ダンジュー修道院32 隠し事



 「どうしたんや?」
バルバロッサが話しかけると、チサトは振り返って尋ねる。
「え?どうかしました?」
「どうかしましたじゃないやろ?お前さん、今にも眠りそうやで?」
「え!?ご、ごめんなさい」
慌ててチサトは謝る。
「素直に謝るのはええんやがな・・・。ところで・・・最近ちゃんと寝とんのか?」
「ちゃ、ちゃんと寝てますってば!」
チサトはすぐに否定するが、余りにも慌てていて、それが何だか怪しい。
何か隠していることはすぐに想像できた。
しかし、素直な優等生タイプのチサトが隠し事をするとなると、余程本人も相当な覚悟と決意のもとにそれをしているに違いない。
そういう相手に対しては無理に白状させるのは非常に骨が折れる。
だから敢えて追求することはやめた。
 「そうか。ならええんやがな。夜更かしとかはあかんで?」
「わ、わかってますってば~。あ、仕事思い出したんで行きますね」
取ってつけたような言い訳をすると、チサトは慌ただしく去って行った。


 「あっれ~。おっかしいな~~」
チサトが何か隠し事をしていることに気づいてからしばらく経った頃、バルバロッサは備品のチェックをしている修道士が難しい顔をしてチェック用の書類と睨めっこしているのに出会った。
 「どないしたんや?」
思わずバルバロッサは聞いてみる。
「いや、備品の数が合わないんですよ」
「数が合わん?どれがや?」
「手斧と木工細工に使う道具類が足りないんですよ。誰か勝手に持ち出したのかな?」
そこまで聞きだすと、バルバロッサは去ってゆく。
 次にバルバロッサが現れたのは修道院を覆っている山林。
山林に入ったバルバロッサは森番の姿を求めて林の中を歩き回る。
「ああくそっ!切られてる!」
しばらく歩いたところで、修道院に雇われている俗人の森番の罵り声が聞こえてきた。
 「どうした?」
バルバロッサが尋ねると、森番はカッカッしながら太い枝を指し示した。
「見てくださいコイツを!!」
指差す先に斧か何かで枝が切り落とされた跡が残っていた。
「こいつは・・・修道士が切り出したモンたあ違うのか?」
「違いますよ!修道士の旦那方が薪だの観光客に売る数珠だの聖像だのの材料に切り出すときは必ずチェックしてます!こいつは誰かが盗み伐りしたもんだ!!クソッ!必ず見つけ出してぶっちめてやる!!」
不埒な盗人に余程腹が据えかねているのだろう、怒りで森番は顔を紅潮させる。
そんな森番をなだめながらバルバロッサはあることを聞き出す。
 「そういや・・・この森には今は使われとらん昔の森番小屋があるそうやな?」
「ええ・・。確かに・・ハッ!まさかそこに盗人が何か隠してるかも!!」
森番はその可能性に気づくや慌ててかつての森番小屋へひた走る。
駆けつけるなり乱暴に扉を開けて中へ踏み込むが、あいにく人や物の痕跡は無かった。
「くそぅ・・・何も・・無いか・・・」
「まあ後で院長様に報告しておく。とりあえず今はそれでええか?」
「頼みますよ。こっちもこっちで探してみますから」


 その日の夜・・・・。
「くそっ・・・絶対にとっ捕まえてやるからな・・・・」
泥棒に気付いた森番は猟銃を手にしていきり立っていた。
しばらく森番が森の中を見回っていると、闇の中でコソコソと動いている影を二つ捉える。
 (いたぞ・・・・・・・)
森番は怪しい影を見つけると、猟銃を握りしめ、ゆっくりと跡をつける。
しばらくすると、影達はある洞窟へとたどり着く。
やがてあたりに人がいないかどうか確かめると、ゆっくりと洞窟の中へ入っていった。
 (そうか・・・ここにいたのか・・・・)
森番は盗人らしき人影が入って行くのを見届けるや、とたんにメラメラと闘志と怒りが沸いてくる。
次の瞬間、本能的に洞窟へ飛び込んでいた。
 「覚悟しろ盗人ども!!」
怒声がしたかと思うや、乾いた音が硝煙と共に鳴り響く。
天井に向かって森番が発砲したのだ。
その音にビックリして人影達がこちらの方を向いた。
 「は・・あれ・・?」
森番は人影を懐中電灯で照らすなり、間の抜けた表情を浮かべる。
 「ラウールさんに・・チサト・・はん?」
懐中電灯に照らし出されたのはチサトとラウール。
「ふ・・二人とも・・こんな・・ところで・・・何してんですか?」
「え・・あ・あの~・・その・・」
ラウールは何とか誤魔化そうとするが、ふと森番が懐中電灯を揺らした瞬間、手斧や切り出した枝を加工しかけたもの、木工細工用の工具などを見つけられてしまう。
 「ラウールさぁん・・す・・素直に・・話しましょうよぉぉ・・もう・・バレちゃいましたよぉぉ・・」
「で・・でも・・」
「もう無理ですってば~、誤魔化せませんよ~」
「そうだね・・・・」
そんな相談を交わした末、二人は諦めたような表情を浮かべた。


