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女悪魔ルクレティア・バルツィーニ番外編 闇の邂逅(非スパ)



  「んーっ!んんんーー!」
男はくぐもった声を出しながら必死で首を左右に振る。
男は木に身体を縛りつけられ、口には猿轡をはめられている。
恐怖で表情は凍りつき、ズボンは失禁で濡れていた。
 「やれ・・・」
淡々とした声でボスらしい男は部下たちに命令する。
配下たちは親分の命令を受けると、縛られた男に一斉に銃口を向けた。
 銃口が火を吹くと同時に縛られた男の身体が熱病患者のように激しく痙攣する。
何度も身体が上下に揺れたかと思うとやがてぐったりして、ついにはそれきり動かなくなった。

 「終わったか・・・」
やや離れたところで見届けていた男はそうつぶやいた。
狐を思わせる狡猾げな顔立ちで痩身のこの男は新見錦助(にいみきんすけ)。
水戸に本拠を持つ日本の広域暴力団芹沢組のナンバー2であの新見錦の末裔だ。
「すぐに始末させろ」
彼は部下にそう命じると護衛と共に森を出ようとする。
さっき、新見の手下が殺したのはパリのマフィアの幹部。
芹沢組がフランスで活動するのに邪魔なので神様のところへ行ってもらったわけだ。
芹沢組は海外進出にも積極的で、欧州でも精力的に活動している。
先ほどの行為もその一環だった。

 やるべき仕事を終えた新見が歩きながらタバコを取り出そうとしたときだった。
「なっ・・何だてめえは!ギャアアアア~~~!」
「ちっちきしょううう!ヒゲエエエ~~~!!」
突然後方から手下達の悲鳴が聞えてきた。
(何だ!一体!)
思わず新見は振り返ると、配下たちが虐殺を行った場所を見やる。
すると見知らぬ影が暗闇の中に立っているのに気付いた。
さらには、ミイラのように干からびた姿になって影の周囲に転がっている部下達も。
状況を理解した新見と部下達の行動は素早いものだった。
全員、護身用に持っていた拳銃を懐中から抜き放つや影に向かって集中砲火を浴びせたのだ。
だが、何かが影を覆ったかと思うと、それが弾丸を防いでしまう。
同時に影がゆっくりとこちらに向かって近づいてきた。
 全員、緊張した面持ちで拳銃を構えている。
やがて、暗闇の中から何かが姿を現した。
現れたものを見て、一瞬新見たちは目を疑う。
 姿を見せたのは女。
年は22,3歳頃、この世のものとは思えぬほど美しい白人女性だ。
高慢そうな冷たい顔立ちに腰まで届く美しい赤髪、背はすらりと高くセクシーモデル張りにグラマラスで女豹を思わせるしなやかで引き締まった身体をしている。
最初、見たときは黒く長い革コートの下に黒革製の首輪、露出度の高いブラとTバックパンツ、オーバーニーハイヒールといった出で立ちなため、特殊な商売の女かとヤクザたちは思わず考えた。
だが、こんな場所で商売をするはずがないことにすぐ思い当たり、その考えを捨てる。
 銃を構えて警戒しながら、新見は何か妙なことに気がついた。
女の姿がどこか不自然なのだ。
(何だ・・この違和感は・・・?)
だが、一瞬月明かりが差したときにその違和感の正体を見破る。
月光が女の姿を照らすと、女の頭には黒く艶のある二本の角が生えていることに気付いたのだ。
それだけではない、背中からは大きな黒い翼と逆トゲのついた尻尾まであったのである。
 「あ・・あ・・あんじゃあテメエはあっ!!」
突然現れたおかしな女に我慢出来なくなったのか、新見の護衛役の一人が異様な女目がけて銃を乱射する。
女は軽蔑するような笑みを浮かべると、翼を揺り動かす。
あっという間に翼は女の身体をマントのように包み込み、固くなったかと思うと銃弾を弾いてしまった。
「んなあっ!!」
ヤクザが驚いている間もなく、女は無造作に右手を伸ばし、人差し指で差すようなポーズを取る。
指先から緑の閃光が飛び出したかと思うと、それがヤクザ者に胸に命中した。
「ああああ~~~~~~~!!!!」
悲鳴と共に信じられないことが起こる。
ヤクザの身体が服ごと灰色に染まってゆき、ついには石の彫像と化してしまったのだ。
他の護衛役は信じられない出来事に愕然としている。
だが、怒りと恐怖がない交ぜとなった表情を浮かべると狂ったように女目がけて拳銃を撃ち捲る。
女は弾幕をすいすいと潜り抜けるように進むとすれ違うごとにヤクザたちに触れてゆく。
女の手が触れたかと思うと、ヤクザたちの身体はあっという間に腐食し、骨だけになって崩れ落ちてしまった。

