ダンジュー修道院30 母の再訪



 歴史を感じさせる古い屋敷。
その庭園の片隅に小さいながらも立派な温室が建てられている。
温室の中は鉢植えを載せた棚であふれており、さながら花屋のようだった。
 その中を人影がゆっくりと動いている。
影の主は40代後半と思しき女性。
長く美しい銀髪の持ち主で、作業に適した質素で動きやすい格好をしていても、どことなく気品とそこからくる美しさを感じさせる。
ラウールの母親のクラリスだ。
 クラリスはどの鉢にも愛情の籠った目を向けるが、中でも真珠のように美しい白い花を見ると、微笑みを浮かべる。
白い花の名はマーガレット。
清楚な感じを与える花で、花占いなどにも使われる。
園芸が趣味の彼女はどの花も好きだったが、中でも特にこの花がお気に入りだった。
美しく清らかな印象を与えることもあるが、それだけではない。
 (元気に・・してるかしら・・?)
クラリスは花を見つめながら、修道院にいるはずの息子の顔を思い浮かべる。
もうどれくらい昔だろうか、まだ幼かったラウールが誕生日にプレゼントしてくれたのがこの花だった。
母親が綺麗な花が好きということで、泥んこになりながらも綺麗な花を一生懸命探してきてくれた。
無垢な笑みを浮かべて花を差し出してくれた幼いラウールの姿は今も覚えている。
それ以来、マーガレットは彼女の最も好きな花となった。
 クラリスが花を見つめながら息子のことを思い出していると、ふと執事がやってくるのがガラス越しに見える。
執事は初老の男で、まめまめしく彼女に仕えてくれていた。
 「失礼いたします、奥様」
慇懃な態度で執事は女主人に声をかける。
「どうしたのかしら?」
「奥様にお手紙が届いております」
そういうと、執事は手紙を差し出した。
 クラリスは受け取ると差出人を見やる。
差出人は修道院の院長。
それを見るなり、少しだけクラリスの表情が曇った。
修道院から来る手紙は二種類。
一つはラウール本人からのもの。
こちらは茶目っ気に満ちている点を除けば普通に一人暮らしの若者が家族に送る内容のものだ。
もう一つが院長からのものだが、これは普段の素行や寄進の協力に対する願いなど。
大抵はラウールの素行に関する知らせが多かった。
(また何かイタズラでもしたのかした・・・変わってないんだから・・)
クラリスはため息をつきつつ、手紙を読んでゆく。
だが、手紙を読んでゆくうちに信じられないとでも言いたげな表情に変ってゆき、同時に肌から血の気が引いてゆく。
さらに手紙を掴んでいる手がわなわなと震え出した。
 彼女はゆっくりと執事の方を振り向いたかと思うと、口を開く。
「修道院に行きます。すぐに然るべく手配をするように」
「かしこまりました」
執事は一礼するとすぐに出てゆく。
クラリスは手紙にチラリと目を落とすと、何とも表現しようのない表情を浮かべた。


