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ダンジュー修道院・番外編6 沈黙の用心棒(微スパ)



(注:マルセル村もの、サイレンス中心の番外編です。また、スパが少ししかありません。その点をご了承の上でお読み下さい)


 「おい!いたか!?」
「いや、いない!」
「くそっ!どこに行った!」
男達は互いに顔を合わせるや、会話を交わす。
彼らはいずれも銃や剣で武装しており、誰かを追っている様子だった。
 「いいか!何としてでも奴を探し出せ!必ず殺すんだ!」
「おう!」
男達は激昂にかられながら互いにそう言うと、別れて標的を探し続ける。
やがて、男達の姿が消えていった。
 男達の様子を、樹上から伺っているものがいた。
それは完全に周囲と同化しており、一見しただけでは見えない。
だが、人のような輪郭が浮かび上がったかと思うと、静電気のような光と共に姿を現した。
 現れたのは黒づくめの男。
腕には棺桶をイメージしたデザインのガントレットを身に着け、腰には木製ホルスターに納めたモーゼル・ミリタリー。
喉に巻いたマフラーの下からは大きな古傷が微かに姿を覗かせている。
サイレンスだ。
片眼の周りにある青あざをはじめとして、全身に痛めつけられた跡が残っていた。
 満身創痍だったが、サイレンスはその中で左腕と右足を見やる。
いずれも銃創と思しき傷がくっきりと口を開けていた。
サイレンスは銃とは反対側に身につけている小さなボックスを取り出す。
スイッチを押して蓋が開くと、中から医療器具らしいものが現れた。
サイレンスは救急キットから扇子のようなものを取り出すと、それを開いてお皿状にし、付属の小型発火装置のスイッチを押して火をつける。
そして、種類の異なるカプセルの中身を皿の上に出すと、煮沸し始めた。
しばらくすると黒いゼリー状の物質が出来る。
口にハンカチを銜えた後、それをヘラのようなもので取ると、腕と足の傷口に塗り始めた。
 ジュッという音と共にあっという間に傷が塞がってゆく。
同時にサイレンスは苦悶の表情を浮かべてギリリとハンカチを噛む。
しばらくして、ようやく一息ついたときには少なくとも傷は塞がって血は出なくなっていた。
少し休んだ後、今度はサイレンスは左翼を動かす。
黒い翼はかなりひどく痛めつけられていた。
不覚にも敵に捕らえられてしまい、激しいリンチを受けた際にやられたものだ。
どこも怪我していないところなどないのだが、特に片手片足片翼がひどかった。
だから最優先してこれらの場所を応急手当てしている。
 翼を自分の目の前へ持って来たかと思うと、今度は救急箱から拳銃のような形をした注射器を取り出した。
さきほどのゼリー状の薬ではひどすぎて治せないからだ。
サイレンスは右手に注射器を持つと、慎重に翼の根元へ右腕を回し、ゆっくりと針を射し込んでゆく。
同時に引き金を引くと同時に一気に薬剤が注入された。
 翼はドクンッと一瞬膨れ上がったかと思うと、激しく脈打ち始める。
同時にサイレンスは両脚をしっかりと締めて座っている太い枝に掴まった。
ゆっくりと翼の色が艶のある黒へと変わってゆき、羽根も生え揃ってゆく。
しかし、サイレンスは熱病にでもかかったかのように全身を震わせ、苦悶に満ちた表情を浮かべる。
強力な薬であるがゆえに、身体に対する負担や苦痛も大きいのだ。
特に、翼は飛行のみならず魔力の行使等をする上でも重要な器官。
それだけに神経なども集中していて、苦痛が激しい。
 手の甲や額から脂汗がドッと噴き出し、口がきけるものならば叫び声が上がっていそうな表情をサイレンスは浮かべる。
ようやく翼が新品同様のきれいなものへと治ったときには、頬が痩せこけ、まるで断食後とでもいうような様相だった。
 荒い息を吐きながら、サイレンスは救急キットを片づけると、それを身につける。
そして、動こうとしたそのとき、不意にガクンッと大きく身体が揺れた。
そのままサイレンスはドサリと地面へ落ちてしまう。
しかし、それでも何とか立ち上がり、どこかへと歩き出した。


