジェシカは思わず尋ねる。
「あぁ、ちょっとな」
「ボクも行きたいな~」
「お前は留守番してろ」
「え~、いいじゃないか~。連れてってよ~」
ジェシカは頬を膨らませて言うが、モンコはタバコをくわえたままジッと睨みつける。
有無を言わせない視線にジェシカは思わず引いてしまう。
 「大人しくしてりゃ土産でも買ってきてやる。静かにしてな」
「ちぇ~っ、マンゴーのケチ~~」
プーッと頬を膨らませながらジェシカは宿を後にするモンコを見送る。
「おぃ、くれぐれも勝手なマネすんなよ?」
「わかってるってば!ボクだって子供じゃないよ、マンゴー!」
「ならいいんだがな・・」
そういうと今度こそモンコは宿を後にした。
 宿を後にしたモンコは大きな武器屋へと入ってゆく。
「いらっしゃいませ~、何をお望みですか?」
店内に入るや、子供のように小さいが、筋骨たくましい店員が話しかけてきた。
ドワーフだ。
小柄だが頑健な体格をしており、鍛冶や細工などに長けている、ファンタジーRPGなどでお馴染みの種族だ。
ドワーフは技術者・職人として非常に高い能力を持っているため、ドワーフが経営している、もしくは主要な技術者等として抱えている武器屋も多い。
この店もその一つだった。
 「予約注文してたモンコだ。話は通ってるはずだが?」
「はい、モンコ様ですね。既にお話は伺っております。奥へどうぞ」
自分より小柄な店員に案内され、モンコは店の奥へと入ってゆく。
射撃場が隣接した部屋に案内されたかと思うと、しばらくしてもっとみなりのいい、ドワーフの店員が長方形の木箱を抱えてやって来た。
 「ご注文の品です。ご確認をどうぞ」
テーブル上に置かれた木箱を見やると、モンコはゆっくりと蓋を開ける。
中から現れたのは黒光りするリボルバー拳銃。
特徴は銃身で通常のものより長く造られている。
じっくり狙いを定めてロングレンジから撃つことを想定しているような感じで、実際その通りなのか着脱式のストックもセットで入っている。
 箱から銃とストックを取りだすと、モンコは隅々まで丁寧に調べる。
「弾の方は?」
「もちろんご注文通りに。銀の弾丸は無論、魔法弾も撃てます」
「試させてもらうぜ」
「もちろん構いませんとも。こちらです」
店員はそういうと隣接する射撃場へと案内する。
 モンコは銃にストックをつけ、カービン銃のような感じにしたかと思うと、渡された箱から弾丸を取りだす。
弾丸はいずれも銀製。
銀は魔除けの力を持つため、魔族相手の賞金稼ぎや退魔師などの間で銃弾として利用されている。
弾丸を込めると、モンコは両手でライフルを使うような感じで銃を構える。
 乾いた音が何度か響いたかと思うと、的に音と同じ数だけ穴が空く。
「反動・・命中率・・・距離・・・悪くはねえな・・」
続いてモンコは薬莢を排出すると魔法弾を込める。
魔法弾とはその名のとおり魔力を付与した弾丸だ。
強大な力を持つ種族や標的の場合、銀の弾丸のみでは倒せないことがある。
そういうときに使われるのが魔法弾で、銀製弾丸よりさらに高値な分、威力も高い。
魔法弾を込め終えると、再びモンコは的に向かってぶっ放す。
着弾するや、あっという間に的が燃え上がり、灰と化した。
火炎系の魔法を付与した銃弾だ。
他の魔法弾でも何度か試した後、ようやくモンコは満足げな表情を浮かべる。
「文句なしだ。幾らだ?」
店員が勘定書を持って来ると、モンコは代金を支払う。
 「お客様、お題より多いようですが?」
「予想以上に満足な出来なんでな。色をつけたのさ」
「そうはゆきません。お代以上のものをいただくわけにはまいりませんから」
「お堅いんだな」
「それがモットーですから。律儀・正直が第一です」
「違えねえ。俺の方が間違ってたようだな。だが、俺も払うと決めたんでな。色つけた分でこいつ用の弾もらおうか?」
「それならば喜んで受け取らせていただきます」
やがて銃と弾丸がそれぞれ入った箱を抱えてモンコは武器屋を後にした。


 「あん?」
宿屋の近くまで戻ってくるや、モンコは何だか騒がしいことに気づく。
あたりには消防馬車やら保安官の馬などが出張っており、人だかりがしている。
何だか嫌な予感がしたところへ、この町の保安官が近づいてくる。
 「ミスター・モンコ?」
「ああ」
「ジェシカって娘さんの保護者かね?」
「そんなもんだ。やつの・・・仕業か?」
「そういうことだ。詳しい話はこっちで・・・・」


 「・・・・・・」
ジェシカは床に正座したまま、恐る恐る椅子に座っているモンコを見つめていた。
「ま・・マンゴー・・お・・怒ってる?」
「どう見える?」
尋ねられたが、ジェシカは答えられない。
答えはわかっていたからだ。
 「おぃ・・・」
「な・・何っ!?」
不意に呼びかけられ、思わずジェシカはビクッとしてしまう。
「出かける前に言っておいたよな?勝手な真似はすんなって?」
「う・・うん・・」
「で・・・てめぇは・・・何をした?」
「に・・・庭で・・・たき火・・・」
「そんでどうなった?」
「ボ・・ボヤ・・・・」
「そんでどういう始末になった?」
「消防車とか来ちゃったり・・警察に連れてかれたり・・・それで・・ま・・マンゴーに・・・弁償とかさせちゃったり・・・」
「そうだ。てめぇ・・どれだけ人に迷惑かけたかわかってるのか?」
「ご・・ごめん・・なさい・・・」
基本的に素直な性格のせいか、ジェシカはすぐに謝る。
だが、モンコはそれで許してやる気は毛頭なかった。
 「謝りゃ勘弁してもらえるなんて思ってねえだろうな?」
「そ・・そんなことないよ!!ちゃんと反省してるってば!!」
「なら、わかってんな?」
モンコはそういうと左手で膝を軽く叩く。
それを見ると、ジェシカはゆっくりと立ち上がり、モンコの左脇へゆく。
やがて、モンコの傍に立つと、ジッと食い入るように膝を見つめる。
 膝を見つめたまま、ジェシカはそのまま立ち止まってしまう。
頭ではうつ伏せにならなくてはいけないことはわかっていても、躊躇わずにはいられない。
「おぃ、いつまでグズグズしてんだ?いい加減にしろよ」
煮え切らない態度のジェシカにさすがにモンコもイライラとした口調になる。
さすがにヤバいと思ったのか、慌ててジェシカは膝に飛び込んだ。
 うつ伏せになるや、ジェシカはモンコのズボンの裾にしがみつく。
怖いのだろう、全身がブルブルと震えていた。
モンコは左手だけでジェシカのズボンを降ろしにかかる。
あっという間に女の子らしい丸みを帯びた形のよい綺麗なお尻があらわになった。
 「行くぜ、いいな?」
モンコがそういうと、ジェシカは静かに頷く。
それを見届けると、ゆっくりとモンコの左手が振りあげられた。


