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サイレンス・ライジング(二次創作要素あり:非スパ)


 (注:セルジオ・コルブッチ監督、ジャン=ルイ・トランティニャン主演の映画『殺しが静かにやって来る』を題材にした二次創作要素入りの作品です。スパが全く無い上、オリ作品に登場する天使・サイレンスと勝手に作品・登場人物達を結びつけていたりします。許容出来る方のみご覧下さい)


 1898年、アメリカはユタ州、スノーヒルという、村といって違和感が無い小さな町。
一面雪に覆われた文字通りの銀世界、だが、その中にポツンと黒い塊が転がっている。
塊は二つ、一つは全身黒づくめで無精ひげが生えている、端正かつ精悍な風貌の男。
両手とも血に赤く染まっており、胸には撃ち抜かれた跡。
 もう一人は黒人の女性。
彼女もまた、胸には撃ち抜かれた跡があった。
さらに、彼ら二人が倒れているその前に建っている酒場の中にも様々な年齢の男女が倒れ伏し、その身体に刻まれた銃弾や血の跡が惨劇を物語っている。
 雪の中に倒れ伏している男の名はジョン・サイレンス。
幼い頃、両親を極悪非道な賞金稼ぎ達に殺され、自身も犯人の不正を証言できないように喉を切り裂かれて声を失うという過去を持っていた。
その結果、彼は悪を、特に「法に従って」という大義名分の元に罰せられることもなく殺人を、それも無実の人を賞金首に仕立て上げ、彼らを血祭りにあげては金を稼ぐ賞金稼ぎ達に強い憎しみと怒りを抱いた。
そして、彼は被害者遺族の依頼でそういった卑劣で悪辣な賞金稼ぎ達を専門に狙う殺し屋、いわば一種の仕置人とでもいう存在になった。
雪深いこのスノーヒルにやって来たのもそのためで、傍らに倒れ伏し事切れている黒人女性、ポーリーンの依頼によるものだった。
 だが、賞金首にされた元町の住人達を人質に取られ、彼らを救うために満身創痍にも関わらず単身で赴き、その結果無残にも返り討ちにされてしまった挙句、依頼人や人質達も惨たらしく殺されてしまったのだ。
 悪人達は勝利の凱歌を上げて悠々と去って行き、物言わぬ死者となった犠牲者たちだけが残されているというわけである。


 しんしんと雪が降り続ける中、不思議なことが起こり始めた。
死者たちの身体が淡く光りはじめたのである。
やがて、淡く光る死者たちの胸からふわりと光る球が浮かび上がった。
光球は虐殺の現場となった酒場の内部を猛烈な勢いでまるで竜巻のようにグルグルと回りだす。
壁に傷をつけるほどの勢いで回るうちに光球は一つ、また一つと互いにぶつかっては大きくなってゆく。
やがて、全ての光球が一つの巨大な光球になったかと思うと、酒場の壁をぶち破り、外に飛び出した。
 飛び出た光球はふわふわと上昇しつつ移動する。
やがて、サイレンスの死体の上空でピタリと停止したかと思うや、ダンクシュートさながらの勢いで急速落下した。
サイレンスの全身に電撃のような光が走ったかと思うと、その身体に変化が起きる。
傷ついた両手や胸の傷が再生したかと思うと、顔にも変化が生じる。
元々の風貌を残しながらも、若干面立ちが変わり、また髭も無くなる。
 だんだんと顔に赤みが出てきたかと思うと、ゆっくりとサイレンスは目を覚ました。
サイレンスは静かに起き上がると、己の両手や胴を見やる。
確かに死んだはずだった。
標的である賞金稼ぎ一味の頭目、ロコの顔を目に焼きつけながら、自分の視界が真っ暗になってゆき、ついには何も感じなくなったことを覚えている。
しかし、自分は生きている。
