藤木村始末記(バイオレンス・刑罰)
(バイオレンス・刑罰要素ありです。許容できる方のみご覧ください)
今より四百年ほど前・・・いわゆる戦国時代・・・。
その時代のどこかにあった、ある村のお話・・・・・。
藤木村へ通じる細く曲がりくねった道。
その道を、夜陰に紛れて走る一団があった。
一行は動きやすい格好に、槍や野太刀、長い脇差などを身に着けている。
彼らはいわゆる野盗の一味。
村々の富裕な地主や庄屋を狙って、押し込み強盗を働いていた。
今夜は藤木村を狙ってきたのである。
野盗たちは、やがて村の入り口に達する。
村の入り口は頑丈な木戸や柵でしっかりと固められている。
戦乱によって治安が悪化していた時代、村々も自衛の為に策を講じている。
城門のような頑丈な木戸や柵で村の出入り口をしっかりと固めることも、その一つだった。
野盗たちは立ち止まると、二人ほど進み出る。
鉤縄を使って、難なく上ると、木戸の上に設けられた質素な見張り台の中へ入る。
普段なら、弓矢で武装した村人が油断なく見張っているはずだった。
だが、見張りの村人は酒ですっかり酔いつぶれ、寝てしまっている。
それを確認すると、野盗は地面へ降り、木戸を開けて、仲間を引き入れる。
そして、庄屋の屋敷を目指して、闇の中を静かに進んでいった。
やがて、今度は庄屋の屋敷が見えてくる。
目指す場所に到達すると、野盗たちはそれぞれ刀や長脇差を引き抜く。
そして、中へ侵入しようとしたそのときだった。
突然、戸が中から押し倒される。
直後、質素な鎧や額当、槍や脇差で武装した村人達が現れた。
「待ってたぜ、まんまとかかったな」
村人の中から進み出た男が、刀の切っ先を向けて、盗賊たちに言う。
男は村人達とは違い、大小二本差しにしている。
男の名は多胡岩次郎(たごがんじろう)
その名の通り、背はやや低めながらも、岩のようにがっしりとした、力強い体格の持ち主。
上州多胡郡(現在の群馬県多野郡)からやってきた武芸者で、村人相手の剣術の指導並びに用心棒として、村に雇われていた。
「くそっ!やれっ!やっちまえっ!!」
盗賊の頭の命令と共に、盗賊たちが襲いかかる。
対して、村人側も、岩次郎を先頭に立ち向かう。
村人達は巧みに野盗たちを分断する。
そして、少人数になったところへ、数人がかりで一斉に襲いかかる。
凶悪無残な野盗一味といえど、一人で複数を相手にするのは難しく、一人、また一人と仕留められてゆく。
「クソッ!」
野盗の頭は部下たちを見捨て、一人逃げようとする。
「おい、子分見捨てて逃げる気か?」
そこへ、分厚くがっしりした作りの刀を構えて、岩次郎が立ちはだかる。
岩次郎は両足を大きく八の字に開いて腰を落とし、敵の額に切っ先を向け、身体から剣が生えているかのように構える。
「どきやがれっ!!」
逃げ道を文字通り切り開くため、野盗は斬り込む。
だが、斬り込んだ刀を、岩次郎は難なく押さえ込む。
押さえ込んだかと思うと、そのまま岩次郎は押し迫る。
あっという間に、額に切っ先が達したかと思うや、野盗の頭目はアジの開きのように真っ二つになって絶命した。
(くっそ~っ!何でこんなことに・・)
村人たちの目を盗み、裏道を必死に走りながら、了安(りょうあん)は後悔と舌打ちをせずにはいられなかった。
(よりによって・・盗賊の女に引っかかって・・・手引きなんかする羽目になるなんて・・!)
走りながら、了安はそんなことを思う。
了安は村の若い僧侶。
だが、村でも評判の遊び好き・女好き。
近隣の宿場町の女郎屋(いわゆる風俗店)では、すっかり顔なじみだった。
ある日、いつものように宿場へ遊びに行き、美しい女と一夜を過ごした。
だが、それは盗賊一味の罠だった。
仲間の女に手を出したことを理由に責められ、内通する羽目になったのだ。
村の出入り口の番をしていた若者達に、眠り薬入りの酒を差し入れて眠らせ、盗賊たちを手引きしたのだ。
盗賊たちは撃退されたが、自分がこのまま村にいられるとは思わない。
捕まる前に逃亡しよう、そう決意したのだ。
「おーい、了安さんじゃないのか?どうしたんだ、こんな時間に?」
不意に呼び止められ、了安はハッとする。
「お、おや?五平さんじゃないか。何をしてるんだ?」
松明を掲げ、脇差を指し、六尺棒をついた村の若者に、平静を装いつつも、警戒しながら了安は尋ねる。
「ああ、長老達からのお達しだよ。何でも、賊を手引きした奴がいるらしい。村から怪しいやつが出て行ったりしないか、見張ってろって話だよ」
「そ、そうなのか。それは大変だな」
「ああ、おかげで野良仕事もおちおち出来ないって。早く捕まらんもんかなぁ」
ぼやく五平を尻目に、了安は隙を伺う。
懐に忍ばせた手には、短刀を握りしめている。
こういう事態を、逃げ出す際に予想していたからだ。
「そういえば、了安さんはどうし・・うわあっ!!」
全力で突きかかってきた了安に、思わず五平は腰を抜かす。
「うわあっ!ま、まさかあんたが!?」
「くそっ!毒食らわば皿までだっ!!」
了安は馬乗りになり、短刀を逆手に握って、振り上げる。
村の女たちが放っておかない整った面立ちは、殺気と狂気ですっかり変わっていた。
「うわっ!くそっ!」
とっさに五平は了安を突き飛ばす。
「くっ!」
地面に倒れるや、了安は逃げ出そうとする。
だが、そこへ矢が飛んで来るや、顔の脇を掠める。
「そこまでだ!」
声と共に、弓を構え、革製の上着を来た村の男が現れる。
男の名は矢助(やすけ)。
猟師で、村一番の弓の使い手だ。
「大人しくしろ!抵抗すれば、胴を打ち抜くぞ!!」
弓を構え、脅しではない矢助の口調に、了安は抵抗する気力を失う。
「五平!縛れ!」
「わ、わかった!」
弓を構え、油断なく見張る矢助を尻目に、アタフタしながら、五平は了安を縛り上げる。
そして、矢助と共に、了安を村へ護送していった。
それから数日後・・・・。
村の鎮守の神社に、了安の姿があった。
了安はうつ伏せになってお尻を突き出した姿で、台に拘束されている。
「勘弁してくれーっ!し、仕方なかったんだーっ!!」
「ふざけるな!もとはといえば、あんたの女遊びが招いたことだろう!」
「そうだ!下手すれば、村は賊に荒らされてたんだぞ!!」
言い訳しようとする了安に、村人達は怒りの声を上げる。
村に連れ戻された後、了安は村人たちによる裁きを受けた。
その結果、村の掟に従い、鞭打ちの上で村からの追放、という判決が下ったのである。
今日がその刑の執行日であった。
「よし・・始めるのじゃ!」
見届け役の長老の命令と共に、執行役の村人達が、了安の僧衣をまくり上げ、裸のお尻を出す。
「いやーっ!勘弁してーっ!」
泣き叫ぶ了安を尻目に、執行役の一人が、丈夫な竹製の鞭を振り上げた。
ビシーッ!
「ひいいいい!」
鋭い音と共に、了安のお尻に鞭が叩きつけられる。
その痛みに、了安は悲鳴を上げる。
ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!
「ぎゃあああ!痛っ!ぎゃひいいいいいい!!ぎゃひいいいいいい!!」
鞭の鋭い痛みに、了安は絶叫する。
ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!
「ひええええ!許してくださいぃぃぃ!!お許しををををおををを!!!」
「何言ってんだ!村に盗賊を引き入れやがって!!」
許しを請う了安だが、村人達は怒りをあらわにする。
ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!
「し、仕方ないだろーっ!ま、まさか寝た女が・・盗賊とは・・思わなかったんだーっ!!」
了安が言い訳する中、鞭は容赦なくお尻に蚯蚓腫れを刻んでゆく。
ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!
「馬鹿言うなっ!坊主に女はご法度だろっ!坊主が、女遊びするのが、間違いだろっ!この生臭坊主っ!!」
執行役は容赦なく鞭を振るう。
「その上・・・盗賊どもを村に引き入れるだと!?」
「し、仕方ないだろっ!そ、そうしなきゃ・・こっちが殺されるっ!!じ、自分の命を守っただけだ!!」
「ふざけるなっっ!!自分一人の命惜しさに、村人皆の命を犠牲にするつもりだったのか!?それが坊主のすることかっっ!!皆っ!叩け叩け!」
他の村人達も鞭を持ち、了安の尻を打ち始める。
ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!ビシーッ!
「ぎゃひいいいいいいい!!許してぇぇっぇえ!!あぎゃああああああああああ!!!!!!!!!!」
あまりの激痛のあまり、了安は失禁してしまう。
しかし、それでも鞭打ちは止まらない。
鞭と肌の双方が赤く染まってゆくが、それでも鞭の音が神社に響いていた。
「うっ・・あぅぅ・・・!!」
後悔と苦痛の涙を流しながら、了安は呻く。
了安は鞭打たれ、血染めになった尻を丸出しにした姿で、晒されていた。
傍らには『女遊びの果てに村に盗賊を引き入れた売僧(まいす:僧侶に対する罵りの言葉)』ゆえ、鞭打ちの上、三日間の晒し、村からの追放とする』との札が立てられていた。
その三日後、村境では、僧衣を取り上げられ、乞食のようなボロボロな服を着させられた姿で、村より追放される了安の姿があった。
―完―
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