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神父物語10 盲目の来訪者



 コツン・・コツン・・・コツン・・・。

杖の当たる音と共に一人の男が歩いていた。

男はすらりとした背の高い体格で、髪は無造作にはねており、涼やかだが白刃を思わせる鋭さを秘めた顔立ちをしている。

光の無い目と右手に握り締めた朱塗りの太い杖が盲人であることを示していた。

盲人は藍色の上着と水色のズボンで細身の引き締まった身体を覆っている。

 「ふぅぅぅ・・。暖冬だっつうが・・さすがに会津は寒いぜぇ・・」

盲人はそう呟きながら、吹く風に身を縮める。

男は名を河上彦市(かわかみげんいち)といった。

「へっへっへぇぇ・・。ええと・・会津聖パウロ教会はどっちだったかなぁ」

河上は十字路にたどり着くと目が見えないもののあたりをキョロキョロと見回す。

 キョロキョロと見回しながら河上は耳と鼻をヒクヒクと動かした。

やがて河上の耳は教会の鐘の音と思しき音を捕らえる。

「へぇへへへ・・・。こっちだな」

音の聞えてきた方に向くと河上は朱塗りの杖をつきながら歩き始めた。





 「佐々木さんのケチ~~。わからんち~~ん~~~」

今井信幸はプウッと両頬を膨らませたような表情を浮かべると、憤懣やるかたない様子で箒を動かしていた。

(ちょっとお酒飲もうとしたくらいで怒ってさ~~。身体温めるくらいいいじゃないかぁ~~。それなのに朝から叩くなんてひっどーいっ!!)

今井は一時間ほど前までのことを思い出しながら憤激に駆られていた。

 今日は暖冬続きの日には珍しく朝から冷え込んでいた。

あまりにも寒いので今井はブルブルと震えてしまうほどだった。

こんな状態では身体を暖めたくなるのが人情というもの。

そこで今井は少し身体に酒を入れて身体を暖めようと思ったのだ。

といっても、自前の酒を持っているわけではないし、神父服に着替えてしまっていたから酒を買いにコンビニへというわけにもいかない。

そこで教会のワイン室にまたこっそりと忍び込んで一本失敬して来ようとしたのである。

 が、あいにく今井のそんな考えはお見通しだったらしく、一本失敬しようとしたところを佐々木に押さえられてしまったのだ。

当然、現行犯逮捕ということで佐々木の膝の上で厳しくお仕置きされたのである。

おかげで歩くと上着とお尻が擦れて痛い。

今こうして掃除の真っ最中から動くたびにお尻にピリピリと痛みが走って思わず顔を顰めてしまう。

「佐々木さんのばーか、けちんぼ~。わからんち~ん。いじめっ子~~」

小声でブツブツと愚痴を言いながら今井が箒を動かしているそのときだった。

 今井はふと顔をあげると、誰かが入ってくるのに気がついた。

「あれ・・・お客さん?」

今井は突然現れた河上の姿を見かけるとそう尋ねる。

「へぇ、ここの神父さんですかい?」

「はい。そうですけど」

「そうですかい。ちぃと尋ねてぇんですが、佐々木只行さんいらっしゃいますかい?」

「あれぇ、佐々木さんの知り合いの方ですかぁ?」

「へへへ、まぁそんなところですかね。河上彦市いいますわ。いらっしゃったら是非挨拶したいんですがねぇ」

「まあ佐々木さんならいますけど」

「そうですか。そいつはよかった」

 とにかく今井は河上を案内して教会内へ入ってゆく。

「ん・・?神父さん・・もしかして怪我でもしてなさるんで?」

歩きながら突然、河上が尋ねてくる。

「いや。そういうわけじゃないですけど・・・。何でですか?」

不思議に思って今井が尋ねると河上はそれに答える。

「いやねぇ。足音がちぃとね。なんとも無い人の歩き方と音が微妙に違うんですわ。それに何か歩くたんびにほんの微かに痛そうな声や息づかいが漏れるのがわかったんでさ」

(うわ・・・・。当たってるよ・・・)

今井は河上の言葉に思わず舌を巻く。

お尻を叩かれると、その痛さで歩き方が変わる。

また、腫れた肌と服が擦れるのが痛いため、顔を顰めるのだが、そのときに痛そうな声や息が漏れたり汗が出たりする。

河上はそれを感じ取って言い当てたのである。

 「歩き方からすると・・・怪我してんのは・・・ケツですかい?」

今井は河上の言葉に一瞬、身を堅くする。

(ま・・まさかお尻ぶたれてるのまでわかってる?)

