マルコ神父番外編 もう一つのスノーヒル(二次創作要素あり)


(注:映画『殺しが静かにやって来る』並びにそれを元にしたサイレンスもの、ダンジュー修道院33とリンクした、二次創作要素あり作品です。許容出来る方のみご覧下さい)


 「あれ?どこだ?どこに行ったんだ?」
ウォルフ神父は棚をあっちこっち覗き込みながら、何かを一生懸命に探す。
「こんなところで何をしているんですか?早く出ないと遅刻になりますよ?講師が遅刻してどうするんですか?」
入って来たかと思うと、研修のためにウォルフ神父の教会に来ているマルコ神父が容赦のない言葉を繰り出す。
ウォルフ神父は地元スノーヒルにある大学で宗教関係の授業の非常勤講師をしていた。
 「ああ、マルコ神父か。いや、今日の授業で使う予定のプリントがな・・・どこかへやっちまったかと探してるところなんだよ」
「それなら鞄に入れておきました」
「へ?そうだったのか?」
「はい、作ってそのままにして置かれてたようですので。私の方でやっておきましたが」
「いや~。そうだったのか。どうりで無いはずだ。それにしてもわざわざすまなかったな」
「別に構いませんよ。それより・・・作ってそのまま、しかも忘れっぱなしというのはいかがかと思いますが?」
マルコ神父は眼鏡を直しながら手厳しいことを言う。
「それは悪かった。今後気をつけるよ」
「本当にしっかりして下さい。仮にも研修指導して下さってる方にこんなことを言うのは何ですが、ウォルフ神父、あなたは雑把すぎますよ」
「わかったわかった。もう勘弁してくれ」
「わかって下さったならよろしいです。それじゃあ私はこれで」
そういうとマルコ神父は部屋を後にする。
 「あららら・・また怒られたな・・いかんいかん・・・。これじゃあどっちが研修受けてるんだかわからんな」
ウォルフ神父はそういうと苦笑する。
整理整頓や片付け、デスクワーク等が苦手な性分なせいか、そういうところで研修生のマルコ神父にやり込められてしまうのだ。
おかげでときどきどっちが研修生なのだかわからない、という状態になってしまうというわけである。
「何をグズグズしてるんですか!?早く出ないと遅刻ですよ!!」
まだ出てこないウォルフ神父にイラついているのか、マルコ神父の声が聞こえる。
慌ててウォルフ神父は部屋を後にした。


 「今頃はついてる頃でしょうかね・・・」
マルコ神父は堂内の床にモップ掛けをしながら壁の時計を見てそう呟く。
(お世話になっている身でこんなこと言うのも何ですが・・・いい加減過ぎますね・・)
今朝のウォルフ神父の行動に思わずマルコ神父はそうぼやかずにはいられない。
(仮にも主任としてこの教会を預かっている身なのですからもっとシャキッとしてもらわないと困りますね)
モップを動かしながらそんなことを考えていると、突然電話が鳴った。
 (誰でしょう?まさか何か忘れ物したから届けてくれとでも言うのではないんでしょうかね?)
先ほどまでウォルフ神父の雑把さに不平を言っていたせいか、思わずそんなことを考える。
だが、そんな考えを振り捨てると電話の方へ行き、受話器を取った。
 「もしもし、スノーヒル主と幼な子教会ですが?」
「あれ?見かけない声だな。ウォルフ神父は?」
「ウォルフ神父は仕事で外出中です。どちら様でしょうか?」
「ああ。こりゃすまんすまん。名乗るのを忘れてたな。郊外の山の中に住んでるカワグチだ。今日までに返す約束で貸した本があるんだが・・・・」
「わかりました。ウォルフ神父はまだ帰れませんので、代わりにお返しに伺います。それで・・本のタイトルと・・・はい・・住所も・・・」
マルコ神父はウォルフ神父が借りた本のタイトルと、カワグチという男の住所を聞き出す。
「はい・・申し訳ありません。お手数おかけいたしました」
マルコ神父はそう言って謝ると電話を切る。
「全く・・・・大雑把なのも・・困りものですね・・・」
マルコ神父はそう呟くとため息をついた。