 「ふぅぅ・・寒いぃぃ・・・」
未だ冷たい空気に身を震わせつつ、チサトは教会の庭を掃除していた。
山地という土地柄のせいか、マルセル村は平地や都会よりも春の訪れが遅い。
三月になっても未だに風は冷たく、ところによっては雪も見かけられた。
 (あれ・・?)
不意にチサトは怪訝そうな表情を浮かべる。
森に面した庭の端の方で物音がしたように思えたからだ。
(何だろう?)
何気なくチサトは音がしたと思えた方へ向ってみる。
やってきたところへ、最初目に飛び込んだのは真っ黒な塊だった。
直後、それが黒づくめの格好をした男が倒れていることに気づく。
とっさにチサトは駆け寄ると、助け起こして声をかける。
「大丈夫ですか!?」
声をかけるが、どうやら気を失ってしまっているようだ。
「医者を・・呼ばないと・・・」
かなり手ひどく痛めつけられたその姿に思わずそう呟くが、男を起こそうとしたところで、銃を納めた木製ホルスターに気づく。
明らかに何者かの暴力によると思えるアザや傷、そして拳銃。
チサトにもこの男がワケありの人間だということはわかった。
となると、医者を呼ぶわけにはいかない。
いや、下手をすると厄介事に巻き込まれるかもしれない。
一瞬、迷いがチサトの顔に浮かぶ。
だが、次の瞬間、男の腕を自分の首に回して助け起こすと、建物の中へと運んでいった。
例えどのような人間であっても、傷ついて教会へ逃げ込んできた以上、放っておくわけにはいかない。
自分に出来る範囲のことで助けよう、そう決意したのである。


 ゆっくりと瞼を開けると同時に、サイレンスの目に飛び込んで来たのは質素なつくりの天井だった。
ゆっくりと起き上がったサイレンスは、自分がベッドに寝かされていることに気づく。
上着は無論、鎧やガントレットも完全に取り外されており、裸となった胴や腕には包帯を巻いてある。
どうやら何者かが手当てをしたらしい。
 サイレンスはゆっくりと室内を見回してみる。
造りからすると寝室だ。
家具はどれも質素なもので、壁などはかなり年代がいっている。
本棚を見てみると、宗教関係の本と子供のための本が多かった。
さらに壁には窪みが設けられ、小さく質素ながらも赤ん坊のイエスを抱くマリア像が安置され、花やロウソクが備えられている。
部屋の主が常に祈りを欠かすことのない人間なのは明らかだった。
 サイレンスは身体を起こすと、自分の持ち物を探す。
上着や帽子は丁寧に畳んでベッド近くのテーブルに置かれている。
ご丁寧にガントレットや鎧、拳銃まで置いてあった。
 不意にサイレンスの表情が変わった。
何者かの気配を感じたのだ。
サイレンスは銃を取って静かにベッドから降り立つと、猫のように音も立てず、ドアの傍らへへばりつくように立つ。
 ゆっくりとドアが開くと共に、サイレンスは食い入るようにドアを見つめる。
やがてドアが開き切ると、ゆっくりと誰かが入ってきた。
「あれ・・?」
食事を載せたお盆を持って現れたチサトはベッドがもぬけの殻なことに気づく。
直後、背後から誰かが近づいたかと思うと、背中に何かを突きつけた。
 突然のことにチサトは一瞬、身を強張らせる。
だが、チサトは勇気を振り絞って答える。
「あ・・あの・・ご飯・・持って来たんですけど・・・」
そう言いながら後ろを振り向いて話しかけようとする。
だが、再び背中にものを突きつけられ、動きを止めざるを得なくなる。
 サイレンスは反対側の手でベッド近くのテーブルを指し示す。
どうやらテーブルに食べ物を置けといっているようだと理解すると、恐る恐るチサトはテーブルに向って歩き出した。
サイレンスがジッと見つめるのを尻目にチサトは恐る恐るテーブルにお盆を置く。
チサトがおずおずとテーブルから離れると、サイレンスは警戒しつつもゆっくりとベッドの方へ戻る。
そして、ベッドの縁に腰を降ろすと、チサトが用意したパンを手にして食べ始めた。
 食べつつもサイレンスはジッとチサトの様子を伺っている。
そのせいか、チサトはそのまま立っている。
パンを食べながらサイレンスはジッと目の前にいる若い神父を観察する。
緊張した表情を浮かべ、警戒しているような様子だ。
自分は突然現れた闖入者、しかも身につけていたものを見れば厄介事に巻き込まれかねない手合いなのはわかっているのだろう。
しかし、同時に自分を気遣うような視線も向けてくる。
この神父が自分を助けてくれたのは明らかだった。
 「あ・・あの・・」
サイレンスがパンを食べ終えると、チサトはオズオズと声をかける。
ジッとこちらを見つめるサイレンスに思わず緊張するが、勇気を出して尋ねた。
「お代わり・・・食べますか?」
その問いかけにサイレンスは手振りでいらないと答える。
「そ・・それじゃあ・・片付けますね。いいですか?」
チサトの問いにサイレンスは頷く。
それを承諾と見てとったチサトはゆっくりと近づくと、お盆を持って部屋を出て行こうとする。
だが、あまりにも緊張していたせいだろう、蹴躓いてしまい、お盆や皿を宙に投げ出してしまった。
 「きゃんっ!!」
悲鳴と共にチサトは倒れてしまいそうになる。
とっさにサイレンスは怪我人とは思えない動きで飛び出したかと思うや、襟首を後ろから引っ掴んで支え、同時にお盆と皿を落ちる前に巧みな腕捌きで回収する。
 「あれ・・?」
いつまでも床にぶつかる感触が無いことに怪訝な表情を浮かべたが、振りかえろうとすると、ゆっくりとサイレンスが引き戻す。
「あ・・ありがとう・・ございます・・」
チサトが礼を言うと、サイレンスは大したことではないという表情を浮かべる。
サイレンスからお盆と皿を受け取ると、チサトはオズオズと部屋を去っていった。