そう思うと心臓がバクバクしてきた。

幾ら今井でもこの年になってお尻を叩かれているなんて恥ずかしい事実を他人に知られたくは無い。

(ん?何か焦ってるみてぇだな)

河上はふと今井の様子が変わりかけたのに気がついた。

冷や汗が流れ出しているのを鼻でかぎつけたのである。

河上は盲人だが、それゆえに聴覚や嗅覚などが異様に発達している。

そのために人の変化などが臭いなどからわかるのである。

 (ケツに怪我したのは・・何か知られたくないことでもあったのか?ヘタ打っちまったか?)

そう考え、それ以上のことは言わずにだんまりを決め込む。

余計なトラブルを起こすつもりはさらさらなかったからだ。

礼拝堂内を河上は今井に案内されて一番前の長椅子までやって来る。

今井は河上を先頭の長椅子に座らせると教会の奥へ入っていった。

 「誰ですか、私に用というのは?」

佐々木は今井から来客の知らせを受けると礼拝堂へ入ってくる。

礼拝堂へ入るや佐々木の目に河上の姿が飛び込んできた。

 「へへへ。佐々木さん、お久しぶり」

河上は見えない目を細めて笑みを浮かべる。

「河上さん・・?河上さんか?」

「へっへっへ。久しぶり過ぎて忘れちまったかい?」

河上は立ち上がると笑みを浮かべる。

「いや・・・忘れるわけないだろう!!彦さん!!」

佐々木は嬉しそうな声をあげると河上に歩み寄る。

 「それにしてもどうしたんだ、彦さん。会津に来るなんて」

佐々木は長年の親友に会ったかのような親しい口調で話しかける。

「いやぁ。ちーとばかしヤボ用で会津まで来たのさ。せっかく会津まできたんだからってんで会いに来たのさ」

「そうか。立ち話もなんだ。来客室まで案内するよ」

佐々木はそういうと教会の奥へ河上を連れて行った。





 「む~~~~~~っっ・・・・・・」

今井は不機嫌そのものといった表情で箒を動かしていた。

今、佐々木は来客室で河上と応対していた。

ちょっとだけ中の様子を覗いてみたのだが、積もる話があるのか、非常に楽しそうにしていた。

(佐々木さんは僕のなのに~~。何様のつもりなのさあのオジサンっっ!!)

今井は河上の顔を思い浮かべるやムカムカしてくる。

河上に佐々木を取られてしまったようで面白くないのだ。

(佐々木さんも佐々木さんだよ!僕がいるのにあんなオジサンと楽しそうにして!!本当にひっどーい!!)

佐々木の方の態度も今井の怒りに油を注いでいた。

 今井がむしゃくしゃしながら乱暴に箒を動かしていると礼拝堂から河上の姿が出てくるのが見えた。

見送るように佐々木も一緒にいる。

互いに名残惜しそうな表情を浮かべて何やら言葉を交わすと河上はトボトボと教会を去っていった。

 「さ~さ~き~さぁ~ん~~~」

何やら不穏な空気を感じて佐々木が振り返ると不機嫌そのものの今井の姿があった。

「どうしたんだ、そんな顔して?」

「あのオジサン何なんですか!?スッゴイ仲良さそうですけど!!」

今井は今にも噛みつかんばかりの勢いで詰問するように尋ねる。

「俺の古い知り合いだ」

「知り合い?ふーん・・・」

今井は納得していないような表情を浮かべる。

「信幸、お前何か妙なこと考えてるんじゃないだろうな?」

今井の様子にふと佐々木は疑念を覚える。

焼きもちを妬いたり河上との関係に妙な勘繰りをしていたりしたら何を仕出かすかわからないからだ。

「考えてませんよ。そんなこと・・・」

そう言いつつも機嫌は悪い。

「ならいいんだが・・・・。それよりもう掃除は終わったのか?」

「終わってますよ!ふーんだっ!」

今井はヘソを曲げたような声をあげるとそのまま教会へ入っていった。

 中に入るや、今井は体調が悪いとか何とかと適当な理由をでっち上げるとそのまま自分の部屋に籠ってしまう。

そして頭から布団を引っかぶるとそのまま寝てしまった。

(何だよ何だよ何だよ何だよ何だよ~~~!!佐々木さんの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿~~~~~!!!!)