 市の郊外、山中にやや入ったところに広がる林。
その中に林に囲まれるようにして洒落たつくりの家が建っている。
「いや~、こいつだこいつだ。本当によかったよ~」
日系人らしい初老の男はそういうとホッとした表情を浮かべる。
彼がカワグチで、この家に住んで研究や執筆をやっていた。
 「ウォルフ神父がご迷惑をかけたようで・・申し訳ありません」
マルコ神父は老人にそう謝る。
「何、構わんさ。時々あるからな」
「すみません。それでは私はこれで・・・」
そういうとマルコ神父は出て行こうとする。
 「ちょっと待った、お前さん、来たのは車かね?」
「いえ。車はウォルフ神父が乗ってゆきましたので。ふもとまでバスで来て登ってきましたが、それが何か?」
「ほほぅ、それなら大丈夫か。実はなぁ・・・いい酒を手に入れたんだが、一人で飲むのもアレなんでなぁ。ちょうどいい。飲んでから帰るといい」
「とんでもありません。まだ日が高いじゃありませんか」
マルコ神父は窓の外を見ながら言う。
ミサの場合などで儀礼用のワインを飲む時ならいざ知らず、まだ日も高い、仕事中な時間から酒を飲むなどマルコ神父にとってとんでもないことだった。
 「神父だからってそんな堅いこと言わんでいいじゃないか。それとも・・・怖いのかな?」
ふと、挑発するような笑みを浮かべて老人が尋ねる。
「怖い!?何が怖いというんですか!!」
小馬鹿にされたとでも思ったのか、マルコ神父は思わず相手の挑発に乗ってしまう。
「すまんすまん。いや、私の酒を断る手合いはどうも見た目からしてなよなよしたもやし連中ばかりでねぇ。」
「酒ぐらい怖くも何ともありませんよ!子供じゃないんですから!」
思わずマルコ神父はカッとなりかけながら言う。
男らしさとは全く無縁な容貌のせいか、そういうからかいも経験があるようで、こういう挑発には乗らずにはいられなかった。
「なら、飲めるだろう?」
「わかりました。それなら受けて立ちますよ!」
マルコ神父はそういうとグラスを受け取った。


 「ぶふ・・・ま・・参った・・・・」
カワグチは顔を真っ赤にしてそう言う。
「ふ・・ふん・・どうやら・・私の勝ちのようですね・・・」
カワグチ以上に顔を真っ赤にしつつも、マルコ神父は満足げな笑みを浮かべる。
これで少なくとも老人になよなよしたもやし連中などと思われることはないからだ。
 「いやぁ・・お前さんなかなかやるねぇ。見直したよ」
「それはありがとうございます。ああ、そろそろ帰りませんと」
マルコ神父はそう断ると帰ろうとする。
 「ちょっと待った。ふもとまで送ろう」
「構いませんよ。一人で戻れます」
「いや。そうは言ってもお前さんまるでゆでダコだぞ?足元もどこか・・・」
「それはまさか私が一人で家にも帰れない情けない奴などと思っているんですか?」
マルコ神父の口調にカワグチはハッとする。
元々プライドが高くて挑発に乗ったりしやすいのは、飲み比べをする前のやり取りでわかる。
こういうタイプは意外と激しやすい。
酒が入っているからなおさらその危険があった。
ここは帰した方が無難かもしれない。
そう判断するとカワグチは当たり障りのない笑みを浮かべる。
 「いや、そういうわけでは・・・」
「なら構いませんが。では、失礼させていただきます」
「ああ・・ウォルフ神父によろしく・・」
「わかっています。それでは」
そう挨拶するとマルコ神父はふもとに向かって降りてゆく。
(ああはいったが・・・やっぱり不安だな・・後からついていって・・)
そう考えたとき、突然携帯が鳴った。
 「ああ・・もしもし・・カワグチだが?ん?何!?ちょっと待て!締切は一週間後じゃなかったのか!?え?今から取りに伺いますだと!!待て!待て待て待て!!」
著書の件で何やら行き違いがあったのか、携帯相手にカワグチは修羅場ってしまう。
当然、マルコ神父を追いかけるどころでは無くなってしまった。


 (まずい・・ですね・・)
ふもとに向かう道を下りながらマルコ神父はそんなことを心中で呟く。
カワグチ老人の挑発に乗って酒を飲みまくったものだから、酔いが回って足元は無論、視界もどこかおぼつかないのだ。
(下手したら・・・途中で・・・)
その危険性が思い浮かぶや、慌てて立ち止り、あたりを見回す。
林が左右に広がり、ふもとのバス停までまだ距離がありそうだ。
 (全く・・・考えも無しに何だってこんな真似を!?私の馬鹿!!)
あまりにも軽率な振る舞いに今更ながらマルコ神父は自身を罵る。
(今からでも・・・カワグチさんのところへ・・)
そう思ったが、そこでまたムクムクとツンツンの虫が頭をもたげてくる。
(何を言うんですか!?あんな大口叩いた後でノコノコ戻れるわけがないでしょう?そんなことしたら子供みたいと笑われるじゃないですか!?)
理性はそんなつまらない意地はやめろと説得するが、持って生まれた性分は何とも厄介なもの。
プライドがこれでもかと疼き、自分で逃げ道を塞いでしまう。
(ええい!?いつまでも迷っていても仕方ない!!前進あるのみです!!)
腹を括ったマルコ神父がふもとのバス停めがけて歩き出そうとしたそのときだった。
 不意に足をもつれさせてしまい、マルコ神父はバランスを崩してしまう。
(え・・!?)
身体が傾いだのを感じた時には、林の中へゴロゴロと転がって行ってしまった。
「うわぁぁぁ~~~~っっっっ!!!」
思わずマルコ神父は悲鳴を上げる。
同時に何もないはずの空間にマルコ神父の身体が入っていったかと思うと、そのまま姿が掻き消えてしまった。


