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古刀の怪異



 
 「ぐうわあっっ!!!」
悲鳴と共にのけ反り、そのヤクザはぶっ倒れる。
部下がまた一人倒れるや、組長は猟銃を手にしたまま喉をヒクつらせる。
恐怖と緊張に全身を熱病にでもかかったように震わせつつも、無意識のうちに組長は自らに迫らんとする凶刃に目を向ける。
組長の目が捉えたのは一本の刀。
いわゆる名刀ではないが、それだけに実戦向けのつくりで、見る者が見れば数百年前の刀であろうことも見てとれた。
 この刀はしばらく前に部下から献上されたものだった。
だが、眠っている最中に突然何者かが侵入し、この刀を奪って彼らに襲いかかって来たのである。
一歩、また一歩と侵入者はゆっくりと組長に刃を進めてゆく。
対して組長は銃を構えたまま、ジリジリと後ろへ下がってゆく。
猟銃を手にしているこちらの方がずっと有利なはず。
だが、その組長は得体のしれない何かを侵入者に感じていた。
その感覚が無意識に組長を後ずらせる。
だが、いつまでもそうはしていられない。
やがて、部屋の隅に追い詰められてしまった。
 侵入者は刀を中段に構えてジッと組長を見つめる。
対して組長もにらみ返そうとする。
だが、すぐに気迫負けしてしまう。
気迫で敗れたせいだろうか、組長には侵入者の姿が大きくなってゆくように見えた。
一回り、また一回りとどんどん侵入者の不明瞭な姿が大きくなってゆく。
まるで見上げれば見上げるほどどんどん姿が大きくなるという見越し入道を相手にしているようだった。
 同時に相手の気迫が畳を伝わってゆっくりと熱気のように染み渡ってくる。
皮膚がチリチリと焼けるような感覚がしたかと思うと、そのせいで血まで沸騰してくるように感じる。
同時に冷たい殺気が内臓を犯し、針でチクチクと突き刺されているような、大きく力強い手でジワジワと締めあげられているような感覚が耐え難いほどに組長を責め立てる。
組長の全身からジットリとねばつくような脂汗が吹き出し、寝間着にへばりついて身体を拘束にかかる。
極度の緊張感と恐怖がついに限界を超え、組長は生殺しのような状況に耐えきれなくなってしまう。
怪鳥のような叫び声を上げるや、組長は猟銃をぶっ放す。
同時に刀が滑り込むように一気呵成に迫ってくる。
肩口に焼けた火箸を突っ込まれたような灼熱の痛みを感じたかと思うや、組長の視界が真っ赤に染まる。
やがて彼の意識は薄れゆき、そのまま二度と目覚めることはなかった。


 「おや?また買ったんですか?」
井上は近藤が手入れしている刀を見るや、思わずそう呟く。
剣客の性か、日本刀をはじめとする世界各国の刀剣・武具を集めるのが何よりの趣味だったからだ。
「あぁ。無銘だが中々よさそうなやつだったんでなぁ」
「なるほど。でも随分古そうな刀ですねぇ」
「そうだな。俺の見たところでは早くて天文年間、遅くても天正あたりか」
「となると信長や秀吉が活躍した頃ですねぇ」
「そういうことだな」
「そんな古い刀となると結構かかったんじゃないですか?」
「それが意外になぁ、安かったんだよ。実は・・・」
井上は告げられた刀の値段を聞いて怪訝な表情を浮かべる。
時代などを考えれば安すぎたからだ。
 「何か・・おかしいですねぇ?」
「うむ。真っ赤な偽物だとか大量生産の安物というわけでもないようでな。詳しく聞こうと思ったが店主が全然話さんのだ」
「何か曰くがありそうですね。大丈夫ですか、館長?」
思わず井上は心配になる。
昔話によく登場する村正のように古い刀というものは色々な曰くや因縁に彩られているもの。
迷信を信じているわけではないものの、思わず心配になってしまう。
「大丈夫さ、源さん。それより冷たい麦茶でも淹れてくれないか?暑くてたまらん」
「わかりました。今、お持ちします」
井上はそういうと麦茶を用意する。
 「そういえばしばらく前に芹沢組系の中小組織の組長が何者かに殺されたそうですよ」
「物騒な話だな。抗争か?」
「それがどうも奇妙な話で。侵入した形跡がないとか。それと・・・組長に献上されたはずの刀が無くなっていたとか・・・・」


 その日の夜、その警備員はいつものように館内を見回っていた。
ゴロゴロビシャーンッッ!!ドッガァァーーーーンッッ!!
ザァァァァァァ・・・・・。
雷が鳴ったかと思うや、激しい雨が窓ガラスに猛烈な勢いで降り注ぐ。
「うっわ・・・」
激しい雷雨に警備員は思わず声を漏らす。
(こんな日に夜勤かよ・・・・。運がねえなあ・・・)
そう愚痴りたくなるのを堪えて警備員が見回りを続けようとしたそのときだった。
 ふと、廊下の奥に何か揺らめくものが見えたのだ。
(何だ・・・?)
思わず警備員は懐中電灯の光を向ける。
すると揺ら揺らとボールのようなものが浮いているようだった。
懐中電灯の明かりを頼りにジッと見つめると青い炎の玉が飛び交っているではないか。
「へ・・・?」
信じがたい光景に警備員は間抜けた表情を浮かべる。
同時に人魂のような炎に取り囲まれるようにして、何者かが歩いてくることに気づいた。
 人型の奇妙な影法師のようなものが、音を立てずにゆっくりと接近してくる。
正体不明の異様な存在に、警備員がギクリと全身を強張らせる。
「だ・・誰だ!?何者だ!!」
パニックのあまり、警備員は叫んだ。
揺らめく影法師はそのまま警備員の方へ向ってくる。
ふと、警備員は影法師が何かキラキラと輝くものを持っていることに気づいた。
暗いせいだろう、それが刀であることに気付くのにしばし時間がかかる。
ようやく気付いた時には、揺らめきが目前にまで迫ってきていた。
とっさに逃げようとしたが、時既に遅く、闇の中で一閃が煌いたかと思うと警備員は顔を凍りつかせながらドッと床に仰向けに倒れた。


 (ん・・・・?)
寝室で眠っていた近藤は目を覚ますや、異変を察知する。
寒いのだ。
夏の夜というのは寝苦しいもの。
家によってはタイマー式でクーラーや扇風機を使っているところもあるだろう。
にも関わらず、まるで冬のように寒い。
無意識のうちに近藤は枕元に置いてある刀掛に手を伸ばすと、刀を取って布団の中へ入れる。
 眠った振りをしたまま、近藤は五感をフルに働かせる。
ギシ・・・ギシギシ・・・ギシシ・・・・。
鴬張りにしているわけでも無いのに縁側が大きく軋むような音を立てる。
通常ならこんな足音を立てる相手は取るに足らないが、今回はそう思ってはならないことを本能が告げていた。
緊張した面持ちで近藤はそのまま様子を伺う。
 バタンッッッ!!
乱暴な勢いで通常の戸と障子が思いっきり開いた。
やがて、刀を引っさげた例の影法師がゆっくりと入ってくる。
 影法師が入ってくるなり、さらに寒さが増した。
全身に鳥肌が立ち、両手で身体をさすりたくなる。
だが、そうしたい誘惑を必死に堪え、近藤は寝たふりをする。
一歩、また一歩と気配がこちらへ近づいてくる。
緊張が足元から蛇のように這って体内へ潜り込もうとしているかのような感覚が近藤を襲う。
只ならぬものを感じているのだろう、庭に普段はいる夜行性の生き物達も息を潜めていた。
やがて、気配が立ち止まる。
(来たな・・・・)
近藤はゴクリと息を呑んだ。
目の利かない闇夜だが、相手の気配の位置はわかっている。
すぐ傍といってよいほどの場所だ。
突くなり屈んで斬るなりして攻撃するには絶好の間合いにいる。
布団の中で、近藤はいつでも身を翻し刀を抜ける用意を整える。
 突然、内臓に締めつけられるような感覚を覚えた。
同時に背中が凍りつくかのように冷たく痛い。
侵入者が全身から殺気を放ってぶつけてきたのだ。
負けじと近藤も全身から殺気を放ち、侵入者へとぶつけた。
波が押し寄せるように互いの殺気が相手目がけて這うように進んでゆく。
やがて、殺気と殺気がぶつかり合った。
 近藤は柄が潰れんばかりに固く握りしめる。
全身からドッと汗が噴き出し、寝間着をグッショリと濡らす。
歯を食いしばり、目をカッと見開いて額に青筋を浮かべているその顔は、白刃や銃を構えた相手とにらみ合っているかのようだった。
圧搾機にでもかけられているかのような感覚が全身を襲う。
胃が縮こまり、喉がカラカラに乾く。
相手の殺気がこちらに迫ってきている証拠だ。
 (負けて・・・たまるか!)
近藤は下腹に力を込め、さらに全身から殺気を放つ。
すると胃の収縮感や喉の渇きが少しずつ引き出した。
だが、油断は出来ない。
一瞬でも油断すれば敵の気迫に押し負ける。
実戦で重要なのは技ではない。
気力(胆力)だ。
どんなに優れた技を持つ戦士も、気迫で負けて相手に呑まれたら終わりなのだ。
新撰組があんなにも強かったのも、過酷な訓練と実戦によって並みのことではたじろがない気力・胆力を身につけていたからだ。
侵入者と近藤はジッとしたまま、互いの殺気を相手にぶつけ続ける。
そのまま永遠に続くように思えたが、やがて近藤の身体に変化が訪れる。
脂汗の量が増えだし、また身体の表面にチリチリと肌がやけるような感覚を感じ始めたのだ。
(まずい・・・・・)
近藤は敵の殺気が自身を捕らえはじめたことに気づく。
さながら城門の一つが破られて敵兵の侵入を許してしまったようなものだ。
こちらの殺気の壁の僅かな破れを伝い、これからさらに殺気が流れ込んでくるはず。
押し返せなければ殺気に捕らえられ、それが恐怖や動揺を生み隙を生じさせる。
(あせるんじゃない!落ち着け!落ち着くんだ!)
近藤は自身を叱咤激励する。
少しでも焦れば敵の思う壺。
近藤は殺気をさらに発して敵の殺気を押し返そうとする。
だが、僅かな隙間から流れ込んだ殺気は糸のように全身を伝い、近藤を絡めとりにかかる。
(いかん・・!!)
近藤が危険を感じたその瞬間、今までとは全く比べ物にならない量の殺気が襲いかかった。
 一瞬、息が詰まり、金魚のように口をパクつかせる。
直後、闇の中から布団の近藤目がけて白刃が突き出された。
とっさに近藤は身を翻し、半ばまで鞘走らせる。
現れた刃が敵の凶刃をそらし、ギリギリで切っ先から逃れることに成功した。
同時に足が跳ね上がり、侵入者の股間を蹴り上げる。
人間のものとは思えない奇妙な感触と異様な冷たさに一瞬ゾッとするが、それでも蹴りの衝撃で敵を崩すことに成功するや、床を後ろに転がってゆくようにして逃れ出た。


 近藤はすぐにも立ち上がり、刀を構えて侵入者とにらみ合う。
闇の中で目に見えるのは互いの刃のみ。
一センチ、また一センチと二つの切っ先が傍から見ていて苛立たしくなるほどゆったりとした動きで間合いを詰めてゆく。
しばらくカタツムリのような動きで間合いを詰め合っていたが、再びピクリとも動かなくなってしまった。
直後、再び近藤の全身からジワリと汗が噴き出し始める。
近藤の目には敵の刀から何もかもを凍らせる南極の烈風がこちら目がけて吹き荒んでいるように感じられた。
(恐るべき・・・相手だ・・)
否応なしに近藤はその事実を認識させられる。
世界広しといえど、これほどの殺気を持つ者はかのギース・ハワードやベガ将軍などの強豪中の強豪くらいだろう。
 不意にはっきりしない影のような侵入者の身体が揺れ動いた。
本能的に近藤は後ろへ引く。
直後、左胸から腹にかけて焼けるような痛みを感じた。
ハッとした近藤が胴を見やると、左胸の半ばから腹に向かってまっすぐに切られた跡がある。
しかも、傷口はまるで強烈な摩擦で一瞬にして焦げたようだった。
鍛え上げられた己の感覚でも捉えきれぬ敵の剣の冴えに再びジワリと汗が噴き出してくる。
直後、今度は強烈な衝撃を感じた。
(しまった!!)
敵が体当たりを仕掛けてきたことに気づいたが、時既に遅し。
柔道の要領で足を絡めてきたのを感じると同時に、岩のようにいかつい近藤の身体が思いっきり宙を舞ったかと思うと床に叩きつけられる。
さらに脇腹をとてつもない衝撃が襲うと同時に、コマのように回転しながら近藤は庭へ吹っ飛ばされた。
庭石の一つに背中から思い切り叩きつけられ、ドサリと地面に落ちる。
 「ごはっ・・!ぐふっ!」
咳き込みつつも近藤は立ち上がる。
侵入者は刀を片手に提げたまま、ゆっくりと庭へ出てきた。
ザザッッッ!!
庭の土が舞い上がったかと思うや、残像を幾重にも残しながら近藤の身体が一気に敵へと襲いかかる。
シイッッ!!と短く息を吐く声と共に平らに寝かせた切っ先がボンヤリした侵入者の影のような肉体へ襲いかかる。
繰り出された突きは、視界から刀が消えてしまうほどの速さで侵入者の胴を田楽刺しに貫く。
だが、すぐに異様な事態に気づく。
全く手ごたえが無いのだ。
まるで空気に向かって突きを繰り出したようだった。
 直後、首に万力で絞められているかのような凄まじい圧力がかかる。
空いている方の手で侵入者が近藤の首に掴みかかったのだ。
「ごあ・・・・あぐぅぅ・・・」
この世の生き物のものとは思えぬ、凄まじい力がジワジワと襲いかかる。
顔からは少しずつ、まるでグラデーションのようにして血の気が引いてゆく。
近藤の首を締めあげながら、侵入者はゆっくりとその顔を近付ける。
月明かりが侵入者の顔を照りつけ、その顔がはっきりと映し出される。
顔を見るなり、さすがの近藤もギョッとした表情を浮かべた。


そこにあるのは、髑髏だった。
闇に同化しやすい色合いの薄い皮を纏ったような感じで、髑髏と顔を突き合わせているのだ。
その眼窩の奥には妖しい光が炎のように燃え盛り、こちらを見つめている。
髑髏の口が開き、青い炎が噴き出したかと思うと近藤の顔にかかる。
炎はとてつもなく冷たく、そのせいで肌がイボ用の液体窒素を押しつけたような冷気ゆえの熱さを感じる。
また、死臭を思わせる耐え難い臭いがした。
 おぞましい炎状の吐息にさらに近藤の表情が変わる。
だが、それでも近藤は片手を動かすや、髑髏の顔面目がけて投げつけた。
意外な反撃に驚いたのか、とっさに髑髏怪人は近藤を突き飛ばすようにして投げる。
地面に再び叩きつけられながらも、近藤は着地すると再び立ち上がった。
 態勢を立て直すと、髑髏怪人はゆっくりと近藤の方を振り向く。
再び月に照らされて現れたその姿は何とも異様だった。
学校の理科室などにある全身骨格を見たことはあるだろうか?
それに皮のようなものが全体にへばりついているのを想像して欲しい。
さながら骨が透けて見えるミイラだ。
そして眼窩には薄気味悪い青色の炎が宿っている。
 髑髏は再び刀を両手で構えると、深呼吸するように何度も口を開く。
やがて、真っ青で不気味な炎の吐息を口や鼻の穴から噴き出し始めた。
同時にそれらの炎を吐きながら、雄叫びを上げるかのように口を開く。
声はしなかったが、それでも近藤には怪物の声が聞こえたように感じられた。
直後、怪物は地面を蹴って再び襲いかかって来た。
 切っ先が光の尾を何重にも描きながら互いの身体を貪ろうと襲いかかる。
刃と刃がぶつかり、そのまま噛み合って旋舞するかのようにグルグルと回りながら庭を蛇行するように移動する。
両者とも剣に長けた者のせいか、身体を掠めはすれど致命傷を負わせるには至らない。
しかし、それでも近藤がおされぎみなのは明らかだった。
(くそ・・・いかん・・)
刃を合わせながら近藤は焦燥感に駆られる。
(幾ら斬りつけても・・・どうにもならん!!)
確かに敵の身体に刃を浴びせることは出来る。
だが、姿こそあれどまるで空気を切っているようなものだ。
手ごたえはなく、斬ってもすぐに元通りになってしまう。
逆に敵の刃は確実にこちらの血肉を削ってくる。
決して傷を負うことのない身体に任せ、敵の白刃が嵐のように襲いかかってくる。
いつの間にか近藤の寝間着はボロ雑巾のようになり果て、破れたところからは赤い筋が見えている。
 突然、背中に石の感触を近藤は覚えた、
庭の石塔にぶつかったのだ。
すかさず怪物剣士が切りかかってくる。
負けじと近藤も刀を打ち込むが、刃と刃が触れ合う刹那、こちらの剣が逸らされてしまった。
直後、右の肩口に焼けつくような激痛を感じる。
敵の刃が近藤の刀を反らして弾くと同時に右肩口を貫いたのだ。
 「ぐ・・・ぐぅぅ・・」
切っ先を肩口に突っ込まれ、さすがの近藤も苦痛に顔を歪ませる。
髑髏の異人はそのまま切り下げようとする。
だが、近藤もそうはさせじと、何と素手で刃を引っ掴んだ。
 「ぬ・・・ぬぐぅぅぅ・・・・」
刀も砕けよと言わんばかりに力を込め、近藤は刀を引き抜かんとする。
対して、敵もそうはさせじと強引に押し切るように刀を下げようとする。
下腹に力を込めるや、近藤は刀を引っ掴んでいる左腕に気を送り込む。
腕の筋肉がポンプで空気を送り込まれたように太くなり、青筋が浮かび上がる。
 「ぐぬぅぅぅ・・・うごぁぁぁぁ!!!!」
気合いと共に近藤が髑髏怪人の刀を肩口から引き抜き、相撲取りのように張り手で突き飛ばした。
 「ぐぅ・・くぅ・・ふぅぅ・・・」
刃から逃れることに成功するも、肩の傷は重傷で、息も荒い。
ダメージが激しいのだろう、近藤は石塔に寄りかかるようにして立っている。
(どうする・・・俺の刀や拳ではどうにもならんぞ・・・)
全身に負った傷で貧血状態に陥りながら近藤は必死に策を考える。
(俺の手では・・・絶対に・・くそ・・何か・・何か・・奴に・・傷を・・)
近藤が必死に考えを巡らせる間にも敵は刀を構えて再びジリジリと寄ってくる。
戦士の本能で近藤の視線は敵の剣に引きつけられる。
そのとき、パッと脳裏に閃いたものがあった。
 (ダメかもしれん・・だが・・・)
近藤は覚悟を決めるや、何と刀を放り投げる。
そして、両腕を構えた。
 意外な敵の行動に一瞬、髑髏の怪人は戸惑ったような素振りを見せる。
だが、近藤の身体から未だ殺気が感じられるや、躊躇いを捨てて刀を構える。
再び、両者はジッと対峙する。
あらゆる生き物を沈黙させずにはいられない緊張に満ちた空間の中、近藤の腕や額からは汗が浮かび上がっては滴り落ち、敵の眼窩の奥に見える炎のような光が輝きを強める。
 突然、怪人の口から真っ青で陰気な感じの炎が噴き出した。
同時に地面を蹴立てて襲いかかる。
光の尾を引いて白刃が近藤の身体へと今にも達しそうに見えた刹那、近藤が身体を低くして飛び込んだ。
タックルの要領で組みつくや、両手を使って怪人の態勢を崩す。
相手の態勢を崩すや、すかさず敵の腕を取って今度は柔道の技で投げる。
地面に叩きつけるや、衝撃で微かに緩んだ怪人の手から刀を奪い取るや、逆さに手にして思いっきり異人の腹へ突き立てた。
 異人の口から凄まじい勢いで真っ青な、氷のように冷たい炎の吐息が噴き出される。
まるで苦痛に苦しむかのように手足をかきむしり、身体をのたうたせる。
「やはり・・・そうか・・・・」
近藤は苦しい息の下で想像が当たったと言いたげに呟いた。
自分の武器では決して傷つけることは出来ないとわかっていた。
だが、怪物自身の剣ならば?
敵自身の力ならば通じるかもしれない。
その可能性に賭け、敵の剣を奪って突き立ててやったのだ。
 やがて、傷口から強烈な光が噴き出したかと思うと、そこからひび割れが魔物の全身に走る。
そのひび割れからも光が迸り、ボロボロに身体が崩れるや、欠片がさらに崩れて灰と化した。
「やっと・・終わりか・・・」
心底からホッとしたように呟くと、近藤は疲れたと言わんばかりに地面に座り込んだ。


 数日後・・・・。
「大丈夫ですか?館長?」
井上は右腕を動かしている近藤を見ながら問いかける。
「ああ。だいぶよくなったよ。心配かけたな」
「いいえ。治ったようなら安心です」
「それより例の刀の件、調べてくれたか?」
「はい。それなんですが・・・えらいことがわかりましたよ」
「何だ?それは」
「実は・・・あの刀・・・伊東一刀斎(いとういっとうさい)の持ち物だったという言い伝えがあるんです」
「何だと!?」
さすがの近藤も驚きの声を上げた。
 伊東(伊藤)一刀斎。
戦国時代を代表する大剣豪の一人で、現代剣道の遠いルーツである一刀流の創始者だ。
剣に生きる人間なら知らぬものなど無い存在である。
「何か由緒や曰くがありそうとは思ったが・・・そんな言い伝えがあったとは・・・」
「ええ。その言い伝えによると、どうやら放浪の旅の中、ある寺で彼は臨終を迎えたのですが、いまわの際になってもその修羅の魂衰えず、魂はこの世にとどまって未来永劫につわものを求め続けると言い残して死んだと・・・」
「なるほど・・・一刀斎ならあり得ることだな・・・」
 剣豪には二つのタイプがある。
一つは剣を人格修養と結びつけるタイプ。
剣聖と呼ばれ人々に讃えられた上泉信綱などがそうだ。
もう一方は剣はあくまでも実戦の技術ととらえ、ひたすら強さや戦いを求めるタイプだ。
一刀斎は後者のタイプで、生涯を一介の剣士として生き、ひたすら戦いを求めていた。
そのせいか、彼の後継者である小野忠明などは非常に気性が荒々しい。
後継者を小野忠明に決めた後、放浪の旅に再び出てしまったために彼の晩年は明らかになってはいないが、その人間性を考えれば死ぬ間際になっても戦いを求める執念を見せたとしてもおかしくはない。
 「そして彼が死んだ後、さすがに何かを感じたのか、僧たちは遺品の刀を丁寧に供養しようと思ったそうですが、その前に泥棒にあって無くなってしまい、剣術家や軍人、暴力団の組長など武や戦いに関する人々の手から手へ渡り、そのたびごとに犠牲者や曰くが増えていったそうです・・・・」
「恐ろしい・・・執念だな・・・・」
近藤は一刀斎の戦いを求めるその凄まじい執念に思わず背筋が凍る。
恐らく、自分が経験したように、妄執が亡霊の形を取り、刀を得たものたちへ挑んだのだろう。
「源さん・・・。すまんが完全にあの刀、廃棄する手続きを取ってくれ。惜しい気もするが、そんな曰くがあるのなら潰して清める方が安全だろう・・・」
「はい。そうします・・・」
その後、刀はお祓いなどを本業とするさる業者に引き取られ、きちんとお祓いをした後、完全に破壊されたという・・・。


 ―完―
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