スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ダンジュー修道院11 ボヤ騒ぎ



  「ふーっ、いい気持ち~」
ふかふかの干し藁の上で大の字になりながら、ラウールはそんなことをつぶやいた。
ここは院の貯蔵室。
ラウールの周囲には藁や木の枝が部屋一杯に置かれていた。
これらの藁や枝は院の畑の麦を刈った後のものや森で集めたもの。
院ではこれらの藁から敷き物や籠などをつくり、自分たちが使ったり観光客に売って運営費を捻出したりするのに用いていた。
 ラウールは夢見心地でウトウトしながら、懐から何かを取り出す。
取り出したのはタバコの箱。
以前、街に買出しに出かけたときにこっそり買い求めておいたものだ。
ラウールはタバコを取り出すと火をつけ、干し草の上で寝転がったまま、紫煙をふかす。
「ふかふかの干し草の上で寝ながらタバコなんて・・・最高だよね~~」
ラウールはご満悦といった表情を浮かべながら、そんなことをつぶやいた。
 ラウールが貯蔵室でいい気分になっているさなか、突然ドアが開いて誰かが入ってきた。
入ってきたのは緑色の髪と目をした、藍色の修道服姿の少年。
チサトだ。
チサトはラウールの姿を見つけると、怒ったような表情を浮かべてラウールを見た。
「や、やあチサちゃん」
ラウールはぎこちない笑みを浮かべてチサトに話しかける。
「こんなところにいたんですね!全く何考えてるんですか!仕事さぼるなんて!」
チサトの言葉に、ラウールは思わずバツの悪い表情になる。
そう、ラウールは仕事をさぼってここで一眠りを決め込んでいたのである。
「だ、だってさぁ、今日の仕事・・・」
「だってじゃありませんよ!さあ!行きますよ!ラウールさんも手伝って下さい!!」
「わかったよ。僕の負けだからもう怒らないでよ、チサちゃん」
ラウールは苦笑すると携帯灰皿を取り出し、タバコの火を消す。
起き上がりながら灰皿をしまうと、ラウールは急いでチサトの後を追いかける。
二人は貯蔵室を後にすると、修道士用の宿舎に近いある小屋に向かう。
その建物にたどり着くと、チサトはすぐにもドアを開けた。
 ドアを開けると同時に、血や肉の生臭い匂いが鼻を突く。
「うわぁ・・・キクぅ・・・」
思わずラウールは鼻をつまみ、恐る恐る中へ足を踏み入れる。
小屋の内部の床や壁には、動物のものと思われる血や脂が所々についていた。
中央には大きな卓が据えられている。
その卓には豚が乗せられている。
豚は腹を割かれ、内臓を今にも取り除かれているところだった。
 豚の内臓を手袋に覆われた力強いがっしりとした手が丁寧に取り出す。
取り出しているのはバルバロッサ。
バルバロッサは肉屋用のエプロンや帽子を身につけている。
豚のそばに置いてある愛用の肉切包丁には脂をふき取った跡がある。
「バルバロッサさぁん。ラウールさん連れてきましたよ~」
チサトが声をかけると、バルバロッサは二人の方を振り向いた。
「おう、来たか。そこに手袋とかあるからすぐに着替えな」
バルバロッサに言われると二人はエプロンや手袋を身につける。
身につけ終えるとチサトが再度尋ねた。
「それで僕達は何をすればいいんですか?」
「そっちにミンチにした肉と取り出した腸が置いてあるからよ、はらわたにミンチ詰めてくれや。俺ゃあこの豚を切り分けて燻製用の肉を作るからよ」
「わかりました。さっ。ラウールさん、急いで!」
「わかってるよぉ・・。うう・・それにしても臭いよ・・・」
「文句言うんじゃねえ!さっさと仕事にかからんかい!こん坊ちゃん育ちが!」
バルバロッサはそういうと、急かすようにラウールのお尻をパシンッと叩く。
ぐずぐずして本当にお尻を叩かれることになったら大変とばかりに、ラウールは慌てて奥へ行く。
それを尻目にバルバロッサは肉切包丁を手にすると、豚に包丁を入れ始めた。
彼は骨を避け、巧みに肉を切り分ける。
この切り分けられた肉は後で燻製にされる。
修道院では参拝客へのお土産用として燻製や腸詰ソーセージなども造っていた。
このための作業にはバルバロッサが当たることが多かった。
というのも、ヤクザ時代に表稼業として肉屋をやっていたため、こういう仕事には手慣れているからである。
もっとも、彼一人では量をこなせるわけはない。
そのため、数人の修道士が助手として作業の際には手伝っていた。
今日はチサトとラウールの当番であった。
 「ほら、ラウールさん!ちゃんと中にひき肉詰めて下さいよ!」
豚の内臓にひき肉を詰めながチサトはラウールにそう言う。
「わかってるよ・・でも、臭いし・・脂でべたつくし・・・」
ラウールは顔を引きつらせながら答える。
ラウールはお坊ちゃん育ちということもあって、このような作業にはあまり慣れていなかった。
彼にとってはこんな血や脂の匂いが充満し、ベタベタと身体に肉や脂のかすが張り付いた状況で疲れる仕事をするのは願い下げにしたかった。
貯蔵室でサボろうとしたのも、この作業から逃げたかったからである。
「我が侭言ってるとまたバルバロッサさんにお尻叩かれちゃいますよ?」
「うう~~ん。それを言わないでよ、チサちゃぁん」
ラウールは困った表情を浮かべた。
実際、以前にこの作業が嫌でサボったのだがそれがバレてしまい、嫌というほどお尻を叩かれたことがあったのだ。
こんなところでキツイ仕事をするのも嫌だが、バルバロッサにお尻を叩かれるのはもっと嫌だった。
「わかったよぉ・・・ちゃんと仕事するよ・・・」
ラウールは力の無い声でそういうと、肉や脂の匂いに顔を顰めながら、豚の腸に中身を詰めだした。

 それから2時間ほど後・・・。
「まあ、こんなもんでいいか」
バルバロッサはそういうと、卓を見下ろした。
卓上には丁寧に切り分けられた肉がずらりと並んでいる。
「後は吊るして煙で燻せばいいだけだが・・・。ん?何だ?外がうるせぇな」
外が騒がしいことに気付いたバルバロッサは脂や肉がべったりついた前掛けを外すと外へ出る。
すると、あたふたする修道士たちに出会った。
「おい。一体何慌ててやがんだ?」
バルバロッサは不審に思って一人に声をかける。
「た、たたた大変だよ!か、か、火事だよ!」
「何ぃ!どこでだ!」
「ちょ、貯蔵室だよ!」
それだけ聞くとバルバロッサは飛び出した。
彼は一目散に貯蔵室へ向かう。
乱暴に扉を開けて中へ踏み込むと、藁束の上で火がパチパチと燃え盛っていた。
「くそっ!消火器はどこだ!!」
あたりを見回し、消火器を見つけるとバルバロッサはそれをすかさず壁から取り外す。
チューブを火に向けると思い切り取っ手を握った。
白い消化剤が火に向かって噴き出し、火は小さくなる。
ありったけの消化剤を注ぎ、火は消えた。
どうやらまだ火が小さかったため、消火器で消せたのである。
「全く・・・冗談じゃねぇよ・・ん?」
バルバロッサは火が消えた後に何かが残っていることに気がついた。
それを取り上げると、よく観察する。
焼かれて黒焦げになり、崩れそうになっているがタバコに間違いなかった。
(ちくしょう!誰かここでタバコ吸いやがったな)
バルバロッサは思わず舌打ちする。
(うちの修道院でタバコを吸うのは・・・)
途端に銀髪の青年の顔が浮かび上がってきた。
「あのガキ!!」
いきり立ったバルバロッサは次の瞬間には貯蔵室を飛び出していた。

 「何か・・・外が騒がしいですね・・・」
ソーセージを造る作業をしながら、チサトがラウールに話しかけた。
「そう?」
ラウールは気の無い返事をする。
肉や脂の臭さが気になって外の騒ぎどころではないようだ。
不意にチサトたちがいる部屋のドアが荒々しく開いた。
同時にズンズンとバルバロッサが入ってくる。
「どうし・・・ひゃあっ・・・」
チサトはバルバロッサに声をかけようとして息を呑む。
彼の表情が修道院の屋根にあるガーゴイル(コウモリの翼を持つ醜く恐ろしげな姿をした怪物。ヨーロッパの教会などでは魔よけや不信心者への警告などとしてこの怪物の像を屋根の四隅に据え付けているところがある)もかくやというほど怖いものになっていたのだ。
自分の経験から、チサトはバルバロッサがとっても怒っていることをすぐに察した。
 バルバロッサは並みの人間だったら震え上がってしまいそうな目つきで、ラウールを睨みつける。
睨まれたラウールはいつもの条件反射で縮み上がってしまう。
「おい、若えの。てめえ、チサトが連れてくる前、どこに居やがった?」
「ちょ、ちょ、貯蔵室です・・・」
ラウールは怯えた声で答える。
「やっぱりそうか。おい、だったらこれに覚えがあるだろう?」
バルバロッサはそういうと崩れかけのタバコをラウールに突きつけた。
「こ・・これ・・もしかして・・・」
「ああ、そうだ。干し藁の上にコイツが転がってた。それだけじゃねえ。これのせいでさっきまで貯蔵室が火事だったんだよ!」
それを聞くや、ラウールの表情が真っ青になる。
しばらくするとおかゆのような白っぽい灰色に変わった。
「若いの?正直に言え。貯蔵室でタバコ吸いやがったな?」
バルバロッサは凄みながら尋ねる。
ラウールは恐怖のあまり誤魔化すことも思いつかなかった。
「す・・吸っちゃいました!ご、ごめんなさいっ!!」
「ごめんですむか!バカヤロウ!!」
バルバロッサはそういうと、ラウールを肩に担ぎ上げる。
「ちょっ・・・どこ連れて行くんですか~~~?」
「懺悔室に決まってんだろうが!覚悟しやがれ!」
「嫌あああ~~~~~」
ラウールはバルバロッサの肩の上で両脚をバタつかせる。
だががっしりと押さえられているために逃げることは出来なかった。

 懺悔室に連れてこられると、ラウールは乱暴に床に降ろされる。
床に降ろされたかと思う間もなく、今度は椅子に座ったバルバロッサの膝の上に乗せられてしまった。
「ごめんなさぁ~~い~~。僕が悪かったです~~。も、もうしないから許して~~」
ラウールは何とかお仕置きを免れようと必死で謝る。
「駄目だ。あそこは禁煙なのはわかってんだろうが!まかり間違えばボヤどころか済まなかったんだぞ!わかってんのか!!」
バルバロッサは厳しい声で叱りつける。
同時にラウールの上着を捲り上げ、ズボンを降ろしてお尻をむき出しにする。
「やだ―――――ッッッ!!降ろして~~~~~!!!!!!」
ラウールは往生際が悪いのか、お尻をむき出しにされても、なおもがく。
だが、バルバロッサの怪力に呆気なく押さえつけられてしまう。
「さあてと・・覚悟しろよ・・・」
バルバロッサはそういうと同時に手を思い切り振り下ろした。

 バアアアンンンッッッ!!!
「ぎゃあああ!!」
骨にまで響きそうな打撃に、ラウールは飛び上がりそうになる。
だが、バルバロッサにしっかり押さえられているため、背を仰け反らせただけだった。
バアアアン!! バアシィィィ!! ビシャアアア!!
「ぎゃひん!ひいんっ!ひゃあうんっ!」
ラウールは甲高い悲鳴をあげ、そのたびに身体を仰け反らせ、あるいは痙攣させる。
バアアアン!ビシィィィ!バアシィィィィ!
「全く・・・サボリだけなら・・ともかく・・・」
バアチィィン!ビシャアアアアア!バアシィイイイン!
「ぎゃあ!ひぎゃああ!はぎゃあ!!」
バシィィィ!ビタアアア!バアアアアン!
「禁煙の場所でタバコなんぞ吸いやがって・・・おまけにボヤ騒ぎまで起こしやがって!」
バアッチィィィンンン!!
お尻の骨が砕けてしまうかと思えるぐらい、強烈な一発をバルバロッサはくれてやる。
「ひゃあひぃぃぃんんっ!」
ラウールはあまりの痛さに今までで一番大きな悲鳴をあげ、バルバロッサの膝から転がり落ちそうになる。
 「ひっく・・えっく・・・。タバコはともかくボヤは事故ですよぉ・・。僕のせいじゃないですってばぁ・・・」
目尻に涙を浮かべながら、ラウールは弁解する。
「バカヤロウ!あそこが禁煙なのはちょっとの火の粉でも火事になりかねねえからだろうが!!そんなもん三歳児でもわかることだろうが!!お前はちゃんと脳味噌詰まってんのか!?」
ラウールの言い訳にバルバロッサは怒鳴りつける。
あそこでタバコを吸っていけないという決まりは、修道士全員に行き渡っている。
特に、修道士なのにやたら俗っぽいラウールにはバルバロッサは無論、他の先輩修道士から言い聞かせてあった。
それにも関わらず、その若者はやらかした。
知らずにしたことならまだそこそこ勘弁出来た。
しかし、皆があらかじめ教えておいて、駄目だと言い聞かせておきながらやらかしたとなったら、これは見過ごせないし、許せなかった。
「てめえ、今回のことは知っててやったんだろうが。この程度じゃまだまだ許さねえからな。覚悟しいや」
ラウールはバルバロッサの氷のような冷たい口調に背筋が寒くなる。
同時に、ラウールはバルバロッサの身体から剣呑な雰囲気を感じ取った。

