マルコ神父14



「これで・・・大丈夫ですね・・」
マルコ神父は礼拝堂を見渡すと、ホッとしたように呟く。
堂内は床や祭壇、長椅子をはじめ、隅々まで、それこそ一般人はおろか教会のスタッフですらろくに見ることも無いような部分まで、塵一つ残さず、綺麗に掃除されていた。
 (さすがに・・疲れましたね・・。ちょっと・・休みましょう・・)
額の汗を拭いながら、マルコ神父は心の中で呟くと、礼拝堂を出てゆく。
元々真面目で固いところがあるのと、やるなら完璧にという完全主義的な性格もあって、掃除一つとっても気がつくと汗だくになってしまうことがよくあった。
 (待って下さい・・。ネド神父の方は・・どうなっているんでしょうか?)
礼拝堂を出ようとしかけたところで、ふとマルコ神父は立ち止まる。
ネド神父が外で庭の落ち葉掃除をしているはずだからだ。
(ちょっと・・様子を見てきましょう・・・。面倒くさがりで・・・大雑把な人ですからねぇ・・・・・)
ネド神父の性格をよく知っているだけに、つい気になったマルコ神父は、外へと足を向けた。
 「ふぅぅぅ・・・・。寒さが・・堪えるねぇ・・・」
寒風を上手く避けられる場所に座り込み、一服しながら、ネド神父はそんなことを呟いた。
(・・ったく運がねえなぁ。ここんところ寒いってのに、外の掃除番に当たるなんてなぁ)
ネド神父は運の悪さを愚痴らずにはいられない。
ただでさえ面倒くさい庭の落ち葉掃除。
寒風が容赦なく吹く中でやらなくてはいけないなど、勘弁してほしい。
そう思わずにはいられない。
 「おや?何をしてるんですか?」
不意に聞こえてきた声に、ネド神父は思わず振り向く。
すると、いつの間にかマルコ神父が立っていた。
 「ん?何だマルコか?」
「何だじゃありません!何をしてるんですか!」
ネド神父の姿を見るなり、マルコは咎めるような口調で言う。
「見りゃわかるだろ?ちょいと一服中だよ」
「それはわかります!そんなことしてる場合なんですか!?まだ終わってないでしょうに!!」
周りを見回しながら、マルコ神父は叫ぶように言う。
掃除はしていないわけではないが、あちこちにまだ掃かれていない落ち葉が残っている。
しかも、マルコ神父にとっては見逃せないことに、掃除の跡があるのは、目に付きやすいところだけ。
 「だから一休み中だよ。一服したらやるって」
「そう言ってやったためしなんてないでしょう!おおかた寒いからサボっていたんでしょう!?」
「おぃおぃ。そこまで言うことないだろう?俺だってショックだぞ」
「普段からそういう態度なネド神父が悪いのでしょう?それより・・・何ですかこれは!!目に入るところしか掃除されてないじゃないですか!!」
掃除されていない場所を幾つも指差しながら、マルコ神父は叫ぶように言う。
 「いや、だってよ。どうせ人には見えねえんだから、そこまでやらなくたっていいだろうに・・・」
「そういうのがダメなんです!!まったく・・あなたという人は!!」
そう叫ぶや、マルコ神父はネド神父の傍にたてかけてあった箒を、奪い取るように掴む。
 「もう・・あなたには任せておけません!!私がやります」
「へ・・?」
「何ボヤボヤしてるんですか!!掃除の邪魔です!さっさと出ていって下さい!!」
マルコ神父は箒を逆さに持つと、バシバシと叩きながらネド神父を追い出しにかかる。
 「ちょ、ちょっと待てって!!」
「待てじゃありません!!邪魔だって言ってるでしょう!!さっさと行かないと、本気で怒りますよ!!」
「わかった!わかったってーの!!」
箒で手加減なしに叩き伏せようとするマルコ神父に、ネド神父は慌ててどく。
 「全く・・・・。本当にいい加減な人なんですから・・・・」
ほうほうのていで退散するネド神父に呆れたようなため息をつきつつ、マルコ神父は周囲をぐるりと見回す。
