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ダンジュー修道院6 外出騒ぎ


  「お休みなさい、バルバロッサさん」
「ああ。しっかり寝ろよ、チサト」
廊下ですれ違ったバルバロッサとチサトは、言葉を交わすと、自室へ向かう。
時刻は午後八時。
就寝の時間だ。
チサトをはじめ、どの修道士も、それぞれ自分の部屋に戻ると、質素なベッドに入り、寝始めた。

 それから一時間後、チサトは不意に目を覚ました。
トイレに行きたくなったのだ。
目をこすりながら、起き上がると、部屋を後にする。
 「ふう・・寒いなぁ」
用を足した後、チサトは廊下を歩きながら、思わずつぶやく。
フランスの冬は厳しい。
チサトは肩を寒さで震わせながら、石造りの廊下を歩いてゆく。
(あれ・・・?)
不意に、チサトは自分の目を疑った。
ラウールの姿を見かけたのだ。
ラウールは、人に見られるのを警戒するかのような素振りを見せながら、歩いている。
(ラウールさんもトイレかな?)
一瞬、そう思ったが、すぐに違うことに気がついた。
ラウールが修道服ではなく、私服姿だったためだ。
(何するつもりなのかな?)
チサトはこっそりと後をつける。
ラウールは抜き足差し足で庭を横切り、門にたどり着いた。
彼は、門番がもよおして小屋を離れるのを確認すると、スルスルと鍵の掛かった門を乗り越えていってしまう。
(あっ!)
それを目撃したチサトは声をあげそうになる。
ラウールは手馴れているのか、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
(すぐ追いかけなきゃ!)
チサトはそう思ったが、自分が寝間着姿なのに気付く。
すぐに部屋に戻ると、自分も着替え、同じようにして出て行った。

 その一時間後、バルバロッサはぐっすりとベッドで眠っていた。
だが、不意に彼は誰かに揺り起こされる。
「んん・・・誰だよ畜生・・・」
眠っているところを起こされ、思わず悪態をついたが、起こした人物の顔を見るや、すぐに言葉遣いを改めた。
「これは院長様。どうしました?」
「うむ。さきほど門番から連絡があってのう。チサトが院を抜け出して街に向かったのじゃよ」
「何ですと。しかし、チサトは真面目な子ですよ。何をしに街へ・・・」
思わず、バルバロッサは考え込む。
チサトの性格を考えれば、街へ遊びに行くというのは、考えられない。
彼がふもとの街へ行くとしたら、必要な品物の買出しか、修道院の活動ぐらいだ。
「それじゃが・・・ラウールの姿も見えぬのじゃ」
その一言で、バルバロッサは得心のいった表情を浮かべた。
「なるほど。奴が絡んでるわけですね」
「恐らくそうじゃろう」
「全くあのガキャア。また夜遊びにでも行きやがったか」
ラウールの行動に、思わずバルバロッサは口調が変わる。
「すまぬが、またラウールを探して連れ戻してくれぬかのう?もちろん、チサトもじゃ」
「了解いたしました」
そういうと、バルバロッサは手馴れた様子で着替える。
あっという間に、彼は賭博場や酒場でたむろする手合いの格好になる。
「それじゃあ、院長様。行ってきます」
「ふむ。頼んだぞ」
そういうと、やれやれといった感じで、バルバロッサは部屋を後にした。

 それから二時間ほど経った頃。
チサトは、ふもとの町のメインストリートを歩いていた。
「どこ行ったのかなぁ。ラウールさん・・・・」
とぼとぼと歩きながら、チサトはつぶやいた。
彼が知っている限りの場所を探したのだが、全然見つからないのである。
彼が歩いていると、道行く人々の中には、怪訝そうな表情で振り向く者もいた。
チサトが修道服姿で歩いているためだ。
修道院で暮らしているため、着替えや寝巻きはともかく、それ以外の私服は持っていないのだ。
ちなみに、ラウールが着ている服は、普段は部屋の中に隠してあるものであった。
蛇足だが、バルバロッサの服は、こういうトラブルのときのため、特別に院長から持っていることを許されたものである。

