戦鬼たちの橋



 
 ブシュッという鈍い音と共に迫撃砲弾が孤を描いて飛んでゆく。
橋の向こう岸に積み上げられた土嚢の内側に落下するや、爆風が起り、野戦服や武器弾薬で身を固めた男達の身体が宙高く舞い上がる。
舞い上がったかと思うや、ある者は橋を飛び越えて河に落下し、別の者は分厚い橋に叩きつけられるように落下してそのまま動かなくなってしまう。
「突っ込め~~~~~~!!!!!!!」
隊長の叫ぶような声と共に一斉に吶喊の声が起こる。
同時に血走った目をした兵士達が向こう岸目がけてコンクリート製の橋に突撃を敢行した。
怒号や銃声が幾重にも重なり、橋の上で激しい死闘が繰り広げられる。
土嚢を築き、機銃等を備えて橋を守っている方は必死になって敵を近付けまいとしていたが既に迫撃砲やロケット弾の洗礼を嫌と言うほど浴びせかけられていたため、突破されてしまうのはもはや時間の問題だった。
 突然、数名の兵士が思い切り吹っ飛ばされ、欄干を越えて河へ落下した。
同時に突撃が止まる。
兵士達は立ち止まると銃を構えて正面を睨みつける。
いつの間にか突撃側の兵士達の前に男が立ちはだかっていた。
 男は身長2メートル近く、肩幅広く胸板が分厚い筋骨たくましい体格をしている。
目や眉、肌の色からアジア系だと想像できた。
頭には虎の頭の形をしたヘルメットをかぶっており、太く力強い口ひげとあごひげを生やしている。
いかにも荒々しい顔立ちと相まって、さながら中世の荒武者のようだった。
 男の武装は味方である守備側とはかなり異なっていた。
火器類は右腰に提げた拳銃のみで、左腰にはがっしりしたつくりの日本刀を提げている。
突撃銃の代りに槍を手にしていた。
槍は全長240センチ程、穂先の片方の根元から短い鎌刃が生えた片鎌槍と呼ばれる種類の槍だった。
野戦服も味方らしい守備側の兵士たちと同じものをアレンジして使っている。
肘から先が鎖と細長い鉄板を合わせて造った和風の籠手となっており、背中には日蓮宗の祈りの言葉である「南無妙法蓮華経」の文字が大きく描かれていた。
 虎のヘルメットの男は槍を構えるや、怪鳥のような気合と共に突進し敵の中へ飛び込んだ。
男は飛び込むや当たるに任せて槍を振り回す。
一薙ぎごとに兵士達が次々と吹っ飛ばされてゆく。
 「馬鹿モンッ!!撃てっ!撃ち殺せっっ!!」
指揮官の命令と共に兵士達が一斉に引き金を引く。
たちまち、銃弾の嵐が槍の男に向かって襲いかかった。
だが、男は逃げるどころか、正面で槍を横たえたかと思うと、真ん中を軸に風車の如く高速で回転させ始めた。
カンカンッという音と共に目にも止まらぬ速さで回転する槍に弾丸が弾き飛ばされ、ボロボロと周囲に弾丸が転がる。
 「なああ・・・・」
あまりの出来事に突撃側の兵士達は茫然と口を開けている。
やがて、槍の動きが止まったかと思うや、男は兵士達に穂先を向けて構える。
突然、男の槍穂が光りだした。
光ったかと思うや、さらに信じがたいことが起きた。
光に包まれた虎が穂先から飛び出したのだ。
虎は凄まじい勢いで敵軍の真っ只中を突っ込んでゆく。
その通り道にいた者たちは悉く吹っ飛ばされてしまった。
やがて、虎は今にも橋を渡ろうとしていた敵軍のジープや小型戦車の群れの中に突っ込む。
一台の小型戦車に命中するや、戦車は爆発炎上し、虎も消滅した。
 あまりの状況に突撃側の兵士達に動揺が走る。
このままでは戦況逆転、と誰もが思ったそのときだった。