箒を持ち直し、眼鏡の角度を調節すると、すぐにもマルコ神父は掃除に取りかかりだした。


 それからしばらく経ったある日・・・・。
「どうしたんです?そんなに見つめて?」
外へ出ようとする自分を見つめているネド神父に、思わずマルコ神父は尋ねる。
 「いや、また落ち葉掃除するのか?」
「当然でしょう。毎日落ち葉は出るんですから。毎日ちゃんと掃かなければ意味が無いでしょう?」
そんなこともわからないのか、と言わんばかりな口調でマルコ神父は言う。
 「そりゃあそうかもしれんが。ここ毎日、それも寒風の中でだろう?大丈夫なのか?」
ネド神父は思わず心配そうな顔になる。
「だから何だと言うんです?寒かろうが、しないわけにはいかないでしょう?」
「だがなぁ、こう毎日たて続けに寒い中やってたら、風邪引くかもしれねえだろ?」
「風邪?ネド神父・・・・まさか私が毎日落ち葉掃除をしたくらいで、風邪なんか引くような人間だとでも思っているんですか?」
「そんなことは言ってねえって。ここんところ寒いからよ、ちょっと心配になってな・・。何だったら俺がと・・・」
そこまで言いかけたところで、マルコ神父がジロリと睨むような目を向ける。
 「あなたがするというんですか?おこがましいことを言わないで下さい!!」
ビシッと容赦ない態度でマルコ神父は言うと、再びジロリと冷たい視線を向ける。
「そもそもどうして私がやってると思うんですか!?ネド神父がいい加減でちゃんとやらないからでしょう!!」
「だ・・・だからそれは悪かったって・・・」
謝ろうとするネド神父だったが、信用していないからか、マルコ神父は冷ややかな視線を向ける。
 「そんないい加減な人に掃除を任せられると思いますか!?どうです!?」
「そ・・そいつは・・・」
ネド神父はジワリと汗を噴き出しながら答えようとするが、返答できない。
自分がいい加減なところがあり、掃除が苦手なのはよく自覚しているからだ。
「わかっているなら口出ししないで下さい。では、私は掃除がありますので」
そういうとマルコ神父は外に出ていってしまった。
 「たはは・・・・怒られちまったなぁ・・・」
ネド神父は頭をかきながら、困ったように言う。
(確かにマルコの言う通りだからなぁ・・・。とはいえ・・・あとでちょいと様子を見に行くとするか・・・・。寒い中で無茶したら心配だからなぁ・・・)
マルコ神父が出ていったドアを見やりながら、ネド神父はそんなことを呟いた。
 (少し・・・言いすぎてしまいましたかね?)
落ち葉掃除を始めながら、マルコ神父は少しだけ罪悪感を覚える。
ネド神父が自分の事を心配して言ったのはわかっているからだ。
(もう少し柔らかく・・いえ!何を言ってるんですか!そもそも・・・ネド神父がいい加減だから悪いのでしょうが!!)
言いすぎたかという気持ちが出てきそうなところへ、再びネド神父のいい加減な態度に対する憤慨や反発が姿を現す。
 (そうです!ネド神父がいい加減だからこういうことになったのでしょうが!!厳しく言ったってバチは当たりませんよ!!)
あたりに散らばる落ち葉、そして数日前の惨状を思い返しながら、マルコ神父はそう考える。
(余計なことなんか考えている場合ではないでしょう!今は口よりも身体を動かすときです!!)
自身をそう叱咤すると、マルコ神父は精力的に落ち葉を掃き始める。
ネド神父のときと違い、テキパキと落ち葉が掃かれ、次々と集められてゆく。
 (しかし・・・やっぱり寒いですね・・・・)
掃除をしながら、マルコ神父は冬の冷たい空気、吹きつける寒風を感じずにはいられない。
思わず、一休みしたい、そんな気持ちが沸いてくる。
 (私の馬鹿!一体何を考えているんですか!!)
寒さを避けて一休みしたい、そんな考えを抱いた自身をマルコ神父は叱咤する。
(そんなことをしたらネド神父と変わらなくなるでしょう!!弱音を吐くものじゃありません!!)