 「うわっ!!」
ドサッという音と共にマルコ神父は着地する。
着地と同時にザラザラした感触と肌を刺すような冷たさを感じる。
「何ですか・・一体・・え!?」
マルコ神父は周りを見回すやビックリしてしまう。
周りに広がるのは一面の銀世界。
 「何なんですか・・・ここは・・?」
突然現れた見知らぬ世界に思わずマルコ神父は茫然としてしまう。
そこへ何だか足音らしい音が響いてくる。
ハッとしてマルコ神父は慌てて周囲を見回すと、幸いなことに近くに葉の落ちきった木々が立ち並ぶ林が見える。
急いで林の中に駆け込むや、大きな木の背後に身を隠した。
 木の陰からジッと様子を伺っていると、誰かが林に向かって走って来る。
しばらくすると、足音の主が姿を現した。
現れたのは一人の男。
男は死人を思わせる血色の悪さで、ろくにものも食べていないのか、かなり痩せていて腹だけがポッコリと膨らんでいる。
警官の制服らしいものを身につけているが、ボロ雑巾のようになり果てている。
 何かに追われているのか、男はキョロキョロと落ち着かない様子で周囲を見回している。
やがて、男はギクリと身を強ばらせたかと思うと、慌ててボロボロなホルスターからピストルを引き抜くと、視線の向こう目がけてぶっ放そうとする。
だが、拳銃は凍りついてウンともスンともいわない。
頼みの綱が使い物にならないことに男は慌てて必死にピストルを擦る。
そのとき、銃声が響いたかと思うと、男が持っていた拳銃が弾き飛ばされた。
 同時にゆっくりと十数人くらいはいると思われる集団が現れた。
いずれもピストルを取り出した男同様、死人のような肌とミイラのように痩せた身体つきの持ち主。
そして傷んだ衣服は、警官や裁判官、検事といった司法・警察関連の役職を示すものばかり。
 「ひ・・やめてくれ・・頼む・・・」
逃げていた男は両膝をつき、一団に懇願する。
「何言ってる。クジに当たったんだから諦めろ」
「やだっ!やめてくれっ!」
「安心しろよ。どうせしばらくしたら生き返るんだからよ」
「だから嫌なんだよ!やめてくれ~~!!!」
男はさらに逃げようとするが、数人が飛び出して逃げ道を塞ぐ。
すぐに別の逃げ道を探そうとするが、全ての方角から取り囲まれてしまう。
男を完全に取り囲むと、それぞれのメンバーがナイフを取り出す。
そしてらんらんと目を光らせながら男に飛びかかった。
 (嘘・・・!?)
マルコ神父は目の前の光景に愕然とする。
一団は逃げようとした男に一斉に襲いかかったかと思うや、地面に引き倒す。
そしてナイフを振るっては、我勝ちにと男の身体から血肉を切り取り始めたのだ。
 絶叫と共に雪が濃厚な赤に染まってゆく。
あっという間に男は骨だけにされてしまうが、その骨までも取ったかと思うや、石を使って砕き、中の髄をすすり出す。
「は・・はわ・・・」
目の前の無残極まりない光景に、マルコ神父は震え上がってしまう。
思わずここから逃げようとするが、そのとき小枝を踏みつけてしまった。
 小枝の音に一団はキッと振り向く。
「おぃ・・・生きた・・・人間だぞ・・」
「やった・・亡者なんかじゃない・・生きた・・人間だ・・・。迷い込んで・・来たんだ」
「捕まえろ!!滅多に手に入らない御馳走だ!!!」
食人鬼達は目を血走らせてマルコ神父に襲いかかる。
必死に逃げようとしたが、叶うわけもなく、マルコ神父は引き倒される。
 「新鮮な・・・肉ゥゥゥゥ・・・・・」
半ば狂気に支配されたような凄まじい目つきにマルコ神父はゾッとする。
亡者たちがランランと目を輝かせてナイフを振り上げたそのときだった。