 「少しは楽になりました?」
チサトはサイレンスの包帯を取り換えてやりながら、そう尋ねる。
あれから数日、手当てのおかげか傷はだいぶ良くなっていた。
信用してよいと思っているのだろう、サイレンスは銃を向けることは無い。
しかし、さすがにいつでも取れる場所に置いてあった。
不意に、呼び鈴が鳴った。
「お客さんかな?すいません、ちょっと失礼しますね」
そう断ると、チサトは表の方へと出て行った。
 外へ出ると、三人組の男が待っていた。
何とも奇妙な男たちだった。
まるで西部劇にでも出てきそうな格好をしており、ご丁寧に拳銃まで持っているのだから。
 いかにも怪しげな連中にさすがのチサトも怪訝に思う。
「あの・・何かご用ですか?」
恐る恐るチサトが尋ねると、男の一人がニヤリと笑う。
「決まってるだろ。てめえが隠してるもんだよ!」
「な、何のことですか!?ここには金目のものなんてありませんよ!」
「とぼけるな!しゃべれねえ男を匿ってるはずだ!!」
男の言葉にチサトはハッとする。
サイレンスを探しているのだ。
しかも、この様子からすると殺してしまうつもりらしい。
 「そんな人はいません!帰って下さい」
「ごまかすんじゃねえ!そんなら力づくで吐かせてやる!!」
男の一人が乱暴にチサトの腕を掴んでねじ伏せようとしたそのときだった。
 突然、チサトをねじ伏せようとした男の顔面目がけて何かが飛んできた。
衝撃に思わず男は手を離し、その隙にチサトは逃げ去る。
「くそっ・・何だ・・」
地面に落ちたそれを見てみるや、棺桶の形をした護符らしきもの。
それを見るなり、男達の表情が変わる。
 同時にゆっくりと黒いコートを纏ったサイレンスが現れた。
「やっぱり・・居やがったな・・・」
三人組は地面にペッと唾を吐くと、腰のピストルに手をかける。
直後、サイレンスもコートの下に手を入れたかと思うや、猛烈な勢いでモーゼルを続けざまにぶっ放した。
 三連続けて眩いばかりの光弾が銃から放たれたと思うや、男達はコマのように回転しながら倒れる。
目の前の光景にチサトは呆然としていた。
呆気に取られているチサトを尻目に、サイレンスはそのまま去ろうとする。
 「あ・・どこへ・・行かれるんですか!?」
慌ててチサトが止めようとすると、サイレンスは紙を押しつける。
チサトが開いてみると、次のように書かれていた。
 『世話になった。礼を言う。だが、このままだとあんたに迷惑がかかる。だからもう行く方がいい』
「でも・・まだ傷が・・・」
チサトは未だに治っていない傷を見ながら心配そうに言う。
だが、サイレンスは手振りであくまでも行こうとする。
その決意の固さにチサトは留めるのは無理だと思ったのだろう、引き止めることは諦める。
だが、その代わりに持っていた財布を差し出した。
 「どこへ行かれるか知りませんが、少しでもあった方がいいですから。路銀の足しにでもして下さい」
サイレンスは手振りで受け取れないというが、チサトは無理に受け取らせる。
やむなく、サイレンスは財布を受け取ると、その場を後にした。
 「そうだ・・あれ?」
サイレンスが無事去って行くのを見届けると、チサトは撃たれたはずのならず者たちに目を向ける。
自分に危害を加えようとした者たちだが、撃たれた以上は放っておくわけにはいかなかったからだ。
だが、倒れた筈の男達の姿は全く無い。
いつの間にか掻き消えてしまっていた。
「何で・・・・」
不思議な出来事にチサトは思わず呆然としていた。


