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ダンジュー修道院・番外編4 天使が静かにやって来る



 (番外編ということで、通常とは違う設定になっております。許容出来る方のみご覧ください)


 遥か空の彼方、魔法によって人の目からは隠された、大きな島ほどある巨大な雲。
その上にヴェルサイユやクレムリンですら比べものにならないほど壮麗な建物がそびえ立っている。
その宮殿のあちこちでは多くの者が仕事に励んでいる。
ある者は作業着姿で庭の手入れをしており、また別の者はオフィスで書類とにらめっこしている。
そうかと思えば、翼のある馬や馬車に乗ってせわしなくどこかへ出てゆくものもいる。
働いている者達は色こそ違えど、全員背中に鳥の翼が生えていた。
ここは天国の役所の一つで、働いているのはいわゆる天使である。
そんな天の役所の廊下をパタパタとせわしなく走っている天使の姿があった。
修道士姿で艶のある綺麗な緑の髪と目の持ち主。
チサトだった。
 マルセル村で神父として勤めて数十年後、チサトは村人に見送られて大往生を遂げた。
その後、天国へ行き、現在は修道院時代の姿で天使として働いているのである。
急ぐことで頭が満杯なのか、目の前に大きな壁があることに気付かなかった。
「きゃあんっ!」
ドンっという音と共にチサトは悲鳴を上げ、派手に転んでしまう。
同時に書類をあたりにばらまいてしまった。
 「痛たたた・・・・・」
後頭部を押さえながらチサトが立ち上がろうとすると、修道士天使の目の前にすっと静かに手が差しだされる。
「あ・・・す・・すいません・・・」
チサトが差しだされた手を掴むや、手の主はグイッと引き上げて起こしてやる。
同時に、目の前に立っていた手の主の姿がチサトに見えた。


 そこに立っていたのは一人の男。
男は長身でドーベルマンや狼を思わせる無駄なく引き締まり、鍛え上げられた身体の持ち主で。
短めの艶のある黒い翼に髪と目の持ち主で、精悍さと野性味を感じさせながらどこか整った面立ちをしている。
ドーベルマンの毛並みのように見事な漆黒の帽子をかぶり、帽子同様漆黒の袖の短いコートにシャツ、ズボンとブーツに身を包んでいる。
なお、男のコートの背中や肩から上腕にかけての部分には、土色のやや朽ちた感じの棺桶が描かれていた。
コートの下からは使い込んだ鎖帷子や棺桶型の小型護符を装着したタスキ式のベルト、拳銃を納めた木製のホルスターがチラリと姿を見せ、また両前腕には棺桶をイメージしたデザインのガントレットを装着している。
これらの装備が戦闘を職とする天使であることを物語っていた。
 「サイレンスさん・・・戻ってらっしゃったんですね・・・」
黒尽くめの男はチサトに話しかけられると、肯定するように頷く。
男の名はジャンゴ・サイレンス、但しこれは通称である。
正しい名はジャンゴ・フランコ・ジャン=ルイ・ネロ・トランティニャン・サイレンスなのだが、長すぎて舌を噛みそうということで、最初と最後を取ってジャンゴ・サイレンスと呼ばれている。
 「ってああっ!ぶつかっちゃってごめんなさい!?」
チサトはぶつかってしまったことを思い出すと、慌てて謝る。
だが、サイレンスはそれを気にすることなく、散らばった書類を拾い集めてチサトに渡してやる。
「あ、ありがとうございます。そうだ、せっかく戻ってらっしゃったんですからお茶でも淹れましょうか?」
サイレンスは気遣いに手ぶりで感謝を示すも、同時に辞退の意を示す。
 「また・・すぐ出られるんですか?」
チサトの問いにサイレンスは黙って頷く。
それを聞くと、チサトは心配そうな表情を浮かべ、男の首をジッと見つめる。
サイレンスの喉には大きく醜い古傷が横一文字に走っていた。
昔、凶悪な悪魔一味のボスにつけられたものだ。
サイレンスの仕事は悪魔やモンスターの追跡と壊滅。
相手が相手だけに怪我どころでは済まないこともある。
喉の大きな古傷もその証で、かつてその悪辣さゆえに悪魔社会からも追放を宣告された極悪非道な悪魔一味を追っていた際にミスをして囚われてしまい、散々リンチされた上で喉を掻き切られたのである。
幸い、仲間が駆けつけて悪魔一味は壊滅の上で救出されたが、喉の傷は深く、声帯を完全にやられて喋れなくなってしまった。
最も、天界には失われた声帯を再生する技術もあるが、敢えてサイレンスはそれをしなかった。
己への戒めとするためである。
それにより、彼は文字通り沈黙の男(サイレンスは英語で沈黙・静寂などの意味)となったのである。
 「気をつけて・・・下さいね」
心配そうな表情を浮かべながらチサトが言うと、サイレンスは重々しく頷く。
やがてゆっくりとサイレンスはその場を去る。
チサトも書類を届けなければいけないことを思い出し、慌ただしくその場を後にした。