怪訝に思うさ中、ふと傍らに倒れているポーリーンに目を向けると、信じられないようなことが起こっていた。
 突然、ポーリーンの身体が光に包まれたかと思うや、そのまま光の灰と化して散らばり、消えてしまったのだ。
本能的にサイレンスは酒場へ駈け込む。
すると、同じように酒場内で賞金稼ぎ達に殺された元町の住人達の身体が光る灰となり、消え去ったではないか。
この目で見なければとても信じがたい事態に、さすがのサイレンスも目を見張る。
 そのとき、突然胸や腹に苦痛が走った。
サイレンスは床に両膝をつき、苦痛に口を開け、思わず服を破ってしまう。
破れた服の下から現れた胴は、何とドクンドクンと全体が脈打っている。
やがて、人の顔が幾つも現れたかと思うや、ようやく止まった。
 サイレンスはホッとしつつも、事態を理解する。
己の身体に現れた顔は犠牲者たちのものだ。
悪辣な判事や賞金稼ぎ達によって犯罪を犯すように仕向けられ、賞金首にしたてられた揚句に正義の皮をかぶった悪魔達に殺され、その食い物にされる。
その彼らの無念、悔しさ、本当の正義を求める心が、彼らの魂を以ってサイレンスを甦らせたのだ。
 しばらく、甦った殺し屋は酒場内に佇んでいた。
やがて、サイレンスはゆっくりと立ち上がると、外へ出てゆく。
服が破れて肌があらわになっているところへ、雪や風が吹きつけるにも関わらず全く寒さを感じない。
そのことに、今更ながらサイレンスは己が一度死に、人ならざる者として甦ったことを思い知る。
サイレンスは雪に覆われた通りを見回し、白銀の大地の上にある漆黒の点を見つけると、目当ての物を拾い上げた。
取りあげたのはモーゼル・ミリタリー。
彼の愛銃だ。
モーゼルをストック兼の木製ホルスターに納めるとサイレンスは酒場を後にした。


 「どういう・・・ことだ・・・」
賞金稼ぎ達は酒場をぐるりと見回しながら言った。
「何故だ!何で死体が無い!?」
「誰か持っていったのか!?」
賞金稼ぎ達は口々に叫ぶ。
先日、この酒場で殺した賞金首達の死体を引き取りに来たのだ。
ところが、あにはからんや、賞金首達の死体はまるで手品でも使ったかのように忽然と消失してしまっていたのである。
 「どうする、ロコ?」
賞金稼ぎの一人が、一目見ただけで記憶に残りそうな強い印象を与える金髪の男に尋ねる。
彼の名はロコ。
賞金稼ぎ達の頭目で、町の住人達の怨嗟の的になっている人物だ。
 「わからん・・。だが・・誰か何か知ってるかもしれん。町の生き残り共を全員叩き起こして聞いて回れ」
それを聞くなり、賞金稼ぎ達は外へ次々と飛び出してゆく。
たちまちのうちに荒っぽく戸を叩く音や怒号が町中に響き渡る。
やがて、数少ない町の住人達が路上に引きずり出されると、ロコもゆっくりと路上に姿を現した。
 邪悪な賞金稼ぎ達に取り囲まれた町の住人達は、寒さよりも恐怖に震え、恐る恐る賞金稼ぎ達を見やる。
「おい・・!賞金首共をどこにやった!!」
「知らないわよ!」
娼婦の一人が答えるが、一人の賞金稼ぎが荒っぽくライフルのストックでみぞおちのあたりを殴りつける。
「ぐふっ・・!知らないって言ってんでしょうが!!」
「隠すとためにならねえぞ!言え!言ええっ!!」
男は激昂して殴りつけるが、娼婦は本当に知らないのだろう、呻きながら気を失ってしまう。
 ムスッと不機嫌な様子でロコが様子を見ていると、隠れていた雑貨屋のオヤジと目があった。
オヤジはロコに見つかるや、恐怖に駆られて逃げ出す。
ロコは素早く投げ縄を用意すると、オヤジ目がけて投げつけ、見事にキャッチすると引き倒した。