 突然、今度は突撃側から誰かが飛び出してきた。
飛び出した影と槍の男がすれ違うや、閃光が数度走った。
何かがぶつかり合う音が数回響くと入れ替わりに影が着地する。
互いの位置を入れ替えた状態で振り返り、両者は互いに対峙した。
 影の正体は一人の男。
男は鷹のように鋭い眼光をたたえた精悍な面立ちで、痩身だが鋼のように鍛え上げられ引き締まった身体をしている。
背中に誠の文字が描かれた浅葱色を基調にしたコート状の上着を纏い、右腰に刀の鞘を下げ、左手に刀を手にしていた。
 「誰だ・・・貴様は?」
敵軍に加わっているものの、敵軍の者たちとは違った相手だと察するや、槍を構えて男は尋ねる。
「斉藤一郎・・・。あんた・・・加藤清助(かとうきよすけ)だな?」
「貴様が・・あの斉藤一郎か・・。いかにも・・俺が加藤清助だ」
槍の男は斉藤の問いにそう返事をする。
 加藤清助。
かの猛将加藤清正の子孫にして有名建設業者として知られる男。
だが、その一方で武道家・傭兵として世界の危険地帯を遍歴する猛者でもあった。
 「やはりそうだったか・・・まさかあんたとこんなところで出会えるとはな・・」
「俺もだ・・。だがここを通すわけにはいかん!」
加藤はそう言うと槍を構える。
「同じく・・俺も引くことは出来ん!!」
斉藤もそう声を上げると刀を構えてジッとにらみ合う。
一瞬にらみ合ったかと思うや、互いに橋を蹴り相手に向かって突進していた。


 何かが咬み合うような音がしたかと思うと、刀と槍の柄とが糊付けしたようにしっかりとくっつきあっていた。
二人は互いの得物が顔につきそうなくらい近づくと、相手を押しのけようとする。
がっちりと組み合った相撲取りのように互いに押し合い相手の姿勢を崩そうとした。
加藤が押したかと思えば斉藤が押し返し、さらに加藤が押し返す。
しばらくそのような押し合いを繰り返していたが、やがて両者とも埒が明かないと見たのであろう、橋を蹴って間合いを離す。
 だが、間合いを離したかと思うや、加藤の方から再び間合いを詰めてきた。
加藤は飛びあがったかと思うと、空中でコマのように一回転する。
飛びあがった勢いと遠心力で勢いでつき、ゴオッという音と共に横薙ぎに加藤の鎌槍が襲ってきた。
とっさに斉藤は後ろに引いてかわすが、切先がかすって上着に切り傷をつける。
肌が見えたかと思うと、同時に微かな赤い筋が生じた。
 着地と同時に加藤はさらに回転の速度を速める。
(何だ・・・?)
加藤の動きに斉藤は思わず警戒感を強める。
槍の柄を肩に担ぎ、槍を横へ突き出したポーズで回転しだしたかと思うと、どんどん動きが早くなってくる。
しまいには全ての方向に加藤の顔があるように見えたかと思うと、加藤の全身は上が大きく広がった小型の竜巻に包まれた状態になった。
「くらうがいい・・・引寄独楽(ひきよせごま)っっ!!」
技名らしいものを叫んだかと思うや、加藤がこっちに向かって突っ込んできた。
 (速い!?)
あっという間に小型竜巻と化した加藤は斉藤の目の前にまで迫ってくる。
斉藤は身体を沈め、横へ転がりだすようにして脱出しようとする。
だが、そのとき身体が竜巻に引き寄せられるような感覚を覚えた。
 (何!?)
ほんの僅か足が浮いたように感じたかと思うや、見えない力に捕らえられたかのように斉藤の身体は小型竜巻へ引き寄せられる。
あっという間に斉藤の身体は意思とは無関係に小竜巻の中へ突っ込んでしまっていた。
 巻き込まれた斉藤に襲いかかったのは凄まじい打撃の嵐。
側頭部、脇腹、両腕両脚をはじめ、あらゆる場所を容赦なく槍がぶっ叩く。
骨や肉が軋みを上げ、上着が引き裂かれる。
ようやく吐き出されたときには、上着は完全に破れて上半身が露出していた。
 上半身には打撲の跡が斑模様のようにびっしりとついており、赤く細い筋が刻まれているのも一つや二つではなかった。
頭を何度も横殴りに殴られたせいだろう、足元も時々ふらついていた。
 だが、その目は闘志を全く失っていない。
刀を構えて再び加藤と対峙した。
(大したやつだ・・あれだけ乱撃を喰らって・・・)
加藤は斉藤の頑健さに思わず感嘆する。
あの技を喰らえば、全身の骨が目茶苦茶に砕けてしまうのが普通だ。
とても生きてはいられない。
しかし、この男は生きて、しかもまだ十分に戦う意思も力も残している。
(面白い・・もう少し楽しませてもらおうか・・)
加藤はニヤリと笑みを浮かべると槍を構えた。
 (さすがだな・・・効いたぞ・・・)
全身から聞えてくる肉体の悲鳴を感じつつも、斉藤は加藤の腕に舌を巻いた。
(今まで・・・侮っていた・・・これは・・本気でかからねばならんな・・)
表情が変わったかと思うと、斉藤も加藤に対抗するように刀を構えて睨み合った。