 チサトは、町の目抜き通りを歩いているうちに、ふとある店に目をとめた。
店の名は『バラス・クラブ』
(あれ・・・この店・・・)
チサトは記憶をたぐり、以前この町にバルバロッサやラウールとともに、灯油やガソリン、その他の備品などを買いに来たときのことを思い出していた。
この店の前を通ったときに、ラウールがやたらとこの店に興味を示していたのだ。
それを見て顔を顰めたバルバロッサが、頭を殴りつけ、「早く行かねえと道のど真ん中だろうがケツ引っぱたくぞ!」とどやし付けたのを覚えていた。
(あんな風にバルバロッサさんが怒るってことは、そういうお店なのかな)
ラウールが遊び好きなこと、それに対してバルバロッサがいつも怒ったりしていることを知っているため、チサトはそのような考えを抱いた。
(もしかしたら、ここにラウールさんがいるかも!)
チサトは不意に、その考えに思い至る。
しばらく、チサトは店の前で考え込むような素振りを見せていた。
だが、やがて何かを決意した表情になる。
勇気を振り絞ると、チサトは店の扉を押し開けた。

 店に入ると同時に、耳に入ってきたのは、トランペットの劈くような音。
何だと思って店の奥を見つめると、ブラスバンドが演奏している。
店の所々に人一人が立つのに十分な広さの、円形の舞台があるが、それぞれに女性が立っている。
その女性の姿を見るや、チサトは顔が真っ赤になる。
なぜなら、女達はいずれも、胸とあそこ以外は完全に露出しているからだ。
ダンサー達はそんなセクシーな格好で、艶かしく身体を動かしながら、扇情的なダンスを踊っている。
舞台の周りでは、酔いが程よく回った客が、鼻の下を伸ばし、下品な笑みを浮かべている。
(あんな格好で・・・人前で・・・信じられない・・・)
両親が信心深い人間で、物心ついたころから、教会や修道院と関わって暮らしてきたため、チサトはこういう場所には全く慣れていない。
当然、この手の店で働く女性に対する免疫なぞ、あろうはずもなかった。
両手で目を覆いながら、チサトは店の奥へ進んでゆく。
そのとき、あるテーブルが目に入ったが、そのテーブルにいる客がまた、凄かった。
こういう場所のことは全く知らないチサトですら、一目で危ないと思える連中だ。
身なりはだらしなく、所々酒の染みがついている。
上着を脱いでいるため、脇の下に吊っている拳銃がもろに見えていた。
目つきも殺人者特有のとろんとした目をしている。
どんなに鈍い人間でもヤクザ者だということがわかる、剣呑な雰囲気をまとっていた。
チサトは、この席のそばを通り抜ける際には、怖気を感じずにはいられなかった。
 ようやく、奥の方へたどり着くと、今度は別の光景が見えてきた。
店の左側に、長いテーブルが置かれ、右側には、そこそこの広さのテーブルが数台、置いてある。
右側にある、それぞれのテーブルでは、いずれもめかし込んだ数人の男女が、ビリヤード用のキューを手にして、ビリヤードをやっていた。
そして、左側の長いテーブルには、ルーレットが幾つか並んでいる。
大勢の男女が周りに群がり、コインや紙幣をテーブルに投げ出し、ルーレット賭博に興じていた。
「赤だ!赤!」
不意に、チサトは聞き覚えのある声を耳にする。
ハッとして振り向くと、ルーレット賭博用のテーブルに群がる男女の中に、ラウールの姿があった。
私服を着ているものの、長い髪と客の中でも群を抜いている綺麗な顔では、見間違うこともなかった。
チサトはゆっくりと近づく。
そして、すっかり賭けに熱中しているラウールの後ろに立つと、袖を数回引っ張った。
「んん~。誰だ・・・」
文句を言おうとして降り返るや、ラウールはよく知っている顔に絶句した。

 「ち、チサちゃん・・・。何でここにいるの・・・?」
ラウールはようやくのことで、言葉を発した。
「出て行くのを見かけたから、探しに来たんですよ!全く、何してるんですか!」
「ちょ・・・ちょっとね・・・。アハ・・アハハハハ・・・」
ラウールは笑ってごまかそうとするが、さすがにぎこちない。
「さぁ!早く帰りましょう!」
「も、もうちょっとだけ遊んで・・・」
「駄目です!行きますよ」
チサトはラウールの手を引っ張ると入り口の方へ向かって歩いてゆく。
「ああ~~~~っ。僕の賭け金が~~~~~」
ラウールは嘆くような表情を浮かべるが、チサトは構わず連れ出そうとする。
だが、不意に、彼は何かにけつまづいてしまった。
「うわあっ!」
チサトは声をあげると同時に、転んでしまう。
そのとき、近くのテーブルにいた客を巻き込んでしまった。
「いたたた・・・・。あっ。ごめんなさ・・・・」
謝ろうとして、チサトの表情は蒼白となる。
奥に入る際に通った、いかにも危なげな連中のテーブルだったのだ。
ヤバイ連中たちは、ゆっくりと立ち上がる。
「何で坊主がこんなところにいるんだよ」
テーブルにいた四人のうち、一人が言う。
「くそっ。抹香くさくてたまらねえ」
「おまけに人にぶつかるたあいい度胸だな、このクソガキャア」
「ちょうどこんガキのせいで白けたところだ。ヤキでも入れてやろうぜ!」
恐ろしいことを最後の一人が言うや、残る三人のならず者がニタニタと卑しげな笑みを浮かべる。
一人がポケットから飛び出しナイフを取り出し、二人目が革棍棒を、三人目がブラス・ナックル(拳にはめて人を殴るのに使う武器)、最後の一人が空になった酒瓶を手にした。
悪党達はジリジリと輪を狭めるようにして、チサトに接近する。
「あ・・・。あ・・・」
チサトは恐怖のあまり、ガクガクと震えて声も出ない。
ラウールも、すっかり縮こまって助けることなど出来ない。
「へへへ・・・。たっぷり泣かしてやらあな」
やくざ者の一人が、嗜虐的な笑みを浮かべたときだった。

 バリンッ!
やくざの一人の後頭部に、酒入りのグラスが命中した。
「くそっ!誰だっ!」
やくざたちはグラスが飛んできた方向を見やる。
すると、あるテーブルで、男が一人、酒を飲んでいた。
「その辺でやめときな。兄さんたちよぉ」
「あんだとぉ。てめえにゃあ関係ねえだろうがよぉ」
「ねえよ。だがなあ。わざと足突き出して転ばたあげく、弱えもん嬲るような下衆を見てみぬ振りするほど腐っちゃあいねえんだよ!」
男はそういうと、立ち上がる。
180cmは優にある大男だ。
「てんめえ・・・。なめやがってえ!」
革棍棒を持ったヤクザがいきり立ち、脇の下の拳銃を抜く。
六連発式のリボルバー銃だ。
ヤクザは素早い動きで狙いをつける。
だが、それと同時に男がくたびれたコートの下に手を差し込む。
やくざ者が引き金を引くよりも早く、手が懐から引き抜かれ、同時に何かを投げつけた。
「!!!!!」
やくざは、自分の拳銃を見て、驚愕の表情を浮かべている。
自分の指のわずか1cm前まで、刃物が深々と突き刺さっているのだ。
銃に刺さっているのは、肉切包丁。
全長30cmぐらいはあるシロモノだ。
(この野郎タダモンじゃねえ!?)
ヤクザたち、いや周りの客たちも愕然としていた。
刃物を投げつけて、正確に拳銃に命中させた上、途中まで唐竹割りにしてしまったのだ。
人間業ではない。
さらに、男はもう一本、肉切包丁を取り出した。
男はそれを逆手に持つと、テーブルに切先を当て、無造作に押す。
すると、包丁はまるで豆腐にでも突き刺したかのように、5cm近くはあろう板を簡単に突き抜ける。
刃は反対側へ、5cmは軽く突き抜けた。
さらに、男は無造作にそれを再び抜いてしまう。
「これでも・・・やるかい?」
男はヤクザたちに問いかける。
やくざたちは吃驚仰天といった表情で見つめていたが、辻風のような速さで逃げ出した。