癇癪を今にも起こしそうな表情で今井は布団にくるまっている。

あの河上とかいう盲人に佐々木を取られたように思えて口惜しかった。

河上の顔を思い出すたびに今井は腸が煮えくり返りそうになる。

(絶対に・・・許さないんだからっっ!!)

焼きもちから筋違いの怒りに燃え上がると、今井は何かを決意したような表情を浮かべた。





 それから数日後の夜・・・。

「うっ・・く・・ちぃと飲みすぎたか・・・」

街灯の光の下をいささか千鳥足で河上は歩いていた。

先程まで居酒屋で一杯よろしくやって来たのだ。

少し大目に飲んだので顔も赤らんでいた。

いかにも酔っ払いといった足取りで夜道を河上はトボトボと歩いていた。

 (き・・・来たっっ!!!)

電柱の影に隠れながら、今井はジッと河上がやって来るのを見つめていた。

今井は私服姿で、その両手には木刀を持っている。

佐々木がトレーニング用に部屋に置いてあるのをこっそり持ち出してきたのだ。

河上が近づいてくるたびに今井は緊張で息が荒くなり、鼓動が早くなる。

こんなことをするのは無論、初めてだった。

(佐々木さんは・・僕の・・なんだから!・・そ・・それなのに・・・)

今井の心中では嫉妬の感情がムクムクとマグマのようにゆっくりと昇ってくる。

嫉妬の感情はあっという間に頂点に達したかと思うと、今井のためらいや罪悪感を吹っ飛ばしてしまう。

今井は腹をくくった表情になったかと思うと、河上目がけて飛び出していった。

 「う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

自身に発破をかけるように腹の底から搾り出したような気合と共に今井は木刀を振り下ろす。

河上が杖の上端近くを右手で、上端から30cmほど下のところを左手で掴んだかと思うや、杖の中から白い閃光が飛び出した。

 閃光が今井の目の前で駆け巡ったかと思うと木刀が十を超える破片に輪切りにされてしまう。

「えっ!?」

信じ難い光景に思わず今井は間抜け面をさらしてしまった。

 間髪入れずに今井は強い衝撃を感じる。

河上がタックルで今井を吹っ飛ばしたのだ。

今井が背後の壁にぶつかると同時に河上が密着する。

密着すると同時に河上は右手に逆手に握っていた仕込杖の刃を横にして今井の喉元に突きつけた。

 「ひい・・・っ!や・・た・・助けて・・!」

今井は恐怖に駆られ、ガクガクと震えて許しを請う。

「お前・・・佐々木さんとこの教会にいた神父だな?」

河上は今井の匂いを嗅ぎ、確かめるように尋ねる。

今井はガクガク震えながらも返事をする。

「くそっ。何だってこんなことしやがった?」

河上は仕込杖を突きつけて尋ねる。

その表情は教会で見たものとは全く異なっており、修羅場に生きるもののそれになっていた。

「そ・・それは・・・」

今井は話そうとして口を閉じる。

焼きもちだなんて、恥ずかしいし、この男に言うのは何となく癪だったからだ。

「おい。いい加減にしろよ。理由も無いのに襲ったとでもい・・」

腹に据えかねたのか、やや怒り声になって河上は今井をおどしつけようとする。

だが、河上は今井の身体から発せられるある匂いに気付いた。

 (ん?こいつは・・・佐々木さんの匂いか?)

しばらく匂いを嗅いでみて河上はそれを確信する。

「おい・・一つ聞くぞ。お前、佐々木さんのコレか?」

河上は鞘になる方を掴んでいる手を持ち上げると小指を突きたてた。

「こ・・コレって?」

今井は意味がわからずにきょとんとしている。

「だからおめえは佐々木さんのオンナかってんだよ?」

河上がそう尋ねてきてそうやく理解する。

「そ・・そうだよっ!さ・・佐々木さんは僕のだもんっ!あんたなんかに渡さないんだからっっ!!」

今井は今にも噛みつかんばかりの勢いで河上にそう言ってやる。

「なるほど・・・ようやく謎が解けたぜ・・・。お前・・俺に妬いたな?」

「そ・・それがどうしたってのさ!?」

「一つ言っておいてやろう。俺はそっちの気は毛頭無いんでね。へっへっへっ・・女の肌の方が好きなんだよ・・・」

「本当に?それにしちゃ随分佐々木さんと仲良かったけど?」

今井はいまいち信じられなくて不審そのものの表情で尋ねる。

「あいつの実家と縁があるんだよ・・。これでも以前は道場の師範やってたんでねぇ」

 河上は九州のさる大手武術道場のゆかりの人間だった。

そこで居合術の師範をやっていたのである。

だが、思うところあって館を飛び出し、放浪の身となっていた。

佐々木も大手武術道場の次男ということで、道場が取り持つ縁で二人は古い顔なじみという間柄になっていた。

河上がそういうことを話してやるとようやく今井は納得したような表情を浮かべる。

 「さぁてと・・・このままここにいるわけにもいかねえだろ。佐々木のところに帰れ」

「いや」

河上の言葉に今井ははっきりといった。

「いやってそういうわけにはいかねえだろうが」

「いや!帰ったら絶対に佐々木さんに怒られるもん!」

「ってそりゃしょうがねえだろうが。お前はそれだけのことをしたんだからよ」

河上は今井の言葉に非情にいう。

「い~や~。絶対に帰らない~~~~~!!!」

今井は電柱に必死にしがみつくと駄々をこねるように叫ぶ。

「だぁぁぁ!!いい加減にしろっつーの!!」

河上はセミのように電柱にしがみついている今井を無理矢理に引き剥がすと教会へ連行するように歩き出す。

「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ~~~~~~~~っ!!鬼~~っ!悪魔~~~っ!!外道っ!鬼畜っ!サド~~~~っっっ!!!」

今井は考えつく限りの悪口雑言を河上にぶつける。

(何でこいつの方が怒ってんだよ・・・?怒りたいのはこっちの方だぞ?)

河上は今井の行動に呆れるが、何か言ったら同レベルに成り下がると思い、そのまま引っ張るように連れて行った。





 「すまなかった!本当に!すまんっ!」

佐々木は河上に必死に頭を下げていた。

一方、今井はふて腐れている。

「こら!信幸、お前も謝らないか!」

佐々木は今井を叱りつけるが、今井は謝るどころか河上に向かってアッカンベーをする始末だった。

 目は見えずともそれがわかったのか、河上は苦笑する。

「まぁ別にかまわんさ。坊やにしてみれば俺があんたと仲良くしてんのが気に食わなかったんだろ。前にも似たようなことがあったから気にしてねえよ」

「し・・しかし・・・」

「へっへっへっ。一々気にしていたら生きていけねえよ」

そういうと河上は立ち上がる。

「行くのか、もう?」

「ああ。この街にも長居しちまったからな」

「どこへ行く気だ?」

「さぁな。風の向くまま気の向くままさ。へっへっへっ・・・あばよ、お二人さん。仲良くな」

河上はそういうとコツンコツンと仕込杖をつきながら教会を後にした。





 「信幸・・お前は何をしてるんだ!!」

二人きりになるなり、佐々木は今井を叱りつけた。

「だ・・だってぇ・・口惜しかったんですもん・・あんなオジサンが佐々木さんと仲良くしてるなんて・・・」

今井はモゴモゴと口ごもりながら言う。

「だからって人を襲ったりしてもいいと思ってるのか?」

佐々木は厳しい目で今井を見据える。

今井はその視線の強さに思わずたじろぎそうになる。

「そ・・それは・・・」

「信幸・・・こんなことをした以上・・覚悟はいいんだろうな?」

佐々木はジッと今井の目を覗きこんでくる。

「あ・・あの・・佐々木さん・・お・・怒ってる・・?」

答えはわかり切っていたが、今井は尋ねずにはいられなかった。

「怒ってないように見えるか?」

静かな低い声で佐々木は尋ねた。

その声だけで今井には佐々木が怒っているのがはっきりとわかった。

 突然、踵を返すや今井は逃げ出そうとする。

だが、佐々木は今井の手首をしっかりと掴むと後ろへ引き戻した。

「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ~~~~~~~~~~~っっっっ!!!!佐々木さん離してぇぇぇぇ~~~~~~~~~~!!!!!」

長椅子に腰かけた佐々木の膝に載せられながら、今井はジタバタと暴れまくる。

「やだじゃないだろう!自分勝手な気持ちで人に怪我させようなんて!今日はちょっとやそっとじゃ許してやらんからな!」

そういうと佐々木は今井の私服のズボンを降ろす。

あっという間に今井の白磁のように綺麗なツルリとしたお尻が姿を現した。

佐々木はしっかりと今井の腰を押さえつけると、いつものように右手にハァ~ッと息を吹きかける。

ゆっくりと手を上げたかと思うと、思い切り手を振り下ろした。





 バアンッ!!バアッシィーンッ!ビッタァーンッ!

「きゃああっ!ひぃんっ!痛ああいっ!」

最初から佐々木は容赦の無い平手打ちを喰らわせる。

余りの痛さに今井は背を海老のように仰け反らせる。

まだ始まってたったの3発だというのに、お尻はピンクではなく赤色に染まった。

ビッダァンッ!バアッジィンッ!バッシャーンッ!

「ひゃああん!痛ぁぁいっ!佐々木さん痛いっ!」

今井は両脚をバタ足のように激しくバタつかせて叫んだ。

 「当たり前だろうが。でなきゃお仕置きにならんだろうが」

佐々木は非情な声で切って捨てるように言うと平手を振り下ろす。

ビッダァーンッ!バアッシャァーンッ!バッジィーンッ!

「やあっ!痛いっ!やあっ!」

今井は痛みに耐えかねて佐々木の膝から逃れ出ようとする。

「こら、逃げるんじゃない」

佐々木は今井の腰を引っ掴むと引き戻してお仕置きを再開する。

「やあっ・・!だってぇ・・佐々木さんが悪いんじゃないですかぁ!僕がいるのにあんなオジサンと仲良くするんだからぁ!!佐々木さんの馬鹿っ!浮気者っ!鬼っ!悪魔っ!サドッ!」

今井は佐々木が諸悪の根源だと言わんばかりの表情で睨みつけるとありったけの悪口雑言をぶつける。

 「なるほど・・・それがお前の本音か。よくわかった・・・」

佐々木は静かな声でそう言うと脚を組む。

あっというまに今井はお尻を高く突き上げる体勢になった。

「やっ・・佐々木さんこれやだぁっ!」

途端に今井はパニック状態になる。

この体勢だとお尻が凄く痛いことを経験で知っていたからだ。

だが、佐々木はそのままの体勢で今井を押さえ直すと手を振り下ろした。

 ビッダバアンッ!!バアッジィンッ!!ビッバジィンッ!!

「~~~~~~~っっっっっ!!!!!」

今井は尋常ではない痛さに声も出ない。

バアッジィィィンンンン!!ビッバダァァァァァンンンン!!ババッダァァアアアンン!!

「全く・・自分勝手な気持ちで人を襲うなんてことしおって!!本当に・・・悪い子だっっ!!」

ビッダバァァンンンン!!ババッジィィィィンンンンン!!ダァッバァッジィィン!!

「~~~~~~~っっ!!~~~~~っ!!」

骨まで響くかと思える強烈な痛みに今井は口をパクパクと開けることしか出来なかった。

 「痛っ・・!痛っ!やあっ!痛いっ!佐々木さんっ!痛いっ!」

今井はようやく叫べるようになると言葉と全身で苦痛を訴えるが、佐々木は容赦なく今井のお尻を叩き続ける。

「やだっ・・痛いっ・・佐々木さん痛いよ~~~っ!ごめ・・ごめん・・なさいっ・・ごめん・・なさいっ・・・ごめんなさい~~~!ちゃんとごめんなさいするからぁ~~!も、もう叩かないでぇぇ~~~!」

今井はグスグスとしゃくり上げて必死に佐々木に謝った。

「反省したのか?」

佐々木は今井のお尻に手を振り下ろしながら尋ねる。

「したっ・・したからぁ・・・」

「じゃあ何が悪かったんだ?」

「や・・焼きもち・・妬いて・・人・・怪我させようと・・した・・」

「そうだな。でも、それだけじゃないだろう?」

「え・・その・・わ・・わかん・・ない・・よぉ・・・」

今井は佐々木が何を言っているのかわからず、困惑したように言う。

佐々木は本当に見当がついていないのを見てとると、言い聞かせるような口調で話し始めた。

 「あのな、信幸。もし万が一お前の目論見がうまくいってたらどうなるかわかるか?」

「え・・ええと・・あの・・・」

「人を襲って殴ったりすれば間違いなく警察の厄介になるんだぞ。そんなことになったら俺がどういう気持ちになるか考えたか?それに皆に迷惑かけるだろう?」

「う・・・ごめん・・なさい・・・」

今井はバツの悪い声で謝る。

嫉妬で完全に理性が吹っ飛んでいた為に全く考えていなかったが、人を木刀で襲ったりすればまぎれも無く傷害罪だ。

教会の皆に迷惑がかかってしまうのは間違いない。

「それにお前も河上さんの腕前は見ただろう?下手すればお前もっと大変な目に会ってたかもしれないんだぞ?」

佐々木に言われて今井は思い返す。

あの男に壁に押さえつけられていたとき、河上はまるでその筋の人々のような雰囲気をまとっていたことを。

無意識のうちに今井は身体がガクガクと震えてきた。

「信幸・・・俺はお前が心配なんだよ。だから・・無茶はやめてくれ・・・」

「ご・・ごめんなさい・・心配かけて・・・ごめんなさい・・・」

「ようやくわかってくれたな。いい子だ」

佐々木はそういうと今井の頭を優しく撫でてやった。





 「ねぇ・・・佐々木さぁん・・・」

今井は佐々木の膝の上で抱っこされた状態で呼びかける。

「何だ?」

佐々木は今井を抱きしめてやりながら尋ねる。

「本当に・・・河上さんとはただの知り合い?」

やっぱりどうしても気になるのだろう、今井はそう尋ねてきた。

「そうだよ。あの人とは剣術仲間ってだけだよ。こんなことしたいと思うのは・・信幸、お前だけだよ」

佐々木は今井の顔を振り向かせると唇を重ねる。

「あ・・・佐々木さぁん・・・」

今井は蕩けそうな表情を浮かべると、佐々木の唇を貪ろうとするかのように抱きついた。





 それから二時間ほど後・・・会津若松市郊外。

薄暗い林の中に河上の姿があった。

河上はトボトボと歩いていたかと思うと、やがて立ち止まる。

「へへへへへ・・・待たせちまったかい?」

河上は既にその場へ来ていた男に尋ねる。

 そこにいたのは佐々木を数歳老けさせたような風貌の男だ。

佐々木の兄の只道である。

会津随一の道場『精武館』の館主であり、東北を代表する武道家の一人だった。

「ああ、待ちかねたよ。フフフフ・・・嬉しいなぁ。河上彦斎の末のあんたと立ち会えるなんてなぁ」

佐々木只道は嬉しそうに言う。

河上はただの武道家ではなく、かの河上彦斎の末裔でもあり、祖先の血を見事に継いだのか、西日本でも随一の武道家として知られていた。

二人は今日、ここで立会いの約束を交わしていた。

 「河上さん。今日、ここに来るまで俺がどんな気持ちだったかわかるかい?」

「へっへっへっ。初めて女とスルうぶな若造みてぇな気持ちだったんだろう?わかるぜぇ。俺もあんたと仕合たくてうずうずしてらぁ」

「ああ。女だったら間違いなく濡れてるだろうなぁ」

二人とも心底から嬉しそうに、そして楽しそうに会話する。

武道家にとって互いの死力を尽くしての仕合というのは何よりの喜び。

二人ともこの日を楽しみにしていたのである。

只道は持っていた日本刀の柄を掴むと静かに抜き放つ。

木漏れ日が反射して白刃が宝石のようにきらめいた。

対して、河上も愛用の仕込杖を構える。

「行くぞっっ!!!」

「こっちの台詞だっっ!!!」

二人は同時に叫ぶや地面を蹴り、相手に向かって飛びかかった。

その後、森には鋼と鋼がぶつかり合う音がしばらくの間鳴り響いていた。





 ―完―
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