女悪魔ルクレティア・バルツィーニ8 バレンタインプレゼント2



 足元のおぼつかない、深い川か海で泳いでいるような奇妙な感覚をルクレティアは覚えていた。
長い間闇の中をさ迷っていると、ようやく彼女は光を見つける。
その光に向かってルクレティアはゆっくりと泳ぎ始めた。
 「んん・・・・・・・」
ルクレティアはうっすらと目を開ける。
目を開くと天井板が見えた。
(ここは・・・?)
ルクレティアはまだ覚めきらない目をしたまま身体を起こすと周囲を見回す。
すると自分が広い板敷きの部屋にいることに気がついた。
ふとルクレティアは右側を振り向く。
直後、我が目を疑った。
「な・・何よこれ!!」
ルクレティアの目に映ったのは格子。
木製だが太く頑丈な代物だ。
ハッとしたルクレティアは改めて部屋全体を見回す。
すると自分が牢屋に入れられていることに気がついた。
 「どうやら目が覚めたようだな・・・・」
格子の外から声が聞えてくる。
ハッとしたルクレティアは外を見やる。
するといつの間にか廊下に一人の男が立っている。
男は身長180センチ程、一流ボクサーさながらのすらりと引き締まり見事に鍛え上げられた身体の持ち主で、髪はボウボウの蓬髪で鬼族の特徴である見事な二本の角を生やしている。
荒鷲さながらの猛々しさを感じさせる目鼻立ちで口を開けると時々見える鋭い牙がその印象を強めていた。
 「誰よ・・お前は・・・」
ルクレティアは興味なさげな素振りを見せる。
「おやおや。自分を殴った男を忘れたか。なら思い出させてやろう」
そういうと鬼の武芸者は編笠を取り出してかぶった。
途端にルクレティアはニエマンスを斬り、自分を気絶させた相手だと気付いた。
ルクレティアは今にも噛みつかんばかりの表情を浮かべるや、格子に飛びかかるように駆けつける。
 「お前ね・・・!私をこんなところに閉じ込めたのは!!」
「まぁな・・・」
「私を誰だと思ってるの!?こんな真似してただで済むとでも思っているの!?」
ルクレティアは憎悪の籠った目で編笠の男を睨みつける。
「貴様こそこの国で勝手な真似をしておいてただで済むとでも思っているのか・・・。悪魔族の令嬢だか知らんが馬鹿な女だな」
「くっ・・・!言ったわね!!」
ルクレティアは怒りの余り、魔法で剣を出すや格子の間から編笠の男目がけて繰り出す。
だが、切先が達するかと思われた瞬間、男は白刃取りで剣を受け止めてしまう。
剣を受け止めると同時に男はそのまま剣をグイッと捻る。
次の瞬間、ルクレティアは宙をぐるりと回転しながら投げ飛ばされてしまった。
 「やれやれ・・・とんだじゃじゃ馬娘だな・・・」
男は奪った剣を捨てながら呆れたように呟く。
ルクレティアはヨロヨロと上体を起こすと屈辱感に拳を震わせ、憎々しげに男を睨む。
「私をどうするつもりよ・・・」
「それを決めるのは俺ではない。お屋形様だ。俺はあくまでもお屋形様の家臣にすぎん」
(それじゃあ話にならないわけね・・役に立たない男だわ!!)
目の前の男に思わずルクレティアは毒づく。
だが、すぐにツンと顎をそらしてやや高慢な態度を取る。
身分の低い男に見苦しいところなど見せてたまるものか、という感情がそこにはありありと見えた。


 「ところでお前、何者なのよ」
ルクレティアは目の前の男にふと尋ねた。
何もすることが無くて退屈ということもあったのだろう、それに自分の家臣の中では屈指の腕利きであるニエマンスが倒されてしまったという事実に興味をそそられずにはいられなかった。
 「俺か・・俺は小野・・小野次郎右衛門忠明(おのじろうえもんただあき)だ」
「小野・・・次郎衛門・・・」
ルクレティアは覚えの無いような表情を浮かべる。
「知らぬか・・・。まぁ南蛮人ならば仕方ないか・・・」
小野は苦笑する。
ルクレティアはその表情に馬鹿にされたと思ったのか、またぞろ癇癪を起こしそうになる。
 小野次郎右衛門忠明。
誰だ?という人も多いであろうが、れっきとした実在の人物である。
戦国末期~江戸初期にかけて生きた人物で、現代剣道のルーツとなった一刀流の始祖伊東一刀斎(いとういっとうさい)に師事して小野派一刀流を立ち上げ、かの柳生宗矩(やぎゅうむねのり:時代劇や格闘ゲーム『サムライスピリッツ』シリーズで有名な柳生十兵衛の父親)と並んで徳川将軍家の剣術指南となった男だった。
この男、凄まじいまでの剣の腕前とあくなき闘争心の持ち主であった。
そのため、死して後も強き者を求め続け、それゆえに鬼へと生まれ変わったのである。
鬼と化して修羅の巷に身を投じること400年近く、今では腕利きの鬼族剣士として妖怪社会で名を知られていた。
 小野がルクレティアを見張っていると、六尺棒を小脇に抱え牢役人の出で立ちをした鬼数名が現れた。
現れた鬼たちは小野になにやら耳打ちする。
小野はルクレティアの方を振り向くと言った。
「出ろ。お屋形様が貴様にお会いになられる」


 「ふん・・・・」
ルクレティアは傲慢なしぐさで畳の上に座る。
その傍らには小野がしっかりとついている。
何かルクレティアが不埒をしようとしたらすぐにでも押さえつけられるような身構えていた。
 ルクレティアは小野には構わずに周囲を見回す。
彼女がいるのは畳敷きの広間。
奥には一段高くなった場所があり、そこがどうやら小野がいうお屋形様の席だと推察できた。
広間の左右にはそのお屋形様の重臣と思しき面々が座っている。
鬼や動物の精、亡霊など様々で出で立ちも直垂や裃、羽織袴といった和風なスタイルの者もいればスーツや軍服といった洋服姿の者もいた。
 「お屋形様のおな~り~!」
先触れの声と共に刀を捧げ持った若い鬼の家来が現れる。
小姓らしい先導者が現れるや、重臣達は両拳を床につけてかしこまる。
「おい!お前も頭を下げぬか!」
小野はルクレティアにそう促す。
ルクレティアは小野の方を振り向くやキッと睨みつける。
小野はそれを見るや脇差に手をかける。
無礼打ちにしようとしたのだ。
 「待て!それには及ばん」
小野が今にも脇差を引き抜こうとするや上座から声がかかる。
「お屋形様、この者は囚人にございますれば・・・」
「この女は異国人とはいえ姫だ。普通の囚人のような扱いをされるのは嫌がるだろう」
「わかりました・・・」
小野はそう言って引き下がるが不満そうにルクレティアの方をチラリと見る。
ルクレティアはざまみろと言わんばかりに冷笑してみせる。
 「さて・・・・お主だな・・・。我の領内で捕らえられたというのは・・・・」
上座から問いかけるような声が聞えてきたため、ルクレティアは上座の方を振り向いた。
 上座に座っていたのは一人の男。
2メートル近くはあろう屈強な大男で、鋼を思わせる濃い黒色の肌をしている。
目は炎のように赤くランランと輝いており、髪は燃え盛る炎のようで不動明王さながらの荒々しい目鼻立ちをしており、首には刀で切断されたような傷跡がある。
身体には立派な鎧と刀を身につけていた。
そのデザインからすると平安末や鎌倉期の武士たちが使っていた大鎧と太刀だと見るものが見ればわかっただろう。
 ルクレティアは男を一目見るや、思わずゴクリと息を飲んだ。
男の背後に燃え上がる炎が見えたのだ。
炎は天井にまで吹き上がって天井全体は無論、四方の壁までも覆い尽くしている。
この炎は魔力が形になったもので、それが大きければ大きいほど力の強い妖怪ということになる。
 さすがのルクレティアも冷や汗が噴き出した。
黒い男の魔力はかのルシファーやベルゼブルといった、悪魔界の大長老とでもいうべき魔王たちにも劣らぬものであるということがわかったのだ。
ルクレティアもヨーロッパ屈指の名門悪魔の令嬢である以上、かなりの実力を持っている。
だが、聖書やオリエント神話に登場する名高い悪魔や邪神ははっきり言って別格だ。
彼らは悪魔の中の悪魔、邪神の中の邪神というべき存在で、現代の悪魔界で最強の実力者でもその力は遠く及ばないと言われている。
 「だ・・だからなんだというのよ!!」
ルクレティアは怯えを隠すようにわざと突っかかるような言い方をする。
「ふふ・・・無理をしなくてよい。我が前では誰もが震え上がるものだ」
「うるさいわよ!!お前こそ何者よ」
「貴様!お屋形様にお前などと!!」
背後の小野が再び脇差を引き抜こうとするが、素早くお屋形様が手を上げて静止する。
「そうであったな。名乗らぬのはさすがに無礼だろう。我は・・・将門・・平将門(たいらのまさかど)だ・・・・」
「平将門・・・?」
名前を聞いてルクレティアはハッとする。
 平将門。
日本史を学んだものやオカルトを題材にしたコミックやゲームが好きなものならば聞いたことがあるだろう。
天慶の乱(平将門の乱)を起こして坂東諸国(現在の関東地方)を支配下に収めて新皇(しんのう)と名乗り、関東に独立国家を打ち立てようとした一代の英雄だ。
朝廷によって彼の行為は国家への反逆と見なされ、朝廷軍によって全滅させられた上に首と胴を切り離されてさらしものにされるという末路をたどったものの、その事績は『将門記』という物語にまとめられ、また関東に独立政権をつくろうとした彼の野心や志は後世の人々にも引き継がれ、その魂は関東に政権を置いた鎌倉幕府や江戸幕府にも流れている。
彼は死して後、強大な力を持つ怨霊となり、関東へ戻って妖怪たちの大王というべき存在になり、死後から現代に至るまで関東地方を自身の帝国として保持している。
なお、彼は現代では首塚がある神田明神において神として祭られており、東京の守護神としての役割も果たしている。
 (何てこと・・・!!)
ルクレティアは思わず歯噛みする。
この国の妖怪社会の中では将門はトップクラスの人物だ。
その領地で魂狩りをしたとなればただでは済むまい。
「どうやら我を知っておるようだな・・・」
「だ、だから何だっていうのよ!バルツィーニ家の娘がお前如きに屈服するとでも思っているの!?」
ルクレティアはことさらに噛みついてみせる。
兄以外の人間には誰であろうが決して膝を屈するつもりはなかった。
「我を目の前にしてもなおそういう態度を取れるとはな・・・。それはそれで大した奴よ。安心せよ、お主を処刑するつもりなど毛頭無い」
「じゃあ・・・どうするつもりよ」
ルクレティアが思わず尋ねた。
「それは私にまかせてもらおうか」
突然、別の声が聞えてきた。
ハッとしてルクレティアは後ろを振り返る。
するとそこにはチェーザレの姿があった。


 「兄さん!!」
ルクレティアは心底から驚きの表情を浮かべる。
チェーザレはきちんと正装に身を包んでいた。
その後ろには肩や胴に包帯を巻いたニエマンスの姿もあった。
チェーザレはルクレティアの前へ進み出ると将門に挨拶する。
「お久しぶりです、将門公」
「うむ。久しいのう、チェーザレよ」
二人の会話をルクレティアはポカンとして見ている。
「し・・知り合いなの・・・。兄さん?」
「まあね。日本での一番のお得意様だからね」
チェーザレは妹の方を振り向いて言うと再び将門の方を振り向く。
 「将門公、このたびは我が妹が大変な無礼を働いてしまいました。どうかお許しください」
チェーザレはそう言うと将門に対して頭を下げる。
(に・・兄さんが・・他人に・・頭下げてる・・)
ルクレティアは思わずいたたまれなくなってくる。
チェーザレとて一国一城の主。
他人に頭を下げたりするのは忸怩たるものがあるはずだ。
しかし、バルツィーニ家の当主を務める以上、家の者の不始末はキチンとケジメをつけねばならない。
そうである以上、いくら内心がどうあろうとこちらに非がある以上、頭を下げたりしなければならなかった。
 「うむ。さすがチェーザレだな。誠意のある対応をしてくれる。我もな、出来ることなら事を余り荒立てとうはない。いくら我が荒ぶる神でもな」
「はい、公のお気持ちは誠にありがたく思っております。これはほんのお詫びの印です」
チェーザレはそういうと人足たちに何かを持ってこさせる。
それを見たルクレティアは再びアッと声を立てそうになった。
人足たちが持ってきたのは10個の壷。
ルクレティアは一目見るや、それが魂を入れる壷であることに気がついた。
(あ・・あれ・・!最高級の悪人の魂のじゃない!!)