 それから一時間ほど経った頃・・・。
いつものように懺悔室で正坐して二人はバルバロッサが来るのを待っていた。
二人は落ち着かない様子で目をクリクリと動かし、お互いの顔を見合わせる。
やがてドアが開く音がしたかと思うと、二人とも今にも飛び上がってしまいそうなしぐさを見せ、恐る恐るドアの方を見やった。
 扉が開くと同時に岩のように大きくて厳つい身体と真っ赤な髪が目に飛び込んでくる。
バルバロッサは椅子を部屋の片隅から持ってくると、チサト達の前に腰かけた。
 「さてと・・・・」
バルバロッサはジロリと二人を見下ろす。
これから行われるはずのお仕置きに、二人とも全身をブルブルと震わせていた。
 「チサト・・・」
「は・・はいっっ!!」
上ずりそうな声でチサトは返事をする。
「ラウールの野郎と二人で・・勝手に木を伐り出した上・・・手斧やら細工用の道具までくすねたりしとったそうやな・・・?」
「は・・はぃぃ・・」
既に観念しているチサトは素直に認める。
 「何だって・・・そんなこと・・しおったんや?」
「も・・もうすぐ・・・母の日で・・そ・・それで・・お・・お母さんに・・プレゼントつくり・・たかったん・・です・・。でも・・自分の・・お金・・なんて・・持って・・ないし・・ラ・・ラウール・・さんに・・そ・・相談・・したら・・・。わ・・悪い・・ことだとは・・わかって・・たんですけど・・。でも・・どうしても・・作って・・送りたくって・・ごめん・・なさい・・・」
 「悪いとは・・思っとるんやな?」
「は・・はぃ・・・」
「なら・・わかっとるな?」
バルバロッサはそう言うといつものように軽く膝を叩く。
既に覚悟を決めているのだろう、チサトはゆっくりと立ち上がると、バルバロッサの方へと向かってゆく。
傍らに立つとしばらくジッとバルバロッサの膝を見つめていたが、やがてゆっくりと膝にうつ伏せになった。
 いつも通りバルバロッサは修道服の裾を捲り上げると、ズボンを降ろす。
「う・・うぅ・・・」
お尻に外気を感じるや、チサトの表情が変わる。
「行くで・・ええな?」
左手で身体を押さえながらバルバロッサがそう言うと、チサトは黙って頷く。
それを見ると、バルバロッサはゆっくりと右手を振り上げた。


 バンッッ!!!
「きゃ・・んっっ!!」
最初から容赦のない一撃に思わずチサトは跳ね上がりそうになってしまう。
 バシンッ!バアンッ!ビダアンッ!バアアンッ!バッジィンッ!
「ぅ・・・っ・・・ぁ・・・っ・・・ぁ・・・」
チサトはいつものように耐えようとするも、いつもよりずっと勢いのある平手にこらえきれずにもう声が漏れてしまう。
バシィンッ!ビッダァンッ!バアッジィンッ!バッアアンッ!バッシィィンッッ!
「う・・ひゃ・・きゃ・・・あっ・・かふ・・・・」
バルバロッサの大きく厳つい平手が次々とチサトの小ぶりなお尻に降り注ぎ、平手の紅葉を幾重にも咲かせてゆく。
お仕置きは始まったばかりだというのに、既にチサトのお尻は赤みを帯びだしていた。
 (うわぁぁ・・・マジ・・怒ってるよぉぉ・・・ヤバイぃぃぃ・・・)
目の前で繰り広げられるチサトのお仕置きにラウールは背筋が寒くなる。
確かにバルバロッサのお仕置きはきつくて厳しい。
しかし、チサトの場合にはある程度手加減している。
息子同然に思っているからだ。
そのチサト相手にラウールのときのような容赦のないお仕置きをしている。
これは相当怒っている証拠だ。
こんなことをしたのは、今までではラウールがいわくつきの奉納品をイタズラしたときぐらいしかない。
 ビッダ~ンッ!バッジィ~ンッ!バッアァ~ンッ!バッジィ~ンッ!ビッダァ~ンッ!
「きゃんっ!ひゃあんっ!ひぃんっ!ひゃひぃんっ!やあんっ!」
見ているうちに平手打ちはますます激しくなり、それに伴ってお尻はどんどん赤く染まってゆく。
同時にチサトの悲鳴も大きくなり、表情はより苦しげなものへと変わっていった。
 「ったく何しとるんや!ラウールのバカたれと一緒になって道具をくすねるやら木を盗み伐りなんぞしおってからに!!」
バッジィィ~ンッ!ビッダァ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビッダァ~ンッ!
「わああんっ!!きゃあんっ!ごめんなさいっ!ごめんなさぁ~~いっっ!!」
両脚をバタつかせながらチサトは必死に謝る。
既にお尻はサルのように真っ赤っかになってしまっていた。
 「ごめんなさいは当たり前やろうがっ!!このバカたれっっ!!」
バルバロッサはそういうと、チサトを膝の上から起こしながら立ち上がったと思うと、小脇に抱える。
そして再び平手を振り下ろし始めた。
 ビッダァァ~~~ンンンンッッッッッ!!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッッッ!!!
「きゃあああっっ!!痛ああっ!!痛いぃぃっっっ!!ごめんなさあああいっっ!!」
チサトは必死に謝るが、バルバロッサの平手は容赦なく真っ赤なチサトのお尻に降り注ぐ。
「この・・バカやろっ!バカやろっ!盗人まがいのことなんぞ・・しおって!!」
「きゃあああっっ!!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさぁぁ~~いっっ!」
激しい平手打ちの音と必死に謝る声と悲鳴が入り混じり、懺悔室に響き渡った。


 「ひぃん・・ひっ・・・ひぃぃん・・・」
チサトは小脇に抱えられたままぐったりしてしまい、ボロボロと涙をこぼす。
お尻は濃厚なワインレッドに染め上がり、額や手の甲にはジワリと汗が浮かびあがっていた。
 「反省したんか?」
「し・・して・・ますぅぅ・・ひっく・・ごめん・・なさぁい・・・」
ボロボロ泣きながらチサトは必死に謝る。
「それなら何が悪かったんか言うてみいや?」
「ひっく・・・勝手に道具持ち出したり・・・枝を伐ったりした・・こと・・ですぅ・・」
「そうや、その通りや」
バルバロッサはチサトを抱き上げると再び椅子に腰を降ろし、膝の上にチサトを座らせる。
 「ええか?お前さんがお袋さんにプレゼントあげたい思うんは構わん。じゃがなぁ、そのために勝手に修道院の森から木を伐り出したらあかんやろ。そりゃ泥棒や、わかるな?」
「はい・・・」
「泥棒はいかんことや、それに泥棒したもんでプレゼント作ったって却ってお袋さん悲しませることになりかねんやろ。そこんところをちゃんとわかってもらいたいから今日はきつーくしたんや。わかってくれるか?」
「はい・・。いけないこと・・しちゃって・・本当に・・ごめんなさい・・・」
「わかってくれたようやな。それと・・最近お前さんたち何か怪しいから心配したんやで。それもわかってくれな?」
「はい・・心配かけちゃって・・・ごめんなさい・・」
「よしよし。ええ子や。尻が痛くて辛いやろけど一人で医務室に行けるか?」
「だ・・大丈夫・・だと・・思います」
「そうか。それじゃあ行って手当てしてもらってくるとええ。俺りゃあまだラウールと話があるからな」
そういうとバルバロッサはチサトを医務室へと向かわせる。
 「さてと・・・・」
チサトがいなくなると、バルバロッサは今度はラウールと向かい合う。
「おぃ・・覚悟は出来てんやろうな?」
「ひ・・それは・・・」
チサトのときとは比べ物にならない怒気に思わずラウールは震え上がる。
「そもそもチサトに森から木を伐り出せだの何だのとアドバイスしたのはお前さんやろ?」
「ひ・・それは・・・」
ラウールは必死に弁解しようとするが言葉が出ない。
その通りだったからだ。
「自分一人のみならず・・他人にまで盗人の真似事なんぞさせおって・・・ちょっとやそっとで済むと思うなよ?」
本能的にラウールは逃げ出そうとする。
だが、すぐにバルバロッサに捕まってしまった。
 「いやぁぁぁ~~~~っっっ!!!!離してぇぇぇ~~~!!!!!!」
「離してじゃねえ!!一週間は椅子に座れなくしてやる!!」
「いやああ~~~~!!!!!!!!」
その後、今度はラウールの悲鳴が懺悔室に響き渡った。


