ダンジュー修道院25 スキヤキ・ノワール・キンダイチ1


 (金田一耕助が登場し、またかなり改変を加えております。さらに映画『スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ』の世界とリンクさせたりしています。許容出来る方のみご覧ください)


 「いやぁ・・・・素晴らしいですねぇ・・。僕も若いころアメリカに行ったことがあるんで向こうの礼拝堂とか見たことがあるんですが・・・素晴らしい・・・」
その男はチサトの説明を受けながら、感心した様子で礼拝堂内を見回している。
男は日本人で、小柄で貧相な体格をしており、人懐っこそうな面立ちにいつ床屋にいったのかもわからないくらいもじゃもじゃの髪をしている。
奇妙なことに、21世紀だというのにその人物はよれよれの袴に着物、マントや下駄といった出で立ちで、まるで明治物の時代劇から抜け出してきたようだった。
 「あれ?チサちゃんどうしたの?お土産の仕事してたんじゃなかったっけ?」
不意にラウールが礼拝堂に入ってきた。
ラウールはバケツや雑巾を持っている。
どうやら堂内の長椅子の手入れを言いつけられたようだった。
「バルバロッサさんからお客さんの案内をしてくれと頼まれたんですよ。ラウールさんは長椅子のお掃除ですか?」
「そうなんだよ~。もう運が悪いったらないよ~」
ラウールは大げさにボヤいてみせる。
「それは大変そうですねぇ。こんなに広いとなると」
観光客らしい着物の男はラウールに同情するように言う。
「そうですよ~。しかも一人でやれってんですよ~。ひどいと思わないですか~?ねぇ、金田一さ~ん」
ラウールは得たりとばかりに金田一と呼んだ男に同意を求めるように言う。
男の出で立ちと金田一という名字からピーンと来た読者もいるだろう。
そう、チサトと一緒にいるのは誰あろう、かの名探偵金田一耕助だった。
3,4年程前から金田一は年に一度ここらを訪れており、観光客や巡礼のための宿舎に泊まっては数日滞在し、院内の見学などをしているのだ。
 「全く・・ひどいったらありゃしないですよ、あの赤鬼ってば~」
「誰が赤鬼やと?」
突然、低い声が背後から聞こえてきた。
ハッとしてラウールが振り返ると、いつの間にかバルバロッサが立っている。
「や・・やだなぁ。いたんですか、バルバロッサさん」
ラウールは慌てて誤魔化すように笑みを浮かべる。
「ったく・・・サボってないか見に来たら愚痴こぼしてやがって・・。おぃ、そんなに掃除が嫌なら尻の方にしとくか?」
バルバロッサの言葉にラウールは本能的にお尻を両手で隠す。
そう、ラウールが礼拝堂の長椅子拭きを命じられたのは別の仕事をサボった罰だった。
危うくお尻を叩かれそうになるところを、弁舌を駆使して何とか掃除で勘弁してもらったのである。
だから「掃除が嫌なら尻叩きにするか?」とバルバロッサが脅したわけだ。
 「わ、わかりましたよ~。ちゃんとやりますってば~」
「わかればいいんや。全く・・」
バルバロッサはラウールが仕事に取り掛かりだしたのを見届けると礼拝堂を後にする。
チサトも礼拝堂を後にし、別の場所へ金田一を案内していった。


 「ふぅぅ・・・・」
小用をようやく足し終えると、金田一はホッとしたように息をつく。
今は夜の9時頃。
修道院は朝も夜も早い。
金田一のように一般人の宿泊者なら別だが、修道士達はもう寝ている時間である。
(それにしても・・冷えるなぁ・・。僕だって東北出だから寒さには強い方だけど・・)
白い吐息を見るたびに金田一はそう思う。
 緯度の関係などもあるがフランスの冬は寒く厳しい。
東北出身で寒さには慣れている金田一でも身にこたえるというわけだ。
(まあ僕の場合結構な年だからねぇ・・・)
金田一は苦笑する。
(それにしても・・一くんはどうしてるんですかねぇ。僕に似て放浪癖があるようで・・血は争えないんでしょうかね・・・)
寒さに震えながら金田一は日本国内のどこかを旅しているであろう自身の孫のことを思い浮かべる。
白い息を吐きながら金田一が自身に宛がわれた部屋へ戻ろうとしたそのときだった。
 (おや・・・?)
金田一は暗闇の中、窓の外を横切ってゆくのに気づく。
(泥棒!?)
とっさに金田一はそういう考えが浮かぶ。
探偵としての本能か、次の瞬間金田一は外に向かって走り出した。
 外に出た金田一は近くの物陰に潜み、闇の中で動いている人物をジッと観察する。
観察しているうちに目が慣れて正体が見えてくる。
暗くて見えにくいものの、その人物は若葉のような見事な緑色の髪をしていた。
(チサトくんじゃないですか!?一体何故!?)
金田一はさすがに意外に思う。
人は見かけによらない、それは長年の経験からよく知っていた。
しかし、金田一は同時に自身の人物鑑定に自信も持っている。
その金田一の判断したところでは、チサトは夜中に勝手に抜け出すような子には思えなかった。
 だが、現にこうしてチサトは自身の寝室から抜け出している。
金田一の見立てに誤りがあったのか、それとも何か訳があるのか。
探偵のさがゆえか、金田一は好奇心が湧いてくる。
身を物陰に潜めて様子を伺っていると、チサトはどうやら何かを探しているようだった。
やがて、チサトは目的のものを見つけ出したらしい表情を見せる。
するとチサトは走り出した。
金田一も気づかれないように後を追ってゆく。
やがて、チサトは出入り業者用の門へやってきた。
門の前に立つと、チサトはジッと門を観察している。
やがて、恐る恐る扉に手を掛けた。
時間帯を考えればとっくに鍵はかけられているはず。
だが、鍵は開いていた。
チサトは一瞬驚いた顔をするも、すぐにやはりと言いたげな表情へ変わる。
その門を潜るとチサトは街へ向かう。
金田一も後を追い、街の方へと向かっていった。


 音楽が流れ、賑やかな店内。
その中を場違いな修道服の少年が進んでゆく。
チサトが向かっているのはルーレットのテーブル。
ぐるりと見回すとチサトは隅のテーブルに目的の人物を見つけた。
 そのテーブルでは銀髪の青年が真剣な表情でルーレットを見つめている。
ラウールだ。
ラウールはいかにも今どきの若者といった恰好でルーレットに熱中していた。
 「ラウールさぁ~ん~」
チサトはラウールに近づくと、おもむろに話しかける。
「あー、見つかっちゃったか~」
ラウールはチサトに近づくと残念といった表情を浮かべた。
「見つかっちゃった~、じゃありませんよ~。ダメじゃないですか。また抜け出して遊びに来たりして!」
「いいじゃないたまの息抜きに~。ねぇ、チサちゃ~ん。お願いだから見逃してよ~」
「な・・ダメじゃないですかそんなこと!ねぇラウールさん、早く帰りましょう」
「ええ~。いいじゃんもう少しだけ~」
「何言ってるんですか。他の皆さんに知られたら・・・」
「なるほど。こういうわけだったんですか」
突然、他の人間の声が聞こえてきた。
二人は思わずハッとする。
恐る恐る背後を振り返ると、そこには金田一の姿。
「きゃあ!」
まさかいるとは思わなかったせいか、チサトは思わず声を上げてしまう。
「金田一さん!何でいるのぉ!?」
ラウールもまさか金田一がいるとは思わず、驚きの声を上げる。
 「いやぁ。小用を足してる途中でチサトくんの姿を見かけましたねぇ。な、な、何だか様子がおかしかったんで気になってつけてきたんですよ。そ、そそそしたらここへやってきたわけで」
「き、ききき金田一さん!お、お願いです!こ、こ、このことはバルバロッサさんには言わないで~~~!!」
ラウールは慌てて金田一に頼み込む。
もし、金田一がバルバロッサにしゃべってしまったら一巻の終わりだ。
間違いなくお仕置きされるだろう。
「ぼ、ぼ、僕はあくまでも部外者ですからねぇ。だ、だ、黙ってても別に規則に触れるわけじゃないですからねぇ」
金田一の口調にどうやら黙っててくれそうだ、というのを感じ取るとラウールはホッとする。
「でも、その代りもう今日はこの辺にしておいてくれますね?」
「もちろん!も、もう十分です!」
「それを聞いて安心しました。ち、チサトくん、よかったですねぇ。ラウールさん、素直に帰ってくれるようですね」
「金田一さんのおかげです。ありがとうございます」
「別にそれほどのことじゃありませんよ。さぁ、もう帰りましょう」
金田一がそう言うと二人も頷いて三人は店を後にする。
だが、それをジッと見ているものがあった。
その人物は三人が出ていくと、後をつけるように席を立った。


 「ぶるるる~~。寒いい~~」
ラウールは身体を震わせながら呟く。
「金田一さん大丈夫なんですか?そんな恰好で?」
チサトは思わず尋ねる。
金田一の格好はとても温かそうには見えないからだ。
「大丈夫ですよ、こう見ても下にちゃんと来てますからねぇ。幾ら東北生まれでも僕だって年ですからねぇ。あっはっは。それよりチサトくんこそ修道服姿で寒くないんですか?」
「一応僕も着こんでおいたので・・。あとカイロも持ってきてますし」
「チサちゃん意外と用意がいいんだねぇ。いつもあんなおっとりなのに~」
「もう!ラウールさんってば!からかわないで下さいよ~」
「ごめんごめん。冗談だってば。そんなに怒らないでよ~」
ラウールがちょっとふざけたときだった。
 「危ないっ!!」
突然、金田一がラウールを突き飛ばした。
建物の壁にぶつかり、思わずラウールが抗議しようとした瞬間、風を切る音と共に矢が飛来した。
突然の矢にチサトたちがビックリしている間に、金田一は身を翻す。
コマのように回転しながら金田一は懐から右手を抜いて突き出す。
その手にはリボルバー式の拳銃が握られていた。
その間にも闇の中から数本の矢が次々と飛来する。
金田一は左手を撃鉄に添えるや、凄まじい速さで撃鉄を立て続けに起こした。
 轟音とともに矢が悉く弾き飛ばされる。
直後、今度は闇の中から拳銃を構えた男三人が飛び出してきた。
男たちは現れるや、引き金を引こうとする。
だが、それよりも先に金田一の両足が跳ね上がったかと思うや、男たち目がけて下駄が勢いよく飛び出した。
 ゴッッッ!
鈍い音と共に下駄が二つとも男たちに命中する。
「ぐわあっ!」
うめき声を上げながら二人の男は宙に足を投げ出してひっくり返るようにしてぶっ倒れる。
「くそおっ!」
残る一人が引き金を引こうとした瞬間、金田一が左手でマントをはぎ取り、思いっきりマントを繰り出した。
マントはさながらロープのように伸び、銃を持った男の腕を思いっきり引っぱたく。
余程痛かったのだろう、男は苦痛に銃を取り落してしまった。
「さぁ。ど、どうします?まだ、やりますか?」
金田一は拳銃を構えてそう尋ねる。
男は抵抗しようとしても無駄だと思ったのだろう、大人しく両手を上げて降伏の意を示した。
 金田一は油断なく男を見張りながら道路脇で呆気に取られているチサト達に声をかける。
「ふ、二人とも怪我はありませんか?」
「だ・・大丈夫です・・」
「それはよかった。いやぁ、僕のせいでとんだ迷惑をかけてしまいましたねぇ」
「いえ・・。それより金田一さん、もしかして心当たりあるんですか?」
ラウールが恐る恐る尋ねる。
「ええ」
金田一はラウールにそう答えると、両手を上げている男に向かって尋ね始めた。
 「あなた・・摩茄路仁(まかろに)県の人ですね?」
「ほぅ、わかるのかい?」
男は意外だといったような心持で答える。
「そりゃわかりますよ。摩茄路仁の人たちは独特の格好してますからねぇ」
「へっ。違えねぇ。日本人のくせにこんな格好してんのは俺ら摩茄路仁県人ぐらいだからなぁ」
男は得心のいった表情を浮かべる。
男は何とも奇妙なことにテンガロンハットにポンチョといった、マカロニ・ウェスタン(イタリア製西部劇)の登場人物さながらの出で立ちをしていたからだ。
実は日本国内にこういういでたちがまったくおかしいものではない土地がある。
それが摩茄路仁県だった。
 この摩茄路仁県は何とも奇妙な地域で、日本国内だというのに気候風土はアメリカ西部やメキシコにそっくりだった。
そしてここには西部劇に和風テイストを融合させたような独自の風習や気風、風俗が存在するという非常に変わった土地だった。
金田一はそれを知っていたため、摩茄路仁県の人間だとわかったのである。
なお、そういう風習の違いなどが壁となって摩茄路仁は長い間その正確な姿が知られていなかった。
しかし、時代が変わりつつあるのだろう、19世紀後期か20世初頭にかけてその地域で発生した事件をもとにした映画が最近つくられた。
それが「スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ」である。
 「その摩茄路仁の人たちが僕を襲った・・。何故です?」
「何故だとぉ!?金田一ぃぃぃ!!貴様!10年前、荻砂洲(てきさす)で事件に首を突っ込んだのを忘れたかぁぁぁ!!!」
男は激昂しながら言う。
荻砂洲とは摩茄路仁県に存在する市の名である。
決してアメリカのテキサスではない、読みは同じだが。
 「荻砂洲・・・・。確か源(みなもと)家の事件でしたね・・・」
「そうだ!貴様が!貴様が首を突っ込んだせいでぇぇぇぇ!!!」
男は激昂し、金田一を睨みつける。
金田一は十年程前、荻砂洲随一の旧家である源家で起こった事件に携わったことがあった。
後継者を決める前に先代が死んだために後継者候補達の間で険悪な空気となり、何か起こりそうだと思った顧問弁護士に依頼されたためである。
実際、依頼人の予想は当たってしまい、後継者候補が次々と殺害されるという痛ましい惨劇が起こった。
だが、金田一は調査の末に犯人が後継者候補の一人であった湯田与一(ゆたよいち)という男であることを突き止めた。
その結果、犯人である与一や警察や金田一に追い詰められて危険極まりない心理状態となった与一は猟銃や家宝のボウガンを持ち出して抵抗した揚句に自身の家に火を放って焼死したのである。
 「あなた・・与一さん派の人だったんですね・・。その仇討ですか・・・」
「そうだぁぁ!金田一ぃぃぃ!貴様のせいで与一の旦那は野望を果たせなんだのじゃああ!!」
「だから復讐を狙っていたんですね。与一さんと共に」
その言葉に男は一瞬硬直した。
 「な・・何を馬鹿なことを。与一の旦那が死んだのは貴様が一番よく知ってるだろうが!」
「僕も今までそう思っていました。しかし、先ほどの矢・・あれはボウガンのものです。しかも的確に僕を狙っていました。あれほどの腕は僕の知る限りでは与一さんしかいませんよ。さぁ、与一さんはどこにいるんです?」
「何を言うか!誰が貴様なんぞに・・げえっ!」
再び、男の身体が硬直したかと思うと、どさりと正面から突っ伏すように倒れる。
その背中にはボウガンの矢が突き刺さっていた。
矢を見るなり、金田一は再び拳銃を構えようとする。
そのとき、煙を噴き出す筒をくくりつけた矢が飛んできたかと思うと、強烈な閃光や煙と共に爆発した。
 「しまった!煙幕だ!ぐふっ。ごふごふっ!」
煙に巻かれ、金田一はせき込む。
そのさなか、チサトの悲鳴らしいものが聞こえた。
「まさか!」
金田一は追おうとするも煙のせいでどうにもならない。
ようやく煙が晴れたかと思うと、チサトの姿は消えていた。
 「し・・しまったぁぁぁ~~~~~!!ぼ、ぼ、僕がついていながら何という失態ををををををを~~~~~!!!」
金田一は白髪頭をかき回しながら叫ぶ。
与一の部下たちが攫っていったのは間違いないからだ。
 金田一は頭をかきむしりながら、背後から射殺された男の背中に突き刺さっている矢に結び文のようなものがあることに気づく。
それに気づくや、金田一はすぐにそれを解いて広げてみる。
そこには地図が描かれていた。
 「ラウールくん、お、お、お願いがあります」
金田一は真剣な表情に戻ると、ラウールに話しかける。
「な、何です?」
「警察と修道院にすぐに知らせて下さい!急いで!」
「わ、わかった。でも、金田一さんは?」
「僕はこの地図に従って行ってみます。多分、チサトくんはこの地図が示すところにいるでしょう」
そういうと金田一はラウールに地図を渡す。
金田一は既に頭に叩き込んでしまったようだった。
「さぁ、早く行って下さい。僕もこれからすぐに向かいます」
「は・・はいっ」
二人は別れるや、金田一は矢が飛んできた方へ、ラウールは修道院の方へ急いで走りだした。


 ―続く―




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