密林の悪魔3



 水しぶきが上がり、近藤の身体は水中へ沈んだ。
近藤は少しの間沈んでいたが、体勢を立て直すと水面へ再び戻って顔を水上に出す。
(何だ・・今のは・・?)
近藤は何かが猛烈な勢いでぶつかってきたのを確かに感じた。
衝撃やぶつかった際の感触などからかなり大きいことは確かだった。
 ゴボゴボ・・・ゴボボボボボボ・・・。
突然、近藤の泳いでいる位置から数メートルほど離れたところで泡が噴き出した。
近藤の表情が変わり、ジッと泡を見つめている。
やがて大きな水しぶきと共に太く長いものが姿を現した。
 「これは・・・・」
近藤は思わず声を漏らした。
現れたのは巨大な蛇。
全長は10mを越え、胴の直径は成人男性の肩幅ほどもあり、目に悪そうな毒々しい色の肌をしている。
その背には鉤爪を思わせる大きく曲がった背びれがビッシリと生えており、額には太く先端の鋭い内側に反った大きな角が三本生えていた。
 「ふっふっふっ・・。アナコンダをベースに遺伝子改造で造り上げた生物兵器だ。貴様で実験データを取ってくれる」
鵜藤はニヤリと笑みを浮かべて近藤に宣告した。
「そうはいかんぞ・・・」
近藤は大蛇の方を向くと両足で巧みに身体を浮かせながら両手を構えた。
「フハハハハハ!馬鹿な奴め!幾ら貴様でも素手で改造アナコンダに勝てるものか!それ!やれ!この馬鹿者を一飲みにしてやるのだ!!」
鵜藤の命令を聞くと大蛇は鎌首を近藤の方へ向けた。


 シャアアアアアアアアア・・・。
大蛇はチロチロと舌を出しながらジッと近藤を睨んでいる。
近藤も負けじとハッシと大蛇を睨みつけてやる。
やがて大蛇はユラユラと頭を左右に揺らしたかと思うと猛烈な勢いで近藤に襲いかかった。
とっさに近藤は泳いでかわそうとする。
だが、蛇の方が動きは早く、太く大きな胴に身体を掠められ、その衝撃で弾き飛ばされて沈んでしまった。
 沈みながらも近藤は手足を動かす。
近藤よりさらに深く潜った大蛇の目が下から近藤をジッと見つめている。
大蛇は襲いかかろうともせず、近藤を見ている。
(何だ・・・?)
近藤は蛇の行動をいぶかしむ。
(何を狙っている?)
近藤は泳ぎながら改造アナコンダの様子を伺う。
 突然、蛇が大きく口を開いた。
近藤は大蛇が襲いかかってくると睨む。
だが、その予想は外れた。
蛇の口から何かが飛び出したように見えた瞬間、腹にとてつもない衝撃が叩きつけられた。
 近藤が口から大量の泡を吐き出すと同時に砲弾のような勢いで近藤の身体が池から飛びだした。
そのまま近藤の身体は池の外へ飛び出すかに思えたが、池の縁で何かに受け止められ、近藤の身体が落ちかける。
とっさに手を伸ばして近藤はそれに掴まり、宙にぶら下がる体勢になって留まった。
 近藤が周囲を見てみると、いつの間にか池の周囲を高い柱が何本も立っており、柱の間には太く頑丈なネットが張り巡らされている。
「フハハハハハ。蛇に吹っ飛ばされてそのままジャングルに逃げ込まれたら元も子もないのでなぁ。ハハハハハ。貴様がなぶり殺しに遭うのを酒でも飲みながら見物してやるわ」
鵜藤はそう言いやるとワインを飲みながらぶら下がる近藤を見やる。
 近藤はネットにぶら下がったまま、水面を見つめている。
やがてゆっくりと大蛇が水面に顔を現した。
蛇は再び大きく口を開けると近藤に狙いをつける。
そして、口から猛烈な勢いで水を噴き出した。
 近藤はとっさに忍び返しの壁のように横へ動いて大蛇の噴射攻撃をかわす。
近藤がいたところのネットに水が命中するや、拳大の穴が空いた。
(こいつか・・・)
近藤は水中で受けた打撃の正体を見破る。
口から水を吐いて腹に命中させたのだ。
 シャァァァァ・・・。
蛇は声を上げるや、左右に頭を振る。
振りながら蛇は数打ちゃ当たるといわんばかりに口内の水鉄砲を乱射し始めた。
「のわあっ!!」
近藤はネットにへばりついた状態で必死に動き回る。
水が服一枚を掠めて手や足に切り傷を幾つも負わせる。
 (フフフフフ・・・。いつまで逃げ切れるかな?)
必死に大蛇の攻撃を避ける近藤の姿を鵜藤は楽しそうに眺めている。
幾ら超人的な体力を持つ近藤でもいつまでも逃げ切れるものではない。
そのうち体力の限界に達し、動けなくなったところを水で仕留められ、蛇に一飲みにされてしまうことだろう。
 (どうする・・?どうする・・?)
近藤はネットにへばりついて噴水攻撃を避けながら考える。
このままでは体力が尽きて水中に落下し、丸呑みにされてしまうだろう。
(ならば・・・)
近藤は意を決すると手を離す。
大きな水しぶきが上がると同時に近藤は再び水中に舞い戻った。


