狩人の月(ハンターズ・ムーン)前伝 摩茄路仁奇談(まかろにきだん)1



 (注:有名作品のキャラクターが登場したり、それを元にオリジナルの設定を作り上げたりしています。それでも許容出来る方のみご覧ください)


 「これだ・・・・・」
野上秋成はそういうと目の前の木に茂っている葉を数枚摘んで採取する。
彼がいるのは摩茄路仁県中部に存在する山林地帯。
摩茄路仁県は本土から離れたところに存在する、北海道より一回り小さめの県だ。
本土とは違った環境下にあり、また手つかずの自然が残っている。
そのため独自の生態系が発達しており、そこへ学界や企業が目をつけて調査・研究に乗り出してきていた。
土方製薬もその一つで、摩茄路仁県に生息する動植物の中から製薬に利用できそうな生物の調査・研究を行っている。
その一環で野上達が出張してきていた。
 採取に没頭する野上の頭上にある枝で、何かが動いていた。
それは枝に巻きついた状態でするすると移動する。
動いているのは蛇。
蛇はゆっくりと枝を伝って野上の頭上へ向かってゆく。
やがて動きが止まったかと思うと下半身を枝に巻きつけ、今にも野上の頭上へ急降下しようとしたそのときだった。
 突然、何かが飛んできたかと思うと、蛇の頭を刎ねてしまう。
切り裂かれた首と胴は野上の足元へと落ちた。
「ひゃああっっ!!」
突然落ちてきた蛇に野上はビックリして後ろへ飛び退く。
「騒ぐな。もう死んでる」
不意に声がしたかと思うと背後から誰かが現れた。
 現れたのは30代前半らしい男。
猛禽を思わせる鋭い精悍な顔立ちで濃いめの無精ひげが野性味を強めている。
すらりとしたやや細身ながら狼やドーベルマンのようなしなやかさと強靭さを備えた身体つきをしている。
テンガロンハットやコートといった、摩茄路仁県ではよく使われている西部劇風の衣服を纏っており、全て黒で統一されている。
相当使い込んでいるのだろう、かなりくたびれた感じであった。
コートに隠れるようにして腰に太めの革ベルトを締めているが、それにはナイフの革鞘と猟銃の銃弾が装着されている。
手には水平二連式の猟銃を手にしていた。
 「何だぁ・・・持安さんかぁ・・・。おどかさないで下さいよぉ」
野上は現れた男の姿を見るとホッとする。
男の名は持安剛(じあんごう)。
狩猟や山の案内人で生活しており、新撰グループの研究チームに雇われてここの山林の案内役をしていた。
なお、摩茄路仁県は手つかずの自然が残っている場所が多いため野生動物が豊富である。
そのため、生活やスポーツとしての猟(漁)も盛んで県の主要な生業の一つとなっていた。
一方で野生動物が多いためにそれらと遭遇する危険も他県より多い。
そういう理由でこの県は職業的な猟師でない家でも猟銃などを保持していることが多かった。
従って、日本国内にしては珍しく銃が普及している土地でもあった。
 野上のボヤキを尻目に持安は蛇を仕留めるのに投げつけた狩猟用ナイフを回収する。
「そろそろ帰るぞ」
「え・・?もう・・?」
「遅いくらいだ。愚図愚図してると熊や猪と鉢合わせする」
「え・・!じゃ、じゃあ帰ります!あれ・・?久也君は?」
野上はキョロキョロと周囲を見回す。
一緒に採取をしていたはずの久也の姿が見えなかったからだ。
 「はぐれたか・・・」
持安はトランシーバーを取り出すと別の所にいる仲間に連絡する。
しばらくして他の研究員を案内していた仲間がやってくると野上を預けてその場を離れた。


 (あれ~?主任どこ行っちゃったんだろう・・・)
会津久也はキョロキョロと周囲を見回した。
どうやら採取の間にいつの間にかはぐれてしまったらしい。
(どっちから来たんだっけ~~?えーと・・・・)
必死にあたりを見回すものの、林での目印など知る由もなく途方に暮れてしまう。
(困ったなぁ・・・・どうしよう・・・・)
いい知恵が浮かばずため息をついたそのときだった。
 不意に久也は木々の奥に何かが見え隠れしていることに気づく。
(何だろう・・?)
好奇心に駆られ、久也はゆっくりと接近していく。
やがて久也は広場のように開けた空間に出た。
 そこには円状に列石が並べられている。
いわゆるストーンサークルというやつだ。
中央には大きな石が二つ立っている。
 (何かの・・・遺跡かな・・・?)
久也がさらに近付いて調べようとしたそのときだった。
「何をしてる!」
突然、強い力で久也は首根っこを掴まれて引っ張られる。
振り向くと見えたのは持安の顔。
「あ・・持安さん・・・」
「何をしてる・・・」
「え・・そこのを・・ちょっと・・」
遺跡を指さして答えようとすると、剛は凄まじい表情で久也を睨みつける。
思わず久也は恐怖を感じ、震えそうになった。
 持安は久也の腕を強引に引っ張るとズンズンと歩きだす。
「ちょ・・持安さん・・痛・・・」
久也が抗議しようとするが、有無を言わせぬ表情で睨みつけて黙らせると足早に持安は歩いて行く。
だが何か不安があるのか、いつでも猟銃を撃てる態勢を取っており、まるで危険な獣があたりに潜んでいるかのように周囲を見回しながら歩いていた。


 「で、どうだったの?話してくれたの?」
「それが全然ダメなんですよ~。聞くことすら許さないって感じで~」
久也は野上にそう答える。
山の近くにある社の研究所支局に戻った後、久也は休憩所で休みながら林で見たストーンサークルのことを野上に話した。
 「それにしても何なんだろうねぇ」
「まさか危ない宗教の集会所とか~?そこで生贄を奉げたりなんて・・・」
「バッカだなぁ、そんなことあるわけないじゃないか~。どっかのホラー小説じゃないんだからさ~」
「そうですよねぇ、あはははは」
二人はそう言って笑う。
しばらく話していたが、時刻も大分更けた頃、二人とも寝室の方へ引き上げていった。
 その夜中、廊下をこっそり歩く者の姿があった。
その足取りはいかにも抜き足差し足忍び足というべきもので、キョロキョロと闇の中を見回している。
やがて建物から出るや、星明かりが微かにその人物を照らす。
現れたのは久也。
久也は懐中電灯を手にし、昼間山林へ出かけたときと同じ格好をしている。
 (誰も・・・見てないよね・・・)
支局の裏口までやってくると、久也は再び周囲を見回し、誰もいないことを確かめる。
(よぉし・・・・)
久也はこっそり持ち出した裏口の鍵を取り出すと、慎重に鍵を回す。
ドキドキしながらうまく音を立てずに扉を開くとゆっくりと外へ出る。
そしてそのまま林へ向かう道を歩いて行った。


 ジリリリリ―――ンンンンン!!
リリリリリリリリリ――――ンンンンン!!
持安が寝室で眠っている最中、突然電話のベルが鳴り出した。
「どこの・・どいつだ・・?こんな時間に・・・」
持安は起きると電話の所へ行き、受話器を取る。
「もしもし・・?ん・・?研究所の人か?何・・・わかった・・ああ・・・」
持安は受話器を置くとすぐに着替える。
やがてどこかから長く真っ黒な包みを持ってきたかと思うと足早に家を後にした。


 (これか・・・)
懐中電灯の明かりを頼りに久也はストーンサークルを調べる。
明かりを向けてみると中央の大きい立石には何かが刻み込まれているようだった。
描かれているのは絵文字のようなもの。
久也はそれを見ると、以前テレビのドキュメンタリー番組や博物館の企画展で見た中南米の古代文明の絵文字を連想した。
さらに調べていくと二種類の像が彫り込まれていることにも気づく。
一つは人間に近い身体つきをしているが、肌は爬虫類のようで、顔も異様だった。
もう一つは何とも奇妙なものだった。
 それはナスのように長い頭部を持ち、細見の身体と長い尾を持つ奇妙な生き物。
非常におぞましい迫力を持って彫り込まれているせいか、久也は調べているうちに背筋が寒くなってくる。
もう一つの立石は像や文字が刻まれているものよりは小さく、てっぺんが窪んでいる。
それはそこに何かをセットするためであるように思えた。
 (ん・・・あれ・・?)
石の根元にある石のタイルなどを見ていて久也は妙なしみがあることに気がついた。
「何だろ・・・これ・・・」
懐中電灯の光を当てて久也はジッとそれを見つめる。
染みはどす黒くついてから相当時間が経っているようだった。
(暗過ぎて・・・よくわかんないなぁ・・・・・)
さらによく光を当てて久也はもっと調べようとした。
 暗闇の中、木陰からゆっくりと近づく者がいた。
山林、しかも闇夜にも関わらず慣れた足取りで彼は進んでゆく。
歩きながら彼は懐から何かを取り出した。
取り出したのは革製の棒。
ブラックジャックだ。
彼は足音を殺し猫のように歩み寄ったかと思うとすかさず久也の後頭部目がけてブラックジャックを振り下ろす。
鈍い微かな音と共に久也は一旦動きを止めたかと思うとそのままヘナヘナと地面に崩れ落ちた。
 久也が意識を取り戻したと同時に聞こえたのは奇妙な音楽だった。
いまだはっきりしない視界の中で周囲を見回してみると、ストーンサークルの周りを激しく動き回っている者達がいる。
(何だ・・ろう・・?)
久也は身体の節々に痛みを覚えつつジッと見つめる。
少なくても17,8人はいるらしく、鉢や鐘、小型の太鼓などを激しく鳴らしながらとび跳ねたりしている。
それはまるでテレビのドキュメンタリー番組等で見る、アフリカや太平洋諸島の先住民族の踊りのようだった。
彼らはいずれも顔に仮面をつけて踊っている。
それは今まで見たことのないデザインの仮面だった。
それは爬虫類の顔を人にしたような感じのデザインで、ドレッドヘアー風の飾りを頭部に植え込んでいる。
月明かりやかがり火に照らされると仮面がより恐ろしく、またおぞましく見えた。
また、踊り手たちは爬虫類の皮膚をイメージしたようなデザインをびっしりと施した衣服を纏い、手槍や鉤爪、大型ナイフといった武器を持って踊っている。
 (あんな・・・もので引っかかれたら・・・)
思わず想像してしまったのだろう、久也はブルブルと震えが走る。
しばらくの間謎の集団は踊っていたが、やがて新たな人物が現れた。
 現れたのは鱗の刺繍をびっしりと施した巫女服に身を包んだ女。
他の者達よりもずっと手の込んだ仮面をつけていた。
女が現れると一同は静まる。
一瞬にして周囲は騒擾から静寂へと変わった。
 巫女服の女は御幣を激しく振りまわし何やら祝詞のようなものを唱えている。
それは今まで久也が全く聞いたことのないものだった。
(な・・何だろう・・?この・・感じ・・・)
久也は女の唱える祝詞に異様なものを感じる。
聞いているうちにチリチリと舌や喉が渇いてきたかと思うと汗が噴き出してくる。
足元から冷たいものが這いあがってくるような感覚を覚え、久也は背筋が寒くなる。
そして何とも言い知れようのない嫌悪感や不快感もこみ上げてきた。
 不快な祝詞と踊りはしばらく続いていたが、ようやく終わったのか、巫女姿の女はスゴスゴと引き下がる。
それを見て久也がホッとする間もなく、今度は別の光景が繰り広げられた。
今度は別の出で立ちをした男が現れたのだ。
その男も仮面をかぶっているが、こちらは目が無くナスのように曲がった長い後頭部を持っており、墨のような漆黒に塗られている。
鋭い鉤爪を植えた頑丈な手甲と体にぴったりした衣服を身につけていたが、それらも全て黒づくめだった。
 黒装束の男が現れると同時に踊り手の一人が進み出る。
両者は石碑である立石に向って咆哮を数度繰り返すと、互いに武器を構えて睨みあった。


 激しい衝撃音と共に両者とも地面に吹っ飛ぶようにして倒れる。
すぐさま二人とも起き上がり、互いの武器で攻めかかる。
刃と刃が激しくぶつかり合い、汗や土が周囲に飛び散る。
異様な姿をした二人は互いに相手の命を奪わんとするかのような勢いで互いに相手に打ちかかる。
二人は一進一退の攻防を続けていたが、やがて黒づくめの方が押され始めた。
黒装束の方は撥ね退けようとするものの、だんだんこらえ切れなくなり、最後には片膝をついた態勢になる。
やがて槍を持った方が相手の鉤爪を巧みにもぎ取ったかと思うや、槍を思いっきり繰り出した。
 久也は蒼白になって目の前の光景を見つめていた。
黒づくめの男が地面に倒れ伏している。
対戦相手は何のためらいも無く倒れた相手へ止めを繰り出した。
「ひぃ・・・・」
目の前で行われた口にしたくもない行為に久也は心底から震えあがる。
 黒づくめの男が完全に息絶えたのを確認すると、勝者は槍を高く上げて勝利の雄叫びをあげる。
それに応えるように周囲の者達も咆哮を上げた。
(ひ・・ひぃぃ・・)
久也はもはや限界だった。
彼はこの異様な宴から逃げ出そうとする。
だが、その直後強い力で身体を取り押さえられた。
ハッとして振り返ると、数人の仮面の男達が久也を捕まえている。
本能的に久也は振りほどこうとしたが、それよりも先に彼らは久也を引っ立てる。
 「いやあああっっっ!!離してぇぇぇぇ!!!」
久也は必死に叫んだ。
だが、彼らはそれを無視し、中央の立石の元へ久也を引っ立ててゆく。
絵文字や像が彫り込まれた立石に久也を押さえつけたかと思うと、彼らはどこからともなく鉄鎖を取り出してきて、それで久也を石へ縛りつけてしまった。
 (な・・何が・・始まるんだ・・?)
久也は恐怖に戦きながら仮面の集団を見やる。
やがて巫女服の女が恭しく何かを頭上高くに掲げながら現れた。
それは卵に見えた。
だが、それは何と大きさが20~30センチはあろうという代物だった。
闇の中で見えにくいが、それは茶色で表面は何とも気持ち悪い。
巫女服の女は異様な祝詞を唱えながら進む。
その他の者達は全員跪いたかと思うと幾度も上体を起こして激しく叫ぶ。
どうやら謎の巨大卵は彼らにとって聖なるもののようだった。
 仮面の巫女は久也の前に置かれている低い石柱のてっぺんにあるくぼみに巨大卵をセットする。
足早に巫女は遠ざかったかと思うとさらに激しく呪文を唱えた。


 天駆ける狩人よ 星より来たりし荒ぶるものよ!
 大いなる獣よ! 万の子を生みし黒き龍よ!
 降りたまえ! 降りたまえ!
 天を駆け獲物を狩りし修羅の化身達よ!
 我ら御身らに至高の贈り物をせん!
 御身らの最も好みたまいしものを捧げん!
 我らこのものの血と肉を持って大いなる獣を地に下さん!

 大いなる獣よ! あらゆるものを貪り滅ぼす黒き龍よ!
 我ら神々のためにそなたを地に生まんとす!
 龍よ!産めよ!増えよ!地に満ちよ!
 さすれば天の狩人 大いなる神々が訪れん!
 獣よ!喰らえ!増えよ!貪れ!
 そして天の彼方より偉大なるもの 荒ぶるものを下さしめよ!

 巫女はこれ以上ないほど興奮した様子で祈りの言葉を叫ぶ。
それに反応したのか、卵に変化が生じた。
卵の表面が蠢きだしたのだ。
心臓が脈打っているかのような様子で卵の表面が動き出す。
同時に卵の上端に十字型の切り込みが現れた。
切り込みが現れると同時にゆっくりと卵は開きだした。
やがて中から細いカサカサと動くものが姿を現す。
現れたのは虫や蟹のそれに似た足。
八本の脚は自己主張するかのように激しく動いている。
足が動きながらカブトガニに似た奇妙な生き物が半身を見せたかと思う間もなく、猛烈な勢いで卵から飛び出した。


 ―続く―


スポンサーサイト

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

comment

管理者にだけメッセージを送る

プロフィール

山田主水

Author:山田主水
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2投票
無料アクセス解析
FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード