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女悪魔ルクレティア・バルツィーニ3 月の廊下事件



  「「「お誕生日、おめでとうございます!千秋万歳!」」」
広間全体に響き渡る大きな声と共に、魔物たちが一斉に杯を掲げた。
最奥の高座に設えられたテーブルでは、チェーザレが返杯するように杯を掲げて妖怪たちの祝福を受けている。
ここはイタリア北部の某地にあるチェーザレの城の大広間。
主君の誕生日を祝うため、バルツィーニ家の各所領から家来である小領主たちや代官たちが大広間に会し、祝杯をあげているのであった。
 「ご主人様、お代わりをどうぞ」
「すまないな」
チェーザレはそういうと、執事にワインのお代わりを注がせる。
杯を傾けると満足げな表情を浮かべた。
「うむ・・中々いいワインだな・・」
「はい。お嬢様がわざわざ特注でお取り寄せになったものだそうです」
「なるほど・・あの子らしいな・・。ところで・・ルクレティアはどこに行ったのかね?」
いぶかしげに、チェーザレは自分たちのテーブルの片端を見やる。
ルクレティアがいつの間にかいなくなっていたからだ。
「お嬢様ですが、いささか飲みすぎてしまわれたらしく、酔いを醒まして来ると、ニエマンス殿と一緒に出てゆかれました」
「そうか。それじゃあそのうち戻ってくるだろう」
そういうと、チェーザレは再び宴会に戻った。
 
 「大丈夫ですか?お嬢様?」
女主人を肩で支えながら、ニエマンスは広く大きな廊下を歩いていた。
「らい・・じょうぶらってぇ・・・離しな・・さぁい・・よぉ・・」
ルクレティアはかなり飲んでいるのか、顔は真っ赤に染まり呂律もどこか怪しくなっている。
足取りもどこか覚束ない様子だった。
「お言葉ですが・・その足取りではちょっと・・・」
お茶を濁すような言い方でニエマンスはルクレティアに進言する。
途端に、女悪魔の表情が険悪なものになった。
「ちょっとお!アラシが・・飲んだくれだってのぉ!!」
酔いのためかルクレティアはすぐに不機嫌になる。
それどころかニエマンスにやたら絡み出した。
「いえ・・決してそんな・・」
「もういいわ!あんたの顔なんか今日は見たくないわ!とっとと広間にでも戻りなさい!」
「し・・しかし・・」
「つべこべ言わずにいう通りにしなさい!家来のくせに!」
こうも激昂してしまってはさすがになだめるのは無理だった。
やむなくニエマンスは主人の怒りを鎮める為に下がる。
自分の視界から家臣が消えるのを確認すると、ルクレティアは千鳥足で歩き出した。

 「これが月の廊下か・・・。いや見事なものだなぁ・・・」
長く広い廊下を歩きながら、その男は感心した表情を浮かべていた。
男は人間の身体に狼の頭を持っている。
人狼、いわゆる狼男だ。
 狼男は廊下を歩きながら感嘆の声を上げている。
廊下の片側の壁に、月と月光の下で宴を繰り広げる悪魔や魔女たちの姿が見事な絵筆で描かれているからだ。
この廊下は月の廊下と呼ばれる廊下で、全長は60メートルにも及び、廊下の壁面に描かれた絵はバルツィーニ家の自慢ともなっているものであった。
狼男は見事な壁画に見とれていたために、正面から誰かがヨロヨロと歩いてくるのに気がつかなかった。
 ドンッ!
突然、狼男は何かにぶつかった気付いた。
何だと思ってぶつかったものを見てみると、女悪魔だった。
女悪魔はベロンベロンに酔っ払っている。
(何だ・・酔っ払いか・・)
狼男はぶつかられて一瞬ムッとしたが酔っ払いなら仕方ないと思い直したのか、そのまま過ぎ去ろうとする。
「ちょっとぉ・・待ちなさいよ!」
去ろうとする狼男に対し、ルクレティアが酔った声で話しかけて来た。
「何だ?」
「何だじゃないわよぉ!人にぶつかってきておいて謝りもしない気!?」
「何を言う。ぶつかってきたのはそっちだろうが。そっちが謝るのが筋だろう」
「何ですって。よくも私にそんなこと言えたわね。コスプレオタクの分際で!」
酔いとプライドのなせる業か、ルクレティアは狼男にそんな言葉を投げつけた。
 「コスプレオタクだと!!貴様言葉を慎め!」
思わず狼男は声を荒げる。
「オタクだからオタクって言ったのよ。コスプレオタじゃなければ何よその格好は?」
ルクレティアは狼男の衣服を指さすと嘲笑の笑みを浮かべてみせる。
酔ったせいとはいえ、ルクレティアが狼男の格好をコスプレと馬鹿にするのは無理も無かった。
というのも、その狼男は新撰組の制服にそっくりな浅葱色の羽織を着ていたからである。
ルクレティアは以前人間の街でたまたま日本のマンガを見たことがあり、そのときに新撰組の制服を見かけたことがあったため、コスプレと侮辱したのだ。
「こ・・これは・・我らミブ族の・・正装だ・・・」
怒りをこらえつつ狼男は返答する。
このコスプレまがいの羽織は彼の部族の正装だった。
実は彼の部族の祖先は五稜郭の戦いの後にフランスの軍人と共にヨーロッパへ逃れて帰化した元新撰組隊士だったからである。
フランスに帰化して後に地元の狼男に噛まれたことにより狼人間となったため、人狼の社会に入り、剣の腕を武器に勢力を拡大して自分の部族を作り上げた。
祖先は新撰組に誇りと愛着を持っていたため、新撰組の羽織を部族の正装と定めたのである。
蛇足だが部族の旗は四隅に山形模様が入った白地に「誠」の一文字である。
「あはははははは!そんなコスプレが正装なんておかしいわね!ははははは!」
ルクレティアは徹底的に馬鹿にするように大笑いする。
酔いが彼女の嘲笑にさらなる勢いをつけていた。
 (ぶ・・部族の誇りを・・侮辱しおって!!許せん!!)
もはやその狼男は怒りに我を忘れてしまっていた。
ルクレティアが気付いたときには狼男が腰に差している小脇差が一閃し、ルクレティアの腕に切りつけていた。
「あっ・・・」
ルクレティアはかすり傷とはいえ、右前腕部に切りつけられたことに気がつく。
「キャ――――!!」
思わぬ事態にルクレティアは悲鳴を上げる。
だが、その直後、悲鳴を上げてしまったことに対する屈辱感とそれへの怒りがむらむらと起こってきた。
「げ・・下賎な犬のくせに、よくも私に切りつけて・・しかも恥までかかせたわね!」
「貴様こそ、我らの誇りを踏みにじりおって・・・これでもか!これでもか!これでもか!」
激怒した狼男は急所目がけて脇差で突きまくる。
ルクレティアも魔法でレイピア(フェンシング用の剣)を出すや、お返しとばかりに突きまくる。
刃と刃がぶつかり合い、火花と共に甲高い金属音をあたりに響かせる。
音が響いたためか警備の者たちや酔い覚ましに外を歩いていた他の客たちも廊下に集まってきた。
彼らは廊下で起こっていることを見るや、ギョッとする。
「やめろ!馬鹿!殿中だぞ!!」
刃物を持った男と同じ格好をした仲間らしき狼男たちが、必死に取り押さえる。
「離してくれ~~!この馬鹿女を斬らせてくれ~~~!!!」
「お嬢様!何やってらっしゃるんですか!」
ニエマンスは急いで駆けつけると、ルクレティアを背後から取り押さえる。
「離しなさい!この無礼者を手討ちにするのよ!」
「落ち着いて下さい~~。殿中なんですから~~~」
「とにかく二人を別々の部屋に連れてゆくんだ!」
二人の関係者や警備兵たちはようやくのことで二人を取り押さえると、興奮している二人を引き離してそれぞれ別の部屋へ連れて行った。

 「全く・・・腹が立つったらありゃしないわ・・あの狼男!」
あの後、酔いがさめたルクレティアは自分を斬ろうとした狼男に憤慨していた。
どうやら自分が侮辱したことや剣を抜いて斬りあったことは忘れてしまっているようである。
彼女にしてみれば、あんなコスプレ男がおこがましくも自分に斬りつけたことや、怯えた小娘のように悲鳴を上げるという恥ずかしい姿をさらさせたことが許せなかったのである。
「まぁまぁ・・お嬢様・・落ち着いて下さい」
傷の手当をしながらニエマンスは女主人を宥めにかかる。
「落ち着けるわけないでしょう!見なさいよ、この傷!」
「まあかすり傷程度ですし・・・」
「何言っているの!私の肌にあんな下賎な男が傷をつけたのよ!あっ・・痛っ!もうちょっと優しくしなさいよ!」
ニエマンスが塗った消毒液が染みたのか、ルクレティアは思わず文句をつけた。
 不意に壁にぶち当たってしまうくらいの勢いで扉が開いたかと思うと、チェーザレが飛び込むように部屋へ入ってきた。
チェーザレの表情は青ざめている。
「ルクレティア!」
チェーザレは叫んだかと思うと妹にあっという間に歩み寄る。
彼は妹のそばに来たかと思うとがっしりと抱きしめた。
「大丈夫か?どこに怪我したんだ!?」
震える声で尋ねる。
騒ぎを聞きつけるや、急いで部屋に直行してきたのだ。
「ここよ~、兄さ~ん。痛いのぉ~~~」
ルクレティアは怪我したところを見せるや、ここぞとばかりに甘えかかる。
「かすり傷程度で済んだのか・・よかった・・・」
チェーザレは妹の怪我が大したことでないことにホッとする。
「よくないわよ!あの馬鹿狼、私に斬り付けたのよ!ねえ兄さん~~。破門にしてよ、あんな奴ら~~」
ルクレティアはあらん限りの猫なで声で、兄に仕返しの願いを持ちかける。
だが、チェーザレは表情を改めて真剣な様相になると妹と向き合った。
 「それはちょっとお門違いじゃないか?」
「な・・何よそれ~。私が切られて悔しくないの~~。私が可愛くないの~~?」
「何を言っているんだ。お前は誰よりも大事な・・私の宝物だよ」
チェーザレは優しく語りかけると、妹の頭を撫でる。
「えへへ・・兄さん大好き・・」
女悪魔は年齢に似合わない無邪気な笑顔を浮かべると、兄の腕に抱きつき、頬を擦り付けて甘えかかる。
「だが・・お前が悪いことをしたときや・・自分勝手なことをしたときは・・容赦なく怒るよ・・お前が大事だから・・厳しくするんだよ・・・」
「え・・?」
ルクレティアは風向きが変わってきたことに気付く。
兄にひっついて甘えていたいが、離れないとまずいことになると本能が告げていた。
 「ルクレティア・・他人の格好を笑いものにするのはいいことか?」
「そ・・それは・・・」
「おまけに・・剣を出して斬りあったそうだね?」
「だ・・だってあいつが・・・」
「お前が斬りつけられる様なことをしたからじゃないか。それに家の中で刃物を振り回すのはいいことかい?」
「そ・・それは・・・」
ルクレティアは答えられずに、オズオズと兄から離れようとする。
だが、チェーザレは妹の手首をがっしりと捕らえてしまう。
「どうやら・・自分が悪いことをしたという自覚はあるようだね・・だったら・・覚悟しなさい」
そういうや、チェーザレは思い切りルクレティアの腕を引っ張った。

 「嫌あああ~~~~~~~~!!!!!」
膝の上に横たえられてしまったルクレティアは必死の様相で抵抗する。
チェーザレはその抵抗に構わず、妹が着ているコートを捲り上げてパンツを下す。
白く肉付きのいい綺麗なお尻が姿を現すと、チェーザレは手に息を吐きかける。
 パアアアンンッッッ!
「きゃあ・・・・・いっ・・いったぁ~~いっっ!!」
思い切りお尻を叩かれ、女悪魔は声を上げる。
パアアアンン!パシィィィ!ピシャアアアンン!
「きゃああ!やああぁぁ!兄さん痛いわよぉ!」
「痛いのは当たり前!お仕置きなんだから!反省しなさい!」
バアチィーンン!バシィィンン!パッチィィィンン!
「だ・・だって・・あいつが変な・・格好・・してるのが・・」
ルクレティアは叩かれながら言い訳しようとする。
どうやら自分の非を素直に認めたくないらしい。
「言い訳するんじゃない!
パアアアンン!
「きゃひぃぃんん!」
思い切り強烈な一撃をお尻にくれてやると、ルクレティアは甲高い悲鳴を上げる。
パアアアン!バチィン!パアンッ!バッシィンッ!
「やあああ!痛あっ!やあっ!痛ぁいっ!」
「人を・・思い切り・・侮辱して・・」
バッチィンッ!バアシィーン!バアアーーーンッッ!
「やあっ!痛いっ!やああ~~~。もう、痛いってばぁ~~~!」
「さらに手を出されたからって・・逆ギレして・・斬り合いなんかやらかして!」
バアアアン!バシィィィン!ビシャアアアンン!
「やあっ!やだあっ!も、もう終わり~~~~!!」
ルクレティアはそういうと、兄の膝から抜け出そうとする。
「もう終わりじゃないだろう!こういうときは何て言うんだ?」
お尻を叩きながら、チェーザレは妹に尋ねる。
「やだ・・・?」

 「はぃ?」
チェーザレは思わず素っ頓狂な声を上げる。
「ル~クレティア~?悪いことをしたら何て言うんだ?」
聞き間違いかと思い、再度チェーザレは尋ねた。
「だ・・だって・・私悪くないもん!先に斬り付けて来たのは向こうじゃないのう!私ばっかり怒られるなんて不公平よぉ!!」
ルクレティアは憤慨した表情で言う。
チェーザレはため息をついた。
確かに先に斬り付けて来たのは向こうだ。
だが、そうさせたのはルクレティアが侮辱によって彼らミブ族のタブーを侵したからだ。
他人からはいかに馬鹿馬鹿しく見えたりしても、タブーというものはその種族にとっては何よりも神聖で犯すべからざるもの。
それを侮辱するということは喧嘩を売っているのと同じなのだ。
斬り殺されても本来ならば文句は言えないのである。
実際、チェーザレは自分の家臣たちに対し、他種族のタブーを侵すことやそれらを侮辱することを厳しく禁じていた。
家臣間での揉め事を防ぐためだ。
(それを・・こともあろうに・・・)
自分の妹が破ったのだから、チェーザレが呆れたようなため息をつくのも無理は無かった。

 「そう・・全く反省していないのがよくわかったよ・・それなら・・」
チェーザレが膝を組むとルクレティアのお腹が押し上げられ、天に向かってお尻を突き出した体勢となる。
「いやっ・・兄さんこれ・・やあっ!」
女悪魔は真っ青な表情になると必死でかぶりを振るう。
この体勢だととてつもなくお尻が痛いことを知っているからだ。
 バアアアアアシィィィィンンンン!
「$#&%#&%~~~~~~!!!!!!」
いきなり強烈な平手打ちが振ってきた。
ルクレティアはあまりの激痛に声が声にならない。
バアアアアンンン!ビシャアアアアンンンン!
「おぎゃああんん!ひぃひぃんんんん!」
「たっぷり泣いて反省しなさい!!」
心底からの怒りがこもった声で言い放つとチェーザレは容赦なく平手を投下してゆく。
バアアアアンン!バッチィィンンン!
「やぁぁぁぁ!ごめんなさぁいっ!」
バアシィィン!ビシャアアアアンンン!
「ごめえぇんなぁさぁあいっ!ごめんなさぁいっ!」
ルクレティアはあまりの苦痛に必死でごめんなさいを連呼する。
「兄さんごめんなさぁあああいいい!私が悪かったから~~!許して~~!お尻壊れちゃう~~~!!」
外聞も構わず、アンアン泣き喚きながらルクレティアは許しを請う。
お尻はもはや限界で、色も赤どころか青を通り越して黒っぽくなっていた。
「本当に・・反省したのかい?」
兄の言葉に女悪魔は涙で顔をグショグショに濡らしながら頷く。
「じゃあ、何が悪かったんだい?」
パアアアン!
「ひ・・人の格好を・・笑いものに・・した・・」
バシィィンン!
「それから?」
「逆・・ギレ・・して・・喧嘩した・・」
パシィィンン!
「あとは?」
「ふ・・ふえっ・・わ・・わかんないっ・・」
パアシィィィンン!
「やあっ!も・・う・・やだあっ!」
「やだじゃない!私がどれだけ心配したか、わかってるのかい?」
「し・・心配・・?」
ルクレティアはキョトンとした表情を浮かべる。
どうやら思いもよらなかったらしい。
 「お前が・・斬りつけられたって聞いてどれだけ私が心配したかわかっているのか?大怪我したんじゃないかとか・・それに・・お前が『フォワ事件』みたいなことになるんじゃないかと思ったんだよ・・」
「フォ・・フォワ事件・・」
その言葉を聞くなり、ルクレティアの表情が青ざめた。
 フォワ事件とは、ルクレティアが幼い頃に起こった事件だ。
その事件は、北部フランスに住む悪魔族の有力者フォワ家に起こった事件だ。
その家の新しい当主就任式の日に傘下の狼男の部族長が挨拶に来たのだが、やはり妙な格好をしていたためにその当主から侮辱を受けたのだ。
その部族は誇りを傷つけられたことに激怒して主従関係を解消したばかりでなく、フォワ家にそのツケをとてつもない方法で払わせた。
何と侮辱した当人であるフォワ家に討ち入ったのである。
部族中から選ばれた族長を含む47人の精鋭中の精鋭が雪が降る真夜中、フォワ家本邸を襲撃、当主や主要幹部全員を討ち取ったのである。
この事件に当時の悪魔族たちは震撼した。
被害者のフォワ家といったら、相当な勢力を誇っていたからだ。
一声かければ一万人以上は軽く動員できるそのフォワ家がわずか47人にやられたのだ。
主要な者たちが悉く討ち取られてしまったため、フォワ家は断絶の憂き目にあった。
そのためその部族の武名と誇り高さは欧州の悪魔族たちに知れ渡ることとなった。
また、それほどの凄まじいものたちであるため、狼人間たちに敵対心が強い者たちでもその部族を刺激しないようにしたのである。
 「そうだよ。お前が侮辱したミブ族こそ、かつてフォワ事件でフォワ家を討ち取った部族なんだよ」
「あ・・あ・・あ・・」
ルクレティアは今さらながら、自分のやらかしたことの重大さに気付いた。
彼女がやったのは、火薬庫にマッチを放り込むにも等しい行為だったのだ。
自分に襲い掛かるかもしれない事態を想像すると、顔色が蒼白になる。
それどころか全身を寒気が襲い、真冬の雪に身体を埋めているような錯覚に襲われた。

「そ・・そんなの・・知らなかった・・ご・・ごめんなさいっ・・心配かけて・・ごめんなさいっ!」
「わかってくれたんだね。よかった・・」
そう言うとチェーザレは手を止め、頭を優しく撫でてやる。
二、三度頭を撫でてやると妹の身体を起こして抱きしめてやる。
「ひっく・・うっえ・・ごめんなさい・・本当に・・ごめんなさい・・・」
ルクレティアは小さな子供のように泣きながら兄に謝る。
「いいんだよ、別に」
「だって・・心配かけたし・・そ・・それに・・兄さんに迷惑かけちゃう・・」
ルクレティアにも、高い闘争心と戦闘力を誇るミブ族が兄の元から離れれば大きな損失であることは簡単に理解できた。
恐らくチェーザレは必死にミブ族をなだめて自分の元に留めようとするだろう。
成功しても兄に大きな迷惑をかけることを仕出かしてしまったことに、さすがに申し訳ない気持ちで一杯なのだ。
「でも、お前はもうこんなことしないって約束出来るだろう?」
「うん・・約束するわ・・」
「ならいいんだよ。確かにミブ族が離反したらそれは痛い。でも、たとえそうなったとしても、お前がいてくれれば私はそれでいいんだよ。お前は・・私のたった一人の妹なんだから。お前が無事でさえいてくれるなら、私は傘下の全部族を無くしてもいいんだよ」
「兄さん・・・」
ルクレティアはそういうと兄の胸に顔を埋めるようにして抱きつく。
チェーザレも強く妹の身体を抱きしめる。
「さあ・・そろそろ私はいかないと。ミブ族の怒りを鎮めないといけないし・・・」
「兄さん・・無事に帰って来てね・・・」
「心配はいらないよ。かわいいお前を一人残すわけにはいかないからね」
「兄さん・・・」
そういうと、チェーザレは部屋を後にした。
ちなみにミブ族との交渉は難航したものの、ミブ族の方も喧嘩の当時、酒に酔っていたらしく、また事を構えるつもりはなかったため、ルクレティアとミブ族との間で手打ち式を行うことに決定した。
 一週間後、バルツィーニ家とは友好関係にある家の当主を立会人として、ルクレティアとミブ族の手打ち式が滞りなく行われ、事態は幸いにも丸く収まることとなった。

 ―完―
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