 「貴様・・只者じゃないな・・・」
新見は謎の女にそう問いかける。
「フフフ・・・目の前で部下があんな死に方したってのに・・顔色一つ変えないのね・・いいわ・・素晴らしい度胸ね・・・」
新見は相手にせずに銃でじっと狙いをつける。
「極道に手を出して・・只で済むと思ってるんじゃないだろうな?」
新見はじわりと殺気を身体から立ち昇らせる。
たちまちあたりの空気が変わった。
まるで、極寒の地にでもいるような冷え冷えとした、心の奥底まで凍りつきそうな雰囲気が新見を中心に周りへ広がってゆく。
その殺気を認めるや、女は満足したような笑みを浮かべる。
「やはり私の目に狂いはなかったわ・・極上の悪の魂・・・気に入ったわ・・私の下僕にしてあげるわ」
そういうと謎の女ことルクレティアは最高の獲物を見つけたハンターさながらの歓喜の表情を浮かべてみせる。
 ルクレティアがこの森にやって来た理由は新見の魂を手に入れるためだった。
悪魔族の重要な仕事の一つに人間の魂を手に入れることがある。
魂にも色々とランクがあるのだが、その中で最も尊ばれるものが二つある。
一つは偉大な聖者の魂。
神に守られた聖者の魂を奪うことは難しく、またそれらの聖者の魂を取り込めばその悪魔は魔力を格段に強めることが出来る。
最も、相当の実力者でなければ飲んだ途端に自分が消滅するが。
もう一つはとてつもない悪人の魂。
邪悪さ・力量共にすぐれた悪党は悪魔にとって、優秀な下僕になるのである。
そのため、優れた人材を得ようと、大悪人の魂を求めて悪魔達は時々人間の居住地に降りるのだ。
ルクレティアはパリに人間のふりをして住んでいる下級悪魔の連絡で、最近芹沢組がパリで暗躍を繰り広げていること、そしてその指揮を取る新見錦助が最高クラスの悪の魂を持つ者であることを知り、彼の魂を奪いに来たというわけである。
 「何をゴチャゴチャとわからんことを!!死ねっっ!!」
新見はルクレティアの心臓目がけて銃弾を浴びせかけようとする。
だが、引き金を引こうとした瞬間、ルクレティアの姿が消える。
直後、新見は背中に凄まじい衝撃を感じて、数m前方に吹っ飛ばされる。
危うく木に叩きつけられそうになるも、新見は巧みに受身を取って着地する。
だが、吹っ飛ばされた衝撃で銃をどこかへ取り落としてしまった。
 新見は振り返ると、ルクレティアに対して拳を構える。
相手が自分を殺すつもりなのは明白だったからだ。
「ウフフ・・人間の分際で悪魔に歯向かうつもりかしら・・なら・・最高の絶望と恐怖を味あわせてあげるわ・・・」
ルクレティアは高慢な笑みを浮かべると、新見と対峙した。

 ルクレティアは拳を構えた新見をじっと見つめる。
その顔は高慢そのもので、まるで人が動物園の猿を見ているような、蔑みに満ちた目であった。
(フフフ・・下等生物がどこまでやれるかしら?)
ルクレティアは適度にあしらい、相手に徹底的な実力差を見せ付け、恐怖と絶望を味あわせてから殺すつもりなのだ。
だが、彼女の予想は大いに裏切られることになった。
新見はジリジリと、間合いを計りながら接近してくる。
最初はまるで亀のように、それこそ待ち構えているこっちの方がイライラしそうなくらいの動きでにじり寄ってくる。
だが、不意に新見の姿がルクレティアの視界から消えた。
次に現れたと思ったときには、新見の顔が女悪魔の目前にまで迫っていた。
 「しゃらああっっっ!!!!」
新見は踏み込むと同時に左貫手を繰り出した。
残像のせいで5つの手が繰り出されたように見えた。
「くっ!」
とっさにルクレティアは後ろに引いて逃れようとする。
だが、新見は逃がさんとばかりに追いすがってきた。
とっさにルクレティアは背中の翼を変化させる。
羽は巨大な鎌状の刃物に姿を変えると左右から新見の胴に襲い掛かる。
だが、新見は飛び上がってそれをかわしてしまう。
宙に飛ぶと同時に新見は急降下してルクレティアの懐に飛び込んだ。
飛び込むと同時に新見は視界から掻き消えるほどの速さで両腕を薙ぎ払う。
その打撃でルクレティアは吹っ飛ばされた。
 ルクレティアは両翼を羽ばたかせて体勢を立て直し、着地する。
同時に女悪魔は自分の腹を見やる。
ルクレティアの腹にはみぞおちのあたりに一筋の赤い筋がついていた。
高速の手刀で斬られたのだ。
(に・・人間なんかに傷を!!)
下等生物とみなしている輩に傷を追わされたことに、彼女のプライドはいたく傷つけられた。
同時に目の前のヤクザ者に猛烈な怒りと殺意がマグマのように湧き上がってくる。
(ゆ・・許さないわ・・私の誇りを傷つけた罪・・たっぷりと贖わせてやるわ・・)

 (あの女・・・本気になりおったな!)
新見はルクレティアの様子が変わったことを察知する。
最初はこちらを完全に馬鹿にした表情を見せていたが、傷をつけられたことが女を一変させた。
今や、全身からとてつもない殺気を噴き出している。
新見は足元から、ルクレティアの殺気が腹の辺りに這い登ってきているのをヒシヒシと感じていた。
ふと、新見はルクレティアが異様な言葉で何かを唱えていることに気付く。
同時に足元に異様な気配を感じ取った。
とっさに新見はその場から飛び退く。
直後、地面から錐のように鋭い大きな岩の柱が飛び出した。
新見は思わず冷や汗をかく。
一瞬でも反応が遅れていたら串刺しになるところだった。
だが、息をつく暇は無かった。
ルクレティアはその隙に両翼を羽ばたかせて宙をホバリングしている。
ホバリングしながら、ルクレティアは魔法で剣を手から出す。
細身の真っ直ぐな剣を取り出すと、ルクレティアは呪文を唱えて空中へ放り投げる。
剣は空中で光に包まれた後、停止する。
止まったかと思うと、今度はそれが十に二十にも増え、新見目がけて一斉に降りかかった。
新見は木々の間を全速力で駆け抜ける。
新見の左右や背後を頭上から剣がロケット弾のごとき勢いで降り注ぐ。
針を縫うように木々の間をぐるぐると走り回り、巧みに木を盾にして剣を全てかわしたが、体のあちこちを剣でかすめ斬られてしまう。
剣を避けながら、新見は空中に剣と異なる気配を察知した。
とっさに身体を伏せる。
すると空中からムササビのように滑空してきたルクレティアが炎をまとった剣で斬りつけてきたのだ。
 ルクレティアは外したことに気付くと残念そうな表情を浮かべる。
(大した・・・女だ・・・こうなったら・・やむを得ん・・・)
新見は突然、既に切り刻まれていた高級スーツの襟に両手をかけると、ワイシャツごと惜しげもなくビリビリと破いて脱ぎ捨てた。
痩身ながらも、見事なまでに鍛え上げられた新見の上半身が露になる。
「ただのコスプレ女だか・・本物のバケモノが知らんが・・極道者に手を出したことを後悔させてやる」
新見は凄まじい笑みを浮かべると、両腕を広げ、囲い込むようなポーズを取る。
そして、人差し指を伸ばすとやや内側に両手を向けた。
同時に、全身から殺気を惜しげもなく解放する。
殺気を解放するや、新見は全身の血管が熱くなったような感覚を覚える。
新見の血筋が高ぶるにつれ、だんだんと背中に何かが現れだした。
現れたのは刺青(いれずみ)。
燃え盛る炎を背景に、巨大な毒蠍が獲物を捕らえ、尾の毒針で止めを刺している姿だ。

