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青き狼たち10(バイオレンスあり)



(バイオレンスありです。許容できる方のみご覧ください)


 「どうした、随分と仏頂面だな?」
「ふん・・。そんなの、当然だろう」
近藤の問いに、マチウスは不機嫌そのものの表情で答える。
 「おい!カンチョウになんて口をきくんだ!?」
マチウスの態度に、思わずカイが言う。
「お前には関係ないだろう、口を出すな。腰巾着!」
「おい!いい加減にしないと・・・」
「何だ?やる気か?」
二人は睨み合い、いまにも喧嘩が始まりそうな雰囲気になる。
 「やめんか二人とも!周りの迷惑に・・!?」
仲裁しようとした近藤の表情に、突然緊張が走る。
そんな近藤の様子に、思わず二人も振り向く。
直後、二人の表情も緊迫に包まれた。
 三人の視線の先にあるのは、ある男の姿。
仕立ての良いスーツを身にまとい、時間をチェックしながらキビキビ行動する姿は、やり手の実業家といった感じに見える。
だが、三人とも男がただの実業家ではないことを知っていた。
 「キヨカワ・・・!?何故ここに・・!?」
思わずカイは呟く。
清川紘八(きよかわこうはち)、それが男の本名である。
清川八郎の子孫にして、中東某国の砂漠地帯のオアシスに拠点を持つ実業家・富豪とは表向きの姿。
その正体は各地の過激派や反社会組織を指嗾し、テロや紛争を巻き起こす、恐ろしい人物であった。
 「あの野郎・・!?」
思わずマチウスは愛用の短銃身リボルバーを抜き放とうとする。
彼の故国アメリカにおいても、清川の援助を受けた組織や人物によるテロが起こっている。
その中で、彼の実家であるハーモニカ社も、警備員やボディーガードとして派遣した社員を失っている。
 「待て!落ち着くのだ!」
「どうして止めるんだ!?アイツが何者か、知ってるだろう!?」
制止する近藤に、マチウスは食ってかかる。
 「気持ちは分かる。だが・・たった一人で、あんな無防備な姿でヤツがいると思うか?」
近藤はマチウスに示すように、チラリと視線をある方向へ向ける。
思わずマチウスもつられて、視線を向ける。
すると、目立たないようにして、ボディーガードらしい男がいることに気づく。
さらに、慎重に周囲を見回すと、他にも数人同様の男達がいる。
 「こんなところで銃撃戦をするつもりか?」
近藤はさらに周囲を見ながら、マチウスに言う。
三人がいるのは高級ホテルのロビー。
こんなところで撃ち合いなどしようものなら、間違いなく無関係な一般人を巻き込んでしまう。
また、犠牲者が出なかったとしても、騒動を起こしたことで警察から咎めを受ける危険性がある。
「わ、わかってる・・!!そこまで僕は馬鹿じゃないさ!?」
近藤の言葉に、マチウスは渋々、拳銃をコートの下に納める。
そのまま、清川を見逃すものの、その目には強い怒りの炎を宿していた。


 数日後・・・・・。
「ハァ・・ハァ・・!!」
ロシア製自動拳銃を握りしめたまま、男は裏通りを必死に走っていた。
 (クソ・・!?何なんだ!?ついてねえ!!)
走りながら、男は舌打ちする。
男は清川のボディーガード役の一人。
先輩格のボディーガードの命令で、買い出しに出た帰りだった。
尾行されていることに気づき、裏通りへと逃げ込んだのである。
 (サツか?それとも・・・・)
尾行者の正体を思わず考えるが、すぐに頭から締め出す。
余計なことを考えていれば、やられてしまう。
清川のボディーガードとして、裏の世界を歩いて来た経験が、それを教えていた。
 男は拳銃を構え、慎重に周囲を見回す。
「!!??」
男は、正面から、こちらへゆっくりと近づいてくる人影を発見する。
 「誰だ!?」
男は拳銃を両手でしっかりと構え、問いかける。
影は黙ったまま、ゆっくりと接近する。
やがて、影の姿がだんだんはっきりしてくる。
 影の正体は細身の若者。
帽子を深めにかぶっているため、顔はわからない。
使い古したロングコートを身にまとい、首には古ぼけたハーモニカを下げていた。
 「貴様・・・!?」
首にかけたハーモニカに、男の表情が強張る。
同時に、影目がけて発砲する。
だが、着弾したのは足元。
咄嗟に撃ったために、有効距離外だったのだ。
 「く・・!」
外したことで、男は焦りに駆られ、さらに二回発砲する。
だが、焦って撃ったために、またも外してしまう。
その間に、ハーモニカを下げた影は十分な距離まで近づいていた。
 男は、影がコートの下に手をやっていることに気づくや、引き金を引こうとする。
同時に、影の手が引き抜かれるや、閃光と共に乾いた音が鳴り響いた。
「ぐ・・・!?」
男は銃を取り落し、左手で右腕を押さえて、路上に座り込む。
ゆっくりと影はリボルバーを構えたまま、男の眼前へと現れた。
 「キヨカワのボディーガードだな?」
マチウスはリボルバーを構えたまま、尋ねる。
「何のことだ?」
「とぼけるな!ネタは上がってるんだ!!」
マチウスは拳銃を握ったまま、グリップの端を男の腹へと叩きつける。
衝撃で男は苦痛の声を漏らす。
 「キヨカワはどこにいるんだ?」
「話すわけ・・ないだろうが!!」
「ふーん・・・。では・・これでどうかな?」
マチウスは男の太ももに銃口を突きつけると、引き金を引く。
「!!!!!」
熱したナイフを突き込まれたかのような苦痛に、男は前進を震わせ、声にならない声を漏らす。
「どうする?ここで頭を吹っ飛ば・・・・」
さらに額に銃口を突きつけ、冷たい声で言いかけたそのときだった。
 突然、マチウスは後ろを振り向く。
同時に立て続けに3度、銃口が火を噴いた。
「「「ぐうわっっ!!」」」
重なり合った悲鳴と共に、三人の男が路上へ倒れる。
三人とも、一発で額を撃ち抜かれ、手に拳銃を握りしめたまま、こと切れていた。
 「もう一度聞く。頭を吹っ飛ばされたいか?」
仲間の呆気ない死に様に、男の気力は完全に萎えていた。
マチウスの問いに、男は素直に白状する。
 「ふん・・。最初から素直に白状すればいいんだ。手間を取らせるんじゃない!」
そう言い捨て、マチウスは去ってゆこうとする。
(舐めやがって!ガキの分際で・・!!)
男はマチウスの背中をジッと見つめる。
ボスの居場所を白状してしまった以上、このまま帰ることは出来ない。
無事な左手で、男は何とか拳銃を拾うと、マチウスの背中に狙いをつける。
 (くたばれ・・!!)
残る全力を込めて、男が引き金を引こうとしたそのとき、マチウスの身体が反転し、銃口が火を噴いた。
額に風穴が開くと同時に、男は路上へと力なく崩れ落ちる。
 「馬鹿な奴だな。何発撃ったか、数えておかなかったのか?」
冷ややかな声で言うと、マチウスはその場を立ち去った。