 ドドドドドドド・・・・。
突然、地鳴りのような音が響き渡る。
同時に飢えた食人鬼達の表情に恐怖が現れる。
現れたのは騎馬の一団。
その馬は非常に大きくて逞しく、まるで象ほどもあるのではないかと思えた。
馬上の面々もこれまた凄まじく、一番背が低いものでも優に2メートルは超えており、プロレスラーも霞むほどの筋肉質な身体つきをしている。
数こそ差はあるが、頭部には黒光りする角が生え、口は大きく牙が生えている。
防寒対策のためか、人皮製のジャケットや脛当てなどを身につけており、腰には棍棒やロープをぶら下げていた。
 騎馬の怪物たちが現れると、我勝ちにと食人鬼達は逃げ出そうとする。
だが、魔物たちは大馬を走らせて彼らの間に割り込み、ここかしこに追い詰めては次々と投げ縄を飛ばしては捕まえ、容赦なく引きずってはどこかへ走り去ってゆく。
マルコ神父は新たな事態に茫然としているが、自分にまで投げ縄が襲いかかって来るのに気付くや、慌てて逃げ去ろうとする。
しかし、投げ縄は見事に神父を捉え、あわや引きずり倒されるかと思った瞬間、銃声が鳴り響き、縄が切れた。
 魔物たちは銃声の聞こえた方を見やると睨みつける。
すると、翼の生えた馬に跨り、保安官のような出で立ちをした男が立っていた。
「彼は偶然迷い込んだ生者だ。亡者ではない。手を出してはいかん」
保安官風の男はそういうとライフルを一団に向ける。
魔物たちは男の言葉を受け入れたらしく、渋々といった感じで捕えた亡者たちを引っ張りながら走り去って行った。
 「大丈夫か?」
保安官風の男は馬上からそう尋ねる。
「ええ、ありがとうございます。え?ウォルフ神父?」
マルコ神父は馬上の男を見るや、思わず怪訝な表情を浮かべる。
ウォルフ神父にそっくりだったからだ。
 「ん?ウォルフの知り合いか?」
「あ・・はい、研修指導してもらってます。知り合いですか?」
「直接というわけじゃないがな。俺はやつの先祖だ」
「は?」
ウォルフ神父のそっくりさんの言っていることが思わず、思わず聞き返してしまう。
「だから俺はやつの先祖だ。まぁ、そんなこと言われたって信じられないのも無理はないがな」
「は・・はぁ・・・あまりにも・・非現実的すぎて・・・」
「まあそれはともかく・・・お前さんを現世まで帰してやらんとな。送ってってやる」
「はぁ、ありがとうございます」
そういうと、保安官は連れてきたもう一頭の馬にマルコ神父を乗せると、神父を連れて出立した。


 「大丈夫か、お前さん?」
保安官は馬上で顔をしかめているマルコ神父にそう呼びかける。
「な、何がですか?」
「今の時代のやつは馬なんか乗らんだろ。股とか足が痛くなったら言うといい」
「だ、大丈夫ですよ。何ともありません!」
実は股が痛いが、平気な素振りでそう言い張る。
「そうか?」
「本当に大丈夫です!心配いりません!」
むきになってそう言うものだからあやしいものだと保安官は思うが、素直に言う性格ではないと察しはつくので、それ以上は言わない。
 「それより・・ここは何なんですか?スノーヒルにこんなところがあるだなんて知りませんでしたけど」
「そりゃ普通の人間は知らんさ」
「え?それはどういう・・・」
「ここはいわゆる地獄さ。お前さんが見た飢えた連中は亡者達、馬で追い回してたのは看守で執行人の人食い鬼達さ」
「じ・・地獄・・ですか・・。普通なら・・そんなバカなって・・言うところ・・ですが」
「この目で見ちまったからには信じるしか無いってか?」
「え・・えぇ・・・おっしゃる通りです」
「まあまごつくのも無理は無いがな。まぁ・・それより現世との出入り口までまだ時間がある。よければここのことを話してやるがどうだ?」
「え・・えぇ・・お願い・・します・・・」
マルコ神父がそう言うと、保安官は語り始めた。
 保安官の話は次のようなものだった。
ここに地獄が造られたのは110年ほど前。
スノーヒルでポリカットやロコ達による悪行が原因だった。
あまりにも邪悪な所業に神は怒りを覚え、無残に殺された者達の恨みを聞き届け、殺されたはずのジョン・サイレンスに新たな命を与え、死体を引き取りに来た賞金稼ぎ一味を一人残らず討ち取らせたのだ。
その後、犠牲者たちは天国へ迎え入れ、サイレンスについては殺人の罪を贖わせた後、天使に生まれ変わらせた。
 その一方、ポリカットとロコ一味に対しては地獄落ちの裁決を下した。
彼らを罰するために造ったのがここの地獄だ。
食べ物など全く存在しない、凍てつく不毛の大地。
ここで亡者達は、飢えと寒さに苦しみながら必死で食べ物を探す毎日を送っている。
ポリカット達は人々を飢えと寒さで苦しめ、犯罪を犯すように仕向けて私腹を肥やした。
だから被害者に与えた苦しみを自らの身で味あわされているのである。
 しかし、この土地には食べられるものなど最初から存在しない。
だから亡者達は飢えを凌ぐためにくじ引きなどで殺される者を定め、同じ亡者を殺してはその血肉を食べて飢えを凌ぐのである。
とはいえ、幾ら食べても満腹になることはなく、また殺された者も数日経てば生き返り、また飢えと寒さに苦しむ。
 さらに、亡者を罰するために人食い鬼達が放たれている。
遊牧民のように騎馬で常にこの極寒地獄を移動している人食い鬼達は、腹が減ったり、皮衣などの物資が必要になると、亡者達を捕え、食料や日用品の材料にするのだ。
これも罪なき人々を猟師のように追い回して食い物にした罪を、自らの身に味あわせるためである。
 「なるほど・・・ここに地獄が出来たりしたのは・・・わかりました。でも・・亡者達の着物が・・・警官や裁判官のものなのは・・・どうしてなのですか?」
マルコ神父は亡者の姿を見たときの疑問を口にする。
「それは亡者達の生前の職業を現してるのさ。ここに落ちるのは、ポリカットみたいに、法を守る立場でありながら、私欲のために法を悪用、罪なき人々を苦しめた悪徳役人、そういった奴らに用意されたのがここさ」
「そうだったんですか・・・・あれ?」
マルコ神父はやや離れたところに何かが立っていることに気付く。
「ん?あれが気になるのか。そうだな・・・現世に帰る道も近いことだし・・せっかくだからあれについても教えてやろう。来るといい」
そういうと保安官はマルコ神父を促して馬先を変えた。


