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ダンジュー修道院25 スキヤキ・ノワール・キンダイチ2


 あれ・・・?どこだろう?
闇の中、チサトは手探りであたりを探る。
出口を探す中、チサトは何かが聞こえてくるのに気づいた。
(何だろう・・?)
チサトはジッと耳をすませる。
すると激しい勢いでギターをかき鳴らす音が聞こえてきた。
そして誰かが歌っている。
歌には何度も「ジャンゴ」という名前が出てくる。
その歌を聞いているとチサトは何故か背筋が寒くなってきた。
歌には憎しみや狂気といったものが感じられたからだ。
 突然、チサトは足元がグラグラと揺れるのを感じる。
ハッとして地面を見てみると、崩れだしているではないか。
崩落はどんどん進み、チサトがいるところへ迫ってくる。
慌てて逃げようとしたものの、時既に遅かった。
チサトは土塊と共に闇の中へ真っ逆さまへと落ちていった。
 「きゃああああ!!」
悲鳴を上げてチサトは目を覚ました。
目を覚ますや、チサトは自分が今まで夢を見ていたことに気づく。
(何だ・・夢だったんだ・・)
それに気づいて安心しかけるも、すぐに今度は自分が縄で縛られていることに気づいた。
同時に廃工場らしい場所にいることに。
 「おい、目覚ましたみてぇだぞ」
不意に誰かの声が聞こえた。
チサトが声のした方を振り返ってみると、数人の男が立っている。
全員、チサトと同じアジア系の風貌をしており、言葉から日本人だと推察できた。
チサトは彼らを見るなり、異様な感覚に捉われる。
もっとも、それは無理もなかった。
彼らは皆、テンガロンハットやジーンズ、ポンチョやコートといった、西部劇映画さながらの出で立ちをしていたのだから。
しかも全員白を基調にした色に統一されている。
 「おい!何見てんだ!?あまりジロジロ見てっとぶん殴るぞ!」
不意に男の一人がチサトの視線に気づき、そう怒鳴りつける。
チサトは身を縮こまらせると慌てて視線をそらした。
「おい。誰か与一の旦那に人質が目覚ましたって知らせてこいよ」
「おい、今はマズイって」
そういうと別の男が耳を差す。
 転がった状態のままでも、チサトはギターの音が聞こえてくることに気づいていた。
どうやら誰かが弾いているらしい。
「旦那は演奏を邪魔されると機嫌悪いんだからよ」
「そういったって知らせなきゃ知らせないで機嫌悪いだろうが」
「っつったって俺は嫌だぞ」
その後、しばらくの間男たちの間で何やら話していたが、やがて一人が渋々といった感じで立ち上がり、部屋を出て行った。


 かつては工場長の執務室であったらしいそのボロ部屋の真ん中に、男は座っていた。
その男は身長175センチ程、痩身ながら無駄なく引き締まった身体つきをしている。
男は白いシャツやズボンを着ているのは他の男たちと共通していたが、シャツの上から西洋甲冑のものらしい頑丈な胴鎧を身につけていた。
しかし、胴鎧よりも人目を引きそうなものを男は身につけていた。
仮面だ。
この男は頭からすっぽりと、ゴム製の真っ白な仮面をかぶっていたのだ。


 ジャンゴ 乾いた風に
 ジャンゴ 命の鼓動(おと)が
 静かな目で 見据えている
 そこは狼の道

 ジャンゴ 孤独文字(こどくもんじ)を
 ジャンゴ 背負った者は
 迷いも無く 涙も無く
 はぐれ月夜に吠える


 仮面の男こと湯田与一は激しくギターをかき鳴らして歌う。
そう、この男こそが金田一を襲撃し、チサトをさらわせた与一だった。
与一が歌っているのは北島三郎の「ジャンゴ ~さすらい~」。
『スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ』の主題歌として知られる歌だ。
与一はこの歌に特別な思い入れがあった。
それは彼の祖先に関わりがあった。
 実は与一の祖先は、ジャンゴの映画で取り上げられた事件の関係者だったのだ。
白を基調とする源氏ギャング、そのうちでもきっての暴れ者であった与一という名のボウガン使い。
彼こそが与一の祖先であったのだ。
それゆえ、ボウガンが家宝として伝わっていたのである。
そのボウガンは彼のすぐ傍に置かれていた。
 与一は歌に没頭していたが、突然弦を鳴らすのを中断したかと思うと、ボウガンを取り上げる。
次の瞬間、開きかけたドア目がけてぶっ放していた。
 「ひえっ!」
慌てた声と共に部下は身体を沈め、矢をやり過ごす。
「何のつもりだ?俺が弾いてるときは邪魔するなと言っておいただろうが!」
与一は目をぎらつかせながら叫ぶ。
彼は演奏を邪魔されるのが何より大嫌いだった。
実際、演奏中に自分のところへ入ってきた部下を射殺してしまったこともある。
与一の今にも食らいついてきそうなくらい凶暴な目つきに部下の男は引きそうになりながらも答える。
 「旦那・・あの修道士が目を覚ましました」
「そうか。なら言いつけておいた作業にかかれ」
「はっ」
男が急いで去ると与一は部屋の片隅へ行く。
そこには木製の棺桶があった。
棺桶の傍らにしゃがみ込むと与一は蓋を開く。
中身を見ると、与一はクックックッとほくそ笑む。
「くひひひ・・・・金田一ぃぃぃぃ!!!待ってろよぉぉぉぉ!!!!必ず貴様をををををををををを!!!!!!」