 バシンッ!
「あ・・・!!」
最初から強めに叩かれたせいか、思わずジェシカは身体を強張らせ、苦痛の声をあげる。
バシンッ!ビダンッ!バアアンッ!バジィンッ!
「ぁ・・・ぅ・・・っ・・・ぁ・・・」
ジェシカは堪えようとするが、その強さに耐えきれないのか、微かに声が漏れる。
 ビダァンッ!バアジィンッ!バッシィンッ!バッアンッ!
「・・ぁ・・・ぅ・・・ぁ・・・っ・・・」
(い・・痛ぁぁ・・・ちょっと・・これ・・痛いよぉぉ・・・)
バシバシと容赦なく振り下ろされる平手に、ジェシカは心中でそんなことを呟く。
 ビッダァンッ!バッジィンッ!バッアァンッ!ビッダァンッ!
「ったく・・何やってんだお前は?」
さらに平手打ちの勢いを強めながらモンコはお説教を始める。
バッジィ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビッシャ~ンッ!ビッダァ~ンッ!
「く・・ひ・・あぅ・・あっ・・・」
ジェシカの表情はより苦しげなものへと変わってゆき、同時にお尻もだんだんと赤みが増してくる。
 「勝手なことはするなとあれほど言っておいただろうが?それを・・・てめぇは・・・」
ビッダァ~ンッ!バアッジィ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビッダァ~ンッ!
「ひゃんっ・・!きゃんっ!あんっ!ひゃんっ!」
強烈になった平手打ちにもう耐え切れなくなったのか、ジェシカの口から悲鳴が上がる。
 ビッダァ~ンッ!バッジィ~ンッ!ビッシャ~ンッ!バッアァ~ンッ!
「庭で勝手に火なんぞ使った挙句にボヤなんぞ起こしやがって!」
バッジィ~ンッ!ビッダァ~ンッ!バッアァ~ンッ!バッジィ~ンッ!
「どれだけ他人に迷惑かけたと思ってんだっ!このバカがっ!!」
ビッダァ~ンッ!ビッシャ~ンッ!バッアァ~ンッ!バッアァ~ンッ!
 「ひぃんっ!ごめんなさいっ!マンゴーッ、ごめんなさい~~~!!」
ジェシカは必死に謝る。
「反省してんのか?」
一旦お尻を叩く手を止めると、モンコはそう尋ねる。
「してるよぉ・・ごめんなさぁぁい・・・」
「全く・・・世話焼かせやがって・・・。ところで・・何だって庭でたき火なんぞしてた?」
「え・・!?そ・・それは・・・」
ジェシカはモンコの問いに慌てだす。
 「ん?どうした?何故言わねえ?」
「だって・・言えないよぉ・・・」
「どうして言えない?」
「言えないものは言えないってばあ!!」
いつもは素直なジェシカには珍しく反抗的になる。
 「おぃ・・まさか火遊びなんてしてたんじゃねえだろうな?」
「ち・・・違うってば!?」
ジェシカはモンコの問いに慌てだす。
「だったら何故言えねえ?やましいことがなきゃ言えるだろ?」
「わ・・悪いことなんかしてないってば!!」
「なら言え」
「ヤダッ!絶対に言わない!」
「そうか・・・それならこっちにも考えがある・・・」
そういうや、モンコは足を組む。
おかげでジェシカの赤いお尻が突き出される体勢になる。
 「ま・・マンゴー?」
ジェシカが恐る恐る呼びかけると同時に、モンコの左手が再び振り下ろされた。
 ビッダァァ~~ンンッッッ!!!
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッッッ!!
「うわぁぁぁんんんっっっ!!痛ぁぁぁいいいっっっっ!!!」
凄まじい平手打ちの豪雨にジェシカは悲鳴を上げるや、両脚をバタつかせる。
「うわぁぁ~~んっ!!マンゴーッ!痛いよぉぉ~~~!!」
「自業自得だ。正直に言わねえワルガキにはきつく仕置きしてやる」
「うわあ~んっ!!ま、待ってってばぁぁ~~~」
ジェシカの許しを乞う声を尻目に、モンコの左手が降り注ぐ。
 バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッッッッ!!
「うわあ~んっ!痛いっ!痛いってばマンゴーっ!やめてっ!やめてよマンゴー!!」
「だったら正直に言いな。言わねえとケツがナスみてえになるまで叩くからな」
そういうとモンコはバシバシとお尻に平手の集中豪雨をくれてやる。
 「うわあ~んっ!言うから~!ちゃんと言うから~!だからもうお尻叩かないでよ○○コ~~~!!!!」
容赦のないお仕置きに動揺しているのか、とんでもない言い間違いをしでかしながらジェシカは言う。
 「なら言ってみな」
ようやく手を止めてやると、モンコは尋ねる。
「い・・言うよぉ・・・。ふぇぇ・・。ポーク・・ビーンズ・・・作ろうと・・思ったんだよぉぉ・・・」
「あん・・・?」
モンコは意外な返答に間の抜けた表情を浮かべる。
 「何つった?今?」
「だから・・ポーク・・ビーンズの・・練習しようと・・したんだよぉぉ・・。ふぇぇ・・。ボ・・ボク・・・料理なんか・・全然・・ダメだし・・。雑用でも・・何でも・・・いいから・・少しでも・・力になりたいのに・・でも・・料理さえ・・出来なくて・・・それが・・・悔しくて・・・だから・・鍋の・・・練習でも・・しようと・・思ったんだってばぁ・・・恥ずかしくて・・・言えなかったんだよぉぉ・・・うぇぇん・・・」
「ったく・・・世話焼かせやがって・・・・。火遊びでもしやがったのかと思ったろうが」
「ふえ・・・だから恥ずかしかったんだって・・ばぁぁ・・」
「まあいい。とにかく終わりだ」
そういうとモンコはジェシカを膝から降ろしにかかった。


 「ね・・ねぇ・・・マンゴー・・?」
ベッドにうつ伏せになり、お尻に冷たいタオルを載せたまま、ジェシカは尋ねる。
「どうした?」
「あ・・・呆れてる・・?」
「手がかかるのは先刻承知だ。気にしてる暇なんかねえよ」
「うぅ・・どうしてボクって・・・」
「いつまでもウジウジしてんな。それで俺の相方が務まるとでも思ってんのか?」
「言わないでよ~!ボクだって気にしてるんだから~!!」
「気にしてるんなら少しはもっとマシな行動とりな。それはともかく・・・ジェシカ」
「な・・何?マンゴー?」
モンコが真剣な表情になったせいか、ジェシカもつられて真剣になる。
 モンコは長方形の箱を取り出すと、ジェシカの目の前に置いた。
「何・・これ?」
「開けてみな」
モンコに促され、ジェシカは箱を開ける。
すると、中からモンコが武器屋で注文した、例の長いリボルバーと着脱式ストックが入っていた。
 「これは・・・?」
「てめえのだよ」
「も・・もらって・・いいの?」
「そんな豆鉄砲じゃロクに戦えねえからな」
モンコはジェシカが身につけている全長18センチ程の小型のリボルバーを見やりながら言う。
「ありがと、○ンコーッッ!!」
嬉しさのあまり、とんでもない言い間違いをしながらジェシカは礼を言う。
「しばらくしたら使い方仕込んでやる・・ただし・・俺は優しくねえからな。それは覚悟しときな」


 ―完―

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

賞金稼ぎモンコ・後編



「こいつは・・・・」
モンコはジッと地面の足跡を見つめる。
よく知っている足跡だった。
(あのガキ・・・来てるのか・・・)
再び、モンコの表情が変わる。
(何て馬鹿なガキだ。命が幾つあっても足りねえぞ・・・。もっとも・・俺には関係ねえがな・・・)
モンコは踵を返すと、隠れているはずの賞金首を探しにかかる。
ここへは賞金首を追って来たのだ。
小娘に関わっている暇はない。
殺されても自業自得、非情だがそれが賞金稼ぎの世界というものだ。
だが・・・。
 (何だ・・・!!何なんだ・・・!!)
モンコは何とも苛立たしい感覚を覚える。
あの娘の顔が幾度も幾度もフラッシュバックのように脳裏に現れるのだ。
(馬鹿野郎!!賞金稼ぎに余計な情けは不要だ!!殺されようが俺には関係ねえ!!)
必死に己にそう言い聞かせ、隠れているはずの賞金首に意識を集中させようとする。
だが、そうしようとすればするほどあの娘のことが却って気になってしまう。
(クソ!!クソクソクソ!!俺としたことが!!)
完全に調子が狂ってしまった自分自身にモンコは苛立つ。
 そのとき、乾いた音が響き渡った。
(銃声・・・!?)
今までの経験からモンコは音の正体をすぐに覚る。
咄嗟にモンコは音の聞こえてきた方向へ走りだしていた。