 それからさらに一日か二日経った頃・・・。
(大丈夫かな・・あの人・・)
チサトは先日教会を去ったしゃべれない男のことを思い返していた。
どういう事情があるかはわからないが、危険なことに従事していることは間違いない。
例えわずか数日しか関わりを持たなかったとはいえ、無事でいてくれたらと思わずにはいられない。
 そのとき、呼び鈴が鳴った。
「はい・・どなたですか?」
チサトは表へ出て訪問者を迎えようとする。
だが、表へ出るなり襲いかかって来たのは砂か何かを詰めていると思しき革製の棍棒。
思い切り殴られ、衝撃が浸透すると同時にチサトはヘナヘナと崩れ落ちる。
 チサトが倒れると、西部劇風な男達が現れる。
彼らは気絶したチサトを引っ掴むと、どこかへと引き立てて行った。
 それからしばらく経った頃、サイレンスは山道を歩いていた。
不意にサイレンスは立ち止まる。
同時に腰の木製ホルスターへと手を伸ばした。
いつでも引きぬける体勢で、サイレンスは周囲を慎重に見回す。
突然、弦音がしたかと思うと、黒づくめの身体がまるで猫のように跳躍した。
同時に空中でぐるりとバク転しながら銃をぶっ放す。
ギャッという声と共に何も無い空間から弓を持った男が現れ、コマのように回転しながら倒れた。
 着地と同時にサイレンスは男の顔を見やる。
自分を拷問したときにいた顔だ。
追っている一味の一人に間違いない。
確実に仕留めたためか、男の身体は一瞬光ると同時に光る灰と化して消滅した。
 サイレンスは男を始末したのを確認すると、幹に突き立っている矢に目を向ける。
矢には何やら紙が結びつけられていた。
どうやら自分へのメッセージらしい。
サイレンスは結び目を解いて紙を広げると、書かれている文章を読み始めた。
 読んでいくうちにだんだんとサイレンスの表情が変わってゆく。
最後まで読むと、サイレンスは紙を握り潰す。
宙高く放り投げたかと思うと、モーゼルをぶっ放し、光弾で焼き尽くすと、踵を返して別の方向を辿っていった。