 (ここ・・・ですね・・)
与一がわざと残していった地図に導かれ、金田一は市内のある廃工場にたどり着いた。
(今にも・・何か出そうなくらい荒れてますねぇ・・。まぁそれだけにぴったりとはいえますが・・)
金田一は周囲を油断なく見まわしながら拳銃に予備の弾を込める。
装填をし終えると、緊張した面持ちでゆっくりと中へ向かっていった。
 リボルバーを構え、金田一は慎重に今は動かなくなった機械の間を通ってゆく。
どんどん進んでゆくが、一人も手下が出てこない。
それが却って恐ろしかった。
何か悪辣な罠を仕掛けているのではないかと。
やがて、朝礼などのための広いスペースに出た。
 そこへ出るなり、チサトの姿が見えた。
チサトは縛られたままぐったりして倒れている。
慌てて金田一は飛び出すように駆けつけるや、懐から折り畳みナイフを取り出し、縄を切りながら助け起こす。
「チサトくん!チサトくん!大丈夫ですか?」
金田一が呼びかけると、チサトはうっすらと目を開ける。
「き・・金田一さん・・?」
「よかった・・。無事だったんですね・・」
「ぼ・・僕・・確かさらわれ・・」
途中まで言いかけてチサトの表情が強張る。
次の瞬間、金田一は後ろを振り返ったかと思うや、銃口が火を噴いた。
 「ぎゃあっっ!!」
悲鳴と共に錆びついた機械の上から金田一を狙っていた無法者が転がり落ちる。
それを皮切りに数人の男たちがそれぞれ物陰から金田一目がけて銃をぶっ放す。
金田一はゴロゴロ転がりながら発砲する。
銃声が響くたびに、物陰からうめき声や何かが倒れる音が聞こえてきた。
 ヒュンンッ!
不意に頭上から風を切る音が聞こえてきた。
金田一が振り向くや、ボウガンの矢が迫って来ている。
矢に狙いを定めるや、金田一は引き金を引く。
金属同士がぶつかる甲高い音と共に矢が回転しながら後ろへ飛んでゆく。
矢は二階に通じる階段の上でボウガンを構えていた与一の元へ襲いかかる。
与一が弾き飛ばされてきた矢を避けながら第二弾を放とうとしたそのとき、再び金田一のリボルバーが火を噴いた。
銃弾は太ももに命中し、与一は態勢を崩す。
次の瞬間、盛大な音と共にゴロゴロと与一は転がり落ちた。
 「うわぁ・・・・」
与一の転落に思わずチサトは声を漏らす。
それを尻目に金田一は慎重に与一へと近づいてゆく。
金田一はいつでも撃てる態勢を維持しつつしゃがみ込むと与一の脈を取ったりする。
 「し・・死んでるん・・ですか・・?」
緊迫した表情でチサトは尋ねる。
「いえ・・気絶しただけのようですねぇ、幸い」
その言葉にチサトも金田一もホッとした息をつく。
いくら悪人でも人が殺されるのを見たりするのはチサトは嫌だった。
また、金田一も相手が悪人とはいえど殺すつもりは毛頭なかった。
だから銃で撃つにも肩や腕、脚などを狙ってあくまで戦闘不能にするだけであった。
 「チサトくん・・・。安全なところまで離れていて下さい。僕は確かめなくてはいけないことがあります・・・」
金田一はチサトに向かってそう言う。
それを聞くと、チサトは言われたとおり、ある機械の物陰まで行って身を潜める。
チサトが安全な場所へ隠れたのを確かめると、金田一は与一の仮面の下に左手を差し入れる。
そしてゆっくりとめくってみた。
 仮面の下から現れたのは金田一に撃たれ、物陰でうんうん呻いている他のギャング達と同年代と思しき男の肌。
「や・・やはり!よ、与一じゃない!こ、こ、この男は替え玉だ!!」
金田一は興奮し、左手で頭をかきまわし始める。
最初、金田一はこの男を見たとき、ある疑惑に駆られた。
偽の与一ではないかと。
というのは、放ってきた矢の狙いやボウガンの取扱い方が与一らしくなかったのだ。
ボウガンと銃は別種の武器、当然ながら取扱いなども異なる。
矢を放ってきた男の動きはボウガンではなく拳銃の方が得意そうな動きをしていたのだ。
仮面を僅かに取って見ることで、疑惑は確信に変わったのである。
(なら・・本物の与一は?)
金田一が当然の疑問を抱いたそのときだった。
突然、モーターの駆動音らしい音が聞こえた。
本能的に金田一は後ろを振り返る。
振り返るなり、金田一はギョッとした。
距離を置いて男が立っていたからだ。
ただ、男が立っているだけならば金田一もギョッとしたりはしなかっただろう。
しかし、その男は異様な人相をしていた。
 男の顔、いや正確には頭部全体はまるで焼き過ぎて消し炭になってしまったパンのように真っ黒だった。
しかも、ナタか何かで滅茶苦茶に切り刻んだかのような傷跡が顔面や頭部中に走っている。
あまりに凄まじく且つおぞましいその顔は見ているだけでも悪寒や吐き気に襲われそうだった。
 (与一!!!!)
心の中で金田一は叫ぶ。
そう、この凄まじい顔の男こそ与一だった。
与一は荻砂洲での事件で犯人と判明し、警察を相手に最後の抵抗を行ったのだが、その際に警察に捕まるまいと自身の家に火を放ったのだ。
火災に乗じて与一は逃亡することに成功したのだが、その際に顔や頭に大やけどを負っていた。
それゆえ、ゴムの仮面をかぶっていたというわけである。
 「金田一ィィィィィ!!!!!!」
与一は憎悪の籠った声で叫ぶ。
「生きて・・いた・・ようですねぇ・・・」
金田一は対して淡々とした声で答える。
「当たり前だぁ!貴様を・・貴様を・・殺るまで死なねえ・・殺るまで・・殺るまで死ねるかァァァァ!!!」
「どうしても・・やりますか・・?」
「決まって・・やがるだろうがぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!だが・・貴様に俺を倒せるかぁぁぁ?」
ニヤニヤと与一が笑みを浮かべた。
同時に、モーターのものらしい駆動音がさらに高まり、薄暗い中で轟音と共に何かが光った。


 (危な・・かった・・・)
金田一は背後の壁を見やりながらゾッとする。
壁は銃弾の跡が斜めに走っていた。
「ヒッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャアアアア――――――ッッッッ!!!!」
狂った笑いと共に与一がガトリング砲をぶっ放した。
これは棺桶の中に隠しておいたもの。
与一は憎き金田一を葬り去るため、携帯可能な個人用のガトリング砲を用意しておいたのである。
偽与一や手下達で金田一を引きつけている間にこれを装備したというわけだ。
ミンチにされてはたまらんと金田一は横に大きく走り出す。
その後を追うように弾痕が壁や壊れた機械に次々と刻み込まれてゆく。
金田一は右に左に大きく動いてかわしながら与一目がけて発砲する。
だが、与一が着こんでいる西洋甲冑が弾丸を弾き、与一にかすり傷一つ負わせることは出来なかった。
 とっさに金田一は機械の陰に隠れ、機械を盾にしながら与一を撃つ。
しかし与一もさる者、身体を巧みに捌き甲冑に弾丸が当たるようにして銃撃の効果を削ぐ。
そして圧倒的な火力で攻めてくるのだ。
(どうする・・?どうしたらいい?どうすれば与一を倒せる?)
金田一は機械の陰に潜みながら考える。
普通に撃っても与一は身体をうまく動かしてダメージを受けないだろう。
向こうだって銃のプロだ。
軌跡を読んだりできるはずだ。
(尋常ではない方向などから予想もしない一弾が飛んでくるでもない限り・・・)
そう考えたとき、ある考えが浮かんだ。
金田一は与一に姿を見られないようにして工場内を見回す。
工場の構造などを頭に叩き込んで金田一は一瞬のうちに作戦を組み立てる。
必要な思考を済ませると、金田一はゆっくりと機械の陰から姿を現した。


 「ケヒヒヒヒ・・・。とうとう覚悟を決めたカァァ!?」
姿を現した金田一を与一はそう嘲弄する。
「いえ・・。僕が姿を現したのは・・あなたを捕まえるためです」
金田一はニコリと笑みを浮かべて言う。
「ああん?貴様俺に勝てるとでも思ってんのかぁぁぁ?」
「思ってます。だから出てきたんですよ」
「きっさまぁぁぁぁあ!舐めやがってぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
キレた与一はガトリング砲をぶっ放そうとする。
そのとき、突然金田一は横に銃を突き出したかと思うや、ぶっ放した。
 「ケラケラケラケラケラケラッッッ!!!どこ撃ってんだ!」
金田一が見当違いの方向を撃ったことに与一は嘲笑の声を上げる。
だが、直後左二の腕に焼けつくような痛みを感じた。
ハッとした与一はおのれの左腕を見やる。
すると、左二の腕に紛れもない銃弾の跡があることに気づいた。
(何・・・だと・・?)
与一は信じられなかった。
それを尻目に再び金田一があさっての方向に向かって引き金を引く。
今度は嘲笑しなかった。
与一は全感覚を研ぎ澄ませる。
そして、弾丸が天井の梁の角に当たる音を聞いた直後、今度は右太ももに熱を感じた。
 (跳弾!?)
与一はそれに気づいた。
金田一は柱や壁、壊れた機械などを利用して弾丸を跳ね返らせ、それによって正面にいながら横や背後から敵を撃つという神業を行っているのだ。
「ち・・畜生っっっ!!!!」
与一はガトリング砲を構え直すや、勢いよくぶっ放す。
だが・・・。
(や・・やべぇ!弾食らったせいで支えるのが精いっぱいだ!!)
ガトリング砲の反動が砲と甲冑の重さととともに与一の身体にのしかかる。
負傷したことで武装の重量や武器の反動を完全に押さえきることが出来なくなったのだ。
それで、まっすぐ撃つために支えるのが限界だった。
 金田一は横に動いてかわすと、続けて跳弾攻撃をする。
今や自身の武装が足かせとなった与一は避けることが出来ず、腕や脚に銃弾を叩きこまれる。
「ぐ・・ぐあ・・・・・・」
うめき声と共に床へ崩れ落ち、与一はガトリング砲を取り落す。
「く・・くそっ・・・」
与一は腕が火だるまになっているような感覚と闘いながらもガンベルトから拳銃を引き抜くと、倒れた態勢で金田一を撃とうとする。
だが、それより早く金田一が引き金を引いた。
直後、与一の手から銃が弾け飛ぶ。
与一を完全に丸腰状態にすると、金田一は懐へ銃を仕舞う。
金田一は片足を上げたかと思うと、天井目がけて思いっきり振り上げる。
同時に下駄が天井目がけて高速で錐揉み回転しながら飛んでいった。
(何だ・・・?)
倒れたまま与一が見ていると、やがて上昇が止まる。
直後、与一の顔面目がけて錐揉み回転しながら落下してきた。
(げえっ!!やべえっ!!)
慌てて逃げようにも、銃弾を手足に撃ち込まれた身ではどうにもならない。
鈍い音と共に与一はあべしっ!!と声を上げ、そのまま意識を失った。


 ―続く―
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