 近藤はゆっくりと水中を沈んでゆく。
沈みながら近藤は大蛇も水中へ戻って来るのを見た。
(来たな・・・)
大蛇はこちらへ向かって猛烈な速さで戻って来る。
直後、大蛇の身体が近藤目がけて襲いかかった。
 派手な水柱が上がったかと思うと再び大蛇の姿が水面に現れる。
大蛇は近藤の身体にグルグルと巻きついている。
近藤は力を失ったのだろう、ぐったりとしている。
大蛇は口を大きく開けると、近藤を頭からゆっくりと飲み込んでいく。
近藤の身体が少しずつ大蛇の体内へ消えていき、ついには完全に飲み込まれてしまった。
 「フハハハハハ・・・ハア~ッハッハッハッハッハッハッハッ~~~~!!」
近藤を飲み込んだ蛇が水中へ消えて行くのを見ながら、鵜藤は高笑いをする。
「ついに・・・ついにやったぞ・・・。我が生物兵器がついに奴めを討ち取りおったわ。ハハハハハ・・。清河主席と後藤博士によい手土産が出来たわい」
鵜藤はそう言うと再び椅子に座ろうとする。
だが、そのとき凄まじい絶叫が響き渡った。
 「な・・何だ・・?」
思わず鵜藤は腰を浮かして立ち上がる。
鵜藤が見ていると水面が波立ち、大蛇が再び浮き上がってきた。
大蛇は激しく身をよじらせ、苦しげに叫んでいる。
「何だ!何があった!?」
「博士!あれを!!」
鵜藤はアダが指さした方を見やる。
すると、蛇の腹から人間の腕が突き出していた。
「ま・・まさか・・・」
鵜藤が呟くのを合図にしたかのように、腕が突き出ている箇所からどんどん裂け目が広がりだす。
ついには腹に大穴が開き、中から近藤が飛び出した。
 近藤が飛び出すや、蛇は絶叫を上げて水面に身体を叩きつける。
近藤は水面でのたうつ蛇の身体にヒョイと飛び乗ると、素早く蛇の頭の方へ走ってゆく。
そして蛇の頭部までやって来ると角の一本を両腕で掴み、気合と共にへし折った。
 鵜藤は近藤の意図をすぐに見破る。
「やめ・・やめろっっ!!」
鵜藤が制止の声を上げたが、近藤は構わず蛇の目に向かって角を思いっきり振り下ろす。
角は目を突き破り、脳にまで達する。
脳を貫かれた蛇は断末魔のけいれんを起こし、激しく身体を揺らす。
近藤は揺れる蛇の上を巧みにバランスを取って走ると途中で蛇の身体を蹴って飛びあがり、ネットに飛びついた。
近藤や鵜藤が様子をジッと見守る中、やがて蛇はピクリとも動かなくなった。
 「・・・・・・・・・」
鵜藤は茫然とした表情で大蛇を見つめていた。
その表情は呆けてしまったようであった。
しばらくジッと眺めていた鵜藤だが、やがて
「奴が逃げる!奴が逃げるぞっ!!」
という叫びにハッと我に返った。
 鵜藤がネットを見上げると近藤は柱のてっぺんにいつの間にか立っており、そこから跳躍して巨木の枝に飛び乗った。
「おのれ~~!逃がすでない!追えっ!追うのだぁぁ~~~!!」
鵜藤は部下に命令を下すや、自らもアダを連れて近藤を追いかけた。


 「おのれ・・どこだ・・どこへ行きおった!」
鵜藤は両目を血走らせ、周囲を見回す。
鵜藤は要蔵の猟銃を構え真珠郎の刀を腰に差している。
その傍ではアダが拳銃を構えて同じように周囲を警戒している。
突然、奥の方からけたたましい悲鳴が上がった。
鵜藤はそれを聞きつけるや、部下を連れて駆けつける。
やがて一行はやや広いところに出た。
草むらの上には大勢の人間が転がっていた。
いずれも一撃でのされている。
「おのれ・・奴の仕業か・・」
鵜藤がそう呟いたとき、突然、木が途中からボキリとへし折れて倒れてきた。
慌てて全員避けようとするが、数人が運悪く巻き込まれて下敷きになってしまう。
同時に折れた木の背後から何かが勢いよく飛び出してきた。
とっさに鵜藤の部下たちは銃を構える。
だが、それよりも早くそれは鵜藤達の真っ只中に飛び込むや、目にも止まらぬ早さと勢いで次々と投げ飛ばす。
あっという間に立っているのは鵜藤とアダだけになってしまった。
 「さぁ・・どうする・・?もはやお前達だけだぞ?」
近藤は草むらに転がっている男達を見やりながら鵜藤達に言う。
「黙れ・・・。わしの作品達の仇っ!!」
鵜藤は叫ぶや猟銃をぶっ放す。
同時にアダもありったけの弾丸をぶっ放した。
 だが、二人が引き金を引くと同時に近藤の姿が消える。
頭上が暗くなり、二人が上を見上げると宙に近藤の姿があった。
鵜藤はすかさず銃口を頭上に向ける。
そのとき、近藤の両手が振り下ろされる。
「「ぎゃっっ!!」」
二人の悲鳴が重なって上がったかと思うと、二人とも足を宙に投げ出して倒れた。
二人の顔面は土に塗れている。
近藤が土塊を石代わりに投げつけたのだ。
近藤は二人が気絶したのを確かめると、二人を担ぎ上げてそのまま去っていった。


 ギィィィィ・・・。
留置所の廊下を仕切る扉が開き、誰かが入ってきた。
入ってきたのは警察の制服を纏った男。
そのデザインからかなり地位の高い人物であることが察せられた。
 男は看守に伴われてある牢までやって来る。
牢には鵜藤が捕らえられていた。
「間違いない・・・。国際手配犯の鵜藤だ」
「確かですか?」
「うむ。しかしそれにしても妙だな。ここは小さな田舎町。それなのにこんな大物が捕らえられたとは・・・」
「ハァ・・。それなのですが数日前、この男ともう一人アダとかいう女が縛り上げられ高札のようなものに拘束されているのを住人が発見し通報したのであります。調査の結果、国際手配犯とその部下とわかり、身柄を確保した次第です」
「なるほど・・・それにしても不思議なこともあるものだ・・・」
 その同じ頃、町のカフェに一人の男がいた。
男は黙ったまま、静かにコーヒーを飲んでいる。
(愚か者めが。甦らせた殺人鬼や造り上げた生物兵器を失い、あまつさえ捕らわれの身となるとは)
戸田一刀は吐き捨てるように心中で呟くと酒をあおった。
彼は清河の命により鵜藤の救出へやって来ていた。
 (だが仕方あるまい。俺は命令を実行するまでのことだ)
そう呟くと戸田は立ち上がる。
そして細長い包みを手にすると酒場を後にした。


 「そうか・・・結局逃げられたのか・・」
近藤は井上から話を聞くとそう呟いた。
あの後近藤は予定を繰り上げて日本へ帰国していた。
「ええ。清河の手の者が留置所を襲って鵜藤達を救出したそうです」
「そうか・・。まぁ起こってしまったことはしょうがない。だが、これからも色々と探っておいてくれ。また奴等が何か企むかもしれん」
「はい。山崎さんにそう伝えておきます」
近藤はそれを聞くと黙って頷く。
 「ところで源さん、俺が留守中皆しっかりやっていたかい?」
「ええ。皆さん楽しくやってらっしゃいましたよ」
「そうか。野山を巡るのもいいが、皆と共に竹刀を振るうのも悪くない。源さん、すまんが道着と防具出しといてくれ」
「かしこまりました」


 ―完―
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