 村の外れにある小高い丘。
壊れかけの塀や門の向こうには、雑草にすっかり浸食された庭や、ボロボロになった屋敷が建っている。
ここは、このあたりでも指折りの富豪だったさる旧家の持ち物だった屋敷。
ずいぶん昔にその旧家は絶えてしまい、屋敷を買おうというものも、管理しようとするものもないままに放っておかれている。
その屋敷の庭にそびえる木の、太い枝から何かがブラブラとぶら下がっている。
 チサトだ。
後ろ手に縛られて縄に吊るされたその姿は痛々しい。
その上、あちこちに暴行された跡があった。
 「ほれ!ほれほれ!何か言ってみろ!」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、男がライフルのストックでチサトを小突く。
もはや声を上げる気力も無いのか、チサトは黙って項垂れていた。
 「へへ。これだけやりゃあ確実に野郎は来るな」
「違えねぇ。殺されるとわかってて、賞金首共を助けに来た馬鹿野郎だからなぁ」
傷つけられたチサトの姿にニヤニヤ笑いをしながら、人の姿をした悪魔達は言葉を交わす。
彼らがサイレンスが弱いもの、痛めつけられているものを決して見過ごすことが無いことを知っていた。
だから彼らはチサトをさらい、痛めつけてぶら下げているのである。
自分達を追う天界の猟犬をおびき出して仕留めるために。
「へへ。やつがこの世からおさらばしたとき同様にして殺してやるぜ」
悪魔の一人がそう嘯く。
彼らは噂などから、サイレンスが悪人から人質に取られた人々を助けようとして無残に返り討ちにあったことを知っているのだ。
悪趣味にもそれを再現してやろうと考えているのである。
「全員用意は出来てるよな?」
「ああ。問題ねえ」
悪魔達はぐるりと周囲を見回す。
すると窓や屋根からチラリと仲間達のライフルが姿を覗かせている。
あちらこちらに仲間がしっかりと陣取っている以上、万全だった。


 今か今かとサイレンスを待ち構えていると、やがて門前にゆっくりとサイレンスが姿を現した。
サイレンスはゆっくりとチサトがぶら下げられている方へ近づいてゆく。
チサトはグッタリしていたが、サイレンスの姿に気づくと、必死に首を左右に振るう。
来てはいけない、逃げろと言っているのだ。
だが、サイレンスはゆっくりと歩いてくる。
チサトの傍に陣取っている者たちがガチャリとウィンチェスターのレバーを操作して構えるが、それでもサイレンスは静かに歩みを進める。
 パアンッ!
突然、乾いた音が響いたかと思うと、サイレンスの左足に着弾する。
思わずサイレンスは膝をついて座り込む。
続けて別の窓から突きだされたライフルから光弾が放たれ、左右の手を打ち抜いた。
 今や抵抗不可能なダルマ状態にされたにも関わらず、サイレンスはジッと敵達を睨みつける。
そこへ廃屋の扉が開いたかと思うと、何者かがゆっくりと姿を現した。
 現れたのは身長178センチ、年は30代から40代前半くらい、痩せぎすな身体をコートに包みこみ、面長な顔だちをしたアジア系の男。
俳優をやれそうな整った容貌だが、どこか邪悪さや狂気を感じさせる面立ちをしている。
男の名はフェゴー・ナカダイ。
日本の魔物の血を引く者で、凶悪夜盗一味の頭目として指名手配されていた。
 ナカダイはコート下からゆっくりとリボルバーを引き出すと構える。
それを皮切りに手下達もライフルを構えると、一斉に発砲した。
光弾が幾つもサイレンスの身体に穴を開ける。
やがてサイレンスはフラフラと左右に揺れたかと思うと、そのまま倒れてしまった。
 「ケケケケケ、バカな野郎だ!これで二度目だな!」
人質を助けにきて無残に返り討ちという最後に、悪魔達は嘲笑してみせる。
ナカダイは顎をしゃくって手下の一人に指図をする。
すると、命令を受けた悪魔は頷いてレバーを操作すると今度はチサトの方へ向けた。
銃口を向けられ、さすがにチサトの唇はわななき、顔から血の気が引く。
悪魔はニヤリと笑みを浮かべると、引き金に手をかけようとした。