 近づくにつれてそれはだんだんと正体を現した。
そこに立っていたのは大きな十字架。
しかも、よく見てみると十字架型の木であり、幹と枝に出来ている空洞には裸の亡者がはめ込まれたような状態になっている。
 その亡者は金髪で、ギョロリとした目が何とも印象的な容貌をしていた。
亡者の身体にはまるで管のように十字架の木の蔓が手足や胴に潜り込んでいる。
奇妙なことに、亡者の脇腹には蛇口が付けられ、蛇口の下には大きな馬だらいや柄杓、カップ等がご丁寧にも置かれていた。
 亡者は力なくうな垂れていたが、保安官の姿を認めるや、狂暴な光が眼に宿り、今にも襲いかからんばかりに顔を突き出そうとする。
だが、直後身体に一部が潜り込んでいる蔓がポンプのように動いたかと思うと、男は苦痛に声にならない声をあげる。
 「あの・・何なんですか・・一体・・?」
奇妙な木とそれに半ば飲み込まれたような姿の亡者にマルコ神父は怪訝な表情を浮かべる。
「こいつはロコ、ポリカットと組んで悪事のやりたい放題をしていた賞金稼ぎ一味の親玉さ」
保安官は心底からの嫌悪感を込めて言う。
「こいつやそのお仲間達には、神は特別の罰を用意したんだ。腹に蛇口がついてるだろ?水のないこの地獄で、人食い鬼達が井戸代わりにこいつら磔にされた亡者達を使うのさ。
この木は常に亡者に血を補給する機械みたいなもので、木が血を補給するとき、或いは鬼どもが蛇口から水代わりの血が出すたびにこいつは苦しみを味わうようになってる」
「はぁ・・・」
「ん?時間を食っちまったか?早く行こう。いい加減お前さんを現世に帰さんとな」
そういうと保安官は再びマルコ神父を連れて元の道へ戻っていった。
 ようやく、現世の森に戻って来ると、マルコ神父はホッとした表情を浮かべる。
「一安心といったところか?」
「ええ・・・本当に・・ありがとうございました」
「いや、構わんさ。ときどき間違って迷い込んでくる現世の人間を無事連れ帰るのが仕事だからな。ああ・・そうそう・・一つ言い忘れたことがあった」
「なんですか?」
怪訝な表情を浮かべてマルコ神父が尋ねかけると、保安官は右手を突き出す。
直後、右手が眩いばかりに光り出し、マルコ神父は気を失ってヘナヘナと崩れ落ちた。
 「悪いが記憶は全て消去した上、書き換えさせてもらう。お前さんみたいな一般人には知られてはいかんことなんでな」
そういうと保安官は色々器具を取り出し、マルコ神父の記憶を完全に当たり障りのないものに書き換える。
その作業が終わると、携帯を取り出してどこかへ電話をかけ始める。
「ああ。もしもし、警察ですか?林で山菜とりをしてた者なんですがね。どうも遭難者らしいんですよ。ええ、そうです、はい」
アフターケアも済ませると、保安官はようやく姿を消した。


