スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ダンジュー修道院・番外編5 沈黙の天使(微スパ)



 (スパが少ししかありません。許容出来る方のみご覧ください)


 「へくしょんっ!!ぶるぅぅ・・・」
正門脇にある門番小屋にいる老修道士は思い切りくしゃみをすると、手をこすり合わせる。
「大丈夫ですか?」
チサトは窓の外から思わず声をかけた。
 「あぁ、大丈夫じゃよ。それより・・終わったかの?」
「ええ。こんな感じでいいですか?」
門番の老修道士は外へ出ると小屋の窓や壁をジッと見やる。
手入れがされていなくて汚い感じになっていた小屋は、よい意味で古びた感じの綺麗な姿になっていた。
 「こりゃあ上々じゃ。すまなんだのう」
「いいんですよ、お役にたてれば」
額に浮かんだ汗を袖で拭きながらチサトは返事をする。
こじんまりとした小さな小屋とはいえ、窓や壁を丁寧に掃除するのは重労働なのだろう、頬は赤く上気し、湯気が髪から上がっている。
「力仕事で疲れたじゃろ。お茶でも淹れてやるから小屋に入るといい」
「それじゃあお言葉に甘えてご馳走になりますね」
チサトはそう言うと、老修道士の後について門番小屋に入っていった。


 「一心地・・ついたかの?」
老修道士はチサトがカップから口を離すと、そう尋ねる。
「ええ。おいしいコーヒー、ありがとうございます」
「何の何の。この寒い中窓拭きやら何やらしてもらったんだからの」
「それにしても大変じゃないですか?いつもいつも小屋でズッと籠りっきりでいるのって?」
「まぁ若いモンにはそうじゃろな。じゃあわしみたいな年寄りになると、あんまり身体動かさんでいいから帰ってありがたいわい」
「そうですね。あれ・・・?」
「どうしたかの?」
門番の老修道士はチサトの表情を見ると、怪訝そうに尋ねる。
 「今・・何か・・重いものを引きずってるような・・音がしたんですよ」
「ふぅむ・・そういえば・・何じゃろうな」
老修道士は太くて丈夫なステッキを支えにしながら外へ出る。
チサトも後について出て行った。
 二人は正門に通じる、曲がりくねった山道兼参道を見やる。
すると何かを引きずりながら男が一人、山道を登ってくるのが見えた。
その男が引きずっているものを見て二人は目を丸くする。
その正体は棺桶。
あろうことか男は棺桶に丈夫な紐をつけ、引きずりながら山道を登っているわけである。
 やがて、正門の前までやってきた男が姿を現した。
男は黒い短めの髪と瞳の持ち主で、精悍さと野性味を感じさせながら整った面立ちをしている。
狼やドーベルマンを思わせる無駄なく引き締まり鍛え上げられた身体と全身を覆う黒尽くめの帽子やコート、ブーツやマフラー、そして鷹のように鋭い目を見ていると、教会に祈りに来るよりも、銃弾飛び交う中こそが相応しい人物に思えた。
 「じゅ・・巡礼の方ですかな・・?」
一瞬、男の異様な雰囲気に呑まれながらも、門番の老修道士はそう尋ねる。
男のコートにはサンチャゴ・デ・コンポステラへの巡礼者であることを示す帆立貝の貝殻がつけられている。
ダンジュー修道院はフランス内に存在するサンチャゴへの巡礼路上に存在する修道院。
そのため、巡礼者の宿泊・歓待が重要な仕事だった。
 男は不意にマフラーを掴んだかと思うとグイッと下げる。
すると喉に大きな古傷が横一文字に走っているのが見てとれた。
思わず二人はギクリとしてしまうが、同時にこの旅人がしゃべれないことにも気づく。
それが伝わったのを理解したのか、男はすぐにマフラーを上げて傷を隠すと、門番の問いに肯定を示すように頷いた。
「そ・・そうですか・・。チ、チサト。すまんが・・宿坊の方に案内して差し上げてくれんかの?」
「あ・・は・はい・・じゃ・・じゃあ・・こちらに・・・」
チサトは男の様子にドギマギしながらも黒尽くめの巡礼を案内する。
巡礼は棺桶を引きずりながらチサトの後をついていった。