 そのとき、サイレンスの身体から眩い白い光が発した。
怪訝に思って全員、死体の方を注視する。
直後、死体だったものは人型の真っ白な雪の塊へと変わった。
それを見た一団は全員ハッとする。
屋敷内に潜んでいる者も含めて全員が銃口を向けたが、直後、雪人形からツララや氷の礫が猛烈な勢いで飛び出した。
 「ごわあっ!!」
至近距離にいた一人がまともにツララで胸を刺し貫かれ、前につんのめって倒れる。
そうかと思えば窓から銃を突き出している者たちへもツララや礫は襲いかかる。
礫が窓に飛び込み、声がしたかと思うと、ライフルを持った男が姿を現す。
その胸、或いは顔はぽっかりと穴が開いており、そのままヘナヘナと崩れ落ちてしまう。
 「チィッ!シッ!シャァァ!」
仲間達が次々とツララや礫にやられる中、銃が焼けんばかりに連射してナカダイは悉く氷弾を撃墜する。
やがて、氷の襲撃が終わって雪人形が跡形も無くなったときには手下達は皆倒され、ナカダイと人質のチサトだけだった。
 「くそおっ!雪人形の術を使いおったな!!」
ナカダイは歯ぎしりする。
雪人形とは読んで字の如く、雪によって人形を造りだす魔法だ。
その人形には氷や雪による魔法のトラップを仕込むことが出来る。
それで雪人形を行かせたというわけだった。
 突然、空がかき曇ったかと思うや、雪が降りだした。
敷地内にのみ降っており、あっという間に地面が薄いながらも白い雪で覆われ尽くしたのが自然の雪ではない証拠だった。
(くそう・・奴だ!!)
ナカダイは歯ぎしりする。
サイレンスの魔法行使についてはある傾向があった。
雪や氷の魔法を好んで使うのだ。
どうしてかはわからない。
一説には、彼が人間としての生涯を終え、新たなる復活を果たしたスノーヒルの地が雪に閉ざされた世界だったためではないかと言われている。
 ナカダイは緊張した面持ちでにわか銀世界と化したあたりを見回す。
やがて薄く積もった雪にポツリ、ポツリと足跡が浮かび上がった。
一歩、また一歩接近するたびに人型の輪郭が生じ、だんだんと色がついてゆく。
やがて、立ち止まったときには漆黒の衣服を身にまとったサイレンスが現れた。
 「シット!」
短い罵声と共にナカダイは発砲しようとする。
だが、電光石火の早業で抜くや、サイレンスが銃を撃ち飛ばした。
 「く・・・」
衝撃に思わずナカダイは右手を押さえる。
だが、サイレンスは銃を放り投げると、胸当てなども外してしまう。
そして、漆黒の両翼を出したかと思うと、右腕を突き出し、ポンポンと左手で軽く叩く。
 「いい・・度胸・・だな!後悔させてやる!!」
ナカダイは憎々しげな表情で吐き捨てるように言うと、おもむろに上着を引っ掴んで引き裂いた。
同時にナカダイの全身が脈打ち始める。
ポンプのようにドクンドクンと脈打っていたかと思うと、一気に身長が230センチくらいに大きくなり、筋骨たくましい巨人へと変身する。
同時に髪はザンバラの落ち武者風、肌は爬虫類のようになり、後頭部がやや長くなったかと思うと、口が裂けて鋭い歯が並び、中からドリルのように切っ先鋭い外骨格の舌が飛び出す。
額には脇に二本の角が生え、背中にはフジツボを思わせる穴が開いたコブがずらりと生えて中からモクモクと煙を吐き出した。
さらに手の甲や前腕、脛にはスパイクのような鋭いトゲが何本も生える。
鬼に変身したのだ。
 鬼に変身したナカダイは両腕を大きく広げると雄叫びをあげて突進する。
対して、サイレンスも地面を蹴立てて突進した。