自身を叱咤すると、マルコ神父はサボり心を吹き飛ばそうとするかのように、さらに精力的に掃きだした。
 「さてと・・・・こんなところでしょうかね・・・」
掃き終え、一か所に集めた落ち葉の山を見やりながら、マルコ神父はそう呟く。
「お~お、さすがだなぁ。もう終わったのか」
聞き慣れた声に振り返ると、いつの間にかネド神父が立っている。
 「何しに来たんですか?」
「ちょっと様子を見に来ただけだって。そんな顔するなよ。落ち込むぞ」
「それくらいで落ち込むような繊細さとは無縁でしょう?室内でもサボってるんですか?さっさと戻って仕事したらどうなんです?」
「わかったわかった。すぐ戻るから機嫌直してくれって」
相変わらずの態度なマルコ神父に、ネド神父は思わず苦笑する。
「わかればいいんです。まったく・・・ちょっと目を離してれば・・・もう!!」
呆れたようなマルコ神父の態度に、ネド神父は苦笑しつつも戻ろうとする。
 「あ、ちょっと待て。マルコ、その落ち葉、燃やすのか?」
「ええ。それがどうかしましたか?」
ネド神父の問いかけに、マルコ神父は怪訝な表情を浮かべる。
「いや、気をつけろよ。最近、子供が焚き火してて火事起こしかけたってニュースもあったしなぁ」
「それは・・・私が落ち葉を燃やして火事を起こすと言いたいんですか?」
ネド神父の言葉に、マルコ神父は表情が険しくなる。
 「いや、そういうわけじゃないって」
「私が火事を起こすような油断なんかするわけがないでしょう!!馬鹿にしてるんですか!!」
「わ、悪かった悪かった。まぁとにかく気をつけてくれよ」
「そんなこと言われなくてもわかっています!!私は子供じゃありませんよ!!」
これ以上いるとさらに機嫌を悪くしてしまうと思ったのか、ネド神父はそそくさと退散する。
 「全く・・・失礼な人ですね・・・」
やや険しい表情を浮かべ、憤慨するようなため息をつきながら、マルコ神父は呟く。
わかりきったことを言われ、何だか子供扱いされたようで癪だったのだ。
ムスッとした表情を浮かべつつ、マルコ神父はライターを用意すると、慎重に火をつける。
やがて、パチパチと、少しずつだが落ち葉が燃えだした。
 静かに、そしてゆっくりと火が燃えるのを、マルコ神父はつきっきりでジッと見つめている。
見つめているうちに、マルコ神父はだんだんモジモジしてくる。
(ま・・マズイ・・ですね・・・)
平静を保ちつつ、マルコ神父は心の中で困惑する。
寒い中で掃除をしていたせいか、生理現象をもよおしてきてしまったのだ。
 (火を使っているのに・・離れるわけには・・・。しかし・・・)
燃える落ち葉を見つめながら、マルコ神父は足をモジモジさせる。
だが、容赦なく欲求はマルコ神父の中で増大し、我慢出来なくなってくる。
 (こ・・このままでは・・・!!)
これ以上我慢すると、恥ずかしいどころではすまない事態になりかねない。
(ちょ・・ちょっとの・・間・・だけなら・・・だ・・大丈夫ですよね?)
生理的欲求に敵わず、微かにマルコ神父の中にそういう気持ちが芽生える。
 (す・・すぐ・・戻って・・くれば・・そうすれば・・大丈夫ですよ・・きっと・・。せ・・せいぜい・・2、3分・・・。それくらい・・なら・・・)
自身に言い聞かせるように、そういう考えが思い浮かぶ。
(ちょっと・・ほんの・・少し・・の間・・だけ・・だから・・大丈夫・・ですよ・・)
自身にそう言い聞かせると、もはや我慢出来なくなったマルコ神父は、急いで建物へ駆け込んだ。


 「ふぁぁぁ・・・肩が凝るぅぅぅ・・・」
ネド神父はそう呟くと、首や肩を回す。
「何だって・・資料なんか作らなきゃいけないんだよ・・。面倒くせぇぇぇ・・・・・」
ネド神父はブツクサ呟きながら、ノートパソコンの画面を見つめる。
一般信者を対象にした勉強会用の資料を作成しているところだ。
 「俺は頭より身体使う方が得意なんだっつーの!しかも・・よりによって・・マルコがチェック役・・・勘弁してくれよ・・・・」
資料を作成しながら、ネド神父は愚痴をこぼす。
以前にもネド神父が資料作成をしたことがあったのだが、本人の性格のせいだろう、雑把でわかればいいだろうといいたげな内容に、たまたま資料を見たマルコ神父がこれまた憤慨してしまったのだ。
それ以来、ネド神父が資料作成の仕事をする際に、必ずマルコ神父がチェックをするのである。
