賞金稼ぎモンコ・後編



「こいつは・・・・」
モンコはジッと地面の足跡を見つめる。
よく知っている足跡だった。
(あのガキ・・・来てるのか・・・)
再び、モンコの表情が変わる。
(何て馬鹿なガキだ。命が幾つあっても足りねえぞ・・・。もっとも・・俺には関係ねえがな・・・)
モンコは踵を返すと、隠れているはずの賞金首を探しにかかる。
ここへは賞金首を追って来たのだ。
小娘に関わっている暇はない。
殺されても自業自得、非情だがそれが賞金稼ぎの世界というものだ。
だが・・・。
 (何だ・・・!!何なんだ・・・!!)
モンコは何とも苛立たしい感覚を覚える。
あの娘の顔が幾度も幾度もフラッシュバックのように脳裏に現れるのだ。
(馬鹿野郎!!賞金稼ぎに余計な情けは不要だ!!殺されようが俺には関係ねえ!!)
必死に己にそう言い聞かせ、隠れているはずの賞金首に意識を集中させようとする。
だが、そうしようとすればするほどあの娘のことが却って気になってしまう。
(クソ!!クソクソクソ!!俺としたことが!!)
完全に調子が狂ってしまった自分自身にモンコは苛立つ。
 そのとき、乾いた音が響き渡った。
(銃声・・・!?)
今までの経験からモンコは音の正体をすぐに覚る。
咄嗟にモンコは音の聞こえてきた方向へ走りだしていた。