 今にも踊り出したくなりそうな音楽が響き渡り、セクシーな格好をした淫魔の女達が舞台で際どいダンスを踊っている。
酒場の一角にある丸テーブルでは、数人の悪魔がある者はグラスを片手に、また別の者はけばけばしい化粧をした売春婦兼業の店員を抱きながらポーカーに興じていた。
悪魔達はいずれも銃やナイフ、剣といった武器や鎖帷子、革鎧等の防具を身につけている。
いずれもふてぶてしくいかにも悪党面といった感じで、殺しや強盗などにも手慣れた輩なのは素人目にも明らかだった。
 そんな無法者悪魔達が自分達の楽しみに興じているのを尻目に、スイングドアが開いたかと思うと、新たに客が入ってくる。
入ってきたのは天使。
翼も服も黒尽くめ、コートの背中や腕には棺桶の図柄という、何とも天使の癖に暗そうな感じのやつだ。
チラリと悪魔達は目をやったが、すぐに興味を失くしてトランプの方へ視線を向ける。
だが、カウンターが見える位置に座っていた悪魔があることに気づいた。
 天使は身ぶり手ぶりと羊皮紙を用いて酒場の主人に何やら尋ねている。
羊皮紙はよく見ると手配書で、ちょうど彼らの親分の写真が映っていた。
すぐにボスに対する追手だと気づくと、素早く仲間達に目くばせする。
仲間達も天使の様子に気づくと、互いに頷き合い、ジッと追手の様子を伺う。
やがて、酒場のオヤジから必要な情報を仕入れ終わったのだろう、天使は二階へと続く階段を昇り始める。
それを見ると、悪魔達も腰を上げた。
 「おい!犬野郎!」
サイレンスが半ばまで階段を上がったところで、突然悪魔の一人が階下から呼びかけた。
だが、サイレンスはそれを無視して登ろうとする。
「おい!てめぇ聞こえねえのか!?」
「おぃおい、あの野郎喉がカっ切られてらあな。しゃべれねえんだぜ」
「大方耳も潰れてんじゃねえのか?」
「違えねえ!ケケケケケ」
これ見よがしに悪魔達は嘲笑する。
サイレンスは歩みを止めた。
怒ったからではない。
敵がターゲットの手先であり、自分を始末しようとしていることに気づいたのだ。
サイレンスは手を滑らせ、木製ホルスターの蓋を開けると、銃に手をやる。
同時に悪魔達も銃を持っている者はグリップを握り、剣やナイフを持っている者は鯉口を切り、片翼をドラゴンの首に変える。
 背を向けたまま、サイレンスはジワリと殺気を解き放つ。
敵もそれに気づき、嘲弄から修羅場に挑む者へと表情が変わる。
酒場内は打って変ったように静まり返っていた。
一般客や店員は石像と化したように微動だにせず、緊迫した表情で両者を見守っている。
主やバーテンはカウンターに身を隠し、ちょっとだけ頭を出し、恐る恐る様子を伺っていた。
 悪魔達はゴクリと息をのみ、睨み殺さんとばかりにサイレンスを見つめる。
やがて、彼らの額や手の甲からジワリと汗が噴き出す。
汗はさらに噴き出し、床へと滴り落ちる。
悪魔達はキリキリと胃を絞りあげられるような感覚を味わっていたが、必死に堪える。
互いに相手を気迫で圧倒しようとしているのだ。
 しかし、悪魔達も長年の修羅場をくぐった経験から相手が只者では無いことに気づいていた。
目の前の黙り屋はかなり出来る。
数ではこっちが上だが、それは決して優位とはならない。
一人が怯んで隙を見せればすかさず敵は振り向いて一気になぎ倒すだろう。
それが出来るのが目の前の相手だった。
 腹を下してしまうのではという緊迫感が酒場内を支配する中、悪魔達の息も苦しげなものへと変わってゆく。
気力が限界を迎えかけているのだ。
ついに一人が堪え切れなくなり、拳銃を引き抜いて構えようとしたその時だった。
 一瞬にしてサイレンスが振り向いたかと思うや、右手に構えた拳銃から青い閃光と共に矢のような光弾が、片翼を変えたドラゴンの首からは火炎弾が立て続けに放たれた。
うめき声や悲鳴と共に悪魔たちはコマのように身をひるがえして倒れる。
 サイレンスは銃を構え、片翼をドラゴン砲にしたまま、ゆっくりと敵を見回す。
敵は皆、急所を一撃で撃ち抜かれて事切れている。
仕留めたことを確信するとサイレンスは再びゆっくりと階段を昇り始める。
だが、突然左腕のガントレットの先端から諸刃の刃が飛び出したかと思うや、何も無い筈の空間を突き刺した。
 直後、切っ先が消えたかと思うと、バチバチと青い雷が走る。
やがて、人型のシルエットが現れたかと思うと、逆手にナイフを握った悪魔が姿を現した。
その格好や雰囲気から、階下で撃ち殺された連中の同類だということは容易に想像できた。
ゆっくり、ガントレットの刃が引き抜かれると、悪魔はヨロヨロと階段を降りる。
だが、ガクンと体勢を崩すや、そのままゴロゴロと階段を転がり落ちた。
 大きく腕を振って血振りをすると、サイレンスはガントレットの刃を引っ込める。
そして、再び階段を登りはじめた。