 「やれやれ・・・・」
男はそういうと、コートの下に隠してある革鞘に包丁を戻す。
その作業の間に、チサトがおずおずと近づいてきた。
「あ・・・あの、ありがとうございます。おかげで・・・助かりました・・・」
「礼はいらねえよ。チサト」
「え?な、何で僕の名前・・・あっ!」
チサトは帽子の下にある男の顔を見て、気付いた。
バルバロッサだ。
「さあて・・・探したぜ・・・。二人とも」
ヤクザたちに絡まれたとき以上に、二人の顔色は蒼白となっていた。
二人が気付いたときには、腕を掴まれ、外へ連れ出されていた。

 二時間後、懺悔室に、二人の姿があった。
二人とも、バルバロッサの前に、正座して座らされている。
バルバロッサは、憮然とした表情で椅子に腰かけていた。
「さて・・・・。二人とも、覚悟はいいだろうな?」
バルバロッサは厳しい顔をして、二人を見据える。
「さて・・・まずはチサトからだな・・・。チサト。お前さん、何で決まりを破って抜け出した?ん?言ってみな・・・」
バルバロッサの鋭い視線に、チサトは思わず後ずさりしそうになる。
だが、怖いのをこらえ、勇気を振り絞って、答えた。
「ら・・・ラウールさんが出てゆくのを見たん・・です・・・。こっそり・・・抜け出して・・・それで・・・連れ戻さなきゃ・・・って思ったんです・・・」
「なるほど・・・やっぱりそうか」
バルバロッサは厳しい表情を崩さないものの、ちょっとだけ安心したような声になる。
チサトが悪い遊びを覚えたりしたわけではなかったからだ。
だが、それを押し隠し、尋問を続ける。
「だったら、何だって知らせなかったんだ?院長様は起きてたはずだし、門番だってしばらくすりゃあ戻ってくるだろうが?」
「ご・・・ごめんなさい・・・。ら、ラウールさんを止めるのに頭が一杯で・・思いつかなかったんです・・・・」
「それで・・・規則を破って・・・挙句の果てには筋者どもに因縁付けられてかよ。俺がいなかったら・・・一体どうするつもりだったんだ?」
その事態を想像したのか、チサトはぶるぶると震えだした。
「ご・・・ごめんなさい・・・」
「本当に反省してんのか?」
「し・・・してます・・・」
「んじゃあ、覚悟はいいな?」
バルバロッサはそういうと、膝をポンポンと叩く。
「は・・・はい・・・・」
そういうと、チサトはこわごわ、バルバロッサの膝に歩み寄った。
チサトはバルバロッサの膝の上に乗る。
と同時に、バルバロッサの服の裾を両手でしっかりと握り締めた。

 「ったく・・・今日はちょっとやそっとじゃあ許してやらんからな・・・」
バルバロッサはそういうと、チサトの上着をまくり上げ、ズボンを下ろす。
あっという間に、見習い修道士のお尻があらわになった。
冷やりとした空気をお尻に感じ、チサトは両肩を震わせる。
バアアンッ!
いきなり、まるで不意打ちをするかのように、最初の一撃が襲ってきた。
「痛あっ!」
チサトは叫び声をあげ、背中を反らしてしまう。
バシィンッ! バアアンッ! バッチィンッ!
「いやあっ!・・・きゃああっ!・・ひゃあんっ!」
お尻を襲う強烈な痛みに、チサトは悲鳴をあげてしまう。
「全く・・・勝手に外に・・・出るわ・・・」
バンッ! ビシッ! バアンッ!
「ひゃあっ!・・・きぃひぃんっ!・・・ひゃあうっ!」
チサトは痛さのあまり、巨漢修道士の上着の裾をギュッと握り締める。
同時に、大きな目をつむり、苦しげな表情を浮かべる。
バシッ! バアンッ! バシィンッ!
「おまけに・・・怪しいクラブに入るわ・・・・」
バッチィンッ! バアアンッ! バチィンッ!
「やああっ!・・・ひゃあんっ!・・・ひいいんっ!」
バシーンッ! バアアンッ! バッチィンッ!
「挙句の果てには筋者(スジモン)に因縁つけられて。殺(バラ)されそうになるわ・・。何やってんだっ!」
バッチィンッ! バアアンッ! バシィンッ!
「ひゃああんっ!・・・ごめんなさいっ!・・・ごめんなさいっ!・・・も、もう・・しませんっ!」
チサトは大きな声で叫ぶ。
お尻は、既に真っ赤に染まっていた。
「本当に反省してるのか?」
厳しい表情でバルバロッサはチサトに尋ねる。
「し・・・しました・・・」
「ようし。じゃあ・・・何が悪かったのか言ってみな」
「か・・勝手に抜け出して・・・町にいったこと・・・・」
「それから?」
「怪しいお店に・・・行ったことです・・・」
「そうだな。だが、何でそれで怒られてるんだ?」
「き、決まりを破ったから・・・」
「そりゃあ半分だな」
その言葉に、チサトは不可思議な表情を浮かべる。
「そ・・・それだけじゃあないん・・・ですか?」
「残念だが・・・もう一つあるぜ。わかんねえか?」
「わ・・・わからないです・・・」
そういうと、バルバロッサは嘆息するように、ため息をついた。
「それじゃあ反省してるたあ言えねえなぁ。気の毒だが・・・もうちょっと痛い目見てもらうぞ・・・。ちゃんとわかるまでなぁ・・・・」
そういうと、バルバロッサは再び、手を振り下ろした。
バアアンッ! バシィンッ! バッチィィンンッッ!
「きゃあっ!・・・ひゃああっ!・・・やああっ!」
バシンッ! バチンッ! ビタアンッ!
「やああっ!・・・痛あっ!・・・痛あいっ!」
バチィンッ! ビシッ! バアアンッ!
「痛あっ!・・・痛いっ!・・・ごめんなさいっ!・・・ごめんなさいっ!」
「『ごめんなさい』はわかってるんだ!何で怒られてるのか、それを言ってみろ!」
バルバロッサはそういうと、手を思い切り振り下ろす。
今までで一番大きい音が鳴り響いた。
「わかんないです・・・本当にわかんないですっ!・・・ごめんなさいっ!・・」
「本当にわかんねえのか?」
バルバロッサの問いに、チサトは首を縦に振って答える。
バルバロッサはそれを見ると、再びため息をつく。
左手をチサトの頭の上に置くと、優しく撫でてやりながら、バルバロッサは口を開いた。
「いいか・・・。俺も院長様もなあ、お前が規則を破ったのを怒ってるわけじゃあねえんだ。そりゃ規則を破るのはいけねえが。だが、それよりも大事なのは、何で夜外出したり、怪しい店に入るのがいけねえかだ。普通なら坊さんとしての勤めや建前でも言いやがるんだろうが、俺も院長様も、んな野暮なこたあ言いやしねえ。いいか。本音を言うぜ。夜の街ってえのはなあ、色々と危ねえんだ。盗人にチンピラ、スジ者どもがうようよしてやがる。今日お前が入った店も、そういう連中のたまり場の一つなんだよ。俺も昔はアメリカでスジ者やってやがったから、そこのところは嫌になるくらい知ってるんだよ。あんな店に入ったらな、海千山千のスジ者ならともかく、お前みたいな世間知らずの子供じゃあ、あっという間にやべえことになっちまうんだ。現に、イカれたスジ者どもにイチャモンつけられたろうが?」
「は・・・はい・・・」
「俺がいなきゃあ死んでたかもしれねえ。わかるな?」
「は・・はい・・・」
「ここまで言えば何でこんなに怒ったかわからあな?」
「し・・・心配かけたから・・・ですね・・・・」
「そうだ。院長様もそりゃあ心配しなさったんだぞ」
「ご・・ごめんなさい」
「もう、やらねえな?」
「はい・・・・」
「ようし、いい子だ」
バルバロッサはそういうと、チサトを降ろす。
「チサト、食堂に行きな。夜食を用意してもらってあるからよ」
「は・・はい・・・・」
バルバロッサはチサトを懺悔室から出す。
そして、ラウールと対峙した。
「さあて・・・若いの・・・。覚悟はいいんだろうな・・・。お前のせいで・・・チサトが危ねえところだったんだ・・。落とし前はキッチリつけてやらあな」
バルバロッサは凄むと、ラウールを睨みつける。
「ちょ・・・ちょっと待って下さいよっ!そ・・そりゃあ抜け出して・・・夜遊びしたのは・・・ぼ、僕が悪かったですよっ!!で、でででも・・・何でチサちゃんが抜け出したので僕のせいになるんですか~~~。チサちゃんが勝手に抜け出したんでしょ~~~」
「黙らんかい!お前を止めようとしてこうなったんだろうが!今日という今日は許さねえからな!」
そういうと、バルバロッサは右手に何かを握った。
持っているのは、短い柄に、何本もの革ひもがついた道具。
苦行用に使うバラ鞭だ。
「も・・・ももももしかして・・・それで叩くんですかあ!?」
顔面を蒼白にしてラウールは尋ねる。
「そうじゃい。ケツの皮が破れるくらいぶっ叩いてやるから覚悟しいや!!」
「いやあ~~~~」
ラウールはドアに向かって一目散に駆けようとする。
「逃がすかっ!」
バルバロッサは鞭を持っているのとは反対側の手を振り下ろす。
ラウールは上着の裾を引っ張られたかのような感触を覚えるや、床に倒れた。
倒れたまま、ラウールが後ろを見やると、裾の端に、肉切包丁が突き刺さっている。
これが,服を床に縫い止めてしまったのだ。
バルバロッサはゆっくり歩み寄ると、床から包丁を抜き取る。
「全く・・・クラブで見たのに気付かなかったのか?おい?」
この包丁はバルバロッサが投げたものだった。
バルバロッサが昔、アメリカでドイツ系ギャング組織の構成員だったことは既に述べた。
彼はその当時、肉屋を表稼業にしていた。
そのため、肉切包丁の扱いに長けており、それを普段から武器にしていた。
特に包丁投げの技は相当なもので、20メートル以上離れた先の拳銃の銃口に正確に命中させ、しかも真っ二つに割ってしまうなどという、とんでもない技を持っていた。
勿論、接近戦でも相当なもので、二本の肉切包丁を持たせたら、取り押さえられる奴はいないとまで言われていた。
そのため、今夜の酒場での騒ぎのように、荒っぽいことが必要な場合、二本の肉切包丁を持って出かけるのである。
 バルバロッサは包丁を仕舞うと、ラウールの腰を引っ掴み、膝に載せてしまう。
「さあて・・・いくら泣いても喚いても許さねえから覚悟しな」
そのあとは、革で肌を打つ音と青年の泣き叫ぶ声、ヤクザまがいの乱暴な怒鳴り声がドアから廊下へもれ聞えてきた。

 一時間後、食堂の大テーブルの片隅には、チサトの姿があった。
「うっ・・・痛あっ・・・・」
用意されていたパンと牛乳を食べながら、チサトは顔を顰め、お尻をさする。
辛うじて椅子に座っているものの、お尻が痛くてたまらない。
触ると、服の上からでも、熱を発しているのが感じられた。
「どうやら散々叩かれたらしいのお」
そういって誰かがチサトに声をかけてきた。
話しかけてきたのは、顔に大きな傷があり、左目が失明している老いた修道士。
ディゴミエ院長だ。
「あっ、院長様」
慌ててチサトは立ち上がろうとする。
「かしこまらんでいいわい。それにしても今日は大変だったのう」
「はい・・・。院長様・・・。心配かけてごめんなさい」
「よいよい・・・わかればよいのじゃ。二度と皆を心配させるようなことはしてはならぬぞ?」
「はい、院長様・・・」

 ―完―






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