 「う・・・・」
ジェシカは腹に衝撃を感じると同時にゴロリと地面に転がる。
ハァハァと荒い息の中、ゆっくりと相手が銃を手にしたまま近づいてくるのが見えた。
(嘘・・・ボク・・死んじゃうの・・・・)
薄れかかる意識の中、ジェシカは恐怖に囚われる。
(やだ・・・死にたくない・・マンゴー・・・マンゴー・・・)
恐怖がどっと沸き上がる中、顔が見えるところまで男が近づいてくる。
(もぅ・・ダメ・・なんだ・・)
恐怖と絶望でジェシカは目の前が真っ暗になり、それが意識が薄れるのに拍車をかける。
それゆえ、ジェシカの表情を見るなり、男の表情が変わったことに気づかなかった。
 目の前に倒れている少年のような少女の姿を見るや、サイレンスは愕然とする。
とっさに殺気を感じたため、本能的に振り返って撃ってしまったのだ。
完全に茂みに姿が隠れていたために姿も見えなかった。
 すぐにもサイレンスは少女に駆け寄ると傷口や息遣いを確かめる。
不幸中の幸いで急所は外れていた。
サイレンスはすぐにも携帯用救急キットを取り出すとナイフやら何やらを出す。
少女の口にハンカチを噛ませ、ナイフを火に焙って消毒すると、傷口に慎重に刃を差し込んだ。
 気を失っているとはいえ、刃物を差し込まれ、本能的に身体がのけ反りそうになる。
サイレンスは身体を押さえると、慎重に弾丸をナイフで摘出する。
そして、何やらプラスチック製の小瓶を取り出すと、傷口にかけてゆく。
肉が焼けるような音と共に傷口がみるみるうちに塞がってゆく。
 傷口が治ると、再びサイレンスは息や心音を確認する。
幸い、息も心臓も正常で、もう命に別条は無い。
サイレンスはジェシカを抱き上げる。
本来はここへ逃げ込んだ凶悪手配犯を探しだした上で処刑するのが仕事だった。
だが、己のミスで危うく命を奪いかけた娘を放っておくわけにはいかない。
ジェシカを抱き上げてサイレンスが町へ向おうとしたときだった。
 パンッ・・・パンッパンッパンッ。
突然、乾いた音が数回響き渡った。
サイレンスはジェシカを抱えたまま両膝を地面に突く。
背中に火がついて焼けるような痛みを感じつつも、サイレンスは膝をついたまま後ろを振り返る。
 「へへへ・・・・やっぱりてめぇだったか・・・」
いかにも厭らしげな笑みを浮かべ、その悪魔は呟く。
サイレンスはずっと探し求めていた獲物を見つけ出した猟師のような表情を浮かべる。
背後でピストルを構えている悪魔こそ、サイレンスが追っている標的であり、またモンコ達が追っていた賞金首だった。
 ジェシカを抱えたままサイレンスは両翼を震わせる。
だが、そこへ賞金首がさらに背中へ銃撃を叩き込んだ。
衝撃で気を失っているジェシカを地面に落としてしまう。
 サイレンスは彼女の上に覆いかぶさるように倒れる。
何発も背中に銃撃を叩き込まれ、背中はまるで穴あきチーズのようになってしまっている。
しかし、それでもサイレンスは横に転がるようにして身を起こすと、ブルブルと震える手で拳銃を抜いて構える。
 「ふふん・・てめぇの身を盾にして娘を守りながら俺を仕留めようっていう気か?舐められたもんだな」
悪魔は手や足にこれでもかいわんばかりの銃撃を叩き込む。
あっという間にサイレンスの手足は肉切り包丁を何度も叩きつけられたこのように痛々しい状態になってしまう。
しかし、それでもサイレンスはジッとこちらを睨んでくる。
 「くそっ!!ムカつく野郎だ!!」
これでもかといたぶっているのに戦意も衰えず、恐怖も見せないサイレンスに賞金首は苛立ちを見せる。
接近するや、何度も何度も賞金首はサイレンスを踏みつけた。
さすがに苦痛の表情をサイレンスは見せる。
だが、同時にサイレンスは残りの力を振り絞って両翼をドラゴンに変えた。
 賞金首がハッとした瞬間、ドラゴンの口から閃光が迸る。
衝撃と共に賞金首は黒こげになって吹っ飛んだ。
賞金首が灰と化して消えてゆくのを見届けるや、サイレンスの表情に微かに安堵が見える。
だが、直後再び乾いた音が響いた。
 「生憎だな・・もう一人・・いたんだよ・・」
サイレンスに仕留められたのとは別の賞金首が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら姿を現した。
「へへ・・・天界屈指の・・・刺客も片無しだな・・」
もう一人の賞金首は笑みを浮かべると、ゆっくりと銃を構える。
サイレンスはモゾモゾと身体を動かして必死に娘の身体を覆う。
 「へ・・。てめぇは殺されてもそのガキだけは守り抜こうってかぁ?虫唾が走るぜ!てめぇを殺したあと、俺様のマグナムを叩き込みながら殺してやる!!」
興奮しながら賞金首が叫んだそのときだった。
 突然、賞金首の全身が硬直した。
ハッとして賞金首は胸元を見やる。
すると、刀の切っ先が胸からまるでタケノコのように突き出していた。
「何・・・だと・・・」
ゆっくりと賞金首は背後を振り返る。
すると右腕に刀を生やし、口にタバコを銜えた和風な装飾を施したウェスタンスタイルな男が立っている。
モンコだ。
 ゆっくりとモンコが腕の刀を引き抜くと、賞金首は膝をついて地面に座り込み、そのまま前かがみに倒れ伏す。
そして光ったかと思うと灰と化した。
 モンコはじっとジェシカとサイレンスを見やる。
サイレンスは限界に達してしまったのか、気を失っている。
しかし、それでもジェシカを守ろうというのか、ボロボロになった己の身体でジェシカを覆い続けていた。
 「ったく・・世話のやけるガキだぜ・・・やれやれ・・・」
モンコはそう呟くと義手をはめ、左手で携帯を取り出す。
「ああ・・保安官か?森狩りの必要はねえ・・仕留めたからな。代わりに・・・救急車寄越してくれ・・怪我人だぜ・・・」


 それからしばらく経ったある日・・・・。
ジェシカは宿屋の床に正座させられていた。
その傍ではモンコがタバコを銜えたまま椅子に腰かけ、ジッと見下ろしている。
 「おぃ・・・・」
「な・・何っ!?マンゴー?」
呼びかけられるや、ジェシカはビクッと飛び上がってしまいそうになりながら返答する。
「自分が・・何・・やったか・・わかってるか?」
「え・・ええと・・・」
「的を勘違いした揚句に他人を殺すところだったんだ。相手が幸い天使のサイレンスだったからよかったものの・・・他の奴なら撃ち殺されてたぞ。わかるか?」
ジェシカは蒼白になりながら頷く。
 「しかも・・てめえの勝手な行動のせいで・・他人まで巻き込んで死なせるところだ。自分がどれだけのことをしでかしたのかわかってんのか?」
「ご・・ごめん・・なさい・・・」
「謝りゃあ勘弁してもらえるとでも思ってんのか?ガキだからって甘えんなよ?」
「ち・・違うよ!!悪かったと・・思ってるよ!!だから・・・ボクに・・・出来る・・ことなら・・何でも・・するよ!!」
「本当に何でもするか?」
「する!!許してもらえるんなら・・・・」
「いい覚悟だ・・・そうだな・・」
モンコは左手を顎に添えると、考え込む素振りを見せる。
 ジェシカはゴクリと息をのみ、緊張した面持ちで様子を伺っている。
「何でも・・するって言ったな?」
「うん・・・」
モンコの問いにジェシカは返事をする。
「なら・・ベッドにうつ伏せになって・・ケツ出しな・・」
「ね・・ねぇ・・モンコ・・もしかして・・お尻・・叩くの?」
ジェシカは経験があるのか、そんなことを尋ねる。
「不満なのか?」
「だって・・それじゃ・・子供の・・・」
「てめぇのしたことはガキのすることだと思うが?それに・・何でもするって言ったのはてめぇだろう?自分で言ったことの落とし前もつけられないのか?」
「う・・・わ・・わかったよ・・する・・するから・・・」
自分に非がある以上、ジェシカは立ち上がると、ベッドにうつ伏せになり、床に膝をついてお尻を突き出した。
 自分が悪いとは思っていても、恥ずかしくてたまらず、全身を震わせる。
だが、そんな姿に構わず、モンコは立ち上がると、左手でグイッとズボンをスパッツごと降ろしてしまった。
 「ちょ・・!!何してるの!?」
「ケツ引っぱたくときは裸だって決まってんだろうが。文句があるか?」
「な・・・ないけど・・・。でも・・いきなりなんて・・・」
「悪いのはてめえだろう?いいか、ちょっとやそっとじゃ勘弁しねえからな。覚悟しろよ?」
モンコの言葉にジェシカは覚悟を決めて頷くと、両手でギュッとシーツを握りしめる。
それを見ると、モンコはゆっくりと左手を振り上げた。