 「な・・何だ・・」
「う・・・腹が・・・」
最前列で決闘を見守っていた兵士達は突然、不調を感じた。
腹部に猛烈な圧迫感を感じるや、胃がキリキリと痛み出したのだ。
同時に脂汗がドッと噴き出してくる。
中には耐え切れなくなり、膝をついてうずくまったかと思うと足元に向かって吐いてしまうものまでいた。
「おおっ!あれを見ろ!」
不意に一人が叫んだ。
兵士達は二人を見やるや、アッと声を出しそうになる。
加藤と斉藤、それぞれの身体が炎のような光に覆われていたのだ。
光の正体は闘気。
本気になった証拠に全身から闘気を立ち上がらせたのである。
光の塊となった二人は地面を蹴って真っ向からぶつかり合う。
激しい音と共に両者は切り結び、幾度も立ち位置を入れ替える。
不意に加藤が自軍の方に向かって思いっきり飛んできた。
斉藤の攻撃に吹っ飛ばされたのだ。
吹っ飛ばされた加藤は自軍の兵士達の中へ突っ込む。
 悲鳴が上がったかと思うと数名の兵士が巻き込まれて吹っ飛んだ。
同時に斉藤が一気に間合いを詰めてきた。
とっさに数人の兵士が動いて斉藤に襲いかかる。
だが、サッと斉藤の左腕が動いたかと思うや、神速の速さで左片手突きが数度突き出された。
突きの衝撃で全員、後ろへ吹っ飛ばされてしまう。
 斉藤は立ちはだかった敵を倒すや、起き上がりかけた加藤に対して真っ向から斬りかかる。
加藤はすかさず後ろへ引くが、高速で振り下ろされた刀から発生した衝撃が加藤に襲いかかる。
衝撃をまともに喰らって加藤も一瞬、体勢が崩れて無防備になる。
 「喰らえ・・・発破突ッッッ!!!!」
技名を叫ぶと同時に斉藤の剣がギラッと目がつぶれそうなくらい強烈な光を発する。
直後、猛烈な勢いで左片手平突きが加藤の胴に叩き込まれた。
 ドォォォォォォォォンンンンンンンンッッッッ!!!!
轟音と共に切先に纏った闘気が爆発する。
全身が粉々に吹っ飛んでしまうかと思えるほどの凄まじい衝撃が加藤の身体を襲い、加藤は再び自軍の兵士達の中へ吹っ飛ばされる。
 「ゴホッ・・ゲホッ・・ガアハァッ・・・」
加藤は起き上がるものの、激しく咳き込む。
爆発の衝撃で服は完全に破れて上半身は丸裸、所々火傷を負っている。
だが、間髪いれずに斉藤の刃が襲いかかってきた。
今にも咽喉を突くかに見えた瞬間、加藤が白刃取りで受け止める。
「調子に・・・乗るな~~~~~っっっっ!!!!!!!!」
叫ぶと同時に加藤は凄まじい力で刀を押し上げる。
斉藤は渾身の力でもって抵抗しようとするが、加藤は気合と共に刀を奪い取る。
刀を奪い取ると同時に加藤の蹴りが顎目がけて飛んできた。
 鈍い音と共に斉藤の身体が仰け反る。
仰け反りつつも体勢を立て直そうとしたところへ加藤が両腕を伸ばし、ムンズと斉藤を引っ掴んだ。
「ぬうりゃああ~~~~~~っっっっっっ!!!!!!!!」
気合と共に加藤は斉藤を片手で頭上に振り上げ、そのまま橋に叩きつける。
 ドオオオンンンッッッ!!!
激しい音と同時に衝撃が斉藤の身体に走る。
再び腕が上がったかと思うと、今度は欄干の方へ斉藤を引っ立てる。
斉藤を引っ立てたかと思うと、コンクリート製の頑丈な欄干目がけ、斉藤の頭を思いっきり叩きつけた。
 「ガッ・・・・」
後頭部に強烈な衝撃が走り、思わず斉藤は声を漏らす。
斉藤がよろめいたところへ加藤のパンチがさらに顔面を思いっきりぶっ叩いた。
さらに今度は腹に拳を叩き込まれ、胃液が逆流して咽喉が焼けるかと思えるような衝撃を喰らわされる。
 そこへ加藤のがっしりした力強い両手が斉藤の首にかかった。
首骨も折れよと言わんばかりに強烈な締め上げが斉藤に襲いかかる。
たちまち、斉藤の表情が変化する。
目が飛び出したようになり、口は金魚のようにパクパクし始めた。
 (い・・いかん・・・こ・・このままでは・・・・)
気管を圧迫され意識が薄れゆく中、斉藤は必死に反撃の手段を練る。
本能的に斉藤は左腕をグッと引いたかと思うと思い切り貫手を繰り出した。
 「ごっっっ・・・!!!」
咽喉に思い切り貫手を叩き込まれ、加藤は一瞬息が詰まる。
同時に斉藤の首を締め上げていた手が緩んだ。
 腕が緩むや、すかさず斉藤は脱出する。
「逃すかっっ!!」
脱出した斉藤を捕まえんと再び加藤は腕を伸ばすが、斉藤はクルリと回転しながらかわし、後ろ向きのまま肘を加藤の顔面に叩き込む。
肘打ちに衝撃で吹っ飛ばされるも、加藤はすぐに踏みとどまる。
すぐに両拳を構えたかと思うと、間合いを詰めてきた斉藤に立ち向かい、互いに拳を繰り出した。


 ゴッッッ。
鈍い音と共に互いの拳が相手の顔面に叩き込まれた。
カウンターの衝撃で互いによろめきかけるが、回復は加藤の方が僅かなりとも早かった。
体勢を立て直した加藤は右手をパッと斉藤に突き出す。
「虎魂撃(ここんげき)!!」
技名と共に加藤の右手が光ったかと思うや、光る虎が飛び出した。
これは加藤の奥義の一つで虎の形をした気弾を発射する技だ。
通常は槍の穂先から発射するが、素手でも使うことが出来る。
近距離で撃たれたため、斉藤は避ける暇など無く、もろに気弾の虎の突撃を喰らう。
斉藤の身体はプロペラのように回転したかと思うや宙高く飛び上がり、そのまま地面に叩きつけられた。
虎はそのまま斉藤の後方にいた敵軍の兵士達に命中する。
気弾の爆発と共に数人が吹っ飛ばされた。


 「ぐっ・・く・・くぅ・・・」
斉藤は起き上がろうとするが、散々に痛めつけられた身体は中々言うことを聞かない。
気弾のおかげで胸や腹、頬などは火傷で火ぶくれしており、場所によっては真っ黒になってしまっているところもあった。
斉藤が起き上がろうと必死の努力をしている中、加藤は槍を拾うと倒れている斉藤にゆっくりと近づいてくる。
やがて、槍の間合い内までやって来ると加藤が立ち止まった。
「恨みもつらみもないが・・・・これも戦場で出会ったが故の宿命・・・覚悟を決めるがいい」
加藤はそう言うと槍を構える。
そして、止めを刺さんと斉藤目がけて思いっきり槍を繰り出した。
 槍が斉藤の胴を貫かんと見えた刹那、柄ごと穂先が切断され、宙に舞った。
ハッとして見てみると、斉藤の左手が闘気を纏って光っている。
(しまった!罠だっっ!!!)
加藤が気付いたときには斉藤は闘気を纏ったまま、貫手を繰り出していた。
「喰らえっっ!!無手発破(むてはっぱ)ッッッ!!!!」
貫手が胴に達した瞬間、発破突同様、闘気が爆発する。
「ごぐああっっっ!!!!!」
ブスブスという煙と共に加藤は吹っ飛び、地面に叩きつけられる。
「ご・・がはっ・・・がっふう・・・げはっ・・ぐっは・・」
加藤は激しく咳き込みながら立ち上がろうとする。
だが、もはや体力が限界に達していたのだろう、立ち上がりかけたもののそのまま倒れ伏して気を失ってしまった。
 「はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」
斉藤は加藤が完全に気を失ったのを見ると、荒い息を数度つく。
だが、いつまでもそうしているわけにはいかなかった。
 突然、飛行機の音が鳴り響いた。
ハッとして空を見上げると、小型爆撃機らしい飛行機が頭上を横切っていく。
爆撃機の腹が開いたかと思うと、爆弾が橋目がけて落っこちてきた。
とっさに斉藤は河へ飛び込もうとする。
それと同時に爆弾が橋上に落ち、炸裂した。


 「というわけだ・・・・・・」
斉藤は缶ビールを傾けると、話を聞いていた土方にそう語った。
「なるほど。そいつはやばかったなぁ」
「ああ。マジで終わりかと思ったよ・・・・」
「だが・・・幸いにも生き延びた」
「ああ」
「ところで・・加藤はどうしたんだ?」
「あの男も爆発に巻き込まれたが、どうやら俺同様、衝撃で河に落ちてどこかに流れ着いたらしい。その後、気がついてうまく逃げ延びたそうだ」
「なるほど・・・。とりあえず・・あんたの無事を祝って乾杯だ」
そういうと土方は缶ビールを傾けた。


 ―完―



スポンサーサイト

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

comment

管理者にだけメッセージを送る

プロフィール

山田主水

Author:山田主水
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2投票
無料アクセス解析
FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード