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ダンジュー修道院22 闇からの声



  「ふぅぅぅ・・・寒い・・・」
チサトは思わず震えながら廊下を歩いていた。
夜中にもよおして目が覚めたので用を足してきたところだったのだ。
冬でしかも夜中というわけで寒さが身に染みる。
早く部屋に帰って布団に入りたいと思うのは自然な感情だった。
 部屋に帰るとチサトはすぐにもベッドに潜ろうとする。
そのとき、ふと窓の外を何かがチラリと横切った。
(何だろう?)
思わずチサトは窓の外を覗いてみる。
すると透き通ったような奇妙なものが外を走り回っている。
よく見るとそれは人間に似ていた。
だが、生気が無く鏡に映った像のように実体感が無い。
見たことは無いもののチサトの頭には「幽霊」という言葉が浮かんだ。
その想像にチサトは一瞬、背筋に寒気が走る。
 だが、やがてその奇妙な人物は立ち止まるとギクリという表情を浮かべた。
「か・・勘弁してくれ!!勘弁してくれ!!」
突然、声が聞えてきた。
心底からの恐怖に打ち震える声だ。
その声に潜む恐怖に理由はわからないながらもチサトもゾッとする。
釘付けになったようにチサトが窓に張り付いて外の様子を見ていると今度はどこからともなく鉄鎖が飛んできて妖しい人物を捕らえるや引き倒してしまう。
「手こずらせやがって・・・」
舌打ちと共に闇の中から何かがノッシノッシと現れた。
 現れたものをみるやチサトはギクリとする。
それは2mはあろう屈強な大男で、肌は緑色で何と全身に目があった。
百目男とでもいうべき怪物は鎖を引っ張ると謎の人物を無理矢理立たせる。
「逃げ出そうとはいい度胸だな。俺らが逃がすとでも思ってるのか?」
「か・・勘弁してくれぇ!!も、もうあんなところには戻りたくねぇぇぇ!!!」
「うるせぇ。貴様はまだ五百年もお勤めが残ってるんだ!!逃がしてたまるか!!」
百目男はそういうと地面に再び捕まえた者を引き倒して引きずるようにして連行してゆく。
捕らわれた者は必死の様相で逃げようとするがそのたびに怪物に締め上げられていた。


 「チサちゃん、チサちゃん。どうしたのさ?」
ラウールに声をかけられるや、慌ててチサトは我に返った。
「な、何ですか、ラウールさん?用ですか?」
「いや、別に用ってわけじゃないんだけど、ボーっとしてるからさぁ」
「あ・・すいません。ちょっと寝不足で・・」
「寝不足?珍しいねぇチサちゃんが」
「え・・えぇ・・ちょっと・・・」
チサトは何とか誤魔化して観光客用のおみやげ品製作の作業に戻るが、心は数日前の異様な光景を思い浮かべていた。
あまりにも現実のものとは思えない異様な光景だった。
夢だと疑ったのも一度や二度ではない。
だが、夢にしてはあまりにも生々しすぎる光景であった。
(って変なこと考えてる場合じゃないよ。仕事しなきゃ!)
強いて意識を仕事へ振り向けようとするが、どうしてもこの間の光景が気になってしまい、仕事に集中できなかった。