 「う・・・・」
ジェシカは腹に衝撃を感じると同時にゴロリと地面に転がる。
ハァハァと荒い息の中、ゆっくりと相手が銃を手にしたまま近づいてくるのが見えた。
(嘘・・・ボク・・死んじゃうの・・・・)
薄れかかる意識の中、ジェシカは恐怖に囚われる。
(やだ・・・死にたくない・・マンゴー・・・マンゴー・・・)
恐怖がどっと沸き上がる中、顔が見えるところまで男が近づいてくる。
(もぅ・・ダメ・・なんだ・・)
恐怖と絶望でジェシカは目の前が真っ暗になり、それが意識が薄れるのに拍車をかける。
それゆえ、ジェシカの表情を見るなり、男の表情が変わったことに気づかなかった。
 目の前に倒れている少年のような少女の姿を見るや、サイレンスは愕然とする。
とっさに殺気を感じたため、本能的に振り返って撃ってしまったのだ。
完全に茂みに姿が隠れていたために姿も見えなかった。
 すぐにもサイレンスは少女に駆け寄ると傷口や息遣いを確かめる。
不幸中の幸いで急所は外れていた。
サイレンスはすぐにも携帯用救急キットを取り出すとナイフやら何やらを出す。
少女の口にハンカチを噛ませ、ナイフを火に焙って消毒すると、傷口に慎重に刃を差し込んだ。
 気を失っているとはいえ、刃物を差し込まれ、本能的に身体がのけ反りそうになる。
サイレンスは身体を押さえると、慎重に弾丸をナイフで摘出する。
そして、何やらプラスチック製の小瓶を取り出すと、傷口にかけてゆく。
肉が焼けるような音と共に傷口がみるみるうちに塞がってゆく。
 傷口が治ると、再びサイレンスは息や心音を確認する。
幸い、息も心臓も正常で、もう命に別条は無い。
サイレンスはジェシカを抱き上げる。
本来はここへ逃げ込んだ凶悪手配犯を探しだした上で処刑するのが仕事だった。
だが、己のミスで危うく命を奪いかけた娘を放っておくわけにはいかない。
ジェシカを抱き上げてサイレンスが町へ向おうとしたときだった。
 パンッ・・・パンッパンッパンッ。
突然、乾いた音が数回響き渡った。
サイレンスはジェシカを抱えたまま両膝を地面に突く。
背中に火がついて焼けるような痛みを感じつつも、サイレンスは膝をついたまま後ろを振り返る。
 「へへへ・・・・やっぱりてめぇだったか・・・」
いかにも厭らしげな笑みを浮かべ、その悪魔は呟く。
サイレンスはずっと探し求めていた獲物を見つけ出した猟師のような表情を浮かべる。
背後でピストルを構えている悪魔こそ、サイレンスが追っている標的であり、またモンコ達が追っていた賞金首だった。
 ジェシカを抱えたままサイレンスは両翼を震わせる。
だが、そこへ賞金首がさらに背中へ銃撃を叩き込んだ。
衝撃で気を失っているジェシカを地面に落としてしまう。
 サイレンスは彼女の上に覆いかぶさるように倒れる。
何発も背中に銃撃を叩き込まれ、背中はまるで穴あきチーズのようになってしまっている。
しかし、それでもサイレンスは横に転がるようにして身を起こすと、ブルブルと震える手で拳銃を抜いて構える。
 「ふふん・・てめぇの身を盾にして娘を守りながら俺を仕留めようっていう気か?舐められたもんだな」
悪魔は手や足にこれでもかいわんばかりの銃撃を叩き込む。
あっという間にサイレンスの手足は肉切り包丁を何度も叩きつけられたこのように痛々しい状態になってしまう。
しかし、それでもサイレンスはジッとこちらを睨んでくる。
 「くそっ!!ムカつく野郎だ!!」
これでもかといたぶっているのに戦意も衰えず、恐怖も見せないサイレンスに賞金首は苛立ちを見せる。
接近するや、何度も何度も賞金首はサイレンスを踏みつけた。
さすがに苦痛の表情をサイレンスは見せる。
だが、同時にサイレンスは残りの力を振り絞って両翼をドラゴンに変えた。
 賞金首がハッとした瞬間、ドラゴンの口から閃光が迸る。
衝撃と共に賞金首は黒こげになって吹っ飛んだ。
賞金首が灰と化して消えてゆくのを見届けるや、サイレンスの表情に微かに安堵が見える。
だが、直後再び乾いた音が響いた。
 「生憎だな・・もう一人・・いたんだよ・・」
サイレンスに仕留められたのとは別の賞金首が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら姿を現した。
「へへ・・・天界屈指の・・・刺客も片無しだな・・」
もう一人の賞金首は笑みを浮かべると、ゆっくりと銃を構える。
サイレンスはモゾモゾと身体を動かして必死に娘の身体を覆う。
 「へ・・。てめぇは殺されてもそのガキだけは守り抜こうってかぁ?虫唾が走るぜ!てめぇを殺したあと、俺様のマグナムを叩き込みながら殺してやる!!」
興奮しながら賞金首が叫んだそのときだった。
 突然、賞金首の全身が硬直した。
ハッとして賞金首は胸元を見やる。
すると、刀の切っ先が胸からまるでタケノコのように突き出していた。
「何・・・だと・・・」
ゆっくりと賞金首は背後を振り返る。
すると右腕に刀を生やし、口にタバコを銜えた和風な装飾を施したウェスタンスタイルな男が立っている。
モンコだ。
 ゆっくりとモンコが腕の刀を引き抜くと、賞金首は膝をついて地面に座り込み、そのまま前かがみに倒れ伏す。
そして光ったかと思うと灰と化した。
 モンコはじっとジェシカとサイレンスを見やる。
サイレンスは限界に達してしまったのか、気を失っている。
しかし、それでもジェシカを守ろうというのか、ボロボロになった己の身体でジェシカを覆い続けていた。
 「ったく・・世話のやけるガキだぜ・・・やれやれ・・・」
モンコはそう呟くと義手をはめ、左手で携帯を取り出す。
「ああ・・保安官か?森狩りの必要はねえ・・仕留めたからな。代わりに・・・救急車寄越してくれ・・怪我人だぜ・・・」


 それからしばらく経ったある日・・・・。
ジェシカは宿屋の床に正座させられていた。
その傍ではモンコがタバコを銜えたまま椅子に腰かけ、ジッと見下ろしている。
 「おぃ・・・・」
「な・・何っ!?マンゴー?」
呼びかけられるや、ジェシカはビクッと飛び上がってしまいそうになりながら返答する。
「自分が・・何・・やったか・・わかってるか?」
「え・・ええと・・・」
「的を勘違いした揚句に他人を殺すところだったんだ。相手が幸い天使のサイレンスだったからよかったものの・・・他の奴なら撃ち殺されてたぞ。わかるか?」
ジェシカは蒼白になりながら頷く。
 「しかも・・てめえの勝手な行動のせいで・・他人まで巻き込んで死なせるところだ。自分がどれだけのことをしでかしたのかわかってんのか?」
「ご・・ごめん・・なさい・・・」
「謝りゃあ勘弁してもらえるとでも思ってんのか?ガキだからって甘えんなよ?」
「ち・・違うよ!!悪かったと・・思ってるよ!!だから・・・ボクに・・・出来る・・ことなら・・何でも・・するよ!!」
「本当に何でもするか?」
「する!!許してもらえるんなら・・・・」
「いい覚悟だ・・・そうだな・・」
モンコは左手を顎に添えると、考え込む素振りを見せる。
 ジェシカはゴクリと息をのみ、緊張した面持ちで様子を伺っている。
「何でも・・するって言ったな?」
「うん・・・」
モンコの問いにジェシカは返事をする。
「なら・・ベッドにうつ伏せになって・・ケツ出しな・・」
「ね・・ねぇ・・モンコ・・もしかして・・お尻・・叩くの?」
ジェシカは経験があるのか、そんなことを尋ねる。
「不満なのか?」
「だって・・それじゃ・・子供の・・・」
「てめぇのしたことはガキのすることだと思うが?それに・・何でもするって言ったのはてめぇだろう?自分で言ったことの落とし前もつけられないのか?」
「う・・・わ・・わかったよ・・する・・するから・・・」
自分に非がある以上、ジェシカは立ち上がると、ベッドにうつ伏せになり、床に膝をついてお尻を突き出した。
 自分が悪いとは思っていても、恥ずかしくてたまらず、全身を震わせる。
だが、そんな姿に構わず、モンコは立ち上がると、左手でグイッとズボンをスパッツごと降ろしてしまった。
 「ちょ・・!!何してるの!?」
「ケツ引っぱたくときは裸だって決まってんだろうが。文句があるか?」
「な・・・ないけど・・・。でも・・いきなりなんて・・・」
「悪いのはてめえだろう?いいか、ちょっとやそっとじゃ勘弁しねえからな。覚悟しろよ?」
モンコの言葉にジェシカは覚悟を決めて頷くと、両手でギュッとシーツを握りしめる。
それを見ると、モンコはゆっくりと左手を振り上げた。


 バッチィ~~ンッッ!!
「ひっっ・・・!!」
初っ端から容赦のない一撃にジェシカは背をのけ反らせ、悲鳴を漏らし、シーツを固く握りしめた。
(い・・痛ったぁぁ・・・)
思わず目尻に涙が浮かびそうになる。
しかし、そんな暇もなくさらに平手が叩きつけられた。
 バッチィ~ンッ!ビッダァ~ンッ!バッシィ~ンッ!バッアァ~ンッ!
「っ・・ぁ・・・っ・・くぅ・・・・」
激しい平手打ちが叩きつけられ、そのたびにお尻に苦痛が走る。
だが、ジェシカは声を漏らすまいと必死に口を噤む。
 ビッダァ~ンッ!バッジィ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビバッジィ~ンッ!
「ったく・・てめぇ・・何考えてんだ?」
呆れたような口調でモンコはお説教を始める。
 ビッダァ~ンッ!バアッジィ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビバッジィ~ンッ!
「ろくに下調べも準備もしねえでノコノコ飛び込みやがって・・・」
バッアァ~ンッ!ビバッジィ~ンッ!バッシィ~ンッ!ビッダァ~ンッ!
「くぅ・・ひぃ・・あ・・あぅ・・・」
バッアァ~ンッ!ビバッジィ~ンッ!ビダッバァ~ンッ!バッジィ~ンッ!
「そんで全然違う奴を殺そうとしやがって・・このバカ!!」
ビッダァ~ンッ!バッジィ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビバッジィ~ンッ!
「ひぃんっ!きゃんっ・・!あんっ!きゃひぃんっ!」
元々荒くれ仕事で腕の力のあるモンコが本気になって叩いているものだから、早々とお尻が赤く染まってしまう。
 「下手すりゃ返り討ち、そうで無くとも賞金首で一生お尋ね者だぞ!!こんバカがっ!!」
モンコはさらに叱りつけながら激しい平手打ちを振り下ろし続ける。
ビッダァ~ンッ!バッジィ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビバッジィ~ンッ!
「ひんっ!痛っ!あくうっ!痛あっ!」
強烈な平手打ちにもう耐え切れなくなったのだろう、ジェシカの口から悲鳴が上がる。
「その上・・・他人まで巻き添えにしやがって!!俺がいなかったらてめえだけじゃすまなかったんだぞ!!わかってんのか!!このバカガキがあっ!!」
バッジィ~ンッ!!
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッッッッッ!!!
「きゃあああんっ!うわぁぁんっ!痛いぃぃぃ!!痛いよっ!マンゴーっ!!」
ジェシカは身体を震わせて泣き叫ぶ。
「仕置きなんだから痛えに決まってるだろうが。まだ許さねえからな、バカガキ」
「うわぁ~~んんっっ!!許してぇぇ~~~っっっ!!!」
ジェシカは必死に許しを乞うが、モンコは左手を容赦なく振り下ろし続ける。
肌を打つ音と甲高い少女の悲鳴が混じり合って室内に響き渡った。


