ダンジュー修道院21 司教の訪問



 バタバタ・・・バタバタバタ・・・。
修道士たちは慌しい様子で動き回っていた。
「違う!そっちだ!そっちに置いて!!」
「それはこっち!!」
「これどこに置くんですか?」
修道士達は部屋の中で互いに声を掛け合い、机や椅子を移動させたりしている。
ようやくのことで部屋の整理が終わったところで、突然ドアが開き、誰かが飛び込んできた。
 飛び込んできたのはチサト。
「あれぇ?チサちゃんどうしたの?そんなに慌てて?」
部屋での作業に駆り出されていたラウールが怪訝な表情で尋ねると、チサトが口を開いた。
「来ました!来たんです!」
「え?もう来たの!?」
ラウールの問いにチサトは頷くとすぐに口を開く。
「はい!皆さん早くお出迎えするようにって院長様が!!さあ早く来てください!!」
チサトに促され、全員慌しく部屋を後にすると急いで庭へ向かった。
 チサトたちが慌てた様子でやってくると、修道士たちが緊張した面持ちできちんと整列している。
その様子は誰かを待ち構えているようだった。
チサトたちはすぐにも端の方に並ぶ。
同時に門の方から何か音が聞えてきた。


 聞えてくるのは車がゆっくりと走る音。
音が近づくにつれ、門から車がゆっくりと姿を現した。
現れた車は黒塗りの高級車。
政治家や大実業家のような社会的地位の高い人物のものであろうことは容易に想像できた。
 やがて、高級車が止まったかと思うとゆっくりとドアが開き、ボディーガードと思しきスーツ姿の体格のよい男性が現れる。
スーツの男は周りを確認してドアの取っ手を持つと、その後から一人の人物が姿を現した。
 現れたのは40代くらい、大黒様や恵比寿様さながらのふくよかな顔つきと体格をした中年男性。
格好はカトリックの聖職者のものだが、生地やデザインは通常の神父のものよりもずっとよいものを使っており、地位の高さを伺わせた。
 でっぷりと太った聖職者が姿を現すとディゴミエ院長が進み出て丁重に挨拶をする。
「ようこそいらっしゃいました。ドーブレック司教殿。歓迎いたします」
「ほっほっほっ。これはディゴミエ院長殿、ご挨拶痛み入りますな」
ドーブレック司教と呼ばれた人物は笑うと挨拶を返した。
 太った聖職者の名はドーブレック。
この地方の中心都市であるマクマオン市の司教だ。
 司教とはカトリックの高位聖職者の一つで、司祭(いわゆる神父)の上に位置し、司教区の監督や神父の叙階などを行う。
ダンジュー市(修道院)はマクマオン司教区に属する教区のため、市内の教会・修道院はマクマオン市の司教の監督下にあった。
今回は査察も兼ねて修道院を訪問していた。
 「それでは、院をご案内いたします」
「では、頼みますかの」
案内役の中年の修道士に先導される形で司教は建物の中へ入っていった。


 「ほうほう・・・・。皆さん熱心ですな」
ドーブレック司教は中年修道士に案内され、修道士たちの務めを視察していた。
今は労働の時間のため、修道士たちの仕事場を回っている。
今見ているのは土産用の数珠や小像の作業場。
数人の修道士が小刀やノミで木を削っている様子をジッと見ていた。
「他の作業をしている修道士たちもいますが、ご覧になられますか?」
案内役の修道士がそう尋ねた。
「そうですなぁ。他には今日はどんな作業を?」
「ブドウ畑の方での農作業をやっております。ご覧になられますか?」
「ほほう。野良仕事ですか。それはよろしい。早速拝見させていただきましょう」
修道士は司教の答えを聞くと再び先に立って司教を外へ案内していった。


 パチン・・・パチンパチンパチン。
農作業用のハサミが鳴る音と共にぶどうが切り取られ、修道士が背中に背負った籠の中へ放り込まれていく。
「ふぅ・・・・」
チサトは額に浮かぶ汗を袖で拭くと黙々とブドウの収穫していく。
 「あ~~。肩痛い~。手も首も痛いよ~」
その隣ではラウールが首や肩を回している。
どうやら野良仕事にすっかり根を上げてしまったようだ。
「ラウールさん、もう少しで終わりなんですから~。我慢しましょう」
チサトは愚痴を言うラウールを思わずたしなめる。
「そんなこと言ったって疲れたんだよ~。チサちゃぁ~ん」
「こら!油売ってるんじゃねぇ!!」
不意に背後からバルバロッサがハッパをかけるかのように声をかけてきた。
思わずラウールは飛び上がりそうになる。
「ったく・・・ちょっと目を離しゃあすぐにサボろうとしやがって・・」
「あ・・あはは・・やだなぁ・・冗談ですよぉ」
ラウールは誤魔化すような笑みを浮かべたかと思うと慌てて収穫作業に戻っていった。
その間にもチサトは黙々と葡萄を摘み取っては背中の籠に入れてゆく。
真面目に作業しているせいか、ラウールがまだ籠が満杯にならないうちにチサトの籠は一杯になった。
 「バルバロッサさ~ん」
「あ?何や?」
「籠が一杯になったんで作業場の方へ持って行きますね」
「ああ。足元気をつけろよ?」
「わかってますってば。行ってきます」
チサトはそういうと院の建物に向かって歩き始めた。
 作業場というのはジャムなどを作るための場所だ。
この修道院では観光客や参拝者を相手にジャムやハムなどを制作・販売して運営資金の捻出に充てていることは以前にも述べた。
そのため、ジャム作りを行うための作業場が設けられているのである。
 ヒョコヒョコと籠を背負ったままチサトが曲がりくねった狭い道を歩いている。
籠が非常に大きく、年頃の子としては華奢でやや小柄な体格のせいか、後ろから見ると籠に足が生えて歩いているかのようだった。
チサトは籠の荷物が重いのかやや俯いた体勢で運んでいる。
しかも、ブドウを作業場へ持っていくことで頭が一杯になっていたせいか、前をよく見ていなかった。
もし、前をしっかりと見ていたのならば、司教と案内役がやって来るのが見えただろう。
 ドンッッ。
(え?)
チサトは目の前に突然、黒い壁が現れ、一瞬目をパチクリさせる。
何だと思って顔をあげようとしたそのとき、石に思い切り躓いてしまった。
「きゃあっ!」
悲鳴と同時にチサトは見事なまでに顔から地面に突っ込むようにして転んでしまう。
「痛たたた・・・。またやっちゃった・・・」
チサトは土で汚れた鼻をさすりながら思わず呟く。
だが、目の前を見ると同時に思わず硬直した。
 チサトの目の前には司教の案内役をしている中年の修道士が立っている。
その修道士の肩や頭にはブドウがのっかり、足元にもブドウが転がっていた。
「わぁぁぁっっ!!!ベールさん、大丈夫ですか!?」
慌ててチサトは修道士に駆け寄ると助け起こそうとする。
「わ・・私のことはいいから・・それより司教様を・・」
「わ・・・は、はいっ!!」
チサトはそう言われてようやく司教も巻き添えを食って倒れてしまっていたことに気付いた。
 チサトは急いで司教を助け起こそうとする。
だがそのとき服を掴んで思い切り引っ張ったせいか、ビリッという嫌な音が聞えた。
「あ・・・っ」
ハッとしたチサトや司教がチサトの手を見やると、司教の僧衣が肩口のあたりから破けてしまっていた。
また失敗を仕出かしてしまったことにチサトは顔を真っ青にし、さらに動揺してパニック状態に陥ってしまう。
「わぁぁぁ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」
ごめんなさいを連呼するや、チサトは必死になって頭を下げる。
だが、それにより背負った籠の縁が思い切り司教の顔面に叩きつけられた。
「あ・・・っ・・」
衝撃で司教は目から火花が出たかと思うとそのまま昏倒してしまう。
急激に身体を下げた衝撃で籠の中に残っていたブドウが飛び出し、地面に延びてしまった司教の顔や胸に思い切り落下した。


 ドキン・・・ドキンドキンドキン・・・。
自分の心臓の音が聞えるほど完全に静まり返った懺悔室の中、チサトは石像にでもなったかのように、一ミリも身体を動かさず、聖母マリア像の前に跪いていた。
 あの後、大変な騒ぎになってしまい、ブドウ畑から他の修道士達が慌てて駆けつけてきたのだ。
そして急いでブドウまみれになった司教を担架に載せて修道院へ担ぎ込んだのである。
 チサトの方はといえば、いつもの通りバルバロッサの言いつけで懺悔室へ直行というわけだ。
ジッと懺悔の祈りを捧げているチサトの耳に小さな音が聞えてきた。
音はこちらへゆっくりと近づいてくる。
足音だ。
足音が近づいてくるたびにチサトの身体に僅かだが震えが走る。
やがて、木の軋む音と共に扉が開いたかと思うと誰かが入ってきた。
 「ちゃんとお祈りしとったようやな。ええ子や」
バルバロッサはチサトが神妙に懺悔の祈りをしているのを見るとそう言った。
バルバロッサはゆっくりとチサトに近づくと起き上がるように促す。
チサトはゆっくりと起き上がるが、その表情にはこれから待っていることへの恐怖がありありと浮かんでいた。
 「さぁてと・・。チサト、自分が何やったかわかっとるな?」
「は・・はぃ・・・」
「そんじゃあ、わかるな?」
バルバロッサはおもむろに椅子に座ると膝を指し示した。
チサトはコクリと頷くとゆっくりと立ち上がる。
そして震えながらもバルバロッサの元へやって来ると膝の上にうつ伏せになった。
 「ええ子や。じゃが、手加減はせえへんからな」
バルバロッサはそういうとチサトの修道服を捲り上げ、手馴れた手つきでズボンを降ろす。
あっという間にチサトの小ぶりなお尻があらわになった。
 お尻に外気が触れると同時にチサトはバルバロッサの裾を両手でギュッと握り締め、目をつぶる。
背中に圧迫感を感じ、チサトはバルバロッサが片手で押さえつけたことを覚る。
「じゃあ・・行くで」
バルバロッサはそういうと右手にハァ~ッと息を吹きかけ、手を高々と振り上げた。


 バシィンッ!
「あ・・・っっ!!!」
バルバロッサの平手が思い切り叩きつけられ、チサトは思わず声を上げる。
鈍い痛みを感じたかと思うと、お尻全体にジ~ンと痛みが広がってゆく。
だが、間髪入れずに平手が立て続けに落ちてきた。
 バシィン!バアンッ!バチン!ビタァン!バアチィン!
「あ・・うっ・・ひゃ・・う・・くぅ・・っ」
チサトは両手でギュッとバルバロッサの裾を握り締め、声を押し殺して耐えようとする。
「全く・・いつもいつも言ってるだろうが・・・。よく周りを見ろってな・・」
バルバロッサはチサトのお尻を叩きながらお説教を始める。
「ごめん・・なさいっ・・ごめん・・なさいっ・・」
チサトは苦しげな表情を浮かべながら謝る。
バシィンッ!ビタァンッ!バアンッ!ビシャアンッ!バチィンッ!
「それなのに・・・またやっちまって・・・」
ビタァアンッ!バッチィンッ!ビッタンッ!ビバシィンッ!
「ひっ・・!くっ・・!はっ・・!ひゃっ・・・!」
ビバシャアンッ!バアッチィン!ビッタアンッ!バシィンッ!
「それも・・司教様に・・!」
「ひっ・・!うっ・・!ひゃ・・っ!ひゃあ・・っ!」
お尻を叩かれているうちにチサトの声のトーンが変わってきた。
同時に表情も変わり、耐え切れなくなった様子が見えてくる。
バシィンッ!バアンッ!バチンッ!バアンッ!ビシャアンッ!
「きゃあ!ひゃあっ!ひゃあんっ!ひんっ!ひいんっ!」
チサトの声はお仕置きに耐え抜こうとするものから、完全な悲鳴へと変わった。
「あれでもし怪我させてたらどうするつもりだったんだ。全く、えらいことになるかもしれなかったんやぞ」
バルバロッサは言い聞かせるようにしながらお尻を叩き続ける。
「ひゃあんっ!ひいんっ!きゃあ!ああんっ!ごめん・・なさいっ!ごめんなさいっ!」
悲鳴を上げながらもチサトは謝り続ける。
「反省したのか?」
お尻を叩きながらバルバロッサは尋ねる。
「してます・・ごめん・・なさいっ・・・」
「なら、何が悪かったか言ってみな?」
パシィン!パアンッ!パチン!ピシャン!パアシィンッ!
お尻を叩く力をやや弱めるとバルバロッサはそう促した。
 「何度も・・気をつけろって・・注意されてるのに・・・また・・やったこと・・・」
パシィン!パアンッ!ピシャアンッ!パチンッ!
「そうやな。それから?」
「人に・・怪我させそうに・・なった・・こと・・」
「そうや。でも、まだあるやろ?」
バルバロッサはそう尋ねる。
 「え・・ええと・・あれ・・?」
チサトはあと何が悪かったのか必死に思い出そうとするが、中々思い出せない。
バシィンッ!バアンッ!バンバァンッ!バチィンッ!
「ひゃ・・きゃあっ!」
お尻を叩く力が強まったせいか、チサトは思わず逃げようとする。
「こら。逃げたら駄目やろが」
バルバロッサは叱るように言うとチサトを引き戻す。
 「ご・・ごめん・・なさい・・。で・・でも・・わからないです・・」
チサトは謝るものの他に怒られる理由がわからず、困惑する。
「まぁちぃとわかりにくいかもしれへんな。今日は」
バルバロッサはそういうとお尻を叩く手を止め、言い聞かせるような口調で話し始めた。
 「チサト・・・お前さん・・今日、偉い人に粗相しおったんはわかるな?」
「は・・はぃ・・・」
「人に粗相してまうのはよくないことやが、特に相手がお偉いさんやとやっかいなことになる。そりゃあわかってるか?」
「あ・・・っ・・」
言われてチサトはようやく気付いた。
司教というのはそれなりの地位や権力がある。
だからうっかりヘソを曲げられたりすると色々と困ったことになる可能性もあったのだ。
「ご・・ごめん・・なさい・・。僕の・・せいで・・皆に迷惑・・かかるような・・ことに・・なるかもしれな・・かったのに・・」
思わず最悪の事態を想像してしまったのか、チサトはガクガクと震えだす。
「まぁそれもあるわな。んだが、それよりもお前がどうなるかの方が心配だったんや。幸い司教様は許して下はったんやけどな」
バルバロッサは心底安堵したように言う。
「んじゃが、それまで俺も心配やった。わかるな?」
バルバロッサの問いにチサトは黙って頷く。
「よし・・ええ子や。それなら、最後に10回、我慢できるか?」
チサトが再び頷くとバルバロッサは手を振り上げた。


 バアシィンッ!バアンッ!ビッタアンッ!
「ごめんなさいっ!ごめん・・なさいっ!ごめん・・なさいっ!」
ビッシャアアンッ!バアッチィィンン!バアアアンンン!!!
「皆に・・迷惑・・かけて・・心配・・かけて・・」
ビッタアアアンン!!バアッシィンッ!ビバチィンッ!バアシィィン!!
「本当に・・ごめん・・なさいっ!きゃあんっ!ひゃあんっ!ひぃんっ!」
最後の悲鳴と共に平手が止まる。
同時にバルバロッサがチサトを抱き起こすと膝の上に座らせ、抱きしめた。
 「よしよし。よく我慢出来たなぁ。ええ子や」
バルバロッサはチサトを抱きしめると背中を軽く叩き、頭を撫でてやる。
「バルバロッサさぁん・・心配かけて・・ごめんなさい・・」
「いいんや。わかってくれれば」
バルバロッサはチサトを包み込むように抱きしめる。
チサトはバルバロッサの胸板の温かさに安らかな表情を浮かべるとそのまま寝入ってしまった。
 「尻叩かれたんで疲れたか。まあしゃあないわな」
バルバロッサは恐ろしげな風貌からは想像できない優しい目を向けると、そのままチサトを抱きしめていた。


 ―完―
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