バシイイイイン!バアチィンンン!パアアアアアアンン!
「ぎゃあひぃっ!ひゃあああん!ひぎゃああ!」
とてつもない激痛にラウールは泣き叫ぶ。
「うわあ~~~ん。ごめんなさあ~~~い!ごめんなさ~~~い!も、もうしませえ~~~ん!だから許してえ~~~!!」
ラウールの哀願をバルバロッサは非情な声で斬って捨てる。
「駄目だ!あと3,40発は引っ叩いてやるから覚悟しやがれ!!」
「そんな~~~~!!!」
その後、懺悔室には一時間近くに渡り、泣き叫ぶ声や怒鳴り声、何かを思い切り叩く音が入り混じって響き渡った。

 「ぐっす・・・ふっえ・・痛い・・よぉ・・・」
懺悔室の片隅でラウールは壁を前にして立っていた。
長い上着の裾を両手に持って捲り上げており、ズボンを足元まで下しているのでお尻が丸出しだった。
お尻は三周りぐらい大きく腫れ上がり、まるで風船のようである。
色は熟したトマトのように真っ赤で、肌の表面はやすりのようにザラザラになっている。
両脚の白い滑らかな青年本来の、男のものとは思えない綺麗な肌とそこだけが見事なコントラストになっていた。
 コンコン。
不意に、誰かがドアをノックする音が聞えてきた。
「誰・・・?」
ラウールが尋ねると同時に聞き覚えのある声で返事が返ってくると、扉が開いて誰かが入ってくる。
入ってきたのはチサトだった。
「チサちゃん?何でここに?」
「静かにして下さい。手当てしに来たんです」
「う、嬉しいけどマズイよ。ばれたらチサちゃんまでお尻ぶたれちゃうって」
ラウールは忠告するような口振りで言う。
実はまだお仕置きは終わっていない。
コーナータイムの真っ最中なのだ。
だから、勝手に懺悔室に入ったり、ラウールの手当てをしたりすれば、今度はチサトがお仕置きされてしまうかもしれないのである。
「そんなこと言っても、こんなになっちゃってるじゃないですか」
チサトはラウールのお尻を見ながら言う。
「さあ、誰も見てないですから。床にうつ伏せになって」
「う・・うん・・」
ラウールは用心しながら床にうつ伏せになる。
チサトは懐から塗り薬を取り出すと、それをラウールのお尻に塗りだした。
「い・・痛っ・・・。ち、チサちゃん。も、もうちょっと優しく・・して・・・」
ちょっと触られただけでもお尻が痛むため、ラウールは思わずそうチサトに頼み込む。
「こ、こんな感じですか・・・?」
「う・・うん・・そう、少しは痛くなくなったかな・・・」
薬を塗ると、チサトは冷やしたタオルをお尻に載せる。
冷やりとした感触がラウールのお尻を包み、ラウールの表情は安らいだものになった。
「ふう~っ。楽になった~」
「大丈夫ですか?」
「うん。チサちゃんありがとう~。でも、もう行った方がいいよ。見つかったら本当に怒られちゃうから」
「はい。じゃあ、僕はこれで。後でまた様子見に来ますね」
チサトはそういうと、こっそりと懺悔室を出て行った。

 ―完―
スポンサーサイト

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

comment

管理者にだけメッセージを送る

プロフィール

山田主水

Author:山田主水
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2投票
無料アクセス解析
FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。