 バッチィ~~ンッッ!!
「ひっっ・・・!!」
初っ端から容赦のない一撃にジェシカは背をのけ反らせ、悲鳴を漏らし、シーツを固く握りしめた。
(い・・痛ったぁぁ・・・)
思わず目尻に涙が浮かびそうになる。
しかし、そんな暇もなくさらに平手が叩きつけられた。
 バッチィ~ンッ!ビッダァ~ンッ!バッシィ~ンッ!バッアァ~ンッ!
「っ・・ぁ・・・っ・・くぅ・・・・」
激しい平手打ちが叩きつけられ、そのたびにお尻に苦痛が走る。
だが、ジェシカは声を漏らすまいと必死に口を噤む。
 ビッダァ~ンッ!バッジィ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビバッジィ~ンッ!
「ったく・・てめぇ・・何考えてんだ?」
呆れたような口調でモンコはお説教を始める。
 ビッダァ~ンッ!バアッジィ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビバッジィ~ンッ!
「ろくに下調べも準備もしねえでノコノコ飛び込みやがって・・・」
バッアァ~ンッ!ビバッジィ~ンッ!バッシィ~ンッ!ビッダァ~ンッ!
「くぅ・・ひぃ・・あ・・あぅ・・・」
バッアァ~ンッ!ビバッジィ~ンッ!ビダッバァ~ンッ!バッジィ~ンッ!
「そんで全然違う奴を殺そうとしやがって・・このバカ!!」
ビッダァ~ンッ!バッジィ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビバッジィ~ンッ!
「ひぃんっ!きゃんっ・・!あんっ!きゃひぃんっ!」
元々荒くれ仕事で腕の力のあるモンコが本気になって叩いているものだから、早々とお尻が赤く染まってしまう。
 「下手すりゃ返り討ち、そうで無くとも賞金首で一生お尋ね者だぞ!!こんバカがっ!!」
モンコはさらに叱りつけながら激しい平手打ちを振り下ろし続ける。
ビッダァ~ンッ!バッジィ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビバッジィ~ンッ!
「ひんっ!痛っ!あくうっ!痛あっ!」
強烈な平手打ちにもう耐え切れなくなったのだろう、ジェシカの口から悲鳴が上がる。
「その上・・・他人まで巻き添えにしやがって!!俺がいなかったらてめえだけじゃすまなかったんだぞ!!わかってんのか!!このバカガキがあっ!!」
バッジィ~ンッ!!
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッッッッッ!!!
「きゃあああんっ!うわぁぁんっ!痛いぃぃぃ!!痛いよっ!マンゴーっ!!」
ジェシカは身体を震わせて泣き叫ぶ。
「仕置きなんだから痛えに決まってるだろうが。まだ許さねえからな、バカガキ」
「うわぁ~~んんっっ!!許してぇぇ~~~っっっ!!!」
ジェシカは必死に許しを乞うが、モンコは左手を容赦なく振り下ろし続ける。
肌を打つ音と甲高い少女の悲鳴が混じり合って室内に響き渡った。


 「ふえ・・ごめ・・ごめん・・なさい・・ごめん・・なさい・・・ごめん・・・・なさぁい・・ごめんなさぁぁい・・・」
ベッドの上でボロボロと涙をこぼしながらジェシカは必死に謝る。
今やお尻は倍以上に腫れ上がっており、ペンキを重ねて塗ったかのような、濃厚な赤だった。
 「ちっとは・・反省したか、ガキ?」
モンコは手を止めると、泣きじゃくっているジェシカに尋ねる。
「して・・してるよぉぉ・・・。ボクの・・せいで・・・皆に・・迷惑・・・かけて・・・ごめん・・なさぁぁい・・・」
「少しはわかってるみてえだな・・。この辺で・・勘弁してやるか・・・」
ようやくモンコはお尻を叩く手を止める。
だが、助け起こしたりするような真似はせず、脇に腰を降ろすと、タバコを吸い始めた。
 「ひぃん・・・マンゴーぉぉ・・・」
「ったく・・幾らガキだからって無茶な真似しやがって。お前、死ぬつもりか?そんなんじゃあ賞金稼ぎなんぞつとまらねえぞ」
「ひっぐ・・うえ・・だって・・だって・・・マンゴーに・・認めて・・欲しかったんだも~~んっ!!うえぇぇぇ~~~~~っっっ!!!」
今まで押さえつけていたものが切れたのか、堰を切ったかのようにジェシカは大泣きしてしまう。
 「全く・・・呆れたガキだぜ・・・。無茶はする・・・勘違いで全然違う奴を殺しかける・・・挙句の果てには・・・他人まで巻き添えにして死にかけるわ・・・ピーピー泣き喚くわ・・・みっともねえな・・・」
「い・・言わないで・・・よぉぉ・・。ボクだって・・・恥ずかしいし・・・情けないんだからぁぁ・・・」
「こんなガキ・・・すぐにくたばるぜ・・・誰かが・・いねえとな・・・」
そこまで言うと、モンコは黙る。
しばらく沈黙があたりを支配するが、やがて静かにモンコが口を開いた。
 「おぃ・・ガキ・・・名前は・・・」
「え?」
ジェシカはモンコの問いかけに怪訝な表情を浮かべる。
「名前だ、名前。てめぇ、そのツラで90の年寄りとでもいう気かよ?」
「ジェシカ・・だけど・・・」
「ジェシカか・・面白くも何ともねえ名前だな・・・」
「あの・・マンゴー?」
「おい・・・ジェシカ・・・雑用ぐらいは出来んだろうな?」
「い・・一応・・・・」
「『一応』か・・まぁいい・・・」
「あ・・あの・・マンゴー?」
恐る恐るジェシカが尋ねようとすると、モンコは左手でジェシカを引きよせ、膝の上にうつ伏せにさせる。
突然の事態にジェシカが目をパチクリとさせていると、突然お尻に染み入るような痛みが走った。
 「ひゃあんっ!痛っ!何っ!一体!?」
「騒ぐな。沁みるくらい我慢しろ」
そう言ったかと思うと、お尻を撫でられるような感覚を覚える。
沁みるような感覚と共にお尻の痛みが少しだが和らいだように感じた。
 「ったく・・ケツが痛くて馬に乗れねえじゃ話にならねえからな・・・」
「マンゴー・・もしかして・・連れてって・・くれるの・・?」
「来たきゃあ勝手に来い。だがな、ついてこれなきゃあ置いていく。俺は優しくねえからな。明日の朝6時に、厩舎に来い」
「マンゴーぉ・・・ありがとう・・」


 「ねえ、マンゴー、ちょっと待ってぇぇ・・」
「甘えんな。行くぞ」
モンコはそういうと有翼馬に拍車をかけようとする。
「そんなこと・・言ったって・・まだ・・お尻痛くて・・馬に・・ちゃんと乗れないよぉぉぉ・・・」
「自業自得だ。それくらい我慢しろ。それとも・・ついてくるのやめるか?」
「わかったよ~、マンゴーの意地悪!!」
「意地悪で結構、さぁ、行くぜ」
そういうとモンコは有翼馬を走らせる。
慌ててジェシカも後を追った。
 「・・・・・・・」
サイレンスは双眼鏡でジッとジェシカを見つめていた。
すっかり元気で、かつモンコと共に、という夢を実現出来たジェシカに対して安堵しているかのような表情を浮かべている。
しばらくサイレンスは去りゆく二人を見ていたが、やがて双眼鏡をしまうと、別の方向へ天馬を走らせた。


 ―完―

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

賞金稼ぎモンコ・前篇



(注:女悪魔&ザ・クリーナー並びにサイレンスものと同一世界観の設定です。それを前提の上でお読み下さい)


 人命が軽視された所では時には殺人が金になった そこで賞金稼ぎが生まれた
―夕陽のガンマン―


 軽快な音楽が鳴り響き、ステージ上で色っぽい衣装を纏ったショーガールがセクシーなダンスを披露する中、酒やつまみを傍らに客達が盛り上がり、色っぽい格好をした別の商売も兼ねているウェイトレス達が注文を取りに駆け回る。
どこにでもあるありふれた盛り場の光景だ。
だが、客も店員も、ある者は角が、別の者は翼や尾が生えている。
かと思えば獣の頭部や手足を持つような者もおり、酒では無く血を、人間の手や足を切断して焼いたと思しき料理を食べている者もいた。
 ここは魔族のための酒場。
酒場といってもその手のお楽しみのための場所と一緒になっているタイプだ。
だから客はもっぱら荒くれ者達で、その稼業を示すかのように腰にはガンベルトや剣帯を身につけている。
 不意に両開き式のスイングドアが開いたかと思うと、ゆっくりと新手の客が入ってきた。
客は店内に足を踏み入れると、目だけ動かして店内を見回す。
そしてあるテーブルに目を止めた。
 客の視線の先には4人ほどの魔族の男がテーブルを囲んでポーカーをしている。
客はしばらくその様子をジッと眺めていたが、やがて左手でタバコを取り出すと、口に銜え、マッチで火をつける。
そして、紫煙をくゆらせていたが、やがて見つめる先のテーブルに向ってタバコを放り投げた。
 タバコはポーカー中の一人のグラスの中に落ちる。
楽しみを邪魔された男達は、ゆっくりとポイ捨ての犯人の方を振り向いた。
タバコを投げ込んだのは一人の男。
 背は高く、ドーベルマンや狼を思わせる、やや細身だがバネがあり無駄なく引き締まった身体の持ち主。
目深にかぶったやや薄汚れた茶色の帽子の下には、無精ひげを生やしタカのように鋭い眼光を湛えた精悍で野性味のある面立ち。
眉や髭、瞳の色がアジア系と想像させるが、彫りの深い面立ちは欧米系の血も引いていることを思わせた。
 膝の半ばまでを覆う長めのポンチョに身を包んでおり、その隙間から左腕を出して二本目のタバコをくゆらせている。
ポンチョはガラガラヘビやハゲタカといった荒野でお馴染みの生き物達を図柄としてデザインしているが、どこか日本の襖絵や屏風絵を思わせる和風な様式化がされている。
袖の短い上着を着ているのか、ポンチョの隙間から見える左腕は露出しており、無駄なく引き締まり鍛え上げられているのがよくわかった。
ズボンと靴は通常のもので、特に目新しいところは無いが、かなり使い込まれており、また旅が日常茶飯事なのか、帽子やポンチョ同様薄汚れた感じだった。
 「おぃ・・・何のつもりだ・・・?」
立ち上がった魔族の一人が睨みながらポンチョの男に話しかける。
他の魔物達もすごみながらポンチョの男を取り囲む。
「てめぇ・・・人にアヤつけてただで済むと思ってんのか?」
「人だぁ?お前ら・・人じゃないだろ・・・」
因縁をつけようとした荒くれ者の一人に対し、挑発するような口ぶりでポンチョの男が返す。
「てめぇ・・・いい度胸だな。俺らが何者だかわかってるのか?」
「虫を殺せねえツラして凄んでるのは何とも可愛いってモンだぜ」
「おぅ!バカにしちゃいけねえ!こう見えても俺達は天・魔両界から手配されてる賞金首だぜ!!」
「そうだ!捕まりゃあ獄門台は間違いねえ!同じ魔族からもお尋ね者にされた大外道よ!悪いことでやってねえことぁ一つもねえんだ!!」
「じゃあ叩っ斬られても文句はねえな?」
「ふん!やれるもんならやってみろ、人間風情が!」
魔族達は嘲笑の笑みを浮かべる。
彼らにとっては人間など取るに足らぬ存在。
そんな人間が自分達を殺すなどとほざくのは笑い話でしか無かった。
 「斬られりゃあ痛いぜ?」
「そりゃあこっちのセリフだ。死ぬのが怖くて賞金首はつとまらねえ」
「ふん・・馬鹿につける薬はねえな。死ななきゃ治らねえな」
「何だと!!」
賞金首達がいきり立ち、それぞれ腰の銃や剣に手をかけたそのときだった。