 ドシィンッ!!という大きな音と共に鬼と天使は激しく衝突した。
衝撃で後ろへつんのめりかけるも、すぐさま体勢を立て直し、両者はプロレスラーさながらにがっしりと組み合う。
組み合ったまま、互いに相手を押しのけんと両者は必死に押し合う。
ナカダイが一メートルぐらい押したかと思えば、サイレンスは両翼を真っ赤なドラゴンに変え、後ろへ向けては火を吹いてブースターと化し、その推進力で押しのけようとする。
鬼のナカダイも負けじと背中に並んだフジツボ風器官から噴煙を吐き出し、その噴射で押し返そうとする。
組み合ったままコーヒーカップのようにグルグルと回転し、そうかと思えば互いに相手を押しのけ合う。
しばらくその状態が続いていたが、このままではらちが明かないと見たのだろう、ナカダイがカッと口を開くや、サイレンスの顔面目がけて外骨格の舌を突き出した。
 本能的にサイレンスは組みついたまま避ける。
だが、そのとき生じた僅かな隙をついてナカダイが思いっきりぶちかましを繰り出した。
衝撃でサイレンスは思い切り吹っ飛ばされるが、両翼を羽ばたかせて立ち止まる。
そこへ一気に間合いを詰めた鬼が大きな拳を思いっきり繰り出してくる。
 漆黒の天使は片翼を動かしたかと思うと、それで身体を覆い、同時に表面を厚い氷で覆う。
氷に阻まれ、拳ははじき返されるが、間髪入れずにナカダイはパンチの乱打で氷を割ってしまう。
同時に懐へ入り込むや、片足を飛ばして思いっきり蹴り上げた。
空中へ再びサイレンスは吹っ飛ばされるが、猫のように巧みにバック転して体勢を立て直す。
同時に再び翼をドラゴンに変えると、後ろへ向けてブースター噴射する。
噴射の勢いでサイレンスは空中から弾丸のような勢いでナカダイへ突進する。
さすがのナカダイも空中からのジェットフライングアタックに勢い負けしてのけ反ってしまう。
敵がのけ反った隙に着地するや、サイレンスは両拳を上げて背中のドラゴンに白い吐息を吹きかけさせる。
するとあっという間に拳は氷のグローブで覆われた。
 直後、超一流のボクサー顔負けの凄まじい乱打の嵐がナカダイに襲いかかった。
上半身のありとあらゆる部分を滅多打ちにされ、頑丈さでは定評のある鬼もさすがにグロッキーになってしまう。
頭に星空が浮かんで回ってそうな状況になったのを見るや、サイレンスは再びがっしりと組みついた。
 同時に両翼のドラゴンがナカダイにその口を向ける。
まっ白い閃光が二頭のドラゴンヘッドから放たれると同時に、衝撃でナカダイは吹っ飛んだ。
吹っ飛びながらナカダイの身体はまるで液体窒素でもかけられたかのようにあっという間に凍りついてゆく。
やがて一部の隙もなく凍りついたかと思うや、一気に砕け散った。
 完全にナカダイが砕け散り、消滅したのを見届けるや、ようやくサイレンスは背中のドラゴンを翼に戻し、ついには翼を引っ込めて人間の姿に戻る。
同時に両腕をさっと一振りして、地面を覆っていた雪をかき消した。
 サイレンスは追うべき者が全員撃ち果たされたのを確認すると、チサトの方へ向い、降ろしてやる。
チサトはもう精根つき果てたのだろう、ぐったりして気を失っていた。
縄をほどいて楽にしてやると、慎重に抱きかかえてその場を後にした。


 それから数日ほど経った頃。
パアシィ~ンッ!ピシャア~ンッ!パアッア~ンッ!
「ひゃあんっ!きゃあっ!ごめんなさぁいっ!」
「ごめんなさいやないやろうっ!!人を心配させるようなことしやがって!!」
バルバロッサはそう言うと、チサトのお尻をバシバシ叩く。
既にかなりお仕置きされたのだろう、お尻は真っ赤だった。
「だからしっかり戸締りとかはちゃんとしとけ!気をつけろって言うとるやろ!だから押し込みなんぞにあうんや!!」
「きゃあ~んっ!ごめんなさぁ~~いっっ!!」
チサトは必死に謝る。
 数日前、チサトが気がついた時には村の診療所のベッドにいた。
何故かと訝しむと、医者の説明や後で甦った記憶から、うっかり戸締りを忘れていたために泥棒に入られ、運悪く鉢合せ、そのままボコボコに殴られてしまったということであった。
実際、教会には泥棒が入った跡が残っていた。
幸い、慌てていたのか何も取られずに済んだのだが。
しかし、後日バルバロッサの元へ連絡が行き、様子を見がてらやってきたバルバロッサに心配をかけたお仕置きをされているのである。


 そのお仕置きの様子を特殊な望遠鏡でジッとサイレンスが見つめていた。
サイレンスはチサトを教会に連れて帰った後、気を失っているチサトに対し、記憶の消去と書き換えの処置を施し、その記憶に合うような工作もした後、診療所に連絡をして医者が来るようにしたのである。
チサトがどうやら事件のことを覚えていないことを確かめると、サイレンスは天馬に鐙を入れて去っていった。


 ―完―
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