 (細かいところまで本当ウルサイんだよなぁ・・・。まぁ怒ってる顔はたまんなく可愛いんだがなぁ・・・これでもかと言われまくると、ヘコみそうになるぜ・・・)
見直しをしながら、ネド神父はそう思う。
面倒だと思いながらも、文句を言われそうなところを手直ししてそのときだった。
 「ん・・・・?」
ちょうど窓から、庭の様子が見えた。
見えたのは轟々と燃え盛る落ち葉の山。
「!!!!!」
炎を見るや、すぐさまネド神父は部屋を飛び出した。
 生理現象に対する我慢から解放されて戻って来たマルコ神父の目の前に現れたのは、消火器を構えたままジッと落ち葉の山を見つめるネド神父の姿だった。
微かにくすぶる煙、消火液で真っ白になった落ち葉の山、それらが何があったかを物語っている。
何が起こったかを察すると同時に、マルコ神父の表情が強ばる。
同時に、ネド神父がゆっくりと振り向いた。
 「マルコ・・・・」
「は・・・はい・・・」
静かだが、有無を言わせない声に、思わずマルコ神父は背筋がピンと伸びる。
「部屋で・・・待ってろ・・。後始末が済んだら・・・行く・・・」
それだけいうと、ネド神父は後始末に取りかかる。
事態を察したマルコ神父は、うな垂れた様子でその場を立ち去った。


 (私と・・・したことが・・・・・)
ネド神父を待つ間、マルコ神父は沈んでいた。
気をつけろと言われたのに、ボヤを出してしまった。
(あんなこと言っておいて・・・・。これじゃあ・・・・・本当に子供と同じじゃないですか・・・)
情けなくてたまらず、気持ちがますます沈んでくる。
 不意にドアが開く音がし、思わずマルコ神父はドアの方を振り向く。
ゆっくりとドアが開くと共に、ネド神父が入って来た。
「マルコ・・・・」
「は・・はい・・・・」
名を呼ばれ、マルコ神父は恐る恐る返事をする。
 「何で呼ばれたか・・・・わかってんな?」
「は・・はい・・・」
「そんなら・・・来い・・・」
椅子に腰かけたネド神父はそういうと、いつものように膝を軽く叩いて合図をする。
 (き・・来ましたね・・・)
ネド神父の合図を見るや、マルコ神父は表情が強ばる。
予想はしていたものの、いざ実際にお仕置きを宣告されるのはきついものがある。
 (い・・行かないと・・・でも・・・・)
ネド神父のもとへ行こうとするが、足が出ない。
自分に非があることはよくわかっている。
だが、素直にこの後待っている事態を受け入れられるかというと、それとは別だ。
 「どうしたんだ?早く来たらどうだ?」
こっちへ来ようとしないマルコ神父に、ネド神父は声をかける。
「わ・・わかっています!!」
そういうと足を踏み出そうとするが、無意識に足を引っ込めてしまう。
(私の馬鹿!?何をやっているんですか!!)
無意識に足を引っ込めようとする自身をマルコ神父は叱咤する。
確かにお仕置きは嫌だ。
だが、お仕置きを受けなくてはいけないにも関わらず、それを受けられないなどという情けない振舞いをすることはもっと嫌だった。
我ながら無意味なプライドだと思わずにはいられない。
しかし、そう思いつつも、そういう行動を取らずにはいられない。
 「おぃ!?いい加減にしろよ?きちんとお仕置きも受けられない子供じゃないだろう?お前は?」
「あ・・当たり前でしょう!?わ、私はそんな子供じゃありません!!」
ネド神父の物言いに思わずマルコ神父はカッとなって叫ぶ。
だが、すぐに後悔する。
こんなことを言った以上、嫌でもお仕置きを自分から受けに行かなくてはいけないからだ。
 「だったら早くしろよ。子供じゃないんなら面倒かけるなってんだよ」
「わ・・わかっていますよ!!」
ムッとしつつ、ようやく迷いを振りきると、マルコ神父はズカズカとネド神父のもとへ行き、いつものように膝にうつ伏せになった。
マルコ神父がうつ伏せになると、ネド神父はいつものように神父服の裾を捲り上げ、ズボンを降ろしてお尻をあらわにする。
お尻があらわにされると、マルコ神父は羞恥に顔を赤らめ、ネド神父の上着の裾をギュッと握りしめる。
ネド神父は左手でマルコ神父の頭を押さえにかかると、口を開いた。
 「それじゃあ始めるぞ。覚悟はいいよな?」
「あ・・当たり前・・でしょう・・。さ・・さっさと・・したら・・どうです・・。何をもったいつけて・・るんですか・・・」
羞恥を押さえ、平静を装いながら、マルコ神父は返事をする。
それを聞くと、ネド神父はゆっくりと右手を振り上げた。


 バアシィィィ~~~ンッッッッ!!!
「く・・・・!!」
弾けるような音と共にお尻に鈍い痛みが走る。
思わず声が漏れるが、それをマルコ神父は必死に押し殺そうとする。
 バアシッ!バシンッ!バチンッ!バアンッ!ビダンッ!
ネド神父の平手が振り下ろされるたび、マルコ神父は苦痛に顔を歪める。
だが、決して声は漏らすまいと口を閉じ、両手でネド神父の上着の裾をしっかりと握りしめた。
 バシッ!バンッ!バチンッ!バアンッ!ビダンッ!バアアンッ!
 力強い音が響く中、マルコ神父の肌には赤い手形が重なり合うようにして刻み込まれてゆく。
 バアンッ!ビダンッ!バシィンッ!バアンッ!バアンッ!ビダンッ!
「ったく・・何をしてんだよ・・・」
お尻を叩きながら、いつものようにネド神父はお説教を始める。
ビダンッ!バアシィンッ!ビシャンッ!バァジィンッ!ビダンッ!
「・・ぅ・・ぁ・・・っ・・ぁ・・・ぅ・・・」
叩かれているうちに、微かにマルコ神父の口から声が漏れはじめる。
 (私の馬鹿っ!何をしてるんですか!?)
微かに声が漏れるのに気づくと、心の中でマルコ神父は自身を叱咤する。
(お尻叩かれたぐらいで、声なんて出すなんて、恥ずかしいと思わないんですか!!これくらい・・耐えてみたらどうなんです!!)
声を漏らす一方で、マルコ神父はそう自身を叱咤する。
むろん、無意味なプライドなのはわかっている。
だが、それでもそう思わずにはいられなかった。
 バアシィ~ンッ!バシィ~ンッ!ビシャ~ンッ!バアッア~ンッ!バチィ~ンッ!
「ぅ・・!ぁ・・!あぅ・・!ぅ・・・!ぐ・・!」
叩かれている間に、ネド神父の平手の勢いはだんだん強くなってゆく。
今までの打撃の蓄積とさらに強くなる平手に、マルコ神父の漏らす声は苦しさを増す。
だが、それでもマルコ神父は声を出すまい、漏らすまいとする。
おかげで叩かれるたびに全身がビクッと震え、表情が苦しげなものに変わる。
一打ごとにジワリジワリと、脂汗が噴き出した。
 バアシィ~ンッ!ビシャ~ンッ!バアア~ンッ!バアッチィ~ンッ!ビッシャ~ンッ!
「くぁ・・!あっ・・!うっ・・!あぅぅ・・!あっ・・・!!」
ビクビクと身体が震え、強ばり、ネド神父の上着を握る両手に力が籠る。
手形が重なってお尻はだんだんと濃い赤へと染め上がってゆき、それに伴って頬にも赤みが増してゆく。
 「危ねえから気をつけろと言っただろう?ったく・・・窓から見えてすぐに気づいたからいいようなものの・・・・下手したら・・・・火事になるところだったろうが。わかってんのか?」
バッシィ~ンッ!ビッダァァ~ンッ!バアッアア~ンッ!バアッチィ~ンッ!ビッダァァ~ンッ!ビッシャ~ンッ!
「くぅぅ・・!あく・・!あっ・・!も・・申し訳・・あっ・・!あくぅぅ・・!あ・・ありま・・せん・・ぐぅぅ!!」
平手打ちの苦痛に顔を歪め、身を震わせつつ、マルコ神父は謝る。
 「謝りゃあいいってもんでもねえだろ?何だって火使ってんのに、離れたりしたんだよ」
「そ・・それは・・・・」
マルコ神父は思わず言葉に詰まる。
「どうした?何黙ってんだよ?」
手を振り下ろしながら尋ねるネド神父に、マルコ神父はバツが悪くなってソッポを向く仕草をする。
 (言えるわけ・・ないじゃないですか・・・)
心の中でマルコ神父はそう呟く。
寒風が原因でもよおして我慢出来なくなり、駆け込んだなど、とても言えないし言いたくない。
恥ずかしいし、我慢も出来ない子供のように思えて情けない。
しかも、そのときちょっとくらい離れても大丈夫などと思ったり、一刻も早く洗面所へ駆け込みたかったために、そう自身に言い聞かせるようなこともやってしまった。
自身の生理的欲求に負け、離れてはいけない場所を離れた、やらなくてはいけない仕事を放棄した。
自分がすべきことを果たせなかった事実が、マルコ神父の責任感をいたく刺激する。
元々落ち葉掃除はいい加減なネド神父には任せておけない。
そう思ってマルコ神父が始めたもの。
つまり、自分から背負った仕事だ。
それだけに、こんな失敗を、それも下手をすれば取り返しのつかないことにもなりかねなかったことをしてしまったのは、何とも情けないし申し訳ない。
(私の馬鹿!!どうして・・ちゃんと仕事が・・出来ないんですか!!)
自身の不甲斐なさに腹が立ってきて、マルコ神父は自分を責めずにはいられなくなる。
 「おーい、いつまでダンマリしてんだ?」
不意にネド神父の声が聞こえ、マルコ神父はハッとする。
「な・・何です・・?」
マルコ神父は振り返ってネド神父に尋ねる。
「『何です』じゃねえよ。何で火を使ってるってのに離れるなんてことをしたんだ、って聞いてるんだよ?」
「そ・・それは・・・」
再度の問いかけにマルコ神父は口が重くなる。
理由を話せば、恥ずかしい理由で離れたこと、我慢も出来ない子供のような振舞いをしたこと、それより何よりも、そんな振舞いで自分が請け負った仕事も果たせなかったことを知られることになる。
お尻をぶたれるよりも、こちらの方がマルコ神父にとってはずっと恥ずかしかった。
 「そ・・それは・・言いたく・・ありません・・」
「言いたくない?それで済むと思ってるのか?マルコ、お前のちょっとのミスが一大事になるかもしれなかったんだぞ?」
危うく火事になるかもしれなかっただけに、ネド神父の表情は険しくなる。
「だ・・・だから言いたくないと言ってるでしょう!!謝ってるんですからいいじゃないですか!!」
言いたくなくて、思わずマルコ神父は声を荒げてしまう。
 (私の馬鹿!?何をしてるんですか!!)
言ってしまってすぐ、マルコ神父は後悔する。
こんな態度を取れば間違いなくネド神父は怒るだろう。
さらに厳しいお仕置きをされてしまうのはわかっている。
 「マルコ・・・本気でそう言ってるのか?」
案の定、ネド神父はより険しい表情を浮かべる。
(ええい!もうどうにでもなれです!!)
マルコ神父は半ばヤケになる。
今さら謝っても許してはくれないだろう。
それに、さらに厳しいお仕置きが嫌で謝るなど、そっちの方こそマルコ神父にとっては願い下げだ。
それくらいなら、肉体的な苦痛を耐え忍ぶ方がずっとマシだった。
 「だ・・・だったらどうだと言うんです!!た・・叩きたければ叩けばいいでしょう!!」
せめてもの虚勢を張りながら、マルコ神父は叫ぶように言う。
「そうか・・・。よくわかった・・。反省してないっていうのがな・・・。なら・・・こっちもそれなりの対応をさせてもらうぜ」
そういうと、ネド神父は足を組む。
おかげで、マルコ神父は赤く染まったお尻を突きあげた体勢になる。
 (き・・来ましたね・・・)
さらに厳しいお仕置きを宣告する姿勢に、無意識のうちにマルコ神父は身体が震えそうになる。
「どうした?怖いのか?」
「そ・・そんなワケないでしょう!!あ・・あなたに幾ら叩かれようが・・へ・・屁でもありませんよ!!」
怖がっているなどと思われたのが癪で、マルコ神父はつい突っぱねた態度を取る。
「そうか。ならこっちも本気で行くぞ」
「す・・好きにすればいいでしょう!!」
(だから・・どうしてそうなるんですか・・)
墓穴を掘るような自身の振舞いに、マルコ神父は呆れずにはいられない。
そんなマルコ神父を尻目に、ネド神父の平手が振り下ろされた。
 ビッダァァ~~~~~ンッッッッ!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~ッッ!!!!!
「ぐぅぅぅ!!あっ!あっく・・!!うっ!うぁぁぁ!!!」
豪雨のように容赦なく叩きつける平手の嵐に、マルコ神父は耐えきれず、悲鳴を上げる。
 バアッジィィィ~~~~ンッッッ!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~~~~~~ッッッッ!!!!
「ぐ・・!!ひぐ・・!!痛・・痛ぁぁ!!うっ!!あっくぁぁ!!」
マルコ神父は苦痛に悶え、目尻に涙を浮かべ、全身を強張らせる。
「ぎひっ!!ひぎぃぃ!!やめ・・うっくぁぁ・・!!痛っ!痛ぁぁ・・・!!」
苦悶にマルコ神父が悶えるのを尻目に、容赦なく平手の嵐が激しい打撃音と共に降り注ぎ続けた。


 「く・・あ・・あぅ・・あっく・・はぅ・・あっ・・はぁぁ・・・・」
マルコ神父は両肩を上下させ、荒い息を吐き出す。
顔や手の甲は脂汗でじっとりと濡れ尽くし、目尻には涙を浮かべている。
頬は上気して赤く染まっていた。
 「熱・・・熱ぅ・・・痛・・痛ぁぁ・・・熱い・・熱いぃ・・焼ける・・・燃え・・・熱いぃぃ・・・」
紅蓮に染め上がったお尻は、炎が燃え盛っているかのように熱く、その熱がマルコ神父を責めたてる。
その熱さと痛みに、マルコ神父は熱に浮かされでもしたかのように呟いていた。
 「マルコ・・・・」
一旦お尻を叩く手を止めると、ネド神父は呼びかける。
「まだ・・・不足か?」
軽くお尻を叩きながら、ネド神父は問いかけるように言う。
 (ま・・まだ・・するつもりですか!?)
半ば熱に浮かされたような表情を浮かべつつも、ネド神父の言葉にマルコ神父は愕然とする。
もはやお尻は限界だった。
それ以上叩かれたら、お尻が壊れてしまう。
それどころか、叩かれたお尻が発する熱で脳までやられてしまうかもしれない。
 「ん~?返事がねえな~。まだまだ余裕ってことか~?」
(そ・・そんな・・そんなこと・・思ってませんよ!?)
ネド神父の口調にマルコ神父は慌てる。
このままダンマリを決め込んでいたら、さらにぶたれてしまう。
「それなら・・・あと千叩きは必要か?それとも・・・万叩きの方がいいか~?」
(そんな・・・そんなそんなそんな・・無理!無理です無理です無理ですってば!!)
ネド神父の恐ろしい呟きに、マルコ神父は背筋に寒気が走る。
もうこれ以上お仕置きされたら本当にどうにかなってしまう。
プライドにこだわっている場合ではなかった。
 「わ・・わかりましたっ!!いいますっ!言いますからっ!!ちゃ、ちゃんと話しますっっ!!だ・・だから・・も・・もう・・許して下さいっっっ!!!!」
プライドをかなぐり捨て、必死になって叫ぶ。
「ふぅ・・・。ようやく・・言う気になったか・・・」
ネド神父は安堵のため息と共に、ゆっくりと手を降ろした。


 「だはははは!!!はーはっはっはっ!!」
「わ・・笑わないで下さい!!わ・・私だって・・恥ずかしいんですから!!」
マルコ神父は羞恥で顔を真っ赤にして叫ぶ。
「いや・・・悪い悪い・・。まさか・・トイレとは・・」
「だから言わないで下さい!!デリカシーってものがないんですか!?っ・・・・あくぅぅ!!」
叫んだ際にお尻に痛みを感じ、マルコ神父は顔を顰める。
 「大丈夫か?ケツ叩かれた後なんだから無理するなって」
「大丈夫な・・わけ・・ないでしょう?散々・・叩いて・・おいて・・」
自分で叩いておきながら、大丈夫かなどと白々しく尋ねるネド神父に、マルコ神父は思わずそう言う。
 「そりゃ仕方ねえだろ。マルコが悪い子だったんだからな」
「く・・・」
しれっというネド神父に、マルコ神父は否定できず、思わず黙りこくる。
「まぁ痛い思いさせた責任取って、看病してやるから安心しろ」
「そ・・それくらい当たり前でしょう!!ま・・全く気が効かない人ですね!!」
相変わらずなマルコ神父の態度にネド神父は苦笑する。
だが、愛しさの籠った視線を向けると、マルコ神父を抱きかかえ、お尻を撫でてやる。
マルコ神父はそんなネド神父に不機嫌そうな表情を浮かべつつも、文句を言うことなく、そのままネド神父にさすられるままになっていた。


 ―完―

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