 不意にポンチョが翻ったかと思うや、その下から閃光が迸った。
閃光は数回弧を描くようにして男の周囲で煌く。
やがて動きが止まったかと思うや、銃や刀を抜きかけたまま、賞金首達が一人を残してバタバタと倒れる。
 ただ一人立っている賞金首は呆然としたように突っ立っているが、やがてゆっくりと胸元に視線を落とす。
賞金首の胸元には日本刀の刃が突きたてられている。
刺された魔族はゆっくりと刃の根元の方に視線を動かしてゆく。
ポンチョの下から突きだされた男の右腕は肘のあたりまでは生身の腕だった。
だが、肘から下の部分には分厚くがっしりした金属製の土台のようなものが取り付けられている。
そして、その土台から肉厚で頑丈なつくりをした日本刀の刃が生えており、それが賞金首の胸を貫いている。
さらに胸を突かれた賞金首は己を刺した男が左手に持っているものを見やる。
男が左手に握っているのは西洋甲冑の籠手を思わせるがっしりした金属製の義手。
「き・・・聞いた・・ことが・・ある・・・右手の・・・義手の中に・・・日本刀・・を仕込んだ・・人間の賞金稼ぎが・・いるって・・」
男が右手に仕込んだ剣を引き抜くや、賞金首はよろめきながら後ろに下がる。
そして傷口を押さえながら両膝をついて座り込むと、苦しげな息を吐きながら人間の賞金稼ぎを見上げる。
「そいつの呼び名は・・モンコ・・・片手が・・義手・・・だから(モンコとはイタリア語で片手が無い人、{刑罰で}片手を失った人という意味合いの言葉。ただし、スラングなので侮蔑的・差別的意味合いが入ると思われる)・・・まさか・・てめぇ・・だったとは・・知って・・れば・・」
「最初に気づくんだったな」
「ちっくしょう・・人間・・それも・・片○・・野郎・・なんぞに」
賞金首はそのまま仰向けに倒れると、身体が光り出し、やがてサラサラと光る灰となって消えていった。
 モンコは最後の一人を倒すと、ブンッと右腕を振るう。
すると刃があっという間に土台の中へ飲み込まれていく。
やがて義手の腕部分に収まる長さにまでなったところで、モンコは鞘でもある義手をはめると、店を後にした。


保安官の出で立ちをした天使はジッとノートパソコンの画面を見つめている。
画面にはモンコが仕込み刀で次々と賞金首達を仕留めた光景が映し出されている。
 「嘘は無いようだな」
保安官がそう言うと、モンコは左手で頭にかぶっていたヘッドギアのようなものを外した。
「納得したか?」
モンコは保安官とパソコンに接続されているヘッドギアを見やりながら尋ねる。
「ああ、貴様の記憶に嘘はない」
「なら払うもん払ってもらおうか」
「わかってる」
 そういうと保安官は賞金を仕舞ってある場所へ行く。
魔族は殺された場合、灰と化して消えてしまう。
そのため、生け捕りにして連行してきた場合ならともかく、殺した場合には賞金を支払う機関で、賞金稼ぎの記憶を機械でチェックし、仕留めたことが確かである場合には賞金が払われるという仕組みになっていた。
 「ほらよ」
保安官はそういうと紙幣の束を数束持ってくる。
紙幣は人間界のどの国のものとも違ったデザインをしている。
天界並びに魔族界で共通で使用できる紙幣だ。
「確かに・・・ありがとよ」
モンコは左手で賞金を受け取り、片手だけで器用にバッグに詰めて出て行った。


 
「マンゴー!マンゴー!ミスター・マンゴー!!」
賞金を手に入れたモンコが通りを歩いていると、突然、間違った名で呼びとめる声が聞こえてきた。
モンコは立ち止まると勘弁してくれといいたげな表情を浮かべる。
心当たりがあったのだ。
モンコをこんな名前で呼ぶのは、人・天・魔三世界広しといえどもただ一人。
うざったそうな表情を振り返ると、そのただ一人が距離を置いて立っていた。
 モンコの視線の先に現れたのは、10代後半と思しき若い娘。
金色の髪はやや短めでどちらかというと少年らしい感じの髪型をしている。
青をベースにしたカジュアルな感じのジャケットの下に緑のタンクトップ、ジャケットと同じ色のハーフパンツの下に黒のスパッツ、膝にサポーター、カジュアル風なデザインのブーツといった出で立ちで、腰には小ぶりなリボルバーを納めたガンベルトを帯びていた。
ややアーモンド型の大きな瞳が印象的な、人懐っこい感じのする面立ちで、胸の膨らみが無ければ少年と間違えそうな感じだった。
 「何してる・・・」
答えはわかり切っていたが、モンコは敢えて尋ねる。
「へへ、決まってるじゃん!マンゴーの相棒になりに来たんだよ!!」
「相棒にするつもりはねぇ、とっとと帰んな、ガキ」
「ガキじゃないよ!ボクにはジェシカって名前がちゃんとあるんだから!!」
「ガキはガキだ」
そういうとモンコはジェシカを無視して歩きだす。
 「あ!待ってよ!マンゴー!!待ってってばー!!」
ジェシカは自分を無視して歩きだしてしまったモンコを追いかける。
「ねぇ!マンゴー!マンゴーってば!無視しないでよ!!」
ジェシカは必死にモンコに追いすがると、背中に手を伸ばそうとする。
 突然、身体が浮くような感覚を覚えたかと思うや、次の瞬間ジェシカは背中に土の感触と痛みを覚える。
モンコに投げを食わされたのだ。
賞金稼ぎは殺気を放ち、本性を現したヤクザさながらの恐ろしい表情になると、地面に倒した少女の喉元にナイフをつきつける。
「おぃ・・ガキ・・・。これ以上付きまとうな・・・殺すぞ・・・」
そう脅すと、モンコは殺気に当てられて震えているジェシカをそのまま置き去りにして去っていった。


