血脈を継ぐもの 前篇(格闘・BL要素あり)


(格闘・BL要素ありです。その点をご了承の上でお読み下さい)


 (ええと・・・ここだったか?)
何かのイベントのスタッフという感じの格好をした、アラビア系の男は目的のドアの前に立つと、ドアの名札を確かめる。
(よし、ここだ)
名札を見て間違いないことを確かめると、男はドアをノックする。
 「ミスター・コンドウ、出番です」
だが、何故か返事は来ない。
(おかしいな)
再びノックをし、呼びかけるも返事は来なかった。
(まさかビビってバッくれたとかじゃないだろうな?)
そんな疑惑が頭を擡げ、男はドアを押して室内に入る。
 部屋の中は控室。
男は控室内を見渡し、部屋の片隅で目的の人物を見つけ出す。
(何だ・・・いたのかよ)
ホッとしつつ、男はお目当ての相手を見やる。
男の目に現れたのは日本人の男。
 その日本人は武骨で精悍な、例えるなら黒澤映画などで活躍し、日本を象徴する名優であったさる時代劇俳優にどことなく似ていた。
無駄なく引き締まり、狼やドーベルマンを思わせる強さとしなやかさを兼ね備えた肉体を、浅葱色をベースにした衣服で包んでいる。
両脚を組んで座り、膝の上に刀を横たえ、目を閉じているその姿は瞑想をする宗教者のようだった。
 (ったく・・・寝てんのかよ?しょうがねえな・・・)
アラビア系の男は呆れた感じで、日本人の男を起こそうと近づく。
(え・・・?)
不意にアラビア系の男は違和感を覚えた。
何か、目に見えない膜のようなものが迫ってくるかのように感じたのだ。
「う・・・おふ・・・」
不意に男は腹を押さえて蹲る。
まるでギリギリと果汁を搾る機械に胃がかけられているかのように感じたのだ。
その感覚はどんどん増してゆき、やがてタラタラと脂汗が噴き出し、挙句の果てには呼吸まで苦しくなって来る。
「ひ・・はひ・・・助け・・・はひ・・・」
苦しみのあまり、男がそう呟いた時、ゆっくりと日本人の男の目が開いた。
 同時にまるで嘘のように苦しみが引いてゆく。
「はふ・・・・助かった・・・」
ホッとして男が一息入れたところで、日本人の男が口を開いた。
 「出番ですかな?」
「あ・・はい。すぐに会場の方へ・・どうぞ・・・」
男は静かに頷くと、膝上の刀を手に提げ、ゆっくりと立ち上がる。
そして、静かに出て行った。
 (ったく・・・・何だったんだ?)
男はさきほど感じた異様な感覚に首を傾げる。
あんな経験は初めてだ。
(まあいいか。考えたってわかんねえんだから)
そう考えて頭を悩ませることをやめると、男はさっさと控室を後にした。