 「ふえ・・ごめ・・ごめん・・なさい・・ごめん・・なさい・・・ごめん・・・・なさぁい・・ごめんなさぁぁい・・・」
ベッドの上でボロボロと涙をこぼしながらジェシカは必死に謝る。
今やお尻は倍以上に腫れ上がっており、ペンキを重ねて塗ったかのような、濃厚な赤だった。
 「ちっとは・・反省したか、ガキ?」
モンコは手を止めると、泣きじゃくっているジェシカに尋ねる。
「して・・してるよぉぉ・・・。ボクの・・せいで・・・皆に・・迷惑・・・かけて・・・ごめん・・なさぁぁい・・・」
「少しはわかってるみてえだな・・。この辺で・・勘弁してやるか・・・」
ようやくモンコはお尻を叩く手を止める。
だが、助け起こしたりするような真似はせず、脇に腰を降ろすと、タバコを吸い始めた。
 「ひぃん・・・マンゴーぉぉ・・・」
「ったく・・幾らガキだからって無茶な真似しやがって。お前、死ぬつもりか?そんなんじゃあ賞金稼ぎなんぞつとまらねえぞ」
「ひっぐ・・うえ・・だって・・だって・・・マンゴーに・・認めて・・欲しかったんだも~~んっ!!うえぇぇぇ~~~~~っっっ!!!」
今まで押さえつけていたものが切れたのか、堰を切ったかのようにジェシカは大泣きしてしまう。
 「全く・・・呆れたガキだぜ・・・。無茶はする・・・勘違いで全然違う奴を殺しかける・・・挙句の果てには・・・他人まで巻き添えにして死にかけるわ・・・ピーピー泣き喚くわ・・・みっともねえな・・・」
「い・・言わないで・・・よぉぉ・・。ボクだって・・・恥ずかしいし・・・情けないんだからぁぁ・・・」
「こんなガキ・・・すぐにくたばるぜ・・・誰かが・・いねえとな・・・」
そこまで言うと、モンコは黙る。
しばらく沈黙があたりを支配するが、やがて静かにモンコが口を開いた。
 「おぃ・・ガキ・・・名前は・・・」
「え?」
ジェシカはモンコの問いかけに怪訝な表情を浮かべる。
「名前だ、名前。てめぇ、そのツラで90の年寄りとでもいう気かよ?」
「ジェシカ・・だけど・・・」
「ジェシカか・・面白くも何ともねえ名前だな・・・」
「あの・・マンゴー?」
「おい・・・ジェシカ・・・雑用ぐらいは出来んだろうな?」
「い・・一応・・・・」
「『一応』か・・まぁいい・・・」
「あ・・あの・・マンゴー?」
恐る恐るジェシカが尋ねようとすると、モンコは左手でジェシカを引きよせ、膝の上にうつ伏せにさせる。
突然の事態にジェシカが目をパチクリとさせていると、突然お尻に染み入るような痛みが走った。
 「ひゃあんっ!痛っ!何っ!一体!?」
「騒ぐな。沁みるくらい我慢しろ」
そう言ったかと思うと、お尻を撫でられるような感覚を覚える。
沁みるような感覚と共にお尻の痛みが少しだが和らいだように感じた。
 「ったく・・ケツが痛くて馬に乗れねえじゃ話にならねえからな・・・」
「マンゴー・・もしかして・・連れてって・・くれるの・・?」
「来たきゃあ勝手に来い。だがな、ついてこれなきゃあ置いていく。俺は優しくねえからな。明日の朝6時に、厩舎に来い」
「マンゴーぉ・・・ありがとう・・」


 「ねえ、マンゴー、ちょっと待ってぇぇ・・」
「甘えんな。行くぞ」
モンコはそういうと有翼馬に拍車をかけようとする。
「そんなこと・・言ったって・・まだ・・お尻痛くて・・馬に・・ちゃんと乗れないよぉぉぉ・・・」
「自業自得だ。それくらい我慢しろ。それとも・・ついてくるのやめるか?」
「わかったよ~、マンゴーの意地悪!!」
「意地悪で結構、さぁ、行くぜ」
そういうとモンコは有翼馬を走らせる。
慌ててジェシカも後を追った。
 「・・・・・・・」
サイレンスは双眼鏡でジッとジェシカを見つめていた。
すっかり元気で、かつモンコと共に、という夢を実現出来たジェシカに対して安堵しているかのような表情を浮かべている。
しばらくサイレンスは去りゆく二人を見ていたが、やがて双眼鏡をしまうと、別の方向へ天馬を走らせた。


 ―完―
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