女悪魔ルクレティア・バルツィーニ9 開かずの間



 (注:スパが少ないです。それでもよい方のみご覧下さい)


 「お嬢様、新しい報告書でございます」
ドアの開く音と共に執事が書類を抱えて入ってきた。
各地の領地から届いた報告書を持ってきたのだ。
「ああっ!!」
部屋へ入るなり老執事は声を上げた。
 「どうしました?」
執事の声を聞きつけてニエマンスがやって来る。
「あれを・・・」
「これは!!」
執事の指した窓を見るなり途端にニエマンスの表情が変わった。
窓は開いていて傍には足跡が残っていたからだ。
「また・・こっそり抜け出してしまわれたのでしょうか・・」
「ミラノさん。あなたはお屋敷内を探して下さい。私はまず厩舎を見てきます。また遠乗りに出たかもしれませんし」
「わかりました」
二人は互いにそう言うと急いで部屋を後にした。
 ドアが閉まり二人がいなくなるや、突然床のカーペットがムクムクと焼いた餅のように膨れ上がった。
カーペットはやがて人の形を取ったかと思うと色が変化し、ルクレティアの姿になった。
「ふふふ・・・お馬鹿さんねぇ。あんな単純なトリックに引っかかるなんて」
ルクレティアはおかしそうに笑う。
窓を開けて足跡を残し、そこから逃げ出したように見せかけてルクレティアは魔法でカーペットに化けていたのである。
 「全く・・・書類とにらめっこなんてやってられないわよ・・。さて・・どうしようかしら・・?」
ルクレティアは何をしようか考える。
そのとき、ふとあることを思い出した。
(そうだ・・・)
ルクレティアは深呼吸をすると身体を揺さぶる。
次の瞬間、ルクレティアは小さな虫に姿を変えた。
虫に化けるや、ルクレティアは偽装に開けた窓から一旦外へ出る。
そしてグルリと屋敷の周りを大きく回ってある場所までやって来た。
やって来たのは老執事ミラノの個室の窓。
風を入れるためだろう、幸いにも窓が少し開いている。
隙間から執事の部屋に入り込むや、ルクレティアは本来の姿に戻った。
 「どこよ・・・?」
ルクレティアは周囲を見回すと壁に鍵掛けがあるのを見つける。
ミラノは執事という立場柄、幾つかの部屋を除いて屋敷の各部屋や蔵の鍵を預かっていた。
ルクレティアは鍵掛けに近づくや、鍵を物色する。
(これだわ!)
ルクレティアは目当ての鍵を見つけるや、叫びそうになるのを辛うじて押さえる。
その鍵はかなり年代が経った代物で、長い間使われないでいるのが明らかだった。
(ふふふ・・。間違いないわ・・・)
目的のものを見つけるや、ルクレティアはほくそ笑む。
コートの内ポケットに鍵を仕舞いこむとルクレティアはドアを少し開け、再び虫に化けて廊下へ出ると屋敷の地下へ向かっていった。


 地下の一番奥まった部屋にその扉はあった。
扉には頑丈な鍵がかけられ、中に入れないようになっている。
「ここね・・。ふふふ、何が入ってるのかしらねぇ」
ルクレティアは好奇心につい声が興奮する。
この部屋は『開かずの間』と呼ばれている。
ルクレティアが兄からこの屋敷を与えられるずっと以前から厳重に鍵がかけられ、誰も入れないようにされてきた。
また、チェーザレもこの部屋だけは絶対に入ってはいけないと命じ、執事に鍵を預けたのである。
他のことなら何でも言う通りにする執事もこれだけはチェーザレの命を盾に絶対にルクレティアの命令を聞こうとしなかった。
だが、それが逆にルクレティアの好奇心を刺激してしまい、執事達を上手く出し抜いて鍵を持ち出し、こっそりと中を見てやろうという気を起こしたのである。
 鍵同様に年期の入った錠前に鍵を差し込むとルクレティアは慎重に鍵を回す。
ガチャリという音と共に鍵が外れるとルクレティアは扉を開けて中へ入っていった。


 「う・・何よこれ・・汚いわねぇ・・」
ルクレティアは部屋に入るなり顔を顰める。
全く人が入っていないためだろう、埃や塵が積もっており、所々にはクモの巣が張ってしまっている。
「ったく・・幾ら開かずの間だって言っても時々掃除ぐらいはしなさいよ・・」
ルクレティアは文句を言いながら部屋の中を見回した。
部屋の中には様々なベッドやテーブル、椅子といった様々な調度品が置いてある。
いずれも女物でかなり傷んでしまっているが、微かに見える細工や材質からかなり贅沢な品で相当な貴顕の夫人か子女の持ち物だったことが見て取れた。
 「あら・・・?」
さらにルクレティアが部屋を見回していると奥の壁に額が掛かっているのが見えた。
表面の埃を払うとその下から人の顔が現れる。
現れたのは悪魔族の女の姿。
年はルクレティアと同じくらい、高慢なくらいにプライドが高そうな絶世の美女悪魔だった。
額の裏を見ると「アンヌ・シャニィ」を名が書かれている。
 「シャニィ・・?」
ルクレティアはその名を見るや、訝しげな表情を浮かべる。
どこかで聞いたことがある姓だったからだ。
「そうだわ・・確か・・・」
しばらくしてルクレティアは昔いたこの屋敷の管理人から聞いた話を思い出した。
 アンヌ・シャニィとはバルツィーニ家がこの屋敷を手に入れるずっと以前、この屋敷の主だった人物だ。
美しいが、名家の令嬢として育ったために非常にプライドが高く高慢なところのある人物であった。
その美しい女悪魔に屋敷の召使いの一人が恋をした。
しかし、あまりにもその人物は醜く、また主人は召使いの求愛を受け入れるような人物ではなかった。
アンヌは皆の見ている前でワザとラブレターを読み上げて恥をかかせ、嘲弄した上に家来に命じてこれでもかと言わんばかりに痛めつけて屋敷から追い出したのである。
当然、その召使いは主人の行為を恨んだ。
恋情は憎しみに変わり、召使いはその恨みを晴らすためにあるものを造り上げた。
そしてそれをかつての主人の元へ送りつけ、その道具を以って主人に恨みを晴らしたという。
 (なるほど・・。ということはこの部屋にあるのはその女の遺品ってわけね・・)
ルクレティアは調度品を見やりながら独りごちる。
ふと、ルクレティアは部屋の片隅に妙なものが隠れていることに気がついた。
(何かしら・・?)
ルクレティアが近づいてみるとそれは正体を現す。
それは像だった。
 像は金属製で全身が見事な銀色に輝いている。
高さは3m近くあり、筋骨逞しい巨漢の姿をしている。
巨漢の目はたった一つしかなく、また頭がタコのようにツルツルなところから、ギリシャ神話などで馴染み深いキュクロプス(一つ目巨人)だと気付いた。
「う・・・」
キュクロプスの像を見るや、ルクレティアは顔を顰めた。
キュクロプス族自体が、悪魔族の美的感覚からして醜い者が多いのだが、この像はその中でもトップクラスと思える醜さだったからだ。
顔を顰めながら、ルクレティアは巨人像の胸に文章が刻まれていることに気付く。
どうやらシャニィに恋をした例の醜い召使いの贈り物のようだ。
文章によれば自分自身を写した像を送ったというわけである。
「こんな相手に迫られちゃ誰だって嫌だわね・・・」
ルクレティアは像を見ながら思わず呟いた。
彼女にしてみれば哀れな一つ目巨人の召使いなど同情に値しないというわけだ。
語り伝えられているアンヌ・シャニィの性格はルクレティアに結構似ているらしいからそれもむべなるかなであろう。
 「あら・・?」
ルクレティアは像を見つめているうちにふと踵に何かがあるのに気付いた。
どうやらボタンらしかった。
「何かしら、これ?」
ルクレティアは好奇心に駆られてボタンを押す。
だが、何も起こらなかった。
「何よ。期待させて」
ルクレティアはムッとすると像の脛を蹴りつける。
「つまんないもの見たわね。損したわ」
ルクレティアは不機嫌な表情を浮かべると部屋を出てゆこうとする。
だが、扉を開けようとした瞬間、触ってもいないのに閂がかかってしまった。
「何よこれ!!」
ルクレティアはすぐにも閂を上げようとする。
そのとき、床がきしむ音がした。
何だと思ってルクレティアが後ろを振り向くや、思わず彼女は声を立てそうになる。
像が歩いていたのだ。
 像は手を伸ばすやルクレティアの手首を掴む。
「離しなさい!!」
ルクレティアは空いている方の手から魔力を放出するが、像はびくともしない。
それどころか強い力で引っ張るや、ルクレティアを小脇に抱え込んだ。
 像はルクレティアを小脇にしっかりと抱えると上着に手をかける。
人間と変わらぬ動きであっという間に上着をまくり上げてお尻を出したかと思うとパンツも降ろして完全にむき出しにしてしまう。
(ま・・まさか・・・)
ルクレティアの心中にある疑いが頭をもたげて来た。
そんな馬鹿なと思ったが疑いはあっという間に大きくなる。
だが、考えている暇は無かった。


 ビダァンッ!
「あっ・・!!」
不意にルクレティアはお尻に強い痛みを感じ、声を漏らしてしまう。
(な・・何・?)
最初のうち、ルクレティアは何が起こったのか理解できなかった。
ビダバアンッ!バアジィンッ!ビダァンッ!
「・・く・・ぅ・・ひ・・」
たて続けに何度かお尻に痛みを感じ、ルクレティアは微かなうめき声を漏らす。
(ま・・まさか・・)
ルクレティアは悪戦苦闘の末に上半身を曲げ、像の右手が振り下ろされているのに気付いた。
 (う・・嘘でしょ・・・そんな・・・)
ルクレティアは愕然とする。
確かにお尻を叩かれたことは何度もある。
だが、ルクレティアのお尻を叩くのはチェーザレだけだ。
チェーザレ以外の他人どころかこんな像に叩かれたことは一度も無い。
「ふ・・ふざけるんじゃないわよ!!像の分際で!!私を何だと思っているのよ!!」
途端にルクレティアは怒りがこみ上げてきた。
お尻を叩かれるなどルクレティアにとっては本来屈辱以外の何物でもないからだ。
チェーザレが相手だから許容できるのである。
他の相手だったら間違いなく灰にしてしまうだろう。
ましてや像などに叩かれるとなったらなおさらだった。
 ルクレティアは像の背中に向かって魔力を放つが、全く壊れない。
それどころかお尻を叩く勢いがさらに強くなった。


 「全く・・お嬢様はどこにいかれたのだ・・」
執事のミラノは深刻な表情で歩きながら呟いた。
「見つかりましたか?」
ニエマンスは向こうからやって来るなり尋ねるが、ミラノは首を左右に振って返事をする。
「そうですか。外や厩舎を見てきたのですがこちらも・・・」
「それではもはやお屋敷にはいらっしゃらないのか・・・」
「ミラノさん、どこか探し忘れた場所はありませんか?万が一ということもありますし」
「何を言います!私は全て・・・」
そこまで言いかけてミラノの口が止まった。
「どうしました?」
「いや・・まさか・・。一つだけあった・・。開かずの間だ」
「もしやそこへ?」
「しかし鍵は私の部屋にしっかりと置いてある。まさか・・」
「万が一ということもありえます。まず鍵を調べましょう」
「そうだ。こうしてはおられん!」
二人は慌しく廊下を走ると執事の部屋へ向かって行った。
 「無い・・。鍵が無い・・」
ミラノは蒼白になっていた。
「本当にありませんか?」
「間違いない。誰かが持ち出したのだ」
「急ぎましょう。何か起こっているかもしれません」
扉が開いたと思うや、二人は再び慌しく廊下を走っていった。


 地下室へたどり着くや、二人は錠前が開けられていることに気付いた。
「やはり・・・」
ニエマンスはそう呟くとドアを開けようとする。
だが、扉は開かない。
「どういうことだ?」
ニエマンスがドアを動かしてみると中の閂がかかっているのがわかった。
「お嬢様!いらっしゃるのですか!お開け下さい!」
ドンドンドン・・・ドンドンドン。
ニエマンスは扉を強く叩く。
だが、返事も閂を開ける音もしない。
さらにニエマンスは強く叩いたが、全く反応が返ってこなかった。
 「ミラノさん!中の閂を外から開ける方法はありませんか!?」
「いえ。外から壊しでもしない限り無理です」
それを聞くやニエマンスはあっという間にどこかへ去る。
しばらくすると頑丈な斧を持って戻ってきた。
 ベギッ!
斧が叩きつけられ、扉に亀裂ができる。
ニエマンスは狂ったような勢いで斧を幾度もドアに叩きつける。
やがて閂が完全に壊されるや、ニエマンスは肩から思い切り体当たりをして部屋へ飛び込んだ。
 「お嬢様!お嬢・・・」
ニエマンスは必死に呼びかけながら部屋をグルリと見回す。
だが、その直後に石にでもなったかのように硬直してしまった。
 ニエマンスは自分の目を一瞬疑ってしまう。
信じられない光景だったからだ。
だが、醜い像の小脇に抱えられた真っ赤に染まったお尻は間違いなく主人のものだった。
 バシィンッ!ビシャアンッ!バヂィンッ!ビダァンッ!
もはやルクレティアは抵抗する気力も無いのか、ぐったりしてしまっている。
像は黙々とルクレティアのお尻を叩き続ける。
 「おのれっっ!!」
ニエマンスは叫ぶや斧を構えて像に向かって突進した。
振り下ろされる像の右手に思い切り斧を叩きつけるが、呆気なく弾かれてしまう。
ニエマンスは組みついて像を止めようとするが、像はニエマンスの身体を引っ掴んだかと思うと思いっきり天井目がけてぶん投げた。
 激しい音と共にニエマンスは叩きつけられ、反動で床へ向かって急降下する。
落ちてきたところをルクレティアのお尻を叩きながら、像はニエマンスをサッカーボールのように蹴っ飛ばした。
ニエマンスは今度は壁の方へ吹っ飛ばされ、壁に思い切り叩きつけられる。
衝撃で壁に大穴が開き、ニエマンスは隣の部屋へ転がり落ちた。
 「ごほっ・・げほっ・・」
ニエマンスは咳き込みながらヨロヨロと立ち上がる。
(おのれ・・・どうすればいい・・)
ニエマンスは主人を助けようと必死に考える。
あの像を止めなければ主人はお尻が壊れてしまう。
いや、それどころか像に責め殺されてしまうかもしれない。
だが、さっきのことで像を壊すのは無理だとわかった。
(だが・・何かあるはずだ・・像を止める方法が・・)
ニエマンスはジッと像を観察する。
すると像の踵にボタンらしきものがあることに気がついた。
(もしや・・・)
ニエマンスはさらによく像を観察する。
どんなに見てもボタンはそこしかない。
(いちかばちかだ・・・)
ニエマンスはそう決意すると壁の穴から飛び出す。
そして像の足に組みついた。
 像の足にニエマンスが組み付くや、足から猛烈な電撃が生じた。
「う・・・うぐぐぐぐぐぐ・・・」
ニエマンスは全身を走る苦痛を必死に堪えてしがみつく。
しがみつきながらも踵に手を伸ばすと、ようやくのことでボタンを押した。
 突然、電撃がやんだ。
同時に像の動きも止まる。
そうかと思うと像の左腕が緩み、ルクレティアの身体がドサリと床に落ちた。


 「う・・うん・・?」
ルクレティアは目を覚ますや、寝室のベッドにうつ伏せに寝ていることに気がついた。
「お気づきになられましたか」
声のした方を振り向くとニエマンスのホッとした表情にぶつかる。
「何でいるの・・イタっ!」
ルクレティアが尋ねかけた瞬間、お尻に痛みが走った。
慌ててニエマンスは女主人の傍に寄るや、新しいタオルを主人のお尻に乗せる。
「あまり動いてはいけませんよ・・。あんなに叩かれたんですから・・・」
「ふん・・これくらいどうってことないわよ・・」
ルクレティアは痛いのを堪えて平気そうな表情をする。
 「それより何だったのよ、あの不細工な像は。全く許せないわよ!」
ルクレティアは例の醜い像を思い出すや、怒りに燃える。
「あの像ですか。あれこそが昔、恋心を傷つけられたキュクロプスが復讐のために送ったものだそうです」
「どういうことよ?」
「はい。あの像は美しい女悪魔を見つけると尻を叩くような仕掛けになっているそうです。製作者のかつての女主人は皆が見ている前でこの像に尻を叩かれ、屈辱と痛みを味わいながら責め殺されてしまったそうです」
ルクレティアはニエマンスの言葉にゾッとする。
ニエマンスが助けに来なかったら自分もお尻を叩かれて責め殺されていたかもしれなかった。
 「それでこの像はこの屋敷の地下深くにしまい込まれ、誰も触れることの無いように厳重に部屋を閉じたそうです。ご当主様もお嬢様のことを心配されてミラノさんに鍵をお預けになられ、また一切を知らせていなかったのです」
兄のことが出てきてルクレティアは気まずい気持ちになる。
兄が聞いたら心配することだろう。
ワガママなルクレティアも兄にだけは申し訳ないと思った。
 「お嬢様、一つだけお願いがあります。確かに開かずの間のことについてはお嬢様にはご不満がおありでしょう。自分が屋敷の主人なのに自由に出来ないのですから。ですが決して我等もご当主様も意地悪をしていたわけではありません。それ相応のわけがあったことだけはわかっていただきたいのです」
「わかってるわよ!うるさいわね!さっとと出てゆきなさい!」
ルクレティアは頭ではニエマンスの言うことを理解していたが、家来にそんなことを言われるのが癪で、頭ごなしに怒鳴りつける。
ニエマンスが大人しく部屋を去ると、ルクレティアはふて腐れた様子でベッドに寝転がった。


 ―完―
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