 さらに数日後・・ある雑居ビル・・・。
銃身の短いマグナムリボルバーを構えたまま、マチウスはゆっくりと階段を上がってゆく。
ボディーガードの話によれば、ビルの所有者である非合法組織の事務所に、清川が来るという。
武器の密売買の商談の為らしいが、それはマチウスにはどうでもよいことだった。
事務所のある階にたどり着くと、マチウスは慎重に廊下を進んでゆく。
やがて、目当ての事務所のドアが見えてきた。
マチウスは、より慎重な足取りで、ドアへと接近してゆく。
だが、不意に足取りが止まる。
 拳銃を構えたまま、マチウスは廊下の床に視線を落とす。
視線の先には、拳銃を握りしめた男が倒れている。
腹は真っ赤に染まっており、息絶えているのは明らかだった。
 マチウスは、致命傷となった腹の傷をジッと見つめる。
腹には大きな穴がぽっかりと開いている。
(ショットガンか・・・)
傷口の様子から、マチウスはそう見当をつける。
マチウスは死体をまたぎ、開いたドアから、事務所へと入る。
 事務所の中は、構成員らしき男達の死体があちこちに転がっている。
いずれも、廊下で倒れていた男同様、ショットガンによる傷が致命傷だった。
(どうなってるんだ?)
訳が分からず、マチウスは困惑する。
ただ、目当ての清川がいないことだけはわかっていた。
「チ・・・!!」
苛立ちのあまり、舌打ちしながら、マチウスは事務所を後にしようとする。
そのとき、微かなうめき声を聞きつけた。
 もしやと思って、声のした方へ駆けつける。
すると、まだ息のある者がいた。
「おい・・キヨカワはどこにいるんだ?」
マチウスは銃口を突きつけて尋ねる。
 「い・・いない・・。しょ、商談が終わったら・・か・・帰った・・・」
「嘘じゃないだろうな?」
マチウスは傷口を踏みつけながら尋ねる。
「ぎゃがががが!!う・・嘘じゃ・・ないぃぃぃ!!??とっぐに・・!帰っ・・たんだぁぁぁああああ!!!がふうっっ!!」
用済みだと言わんばかりに、マチウスはサッカーボールのように男の頭を蹴飛ばして気絶させる。
 (クソ・・!無駄足を踏んだじゃないか!?)
マチウスは清川にまんまと逃げられたことに、むかっ腹を立てる。
この怒りを何かにぶつけずにはいられない。
そんな気持ちを抱いたときだった。
 「ん・・・?」
廊下へ出たマチウスは、薄暗い照明の下できらりと光る何かに気づく。
直後、乾いた音と共に、銃口が火を噴いた。
 「なめるな!」
マチウスは屈んでかわし、同時に撃ち返す。
だが、敵もさる者。
独楽のように動いてかわしつつ、反撃し、その隙に奥へと走り去ってゆく。
 「待て!逃がすか!?」
イライラしているところへ銃弾を食らわされ、マチウスはすっかり頭に血が上ってしまう。
追い詰めて、マグナム弾を全弾ご馳走してやる。
それしか、頭には無かった。
 (どこへ行った!?)
マチウスは獲物を追う猟犬さながらに走る。
追うことばかりに気を取られ、足元への注意など頭からすっ飛んでいた。
 「!!??」
何かが引っかかったように感じた直後、マチウスは顔から飛び込むように、廊下に倒れ込む。
「ぐ・・!?何・・!?」
起き上がったマチウスは、暗い色に塗られて目立たなくしたロープが足元に張られていたことに気づく。
同時に、撃鉄を起こす音が響いた。
ハッとしてマチウスは振り向く。
視線の先にあったのは、ショットガンの銃口。
目が合った瞬間、ショットガンが火を噴いた。
 胴に強烈な衝撃を感じた直後、マチウスの身体が後ろへ吹っ飛ぶ。
(くそぉ・・!!)
吹っ飛びながらも、マチウスはマグナムリボルバーをぶっ放す。
直後、マチウスは確かな手ごたえを感じ取る。
(やった・・!?)
床に倒れながらも、マチウスはほくそ笑む。
だが、遠ざかる足音に、表情が変わる。
 (やり損ねた!?逃が・・!?)
マチウスは起き上がろうとするも、身体が動かない。
(馬鹿!?何をや・・・くそぉ・・!?目の前が・・暗く・・・)
動かない自身の身体に苛立ちつつ、マチウスは視界が暗くなってゆくことに気づく。
やがて、そのまま意識が遠のいていった・・・・。


 目を覚ました瞬間、白い天井が目に飛び込んできた。
「どこだ・・!?ぐう・・!?」
強烈な痛みに、マチウスは思わず自分の身体を見やる。
すると、胴体はまるでミイラのように、包帯が巻かれていた。
 「何だコレは!?ぐう・・!?どうなって・・!!」
「静かにしろ、ここは病院だ」
不意に聞こえてきた声に、思わずマチウスは振り返る。
直後、マチウスの顔が渋ったいものに変わる。
 「何でここにいるんだ!馬鹿親父!?」
ロングコートに、首から古ぼけたハーモニカを提げた父親の姿に、マチウスは嫌そうな顔で言う。
「見舞いだ。これでも父親だからな」
「そんなことはどうでもいいさ!何で・・僕が病院なんかにいるんだ!?」
「ショットガンを食らって、死にかけていたところを、シンセン社のエージェントが保護したんだ。まぁ、そう騒いでいれば、心配はなさそうだな」
「うるさい!出ていけ!?馬鹿親父!!」
マチウスは怒りのあまり、近くにあった本を投げつける。
チャールズはそれを受け止めると、やれやれ、と言いたげな素振りを見せて、病室を後にした。