 宿坊に案内されると、巡礼は棺桶を運び込む。
「あの・・これが一日の予定です」
チサトが礼拝や巡礼用の食事の時間が書かれたスケジュール表や修道院のパンフレットを渡すと、男は黙って受け取る。
「それと・・宿泊者用の宿帳にサインをお願い出来ますか?」
男は黙って頷くと、宿帳を受け取り、サインをする。
チサトが帳面を返してもらうと「ジャンゴ・サイレンス」とサインされていた。
 「ジャンゴ・・サイレンスさんですね?」
チサトの問いに巡礼は肯定するように頷く。
宿帳を受け取ると、チサトは小型のホワイトボードとペン、小さなベルを取り出す。
「あの・・もし・・よろしければ・・これ・・使って下さい・・」
チサトは恐る恐るサイレンスと名乗る巡礼にボードやベルを差し出した。
サイレンスの雰囲気に恐れを為したというよりも、障害者であることをバカにしたりしているように誤解されるのを恐れるという感じだった。
サイレンスはジッとチサトを見つめているが、やがて手を伸ばすとチサトが差し出したボードやベルを受け取る。
チサトはホッとした表情を浮かべると、巡礼に挨拶をして出てゆこうとする。
だが、そのとき何かに蹴躓いた。
 「あ・・・・」
あっという間に倒れ込み、顔から床に今にもぶつかりそうになる。
思わずチサトは目をつぶるが、いつまで経っても床にぶつかった感覚や痛みがやってこない。
恐る恐る目を開けてみると、ゆっくりと誰かが引き戻している。
やがて止まったかと思うと背後を振り返ってみる。
すると、サイレンスが襟首を掴んでいるのが見えた。
 チサトはすぐにこの男が助けてくれたことに気づく。
「あ・あの・・ありがとうございます・・・」
おずおずとチサトが礼を言うと、サイレンスは何やら身振り手ぶりを見せる。
大したことではない、と言っているようだった。
同時に男はホワイトボードで
「大丈夫か?」
と尋ねてくる。
 「いえ・・平気です・・。本当にありがとうございました」
チサトは頭を下げて再度礼を言う。
サイレンスは手ぶりでそれに答えると、部屋を後にした。


 「ひゅ~っ。あの人?何か怖そうな人だな~」
「ダメですよ、そんなこと言っちゃあ!」
ラウールは院内を見学しているサイレンスをチラリと見やるとそんなことを言い、たしなめるようにチサトが聞き咎めた。
 「わかってるってばチサちゃん。でもさぁ、何か怪しくない?」
「な・・何がです?」
「だってさぁ、棺桶とか引きずりながら来たんでしょ?普通、そんなことする巡礼さんなんていないでしょ?」
「そ・・それは・・そうかもしれないですけど・・人それぞれですし・・」
「そうだ・・。イイこと思いついた!」
突然、ラウールはニヤリと笑みを浮かべる。
「ら、ラウールさん!?な、何する気なんですか!?」
ラウールの笑みに思わずチサトは問いかける。
何かろくでもないことを考えているんじゃないかと思ったのだ。
そしてそれは正しかったことを思い知る。
 「あの棺桶・・・何が入ってるのか確かめてや~ろ~っと」
「ちょ・・ダメですってばラウールさん!!」
チサトは止めようとするが、ラウールは作業を放り出して宿坊の方へ向ってしまう。
慌てて追おうとするも、通りがかった年配の修道士に作業の手伝いを頼まれてしまい、断り切れなかったチサトは後ろ髪ひかれる思いでその場を離れるしかなかった。
 (よし・・・!!誰も来ないっと)
ラウールは慎重にあたりを見回し、修道士も他の巡礼もいないことを確かめると、ソロリそろりとサイレンスの部屋へゆっくりと移動する。
やがて、ドアにへばり付くように身を寄せたかと思うと、ゆっくりと針金らしいものを取り出した。
針金を鍵穴に差し込むと、ラウールはゆっくりと鍵を回す。
やがて、鍵が開くと慎重にドアを開けて中へ忍び込んだ。
 (あったあった・・・)
ラウールはベッドの傍らに置かれている棺桶を見つけると、ニヤリと笑みを浮かべる。
ゆっくりと棺桶に近づくと、屈みこんでジッと見つめる。
恐る恐る手を伸ばして触れてみるなり、ハッとした表情を浮かべる。
 (何・・これ・・?)
思わずラウールは訝しげな表情を浮かべた。
棺桶は一見すると木製のように見える。
だが、その手触りは木ではなかった。
冷たく硬いその感触はむしろ金属に近い。
さらによく見ると、棺桶の蓋の片側には複数の蝶番がつけられ、ケースのように開け閉め出来るようになっていた。
 ラウールは両手で蓋の片端に手を差し込むと、ゆっくりと持ち上げる。
「さぁてと~~。何が出るかな?何が出るかな~~?」
ワクワクしながらラウールが棺桶の中を覗き込もうとしたその瞬間、突然ラウールは後頭部にショックを感じる。
うめき声と共にラウールがヘナヘナと崩れ落ち、気を失うと同時に人型の輪郭が浮かび上がり、やがてサイレンスが姿を現した。
妙な予感を覚え、部屋に戻って来たのである。
 サイレンスは再び棺桶の蓋を閉めると、ラウールを外へ運び出す。
そして、きちんと鍵をかけると立ち去った。


 「大丈夫ですか?ラウールさん?」
チサトは医務室のベッドの上でうつ伏せになっているラウールを見やりながら尋ねる。
上着を捲りあげ、ズボンも降ろしてむき出しになったお尻は見事なまでに真っ赤に腫れ上がっており、チサトは慎重に濡れたタオルを載せてやる。
 「うん・・少し楽になったよ。ありがと、チサちゃん」
「構いませんよ、これくらい。でも人のカバン・・じゃなかった・・棺桶覗くなんて失礼ですよ、ラウールさん」
「わかってるよ~。おかげでこんなに叩かれたんだから~」
ラウールはそう言うとタオルを載せたお尻の方を振り向く。
 サイレンスの部屋の前で気を失って倒れているのを発見されたため、目を覚ましたあと不審に思ったバルバロッサに問い詰められたのだ。
その結果、勝手に宿泊者の部屋に入り込み、棺桶の中身を見ようとしたことがバレてしまい、当然のことながら修道士としてあるまじき振舞いのツケをお尻で支払うことになったのである。
 「それじゃ・・まだ仕事があるんで・・僕は行きますね」
「うん。ありがと、チサちゃん」
ラウールが礼を言うと、チサトは医務室を後にする。
(ああは言ったけど・・やっぱり・・気になるよね~。でもまたやったらなぁ・・・)
巡礼の棺桶に未練を残しつつも、ラウールはゆっくりと目を閉じた。


 (えへへ~~。やったやった~。一儲け~~)
その日の夜、ラウールはご機嫌そのものといった様子で森の中を歩いていた。
例に漏れず、こっそり院を抜け出してはいかがわしい場所へ遊びに行ってきたのである。
ツイていたのだろう、ルーレットで懐をかなり温めて帰って来れた。
(ふふ・・何に使おっかな~~~)
稼ぎの使い道を考えながらほくそ笑んでいたそのときだった。
 不意に闇の中を人影らしきものが歩いているのを見つけた。
(何だろ?)
ラウールは思わずジッと見つめる。
どうやら人影は数人いるらしい。
見ているうちに好奇心が沸いてきたラウールは後をつけ始めた。
 しばらく後をつけているうちに、やがて人影達は広間のように開けた場所に出る。
ラウールは大きな木の木陰に隠れてジッと様子を伺う。
やがて、月明かりが人影の主たちを照らし出した。
 現れたのは高そうなスーツに身を包み、不敵な面構えに剣呑な雰囲気を纏った男達。
ラウールは酒場やカジノバーでの経験からそういう場所を取り仕切り、バクチの胴元等をやっている連中に似ているのに気がついた。
実際、懐は拳銃のものらしい膨らみがあり、中には肩掛けベルトでライフルや短機関銃を提げているものまでいる。
 (あれ・・?)
ラウールは一人のマフィアの影を見て怪訝な表情を浮かべる。
その男の影は何とも奇妙だった。
頭には曲った二本の角が生えており、背中にはコウモリのそれに似た一対の翼が生えているのだ。
ラウールは目をこすり、もう一度男とその影を見やる。
だが、どう見ても影と男の姿との間に奇妙なずれがあった。
(どういう・・こと・・?)
不思議な影にラウールは目をパチクリさせる。
だが、直後、別の足音が聞こえてきた。
ラウールがジッと目を凝らすと、今度はマフィア達とは反対側から別の人影達がやってくる。
現れた男達は、これまた不思議な面々だった。
彼らは軍服姿だったが、その軍服といったら南北戦争期~メキシコ革命の頃のものかと思えるような代物だったからだ。
ラウールは奇妙な軍服に目を奪われて気付かなかったが、軍服の面々の影には、鳥のそれに似た両翼が背中に生えていた。
 一定の距離を置いて、マフィアらしき面々と兵士らしい面々が向き合う。
やがて、それぞれの集団から一人がスーツケースを持って進み出る。
真ん中までやって来ると、相手のものとケースを交換し、ゆっくりとした足取りで自分の集団へと帰ってきた。
 それぞれの集団はケースを受け取ると、互いに中身を確かめる。
軍服の集団が受け取ったケースには、大量の宝石が詰め込まれていた。
一方、スーツの集団が受け取ったケースにはファイルが入っている。
ファイルには顔写真や名前をはじめとする様々な人物の個人情報が掲載されている。
 ラウールはすっかり息を呑んでいた。
犯罪の現場を目撃してしまったのは明らかだった。
さすがに危険を感じたのだろう、ラウールは足音を殺してゆっくりとその場を離れようとする。
だが、直後、鈍い衝撃を後頭部に感じたかと思うと、目の前が真っ暗になり、そのままヘナヘナと崩れ落ちた。


 「しくじったな」
気を失ったまま、木に縛り付けられているラウールを見やりながら、将校らしい男は部下や取引相手のマフィアをグルリと見回して言う。
「俺達のせいじゃありませんぜ、天使の旦那!!」
マフィア達は不平そうに言う。
彼らはいずれも背中からコウモリのそれに似た黒い翼が生えており、中には角や逆トゲ付きの尾が生えている者もいる。
悪魔だ。
 一方、軍服の集団には鳥の両翼が背中に生えていた。
こちらは天使だ。
しかし、悪魔と疾しい取引をするようなのだから、いわば悪徳天使とでも言うべき輩だった。
 「愚か者が!我らの取引を見られおったのだぞ!これだから貴様ら悪魔という奴は!」
「って俺達から上前ハネておきながらそんなこと言うのかよ!!」
悪魔達も自らの不正・悪事を棚に上げて自分達を責める悪徳天使に思わず怒りの表情を見せる。
 「静かにしろ、お前ら。旦那方といがみ合っても仕方ないだろ!」
悪魔の頭が部下達と宥めると、頭は天使達の方を向く。
「この人間は俺達の方で片付けておきます」
「ふむ、当然だな」
「それより・・今後ともよしなにお願いいたしますよ」
「わかっている。情報を流すだけで懐が温まるんだ。我らとしてもムザムザ捨てる気はないわ」
天使の指揮官はニヤリと笑みを浮かべる。
彼らは悪魔追討を任務とする天使や、手入れの情報を流すことで悪魔達から莫大な見返りを受け取っていた。
 「それじゃあさっさと厄介事は片付けちまいましょう」
「そうしろ」
そっけない口調で天使の将校がそう命令すると、悪魔の頭は部下の一人に頷く。
部下はそれを見てとると、懐から拳銃を取り出す。
ラウールに向けて手を伸ばして構え、今にも引き金を引こうとしたそのときだった。


 突然、何かが飛んできたかと思うと、銃を構えていた悪魔に側頭部に命中する。
思わずその悪魔は銃を取り落とし、命中したところを押さえて呻いた。
「くそっ・・何だ・・」
悪魔は自分に命中したものを見やる。
それは紙に包まれた細長いもの。
包みを開いてみると棺桶型の護符が現れる。
「くそ・・何だこ・・うわあっっ!!」
突然、護符が強烈な閃光を放った。
全員、思わず目を手で蔽い隠し、身体を硬直させる。
 閃光が消え去ると、いつの間にかあたりに紙が散らばっていた。
「何だこ・・・・」
悪魔と天使達は紙を拾ってみるなり、絶句する。
そこに書かれていたのは自分達の顔写真と不正をはじめとする様々な罪状。
 さらに何かを引きずる音に一団はハッとし、音の聞こえてくる方をジッと見つめる。
鈍い音はどんどん接近してくる。
やがて、月明かりに照らされ、音の主が姿を現した。
 一行の目の前に現れたのはサイレンス。
サイレンスは今や見事な漆黒の大きく力強い両翼をあらわにし、天使としての正体を明らかにしていた。
コートの下からは棺桶のエンブレムを刻み込んだ胸当てやモーゼル・ミリタリーを納めた木製ホルスターが見え、両肩や両前腕、両脛には棺桶をモチーフにした防具を身につけている。
そして例の大きな棺桶を引きずっていた。
 「お前は・・・ジャンゴ!!」
天使の指揮官がサイレンスの名を叫んだ。
同時に自分達の不正・悪事がバレたことに気づく。
 「殺せ!!殺すんだ!!」
上司の命令と共に兵士達は銃を構え、悪魔達も同様に銃を手にすると、一斉に銃口が火を噴いた。
サイレンスは逃げもせず、棺桶の紐をグイッと引っ張る。
引かれた衝撃で棺桶が浮き上がったかと思うや、サイレンスは両手で棺桶を持ち、目にも止まらぬ速さで風車のように棺桶を高速回転させ始めた。
 一斉射撃で放たれた光弾が雨あられのようにサイレンスに襲いかかるが、棺桶に悉く受けとめられてしまう。
やがて、棺桶の動きが止まったかと思うと、サイレンスは棺桶の蓋を開く。
蓋の裏にはコルトSAAをはじめとする拳銃や伸縮式のからくり槍などが留めてある。
棺桶は武器庫だった。
その中から、サイレンスはひと際大きな物を取り出した。
 サイレンスが取り出したものを見て、天使の指揮官はハッとする。
それは巨大な筒状のもので先端には多数の穴が開いており、後尾部には引き金や機関部がついている。
ミトライユーズ(19世紀にフランス軍が採用・投入した機関銃。太く大きな銃身にレンコンのように銃口が幾つも空いている。マカロニ・ウエスタンことイタリア製西部劇映画でよく使われた)をベースに造られた機関銃だ。
 「ヤバい!!引け・・・」
一団のボス達が危険を感じて部下や子分に命令したと同時にサイレンスの機関銃が火を噴いた。
悪徳天使&悪魔一味全員の火力に匹敵する光弾が周囲にばら撒かれ、あっという間に一味は薙ぎ倒される。
バタバタと悪魔や天使達が倒れていったかと思うと、ボッと身体が燃えだし、あっという間に灰になるや、風に吹かれて消え去ってしまう。
機関銃が死の咆哮を止めたときには、もはや天使の指揮官一人しか残っていなかった。
 部下や結託していた悪魔一味を一掃すると、サイレンスは機関銃を放り出す。
そして、コートの裾を跳ね上げると、拳銃のホルスターを手で示した。
それを見て、天使の指揮官は意図を理解する。
一対一の決闘でケリをつけようというのだ。
 天使の指揮官は腰の革製ホルスターの蓋を開き、拳銃のグリップを握りしめる。
サイレンスも同様にホルスターの蓋を開くと、モーゼルのグリップを握り、抜き打ちの態勢を整える。
互いにジッと穴が開くのではないかと思えるくらい、相手の顔を食い入るように見つめる。
サイレンスは恐れも何も無いのか、静かな、いや無表情といった表情を浮かべている。
指揮官の方は最初は冷静だったが、やがて緊迫と緊張の度が増してゆく。
汗がジワリとにじみ出し、喉が渇くのかヒクヒクと喉を動かす。
さらに、微かにだが天使の身体が小刻みに震え出した。
 指揮官の息は次第に乱れてゆき、途切れ途切れといった感じになる。
今や顔全体にビッショリと脂汗を浮かべ、全身が熱病にでも罹ったかの如く震えている。
やがて声にならない叫びがその口から出たかと思うと、悪徳指揮官は拳銃を引き抜く。
だが、まさにその瞬間、サイレンスの手が銃を構えたかと思うと真っ青な閃光が迸った。
 「か・・・っ!!!!」
悪徳天使は拳銃を構えたまま、クルリと回る。
回りながら将校は地面に倒れ込んだ。
地面に倒れつつも、まだ息があった将校は身体を微かに起こし、サイレンスを見つめる。
サイレンスは何の感慨も感じられない目でジッと標的を見つめ返す。
やがて、悪徳将校は呻いたかと思うと、そのまま永遠に目を閉じる。
同時に傷口から火がともったかと思うとあっという間に天使の身体は燃え尽き、灰となって消え去った。


 「うぅ・・・痛たたた・・・」
ラウールは痛む後頭部を押さえながら立ち上がった。
「あれ・・?何があったんだっけ?」
周りを見回しながらラウールは困惑した表情を浮かべる。
街から帰ってくる途中、この森で何かを見た気がするのだが、全く思い出せないのだ。
まるで森の中での部分だけ記憶が抜き取られたような状況にラウールは困惑する。
 「それより・・今何時・・・」
時計を見てラウールはギクリとし、空を見上げてみる。
すっかり太陽が昇っており、朝なのは間違いなかった。
「ヤ~バ~イ~~!!急げ急げ~~~!!」
慌ててラウールは一目散に修道院に駆け戻っていった。
 パシィ~ンッ!ピッシャ~ンッ!パッアア~ンッ!
「ひゃあ~んっ!ごめんなさ~~いっ!ごめんなさい~~!!」
ラウールは両脚をバタつかせながら必死に謝っていた。
「馬鹿野郎!!また性懲りもなく夜遊びなんぞしやがって!!」
バルバロッサは叱りつけながらラウールのお尻に平手を叩きつける。
帰るなり、ラウールはバルバロッサに御用になってしまい、当然のことながら懺悔室へ直行というわけだった。
「今日はちょっとやそっとじゃ許さんからな!覚悟しいや!」
「嫌ぁぁぁぁ~~~!!助けてぇぇ~~~!!」
容赦なく肌を叩く音と怒声、悲鳴や泣き叫ぶ声が入り混じり、懺悔室にこだました。


 同じ頃、空を行くサイレンスの姿があった。
サイレンスは天馬に跨っている。
途中、サイレンスは馬を止めたかと思うと、鞍に提げた袋からガラス玉のようなものを取り出した。
ガラス玉を覗いてみると、ラウールが森で見た光景が映る。
この玉はラウールの記憶。
天使や悪魔の存在は、特別な場合を除いて人間に知られてはならない。
だから、今回のように見られてしまった場合は記憶を抜き取り、削除するのだ。
サイレンスは抜き取ったラウールの記憶のガラス玉を握りしめたかと思うと、粉々に握りつぶしてしまう。
ガラス玉が光と共に消滅し、不都合な記憶が完全に消去されるとサイレンスは再び天馬に鐙を入れた。


 ―完―
スポンサーサイト

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

comment

管理者にだけメッセージを送る

プロフィール

山田主水

Author:山田主水
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2投票
無料アクセス解析
FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。