 会場内のボックス席の一つ。
そこにその男はいた。
男はイギリス系と思しき白人男性。
仕立ての良いサヴィル・ロー(イギリスの通り。王族や有名人御用達の名門紳士服店が立ち並ぶ区域として知られる)製のオーダーメイドスーツや、秘書らしい青年を連れているところから、地位と身分のある男性だと容易に想像できた。
 男は背は高く、猫科の猛獣や神話の英雄を思わせる、力強くかつ見事に均整の取れた体格の持ち主で、王族や貴族を思わせる威厳と端正さ、力強さを備えた面立ちをしている。
実際、彼は王の血を持っていた。
彼の名はリチャード・プランタジネット。
西洋史に詳しい方、ロビンフッド物語を好きな方なら、ある人物を思い浮かべるだろう。
 そう、獅子心王としてその武勇を知られ、騎士道物語の華と謳われた英雄、リチャード1世だ。
彼はその末裔であり、貴族の称号を持ち、警備業をはじめとして様々な業務を営むキングダム・グループという企業グループを営んでいた。
 「つまらぬ・・・・じつにつまらぬな。そうは思わんか?」
リチャードは退屈そのものといった感じで、傍にいる人物に話しかける。
影に寄り添うように立っているのは一人の青年。
青年は見事な栗色の髪の持ち主で、眼鏡がよく似合う、女性と見まがうばかりの美しい面立ちをしている。
すらりとした身体つきで、リチャードほどではないが、仕立ての良いスーツを身につけている。
リチャードが差し出したワイングラスに酒を注ぐといった行為などから、リチャードの秘書や従者的な存在であると想像できた。
 「はぁ。私にはよくわかりませんので・・」
「ふ、それもそうか。そなたにはこの我のことしか興味はないからな」
そういうとリチャードはボックス席の椅子に腰かけたまま、部下を抱き寄せる。
「あ・・・社長・・。こんな・・・ところで・・・」
「こら。二人きりのときはリチャードと呼べと言っておいたはずだぞ。忘れたのか?それでは後でお仕置きが必要か?フィリップ?」
リチャードはニヤリと笑みを浮かべてフィリップこと部下の青年に尋ねる。
フィリップはリチャードの秘書であるが、同時にリチャードとそういう関係にもあった。
 「あ・・・やめて下さい・・・しゃ・・リチャード・・・。こんな・・ところで・・」
「何を言ってるんだ、ここはそうは言ってないぞ?むしろ興奮しているんじゃないか?大人しそうな顔して意外とマニアックだな」
愛しい主からの愛撫に生じる昂りを見せる部下に、リチャードはニヤニヤしながら言葉で責め立てる。
恥ずかしさにフィリップが顔をしかめ、このまま頂いてしまおうとリチャードが考えた時だった。
 不意に会場が大きくどよめいた。
思わずリチャードが会場の方を振り向く。
すると次の対戦相手達が出て来ていた。
 そのうちの一人、ミスター・コンドウと呼ばれた男を見るや、リチャードの表情が変わる。
すっかり真剣な表情に変わったリチャードは席へ戻ると、食い入るように試合を見つめる。
コンドウは鞘から刀を抜き放ち、静かに構える。
それは、身体を半身に開き、刀身を左に傾斜させるような構え。
相手もこの国で伝統的に使われてきたアラビア風の三日月刀を引き抜いて構えるが、何故か全く動かない。
 リチャードの目はジッとコンドウの対戦相手方に視線を注いでいる。
何故動かないのか。
その理由を知るためだ。
 リチャードの目は対戦相手の表情と肌の様子を捉える。
コンドウの対戦相手は全身から脂汗と思しき汗を噴き出しており、その表情は極度の緊張感に満ちている。
敵が容易ならざる相手であることを肌で感じ取っているのだ。
実際、アラビア人の選手は少しずつだか後ずさっている。
ときどき刀を振り上げたりしては斬りかかろうとするが、相手に圧倒され、後ずさってしまう。
 そんな試合内容にリチャードは少しずつ興味を覚えてくる。
コンドウとやらは微動だにしない。
だが、リチャードはコンドウがゆっくりと闘志を解き放っていることに気付いていた。
例えるなら、コンドウの周りに見えないドーム状のバリヤーが張り巡らされ、それがジワリジワリと周りへと広がってゆく、そんな感じだろうか。
 相手のアラビア人武術家もそれなりに修業を積んできているから、敵の闘志に呑まれまいと必死になる。
しかし、見る者が見れば格の差は歴然、とてもアラビア系武術家に勝ち目は無い。
本音を言えばさっさと降参するなりしたいところだろう。
だが、大勢の観衆が見物する中、そんな無様な真似は武術家として出来ない。
ほとんどヤケクソと言わんばかりの表情で、アラビア人は刀を振り上げ、コンドウに斬りかかった。
今にも刃がコンドウの身体に達するかと思われた瞬間、微かにコンドウが後ろに身を引いた。
アラビア人武術家の刀は僅か数ミリの差で、コンドウの身体どころか服にも触れず、勢い余って試合場のマットに前のめりの体勢で刀を叩きつけてしまう。
マットに刀が斬り込んだ瞬間、ようやくコンドウが動きを見せた。
コンドウはポンと足を振り上げる。
直後、アラビア人はウッと呻いてそのまま崩れ落ちた。
鳩尾に蹴りを食らったのだ。
審判がコンドウの勝利を宣言するや、コンドウは刀を鞘に納めて静かに出て行った。


 「ほほぅ・・・・。そこそこ・・・出来るやつではあるようだな・・・」
リチャードは先ほどの試合にすっかり興味を示していた。
「フィリップ」
「はい、社長」
「あの日本人について調べるのだ。済み次第、速やかに我に報告せよ」
「わかりました」
 それから数時間ほど経った頃。
リチャードは外国人やこの国の政府要人向けの高級ホテルのスイートルームにいた。
リチャードは真剣な表情で何か研いでいる。
研いでいるのは剣。
 剣は肉厚で両刃、片手でも両手でも使える長さの柄がついている。
リチャードの愛剣だ。
リチャード自身、古式剣術を筆頭に様々な武術・格闘技を習得しており、ヨーロッパ圏の大会で幾度も優勝や賞杯を獲得しているつわものだった。
 「失礼します」
リチャードが愛剣を手入れしていると、フィリップが入って来る。
「来たか。どうであった?」
「はい。私が調べましたところでは、あの男は近藤勇蔵、日本屈指の武術道場の主にして、アジア圏を代表する企業、新撰グループの幹部でもあります。また、あの男を調べていて、いささか社長が面白いと思う事実も判明いたしました」
「何だ?」
「あの男、日本では知らぬ者がいない、近藤勇という男の末裔だそうです。その男も武術家で、今から140年ほど前、時の政府の布告に応じて友人らと共に対テロ特別警察とでもいうべき組織を造り上げ、多くの反政府的なテロリストを震撼させた男だそうです」
「ほほぅ・・・。それは面白い・・。奴も・・・戦士の血脈を継ぐものか。気に入ったぞ!フィリップ・・・わかっておるな?」
「社長・・・やはり・・・近藤めと・・・立ち合うつもりですか?」
「決まっていよう!我の一番の喜びを知らぬそなたではあるまい?」
主人の意思にフィリップはため息をつく。
止めても無駄なことは長年の経験からよくわかっていた。
「わかりました・・・社長の・・お望みの通りにいたします・・・」
「ふふ。頼むぞ。愛いやつだ。後でまた可愛がってやるからな」


 まだ日が昇らない時刻。
市内の公園に近藤の姿があった。
「998・・・999・・・1000っっ!!」
近藤は数を数えながら刀を振るう。
毎朝欠かさず行っている素振りだ。
 (一息・・・入れるか)
近藤は刀を鞘に納めると、一緒に持って来たペットボトルを取りだし、ミネラルたっぷりのスポーツ飲料で喉を潤す。
(ん・・・・・・)
ペットボトルを傾けながら、近藤は異変に気づく。
無意識のうちに左手で鞘ぐるみの刀の鯉口を切っていた。
 「誰だ・・・・・・」
いつでも抜刀できる体勢で、近藤は背後を振り向く。
すると、フード付きの真っ黒なローブで全身を覆った奇妙な人物が立っていた。
 「さすが・・・・。昨日の武術試合で難なく相手を倒しおった男だな・・・」
「見ていたのか・・・・。何者だ」
「黒騎士とでも名乗っておこう。貴様と・・・立ち合いが望みだ・・・」
「断っても・・無駄なようだな・・」
「わかるか。さすがだな・・・」
「俺とて武術家の端くれだ。舐めると・・痛い目を見るぞ・・」
「ふふん・・・我に勝てるかな?」
そういうと黒騎士と名乗った怪人物はローブの下から、頑丈なつくりの西洋剣を抜き放って構える。
対して近藤も、刀を抜き放って対峙した。


 (こいつ・・・・・)
近藤は黒騎士と向き合うや、表情が変わる。
(喧嘩を売ってくるだけあって・・・出来るな・・・)
近藤はローブの敵が身体から発散する闘志を感じる。
それは、自分と決して遜色の無いもの。
(昨日までの試合で倒した者とは・・・月とスッポンだ。舐めてかかっては・・・倒されるぞ)
近藤は刀を両手で構えたまま、闘志を全身から放つ。
 闘志はドーム状にゆっくりと周囲へと広がってゆく。
だが、ちょうど二人の間の真ん中あたりで闘志の動きが止まる。
黒騎士が放つ闘志が壁として立ちはだかっているからだ。
(まるで・・・巨大な岩山・・。だが・・・負けはせぬ!!)
近藤は心の中で呟くと、さらに闘志を解き放った。
 (こやつ・・・やるではないか・・・)
ローブの下でリチャードはニヤリと笑みを浮かべる。
黒騎士の正体はリチャード。
フィリップに命じ、この国に滞在中の間の近藤の行動を調べさせ、その結果、毎朝必ずこの公園で朝の一人稽古に励むことを突き止めた。
そこで、そのときを狙って近藤に勝負を挑んだのである。
 自らも武術家であり、また偉大な戦士の血を引くことを誇りとしているリチャードにとって、強い相手と立ち合うことこそ、何よりも己の血潮を熱くさせてくれるもの。
それこそがリチャードの何よりの生きがいの一つであった。
 リチャードは闘気を放って近藤の闘気を押しのけようとするが、近藤もすかさず闘気を放って押し返す。
互いに武器を構え、ジッと睨みあっているだけだが、両者ともポツリポツリと汗が吹き出し、喉がチリチリと焼けつくような感覚を覚える。
 二人とも、一歩、また一歩と歩みを進めてゆく。
間合いを詰めるたびに、見えざる闘気のバリヤのぶつかり合いはさらに強まる。
二人とも、メラメラと燃え盛る、キャンプファイヤーばりに巨大な炎へ接近し、その熱風に当てられているかのような感覚を覚える。
 (火傷でも・・しそうだ・・・)
近藤は両腕の表面が熱くなり、汗が噴き出す様子にそんなことを思う。
(だが・・・それは・・・敵も同じこと・・・。ここが踏ん張りどころだ)
肌に灼熱の熱さを感じながらも、近藤はさらに突き進んでゆく。
 (我に・・・ここまで汗をかかせおるとは・・。やりおるわ!!)
一方、リチャードは近藤の闘志に当てられながらも、敵に感嘆の意を覚える。
(素晴らしい!実に・・・素晴らしい!この男・・・・わが剣によって・・・必ず倒してくれる!!)
よき敵に出会えた喜びに、リチャードは嬉しさでこみ上げてくる。
やがて、ひと飛びで敵の懐へ斬りこめる距離まで来たところで、再び両者とも立ち止った。
 ここで、再び両者とも剣を構えたまま睨み合う。
ジワリと汗が吹き出し、場所によっては火傷でもしたかのように肌が赤くなったりしている。
やがて、二人ともゆっくりと、弧を描くようにして横へと動き始めた。
やがて両者の位置が完全に入れ替わると、再び立ち止る。
そこで、再び両者とも睨み合う。
互いに睨み合い、睨み殺してくれんといわんばかりに睨む。
さながら目からバチバチと雷光が飛び、それがぶつかり合っているかのようだった。
幾度も両者の表情が変わるが、それでも踏み込まない。
 (耐えろ!耐えろ耐えろ耐えろ!)
近藤は自身を幾度も叱咤する。
これは気力と気力の勝負。
一瞬でも気負けしてはいけない。
 (こやつ・・・まだ耐えるか!?)
リチャードは近藤に内心で舌を巻く。
自分はこれでもかと言わんばかりに殺気を近藤にぶつけている。
これが他の相手だったら、殺気に耐えられなくなって何かアクションを起こすところだ。
だが、近藤は頑として耐え抜いている。
これでは仕掛けようもない。
 (いかん・・・我の方が・・・痺れを切らしそうだ!?)
リチャードは近藤の忍耐力に危機感を覚える。
このままでは敵はこちらの殺気による威圧を耐えきってしまうだろう。
そうしたらこちらが不利になる。
既にリチャードの方はこの硬直状態に痺れを切らしかけているのだ。
(くそおっ!もう・・・我慢出来んっ!!)
リチャードは膠着状態についに痺れを切らし、地面を蹴立てて斬り込んだ。
 「オオオオオッッッッ!!!!」
気合いと共にリチャードが真っ向から斬りかかる。
渾身の力でリチャードの豪剣が振り下ろされる。
そこへすかさず近藤も身を進め、同時に刀を振り上げる。
 (しまっ・・・!!)
敵の刀と己の剣が触れた瞬間、リチャードはハッとする。
敵に剣を摺り上げられると同時に攻撃を弾かれてしまったのだ。
当然、リチャードは体勢を崩し、隙が出来る。
直後、バチバチと切先に雷のような青い光を纏った近藤の刀が振り下ろされる。
 「ぐおおっっ!!!」
強烈な衝撃と共にリチャードはさらに大きくのけ反る。
さらに、追撃と言わんばかりに、近藤の刀に纏われた雷光が地面に着弾するや、三発立て続けに地面から雷の柱のようなものが上がってさらにリチャードを吹っ飛ばした。


 (やはり・・・・心配だ)
リチャードが近藤と立ち合いを始めた頃、フィリップはヤキモキしていた。
(社長に叶う武術家などいないと思うが・・。しかし社長が戦おうとする相手も油断ならない・・・。私が行けば勝負を邪魔したと社長は怒るだろう。だが・・・それでも構わない)
そう決意すると、フィリップはすぐにもホテルを後にした。


 ―続く―
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