 (この距離になれば・・・)
コウモリの翼が生えた悪魔の馬を必死に走らせながらひげを生やし、メタボ呼ばわりされそうなその悪魔は一息ついた表情を浮かべる。
彼こそサイレンスが追っていた悪魔一味の親玉だ。
階下での銃声に気づくや、窓から逃げ出し、馬を走らせて空を逃げたのである。
翼を変えてのドラゴン砲も、拳銃の射程距離からも逃げることが出来た。
ライフル銃でもない限り届かない。
そう安心していたときだった。
 突然、馬が棹立ちになったかと思うや、空へ投げ出されてしまう。
慌てて両翼をはためかせて空中に留まるが、馬は錐揉み回転しながら落ちてゆく。
(くそっ!)
心中で毒づきながら、盗賊のボスは拳銃を構える。
空中では翼は空を飛ぶ能力に集中せざるを得ない。
そのため、ドラゴン砲にすることは出来ず、そこから悪魔や天使は空中での撃ち合いのため、光弾銃を持っていた。
 「こんの・・野郎!!くたばりやがれ!!」
親分はサイレンスの姿を認めると、ゆっくりと歩きながら拳銃を撃つ。
引き金を引くたびに青い光弾が放たれ、サイレンスに向けて飛来するが、射程距離外だからか、サイレンスから2~3メートルの距離で掻き消えてしまう。
 銃を撃ちながら接近してくる敵に対し、サイレンスは冷静に相手を観察する。
同時に腰の木製ホルスターを外すと、グリップに装着し始めた。
サイレンスの銃は長い銃身をし、引き金の前に弾倉があり独特な形状をしたグリップがついている。
銃に詳しい人間が見たら、モーゼル・ミリタリーだとわかっただろう。
 モーゼル・ミリタリーは非常に独特的なデザインをしたドイツの大型拳銃。
射撃用の銃のように正確な射撃がしやすく、射程距離も長く(ホルスターを兼ねる着脱式ストックを装着すれば有効射程は200メートルに及ぶ)、またタイプによってはフルオート射撃も可能であるため、20世紀前半の中国において軍閥や馬賊などに広く愛用されていた。
旧日本軍もその性能や中国での普及状況に注目し、中国大陸で戦利品などとして得たものを利用していたという。
 サイレンスはホルスターを装着すると、両手でしっかりと構える。
そしてしっかりと狙いを定める。
敵は発砲しながらゆっくりと接近してくる。
しかし、こちらは敵の射程には入っていない。
サイレンスの目の前1~2メートルのあたりで光弾は掻き消えてしまう。
狙いを正確に定めるや、サイレンスは引き金を引く。
直後、青い閃光が煌いたかと思うや、悪魔がコマのように回転しながら落下してゆく。
回転しながら悪魔の身体は炎に包まれ、完全に灰と化して宙に散らばる。
それをきちんと見届けると、サイレンスは天馬に跨る。
そして片方のガントレットの蓋を開き、内蔵されている画面とキーボードを出すと、敵を確かに仕留めた映像を自分の所属する部署のPCへメール送信する。
その作業を終えると、サイレンスは漆黒の天馬に鐙を入れた。