 「ちょいとやりすぎじゃないのか?」
「ふん・・・あれくらいしなきゃガキにはわからねえさ・・」
モンコはグラスを傾けながらバーテンに返す。
バーテンは眼鏡をかけたアジア系の初老の男。
柔和な表情をしているが、がっしりとした力強い体格に何事があっても動じない目。
波瀾万丈の生涯を送ってきたのではと思えるような人物だった。
 「勘違いしてんだよ、ガキだから。怖い目見りゃ目が覚めてとっとと帰るだろう」
「相当参ってるみたいだな?」
「貧乏神か厄病神よりタチが悪い。どこまでも追いかけてきやがる」
「だったらいっそのこと望み通りにしてやったらどうだ?」
「あ?何言ってんだ?頭にウジでも沸いたか、ミフネ?」
「おぃおい、ミフネはお前さんとの決闘で死んだはずだぞ?」
「そういう話にしたんだったな、こいつはうっかりしてたぜ」
「ボケるのは早いぞ、ヤングマン」
そんなやり取りを交わすと、二人は親愛の情を込めた視線を互いに向ける。
 今は別の名を名乗っているが、バーテンはかつてミフネと名乗った伝説の賞金稼ぎだった。
伝説の存在となったゆえに賞賛と畏怖の目で見られる一方、野心や憎悪の対象として賞金首や彼らに雇われた殺し屋、同業者から執拗に狙われる日々を過ごし、それゆえに引退を考えていた。
 そんなときに現れたのがモンコだった。
その頃のモンコは未だ無名の新顔であり、それゆえミフネと決闘して名を上げるために現れたのだった。
だが、彼は他の挑戦者たちとは違っていた。
モンコはまず、ミフネと凶悪無残な100人を超える魔族の野盗一味との決戦を仕立て、自らの策によって見事ミフネの生涯の中でも随一の武勇伝を作り上げた。
そしてさらなる伝説の存在にミフネを仕立て上げた後、ある街で衆人環視の中、二人の決闘を演出し、そして見事モンコが勝利してミフネは死んだと世間に思われた。
 しかし、そこにからくりがあった。
実は決闘は八百長であり、ミフネは生きていたのだ。
色々な相手から狙われる宿命を背負ったミフネが無事に引退する唯一の手段、それは世間から死んだ者と思われること。
華々しい決闘によってミフネは見事死を偽装することに成功し、今は別人となってバーを経営していた。
 「それにしても傑作だったな『人には信じるものが、英雄が必要なんだ!!あんたには死ぬまで俺の英雄でいてほしい!!伝説のままカッコよく引退して欲しいんだ!!』っていったお前が」
「うるせえよ・・・」
モンコはプイッとそっぽを向いてしまう。
「もしかしてお前、昔の自分をあの娘に見てるんじゃないのか?だから邪険にするんだろう?」
「うるせえって言ってるだろう・・・気分が悪い・・帰るぜ・・」
モンコは乱暴に代金をカウンターに叩きつけると、出て行ってしまった。


 「どうしてーーーーっっ!!何で相棒にしてくれないのさーーー!!!ミスター・マンゴーーーーっっ!!!!」
同じころ、通りの傍らでジェシカは缶ジュースをあおりながら叫んでいた。
モンコに冷たくあしらわれてしまったのが悔しくてたまらず、ヤケ酒ならぬヤケジュースといったところである。
 「マンゴー・・・あなたに・・認めてほしい・・・どうして・・くれたら・・相棒に・・して・・くれるのさぁぁ・・・」
ジェシカは思わずうつむく。
 そのとき、何だかガヤガヤと騒がしくなる。
何だと思って顔を上げてみると、保安官助手が血相を変えて慌ただしい様子で走っている。
「ねえ、どうしたのさ?」
ジェシカは保安官助手を掴まえると尋ねてみた。
 「グリンゴの森に凶悪な賞金首が隠れてるって情報が入ったんだよ。すぐに保安官に知らせないと。これから人を集めて森狩りだ」
「それ本当!?嘘じゃないよね?」
「んなわけないだろ。って急がないと」
保安官助手はそういうと慌てて保安官事務所へ向う。
(森に・・・凶悪賞金首が・・・。もし・・ボク一人で・・・捕まえれば・・・マンゴーもボクのこと・・・認めて相棒に・・してくれるかも・・・)
そんな考えがジェシカの脳裏に浮かんでくる。
(よし・・!!決めた!!捕まえて・・・絶対にマンゴーの相棒にしてもらうんだ!!)
そう決意すると、ジェシカは急いでその場を後にした。


 (しまった・・・・)
森の中を歩きながら、ジェシカはあることを思い出した。
(隠れてる賞金首って・・・どんなやつなんだろう・・。確かめてなかったよ・・)
保安官助手の話を聞くや、そのまま町を飛び出してきてしまったため、保安官事務所の掲示板に張り出されている目当ての賞金首の手配書を見てこなかったのである。
 (まあいいや・・・。怪しそうなやつを見つければ・・・)
そう考えると、ジェシカは再び捜索に入る。
しばらく森の中を探していたジェシカはふと、何か黒いものが動いているのを見つけた。
 (何だろ・・・・)
ジェシカは愛用のリボルバーを引き抜くと、ゆっくりと、足音を立てないようにして近付く。
恐る恐る茂みの陰から覗いてみると、一人の男が立っていた。
全身黒づくめのその姿はまるで葬儀屋のよう、背中に生えている翼はこれまた暗闇がそのまま形になったかと思うほど黒い。
 (黒い・・・翼・・・ってことは・・魔族・・。ってことは・・・)
今目にしている男が賞金首ではないかとジェシカは判断する。
(こいつを・・・そうすれば・・ボクは・・・マンゴーの・・相棒に・・・)
ジェシカは両手でリボルバーを構えると、ジッと狙いをつける。
幸い、相手は背中を向けている。
背後から撃つなど、あまりいいものではない。
しかし、この男が例の賞金首であるならば、どんな手を使ってでも仕留めたかった。
モンコに認められたい。
その一念が彼女を動かしていた。
 ジェシカは食い入るように黒づくめの男を見つめる。
汗がどっと吹き出し、喉がカラカラに乾く。
両手の親指を使ってジェシカは撃鉄を起こす。
息が乱れそうになる中、引き金をゆっくり引こうとしたそのときだった。
 突然、男の身体が翻る。
同時に乾いた音が響き渡った。


 ―続く―

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genre : 小説・文学

ザ・クリーナー(後始末屋)4 酔っぱらいと来客



 「あん?どこ行くんだよ?」
庭で武器の練習をしていたキアラはネロが厩舎から魔族の馬を引き出すのを見ると、そう尋ねてきた。
 「買い物と振込みだ」
「一人でかよ?」
キアラは怪訝そうな表情を浮かべる。
買い物に行く際は手伝いとして連れて行かれることが多かったからだ。
「個人的な用だからな。ついて行きたいのか?」
「んなわけねえだろ!ガキじゃあるまいし!」
「そうか。なら留守を頼もうか。まさか留守番も出来ないわけではないな?」
「馬鹿にすんなっ!ガキじゃあるめえし!!」
「なら頼んだぞ。言い忘れていたが、客がくることになっている。くれぐれも粗相の無いようにな」
「わかってるって言ってんだろうが!さっさと行きやがれ!!」
不機嫌そうなキアラに思わず苦笑しながらネロは馬に跨ると、屋敷を後にした。