 その翌日、ラウールは下手するとつんのめってしまうのではないかというくらいの勢いで廊下を走っていた。
時々すれ違う年上の修道士にぶつかりそうになりながらも、ラウールは女性外来者接待室へたどり着く。
ドアが外れてしまうのではと思えるほどの勢いで開け、飛び込むようにして入ると、そこには母の姿。
 「母さ~んっっ!!」
ラウールは叫んだかと思うと、飛び込むようにしてクラリスに抱きついた。
「もぅ・・何をしてるの・・・いい年をして・・・」
まるで幼児のような息子の行動に思わずクラリスは苦笑する。
「だって・・嬉しいから~~」
「本当に変わってないわねぇ」
苦笑しつつもクラリスは息子を抱きしめる。
「いいじゃない~。あっ、そうだ。今、お茶淹れるから」
「いただくわと言いたいけど・・・ラウール、今日は母さん話があって来たの」
「どうしたの?そんな改まって?」
ラウールは怪訝な表情を浮かべて尋ねる。
 「昨日・・・また母さんのところに院長様から手紙がきたわ」
その言葉にラウールはゴクリと息を呑む。
院長からの手紙ならば素行についてのことに違いない。
となると母の目的は叱りにきたというわけだ。
「そ・・それで・・・?」
震えた声でラウールは尋ねる。
「ラウール・・・手紙には・・面白半分に曰くつきの危険なものを勝手に触った上・・・それでお友達に大変なことをしかけたそうね?本当かしら?」
クラリスは嘘を許さぬ鋭い視線で息子を見つめる。
普段なら逃げたり誤魔化そうとするラウールだったが、母にだけはそれは出来なかった。
 「ごめんなさい・・全部・・・本当のことなんだ・・」
ガックリと肩を落とし、降参といった感じでラウールは答える。
「まさかとは・・・思っていたけど・・・・本当だったのね・・・・」
さすがにクラリスは表情を曇らせる。
これがいつも通りの酒の盗み飲みやいかがわしい店への出入り程度ならどんなによかっただろうか。
だが、手紙には面白半分に曰くつきの危険な剣に触り、その結果正気を失ってラウールが危うく人を傷つけるところだったことを記していた。
とはいえ、手紙の内容はラウールの素行に関するものではなかった。
逆に、修道院側の不手際により危険極まりない品をきちんと管理できず、その結果ラウールに大変なことを仕出かす機会を与えてしまったことを謝罪するものであった。
 「反省してるのかしら?」
「し・・してるよ・・ちゃんと・・・」
ラウールがおずおずと答えると、クラリスは椅子に座る。
そして、軽く膝を叩きながら
「わかっているわね?」
と促すように尋ねた。
それを見るや、ラウールは顔をクシャリと歪める。
「か・・母さん・・・そ・・それは・・・」
ラウールは目をウルウルさせて訴えかける。
「悪いのはお前でしょう?さぁ、来なさい」
「うぅ・・・」
ラウールは諦めた表情を浮かべると、肩を落とし、しおしおと母の傍らへ行く。
クラリスの脇に立つと、視線を落とし、ジッと膝を見つめる。
 「何をしているの?さぁ、早くしなさい!」
クラリスは容赦のない声で叱りつけるように息子を促す。
ラウールはビクッと一瞬全身を強張らせると、慌てた様子で母の膝にうつ伏せになった。
息子がうつ伏せになると、クラリスは修道服を捲りあげ、ズボンを降ろしてお尻をあらわにする。
 「う・・あぅぅ・・・」
この年になって母親にお尻を見られるという事態に、ラウールは耳まで真っ赤にしてしまう。
「か・・母さん・・・」
「ダメです。恥ずかしいのもお仕置きのうちです。よぅく反省しなさい」
母の言葉にラウールは黙るしかなかった。
 クラリスは左手で息子の身体を押さえると、右手に丁寧に息を吐きかける。
「さぁ、覚悟はいいわね?」
ラウールはギュッと口をつぐむと黙って頷く。
それを見ると、クラリスはゆっくりと右手を振り上げた。


 パアシィンッッ!!
甲高い音が鳴り響き、ラウールは身を強張らせる。
パアシィンッ!ピシャアンッ!パアアンッ!パチィンッ!
「・・・ぁ・・・ぅ・・・っ・・・ぁ・・・」
微かなうめき声を漏らしつつも、ラウールは母からのお仕置きを耐えようとする。
 ピシャアンッ!パアチィンッ!パアシィンッ!パアアンッ!
「全く・・何ということをしたの・・」
呆れが入り混じった口調でクラリスは息子のお尻を叩く。
パアシィンッ!パアアンッ!ピシャアンッ!パアチィンッ!
「夜遊びをしたり規則を破るくらいなら・・・まだしも・・・」
ピシャ~ンッ!パアア~ンッ!パッチィ~ンッ!ピッシャ~ンッ!
「あ・・う・・う・・く・・・」
平手の勢いが強くなってきたためか、ラウールの表情はより苦しそうなものへと変わる。
ピッシャ~ンッ!パアッシィ~ンッ!パッチィ~ンッ!パッアァ~ンッ!
「危ないものに手を出して・・・お友達を危ない目に合わせるだなんて・・・」
パアッシィ~ンッ!ピッシャ~ンッ!パアッシィ~ンッ!パアア~ンッ!
「くぅ・・ひぅ・・うくぅ・・・あっ・・・」
ラウールは苦痛に母親のスカートの裾をギュッと握りしめる。
お尻もほんのりと赤く色づき出していた。
「そんな子に育てた覚えは・・・母さんありませんよ!」
バッシィ~ンッ!バアアアンッ!バチィンッ!バアシィ~ンッ!
「ひっ!わぁんっ!痛あっ!ひゃあんっ!」
突然、平手の勢いが強くなり、思わずラウールは悲鳴を上げてしまう。
 バッシィ~ンッ!ビッダァ~ンッ!バッアァ~ンッ!バッチィ~ンッ!
「本当に・・・悪い子っ!悪い子っ!」
クラリスは叱りつけながら全力を込めるようにしてお尻を叩き続ける。
「うっ・・か・・母さぁん・・ごめ・・ごめんなさぁい・・・ごめんなさい~~」
ラウールは必死になって謝った。
「『ごめんなさい』は当たり前でしょう!今日は本気で怒ってるのよ!まだまだ許しません!」
クラリスはそういうと、さらに息子のお尻を叩き続けた。