 それから数時間後、報告書も提出し終えて自身の宿舎に戻ってきたサイレンスは鍵が開いていることに気づく。
途端に男の表情に緊張感が走った。
悪魔の中には巧みに天界の者を買収し、サイレンスら天界の討手達の居住区に刺客を潜り込ませる者もいる。
サイレンスはモーゼル拳銃を引き抜くと、慎重に扉を開け、忍び足で中へ踏み込む。
ジッと耳を澄ませ、室内の様子を伺うと、どうやらキッチンから物音が聞こえてくる。
慎重に動きながらキッチンへと向かうと、ドアを僅かに開けて中を覗いてみる。
すると、中では誰かが鍋を温めていた。
 料理をしている人物をよく見ると、緑の髪をしている。
チサトだ。
ようやく、不審者の正体を知るなり、サイレンスはホッとする。
男の一人身暮らしのせいだろう、食事を簡単に済ませたり、掃除なども行き届かないところがある。
職務柄外を飛び回ることが多いのもそういう傾向に拍車をかけていた。
そういうことを知り、チサトは時々お世話になっているからと、掃除を手伝ったり、自分の手料理を持ってきてくれたりしているのである。
恐らく宿舎の管理人に頼んで鍵を開けてもらったのであろうが、それにしても驚いたとサイレンスは再びため息をつく。
ようやくモーゼルを仕舞うと、サイレンスはドアを開けて姿を現した。
 「あ!サイレンスさん!帰ってらっしゃったんですね?」
チサトはサイレンスが姿を現すと、声をかける。
サイレンスは肯定するように頷く。
「無事、仕事を終わらせたって伺って、そろそろ帰ってくる頃だと思って暖かいシチュー用意したんですよ。待ってて下さいね」
チサトはそういうと火を消し、鍋を取り上げようとする。
サイレンスもチサトに全てを任せるのも悪いと思ったのだろう、食器を用意しようと棚に足を向けたそのときだった。
 「きゃあんっ!!」
突然、チサトの悲鳴が聞こえ、ハッとしてサイレンスは振り向く。
見るや、チサトは蹴躓いて鍋を宙に投げ出す。
サイレンスが危険を感じた時には既に遅く、先程までグツグツと煮えていたシチューをもろに足にひっかぶってしまう。
 さすがのサイレンスも苦痛に顔を歪め、床に倒れてしまった。
「あわわ・・・ど・・どうしよう・・・」
チサトはビックリしてしまい、何とかしようとするが、パニック状態に陥ってしまい、オロオロすることしか出来ない。
サイレンスは一瞬、苦痛で頭の中が真っ白になりかけるも、すぐに冷静さを取り戻す。
苦痛を堪えつつ、コンピューターガントレットの蓋を開き、救援用の緊急コードを打ち込むと、顔を痛みに顰めつつ、送信した。


 医務室の外で身を縮こまらせて座っていると、バルバロッサが出てきた。
バルバロッサも今ではチサト同様、天使として天界で暮らしていた。
「あ・・・バルバロッサさん・・・」
「話は聞いたで」
「あの・・サイレンスさんは・・?」
チサトが心配そうに尋ねるとバルバロッサは答えてやる。
「大丈夫だ、しばらく安静にしてれば治るとよ」
「よかった・・・」
チサトはホッとするが、バルバロッサは怖い顔を浮かべると
「チサト・・・わかっとるな?」
バルバロッサの問いにチサトは黙って頷く。
それを見ると、バルバロッサはチサトと共にその場を立ち去った。
 二人は反省室と書かれた場所に入ってゆく。
ここは若い天使の教育や躾に使われる場所。
バルバロッサは椅子を持って来ると腰かけ、ポンポンと軽く膝を叩いて促す。
チサトはそれを見ると、オズオズとバルバロッサのもとへ行く。
そして、バルバロッサの膝を食い入るように見つめていたが、やがて覚悟を決めたような表情を浮かべると、ゆっくりとうつ伏せになった。
 バルバロッサは慣れた手つきでチサトの上着を捲り上げ、ズボンを降ろす。
あっという間にお尻があらわになり、チサトは羞恥で顔を赤らめる。
「行くで・・・ええな?」
バルバロッサが声をかけると、チサトは静かに頷く。
それを見ると、バルバロッサは左手でチサトの身体をしっかりと押さえ、右手をゆっくりと振り上げた。