 (よしと・・これで会費は振り込んだと・・)
指定された口座へ必要な金額を振り込むと、ネロは銀行を後にする。
振り込みを終えたネロが次にやって来たのはDVD&CDショップ。
 「いらっしゃいませ~~~。あっ!これはこれは・・・。毎度のご利用ありがとうございます」
ネロが入って来るなり、店員の一人が愛想のよい表情を浮かべて近づいてくる。
ここはネロの行きつけの店。
当然、店員にとっても馴染みの顔となっていた。
「いつものでよろしいんですね?」
「ああ、頼む」
「ではどうぞこちらへ・・・・・」
店員はそう言うとネロを案内してあるコーナーへ行く。
色々なジャンルのコーナーを過ぎた後、ようやくそのコーナーへたどり着いた。
そのコーナーに並んでいるパッケージにはいずれもガンマンやカウボーイの写真やイラストが描かれている。
西部劇コーナーだというのはすぐわかった。
だが、普通の西部劇とは感じが違う。
確かに中には某荒くれ刑事映画で主役を努め、近年は硫黄島の戦いをテーマにした作品で名高いクリント・イーストウッドなどアメリカ人が主演の映画もある。
しかし、その多くはイタリア系をはじめとするヨーロッパ系の俳優達が主演を務める作品だった。
さらによくパッケージを見てみると、原題や音声がイタリア語のもの、監督をはじめとする制作陣がイタリア人だったり、製作国もイタリアのものが多かった。
さらに映画の公開や制作の年度を見ると1960年代から70年代のものばかりだった。
よくコーナーを見てみると、棚の脇につけられているジャンルを示す札に「マカロニ・ウェスタン」と書かれていた。
1960年代から70年代はじめにかけ、あるジャンルが世界的に大ブームを呼んだ。
それがマカロニ・ウェスタンことイタリア製西部劇だ。
自由や独立、フロンティアスピリットといったアメリカ的価値観、伝統的美意識などをテーマとしたアメリカ西部劇とは異なり、イタリア人というアメリカのとっての他者・よそ者に当たる人々がつくるという立場を強みとして生かし、独特の作風を作り上げたのがマカロニ・ウェスタンだ。
 例えば、本場アメリカ西部劇の場合、観客は無論、造り手もアメリカ人である。
だから先住民やモルモン教徒に対する迫害・弾圧といったアメリカ史の暗部を描くことは難しかったし、また娯楽活劇でも時代考証など歴史的な考証・考察をないがしろにして書くことは出来なかった。
西部劇は自分達の歴史を描いたものだったからだ。
それは日本において時代劇をつくるときのことを考えてみるとわかりやすいかもしれない。
日本の時代劇でもアイヌや琉球をテーマとした作品は日本史の暗部と関わるためにほとんどないし、必殺シリーズや時代物の少年漫画のように最初から考証・史実を無視している作品ならともかく、通常の作品においてはいい加減な考証などをすると非難される危険がある。
これも、自国の歴史をテーマとするため、いい加減なことを書いたり出来ないためだ。
 しかし、マカロニ・ウェスタンでは西部の伝統的価値観・美意識や時代考証などどこ吹く風、生々しい暴力と復讐心や金銭欲といった人間のギラギラした感情を描き、19世紀が舞台なのに20世紀になって登場したモーゼル自動拳銃を主人公が使っていたり、また爆弾や銃を仕込んだからくり人形だの、機関銃と小型大砲を仕込んだオルガンだのといった現実にはあり得ない秘密兵器で悪人一味をやっつける、サムライやカンフー使いが西部を闊歩するなどというよく言えば自由奔放、悪く言えば無茶苦茶なことを平気でやっている。
 これは制作陣がアメリカにとって外国人であるイタリア人だったからこそだろう。
余所者だからこそ、時代考証や歴史のタブーにとらわれず自由な発想で作ることが出来た。
そのため、007ばりの派手な活劇モノから、アメリカ史や社会、人間の暗部をするどくえぐり出した骨太な社会派作品、大人から子供まで楽しめる明るいコメディなど多種多様な娯楽作品が造られ、10年近くにわたってブームが続き、500本もの作品が造りだされたといわれるほどの活況を呈した。
そのジャンルの性格などから批評家などからは無視されたものの、一般大衆・観客の心を捕らえ、今なお熱烈なファンが存在しており、また「スキヤキウェスタン・ジャンゴ」や「ボクらの太陽」、「続・殺戮のジャンゴ」などといった、現代の映画やゲームなどにも影響を与えている。
 そして、そのマカロニ・ウェスタンに心奪われたのは人間ばかりではなかった。
天使や魔族も、特にその価値観や社会の仕組みなどに荒っぽい要素を持つ魔族達の場合、荒々しい暴力の世界で己の腕と頭脳を頼りに生きるマカロニ系ヒーロー達に強いシンパシーを感じたのだろう、人間界でマカロニウエスタンの味を覚えた魔族達を通じて魔族界にマカロニがもたらされ、大きなブームを巻き起こした。
 さらに、80年代後半から現在にかけて、マカロニの巨匠として知られるセルジオ・レオーネやコルブッチといった監督達、またリー・ヴァン・クリーフやクラウス・キンスキーをはじめとするマカロニスター達が世を去ったこともブームに拍車をかけた。
死者となった彼等が天界に迎え入れられ、天・魔両世界共同で、天界の住人となった彼らを起用して、現世では見ることのできない新しい作品が生み出されているからである。
無論、これはマカロニに限ったことではない。
ジョン・フォードや黒澤明、ジョン・ウェインや三船敏郎、ブルース・リーといった既に亡くなった巨匠・名優らにより、天界ではあまたの作品が生み出されているのだから。
 ネロはコーナーにずらりと並べられた商品を見やりながら、ふとある作品に目を止める。
(これだこれだ・・)
ネロは目を止めた商品を手に取るとパッケージをしげしげと見つめる。
パッケージには「サルタナがやって来る ―虐殺の一匹狼―」とタイトルが書かれていた。
(人気作品すぎて中々手に入らなかったからな。よかった・・・)
ネロは微かに笑みを浮かべる。
 この作品はダンディでカッコいいヒーローと007ばりの奇想天外で派手なアクションを売り物にした娯楽活劇シリーズの第四作。
特にクライマックスの、皆殺しオルGUNこと小型砲と機関銃を仕込んだパイプオルガンを駆使して悪人一味を壊滅させるシーンで名高い。
なお、サルタナシリーズはマカロニ中の傑作として名高いシリーズだけあって、世界中で大ヒットしたが、何故か日本では2000年代にこれ一本だけDVD化されるまでは紹介されなかったという不思議な作品だ。
魔族界でも大ヒットし、それが原因でDVDが品切れ続出、中々手に入らないという事態になっていただけに、マカロニ愛好家のネロとしても何としても手に入れたい一本だった。
他にもいいのが無いかと見回し、またドキュメンタリー系DVDのコーナーに行ってマカロニ関連のドキュメンタリーDVDも幾つか購入すると、ネロはショップを後にした。


 「畜生!品切れかよ!」
酒用の小型冷蔵庫の中を見るや、キアラは毒づく。
普段はビールやウィスキーを入れてあるのだが、あいにく今日は空っぽだった。
「クソ・・。買ってくっか・・・」
ブツブツと愚痴を言いながらキアラは近くの店まで酒を買いに出かけた。
 キアラが酒を買いに出たのと入れ替わるようにして、屋敷に向かって漆黒の天馬が飛んでくる。
天馬にはネロに劣らず見事な黒づくめの衣服を身にまとい、モーゼル・ミリタリーを身につけ、漆黒の翼をもつ天使が跨っている。
サイレンスだ。
天馬の鞍袋にはクリアケースらしいものが入れてあった。
屋敷に近づくと天馬はゆっくりと降りて行く。
やがて、地面に降り立つと、サイレンスは馬を降り、鞍袋からクリアケースを取り出す。
そしてケースを抱えると、来客を告げるブザーを押した。
 だが、誰も出てこない。
サイレンスは訝しげな表情を浮かべる。
ネロのことは知っていたからだ。
自分が来ることはわかっていたはず。
出かけるにしても何か連絡をよこすだろう。
 何か手違いがあったのかもしれない、そう判断したサイレンスは一旦引き揚げることにする。
クリアケースを鞍袋に仕舞って再び馬に跨ろうとしたときだった。
 「ああ~ん、テメエ、何してんだ~~~?」
不意にろれつの回らない声で誰かが呼びかけてくる。
振り向いてみると、若い娘が馬にまたがったまま、ウィスキーの瓶を傾けているのが見えた。
 「テンメェ・・・人の屋敷の前で・・何・・してん・・ぶいっくぅぅ・・・」
キアラは馬上でラッパ飲みしながらサイレンスを問い詰めようとする。
既にかなり飲んでいるのだろう、顔はゆでダコのように真っ赤に染め上がっていた。
どうやら帰る道すがら、買った酒をきこしめしたらしい。
 キアラの態度からサイレンスは屋敷の者だと察したが、こうも酔っぱらってしまっていては話にならないと判断したのか、そのまま去ろうとする。
「おぃ!待ちやがれ!」
突然、キアラは去ろうとするサイレンスを呼びとめる。
サイレンスがふりかえってみると、キアラがかなり興奮しているように見えた。
「テメェ・・・盗人だろう~~。だから・・屋敷の前・・うろっついて・・やがったな~~~~。ゲヘヘ・・。逃がすかよ~~~」
完全に酔っていてまともな判断が出来ないせいだろう、キアラは腰からリボルバー式の拳銃を引き抜いて構える。
その振舞いにサイレンスの様子が変わった。
 酔った今のキアラの目では捉えきれないほど敏捷な動きでサイレンスの身が翻ったかと思うや、牛追い鞭が激しく腕に叩きつけられる。
鞭の痛みに思わずキアラは銃を取り落とし、同時に酔いのためにバランスを崩して落ちてしまった。
 キアラが頭から落ちるのを見るや、思わずサイレンスは駆け寄って抱え起こす。
どうやら大きなけがを負ってはいないらしい。
だが、ぶつけた場所が場所だ。
決して安心は出来ない。
まずいことになったとサイレンスが思ったときだった。
 「どうした?」
聞き慣れた声に振り返ると、馬上のネロの姿が見える。
ネロは気絶しているキアラの姿を見るなり、状況を察すると、すぐさま携帯を取り出して、電話をかけた。


 「ぐぅ・・痛ててて・・・」
酒による頭痛に顔を顰めながら起きたキアラの目に飛び込んで来たのは病室の清潔かつ無機質な白壁だった。
 「何だ・・ここは?」
思わずキアラがつぶやくと、誰かが声をかける。
「気がついたか?」
振り返ってみると、ネロが立っていた。
 「あん?出かけたんじゃなかったのか?」
「用はもう済んだ。ここは病院だ」
「病院だぁ?」
キアラが周りを見回し、さらに自分の格好を見てみると、入院患者のものになっている。
「何でこんなとこいるんだよ!」
「酔っぱらった挙句の果てに馬から落ちて頭を打ったんだ。覚えていないのか?」
「何だと・・・」
ネロに言われてそうやくキアラは思い出す。
 「クソッ!あの天使野郎・・・・」
サイレンスに腕を鞭で思い切り殴りつけられた衝撃で馬から落ちたことを思い出すや、キアラは恨めしげな表情を浮かべる。
 「人のせいにするな。それより・・・覚悟はいいだろうな?」
「あん?何のことだ!?」
「出かける前に言ったはずだ。客人が来るから留守を頼むとな」
「ああん?それがどうかしたか?」
「どうかしたかではない。そう言っておいたにも関わらず、酒なんかのために屋敷を離れた上に、酒に酔っ払って客人に銃を向けるとはな・・」
「ああ!あの天使野郎が客かよ!?てっきり盗人かと思ったぜ・・・」
「それは俺も十分に言っておくべきだったな。だが・・・きちんと役目を果たしたとはとても言えないことはわかっているな?」
「う・・うるせえよ・・」
キアラは途端に機嫌が悪くなる。
同時にベッドから逃げ出そうとした。
 ネロはすぐさま手首を引っ掴むや、思い切り引き寄せる。
おかげでキアラは見舞客用の椅子に腰をおろしたネロの膝に載せられてしまった。
「クソッ!離しやがれ!このド○○らっ!!」
キアラは相変わらずの暴言を吐くが、ネロは聞き流して上着を捲りあげ、ズボンを降ろしてお尻をむき出しにする。
 「畜生っ!何しやがんだっ!」
「お仕置きに決まっているだろう」
「ふざけんな!何でんなことされなきゃなんねえんだっ!」
「何故だと?ただきちんと留守番をしていなかっただけならともかく、昼間から酔っぱらった挙句に人に銃を向け、入院までするような事態になったのだぞ?」
「うっせえよ!あの天使野郎が悪いんだっ!それにそもそもテメエがちゃんと酒買い足しときゃそんなことにならなかったんだよ!!」
「やれやれ・・・全く反省してないようだな・・。よくわかった・・」
ネロはそういうと、左手で弟子の身体を押さえつける。
そして、ゆっくりと右手を振り上げたかと思うと、思い切り振りおろした。


 パアシィンッ!!
「ぎっっ!!」
甲高い音と共に平手が叩きつけられ、キアラはうめき声と共に悔しそうな表情を浮かべる。
パアンッ!パアシィンッ!ピシャアンッ!パッシィンッ!
「クソッ!テメェッ!離せっ!離しやがれっ!こん畜生っ!」
バシバシとお尻を叩かれつつも、キアラは頑として抵抗する。
「全く・・・お前は何をやっているんだ・・・」
いつものようにネロは平手を振り下ろしながらお説教を始める。
 パアシィンッ!ピシャアンッ!パアアンッ!パッチィンッ!
「客人が来るから留守を頼むといっておいたというのに・・・」
「うっせえよっ!テメエが酒買っとかねえからだろ!!この梅毒脳味噌野郎!!」
キアラはお尻を叩かれているにも関わらず暴言を吐きまくる。
ピシャアンッ!パアシィンッ!ピシャアンッ!ピシャアンッ!
「買い物はともかく・・・昼日中から・・しかも馬に乗ったまま酒など飲んで・・」
「うるせええ!!どういう飲み方しようが俺の勝手だろうが!!」
パアシィンッ!ピシャアンッ!パチィンッ!パアアンッ!
「しかも・・酔ったあまりに人に銃まで向けるような真似までして・・自分が何をやったのかわかっているのか?」
「うるせぇぇ~~~っ!テメエに説教される筋合いなんざねえよっ!とっとと離しやがれ!せむしで癩病持ちのクサレチ○○オヤジと売春婦で梅毒持ちのお袋から生まれやがったかさっかきの○○ラ○チ○イ野郎!!!」
「いい加減にしろ・・。反省していないのか?」
あまりに強情なキアラの態度にネロも少々うんざりした様子で尋ねる。
「反省することなんざねえ!!とっとと降ろしやがれ!!」
「そうか・・。よくわかった・・・」
ネロはハァ~とため息をついたかと思うと、おもむろに足を組む。
おかげでキアラはグッとお尻を突き上げる体勢になった。
そこへ、鞭のようなしなやかな手さばきで手を振り下ろす。
 バアッシィ~~~ンンッッ!!!
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッッッ!!!
「んぎゃああああっっっ!!!!」
ただでさえお仕置きが痛く感じられる体勢にされたところへ、集中豪雨のごとく平手の雨が降り注ぐ。
「何しやがんだぁぁ!!殺す気かぁぁ!!」
睨み殺さんばかりの勢いでキアラは振り返るが、ネロの氷のように冷たい目に思わず引いてしまう。
「少々のことでは反省出来んようだな・・。今日はキッチリと性根を入れ替えてやろう」
そういうと再び平手の嵐をお見舞いする。
激しい打撃音と絶叫、怒声が入り混じった音が病室に響き渡った。


 「ひぃん・・。ひぃぃん・・痛ぇ・・痛えよぉぉ・・・」
キアラはボロボロと涙を零して泣いていた。
今やお尻は二回りは大きく腫れ上がり、ワインを表面にかけたのではと思えるほど真っ赤に染め上がっている。
「まだ・・強情を張るか・・?」
ネロは一旦お尻を叩く手を止めると、軽くポンポンと触りながら尋ねる。
「ひぃん・・!も・・もぅ・・やめて・・やめて・・くれよぉぉ・・!ケツ・・壊れるぅぅぅ・・・」
さすがにお仕置きが効いたのだろう、プライドをかなぐり捨ててキアラは許しを乞う。
 「なら何故怒られたか言ってみろ。出来るな?」
ネロが尋ねると、コクコク頷きながらキアラは答える。
「ひぃん・・。ちゃ・・ちゃんと・・留守番・・しなかった・・」
「そうだ。それから?」
「昼間っから・・それも・・馬ぁ・・乗りながら・・酒・・飲んだぁぁ・・」
「そうだ。あとは?」
「ひぃん・・酔った・・勢いで・・客に・・銃・・向けたぁぁ・・」
「そうだ。わかっているようだな・・・・」
ネロはそういうと、言葉を続ける。
 「いいか。俺は留守番をしなかっただけで怒っているわけではない。いいか、お前は馬に乗りながら酒を飲んだ。いわば飲酒運転だ。それは非常に危険で、事故を起こしかねん。そして・・何よりも・・お前は酔っぱらった勢いで他人に銃を向けるなどという真似をやらかした。そんなことをすればどうなるか、頭が冷えた今ならわかるだろう?」
「あ・・・」
キアラはようやくおのれの仕出かしたことの重大さに気づく。
銃を向けるということは、喧嘩を売ること。
しかも、ただの喧嘩では無く殺し合いのだ。
それは非常に無礼極まりないことで、返り討ちで殺されてしまったとしても文句が言えないことである。
 「幸い・・・酔っぱらいの仕業ということでサイレンスが冷静な対応をしたからよかったが・・お前同様血の気の多い者が相手だったら殺されていたのかもしれんぞ?しかも、頭を打って重大なことになるかもしれなかったのだ。わかっているのか?」
キアラは今更ながら全身が震えてくる。
「もう・・二度としないと約束するか?」
師が尋ねると、キアラは必死に頷く。
それを見ると、ようやくネロは弟子を膝から降ろしてやった。


 (やれやれ・・相変わらず世話が焼けるな・・・)
お尻に冷たいタオルを乗せ、うつ伏せで眠っているキアラの姿にネロは苦笑する。
しばらくの間ネロは様子を見ていたが、やがて大丈夫だと見極めをつけると、静かに病室を後にした。
 病室を出ると、廊下で待っていたサイレンスが手振りで話しかけてくる。
「大丈夫だ。精密検査もしてもらったが特に異常はない。それよりも・・弟子が迷惑をかけたな・・・」
ネロが謝ると、サイレンスは手振りで別に気にしていないと答える。
「そう言ってもらえるなら何よりだ。それはそうと・・書類の方はあるのか?」
ネロの問いにサイレンスが頷くと、クリアケースを取り出して渡す。
ネロは受け取ったケースを開くと、中身に目を通す。
ケースの中にあるのはイベントの企画書や契約書。
 「どうやら順調に進んでいるようだな。ゲストはまだ決まっていないようだな?」
ネロの問いにサイレンスは頷いて答える。
「それにしても妙なものだな。天使と悪魔が、共にマカロニウェスタンの虜になり、一緒にイベントの興行やら何やらをするのだからな」
二人は互いに顔を合わせると苦笑する。
ネロもサイレンスも天魔両種族でつくられるマカロニウェスタン愛好家の団体の会員になっていた。
今日、街でネロが振り込んで来たのもその団体の会費だ。
その団体では、マカロニウェスタンのイベントを企画中で、サイレンスは天使側の、ネロは魔族側の幹事の一人になっていた。
その関係で、サイレンスが天界側の必要な書類を持って来たのである。
やがて、ネロは再度キアラの様子を見て大丈夫だと確認すると、書類の件を詰めるためにサイレンスと共に屋敷へ戻っていった。


 ―完―

theme : 自作小説
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山田主水

Author:山田主水
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