 「ハア・・・ハアハアハア・・・」
クラリスは息をつき、右手をさすっていた。
彼女の右手は赤く染まっており、これ以上叩くのは無理そうだった。
 「か・・母さん・・・だ・・大丈夫・・?」
お尻の痛みを堪えながら、ラウールは心配そうに母親を見やる。
しょっちゅう母親にお尻を叩かれては叱られていた子供時代ならいざ知らず、今のラウールは20代前半の立派な若者。
40代後半の母親にとっては膝の上に長時間載せているのも重労働のはずだ。
それに痛いのは叩かれる方だけではない。
素手で叩いている以上、叩く方だって手が痛いのだ。
 「大丈夫よ・・これくらい・・。それより・・まだ・・お仕置きは終わってないわよ。ラウール・・・壁に・・手をつきなさい・・」
「ま・・まだ・・叩くの・・?」
ラウールは問いかけるように尋ねるが、クラリスは有無を言わせない調子で促す。
やむなく、ラウールはお尻をさすりながらも立ち上がると、壁際に行き、壁に手をついてお尻を突き出した。
 (大丈夫・・かな・・・・)
ラウールはまだお尻を叩く気の母親に思わず心配になる。
母親がまだ怒っているのは仕方がない。
友達を傷つけそうになったのだから。
だからまだお仕置きされるのは我慢できた。
 しかし、自分のお尻よりも母の手の方が赤くなっている。
それに自分を膝にのせていたせいか、疲れているのにも気づいていた。
このままだとへたばってしまうのでは?
思わずそんなことを考えてしまった。
 クラリスはその間にも右手を回して息子の腰を押さえる。
ラウールは赤みを帯びたお尻にキュッと力を込める。
直後、クラリスの左手が振りあげられたかと思うと、息子のお尻目がけて思い切り振りおろした。


 ビッダァ~~ンンッッッ!!
「きゃあああんんんっっっ!!」
予想外の強烈な痛みに思わずラウールは悲鳴を上げた。
(何!?何で!?)
思わずラウールが振り返ってみると、母親の手には靴べらが握られていた。
 「か・・母さん・・・ま・・まさか・・・」
ラウールは蒼白になりながら尋ねる。
「そう、これでお前のお尻を叩いてあげます。覚悟なさい」
そういうや、さらにクラリスは靴べらで息子のお尻を叩き続ける。
「ひゃあ~んっ!きゃあんっ!痛っ!母さん痛い~~~~!!」
「お仕置きだと言っているでしょう!反省しなさい!」
「わぁあ~~んっ!ごめんなさぁぁ~~い~~~~!!」
ラウールは必死に母親に謝罪するが、クラリスは容赦なく靴ベラを振り下ろし続ける。
肌を打つ音とラウールの悲鳴、クラリスの叱りつける声とが入り混じり、客室内に響き渡っていた。
 「ひっひぃん・・・痛ぁぁいい・・・・」
ラウールはボロボロと涙をこぼしていた。
今やお尻は濃厚なワインレッドに染め上がっており、焼けた石炭のように熱くなっている。
 「ラウール・・・反省したかしら?」
そろそろ頃合いだと見たのだろう、クラリスは靴ベラを振るう手を止めると、息子にそう尋ねる。
「した・・してるぅぅ・・ごめんなさい・・ごめんなさぁい・・・」
ラウールは母親に許してもらいたくて必死に謝った。
 「なら何が悪かったのかしら?言ってごらんなさい」
「ひぃん・・・と・・友達・・き・・傷つけ・・そうに・・なった・・」
「そうね。でも・・もっと・・大事なことがあるでしょう?」
「え・・ええと・・・」
ラウールは必死に考える。
だが、中々考えがまとまらないのだろう、百面相している息子に母親は助け船を出してやる。
 「ラウール・・・・今回のことを聞いて・・母さん・・どれだけ驚いたか・・・考えたかしら?」
「え・・ええと・・それって・・・」
「お友達を傷つけるようなことをしたと聞いて・・母さん・・・本当に・・・ビックリしたのよ・・・。幸い・・何事も・・無かったようだけど・・・もし・・・大変なことを・・お前が・・してしまっていたら・・そう思うと・・もう・・本当に・・」
「し・・心配・・して・・くれた・・?」
ようやく、ラウールは母親がこんなにも怒っていた理由に気づく。
 「やっと・・わかってくれたわね・・。全く・・手のかかる子なんだから・・・」
クラリスはそういうと息子を正面に向け、抱きしめる。
「母さん・・・心配かけて・・ごめんなさい・・・」
ラウールはそういうと、母親を抱きしめ返した。


 「大丈夫?ラウール?」
「うん・・大丈夫・・・」
クラリスはソファにうつ伏せになっている息子のお尻に薬を塗りながら尋ねる。
「それより母さん・・・手・・痛くない・・・?」
ラウールはお仕置きで赤くなった母の手を見やりながら尋ねる。
「大丈夫よ、それよりお尻の方が痛いでしょ?」
「平気だよ・・これくらい・・。それに・・・これだけ僕のこと・・心配してくれたってことだから・・・痛いけど・・幸せかな」
「まぁ。相変わらず口が上手いんだから」
母親が思わずクスリと笑うと、ラウールもつられるように笑みを浮かべた。


 ―完―
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