 恐る恐る、何だか落ち着かない様子でマルコ神父はウォルフ神父の様子を伺う。
少し前に町の病院から帰って来たばかりだった。
「マルコ神父・・・」
「は・・はぃ・・・・」
恐る恐るマルコ神父は返事をする。
 「カワグチ老人の挑発に乗って酔っぱらうまで酒を飲んだ挙句、倒れて林に転がり落ちてそのまま気を失って遭難したそうだな・・・」
「はい・・・記憶が・・無いので・・・あくまで・・救助して下さった人から聞いたのですが・・・・」
「何だってそんなバカな真似をしたんだ?」
「も・・申し訳ありません・・・」
挑発に乗って酒を飲みまくって酔った挙句に遭難、それでウォルフ神父はじめ色々な人に迷惑や心配をかけたのだ。
恥ずかしいなどというものではない。
 「少しは反省してるか?」
「はい・・どんな・・処分でも・・覚悟は・・してます・・・」
「そうか・・・。この教会では昔から君ぐらいまでの・・若い子の教育には尻叩きのお仕置きをしてきた・・・」
「え・・!?あの・・もしかして・・・それでは・・お尻・・・叩くん・・ですか・・?」
まさかこの教会でもお尻を叩かれるような事態になるとは思いも寄らなかったので、マルコ神父は驚いてしまう。
「そうだ。それがここの昔からのやり方でな。まぁ恥ずかしいのはわからんでもないが・・受けてもらうぞ?」
有無を言わせない口調でウォルフ神父はそう宣告する。
「わ・・わかり・・ました・・・」
マルコ神父は顔を赤らめつつも返事をする。
自分が悪いのはわかっているし、ネド神父と違って悪巧みなどをしている形跡は全くない。
そして、何よりもウォルフ神父に、素直に罰も受けられない子供と思われるのは嫌だった。
 「なら、こっちに来てもらおうか」
ウォルフ神父に促され、マルコ神父はオズオズとウォルフ神父のもとへ行く。
しかし、傍らで立ち止ったかと思うと、食い入るようにウォルフ神父の膝を見つめる。
(ここに・・でも・・)
頭ではうつ伏せにならなければいけないことはわかっていたが、それでも恥ずかしさは別で、なかなか次の行動に移れない。
 「マルコ神父・・・」
ウォルフ神父がしびれを切らしたような口調で呼びかけると、マルコ神父はハッとした表情を浮かべる。
このままだと情けない奴とでも思われるとでも思ったのか、飛び込むようにしてうつ伏せになった。
マルコ神父がうつ伏せになると、ウォルフは左手でマルコ神父の頭を押さえ、右手で上着の裾を捲りあげ、ズボンを降ろしてお尻をむき出しにした。
 (くぅ・・・本当に・・お尻・・叩かれるんだ・・)
お尻に外気を感じるや、羞恥が一気にこみ上げて全身が小刻みに震える。
(でも・・悪いのは・・私・・。ここで・・・イヤだなんて言ったら・・・子供みたいって・・思われちゃう・・)
マルコ神父は自身にそう言い聞かせる。
「じゃあ・・行くぞ。いいな、マルコ神父?」
「い・・いつでも・・構いませんよ・・」
平静を装いながらマルコ神父は返事をする。
それを聞くと、ウォルフ神父はゆっくりと右手を振り上げた。


