修道騎士マクシミリアン


 民族・宗教の対立を抱える欧州の某国。
その主要都市の目抜き通りに荘厳なカトリックの大聖堂がそびえ立っていた。
市のシンボルである大聖堂は、数百年前の市当局がその威信をかけて建設しただけあって実に荘厳で美しい。
 その大聖堂では、日曜日のミサの真っ最中だった。
聖歌隊による讃美歌や、壮麗な祭服を着た教会関係者らによる典礼が、堂内の人々の気分を高揚させる。
やがてミサは終盤に近づいてゆき、並んだ参列者に対し、大聖堂の主である司教が一人一人に祝福や加護を与えてゆく。
列が半分くらいまで終わったところで、一人の若い男が司教の前に現れる。
それまでの参列者同様、司教が祝福を与えようとしたときだった。
 突然、男は上着の下に手を突っ込んだかと思うと、脇の下から拳銃を引き抜く。
同時に参列者の中から同じように拳銃を手にした数人の男達が飛び出してきた。
皆があっと思った瞬間、数丁の拳銃が司教めがけて火を吹く。
誰もが、司教の無残な最期を想像したそのときだった。
 突然、黒い影が司教の目の前に立ちはだかり、楯となる。
現れたのは体格のよい修道士姿の男。
鈍い音と修道士がよろめきかける。
だが、修道士は倒れることなく立ちはだかり、壁になりながら同じように体格の良い別の修道士らと共に司教を安全なところへと避難させる。
そうはさせじと襲撃者達も銃を構えて突き進もうとする。
だが、そこへさらにまた別の修道士たちが数名現れた。
 中でも一番先頭に立っていた若い修道士が、特殊警棒を振るって豹やチーターさながらの勢いでとびかかる。
襲撃者達の中へ踊り込んだかと思うや、当たるに任せて殴りまくる。
混乱しているところへ、残りの修道士達が拳銃を手にして襲撃者達を取り囲み、制圧した。


 「全く、無茶なことを・・・。撃たれたらどうする気だったんだ?」
「るっせえな!マゴマゴしてんのが悪いんだろうが!!」
20代前半らしい青年の問いかけに、16~18歳くらいの少年(に近い青年?)がそう切り返す。
 言い返しているのは、先ほど特殊警棒を振るって襲撃者達に斬り込んだ若い修道士。
腰まである純金のような見事な金髪の持ち主で、女性と見まがうばかりに美しい、だが燃え盛る炎のような激しいものを感じさせる面立ちをしている。
青年の方は短めの黒髪で、相方に負けず劣らず整った、だがこちらは男らしさを感じさせる面立ちをしていた。
二人とも今は修道服を脱ぎ、別の服に着替えているところだった。
着ているのは神父服らしいが、丈は短くされ、スリット等も入れて動きやすくされている。
また、腕や胸などには防御用のプレートや筋金がつけられていた。
二人とも服を着ると拳銃と短めの剣を腰につける。
そして、首からロザリオをかけた。
 「やっぱし・・こっちの方が落ち着くぜ。普通の修道服は動きにくくてヤなんだよなぁ」
「こらこら。それじゃあダメだろう?俺達だってれっきとした修道士なんだからな?」
戦闘服っぽい神父服を着終えた若者に、年上の青年は苦笑する。
 「るっせえな・・・。そっちだってそーだろ!最初からこの格好で警備させてくれりゃあいいんだよ!!」
「そういうわけにはいかないだろう?いかにも兵士みたいなのが睨み利かせてたら、市民や信者が怖がるだろ。教会なんだからそういうのはまずいだろう?マクシミリアン?」
青年は少年に諭すように言う。
 少年の名はマクシミリアンで、青年はルートヴィヒ。
二人とも一応修道士である。
一応というのは、彼らが普通の修道士ではないからだ。
彼らが所属しているのはヴュルテンベルク騎士修道会。
名前の通り、ドイツ南部に位置するバーテン=ヴュルテンベルク州に総本部となる修道院を構えている修道会だ。
 この修道会が他の修道会と異なっているのは、戦いを自らの職能としていること。
ヴュルテンベルク修道会はそのルーツをドイツ騎士修道会に遡る。
ドイツ騎士修道会とは、十字軍のために結成された戦う修道会の一つ。
元々はパレスチナで活動していたが、そこでの根拠を失い、異教徒との戦いのためにポーランド貴族から招かれたことをきっかけに、現在の東欧やロシア方面へ武力による布教・キリスト教圏の拡大を図る組織となった。
その後、歴史の流れの中で修道会と彼らの作りあげた国家は消えていったが、一部の者達が現在のバーテン=ヴュルテンベルク州へと移り、そこで自分達の修道会を立ちあげた。
そして、現在においては、紛争地域や宗教弾圧が行われている国において、カトリック教会や信徒らを守護する役目を果たしている。
 二人がこの国に滞在しているのも、宗派対立を抱えるこの国で教会・聖職者らの警護の任に当たっているからである。
 「チッ!おかげで守りにくいったらありゃしねぇ・・・・」
「それでも守るのが務めだろう?」
「言われなくてもわかってんだよ!イチイチウッせーなっっ!!」
「まぁわかってるならいいんだがな。それより・・・急がないと遅刻するぞ?」
「わかってるっつってんだろ!イチイチ言うなっつーの!!」
そんな会話を交わすと、二人は部屋を後にした。


 「ああくそっ!何だってこんな寒いんだよっっ!!」
懐中電灯を持ち、寒風に身をさらして見回りをしながら、マクシミリアンは思わず叫んだ。
今は交替で夜警の仕事の最中だった。
数年前まで宗派対立による武力衝突が頻発していたため、治安は必ずしもよくない。
対立する宗派の民兵やテロリストのみならず、泥棒や強盗などの危険も存在していた。
夜間は基本的に閉めているため、信徒や観光客らの目をあまり気にする必要が無い。
それに以前、強盗団だかテロリストが夜陰に乗じて襲撃しようとしたことがある。
そのため、夜間は戦闘用神父服姿で武装した上での警備を敷いていた。
 (チッ・・・!!一服しなきゃやってらんねえよ!!)
心の中で叫ぶと、マクシミリアンは上着のポケットからタバコを取り出すと、一服し始める。
多少機嫌が直ったのか、少し表情を和らげると、若い修道騎士(修道会ではルーツが中世の騎士修道会にあることから、隊員のことをこのように呼んでいる)は煙を吐き出す。
 (あん・・・?)
不意にマクシミリアンはおかしな気配を感じる。
(盗人か?それとも・・・)
マクシミリアンは気配のした方へゆっくりと近づいてゆく。
すると暗闇の中に微かに動くものが見えた。
「おい!動くんじゃねえ!!」
剣を構えてマクシミリアンは叫ぶように言う。
だが、相手はそれに従わず逃げようとする。
 「動くなってんだろうがっっっ!!!!」
カッとなって叫ぶと同時にマクシミリアンは懐中電灯を投げつける。
懐中電灯が命中し、倒れたところへ飛びかかるや、地面に押し倒し、これでもかと殴りつける。
取り押さえられた相手が必死に叫ぶが、それでも構わずマクシミリアンは殴りつける。
「おい!どうしたんだ!?」
悲鳴を聞きつけ、ルートヴィヒやその他の修道騎士達が駆けつけてきた。
「あん?盗人を取り押さえてんだよ!」
「何?どれどれ・・・?」
マクシミリアンの言葉に、ルートヴィヒが懐中電灯を向ける。
すると、映し出されたのは大聖堂に務める神父の一人の顔。
 「あ・・あなたはっ!だ、大丈夫ですか!?」
慌ててルートヴィヒが助け起こす。
「いたたた・・・ひどい目にあった・・・」
「一体どういうわけなんです?」
「え・・あ・・そ・・それは・・・」
神父は問われて言葉を濁す。
どうやらあまり人には言えない話のようだ。
 「と、とにかく手当てをしましょう!」
そういうと、他の隊員達は殴られた神父を助け起こして建物へと入ってゆく。
「マクシミリアン、俺達の部屋で待ってろ」
「あん?何でだよ?」
「いいから!俺が行くまで待ってるんだ!」
「チ・・・!!」
怪我をした神父を連れてゆくのを尻目に、マクシミリアンは舌打ちすると、渋々言う通りにした。


 「ってどこ行く気なんだ?」
手当てを済ませて部屋に帰って来ると、窓から外へ出ようとしていたマクシミリアンにルートヴィヒは声をかける。
 「あん?うっせーな!関係ねーだろ!!」
「そうはいかないんだよな。それはともかく・・・。わかってるのか?」
「ああん!?何がだよ!!」
ルートヴィヒの問いかけに、噛みつかんばかりにマクシミリアンは返す。
 「マクシミリアン・・・。俺達の今の仕事は?」
「この聖堂と連中を守るこったろ。馬鹿にしてんのか!?」
「なら・・お前のしたことは?」
「う・・・・」
ルートヴィヒの問いかけにマクシミリアンは思わず言葉に詰まる。
事情はわからないものの、大聖堂の神父の一人を不審者と勘違いし、滅茶苦茶に殴りつけてしまったのだ。
教会や聖職者らの警護を行う者として決してあってはならないことである。
 「う、うっせえな!向こうが悪いんだよ!紛らわしいことすっから!!」
だが、それを素直に認めるのは嫌で、マクシミリアンはそう言いやる。
「だからって理由にならないだろ?さぁ、こっち来い」
ベッドに腰を降ろし、合図をしたルートヴィヒにマクシミリアンの表情が強ばる。
 「テメェッ!何する気だよ!?」
「もうわかってるだろう?お仕置きだよ。どうしたんだ?」
「るっせえ!何でお仕置きされなきゃいけねえんだよ!?ふざけんじゃねえ!」
マクシミリアンは顔を真っ赤にして怒りの声を上げる。
ルートヴィヒがやろうとしていることは、彼にとって何よりも怒りをかき立てられることだったからだ。
 「何言ってるんだ。ミスをしたのはマクシミリアンだろう?」
「うるせえっ!んなことさせっかよ!?」
カッとなったマクシミリアンは拳銃と共に提げている短めの剣を引き抜くや、ルートヴィヒ目がけて突きかかる。
 「こらっ!何をするんだ!?」
「うるせぇぇぇぇ!!」
ルートヴィヒは体捌きを利用してかわすと、取り押さえにかかる。
組み合ったまま、ルートヴィヒはマクシミリアンの腕を極めにかかる。
関節を決められ、さすがのマクシミリアンも苦痛に剣を取り落とす。
だが、組み合いながら今度は拳銃を引き抜こうとする。
無論、それをルートヴィヒが許すわけも無く、組み合ったまま拳銃も取り上げると、剣共々届かない部屋の片隅のゴミ箱に放り込んでしまった。
 「テメェ!それでも修道騎士か!?」
彼らにとって命同然な拳銃と剣をゴミ箱へ放り込んだルートヴィヒに、マクシミリアンはカッとなる。
 「そんなことより・・・今はこっちの方が先だろう?」
そういうと、ルートヴィヒはマクシミリアンを自身の膝の上に横たえた。
「おいっ!何する気だっ!だあっ!脱がすな痴漢っ!俺にソッチの趣味はねーっっ!!」
裾を捲り上げ、ズボンを降ろしてお尻を出そうとしているルートヴィヒに、マクシミリアンは叫ぶ。
 「俺だってないぞ。だいいち、脱がさなきゃお仕置き出来ないだろう?」
「テメェッ!マジでケツ叩く気かよ!?」
「それはマクシミリアンがよくわかってるだろ?」
苦笑しながらルートヴィヒは言うと、マクシミリアンの身体を押さえつける。
 「冗談じゃねーっっ!!離しやがれーーー!!!」
マクシミリアンは必死に抵抗する。
「やれやれ・・・相変わらずだなぁ・・・」
マクシミリアンの態度にルートヴィヒは苦笑する。
だが、真剣な表情に戻ると、右手を振り上げた。


 パアシィィ~~ンッッッ!!
「く・・!!」
甲高い音と共に痛みがお尻の表面で弾け、思わずマクシミリアンは声を出してしまう。
パンッ!パンパンッ!パンンッ!パンッ!ピシャンッ!
「だあっ!何すんだよっっ!!」
後ろを振り向き、平手が振り下ろされるのを見やると、マクシミリアンが抗議するように叫ぶ。
 「言っただろう?お仕置きだって?聞こえなかったのか?」
そんなマクシミリアンの態度にルートヴィヒは苦笑しつつ、平手を振り下ろす。
「テメェッ!マジでケツ叩きやがる気かよ!?」
信じられない、といった様子でマクシミリアンは叫ぶ。
「それはマクシミリアンがよくわかってるだろう?」
そういいながら、ルートヴィヒはお尻を叩き続ける。
 「うるせえっ!俺はガキじゃねーよっ!何だってケツなんか叩かれなきゃいけねーんだよっ!!離しやがれーーっっっ!!!」
マクシミリアンは必死になって抵抗する。
「やれやれ・・・いつも懲りないなぁ・・・」
マクシミリアンの態度にルートヴィヒは苦笑する。
昔から何かやらかすたびに、ルートヴィヒがマクシミリアンのお尻を叩いてお仕置きして来た。
何度お仕置きされてもこういう態度なものだから、苦笑せずにはいられない。
 パンッ!パンパンッ!パンパンパンッ!
「ちょっ!テメエっ!やめろっ!やめろってーのっっ!!」
お仕置きされているというのに、微塵もそんな感じがない態度で、マクシミリアンは叫ぶ。
 「全く・・・ダメだろう?あんなことしたら・・・」
お尻を叩きながら、ルートヴィヒはお説教を始める。
パンッ!パシンッ!ピシャンッ!パアアンッ!パチィンッ!パアアンッ!
「マクシミリアン・・・。俺達はあくまでも教会やそこの人達を守るためにここにいるんだぞ?」
平手を振り下ろしながら、ルートヴィヒはお説教を続ける。
 「だぁぁ!やめろっ!やめろよこの馬鹿っ!いつまで叩いてんだっ!痛えんだよっっ!!」
お説教には耳を貸さず、マクシミリアンはさらに抗議を続ける。
 「だからお仕置きだって言ってるだろう?それより・・・ちゃんと話を聞いてるのか?」
「うるっせえな!?とっとと降ろせって言ってんだろーがよ!!」
「ちゃんと反省出来たら終わりにするよ。反省してるのか?」
「ああん!?何で反省しなきゃなんねーんだよっっ!!」
マクシミリアンの言葉にルートヴィヒの表情が少し厳しいものになる。
 「マクシミリアン・・・本気で言ってるのか?」
「ああん!?紛らわしいことやってるあの神父が悪いんだろうがっっ!!俺は悪くねーっっっっ!!!」
マクシミリアンは心底から叫ぶ。
 「そうか・・。本気なんだな・・」
「だったらどうだってんだよ!?いい加減に降ろしやがれ!?痛い目見せてやろうか!!」
尻叩きなどという、屈辱的な目に遭わされ、マクシミリアンは怒り心頭で叫ぶ。
 「よくわかったよ・・。それじゃあ、俺ももう容赦はしないからな」
そういうと、ルートヴィヒは足を組む。
おかげで、マクシミリアンは赤く染まったお尻を突き上げる体勢になった。
 ビッダァァァァ~~~~~~ンッッッッッッ!!!!
バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~~~ッッッ!!!!!!
「だぁぁぁあああ!!!!痛ってぇぇぇぇぇ!!!!!」
あまりの痛さにマクシミリアンは両脚をバタつかせる。
 バァンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン~~~!!!
「だぁぁ!やめろっ!やめろってんだろーがぁぁぁぁ!!!!」
必死に叫ぶマクシミリアンだったが、ルートヴィヒは容赦なくお尻を叩き続ける。
打撃音と叫ぶ声が重なり合って部屋にこだました。


 「ひぃ・・・ひぃぃん・・・痛ってぇぇよぉぉ・・・・」
ボロボロと涙をこぼしてマクシミリアンは泣いていた。
お尻は今や濃厚なワインレッドに染め上がっている。
 「も・・もう・・やだぁぁ・・。ケツ・・痛ぇよぉぉぉ・・・」
お尻が痛くてたまらず、プライドも何もかもかなぐり捨ててマクシミリアンは泣きじゃくる。
 「痛いか?痛いよな?」
「あ・・当たり前だろぉぉ・・!!こん・・馬鹿ぁぁぁ・・!!」
泣きじゃくりながらマクシミリアンはそんなことを言いやる。
 「そうだよな。でも、お前に不審者と間違われて殴られた神父だって痛かったんだぞ?いや、下手をすれば大怪我だってしてたかもしれない。警察沙汰にだってなりかねない。そうしたら修道会そのものに大きな迷惑を及ぼすかもしれなかったんだ。わかるか?」
手を一旦止め、言い聞かせるように言うルートヴィヒにマクシミリアンは頷く。
「俺達の肩には命や名誉といった色々と重いものがかかってる。だから・・ちょっとやそっとのミスでも許されない・・わかったか?」
その言葉に再びマクシミリアンが頷くと、ようやくルートヴィヒは完全にお仕置きの手を止めた。


 「だぁぁ!もっと優しくしろってんだよ!!」
「沁みたか?」
思わず心配そうな顔を浮かべたルートヴィヒに、ベッドにうつ伏せになってお尻を出したまま、マクシミリアンは振り返って睨みつける。
 「沁みたかじゃねーよ!?わざとやってんのかよ!!」
「だから悪かったって。機嫌直してくれよ」
「るっせーな!テメェが散々叩きやがったんだろーが!?痛えし恥ずかしいんだからな!!」
(それはマクシミリアンが悪い子だったからだろ・・・)
そう思うが、口には出さない。
 「クッソ・・!!おい!責任取って今日一日俺の面倒見ろよな!そうしなきゃ承知しねえからな!!」
「はいはい。わかったよ」
お仕置きされた身とは思えない態度にルートヴィヒは苦笑する。
だが、そんなマクシミリアンに愛しさの籠った視線を向けて、手当てを続けていた。


 ―完―

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