 ルクレティアは向こうもまた、本気になったことを悟った。
男の身体からは底冷えのする殺意がヒシヒシと伝わってくる。
男は両手の人差し指に闘気を集中する。
新見は闘気に両手を完全に包むと、地面を蹴って突進した。
(速いわ!!)
最初のダッシュとは比べ物にならないスピードだった。
ルクレティアの目には残像すら捕らえられない、それどころか目にも映ってもいなかったほどなのだから。
一気に間合いを詰めるや、新見は短く息を吐く。
「ハアァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!」
気迫と共に新見の両肘が後ろへ下がる。
次の瞬間、百を越えると思われるほどの指突がルクレティアの全身に襲い掛かった。
腕といわず肩といわず胸といわず、全身のありとあらゆる箇所に指突が突き刺さる。
数秒後、女悪魔の身体は数m後方へ吹っ飛んでいた。
 「ぐうっ・・はあっ・・」
ルクレティアは全身を襲う苦痛を堪えつつ立ち上がろうとする。
だが、全身が粉々になってしまいそうな苦痛が全身を駆け抜け、地面に崩れ落ちそうになる。
「ふふん・・・誰だか知らんが、俺の『千穴指撃(せんけつしげき)』を受けて無事でいられる者はおらん・・」
新見は嘲笑の笑みを女悪魔に向ける。
「だ・・黙りなさい・・人間なんかの小技に・・きゃああ!!」
ルクレティアは立ち上がろうとするが、そのとき凄まじい激痛に襲われ、のた打ち回る。
「だから言っただろう・・。無事ではいられないって・・」
新見は勝ち誇った笑みを浮かべる。
 彼が使った千穴指撃とは、指先に闘気を集中し、神速の指突を数十発も繰り出してありとあらゆる径穴(ツボ)と呼ばれる人体の急所を打つという技だ。
あらゆるツボをめちゃくちゃに打って人体機能を狂わせ、同時に闘気を敵の体内に注入して気の流れをも乱すことで、それに拍車を駆ける。
喰らった者はこの世のものとは思えぬ激痛にさいなまれ、のた打ち回りながら息絶えるという悪辣極まりない技だった。
 「よ・・よくも・・やってくれたわね・・・」
ルクレティアは脂汗を額に滲ませ、息を荒くしつつも魔法で新見を攻撃しようとする。
だが、それよりも先に新見がルクレティアの右二の腕に指突を打ち込んだ。
「うっっ!!」
骨が折れてしまいそうな苦痛を必死でルクレティアは堪える。
人間ごときにのた打ち回る姿など見せたくなかったからだ。
新見はそれを見るや、拷問でもするかのように、苦痛を与えるツボを次々と突いてゆく。
一突きごとにルクレティアは苦痛を感じるが、必死に耐え抜く。
「中々・・参らんな・・大した女だな・・・」
「馬鹿にするんじゃないわ・・下等生物風情が・・」
ルクレティアは憎悪と軽蔑の籠った目で新見を睨みつける。
「ボロボロのくせに気の強い女だ・・まあいい・・減らず口もここまでだ」
新見はそういうと右腕を後ろに引く。
狙いは心臓。
強烈な貫手を叩きこんで止めを刺そうという腹積もりだ。
「あばよ・・・」
凶悪無残な笑みと共に新見は貫手を繰り出す。
今にも先端が胸に達するかと思ったときだった。