 バシッ!!
短く、力強い音と共に痛みがお尻の表面で弾ける。
マルコ神父は思わず痛みに顔を顰めるが、口を引き結んで声を押し殺す。
バシッ!バチンッ!ビダンッ!バシッ!バンッ!
ウォルフ神父の上着の裾をしっかりと掴み、口を一文字に引き結んで、マルコ神父は耐える。
 バシッ!バチンッ!ビダァンッ!バシンッ!バンッ!
(ね・・ネド神父に劣らず・・痛い・・ですね・・・)
お尻に感じる痛みにマルコ神父はそう思わずにはいられない。
(でも・・泣いたり・・声を・・上げるなんて・・わけには・・。絶対に・・)
自身にそう言い聞かせると、マルコ神父は裾を掴む両手に力を込め、口を引き結んで必死に耐えようとする。
 「全く・・・何をしてるんだ、マルコ神父?」
お尻を叩きながら、ウォルフ神父はお説教を始める。
あくまでもお仕置きである以上、叱られる理由をきちんとわからせなくてはいけないと考えているからだ。
 バシッ!バンッ!バチィンッ!ビダンッ!バアンッ!
「挑発に乗って酒を飲みまくった上、林に転がり落ちて遭難しかけるなんて、どれほど皆に迷惑かけたり心配かけたと思っているんだ?」
バシバシとお尻を叩きながら、ウォルフ神父はそう言い聞かせる。
「も・・・申し訳・・あ・・ありません・・ウォルフ・・神父・・・・」
痛いのを我慢しつつも、マルコ神父は謝る。
「反省してるか?」
「し・・して・・います・・・。ほ・・本当に・・申し訳・・ありません・・でした・・」
「そうか。ちゃんとわかっているようだな。なら、もういいだろう」
ウォルフ神父はそういうとお尻を叩く手を止めた。
 「え・・?どういう・・ことですか?」
マルコ神父は怪訝な表情を浮かべると、振り返って尋ねる。
「もうお仕置きは終わりだ。ちゃんとわかってくれたようだからな。もう降りていいぞ」
ウォルフ神父はそう言うが、マルコ神父は怪訝な表情を浮かべる。
 (そんな・・こんなに・・あっさり・・許すんですか・・・?)
マルコ神父は奇妙な表情を浮かべる。
挑発に乗って身体の危険も顧みずに酒を飲む、酔った勢いで無謀にも一人で帰ろうとし、その結果ものの見事に林で遭難、発見されなければそのまま死んでいたかもしれないのだ。
普通に考えれば、とてもこのくらいのお仕置きで許してもらえるような罪状ではない。
それこそ、幾ら泣いても謝っても許してもらえず、散々に叩かれて声が枯れるまで泣き叫んだ末、ようやく許してもらえるレベルだ。
 (そんな・・こんな程度で・・・許されたら・・・自分で・・自分が・・許せないじゃ・・ないですか・・・・)
お仕置きの軽さと、自身の罪と罪悪感とを秤にかけ、全く釣り合っていないことにマルコ神父は何とも言えない感じを覚える。
 「ん?どうした?降りないのか?終わったのに?」
全然膝から降りようとしないマルコ神父にウォルフ神父は怪訝な表情で尋ねる。
「終わり・・・?何を寝ぼけたことを言ってるんですか?」
不意にマルコ神父が口を開いたかと思うと、そんなことを言いだした。
マルコ神父は振り返ると、キッとウォルフ神父を睨みつけながら叫ぶように言う。
「ウォルフ神父!あなた本当に私の研修指導やら教育やらするつもりがあるんですか!!」
「な・・何を言うんだ!妙なことを言うと怒るぞ!」
「だったら何だってもっとお仕置きしないんですか!?」
「は・・・?」
意外な言葉に、思わずウォルフ神父は怪訝な表情を浮かべる。
 「ま・・マルコ・・神父・・。もしかして・・お仕置きされるのが・・好き・・なのか?」
まさかとは思いつつも、ウォルフ神父はそう尋ねる。
「そんなわけないでしょう!私だってお尻叩かれるなんて恥ずかしいですし嫌ですよ!!」
「じゃあ・・何だって・・・」
「そりゃあお尻叩かれるなんて恥ずかしいですよ!でも・・自分が悪いのはわかってます。恥ずかしい・・でも・・・・悪いことをした以上は・・それなりの罰を受けるのは当然です。今日・・私がやったことは・・この程度では許してもらえないことです。それなのに・・・この程度で・・許されたら・・いや・・・自分を許してしまったら・・・私は・・責任を取らない・・ことになってしまいます・・。それに・・ウォルフ神父・・・あなたの・・仕事は私を・・きちんと・・指導することでしょう?こんな・・中途半端な・・お仕置きで・・きちんと・・私を指導しているといえますか?取るべき責任を取らないのも、やるべき仕事を果たさないのも私は大嫌いです!!」
 「このまま逃げることだって出来るというのに・・・マルコ神父・・君は自分のプライドのためにわざわざ自縄自縛に陥る気かな?」
「どうとでも言って下さい。そりゃあただのプライド、虚栄心でしょう。でも・・自分のしでかしたことの責任はキッチリと取りたいんです」
「そうだな。尻叩きなんて恥ずかしいだろうから早めに終わらせてやろうなどと考えたのが間違っていたな。わかった・・・。それじゃあ・・厳しく行くぞ。いいな?」
「ええ・・・覚悟は・・出来てます・・・」
そういうと、ウォルフ神父は再び右手を振り上げた。