 「おい、逃げようとしたな?」
ロコは一見すると引き込まれてしまいそうな、人の良さそうな笑顔を見せる。
だが、町の住人達は知っていた。
この笑顔の向こうには悪魔が隠れていることを。
 「か・・勘弁してくれ・・。お・・俺は・・何も・・知らない・・」
「まぁまぁ・・。ゆっくり・・話は聞こうじゃないか。おい、こんな話知ってるか?」
不意にロコは仲間の一人に話しかける。
「何だよ、ロコ?」
「冷たい風の中、雪で肌をこすると肌が強くなって身体にいいそうだぞ?」
「ほほぅ・・。そりゃ面白いことを聞いたなぁ・・・」
「おい、このオヤジ、肌が弱そうだ。せっかくだから肌を強くしてやろうじゃないか」
「や・・やめ・・やめてくれっっっ!!」
 哀れなオヤジが悲痛な叫びを上げるのを無視し、賞金稼ぎ達は男を雪が積もり冷たい風が吹く中でパンツ一丁にしてしまう。
寒さにオヤジが悲鳴を上げる中、男達は笑い声を上げ、雪を持っては肌になすりつける。
 「うぎゃああっ!!やめ・・やめてくれぇぇぇ!!」
苦痛のあまりにオヤジは雪の上を転げ回り、本能的に雪を掴んでロコに投げつけた。
雪は見事にロコの顔に当たり、雪が顔に散らばる。
 「おい、向こうが先にやったよな?」
ロコが仲間に問いかけると、仲間は頷く。
それを見るや、ロコは拳銃を引き抜き、何のためらいも無くオヤジの額を撃ち抜いた。
 オヤジが倒れ伏し、額の部分の雪が赤く染まる。
「ふふん・・正当防衛だ」
ニヤニヤとロコが笑みを浮かべて悦に入ったそのときだった。
 突然、オヤジの身体が光った。
賞金稼ぎ達は無論、引き出された住人達も目を丸くする。
光ったオヤジからまばゆい光球が飛び出し、猛烈な勢いで飛び出したかと思うと、何も無い筈の場所で轟音と共に見えない何かに激突する。
直後、信じられないことに、人型のすりガラスのようなものが現れたかと思うと、バチバチと雷のようなものが走る。
 賞金稼ぎ達が呆気に取られている中、どんどんすりガラスのようなものに色と形がつき、何かが現れる。
「お前は・・・!!」
賞金稼ぎ達の口から驚愕の声が漏れる。
現れたのはサイレンス。
 「バ・・カ・・な・・・」
ロコは目を見張る。
確かに殺したのだ。
それなのに、目の前に立っている。
 サイレンスはゆっくりと賞金稼ぎ達の方へ向ってくる。
一人の賞金稼ぎがウィンチェスター・ライフルのレバーを動かしたかと思うと、硝煙と共にぶっ放した。
真っ向から銃弾を喰らい、サイレンスはコマのように回転しながら倒れる。
確かな手ごたえに全員、冷笑の籠った含み笑いを浮かべる。
 だが、サイレンスはゆっくりとだが起き上がった。
それを見るや、全員の表情が変わる。
他の賞金稼ぎ達もライフルや拳銃を構え、ゆっくりと進んでくるサイレンスに狙いを定めてぶっ放す。
サイレンスのコートに数か所穴が空き、再びサイレンスは身体がグラリと傾いて倒れ伏す。
しかし、それでもケロリとした様子で再び立ち上がってきた。
 賞金稼ぎ達は互いに顔を見合わせる。
ロコは賞金稼ぎ達の前に出ると、拳銃を握った手をゆっくりと前に突き出し、サイレンスの顔に狙いを定める。
撃ったら誰だかわからなくなるから顔を撃つのは本来なら賞金稼ぎにとってはご法度だ。
しかし、そんなことを言っている場合では無かった。
しっかりと狙いを定めるや、ロコは引き金を引く。
見事なまでに銃弾は額に命中し、サイレンスは足を宙に投げ出して倒れた。
 賞金稼ぎ達の顔に勝利の笑みが浮かびかける。
だが、額に風穴が空いているにも関わらず、また起き上がってきたサイレンスを見るや、笑みが途中で凍りついた。
 額からムクムクと銃弾が押し出され、ポロリと雪道に転がり落ちたかと思うと、サイレンスの傷があっという間に塞がってゆく。
それを見た賞金稼ぎ達は戦慄が走り、手足が震え出した。
「な・・何だ・・何なんだよ!!お前は!!」
恐怖に駆られ、賞金稼ぎ達がさらに撃とうとしたときだった。
 目にも止まらぬ早さでサイレンスが愛銃のホルスターに手をかけた瞬間、モーゼルが引き抜かれ、立て続けに火を噴いた。
あっという間にロコと一人を除く賞金稼ぎ達がコマのように回りながら雪の中に倒れ伏す。
男達が倒れた下では雪が純白から濃厚な赤へと変わってゆく。
 再び、サイレンスとロコが互いに相手の顔を見つめる。
酒場前での戦いでは腕を撃ち抜かれ、抵抗を封じられた状態で、それでもなお闘志を捨てずにジッと睨んでくるサイレンスをロコが無表情に見下ろしたものだった。
だが、今のロコの顔にあるのは驚愕と恐怖。
ロコは踵を返すや、必死に馬のところまで走りだした。
 「あっ!!待ってくれっ!!」
一人生き残った仲間の賞金稼ぎは遅れまいと馬の元へ走る。
だが、モーゼルの銃声が響き渡ったかと思うと、たった一頭を残して賞金稼ぎ達の馬が撃ち殺されてしまった。
 ロコは急いで馬にまたがるや、必死に拍車を入れようとする。
「待ってくれ!俺も乗せてくれ!」
「うるさい!二人も乗せたら遅くなる!!」
無情にもロコは仲間の顔に思い切り蹴りを叩き込むや、自分一人逃げ出す。
 「外道!人でなし!この悪魔!」
自分を置き去りにして逃げていくロコに賞金稼ぎは罵声を浴びせる。
しかし、背後に気配を感じるや、咄嗟に振りかえる。
すると、いつの間にか射程距離内にまでサイレンスが接近していた。
「こ・・この・・化け物っっ!!」
恐怖の混じった叫びと共に男は拳銃を構える。
直後、サイレンスのモーゼルが火を噴いた。


 「ハァ・・・ハアハアハア・・・・」
深い雪の中、ロコは必死に馬を走らせる。
「走れ!走らんか!この駄馬が!!」
降り積もった雪に足を取られ、中々進まない馬をロコは罵り、必死になって拍車を入れる。
馬を走らせながらときどきロコは振り返る。
すると、サイレンスが徒歩で追ってくるのが見える。
この世ならざるものになったためか、サイレンスの足取りは馬と変わらない。
ロコは今まで味わったことのない恐慌に駆られ、必死に馬の腹に拍車を入れる。
 甦った自分から逃れようとシャカリキになるロコを尻目に、サイレンスは立ち止まる。
彼は腰からホルスターを外すと、それをモーゼルのグリップに装着する。
死に物狂いなロコを尻目に、サイレンスはストックをつけたモーゼルをライフルのように構え、馬にしっかりと狙いを定める。
モーゼルが火を吹くや、ロコの馬が嘶き、棹立ちになったかと思うや、雪上に倒れる。
同時にロコは投げ出され、顔から雪に突っ込んだ。
 「ぶへ・・ぶっふ・・」
口から雪を吐き出しながらロコが振り返ると、ストックをつけたままサイレンスがゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「ひ・・!!」
ロコは恐怖に駆られて走りだす。
息が続く限りロコは走りに走る。
やがて、目の前に凍りついた川が現れた。
 「ここは・・・」
目の前に広がる河にロコは思わず呟く。
自分を逮捕し、もっと大きな街にある刑務所へ連行しようとした、あのいけすかない保安官を氷の割れ目から叩き落としてやった川だ。
ここからロコは引き返して仲間を連れ、サイレンス達への復讐を果たしたのである。
 不意にロコは背後に気配を感じた。
恐る恐る振り返ってみると、サイレンスがこちらの射程距離内まで近づいている。
サイレンスの姿にロコはギクリとする。
沈黙の殺し屋はモーゼルをゆっくりと持ち上げると、銃口をロコの方へと向ける。
 「ま・・待て!!待て待て待てっっ!!」
ロコは両手を上げながらサイレンスに叫んだ。
「か・・勘弁してくれっ!!俺が悪かったっ!!も、もう賞金稼ぎはしない!!足を洗う!!何だったら親指を撃ち飛ばしてくれてもいい!!」
ロコは見苦しくも命乞いを始める。
サイレンスの性格をよくわかっていたからだ。
 確かに金で殺しを請け負う殺し屋だ。
だが、彼は彼なりの信念、正義に基づいて殺しを行っている。
だから牙を向いて立ち向かってくる賞金稼ぎは撃ち殺すが、戦意を失い、降参の意思を示したものは殺さず、代わりに親指を吹っ飛ばして二度と銃を持てなくし、賞金稼ぎ生命を断つという方法で制裁する。
ロコはそこを冷徹に計算し、米つきバッタのように何度も土下座しながらサインレスの様子をジッと観察する。
 サイレンスはブルブルと拳銃を震わせ、口元をヒクつかせている。
迷っているのだ。
自分に再び命を与えた魂たちは目の前の男をハチの巣にしてくれ、とサイレンスに訴えかける。
サイレンスも、たとえ親指をふっ飛ばし、賞金稼ぎ生命を絶ったとしても、この男が別の方法で世の中に害毒をもたらす存在であろうことは容易に想像できた。
実際、ロコの庇護者にしてスノーヒルで行われた暴虐の一切の黒幕であった悪徳判事ポリカットはかつてサイレンスに親指を撃たれて賞金稼ぎを廃業させられた男だった。
銃を持てなくなった彼は代わりに銀行家兼判事となり、金の力を武器に賞金稼ぎ時代以上の悪を行ったのである。
ポリカットをしのぐ邪悪さを持ち、彼に劣らぬほど狡猾なロコならば、例え銃を持てなくしたとしても世の中に害毒を流し続けることは間違いない。
この場で殺してしまうことこそが、霊達の無念を晴らし、また世間に対してこれ以上の悪をはびこらせることを阻止することになる。
それはわかっていた。
 だが、彼にはどうしても出来なかった。
彼が単なる殺し屋では無いのは何故か?
それは彼が自分自身に対してルールを課しているからだ。
自らに課し、守ると決めたルールを厳格に守りとおしているからこそ、彼はただの殺し屋では無く、あくまでも賞金稼ぎや悪徳判事に苦しめられる弱い立場の人々の無念や悲しみを背負うことが出来る。
しかし、命乞いするロコを撃ち殺してしまえば、サイレンスは自らのルールを破り、一線を越えてしまう。
それは、彼自身が誰よりも憎み忌み嫌う賞金稼ぎ達と同じ存在に堕ちてしまうということだった。
 サイレンスは土下座するロコを目の前に苦悶の表情を浮かべている。
突然、サイレンスは雪に覆われた河岸に寝転んだかと思うや、空に向けてモーゼルを狂ったようにぶっ放した。
口がきけるものならば悲痛な叫びが上がるであろう、苦悶の表情を浮かべてサイレンスはモーゼルを空へ撃ちまくる。
 (た・・助かった!!)
ロコはサイレンスの行動に安堵する。
サイレンスにはもう自分に手を出せない。
それがわかるや、ロコは立ち上がり、脱兎の如き勢いで厚い氷に覆われた川の上を走りだした。
 「ハハ・・・ハハハハハハ・・・ハハハハ・・・」
人の皮を被った悪魔は安堵と勝利の高笑いを浮かべながら川の上を走り、逃れようとする。
そのとき、突然、数メートル離れた場所で氷に穴が開いたかと思うと、大きな水柱が上がった。
 (何だ・・!?)
思わずロコは立ち止まる。
水柱が消えて現れたものを見るや、再びロコに驚愕が走った。
「お前は!?」
水柱の後に氷上に現れたのは立派な口髭を生やし、強い意思と誠実さを併せ持つ表情を浮かべた男。
賞金稼ぎの悪行を止めさせるために州知事によって派遣されてきた保安官だった。
 「そうだ・・俺だよ」
「馬鹿な!!確かにお前も殺したはずだ!!」
ロコは自分が川へ叩き落としたはずの保安官が現れたことに動揺する。
「そうだ。確かに死んだよ」
「もう一度・・殺してやる!!」
ロコは拳銃を取り出すと、頭を狙って撃つ。
だが、銃弾は保安官の額に風穴を開けるも、すぐに傷口が閉じてしまう。
 「無駄だ。サイレンス同様、俺も一度死んだ身。死んだ者を二度殺すことは人間には出来んぞ」
そういうと保安官は持っていたウィンチェスター・ライフルを構える。
「おい・・ロコ・・戻れ」
「な・・何だと?」
「戻ってサイレンスと一対一で決闘するんだ」
「い・・嫌だと言ったら?」
「そのときは代わりに俺がお前の人生にケリをつけてやる。お前のおかげで一つ学んだよ。愚直に法に従ってばかりじゃお前みたいな外道を野放しにするばかりだとな」
保安官はそういうと、ライフルのレバーを操作する。
言う通りにしなければ自分がロコを撃ち殺す気なのだ。
 「く・・・!!」
屈辱感に顔を歪め、顔をヒクつかせつつロコは言う通りにする。
保安官に殺されるのも嫌だったからだ。
 「サイレンス!!」
保安官はロコを戻らせると、ライフルを構えたまま、サイレンスに呼びかける。
「今からロコを正々堂々、一対一で決闘するんだ。わかったな?」
保安官が問いかけると、サイレンスは頷く。
サイレンスはストックを銃から外して腰に戻し、モーゼルを中へ納める。
そして、氷上に立つロコをジッと睨みつけた。


 (くそぉ・・!!何だってこんなことに・・)
ロコは歯噛みせずにはいられなかった。
サイレンスは強い。
自分より早い男だというのはよくわかっていた。
だからこそ、夜盗に仕立て上げた元町の住人達を人質に取り、一人で戦いに来るように仕向けた上、仲間達に撃ち殺させるという悪辣かつ卑劣極まりない方法で殺したのである。
だが、その男が蘇って自分達に復讐しに来るとは。
 ロコはジッと食い入るようにサイレンスを見つめる。
見つめるうちに目の前の男がだんだん大きく見えてくる。
(ま・・まずい・・・)
ロコは自分が相手の気迫に呑まれかけていることに気づく。
(呑まれたら殺されるぞ!!)
ロコは必死に自身を叱咤し、気を奮い立たせようとする。
だが、目の前の男から放たれる殺気がバリヤーのようにジワリジワリと周囲に広がって行き、ロコの胃を否応なしに圧迫する。
卑劣な賞金稼ぎの額からは脂汗が噴き出し、コートや手袋も汗で身体にまとわりつく。
両脚が寒さよりも恐怖で震え、ロコは逃げ出してしまいたくなる。
本能的に逃げ道は無いものかと視線を飛ばすが、それを察知した保安官がこれ見よがしにライフルを操作する音を立てる。
保安官の存在に即座にロコは逃げ出す考えを捨てる。
サイレンスが見逃したとしても保安官が撃ち殺すのは明らかだった。
けいれんにかかったかのようにロコの手や頬がブルブルと震える。
対して、サイレンスの方はジッとロコを見つめている。
 「ハァ・・ハッ・・・ハゥァ・・・」
だんだんとロコの息が上がり、表情に緊張と緊迫感が増してゆく。
とうとう耐え切れなくなったのか、ロコが寒冷地用の毛皮製ホルスターに手をやったかと思うや、リボルバーを構えた。


 パンッ!!
「ぐ・・・・」
乾いた音と共にロコがうめき声を上げた。
サイレンスの手にはモーゼルが握られ、銃口からは硝煙が上がっている。
ロコの方が先に抜いたが、電光石火の早業でサイレンスがロコよりも早く発砲したのだ。
 先に抜かせて電光石火の早業で撃つ。
賞金稼ぎでは無く、殺し屋という非合法な存在ゆえ、サイレンスが身につけた奥儀だ。
相手を挑発して怒らせ、先に抜いたところでこちらも高速で抜き、撃ち殺す。
そうすれば先に抜いた相手方が非となり、正当防衛を主張することが出来る。
殺し屋というハンデゆえにサイレンスが生み出した、並みの者には決して真似できぬ秘技だ。
 「あぅ・・かぁ・・・・」
ロコは腹を左手で押さえながらよろめく。
だが、それでもさすがに賞金首の端くれか、メラメラと憎悪の炎を目に宿らせ、拳銃を構える。
ロコが震える手で拳銃を構え、親指で撃鉄を起こすのを見計らうや、モーゼルが再び火を噴いた。
 「がはっ!!」
銃撃を喰らい、クルリとコマのように回りながらロコは後退する。
立て続けにモーゼルが火を噴き、周りながらロコはどんどん後ろへ下がってゆく。
やがて、氷上に空いた大きな穴へ水しぶきと共に転がり落ちた。
 「・・・・・!!!!」
凄まじい水の冷気にまだ意識のあるロコは声にならない悲鳴を上げる。
直後、何かにグイと引っ張られる感覚を覚えた。
 片足を見やると、何かがしがみついているではないか。
しがみついている者が顔を向けるや、ロコは愕然とする。
サイレンスを殺した直後、酒場で殺した犠牲者の一人だった。
 ロコは両手を動かし、必死に水面へ上がろうとする。
だが、川底から次々と犠牲者の霊が現れたかと思うと、手と言わず胴と言わず足と言わずにしがみつく。
やがて、ロコは口や鼻から大量の泡を噴き出しながら冷たい川底へと引きずり込まれてしまった。
 「やっと・・・終わったな・・」
川へロコが叩き落とされ、犠牲者の霊に連れ去られてゆくのを見届けた保安官はサイレンスにそう話しかける。
サイレンスは保安官の方を見やると静かに頷いた。
 「俺達の仕事も終わりだ。ほら、あれを見てみろ」
不意に保安官が何かを指さし、サイレンスも振り向く。
すると、いつの間にか大きな道が現れていた。
道の奥へと向かって、犠牲者たちがゆっくりと歩いている。
 「はは。天国への道だな。俺達も行くとするか」
保安官の言葉にサイレンスは頷くと、天国への道に足を踏み入れた。


 2008年、スノーヒル。
粗末な木造家屋が並ぶだけだったこの町も今やすっかり変り、舗装道路が敷かれ、自動車が行き交っている。
マクドナルドやスターバックスといった大手チェーン店も軒を連ね、穏やかで幸せそうな住人達がメインストリートを行く姿は、とても110年前に悲惨な事件があった街とは思えない。
そんなスノーヒルのメインストリートにひっそりと佇む石碑があった。
石碑はちょうど、惨劇の舞台となった酒場がかつて建っていた場所に立っている。
 『圧制の犠牲となった人々、またそれを救おうとして非業の死に倒れて全ての人々の霊に 1969年 スノーヒル市』
石碑にはこのように刻み込まれていた。
 1969年、セルジオ・コルブッチ監督、ジャン=ルイ・トランティニャン主演の映画『殺しが静かにやって来る』によって、それまで忘れ去られかけていた惨劇の事実が掘り起こされた。
当時、既に市となっていたスノーヒルでは、犠牲者やサイレンスの霊を慰めるため、慰霊碑を建立したのである。
 人々が行き交う中、西部劇から抜け出してきたような異様な風体の男が通りの端を歩いている。
だが、人々は全く気付かない。
彼らには見えていないのだ。
やがて、男は慰霊碑の前で立ち止まった。
 その男は全身黒づくめでモーゼルを腰に身につけている。
顔もジョン・サイレンスに似ていた。
だが、どこか彼とは異なる面立ちをしている。
同時にコートの下には胸当てを、両腕には棺桶をモチーフにしたガントレットをはめている。
何よりも異様なのは、背中から見事なまでに黒々とした大きく立派な翼が生えていた。
 処刑人の天使、ジャンゴ・サイレンスは慰霊碑の前に立ち止まると、ジッとそれを見つめる。
サイレンスは一輪の花を取り出すと、それを慰霊碑に捧げた。
この慰霊碑に追悼されている男、それが彼の半身だったからだ。
ジャンゴ・サイレンスは元はジョン・サイレンスだった。
天界に赴いたジョン・サイレンスは己の身を呈して悪と立ち向かおうとした心を認められ、殺人の罪を償った後、天使として生まれ変わった。
天使として生まれ変わったことで、彼には新しい名と役目が与えられたのである。
 彼は年に一度は必ず、ここを訪れていた。
今でこそ天界で静かに、穏やかに暮らしているが、この世では助けることが出来なかった人達に祈るために。
しばらくの間、サイレンスはジッと佇んでいたが、やがて静かにその場を去っていった。


 ―完―
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