 「うぅぅぅ・・・お尻・・痛いぃぃ・・・・・」
医務室のベッドの上でラウールは顔をしかめながらそう呟いた。
お尻は3倍くらい大きく腫れあがっており、ワインレッドどころか紫に近くなってしまっている。
 「大丈夫ですか、ラウールさん?」
隣のベッドでは同じように真っ赤なお尻をむき出しにし、うつ伏せになっているチサトが心配そうな表情で尋ねてくる。
 「す・・少しは・・楽になったかな・・。それより・・・ごめんね、チサちゃん。僕のせいでチサちゃんにまで悪いことさせちゃって」
「いいんですね、断らないで話に乗っちゃった僕も悪かったですから・・・」
二人がそんな会話を交わしていると、ふとバルバロッサが入ってきた。
 「バルバロッサさん、どうしたんですか?」
思わずチサトが尋ねると、バルバロッサは答える。
「様子を見に来たんや。それと・・・お前さんたちのことを院長様に報告してきたんや」
「そ・・・それで・・・」
二人とも思わず表情が変わる。
自分たちがやったことは院の規則どころか法律にも触れかねない。
思い切り怒られたり、場合によっては親元へ報告が行くかもしれない。
そう考えると戦々恐々とせずにはいられなかった。
 「修道院の財産である森から勝手に伐り出したりしたのはよろしからず・・・だが親へのプレゼントをつくりたいという気持ちに免じて勘弁してやるということや。それと・・」
バルバロッサは二人の前に薪ぐらいの大きさの木材を二つ見せる。
「院長様の計らいや。材料は出してやるからこれで作って送るとええ。それと・・これからは家族へ贈り物をしたい思うたらちゃんと言え。そうすりゃ考えんこともないから、だからもう悪いことはしてはあかんぞとな」
「あ・・ありがとう・・ございます・・・」


 母の日から一週間ほど経った頃・・・。
「チサちゃ~んっ!!」
ラウールは手紙を握りしめながら嬉しそうな表情でチサトのもとへやってくる。
「どうしたんですか、ラウールさん?」
「へへ。さっき母さんから手紙が来たんだ~。プレゼントすごい喜んでくれてたよ~」
「わぁ、よかったですねぇ」
「チサちゃんの方はどう?」
「僕もさっきお母さんから手紙が来たんですよ。とっても喜んでくれてました」
「本当!?見せてくれてもいい?」
「ええ、いいですよ」
二人は互いに手紙を交換して読み合う。
 「へへ・・痛い思いしちゃったけど・・やってよかったね」
「ええ、そうですね」
そんなときにそれぞれ二人を呼ぶ声が聞こえてくる。
「あ、そうだった。仕事忘れてた!」
「僕も手伝ってくれって言われてたんでした」
「それじゃあね」
「ええ、ラウールさんも」
互いに挨拶を交わすと二人ともそれぞれ去って行った。


 ―完―
スポンサーサイト

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

comment

管理者にだけメッセージを送る

プロフィール

山田主水

Author:山田主水
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2投票
無料アクセス解析
FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード