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ダンジュー修道院14 イースター準備



 「おーい!飾りつけはこんなのでいいのか?」
「もっと右動かせ!違う!左じゃないって!」
「テントはどうやるんだっけ?」
その日、ダンジュー修道院はいつもよりはるかに慌しく騒がしかった。
礼拝堂では修道士達が壁掛けなどで美しく飾りつけ、庭でもある場所ではテントを張り、その下にテーブルなどを据えている。
彼らはイースター(復活祭)の準備をしている最中だった。
 イースターというのは、ヨーロッパのお祭で、イエス・キリストの復活を祝うものだ。ヨーロッパでは、3月22日~4月25日の間の春分の日以降の最初の日曜日をイースター・サンデーとし、その日にお祝いごとをする。
それはこの修道院でも同様であり、イースターの日には特別なミサを挙げる。
また、敷地内においてチャリティーバザーや聖歌演奏といった催しごとを行い、また屋台なども並び、ふもとの町の住人たちが訪れ、賑わいを見せる。
そのため、礼拝堂ではミサの為に内部を飾り、庭の方では屋台を出店予定の地元業者などと共にテントやテーブルの設置などに大わらわであった。
 同じ頃、厨房もまた大忙しだった。
「チサト!もっと火強くしろ!!これじゃあ弱すぎる!!」
「はい!」
厨房ではバルバロッサが汚れたエプロンをつけ、大声で叫んでいる。
チサトは言われた通り、薪を数本放り込んで火の勢いを強くする。
厨房のカマドでは、勢い良く燃え上がった炎が大きな鍋をカッカッと熱し、中身を煮立たせている。
鍋の中には茶色のドロリとした液体が入っている。
グツグツと煮え立っているそれの中に大きな棒を突っ込み、バルバロッサが一生懸命にこねくり回している。
体力自慢のバルバロッサでも体力を消費し、また熱気に当てられているためか、顔には玉のような汗が噴き出している。
厨房の別のところでは、鍋から中身を取り出して鋳型のようなものに流し込んでいる。
さらに他のところでは鋳型を外して中身を取り出していた。
 鋳型から出てきたのは1ダース分のチョコレート。
チョコレートは形・大きさのいずれもが鶏卵の形をしている。
イースターエッグだ。
イースターの日には贈り物として、彩色した卵やチョコレート製の卵などを互いに送る習慣がある。
この修道院では、ミサにきた人に無料でチョコ製の卵を配るということをやっているため、そのためのチョコ製卵を製作しているのである。
冷えて固まったチョコを取り出すと、修道士たちはそれをラッピングし、一定の数ごとに箱に入れて冷蔵庫へ入れていた。
修道士たちが厨房でチョコレート卵の製作を行っていると、不意にドアが開いてラウールが入ってきた。
「あれ?ラウールさんどうしたんです?」
チサトはラウールの姿を見るや、思わず尋ねる。
「うん。庭の方で人手が足りなくてさ。悪いんだけどチサちゃん手伝ってくれない?」
「え・・。でも・・」
チサトは思わずバルバロッサや他の修道士たちを見やる。
チョコレート製作で皆忙しい様相を呈しており、自分が抜けると大変なのではと思えたからだ。
「チサト、手伝ってやれ。こっちはあと少しで終わるからよ」
バルバロッサは安心させるような声でそう言う。
「わかりました。向こうが済んだらすぐ戻りますね」
チサトはそういうと厨房を離れ、ラウールと一緒に庭へ向かう。
庭に出ると、修道士たちがテントを設置し、その下にテーブルや椅子を置いていた。
「チサちゃん、そのテーブルの端っこ持って」
「はい。どこ持ってくんですか?」
「庭の奥の方」
「わかりました。そうれ!」
掛け声と共にチサトとラウールは細長いテーブルを持ち上げる。
そして、庭の奥の方へ運んでゆく。
テーブルを置くと、今度はテントを設置し、あるいは椅子を持ってきたりした。

 「はーっ!疲れたあ~~~~」
ようやく作業から解放され、ラウールは思わず嬉しそうな声を出した。
あれから2,3時間にわたり、テーブルやらテント用の鉄パイプやらを運んで庭を幾度も往復したり、テントやテーブルの設置という重労働をしたのだ。
ヘトヘトになるのも無理は無い。
「ラウールさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないよ~。もう身体のあちこちが痛くて痛くて」
「僕もです。そうだ。僕の部屋に筋肉痛の塗り薬があるんですけど使います?」
「本当?じゃあありがたく使わせてもらおうかな」
二人はそう決めるとチサトの部屋に行った。
 「ああ。楽になった~。ありがとう、チサちゃん」
ラウールは肩を回しながらチサトに礼を言う。
肩や腰に筋肉痛用の塗り薬(バ○テ○ンのようなやつ)を塗ってもらって楽になったのだ。
チサトもラウールに薬を塗ってもらっていた。
「どういたしまして。あっ。僕はちょっと失礼しますね」
「どっか行くの?」
「厨房の方抜けて来たんで戻ります」
「わかった。僕は礼拝堂の方に今度は行くから。手空いたらまた手伝ってくれる?」
「わかりました」
そういうと二人はまた別れ、チサトは厨房の方へ戻って行った。

 「すいません。戻りました」
チサトはそういうと厨房に入る。
だが、中には誰もいなかった。
「あれ?作業終わっちゃったのかな?」
チサトは誰かいないかと厨房内をぐるりと見回すが、一人もいない。
ラウールが今度は礼拝堂の方へ手伝いにゆくというのを思い出し、自分もそちらへ向かおうとしたそのとき、いい匂いがチサトの鼻をついた。
「あ・・この匂い・・」
チサトにはすぐわかった。
チョコレートの匂いだ。
匂いにつられてチサトは厨房の奥へ入る。
するとテーブルの上に、1ダースごとに箱に入ったチョコレート製のイースター・エッグが置かれていた。
出来立てなのだろう、匂いが非常に香ばしい。
匂いをかいでいるだけで食欲をそそられそうだ。
実際、チサトは目の前のおいしそうなチョコの卵に咽喉をゴクリと鳴らしていた。
(駄目だよ・・食べちゃ・・)
チサトは理性を必死に働かせて目の前の誘惑に負けまいとする。
これは皆明日のイースターのミサに来る人のためのものなのだ。
食べてはいけない。
だが香ばしい香りが、嫌でもチサトの食欲に働きかける。
おまけに朝からの厨房・庭での激しい作業でチサトのお腹はすいていた。
チサトの食欲を後押しするかのように、お腹からギュウ~~という音が鳴り響く。
 (も・・もう無理!我慢出来ない!)
チサトは必死に自分を抑えようとしたが、もはや限界だった。
チサトは手を伸ばすと、イースター・エッグを一つ手に取る。
口を大きく開けると、卵を思い切りかじった。
たちまち、口内のチョコレートの甘い味と香りが広がる。
(おいしい・・・)
チサトはチョコのおいしさに、思わず満面の笑みを浮かべる。
同時に、もっと食べたくなってきた。
彼は続けて4回ほど手を伸ばす。
そのたびごとにチョコ製卵がチサトの口内へ消えていった。
 4個食べたところでチサトはハッとした表情になる。
そして、四個分足りなくなった箱と、チョコの汚れがすこしついた自分の手を交互に見やる。
(食べ・・ちゃった・・・)
チサトは今さらながら猛烈な後悔に襲われる。
同時にやましさと罪悪感がこみ上げてきた。
 「あん?チサトじゃねえか。どうしたんや?」
不意に、厨房の入り口の方から声が聞えてきた。
(ま・・まさか・・)
チサトは思わず息を呑む。
毎日聞いている、そして今一番会いたくない人の声だった。
振り向いたら終わり。
いや、振り向かなくても結果は同じに違いないが、そう思った。
しかし、振り向かずにはいられなかった。
 チサトが振り向くと、真っ赤な髪をしたいかつい体格の修道士の姿があった。
「バ・・バルバロッサさん・・・」
「おう。戻って来てたんか。腹ごしらえに皆出てたんでな。すまんな」
「い、いえ・・。別に・・」
「うん?どうしたんや?何かおかしいでぇ?」
バルバロッサはチサトの様子がおかしいことに気がつく。
(誤魔化しちゃおうか?)
一瞬、チサトの脳裏にそんな考えが頭をよぎった。
だが、すぐにその考えを否定する。
そんなずるいことはしたくないし、そんなことが出来るほどの度胸も弁舌もない。
チサトはなけなしの勇気を奮うと、声を振り絞って言った。
「ご、ご、ごめんなさいっ!明日のミサ用のお菓子、つまみ食いしちゃいました!」
「んだとぉ!」
思わずバルバロッサは声を出す。
彼はすぐさまテーブルのそばによると箱を確かめる。
確かに四つ、チョコ製卵がなくなっている。
それにチサトの口元と手をよく見てみると、ほんの僅かだがチョコがついていた。
「全く・・何てことしたんだ・・子供じゃああるめえし・・・」
「ごめんなさいっ!本当にごめんなさいっ!」
チサトは必死に謝る。
「悪いと思ってんならわかるな?」
バルバロッサはそういうとアゴをしゃくってついて来いと合図する。
チサトは頷くと後についてゆく。
二人は廊下に出てしばらく歩くと懺悔室へ入っていった。

 懺悔室に入ると、バルバロッサは椅子に腰掛けてチサトと向き合う。
「チサト、覚悟はいいな?」
バルバロッサはそう尋ねると、膝を軽く叩いた。
「は、はい・・・」
チサトは恐る恐るバルバロッサに歩み寄ると膝の上にうつ伏せになる。
チサトが乗るとバルバロッサはいつもの通りに裾を捲り上げ、下着ごとズボンを下してお尻を出す。
 空気がお尻の肌に触れるのを感じると、チサトはこれから我が身に降りかかる苦痛を想像する。
心臓がドキドキと早鐘を打つかのように鼓動し、怖くて思わず目をつむり、身体を震わせる。
(逃げたい・・・よぉ・・・)
そういうことを考えずにはいられない。
でも、今日のことは明らかに自分に非がある。
痛いのは嫌だ。
でも、自分が悪いのにそれから逃げることはもっと嫌だった。
チサトは怖いのを必死にこらえ、逃げたくなる気持ちをねじ伏せるかのように、バルバロッサの上着の裾を両手でギュッと握り締めた。
 (あかん・・・。見とると可哀想になってきてたまらんわ・・・)
身体を震わせ、お仕置きの恐怖を辛うじて抑えているチサトの姿に、バルバロッサは思わず気持ちがくじけそうになる。
このまま許してやりたかった。
(んだが・・そいつはあかんわ・・・)
バルバロッサはくじけそうになる自分の心にハッパをかける。
今日チサトがやったのは明らかに悪いことなのだ。
いくら可哀想でも悪いことをしたらキチンとお仕置きをしなければいけない。
ケジメをちゃんとつけさせなければチサトのためにもならない。
甘やかしたらチサトはラウールみたいなナマグサ坊主になってしまう。
バルバロッサはそう自分に言い聞かせると、同情心を追い払う。
「チサ、覚悟はええか?行くでぇ」
バルバロッサはわざとヤクザ口調で話しかける。
チサトに言い聞かせるというよりも自分に無用な同情心を起こすなと言っているかのようだった。
チサトは悲痛な表情になりながらも、コクリと頷く。
それを見たバルバロッサは右手に息を吹きかけると、手を振り上げた。

 バアチィ――――ンン!!
「きゃっ・・いったあっ!」
最初の一撃が振り下ろされるや、チサトは痛さに飛び上がりそうになる。
大きく真っ赤な手形がチサトの白いお尻に鮮やかに押されたかと思うと、そこからジンワリと痛みが広がっていった。
バアチィン!バシィン!パアアン!
「きゃっ!ひゃん!痛ぁい!」
一打ごとにチサトは甲高い悲鳴をあげる。
痛みに耐えるためか、バルバロッサの上着の裾をさらにチサトはギュッと握り締めた。
バアンッ!バチィン!ビシャアン!
「ったくっ!人様が朝から苦労して造ったモンを!」
バアアン!ビシャアン!バアチィィン!
「きゃん!ひぃんっ!ごめんなさいっ!」
バシィーン!バアア――ン!バッチィィン!
「つまみ食いなんぞ・・しおって・・子供じゃあるまいしっ!」
バアアン!ビシャアン!バアチィン!
「ごめんなさいっ!バルバロッサさぁん、ごめんなさいっ!」
バアアアン!パアシィィィンン!バッチィィィン!
「『ごめんなさい』で済むかっ!後で皆がどれだけ大変になるか考えたんか、お前って子は!」
バルバロッサはお尻を叩きながらそう説教する。
 本当はこんなときのため、あるいは予定より人が集まりそうなときのために予備のチョコ卵もそれなりの数をつくってある。
だが、それで済む問題ではない。
数が足りなくなってしまえば、その分また皆が製作作業に追われることになってしまうのだ。
また、それが間に合わなければ明日もらえなくなってしまう人も増えるだろう。
そうなれば修道院の皆にも明日のミサに来てくれるふもとの町の人たちにも申し訳ないことになる。
だから、今日はいつもより厳しくお仕置きするつもりだった。
 バアアン!ビシャアン!パアチィン!
「ごめんなさいっ!本当にごめんなさいっ!」
パアアアン!ピシャアン!パアチィンッ!
「皆に迷惑かけるような・・こと・・しおって!」
バアシィィン!パアアアン!パッチィィィン!
「痛ぁあぁい!ごめんなさぁいっ!」
バアシィィン!バチィンン!ビタァァァンン!
「痛いのも・・ごめんなさいも・・当たり前だろうがっ!本当に・・悪い子やっ!」
パアアアン!ビタァァァン!バッシィィィンン!
「ふっえ・・ふええ・・ごめえんなさぁい・・・」
チサトは泣きながら必死に謝る。
お尻は既に真っ赤に腫れ上がり、カイロ顔負けなくらいに熱を帯びている。
 「ホンマに悪いと思っとるか?」
バルバロッサはお尻を叩きながらチサトに尋ねる。
チサトは嗚咽しながら頷く。
「ホンなら・・何が悪かったんや?」
バアシィィ!パアアアン!
「お・・お菓子・・つまみ食い・・した・・こと・・」
パアアン!パシィィ!
「そうやな。じゃが何でアカンのや?」
パアアアン!パアシィィ!
「み・・皆が迷惑・・するから・・・。つ、造り直さなきゃ・・いけないし・・」
パアアアン!パアシィィン!
「そうやな。んでも、まだあるで?言うてみぃ」
パアアン!ピシャアン!
「あ・・あれは・・明日のミサに・・来てくれる人の・・だから・・もらえない・・人が増えちゃう・・から・・・」
パアアン!パアシィィン!
「そうや。ええか。チサト、お前さんがやったのはタダのつまみ食いやないんやで。みんなにえらい迷惑かけることになるし、ミサに来てくれる人にもすまないことになるんや。自分が悪い子やったんがよぅくわかったやろ?」
「は・・はぃ・・ごめんなさい・・・」
「ええ返事や。でも、今日はいつもより悪い子やったからな。あと十回だけ行くで?覚悟はええな?」
チサトはコクリと頷く。
「よぅし・・じゃあ・・最後の十回や。行くぞ・・」
 バアアン!バシィィン!ビシャアン!
「きゃあ!ああっ!痛いっ!」
バアアアン!バシィィィ!パアチィン!
「痛あっ!ひゃっ!ごめんなさいっ!」
バシィィンン!バアアアアンン!パアシィィィンン!バッチィィィンン!
「ひゃあん!痛あっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」
最後の打撃と共にチサトはあらん限りの声で必死に謝った。
ようやくのことで平手打ちが止まる。
平手打ちが止まると同時に、バルバロッサはチサトを抱き上げて膝の上に座らせ、優しく頭を撫でてやった。
 「よく我慢できたな。偉いぞ」
「うっ・・ひっく・・・」
お尻が痛いのだろう、チサトは小さな子供のようにしゃくり上げている。
「ほらほら、泣くんじゃない。もう怒ってないから」
バルバロッサはハンカチを出すと涙を拭いてやる。
「ほ・・本当に・・お・・怒ってない・・ですか?」
「ああ。ちゃんと反省してるんだろ?」
「はぃ・・」
「それならいいんだ」
バルバロッサはそういうとチサトを抱きしめてやる。
「チサト、歩けるか?医務室に連れてってやる」
「でも、チョコは?」
「大丈夫だ。予備の造ってあるからな」
「よかった・・。つまみ食いして・・ごめんなさい・・」
「過ぎたことはもう言うな。それより、うまかったか?」
「はい。今まで食べたチョコよりおいしかったです」
「そうか。それを聞けば安心だ」
バルバロッサはそういうと、チサトを医務室へ連れて行ってやった。

 ―完―

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