 「ううん・・・・」
その夜は寝苦しくて中々寝付けず、チサトは眠れなかった。
(困ったなぁ・・・)
寝たいのに中々寝れないというのは精神的に落ち着かない。
寝ようとすると却って寝れなくなりさらに落ち着かなくなる、というように悪循環に陥ってしまっている。
(ちょっと・・・夜風にでも当たってこようかな・・・)
チサトはそう考えるとベッドから抜け出して中庭へ向かった。
 「わぁ・・・綺麗・・・」
夜空に広がる星空を見つめながら思わずチサトは感嘆の声を漏らした。
山の中にある関係か修道院の庭から見る夜空は美しかった。
自然の光景の美しさにチサトは思わずうっとりする。
 そのとき、奇妙なことが起こった。
夜空を何か長いものがクネクネと曲がりながら横切っているのだ。
(何だろう・・・?飛行機かな?)
そう思って眺めているとそれがどんどん地上へ降りてくる。
やがて修道院に近づいた頃には鐘楼にあと少しで触れてしまいそうな高度になった。
 (え!?)
チサトは空に浮かんでいるものを見るや、我が目を疑った。
空を横切っているのは何十人という人間だ。
その人間たちはいずれも死人のような青ざめた肌をしている。
全員が首や手足に鉄輪をかけられて鎖で数珠つなぎにされていた。
列の先頭を見やるや、チサトはさらにギョッとする。
先頭には数日前に見た百目男が二人歩いていたからだ。
さらによく見ると列の左右にも何かが飛んでいる。
飛んでいるのは頭に角が生え、背中からは蝙蝠の羽が、腰からは逆トゲ付きの尻尾が生えた人に似た奇妙な生き物たち。
その人もどきたちは全員剣や槍を身につけており、行列から逃亡者が出ないようにしっかりと見張っている。
誰かが列からはみ出たり逃げ出そうとしたりすると持っている武器で容赦なく殴ったりするのである。
チサトがあっけにとられている中、謎の行列は森の方へ向かっていった。
 (な・・何だろう・・あれ?)
突然現れた奇妙な行列にチサトは驚きを隠せない。
あまりにも驚いていたせいか、無意識のうちにチサトは歩き出し空中を行く奇妙な行列を追いかけていた。
 チサトがゆっくりとあとをつけていると奇妙な行列は森の中へ入ってゆく。
森の中を進んでいってしばらくすると直径が2mは優にある巨木の前にたどり着いた。
百目男たちはその巨木の前に立つと木の幹に触れる。
五回ノックをするようにトントンと叩いたかと思うとアーチ型の穴が幹に出来た。
穴が幹に出来るや、怪物たちは青白い人間たちを中へ通す。
全員が潜り抜けると穴は消え、普通の木の幹に戻った。
 「嘘・・・・・」
チサトは目の前で起こったことに目をパチクリさせる。
思わず近寄って木をじっくりと調べてみたが、どこにも出入り口など無い。
(そんな・・・さっきまではあったのに・・・)
夢を見ているのではないかと疑い、自分の頬をつねってみるが確かに痛い。
現実なのは間違いなかった。
 (どうやって・・・開けるんだろう?)
チサトは謎を解こうとジッと考え込む。
そのとき、ふと百目のお化けが五回ノックをするように幹を叩いていたことを思いだした。
 (もしかして・・・)
確かめるようにチサトは五回ノックをするように幹を叩く。
するとアーチ型の洞が幹にぽっかりと空いた。
「うわ・・・・・」
目の前で起こった不思議な現象に思わずチサトはキョトンとなる。
そのとき、突然中から風が吹いてきた。
 「あ・・・っっ!!!」
チサトは自身の身体を抱えるや両膝をついて地面に座り込みガクガクと震える。
その風に触れるや強烈な悪寒と恐怖に駆られたのだ。
チサトはドキドキしながら洞の闇を見つめる。
何か恐ろしいものが潜んでいるように思えた。
(このまま帰った方がいい!!)
本能がそう告げていた。
実際、チサトは帰ってしまいたくなる。
だが、そのとき百目男に追いかけられる男の姿がフラッシュバックしてきた。
あの男は心底からの恐怖に捕らわれていた。
もしかしたらあの男はここにいるのかもしれない。
(あの人は・・・恐怖と絶望の虜になっていた・・)
もしかしたらこの奥では何かとてつもなく恐ろしいことが行われているのかもしれない。
そのためにここから逃げ出してきたのかもしれない。
(何が・・・ここで起きてるのか・・見届けなきゃ・・)
自分ひとりで出来ることなどたかが知れている。
あまりにも危険なことを自分がしようとしていることは本能が告げていた。
だが、それでも行かなければいけないとチサトは感じていた。
人を助けることは神の道を歩む人間にとっては何よりの義務なのだから。
緊張に身を震わせながらチサトは恐る恐る洞を潜り抜けていった。