 バッチィ~ンッ!ビッダァ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビッバダァ~ンッッ!!
「く・・!うくっ・・!あっ・・!あくっ・・!」
さすがに容赦のない平手打ちにマルコ神父の口から苦痛の声が漏れる。
ビッダァ~ンッ!バッジィ~ンッ!バッアァ~ンッ!ビッダァ~ンッ!
「あぅ・・!くぅ・・!ひっ・・!あくぅ・・!」
ウォルフ神父の強烈な平手打ちにだんだんマルコ神父の表情はより苦しげなものへと変わってゆく。
それに伴ってお尻はどんどん濃い赤へと染まってゆく。
しばらくと、マルコ神父のお尻はまるで熟しきったトマトのようになってしまった。
 「はぁ・・あく・・ひっ!くぅぅ・・!あっ・・痛ぅっ!あっ・・!」
マルコ神父の額や手の甲からはドッと脂汗が吹き出す。
両肩を大きく上下させ、荒い息を吐くさまは本当に苦しそうだった。
(自分で・・言ったこととは・・いえ・・こ・・これは・・もぅ・・・)
さすがに耐えきれなくなって来たのだろう、マルコ神父は心の中でそう呟く。
 「くぅ・・ウ・・ウォルフ・・神父・・も・・」
もう許して下さい、と言おうとしたそのときだった。
「ん?もっとか?まだ反省し足りないのか?」
バシバシとお尻を叩きながらウォルフ神父はそんなことを言う。
(ち・・違いますよ!そんなこと言ってません!!)
マルコ神父はウォルフの勘違いに抗議しようとするが、それに気付かないウォルフはとんでもないことをのたまった。
 「よし!それならもっとしっかり反省出来るように叩いてやるからな!待ってろ!」
(ち・・違います!違いますってば!)
抗議の声を上げようとしたそのとき、ウォルフ神父のさらに強力なお仕置きが襲いかかった。
 ビッダァ~ンッ!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッッ!!
「!!!!!!!!」
まるで集中豪雨のような凄まじい平手の嵐にマルコ神父は膝から飛び上がりそうになってしまう。
 「う・・ウォルフ神父・・お・・お願いです・・も・・も・・」
もうやめて下さいと言いかけたが、それは通じなかった。
「もっとか?よし、わかった!」
(違います~~~!!!何で勘違いするんですか~~~~!!!!)
マルコ神父は完全に勘違いしているウォルフ神父にさらに強烈な平手の豪雨をお見舞いされる。
その後、激しい打撃音の嵐が響き渡った。


 「くぅ・・・」
ベッドの上でうつ伏せになったまま、マルコ神父は顔を痛みに顰める。
お尻は三倍近くも腫れ上がっており、濃厚なワインレッドに染め上がっている。
「す・・すまん・・大丈夫か?」
ベッドの傍らでは、ウォルフ神父が心配そうな表情で尋ねる。
 「どう見えます?」
対してマルコ神父はやや冷やかな感じで尋ね返す。
「いや・・・大丈夫には・・見えん・・よな・・・」
「全く・・・人の話をまともに聞いていないどころか勘違い・・。本当に最悪ですね」
「すまん!本当にすまん!」
ウォルフ神父は平謝りに謝る。
「私の方もきちんと言いませんでしたし、やってしまったことはもう構いませんよ。それより・・いつまでいらっしゃるんですか、ウォルフ神父?」
マルコ神父はキッとウォルフ神父を睨みつけるようにしながら尋ねる。
 「いや・・ちょっと・・心配かなと・・」
「これくらいどうということはありませんよ、しばらく一人にしてもらえませんかね?」
「そ・・そうだな。気が利かんで・・すまなかった」
「わかったならさっさと出て行って下さい」
冷淡な感じで言いやると、慌ててウォルフ神父は部屋を後にする。
一人になると、マルコ神父の表情がやや和らぎ、同時により痛そうな表情を浮かべた。
 「痛ぅ・・・本当に・・痛い・・ですね・・」
真っ赤に腫れ上がったお尻を恐る恐るさすりながらマルコ神父はそう呟く。
「しかし・・・私も言いすぎましたね。ウォルフ神父は心配して下さってるのに・・」
邪険に先ほど追い払ってしまったウォルフ神父に対して、マルコ神父は微かに罪悪感を覚える。
 「でも・・それよりは・・まずは・・お尻を・・手当て・・しませんと・・」
お尻の痛みを堪えつつ、マルコ神父は自分のカバンを取ると、中から塗り薬を取り出す。
(ネド神父のせいでいつも持ち歩くようになったのが・・役に立ちましたね・・)
ネド神父にお仕置きされるせいで塗り薬をいつでも持ち歩くようになり、そのおかげでスノーヒルでもお仕置きの手当てが出来てしまうことに、マルコ神父は複雑な気持ちになる。
 マルコ神父は中身を出して指につけると、ゆっくりとお尻に塗り始める。
よく効くが、代わりに結構染みて痛いタイプのため、ビリビリッと鋭い電撃のような痛みがお尻に走る。
思わず声を漏らしそうになるが、それを必死にこらえてマルコ神父は自分のお尻に薬を塗り続けた。


 ―完―
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