ダンジュー修道院29 奉納品1



 「ううう~~~。疲れた~~~」
どっと疲れきった表情を浮かべると、本棚の間にラウールは座り込んでしまう。
今日は図書室での掃除や本棚の整理の仕事が当番で当たったのだ。
だが、元々サボりぐせがある上、広くて大量の本を納めた図書室で掃除や整理などという作業は、ラウールにとっては拷問そのものだった。
 しかし、サボっているのが見つかったら怒られる。
ラウールは真面目に作業しているような振りをしながら、見咎められずに一息つける場所がないか物色しだす。
「きゃあああ~~~~~っっっ!!!」
突然、悲鳴が聞こえたかと思うと、続けて何かが立て続けに落ちる音がした。
「何!?一体」
とっさにラウールは音の聞こえた方へ走りだす。
駆けつけた先では、本棚からごっそりと落ちた本が大量に床に散らばっていた。
 「うぅぅ・・・・」
床に散らばった本の上でチサトが身体を押さえて呻いている。
「チサちゃん!?大丈夫!?」
整理作業中にまたドジをやらかして本を盛大にぶちまけると同時に墜落したのだと気づくや、ラウールは駆け寄って助け起こした。
 「だ・・大丈夫です・・・。うぅ・・・また・・やっちゃった・・・」
チサトは目の前に散乱する本を見やりながら、思わず沈んだ声で呟く。
以前にも同じドジをやってしまったことがあるからだ。
 「何の音だ!?」
野太い声が聞こえ、ハッとして二人が振り向く。
二人の目に飛び込んできたのは岩のように厳つい身体と真っ赤な髪。
「バ・・バルバロッサさん・・・」
チサトはバツの悪そうな声で呟く。
バルバロッサはチラリと散らばった本の山を見やると、ため息混じりの声で
「また・・やりおったんか・・」
と呟いた。
「ご・・ごめん・・なさい・・・」
「ごめんなさいやないやろうが・・。わかっとるな?」
バルバロッサの問いにチサトは沈んだ表情で頷くと、後について図書室を後にする。
懺悔室でお仕置きが待っているのだ。
自分も経験者なだけにラウールは思わず同情的な表情を浮かべて見送る。
不意にバルバロッサが立ち止まったかと思うと、ラウールの方を振り返った。
 「おい、その本、片づけておけ」
「え!?僕がですか?」
「不満か・・?」
声の調子や表情が変わりかけ、慌ててラウールは首を振る。
うかつに拒否したらこっちまでお仕置きされてしまうかもしれない。
バルバロッサは渋々ながらラウールが了承したのを見ると、しょんぼりしているチサトを連れて図書室を後にする。
残されたラウールはため息をつくと、片づけに取り掛かり出した。


 (今頃泣いてるだろうなぁ・・・)
片づけをしながらラウールはそんなことを想像する。
バルバロッサのお仕置きは容赦ない。
自分も叩かれているからよくわかる。
だから、チサトが泣き叫んで手足をバタつかせる姿が容易に想像できた。
 (うぅ・・・想像したら僕までお尻痛くなってきた・・・)
ラウールは思わずお尻に手を回すとさすりだす。
想像しただけなのに身体が錯覚したのか、本当にお尻が痛く感じだしたのだ。
その痛みを取ろうとさすっていると、ふと片づけかけの本からはらりと何かが落ちる。
 「あれ?何だろ?」
ふと手に取ってみると、折りたたまれた紙だった。
見てみるとかなり古い。
ふと好奇心に駆られて広げてみると、古文書らしい。
文章を読んでいくうちにラウールの目が輝きだす。
どうやら面白そうなことを見つけたようだった・
本能的にラウールは再び紙を折りたたむと、懐にしまってしまう。
そして、何気ない様子で片付けを再開した。


 まだ真っ暗で一般人は眠っている時刻。
礼拝堂では修道士達が集まり、祈りを捧げていた。
夜間の祈りだ。
修道院の一日は本当に早い。
まだ午前の2時や3時という時刻から起きて1日の最初の祈りを行うのだ。
ラウールも当然のことながら皆と共に祈っているが、舟を漕ぐようにうつらうつらしている。
 (ラウールさん、ラウールさん)
他の者にバレないように小さな声で呼びかけながら、チサトはこっそりラウールの身体を揺する。
揺さぶられたことでラウールはハッと目を覚ますや、慌てて取り繕い、皆と共に祈りの言葉を唱える。
チサトはホッとすると同じように皆と共に祈りの言葉を唱えた。
 「助かったよチサちゃん~。危うく怒られるところだったよ~」
祈りが終わった後、ラウールは移動しながらチサトに礼を言う。
祈りの途中で居眠りなどということはあまりよろしくない。
うっかりすると怒られてしまうことだった。
「怒られなくてよかったですけど、もしかしてまた夜遊びとかしてるんですか?」
「えへへ・・まあそんなところかな?」
ラウールは誤魔化しと愛嬌の混じった笑みを浮かべながら答える。
「えへへじゃないですよ~。少しは自重した方がいいですよ、ラウールさん?」
チサトは心配そうな表情を浮かべて言う。
「わかってるよ、心配してくれてありがと」
しばらく二人は移動しながら話していたが、やがてそれぞれ割り当ての仕事へと向かっていった。


 消灯時間が過ぎ、既に修道士達が眠りについたはずの頃・・・。
ラウールはこっそり起きだしたかと思うと、小型の懐中電灯や例の古文書、そして何やら別の紙などを持ち出す。
そして慎重に扉を開けると、ラウールは抜き足差し脚でゆっくりと廊下へ出て歩いてゆく。
ドロボウ映画の主人公さながらの慎重な足取りで、ラウールは修道院の地下の方へと降りていった。
 (うっわ・・・何か・・不気味だなぁ・・・)
地下の廊下を通りながらラウールはそう呟く。
元々薄暗く、修道院の例に倣って廊下や天井にはおどろおどろしい彫刻が刻まれたりしているからだ。
懐中電灯の僅かな光のもとで見ると、そういった彫刻がまるで今にも襲いかかって来そうに見える。
やがて、ラウールは地下の奥も奥までやってきた。
 目的の場所にたどり着くと、目の前に立ちはだかる扉をジッと見つめる。
扉は重厚なつくりで、かなりの年月を経て古色蒼然としている。
しかし、それが刻まれた恐ろしい怪物や地獄の光景などにさらなる迫力を与えていた。
ラウールは扉を見つめると、ゴクリと息をのむ。
特別なときなどを除いて非公開の文物などを収納しているため、立ち入り禁止となっている場所だからだ。
もっとも、イタズラ小僧なラウールがそんな禁令を正直に守るわけもなく、以前一度だけ中へ入ったことがあった。
しかし、ものの見事にバレてしまい、きつーいお仕置きをされることになったのだ。
それ以来、このあたりには近づかないでいた。
だが、苦労の末に解読した古文書には、非常に面白いことが書かれていた。
この修道院にある剣が奉納されているというのだ。
それもただの剣ではない。
十字軍の時代のもので、アラビアのモスク(イスラム教の寺院)の奥深くに封印するかのように奉納されていたものを戦利品としてある貴族が持ち帰ったものらしい。
それは世にも素晴らしい剣であったが、魔剣などと呼ばれて色々と怪談じみた奇怪な逸話を残しているものだという。
以前の持ち主も、一族の誰かが戯れにそれを持ち出したら大変なことになってしまい、そのため、修道院へ寄進し、当時の院長の判断によりこの部屋へやはり封印でもするかのようにしまったのだという。
 まるで時代物の怪奇映画のような話に、ラウールはすっかり好奇心をそそられてしまった。
それで是非ともそんないわくつきの剣を拝んでやろうということで、ここまでやってきたのである。
 しばらくの間、進みかけては足を引っ込め、或いは首を左右に振るうといった、躊躇いを感じさせる動作を見せていたが、やがて覚悟を決めたのだろう、ラウールはゆっくりとドアに近づく。
扉の目の前にまでやって来ると、ラウールは映画に出てくる泥棒が使うような細い針金のようなものを取り出した。
ラウールは針金を頑丈な錠前に差し込むと、慎重に針を動かす。
やがて、カチリという音と共に錠が外れると、ラウールは慎重に錠前を取り外した。
 軋むような音と共にドアが開かれ、ラウールは中へ入る。
「けほ・・けほほ・・・」
中へ入るとラウールは咳き込む。
滅多に人の入らない部屋だけに埃が溜まっているのだ。
(相変わらず埃っぽいなぁ・・。しかも乱雑としてるし・・)
年代物の祭器をはじめとする様々な品が所狭しと並んでいる状況に思わずラウールはそう呟く。
ラウールは積んであるものが崩れ落ちたり、身体をぶつけたりしないように、針を縫うようにして慎重に進んでゆく。
やがて、目的の品のある一角へたどり着いた。
 「これが・・・・」
ラウールは目の前に置かれた頑丈そうな箱を見下ろす。
箱は二重三重の錠前と鎖で厳重に封印がされている。
間違いない。
そう確信すると、ラウールは針金で錠前を開ける作業に取りかかる。
古い錠前のせいかかなり苦労したが、それでも悪戦苦闘をつづけるうちにようやく鍵が外れた。
 ゆっくりとふたを開けると、中から剣が現れる。
現れたのは、三日月状に湾曲したいわゆる三日月刀といわれるタイプの剣だ。
手を伸ばして剣を取り出すと、ラウールはゆっくりと引き抜く。
 「うわぁ・・・・・・」
刀身を見るなり、ラウールは思わず感嘆の声を漏らした。
刃は素人のラウールが見てもわかるほど、最高級の鋼で作りあげられており、懐中電灯の光を反射して美しく、そして何とも妖しく輝いている。
表面には木目状の模様が浮かんでいるが、それが万華鏡のように変化するように見え、何とも神秘的な感じを与えている。
 ラウールは腑抜けたような表情で、食い入るように剣を見つめている。
やがて、催眠術にかかったかのようなとろんとした目つきになる。
突然、ラウールはハッとした表情を浮かべた。
足音らしいものを聞きつけたのだ。
本能的にラウールは後ろを振り向きながら剣で薙ぎ払っていた。


 「全く・・・二人ともどこ行きおったんや・・・」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、バルバロッサは廊下を歩いていた。
窓の外は未だ暗く、明かりがないとろくに見えない。
だが、既に述べたようにこんなまだ暗いうちから修道院の1日は始まっている。
少し前まで夜中の祈りを行っていたところだった。
そこで、ラウールとチサトの姿が無いことに気づき、探しているところなのである。
(また夜遊びなら何やらしとるんやないやろな。見つけたら二人とも尻引っぱたいてやる!)
そんな決意をしたときだった。
 突然、悲鳴のような声が聞こえてきた。
「ありゃ・・・」
バルバロッサは聞くなりすぐにチサトの声だと気づく。
本能的にバルバロッサは悲鳴の聞こえてきた場所へ向けて、一目散に走っていた。
 地下へ降り、廊下を走って駆けつけたバルバロッサの目に飛び込んできたのは信じられない光景だった。
チサトは恐怖に顔を引きつらせ、壁に背をつけ床にへたり込んだ姿でジリジリと後ずさっている。
そして、妖しく煌くアラブ風の湾刀を手にしたラウールはにじり寄るようにして間合いを詰めていた。
 「おい!何してやがる!!」
とんでもない状況に思わずバルバロッサが声をかけると、ラウールはキッと振り向く。
その表情はまるで飢えた獣のようで、普段の明るいお調子者、イタズラ小僧な姿は全く感じられない。
血に飢えた野獣か完全に精神が崩壊した薬物中毒者とでもいったような表情だった。
 「キィ・・キェェェェェェェェ!!!!」
怪鳥のような叫び声を上げたかと思うと、湾刀を振り上げてラウールが床を蹴って飛び上がる。
信じられないことにラウールは数メートルもの距離をたった一蹴りの跳躍で詰めてしまい、バルバロッサの目の前に降り立つ。
着地と同時に横凪の一閃が襲いかかり、咄嗟にバルバロッサは後ろへ飛び退くが、修道服が切り裂かれ、肌があらわになる。
(何て・・太刀筋だ!!)
古の剣豪さながらの凄まじい技とプロの殺し屋さながらの殺気に、昔は血なまぐさい稼業で鳴らしたバルバロッサも背筋に冷たいものが走る。
ラウールは右足を踏み出し、剣をグッと前に出して振り上げた体勢で構えたかと思うと、ニヤリと笑みを浮かべる。
直後、滑るようにしてラウールは一気に接近する。
そしてまるで幾重にも分裂したかのようにバルバロッサの目の前に大量の切っ先が現れた。
 「ぐ・・!!」
バルバロッサは後退しつつ、必死にかわそうとする。
だが、一歩下がるたびに腕や胸の布地が破れてゆく。
しばらくすると修道服は腕や胸の部分がボロ雑巾のようになってしまった。
やがて、バルバロッサは背中に固い石の壁が当たるのを感じる。
(しまった!)
隅に追い詰められたことに気づくと同時に、バルバロッサはラウールの方を見やった。
 ラウールはゾッとするような笑みを浮かべると、高々と湾刀を振り上げる。
さすがのバルバロッサももはや最後と観念する。
ラウールが切りかかろうとしたそのときだった。
 「ダメです!!ラウールさんっ!!ダメですっ!!」
突然、華奢な腕がラウールの腰に絡みついたかと思うと、ラウールの背後から必死の声が聞こえてくる。
ハッとしてバルバロッサが見つめると、背後からチサトがしがみついているのだ。
「バカ!!何してやがる!!」
思わずバルバロッサは叫んでしまう。
剣に取り憑かれたラウールは容赦なくチサトをひきはがすと、片手でドンと押しのける。
突き飛ばされた衝撃でよろめいたかと思うと、チサトは尻もちをつくようにして床にへたり込んだ。
 ラウールはゆっくりと振り向くと、切っ先をチサトの方に狙い定める。
「ひ・・・!!ら、ラウールさんっ!!目・・目を・・覚まし・・・」
チサトは必死に呼びかけるが、ラウールは湾刀を構えたままゆっくりと歩み寄る。
恐怖のあまり、チサトは座り込んだまま後ろへ下がろうとする。
(ヤバイ!!)
本能的にバルバロッサは駈け出していた。
ラウールに向かって走りながらバルバロッサはグッと拳を振り上げる。
背後の気配に気づいたラウールが振り向きかけた刹那、全力で振り下ろされたバルバロッサの拳がラウールの後頭部に命中した。
 衝撃でラウールの身体が撓むようにして縮こまったかと思うと、グラグラと身体が揺れる。
そして、そのままヘナヘナと崩れ落ち、同時に力を失って緩んだ手から滑るようにして刀が落ちた。
「ハア・・・ハアハア・・・・」
完全にラウールが気を失ったのを確かめると、バルバロッサは床にドサリと座り込む。
その顔にはジットリと脂汗が噴き出していた。
 「ば・・バルバロッサさぁん・・・大丈夫・・ですかぁ・・・?」
心配そうな表情でにじり寄りながら、オズオズとチサトは尋ねる。
「こんの・・馬鹿野郎!!!」
突然、バルバロッサはチサトを怒鳴りつけた。
思わず、チサトは引きそうになってしまう。
 「何考えてやがんだ!!叩っ切られたらどうするつもりだったんだ!!」
「ご・・ごめんなさい・・。でも・・・」
「でももストもあるか!!チサト・・・」
バルバロッサの表情に思わずチサトはゴクリと息をのむ。
怒っているのは明らかだったからだ。
「誰か・・・人をよこしてくれるように言ってこい・・・。そしたら・・・いつも通り懺悔室で待っとれや・・ええな?」
チサトはコクコクと頷くと、その場を後にする。
一方、バルバロッサは修道服を脱いだかと思うと、床に落ちていた湾刀にかけ、そのまま包んでしまう。
そして直接触れたり、刃を見つめたりしないように慎重に持ち上げた。
しばらく待っていると、院長や他の修道士が数人駆けつけてくる。
バルバロッサは院長に剣を差し出すように見せると、一部始終を報告する。
その後、バルバロッサと院長が剣を抱えて地下へ向い、他の修道士達は気絶したラウールを連れて行った。


 ―続く―
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