 (何か・・・不気味だなぁ・・・)
チサトはひたすら道を進みながらそんなことを感じていた。
信じられないことに洞の向こうには石造りの廊下が続いていた。
一流の大修道院や大聖堂にも負けない素晴らしいつくりであったが、それらの壁や床には恐ろしい拷問や虐殺の場面ばかりが描かれていた。
見るだけで背筋が寒くなり恐怖心を増す絵画ばかりを見せ付けられチサトは進むのが怖くなってくる。
だが、チサトは勇気を振り絞って進んでゆく。
 「あっち!あっちあっちあちあちちちちち~~~~~~!!!」
不意に叫び声が聞えてきた。
チサトはハッとして声の聞えてきた方を振り向く。
すると数メートル先の左の壁に四角い出入り口があった。
チサトは恐る恐る近づくとゴクリと息を飲みながら慎重に出入り口をくぐった。
 出入り口を通り抜けると熱風が吹きつけてきた。
(うわ・・・暑い・・)
チサトはその蒸すような暑さに思わず額を拭う。
どうやらもっと奥に何かがあるらしい。
チサトは恐る恐る歩きながら進んでゆく。
 進んでゆくとやがて広い空間に出た。
周囲を見渡すやチサトはアッと声をあげそうになる。
あたり一面には真っ赤な池が広がっており、その池はまるで鍋の中身のようにグツグツと煮えたぎっているのだ。
池は相当に熱いらしく吹き上がる蒸気が顔に触れるだけで汗がダクダク出てくる。
(こんな・・ところが・・・山の中に・・?)
チサトは声も出ない。
あたりを見回しているうちにチサトは煮えたぎる音と共に叫び声のようなものを聞きつけた。
チサトがハッとして池のある場所を見つめると、岸に向かって泳いでいる数人の男女がいる。
彼らはこの煮えたぎった赤い池から逃れようとするように池から這い出そうとする。
だが、彼らが岸辺にたどり着こうとしたそのとき、馬蹄の響きのようなものが響いてきた。
 何だと思ってチサトが見てみると、馬に似ているが足が六本あり、顔は肉食恐竜に似た奇妙な怪物にまたがった、背中に羽の生えた男たちがやって来る。
羽の生えた男達は持っている弓矢を構えると、容赦なく沼を出ようとする男女に向かって矢を射かけた。
たちまちのうちに全員射倒され、池の中へドバドバと倒れこんだ。
それでも倒されきれなかったものが岸にたどり着くと何としても逃げ延びようとする。
だが、今度は別の一団が現れて棍棒などで滅多やたらに叩きのめすと池の中へ容赦なく放り込んだ。
全員が池の中へ戻されると異形の一団は再び岸辺から去っていった。
 (ひ・・ひどい・・・)
チサトは苦痛から逃れようとした者たちが異様な者たちにひどい目に会わされて池の中へ戻されてしまうのを見るやかわいそうになる。
(それにしても・・あの人たちは一体何なんだろう?)
チサトは大きな疑問に駆られた。
チサトはふとあたりを見回す。
すると幸いなことに岸辺へ通じる石製の階段が見つかった。
 チサトはあたりに誰もいないことを確かめると見つからないように慎重に降りてゆく。
だが、あまりにも緊張していたためか、背後で何かが動いていることに気付いていなかった。
 突然背後から何かがおぶさりかかってきた。
それは異様なまでに冷たく、チサトは氷にでも乗りかかられたような感触を覚える。
強力な力で背後の相手はチサトをしっかりと捕らえたかと思うと物影へ引きずり込んだ。
 物陰に引きずり込まれるやチサトは床に倒されて強い力で押さえつけられる。
同時に相手が倒れたチサトへ思い切り圧し掛かった。
相手の顔が間近に迫り、嫌でもその姿が目に映る。
チサトのエメラルドのような瞳に映し出されたのは真っ青な肌をした生気のない男。
顔には大きな傷があり、その服装などからヤクザか何かと推察できた。
 ヤクザらしい男はチサトを引き倒すや、逆手にナイフを握って振り下ろそうとする。
だが直後、男の顔に驚きが走った。
「おい・・おい・・おめぇ・・・」
ヤクザらしい男は手を止めると押さえつけたままチサトに話しかける。
「な・・何ですか・・?」
チサトは恐ろしさに声を震わせながらも勇気を振り絞って尋ねた。
「おめぇ・・生きた人間だな?」
「そ・・・そうですけど・・?」
「それもただの人間じゃねえな。神父か修道士だろ?」
「は・・はぃ・・・」
「そうか」
ヤクザらしい男はそういうと手を離してやる。
チサトはようやく息が楽になるとホッとした表情を浮かべた。
何度も深呼吸を繰り返してチサトはようやく落ち着く。
 「すまなかったな。てっきり看守どもと間違えちまったぜ」
ヤクザ者はそういうとチサトに謝った。
「いえ・・別にいいんですよ・・・」
チサトはヤクザ者が謝ると慌ててそう言う。
「あの・・ところで・・あなたはどなたなんです?」
チサトは落ち着くと頭に浮かんだ疑問を口に出した。
 「人にものを尋ねるときにはまず自分からじゃねえかい。修道士さんよ?」
「あ・・ごめんなさい。僕、ダンジュー修道院で見習い修道士をしてるチサトと申します」
「やっぱりダンジューの修道士さんかい。俺はベンヴォーリオ。3年ほど前までは南仏でシチリア系マフィアの組員をやってたもんだ」
「やってた・・?」
その言葉にチサトは疑問を覚える。
「へへへ。死んだのよ。チャイニーズマフィアとの出入りでな」
「え・・・!?」
チサトはベンヴォーリオの言葉に声を上げかける。
「じゃ・・じゃあ・・もしかして・・その・・幽霊ですか?」
チサトは恐る恐る尋ねた。
「まぁそんなもんだろうなぁ」
ベンヴォーリオは事も無げにそういう。
「嘘・・・信じられない・・・」
チサトは驚きの余りそんな言葉を漏らす。
だが、現に目の前に幽霊がいた。
だから信じないわけにはいかなかった。
 「まあ普通は信じられないだろうなぁ」
「あ・・ごめんなさい・・。でも・・何でこんなところにいらっしゃるんですか?」
チサトはまた疑問を口に出した。
「簡単なことさ。俺たちはお勤めをしてんのよ」
「お勤め?」
「地獄は知ってるよな?」
「ええ・・・。聖書とかで読んだくらいですけど・・・」
「ここは地獄の一つだ。この地上にはお前さん達生きた人間は知らんが、悪魔どもがあっちこっちに地獄を造ってやがるのさ。俺みたいな悪党がくたばるとなぁ、それぞれその悪党がくたばった場所を縄張りにしてる悪魔やその子分たちがやってきて魂を掻っ攫ってくのよ。そして、そいつの悪行に応じて色んな責めをするわけだ。俺の場合あの煮えたぎった血の池での責めを600年って判決よ」
「600年・・・」
チサトは思わず想像してしまう。
さっき見た血の池地獄は熱くて苦しいなどというものではないだろう。
あんなところに600年もいるなんて、自分だったら泣いてしまうだろう。
「それじゃ・・・逃げたくなったりしません・・?」
「そりゃあそうだ。現に今まで何千人と逃げようとしたが・・・悪魔どもだって馬鹿じゃねえやな。どこまでも追いかけて連れ戻しやがる。奴らは足抜け女郎を追っかけるヤクザより恐ろしいぜ」
そういうとベンヴォーリオはブルブルと震える。
 「だ、大丈夫ですか?」
チサトは恐怖に震えるベンヴォーリオを母親が赤ん坊を抱きしめるように優しく抱きしめる。
幽霊の氷のような体温が身に染みるが、それでもギュッと抱きしめてやる。
「おめぇさん・・・俺が恐ろしくねえのか?」
思わずベンヴォーリオが尋ねた。
「本当言うと・・とっても・・怖いです。でも・・・恐ろしさに震えてるあなたをみてると・・・何とかしなきゃ・・そう思って・・・こんなことくらいしか出来ないですけど・・」
「おめぇさん・・・いいやつだなぁ・・・」
「あの・・・何か・・他に僕に出来ること・・ありませんか?。少しでも・・あなたや・・ここの他の人たちに・・・役に立てれば・・・」
「そうか。ありがてえ話だなぁ。じゃあ一つだけ頼んでもいいか?」
「はい。僕に出来ることでしたら」
「修道院に帰ったら祈りを捧げて欲しいのよ」
「そんなことでいいんですか?」
チサトは余りにも簡単なことだったのであっけにとられる。
 「ああ。実はなぁ、俺らのお勤めを短くする方法が一つあってよぉ。それはな、お前さんみたいな修道士や神父に慰霊の祈りやミサをやってもらうことなのよ。お前さん達修道士に祈ってもらうと神様が俺たちのお勤めを短くしてくれるんだ。お前さんも修道士なら多分クリュニーの名前は聞いたことあっだろ?昔はそこの坊さん達のおかげで大勢の悪党の魂が救われたのよ」
 クリュニーとは有名な修道院の名だ。
この修道院は改革運動などで歴史学の世界に名高い修道院だが、中世人にとっては供養や慰霊のご利益のある修道院として知られていた。
どういうことかというと、クリュニー修道院では王侯貴族の求めに応じて彼らの父祖の供養などを祈祷によって祈っていた。
実際、クリュニーが自分たちの修道院のご利益を宣伝する意図で書いた本にはクリュニーの修道士の祈りやミサのおかげで罪人の魂が救われて成仏したという内容の話が残っている。
このように、クリュニーをはじめとする各地の修道院では修道士達が死者の供養を祈り、その祈りのおかげで多くの罪人の魂が成仏したり罪を軽減してもらうということが行われ、そういう行為を題材とした伝説なども記録されていた。
 「わかりました。それじゃあ・・・ここの人たちのために祈ればいいんですね?」
「ああ・・。虫のいい話だが・・・頼む・・・。お前さん達しか頼れる連中はいねえのよ。へへへ・・それにしても皮肉なもんだぜ。生きてるうちはあんたたち坊さんのことを馬鹿にしきってやがったのに・・その坊さんに助けを頼むなんてな」
かつての自身を思いだしたのか、マフィアの亡霊は自嘲するように笑う。
「さぁ。お前さん、早く修道院に戻りな。悪魔どもに見つかるとヤバイぜ」
「あ・・あなたは?」
「へへ。実を言うと最初は脱走しようと思ってたが・・やめたよ。俺もひとかどのマフィアとして現世じゃならした男だ。大人しくお勤めに励むさ。さぁ、早くいきねえ!!」
ベンヴォーリオは再びチサトを急きたてる。
チサトは心配そうにベンヴォーリオの顔を見返すが、ここにいても自分にはどうにも出来ないことをわかっているからか、すまなそうな表情で階段を駆け上がっていった。


 「うわっ!」
出入り口から飛び出すなりチサトは何かに思い切りぶつかった。
「な・・何・・・?」
思わず鼻先をこすりながらチサトは目の前に立ちはだかっているものを見やる。
見るなり、チサトは硬直した。
チサトの目の前に立っているのは角や羽が生えた男。
悪魔だ。
 「あ・・・・・」
チサトは悪魔の姿を見るや、思わず声をあげそうになる。
「貴様・・・生きた人間かっっ!!!」
悪魔はチサトの姿を見るや思わず叫ぶ。
チサトはハッとするや急いで逃げ出した。
「曲者だぁぁ~~~~~!!!生きた人間が忍び込んだぞ~~~~!!!!」
悪魔はほら穴中に響き渡りそうなほどの大声で叫ぶや、チサトを追いかけた。


 「ハァ・・・ハァハァハァハァハァ・・・・」
木の洞から飛び出すや修道院目がけてチサトは必死に走る。
背後からは悪魔が血相を変えて必死に追いかけてくる。
チサトは全速力で走るものの、悪魔の方が体力があるせいかグングンと差が縮まる。
ついには悪魔はチサトに飛びかかったかと思うとそのままチサトを地面に押し倒した。
 「太えガキだっ!!悪魔の仕事場に潜り込もうとはな!!」
チサトを捕らえた悪魔はチサトの襟首を掴むや持ち上げる。
「ご・・ごめんなさい・・・」
チサトは許してもらおうと謝るが、悪魔は怒りに燃えている。
「不埒な人間はぶっ殺してやる・・・」
そういうと悪魔は左手を離すと左手の爪を伸ばす。
(ごめんなさい・・・お祈り・・・してあげられないです・・)
チサトは死を覚悟すると目を閉じる。
そして悪魔が爪を振り下ろすのを待った。
 「ぎゃあっ!!」
突然、悪魔が悲鳴を上げた。
何だと思ったチサトは恐る恐る目をあける。
目を開くやチサトはアッと驚いた。
悪魔は脳天に弾痕のような穴を空けて地面に倒れて息絶えていた。
 (な・・何が起こったの?)
チサトは恐る恐る倒れた悪魔を覗き込む。
突然、悪魔の身体がボッと燃え出した。
悪魔の身体は骨だけになったかと思うと骨も崩れさって灰になってしまう。
チサトがあっけに取られている間にそこには白い煙と灰だけが残っていた。
ようやくのことで我にかえるやチサトは慌てて立ち上がり、修道院に向かって一目散に走り出した。


 (やれやれ・・・全く手のかかる見習い修道士だな・・・)
数メートル先の巨木の太枝の上にまたがっていたその男はそう呟いた。
男はドイツ系と思しき白人男性で、フランス軍外人部隊の象徴である外套と白い軍帽を身につけ、狙撃銃を手にしている。
そして背中には白い翼が生えていた。
 彼は天使だ。
元々は普通の人間だったが死後天国に行った後天使となったのである。
現世に於いて仏軍外人部隊の狙撃兵として活動していたその実績を買われ、悪魔や悪霊などから修道院を守る番人としての役目を果たす部署に配置された。
配置先で彼はここダンジュー修道院が任地と決まり、日頃悪魔たちが修道士に悪さを働いたりしないように守っているのである。
先程も悪魔がチサトに手を出そうとしたため、自慢の狙撃銃で仕留めたというわけだ。
 (さてと・・・そろそろ見回りの時間だな・・)
天使はそう呟くと羽根を羽ばたかせて木から飛び上がる。
そして修道院に悪さを働く悪魔がいないかを確かめるように上空を旋回し始めた。


 その日の午前、チサトは礼拝堂の脇にある小祭壇の前で祈りを捧げていた。
(神様・・。お願いです。昨日の夜、僕が会った人たちの罪を許してあげて下さい。軽くしてあげて下さい。どうかお願いします)
チサトはベンヴォーリオの顔を思い浮かべ、また血の池から逃れようとした囚人たちの姿を思い浮かべる。
彼らのためにチサトは一生懸命に祈った。
祈りを捧げるとチサトは身を起こす。
そして彼らの成仏を願って詩篇の一節をうたった。


 その日の夜・・・ダンジュー山内の地獄。
「うぅ・・・熱い・・・・」
ベンヴォーリオは首まで浸からされ、熱さに悶えていた。
他にも何百人という罪人達が同じように地の池地獄に浸からされ、煮豆のようにグツグツと煮られている。
ゆでだこのようになりながらふとベンヴォーリオが天井を見上げたときだった。
 「あん?」
ベンヴォーリオははるか頭上の天井に異変が起こっていることを感じた。
天井にピシピシと亀裂が入っているのだ。
ポロポロと破片が落ちたかと思うとそこから光が差す。
突然、目がつぶれそうなくらい強烈な閃光が煌めいた。
次の瞬間、天井にポッカリと大穴が空く。
同時にその大穴からサーチライトのような強烈な光が池全体に降り注いだ。
 「あ・・・おおおお!!!!」
ベンヴォーリオは思わず大声を上げる。
何か強い力で引っ張り上げられたのだ。
ハッとして見上げると二人の天使がベンヴォーリオを引き上げ、大穴へ向かって引き上げてゆく。
周りを見回してみると他の罪人達も同じように二人組の天使によって引き上げられていた。
「ベンヴォーリオよ、安心しなさい。お前の罪は許された」
天使はマフィアの亡霊を引き上げながら言った。
「許された・・もしかして?」
ベンヴォーリオは恐る恐る尋ねる。
「お前が出会った若き見習い修道士がそなたたちの為に祈ったのだ。主はその者の願いを聞き届けられた」
「おおお・・・・すまねぇ・・・修道士さんよ・・・・」
ベンヴォーリオはチサトに礼を言うと感謝の涙を流す。
やがて、ベンヴォーリオの姿は空高く上がっていった。


 「のわあああ~~~~~!!!!囚人が天国に連れてかれるぞ~~~!!!」
悪魔たちは驚くや慌てて武器を取る。
「何としてでも取り返すんだ~~~!!!!」
てんでに武装するや悪魔は翼を広げて囚人達に迫ろうとする。
だが、天使達は悪魔の行動に気付くと武器を向け、その先から雷や炎を発射する。
悪魔たちは悉く打ち倒され、血の池に落っこちてしまう。
「畜生~~~~!!!覚えてろよ~~!!いつか吼え面かかせてやるからな~~!!!」
血の池に撃ち落された悪魔たちは捨て台詞を叫ぶと憎々しげに自分たちの手を逃れた魂たちを彼らを連れてゆく天使たちを睨みつけていた。


 ―完―
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theme : 自作小説
genre : 小説・文学

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