 パアンッッ!!
「く・・・・」
甲高い音と共に痛みがお尻の表面で弾け、思わず苦痛の声が漏れる。
パシィンッ!ピシャアンッ!パアアンッ!パチィンッ!
大きな平手が振り下ろされるたび、チサトのお尻に赤い手形が刻みつけられる。
チサトはバルバロッサの上着の裾をしっかりと握りしめ、必死に声を押し殺す。
 「ったく・・・相変わらず何やっとんのや・・・・」
ため息や呆れが混じった声でバルバロッサは平手を振り下ろしながらお説教を始める。
現世でもしょっちゅうドジをやらかし、そのたびにお仕置きをしていたが、それは天使になってからも変わっていなかった。
そのため、現世同様、何かドジをやらかすたびにバルバロッサがお仕置きをしているのである。
 ピシャアンッ!パアアンッ!パアチィンッ!パシィンッ!
「う・・く・・ひ・・あぅ・・・」
堪え切れなくなってきたのだろう、チサトの口から苦痛の声が漏れだす。
「何度も何度も言うとるやろ・・・?もっと周りに気をつけえ、しっかりせえって」
平手を叩きつけながら、バルバロッサはチサトにお説教をする。
パアチィンッ!ピシャアンッ!パアチィンッ!パアアンッ!
「あっ・・ひゃん・・くぅん・・ひぃん・・・・」
お尻の赤みはだんだん濃くなり、チサトの表情もより苦しげなものへと変わってゆく。
 「それなのに・・・性懲りもなく・・何やっとるんや!」
バッシィ~ンッ!バッア~ンッ!ビッダァ~ンッ!
「きゃああんっ!ひゃああんっ!痛ぁぁいっっ!!」
不意に平手打ちの勢いが強くなり、チサトは悲鳴を上げ、両脚をバタつかせる。
 ビッシャ~ンッ!バッシィ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビッダァ~ンッ!
「きゃあんっ!ごめんなさい・・ごめんなさいっ・・ごめんなさぁ~~いっっ!!」
バタバタと両脚を激しく動かしながらチサトは必死に謝る。
「反省しとるんか?」
バルバロッサはお尻を叩く勢いを弱めて尋ねる。
「し・・してますぅ・・・人に・・怪我させて・・ごめんなさい・・ひぅん・・・」
しゃくり上げながらチサトが謝ると、ようやくバロバロッサは手を止める。
 「よしよし・・よぉ言えたな・・・ええ子や・・・」
バルバロッサはチサトを膝の上に座らせると抱きしめながら赤く染まったお尻を撫でてやる。
「今・・・冷やしてやっからな・・・。尻の痛みが引いたら・・サイレンスに謝ろうな?」
「はい・・ひぃん・・・」


 それから二、三時間くらい経った頃・・・・。
サイレンスは医務室のベッドで、火傷した片脚を吊って横たわっていた。
不意にガチャリと扉が開く音を聞きつける。
油断なく耳を澄ませ、扉の方を注視していると、やがてチサトが入ってきた。
 「あ・・あの・・・大丈夫ですか?」
おずおずと心配そうな表情を浮かべてチサトが尋ねると、サイレンスは身振りで大丈夫だと告げる。
それを見ると、チサトはホッと安堵のため息をつく。
「あの・・怪我させちゃって・・・ごめんなさい・・・」
チサトは恐る恐る謝ると、ジッとサイレンスを見つめる。
その表情にはサイレンスの怒りに対する恐れと、許してもらえないことへの不安や恐怖がない交ぜになっていた。
 サイレンスは無表情のまま、ジッとチサトを見つめている。
だが、やがて手ぶりでこっちへ来いと合図をする。
不安な様子を見せながらもおずおずとチサトが歩み寄ると、サイレンスは両腕でチサトを引きよせ、しっかりと抱きしめてやる。
同時に背中や頭を撫でてやった。
チサトはサイレンスの不器用な仕草と厳つい手に暖かさを感じる。
(許して・・くれてるんだ・・・)
そのことに気づくと、チサトは安堵の溜息をつく。
同時にサイレンスが何かをチサトに握らせた。
何だろうと思って見てみると、軟膏のチューブ。
 (何で・・・)
そう思った瞬間、ハッと気づいた。
サイレンスはドジが原因で叱られたことを察したのである。
それでお尻が痛いだろうと軟膏をくれたのだ。
他人にお尻を叩かれたことを気づかれたことに思わず赤面してしまうも、武骨なガンマン天使の気遣いに思わずチサトはジンとしてしまう。
無意識のうちにチサトはサイレンスを強く抱きしめ返していた。


 ―完―

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

プロフィール

山田主水

Author:山田主水
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