公国の魔人7



  「ウウウゥゥゥゥ・・・・・」
オンダは低く唸るや、再び身体を低くし、獣さながらの四つん這いに近い体勢を取る。
次の瞬間、オンダの身体はバネのような勢いで近藤に襲いかかっていた。
「ウォッ!!オオオオゥウウウウッッッッッ!!!!!」
オンダは矢継ぎ早に鉤爪を生やした両腕を繰り出してくる。
数十もの鉤爪が近藤に今にも迫ろうとする。
近藤は両腕を動かしてオンダの連続突きを巧みに受け流す。
受け流しながら近藤はオンダの内懐に潜り込む。
 鈍い音と共に近藤の右肘がオンダの胸を打った。
オンダは思わず肘打ちにウッと呻く。
その隙をついて近藤はオンダの腕を取って背負う。
「むうんっっっ!!!!」
近藤の気合と共にオンダの身体が宙へ舞った。
背負い投げだ。
相手を投げながら近藤自身の身体も空中で回転するようにしてオンダの身体へ背中から落ちてゆく。
オンダが背中から地面に叩きつけられると同時に近藤の背中がオンダの身体へ叩きつけられた。
さらに追い討ちをかけるようにアバラ目がけて近藤の肘が落ちる。
 背中・胸・腹を同時に痛めつけられてさすがのオンダもうめき声を上げる。
そこへ近藤がすかさず固め技にかかろうとする。
そのとき、観客席からエネルギー弾が襲い掛かってくる。
とっさに近藤は横へ飛び退いてかわすが、そのためにオンダに攻撃をかけられなくなる。
エネルギー弾が着弾するや地面に小型のクレーターを作り上げ、同時に衝撃で土煙を巻き起こした。
おかげで近藤の視界は完全に土煙でふさがれてしまう。
 (どこだ・・?どこから来る?)
僅か10cm前方も見えない土煙の中、近藤は耳や鼻を駆使してオンダの位置を探りにかかる。
そのとき、不意に背中に気配を感じた。
(殺気!!)
とっさに身体を半身にするとオンダの鉤爪が煙の中からニュッと突き出してくる。
だが、近藤が捕らえるよりも前にオンダの腕は再び土煙の中に消えてしまう。
直後、今度は正面からオンダの爪が繰り出されてきた。
近藤は再び動いてかわす。
しかし、オンダは煙を巧みに隠れ蓑に使い、腕だけ出しては突きかかって姿を消す。
近藤も負けじと巧みに身体を捌き、或いは移動してかわすが相手はモグラのように巧みに出没して捕まえることは出来ない。
 (このままでは・・・ならば!!)
突然、近藤は一本足で立ったかと思うや、コマのように回転し始める。
回転は見る見るうちに早くなり、だんだん近藤を中心として風が起こり始めた。
「ハァァァァァァァァァ~~~~~~~~ッッッッッッッ!!!!!!!」
気合と共に近藤は超高速で回転する。
高速回転によって生じた風の勢いはどんどん強まり、ついには土煙を完全に晴らしてしまった。


 「何て野郎だ!クソッタレが!」
オンダは土煙が晴らされてしまうや、思わず舌打ちする。
そんな間にも近藤は一気に間合いを詰めてきた。
「むうんっ!!むんむんむんむんむんむんむんっっっ!!!!」
気合と共に近藤は拳の雨を降らせる。
オンダは両腕を巧みに捌いて近藤の打撃を受け流し、一旦後退する。
蹴りを繰り出して牽制すると、すかさずオンダは思い切り地面を蹴って突進する。
次の瞬間、近藤は地面に倒され、オンダが近藤の上に乗っかっていた。
オンダは近藤を地面に押さえつけるや、カアッと口を開く。
鋭い肉食獣の牙や真っ赤な口腔壁と舌が近藤の目に飛び込んでくる。
同時にオンダはハァハァと息を吐く。
生暖かく、獣臭い嫌な感じの息が近藤の顔にかかった。
 次の瞬間、極限まで開いたオンダの口が近藤の顔面目がけて襲いかかる。
近藤はオンダの首を両手で掴むや押しのけようとする。
だが、オンダも全体重をかけ、近藤の顔に喰らいつこうとしてくる。
豹そっくりの顔が近藤に接近して気持ち悪い息を吐きかけたかと思うと顔が押しのけられる。
それを何度も何度も繰り返した。
押し合いを続けつつ、近藤は片脚をオンダに気付かれないように動かすと、オンダのまたぐら目がけて片膝を突き上げた。
 オンダはウッと呻いたかと動きが止まる。
如何に強靭な肉体を持つ遺伝子改造人間といえども、男である限り急所は痛いもの。
僅かな隙を突くや、近藤は一気にオンダを押しのける。
立ち上がると同時に近藤の左拳がオンダの右頬に叩き込まれた。
骨と骨がぶつかり合う鈍い音がしたかと思うとオンダが地面へ殴り倒される。
しかしオンダも負けてはいない。
殴り倒されながらも近藤の脇の下目がけて鉤爪の切先を繰り出した。
とっさに近藤は後ろへ飛び退いてかわす。
近藤が飛び退くや、オンダはにやりと笑う。
同時に再び高速ですくい上げるようにして片腕を振り上げた。
 砲弾でも叩き込まれたような強力な衝撃が近藤の胴に真正面から叩きつけられた。
次の瞬間、近藤はボールのように勢いよく後方へ飛んだかと思うと試合場を覆う壁に壁に叩きつけられる。
 「グ・・ゴフッ・・・・」
近藤は咳き込んだかと思うとヨロヨロと立ち上がろうとする。
だが、既にオンダは近藤の目の前に立っていた。
「サシミにしてやるっっっ!!!!!キャオラッッッ!!!!」
叫ぶと同時にオンダは腕を振り下ろす。
鉤爪は厚さ10cmはあろう頑丈な鉄壁を豆腐でも斬るように切り込み、あっという間に近藤の頭まで下がってくる。
近藤は横へ転がるようにして移動するや、ぶちかましの要領でオンダに突進する。
だが、オンダはそれを見切っていたのだろう、鉤爪を壁に刺したまま、空中で逆立ちでもするようにして飛び上がって避けてしまった。
 (しまったっっ!!!)
とっさに踏みとどまり、後ろを振り向くがそこへオンダの口が近藤の左肩へ襲いかかった。


 プレス用の機械に挟まれたかのような凄まじい力が近藤の左肩にかかる。
「ぐ・・・・・っっ」
凄まじいまでの苦痛にさすがの近藤も表情が変わる。
オンダはしっかりと近藤の肩に喰らいついたまま、思いきり背を仰け反らせる。
オンダは背を仰け反らせると口だけで近藤を宙へ高々と持ち上げる。
そして自分の真上に来るくらいまで近藤を持ち上げたかと思うと、一転、近藤を地面へ叩きつけた。
激しい落下音と共に近藤の腹へ猛烈な衝撃が襲いかかる。
だが、それは始まりに過ぎなかった。
オンダは近藤をくわえたまま、目茶苦茶に振り回し、狂ったように地面や壁に叩きつける。
20回以上そのようなことを繰り返したかと思うと、今度は壁に叩きつけて跳ね返ったところを受け止める。
そして再び口をあけたかと思うと今度は場所を問わず目茶苦茶に咬み始めた。
鋭い牙と万力の如き口が近藤の全身を苦痛に苛む。
十数か所に渡って咬み傷がつけられるや、オンダは近藤を再び口にくわえ、プロペラのように上半身を回転させると思いっきり放り投げた。
投げ飛ばされた近藤の身体は大きく放物線を描いて観客席の中へ落下する。
椅子が目茶苦茶に壊れ、破片が飛び散り、近藤へコンクリの床に叩きつけられた。
 「ゴフッ・・ごほごほっ・・・」
近藤は咳き込んだかと思うとヨロヨロと立ち上がる。
(なんてぇ野郎だ・・俺の『バイティングダンス』を喰らってもまだ倒れやがらねえのか)
オンダは近藤の生命力に感心する。
バイティングダンスとはオンダの奥義とでもいうべき技。
咬みつきで相手をしっかり捕らえると目茶苦茶に暴れて敵をあちこちへ叩きつけ、噛みつきをシャワーの如く浴びせてダメージを与えた後投げ飛ばす。
この技を喰らった生きていた者は今までいなかった。
 とはいえ、近藤の足元はだいぶふらついている。
オンダはそれを見ると安心したのか、ニヤリと笑みを浮かべる。
オンダは観客席へ上がるとゆっくりと近藤の方へ進んでゆく。
歩きながらオンダは長い舌をチラチラと出し、鉤爪を舐める。
「ウフフフフフフフフフフ・・・・・。さすがの近藤もザマぁねえなぁ・・・」
ニヤニヤと笑いながら近藤は笑みを浮かべる。
「もう・・勝ったつもりでいるのか?」
「ククク・・。立っちゃあいるが辛うじてってとこだろう。もはや俺様の勝利は間違いない。ヘェヘェヘヘへ・・・。一寸刻み五分試しってぇ奴にしてやるよ・・ウフフフフフフフフフフフ・・・・・・」
オンダは嗜虐的な笑みを浮かべるといやらしい声で笑いながら舌なめずりする。
「大した・・自信だな・・・だが・・あいにく俺はやられるつもりは毛頭無い」
近藤はそういうと両手を奇妙な形に構える。
それは刀を握っているような形だった。
 「ハハハハハハ、気でも狂いやがったかぁ?空気を刀にでもするつもりかぁ?」
まるで刀を持っているとでもいわんばかりの近藤の姿に思わずオンダは嘲笑の声をあげる。
近藤は何も言わず両手を奇妙な形に構え、呼吸を整えている。
「ククク・・・最後くらいは剣士の格好つけて死にたいってかぁ?まあいい!!遊びは終わりだっっ!!!死にさらせっっっっ!!!!!」
オンダは嘲弄の声をあげたかと思うと床を思いっきり蹴る。
蹴ったかと思うやオンダは空中高く飛び上がっていた。
両腕を大きく開くとオンダは近藤目がけて落下する。
「ウフフ・・・フフフフフフ・・・・」
オンダは近藤の肉と骨の感触を想像して笑みが零れる。
人の肉や骨を断つ感触というものは彼にとって何よりも心地よいもの。
特に近藤のような腕利きの戦士ならばなおさらであった。
だんだんと二人の距離が縮まってゆき、今にもオンダは近藤へ到達しそうになる。
近藤は動かずにジッと立ったまま、ひたすら呼吸を練っている。
やがて、オンダが鉤爪の間合いとなるところまで落下した。
(くたばりやがれっっっ!!!!!)
心中で叫ぶと同時にオンダは両腕を振り下ろそうとする。
そのとき、近藤の両手が眩いばかりに光った。
光ったかと思うと、近藤の手の中に光の刀が現れた。
 (なっ・・・何ぃっ!!)
思わずオンダは目を見張る。
「秘剣・気組太刀(ひけん・きぐみたち)」
技名らしいものを呟くと同時に近藤が動いた。
相打ち覚悟で光の刀を一気呵成に突き上げたのだ。
遅れじとオンダも両腕を振り下ろす。
そして、地上で両者の攻撃が互いに相手に命中したかのように見えた。


 「ぐ・・・・・・・・」
オンダは目をカアッと見開くや、ゆっくりと自分の腹を見下ろした。
オンダの腹には光の刃が深々と突き刺さっており、背中から数十センチも突き出している。
一方、オンダの両鉤爪も今にも近藤の両肩口に触れんばかりにまで振り下ろされていた。
あと一刹那、近藤が動くのが遅かったならばオンダの鉤爪が近藤の身体を切り下げていただろう。
だが、相打ち覚悟で真っ向から突き上げてきた近藤の闘気の剣がオンダの腹を貫き、それによってオンダの刃は動きを止めたのであった。
「ち・・畜生・・まさか・・闘気で・・刀を造り上げやがるたぁ・・・」
オンダは無念そうに呟く。
「我が派は実戦を旨とする・・・なれば武器を失ったときの手段を心得るのは当然のことだ・・・」
近藤は淡々と言葉を返す。
「畜生・・・地獄で・・先に待ってるぜぇ・・・」
オンダは最後にフフフと笑うと、そのままぐったりとなった。
オンダが息絶えると同時に闘気の剣が消え、田楽刺し状に突き上げられていたオンダの身体がドサリと床に落ちる。
(半さん・・・仇は取ったぞ・・・・)
亡き盟友に心中で呼びかけると、近藤はその場を去ろうとする。
そのとき、近藤の視界がまぶしくなる。
次の瞬間、光が近藤の右肩を貫いていた。


 「ぐお・・・・っっっっ!!!!!」
うめき声と共に近藤はその場に倒れた。
右肩はぽっかりと穴が空いている。
傷口の周りは何か高温を発するものによって焼かれたような跡がついていた。
 ガチャン・・ガシャンガクン・・・ガタタン。
ギィギィ・・ガランガラン・・・。
歯車や蝶番のきしむ音がこちらへ近づいてくる。
近藤が上体を起こすと足軽の姿をし、熱線銃を構えたロボット五体を引きつれ、自らもロボットと同じ光線銃を構えた後藤博士がこちらへ近づいてくるのが見えた。
 (俺と・・・したことが・・・)
近藤は油断をした自分自身に舌打ちする。
ロボット兵たちを従えた後藤博士は近藤の近くまでやってくると倒れている近藤に六丁の光線銃で狙いをつけながら見下ろした。
「ククク・・・自己紹介の必要はないと思うが、あえて名乗ろう。わしが後藤博士じゃ」
博士はニヤニヤと笑みを浮かべている。
「あんたたちがいるのを忘れていたよ・・・俺としたことが・・・」
「フフフフフ・・・大した男だな、貴様は。オンダを倒しおったわ・・・」
後藤博士はクックックッと笑っている。
だが、笑いながらもだんだんと表情が引きつり、声もどこかヒステリックな色彩を帯びはじめた。
 「わしの・・わしの・・・最高傑作が・・貴様ごときに・・倒されるとは・・・!!おのれ・・おのれおのれおのれっっ!!!わわわっ・・・わしはわしはわしは・・貴様が許せんっっ!!貴様の首をををっっっ!!!オンダの墓へ捧げてくれるわぁぁぁぁ!!」
歌舞伎役者さながらの仰々しいポーズを取るや後藤博士の指が引き金を引く。
だが、光線銃が発射されるより早く近藤が起き上がり、跳びかかった。
後藤博士が気付いたときには腕を蹴られて銃を取り落としていた。
すぐにも銃を拾おうとしたが近藤の左拳が半分生身半分鉄の後藤博士の顔面に思い切り叩きつけられる。
顔の半分を覆う鉄面が歪んでしまうかと思えるほど強烈な衝撃がしたかと思うと、博士は青い空が見えることに気付く。
衝撃で思い切りひっくり返ったのだ。
両足を宙へ投げ出すようにひっくり返った後藤博士は落下と同時にしたたか後頭部を床に打ちつける。
薄れ行く意識の中で後藤博士は近藤が床に落ちた光線銃を拾い上げるのを見る。
そして、ロボット兵たち目がけて熱線を浴びせたのを最後に意識を失った。

一ヵ月後・・・日本。
 「フッ!ハアッ!ヤアッ!」
右手一本で小枝のように刀を操るや、近藤は四方に立っている藁束を悉く切り倒した。
半裸になった近藤の右肩には光線銃で撃たれた傷跡がしっかりと刻みつけられている。
しかし激しく動く右腕の姿が、完全に回復したことを示していた。
 「おや、大丈夫なんですか?そんなに動かして」
お茶を運んできた藤堂が思わず尋ねた。
「ハハハハ、もう完全に治ったさ。いつまでも動かしていないとむしろ身体に毒さ」
「それにしても先生が右肩を撃ち抜かれたと聞いたときは僕も源さんもハラハラしましたよ」
「すまんな、心配をかけたようで」
「でもおかげで先生が帰国して下さいましたからね」
近藤はオンダや後藤博士との激しい戦いによって受けた負傷が原因により公国の病院で治療を受けた後帰国していたのである。
「あ、原田さんと永倉さんから明後日日本へ帰国との伝言です」
「そうか。後で酒でも準備しておいてくれるか」
「はい」
藤堂は伝言を伝えて茶を置いてゆくと道場の方へ戻ってゆく。
 (それにしても・・・人間性にチト問題はあるが・・・あの男は・・強かった・・・)
近藤は剣を振るいながらオンダのことを思い浮かべる。
悪辣なところは確かにあったが無双のつわものであることは間違いなかった。
(目的こそ邪悪ではあったが・・・あのような凄い男を造り上げた後藤博士の知力も大したものだ・・・)
近藤は同時に後藤博士のことも思い浮かべる。
二人とも今は公国の刑務所に収監されているはずであった。
近藤も博士もオンダは死んだと思っていたが、どうやら間一髪で急所を外れていたらしい。
(もしかしたら・・・負けていたのは俺のほうかもしれん・・・)
近藤はジッと剣を見つめる。
(もっと・・・もっと・・強くならねば!!)
近藤はそう念じるとしっかりと柄を握り締め、剣を振り上げる。
そして裂帛の気合と共に剣を振り下ろした。


 ―完―
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