さすがのルクレティアも声が出なくなる。
芹沢クラスの大悪党の魂を十人分も詫びとして差し出そうというのだ。
 「これは・・・何とも素晴らしい・・・だが、いくら詫びの印でも過分すぎるぞ」
「いえ。我が妹の罪を贖うことが出来るならば惜しくはございません」
チェーザレは静かな、だが毅然とした声で言う。
可愛い妹の罪を贖うためならバルツィーニ家はおろか、自身の命をも差し出すつもりだった。
「わかった。そなたの誠、しかと見せてもらった。もうよい、妹姫を連れ帰るがよい」
「はっ。ありがとうございます」
チェーザレは礼を言うとルクレティアの方を向く。
「さぁ、帰ろう、ルクレティア」
チェーザレは妹の手を取ると立ち上がらせる。
立ち上がるとルクレティアはオズオズと兄に手を引かれてその場を去っていった。


 ドキン・・ドキンドキン・・・。
日本屋敷に帰ってきたルクレティアは戦々恐々とした気持ちでベッドの縁に座っている。
時々ソワソワとドアの方を盗み見るや、すぐに頭を戻した。
家に帰ってくるまでの間、兄は一言もしゃべらずジッと黙りこくっていた。
やっと家に帰りついたかと思うと自分の寝室に行って待ってなさいと言われたのだ。
そしてその通りにしているのだが、恐ろしさに今にも胸が張り裂けそうだった。
 ふと扉が軋む音がした。
ルクレティアはハッとしてドアの方を向く。
ドアがゆっくりと開くとチェーザレが静かに入ってきた。
「さて・・・ルクレティア・・・」
チェーザレは妹の傍に座ると静かに話しかける。
「な・・何・・・?」
ルクレティアはビクビクしながら尋ねる。
「自分が何をしたのかわかっているね?」
兄の問いにルクレティアはジッと押し黙る。
分かり過ぎるほど分かっていたからだ。
「どうやら自分が悪いことをしたという自覚はあるみたいだね。さぁ、ここに来なさい」
静かな声のままチェーザレはポンポンと膝を指し示した。
 「やぁ・・・兄さん・・それだけは・・・」
ルクレティアは今にも泣きそうな表情になるとかぶりを振る。
「やだじゃないだろう。悪いのはお前なんだから。さぁ、早く来なさい。早く来ないと兄さん本気で怒るよ」
(もう怒ってるくせに・・・・)
そう言いたかったがそんなことを言えば兄の怒りに油を注ぐようなものなので言えなかった。
「やれやれ・・・自分が悪いのに来れないのかい・・じゃあ仕方ないな・・・」
チェーザレはそういうと妹の手首を掴んで引き倒した。
 「きゃあ!」
悲鳴と共にルクレティアは兄の膝に載せられる。
あっという間にコート状の上着を捲り上げられるとパンツを降ろされてお尻をむき出しにされてしまった。
「に・・兄さぁん・・あ・・あまり痛くしないでぇ・・・」
お仕置きは免れないと悟るとせめてものお願いをする。
「駄目だよ。兄さん本当に怒ってるからね。今日はいつもより痛くするよ」
そういうとチェーザレは脚を組む。
おかげでルクレティアは天井に向かってグッとお尻を突き出した体勢になった。
ルクレティアはもはや恐怖に言葉も出ず、フルフルと震えて兄のズボンの裾を掴んでいる。
チェーザレはハァ~ッと右手に息を吹きかけるとゆっくりと手を振り上げた。


 バアッシィィィィンンンンン!!!
「きゃあああああんんんんん!!!!!」
骨にまで響きそうな強烈な打撃がお尻を突き抜けた。
ルクレティアは思わず悲鳴を上げるや海老反りに背を仰け反らせる。
バジィィィィンンンンン!!ビダァァアアアアアンンン!!ババッジィィィイイン!!
「ひぃぃぃんんん!痛ぁぁぁぁぁい!!!きゃああああああああ!!!!」
ルクレティアはあまりの痛みにジタバタと暴れだした。
「こら!暴れるんじゃない!」
チェーザレは叱りつけるとグッと妹の腰を押さえつける。
「やぁぁぁ!だって痛いんだもん~~~~!!兄さんの意地悪~~~!!」
あまりの容赦の無さに思わずルクレティアは抗議する。
「意地悪じゃないだろう!自分が何したのか本当にわかってるのかい!」
チェーザレも厳しい声で叱りつけるや容赦の無い平手打ちを再会する。
 バアッジィィンンン!!ビダバァァアアアアンン!!バアッダァァアアアン!!
「やああっ!ひいいんっ!みぎいっ!ひぎひぃんっ!」
「全く・・・また勝手に屋敷を抜け出して・・・」
バアッシィィンン!ビダッバアンッ!ジバァァンンンン!ババジィィィンンン!
自分の手も赤くなってしまうほど強烈な平手打ちをぶつけながらいつものようにチェーザレはお説教を開始する。
「外国で勝手な魂狩りをするなんて・・・」
ビダバアッシィィンンン!!ババジィィィンンンンンン!!ビダバアッジィィィンンン!!
「きゃあああ!ひぎぃぃぃ!いやああああんん!痛いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
ルクレティアは苦痛の余りに顔を左右に振るい絶叫をあげる。
ビダバァアアアアアンン!!ビバジャアアアアンンンン!!ババッジィィンンンン!!
「そのためにニエマンスたちまで怪我させるようなことまでして・・・・」
「やぁぁぁんん!ひゃあああんん!ひぃひぃぃぃんん!」
ビッシャアアアアンン!ババッジィィンンン!バッダァンンンンン!
「お前のワガママのせいで皆がどれだけ大変な思いしたと思ってるんだい!?本当に悪い子だっっっ!!!!」
バアッジィィィィンンンン!!ビッダバァアアアアンンン!!ババジィィイイン!!
「やああっ!ごめんなさいっ!ごめんなさぁ~~いっっっ!!」
ルクレティアはあまりの苦痛にごめんなさいが出る。
「ごめんなさいは当たり前だろう!何だってこんなことしたんだい!?」
「え・・・そ・・それは・・・」
ルクレティアは思わず言葉に詰まる。
プレゼントにしたかったから、なんて話したらあまりに照れくさいというか恥ずかしいように感じたのだ。
そのためについ話せなくなる。
「どうしたんだい?まさか・・言えないようなことじゃないだろうね?」
「そ・・それは・・あの・・・」
ルクレティアは思わず口ごもる。
「やましくないなら言えるはずだろう?やっぱり悪いこと考えてたんだね」
「ち・・違っ・・・!!」
ルクレティアは慌てて否定しようとするがチェーザレはすっかりルクレティアが何かよからぬ目的のために魂狩りをしようとしたのだと誤解してしまう。
「そんな悪い子にはもっときついお仕置きをしなきゃだね」
チェーザレはそういうと再び手にハァ~~ッと息を吹きかける。
「やっ・・!やだやだやだやだやだやだ~~~~~~~~!!違うのよ~~~!!」
ルクレティアは必死に弁解しようとする。
だが、すっかり誤解しているチェーザレはそれを無視すると渾身の力を込めた平手打ちを妹の真っ赤に腫れ上がったお尻に叩きつけようとした。


 突然、激しい音と共に扉が開いた。
不意の出来事に思わず二人の動きが止まる。
何だと思った二人が見やるとニエマンスが入ってきた。
 「ちょっと!何してるのよ!あっち行きなさい!!」
ルクレティアは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「どうしたのだ、ニエマンス?」
チェーザレは忠実な家臣の思わぬ行動に訝しげな表情を浮かべる。
「ご当主様、もう許して差し上げて下さい」
ニエマンスはいきなりチェーザレに平伏したかと思うと開口一番にそう言った。
「何を言っているのだい。お前もルクレティアのワガママのせいでそんな大怪我を負ったではないか。お前だってもっと怒ってもおかしくはないのだよ」
「ご当主様、お嬢様は決して自分勝手な考えから魂狩りをなされたのではございません。全てはご当主様への愛情故でございます」
「ちょ・・・!!何言ってるのよ!!それ以上はやめなさいっっ!!」
ルクレティアは慌ててニエマンスを制止しようとする。
だが、チェーザレはパシンと軽くお尻を叩いてルクレティアの妨害を防いだ。
 「どういうことだ?」
チェーザレは真剣な表情で尋ねる。
「ご当主様、明日がバレンタインなのはご存知でらっしゃいますか?」
「うむ・・・。それが?」
「はい。お嬢様はご当主様のために最高のプレゼントを差し上げたいと思ったのです」
その答えにチェーザレはハッとする。
 「ルクレティア・・お前・・私のために・・こんなことをしたのかい?」
「そ・・その・・・」
「どうして言ってくれなかったんだい?あらかじめ妖怪達に話を通しておけばこんなことにもならなかっただろうに・・・」
「だって・・内緒にしておいて・・ビックリさせたかったんだもん・・・」
妹の言葉にチェーザレは思わず苦笑する。
 チェーザレは妹を抱き起こしたかと思うと膝の上に座らせてギュッと抱きしめる。
「に・・兄さん・・・?」
突然の抱擁にルクレティアは思わず戸惑いを見せる。
「全く・・・馬鹿な子だね・・・」
「なっ!馬鹿って何よ!?ひっどーい!!」
兄の言葉に思わずルクレティアは頬を膨らませる。
「私の為に・・・あんな危ない真似して・・・本当に馬鹿な子だよ・・・でも・・でも・・その気持ちが・・本当に・・嬉しいよ。兄さん・・凄い・・凄い・・幸せだよ・・」
そういうとチェーザレは妹をさらに抱きしめる。
「も・・もう・・怒ってない?」
ルクレティアはおずおずと尋ねる。
「怒ってないよ。それとも、まだ反省するかい?」
兄の言葉にルクレティアは本能的にかぶりを振るう。
「ルクレティア・・・誰よりも・・愛してるよ・・・」
「私も・・・」
二人は互いへの愛情を口にすると力強く抱きしめあった。


 翌日、チェーザレが家臣からの報告書に目を通していると扉をノックする音が聞えてきた。
「誰だ?」
チェーザレが尋ねるとルクレティアが入ってくる。
「どうしたんだい?」
チェーザレは妹が入ってくるとニコリと微笑む。
「あ・・あのね・・・こ・・これっっ!!」
ルクレティアは恥ずかしそうにしながら何かを差し出した。
差し出したのは箱に入ったチョコレート。
ハート型だが周りが波打っていて素人の作なのが明らかだった。
よく見るとルクレティアの服や頬にもチョコらしいものが所々にこびりついている。
調理場との大格闘の末にようやく造り上げたのが明らかだった。
 「これを・・・私に?」
「きょ・・去年のプレゼントより・・ひ・・貧弱だけど・・・」
ルクレティアは恥ずかしそうに言う。
「何を言うんだい。今までで最高のプレゼントだよ」
チェーザレはこれ以上無い微笑みを妹に向ける。
「えへへ。兄さんだーい好き!!」
ルクレティアはそう言うや、小さい子供のように兄に飛びついた。


 それからさらに数時間後・・・・。
「お嬢様、何かご用ですか?」
ニエマンスは女主人の部屋に入るなりかしこまって尋ねた。
「来たのね。こっちに来なさい」
ニエマンスは言われた通りに主人に近寄る。
ルクレティアは顎をツンと上に向けたまま、ぶっきらぼうにチョコの入った箱を差し出した。
チョコは兄にプレゼントしたものと形は同じだが大きさは一回りほど小さかった。
「これは・・?」
「この前は私の為に斬られたわね。だ、だからその詫びよ!さぁ、受け取りなさい!」
それだけいうと恥ずかしいのかルクレティアは顔を横にそむける。
「お嬢様・・・・」
ニエマンスは女主人のお手製プレゼントに今にも感動しそうな表情を浮かべる。
「い、いつまでそこに突っ立ってるのよ!!さっさとチョコ持って出てゆきなさい!!」
ルクレティアは普段の高慢で邪険な態度に戻るとさっさと忠実な家臣を部屋から追い払う。
 「お嬢様・・・ありがとうございます・・・」
ニエマンスは心底からの感謝と主君への愛情の籠った視線を向けると女主人の部屋を後にした。


 ―完―
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