店長/バイト君 出会いの思い出(非スパ)



 「お疲れ様でした~~~」
閉店の時間を迎えた店内で、仕事を終えたバイトの店員たちの挨拶が響く。
同僚が着替えて店長に挨拶して帰ってゆくかたわら、大輔も制服を脱ぎ、帰る準備をしていた。
着替え終わり、これから沙耶に挨拶して帰ろうとしたときだった。
「あ、大輔くん、ちょっといいかしら?」
「何です、沙耶さん?」
「悪いけど残ってくれない?大輔君に用があるから」
「いいですけど…」
大輔は不審そうな表情を浮かべる。
どういう用があるのか思い浮かばないのだ。
とりあえず、言われた通りに大輔は残ることにした。

 しばらく時間が経つと沙耶が顔を見せた。
「ごめんなさいね、待たせて」
何か言おうとした大輔は、不意に沙耶が両手に何かを手にしているのに気が付いた。
沙耶が持っているのは皿。
皿の上には、ケーキが乗っている。
「あれ…このケーキ…」
大輔は思わずつぶやいた。
覚えがあるケーキだったのだ。
「忘れちゃったのかしら?紫いものモンブランよ」
にっこりと笑った沙耶の姿を見ながら、大輔は思わず声を挙げた。
「あっ…こっ…これっ」
「そうよ。私達の出会いのケーキよ」
同時に、大輔の記憶は高校2年生の頃にまで遡っていた。

 高校二年生の頃のある日…。
もんぷちっくの店内。
「さあ~て。今日はどれにしようかな~~」
大輔はこれ以上ないくらいの笑顔で、メニューを見ていた。
その周りでは男友達全員がウンザリした表情を浮かべている。
「なぁ、大輔、帰っていいか?むなしいって」
「ダメ!」
「何で男だけでケーキ屋に…。毎週毎週飽きない?」
思わず、友人達はげんなりした表情で大輔に尋ねた。
彼らはケーキ大好きな大輔により、毎週一日、必ずこの店でケーキを食べるのにつき合わされていたのである。
「だってここのケーキおいしいんだも~~ん」
「だったら彼女つくって一緒に来いよ…」
「面倒くさいからヤダ!!」
大輔のはっきりした返答に、思わず友人達は頭を抱える。
(そういうと思ったよ…。色気より食い気のお子様だもんな…)

 そのような会話を大輔たちが繰り広げているときだった。
不意に、誰かがケーキを大輔の目の前に置いたのだ。
「あの…まだ、頼んでないよ?」
大輔が言うと、その店員が答えた。
「うちのケーキで食べてないの、後はそれだけでしょ」
「え?何で知って…」
思わず大輔が尋ねると、その店員、沙耶は口を開いた。
「いつもおいしそうに食べてるの、見てたから…」
「え?」
そういうと、沙耶はそのまま奥へ向かう。

 (綺麗な…お姉さんだな…)
大輔は沙耶を見かけたとき、そう思った。
特に、大輔にケーキを出した際に浮かべた嬉しそうな笑みがとても素敵だった。
(あのお姉さんのこともっと知りたいな)
そんな思いが芽生えてきた。

 大輔は出されたケーキを食べてみる。
出されたのは、紫いものモンブラン。
食べてみると、とてもおいしかった。
舌がとろける、という表現しか大輔には思い浮かばなかった。
同時に、大輔はあることを決めた。
(ここのお店でバイトしよう!!)
そうすれば、あのお姉さんに近づける。
(そうと決まったら早速履歴書とか用意しなきゃ!!)

 「そういえば、今日だったですよね」
大輔は紫いものモンブランケーキを食べながら、沙耶に言った。
そう、大輔と沙耶が始めて出会ったのが、今日なのだ。
「そう、だから今日は私達の記念日でしょ。忘れてたの?」
「えへへ、ごめんなさい」
大輔の様子に思わず沙耶は苦笑する。
「いいわ。もっとケーキあるわよ。あ、そうそう。これもあるわ」
そういって沙耶が出したのは、ワイン。
銘柄はシャンベルタン。
あのナポレオン・ボナパルトがこよなく愛したというワインだ。
ちなみに、ブランド名は生産地から来ているらしい。
「えっ。ワイン飲んでいいの?」
大輔は思わず尋ねた。
以前、こっそりワインを飲もうとしたら、沙耶の膝の上で、涙が枯れるくらい、たっぷり反省させられたのだ。
あのときの沙耶の怒った顔と、しばらく椅子に座れないほどだったお尻の痛みは今でも忘れられない。
だから、思わず身構えてしまったのだ。
「今日だけは特別よ。でも、明日からは飲んだりしたらお尻だからね」
「はーい」
返事をすると、大輔は沙耶と二人で、ケーキとワインのささやかなパーティを楽しんだ。

 ―完―
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