 その後・・・退院からしばらく経ったある日・・・。
バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!
「くそっ!やめろっ!やめろって言ってるだろうっ!!」
肌を打つ音と共に、マチウスの怒りの声が響く。
 バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!
「やめろ、ではないだろ。全く・・何を考えている、この馬鹿息子が」
力強い平手打ちを容赦なく息子のお尻に降らせながら、父親はお説教をする。
 バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!
「う、うるさいなぁ!テロリストの親玉を捕まえようとしただけだろう!それの何が悪いんだ!!」
「勝手なことをするな。軽はずみな振る舞いで、危うく死にかけたんだぞ?コンドウ達にどれだけ迷惑をかけたのか、わかっているのか?」
「うるさいって言ってるだろう!馬鹿親父!!いい加減にしないと、本気で怒るからな!!」
マチウスは父親のお説教に、反省するどころか、逆切れする。
 「やれやれ・・・。反省の色なしか・・」
ため息をつくと、父親はさらに平手を振り下ろす。
バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!バシィンッ!
「やめろっ!やめろって言ってるだろーっ!馬鹿親父っ!やめろっ!やめないかーっ!!」
さらに続く平手打ちに、マチウスは反抗し続ける。
その後、長い長い間、マチウスの反抗的な声と、お尻を叩く音が響いていた・・・。


 同じ頃、アメリカ西部の某都市郊外・・・・。


 トニーは戦々恐々とした表情で、ジッと目の前の相手を見つめる。
視線の先には、メキシコ人を思わせる褐色の肌をした、葉巻をくゆらせた男の姿があった。
男の名はジャン・ラモン・ヴォロンテ。
アメリカ西部を主要な活動範囲とする犯罪組織『フランク・ファミリー』の主要幹部の一人である。
 「ボ、ボス・・!つ、次こそは・・!?」
「『次』だと?トニー、貴様に次があると思ってるのか?」
再度のチャンスを乞うトニーに、ジャンは冷徹な目で見つめる。
トニーはジャンの組織の殺し屋。
ショットガンの使い手として知られている。
 「言ったはずだぞ。汚れ物が二つあるから、きちんと始末しろとな。それを・・一つ始末しそこないやがって!!」
ジャンは怒りをあらわにする。
汚れ物とは、マチウスが乗り込んだ組織、そしてマチウス自身。
ファミリーそして彼自身の意向として、殺害を命じたのだ。
だが、マチウスの方は失敗した上、おめおめと逃げ帰ってきたのである。
 「わ、わかっています!で、ですから・・・今度こそ・・!!」
「まぁいい・・。チャンスをくれてやらんでもない・・・・」
意外なボスの反応に、一瞬トニーは怪訝な表情を浮かべる。
だが、ガラケーを取り出したジャンの姿に、表情が強張る。
 「ボス・・!?ま、まさか・・・」
ジャンはガラケーを開くと、オルゴールのような曲を流す。
「おい、何をしている?時間が無いぞ。逃げてみろ。見事逃げたら・・もう一度・・やらせてやる」
最後まで聞かないうちに、トニーは逃げ出した。
 トニーは走りに走る。
その間、ジャンはジッとガラケーのメロディに耳を傾ける。
やがて、曲が終わると同時に、ジャンはズボンから大型のリボルバーを抜き出す。
逃げるトニーの背中に狙いをつけると、ジャンは一回、引き金を引く。
銃口が火を噴くや、トニーの身体が硬直し、そのまま倒れ伏す。
直後、体格のいい男達が現れ、死体を持ち上げると、車のトランクへと放り込んで、走り去っていった。


 ―完―

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Author:山田主水
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