 パンッ!
何かが弾ける音と共に新見がよろめいた。
(今だわっっ!!)
ルクレティアは苦痛を堪えて起き上がると新見の腹に手を押し当てる。
ドオオオオオンンンン!!!
「ごぼおっ!!!」
光弾が新見の腹で爆発し、新見は数m後方の木まで吹っ飛んだ。
新見が叩きつけられると同時に衝撃で幹がへし折れる。
「ぐぶっ・・ふ・・ごぶあっ!!」
新見が起き上がろうとしたところを何者かが頭を蹴飛ばして気絶させる。
新見が気絶したのを確かめると、蹴った相手はルクレティアに近づいていった。
 「お嬢様!ご無事ですか!!」
ニエマンスは心配そうな表情でルクレティアに声をかける。
彼は森の外でお嬢様が新見の魂を取ってくるのを待っていたのだが、中々戻ってこないために心配して駆けつけてきたのだ。
彼は女主人が新見にやられかけているのを見ると即座に銃を打ち込んだのである。
 「遅いわよ!主人を放っておいて何してたのよ!!」
ルクレティアはようやく立ち上がると同時に、忠実な家来に向かって苛立ちと共にそう言い放つ。
人間風情にやられそうになったという事実にプライドを傷つけられており、誰かに当り散らさずにはいられなかったのだ。
「申し訳ありません、お嬢様」
ニエマンスは言い訳もせずに従順に謝る。
「まあいいわ。来ただけでも。帰るわよ」
「はっ。しかし魂はどうなさいます?」
「いらないわよ!こんな下郎のは!!」
ルクレティアは憎々しげな表情を浮かべると、気絶している新見の頭を思い切り蹴っ飛ばした。
こんな嫌味な男は自分の家来になんかしたくない。
ルクレティアは嫌悪感を隠そうともせずに言う。
「わかりました。お嬢様、それでは私に捕まって下さい」
「は?何で私がお前に捕まらなきゃならないのよ」
ルクレティアは何を寝ぼけたことをと言わんばかりの表情で尋ねた。
「失礼ですがお嬢様の身体は相当奴に痛めつけられております。ご無理をなさってはいけません」
冷静な素振りでニエマンスは答える。
確かにそれは否定しようの無い事実だった。
だが、ルクレティアは顔を満面朱に染める。
「じゃあ何?私が人間ごときにやられた傷にヒィヒィ言うとでも思ってるの!」
「いえ・・決してそういう訳では」
ニエマンスは失策をやらかしたことに気付く。
主人のプライドを考えれば、逆に意地を張って無理をしかねなかったからだ。
「馬鹿にするんじゃないわ!私は何とも無いわよ!」
そういうや、ルクレティアは飛び立ってしまった。
「いかん!お嬢様―!!」
ニエマンスは慌てて森の外へ走る。
外に繋いでおいた小型のドラゴンに急いで飛び乗るとルクレティアを追いかけていった。

 (うっ・・き・・きつい・・・わ・・)
両翼を羽ばたかせながら、ルクレティアは全身に脂汗を浮かべ、苦しそうにしていた。
本当はニエマンスの言う通りなのはわかっていた。
彼が心配してくれているのもわかっていた。
だが、下等生物に受けた傷ごときで騒ぐのは彼女のプライドが許さなかったのである。
そのため、意地を張ってなんとも無いように空を飛んで帰ろうとしたのである。
だが、内臓や筋肉が苦痛を訴える。
翼を動かそうにも痛くて、苦しくて力が入らない。
(あっ・・も・・もう無理っ・・)
ルクレティアがそう思った瞬間、翼が動かなくなる。
同時に、猛烈なスピードで地面に向かって急降下していった。
あと僅かというところで地面に叩きつけられるというところで、大きな影がルクレティアを救い上げる。
 (な・・何・・?)
ルクレティアは自分が小型のドラゴンの背中に乗っていることに気がついた。
同時に自分の目の前にニエマンスの背中があることも。
ニエマンスが急いで追いかけ、危ういところで救ったのだ。
「二・・ニエマンス・・?」
「全く・・冷や冷やしましたよ・・・」
「そ・・そう・・・」
「お嬢様?今度こそ素直に乗って行って下さいますね?」
ニエマンスは心配げに、だが有無を言わせない調子で尋ねる。
「わかったわよ・・お前の望みどおりにしてあげるわ・・」
「その言葉を聞いて・・安心致しました・・・」
ニエマンスはほっとした表情を見せると、女主人を載せて館に向かって飛んでいった。

 同じ頃、森の中では一旦気絶した新見が頭を押さえながら立ち上がっていた。
(クソッ!俺としたことが・・・)
新見は思わず自身を罵る。
妙な女に部下を悉くやられ、自身も敗北したとあっては極道としての面子が立たなかった。
(どこの女だか知らぬが・・この借りは必ず返してやるぞ!!)
新見は一人、ルクレティアに対して復讐の念を燃え上がらせる。
(しかし・・あの女・・何者だ?あれは人間の気とは違っていたぞ?)
復讐の念を燃え上がらせながらも、新見はある疑問を抱かずにはいられなかった。
気の性質というものは一人一人違う。
だが、人間である限り必ず共通する部分がある。
ヤクザとはいえしっかりと武術を学んでいたため、新見は気というものの性質をよく知っており、そこからルクレティアの気が人間と異なっていることに気付いたのである。
(まあいい・・ただのコスプレ女だろうがバケモノだろうが、見つけ出してたっぷりと礼をしてやるだけだ・・・)
新見は全身の痛みを堪えながら、森の出口に向かって歩いてゆく。
しかし、さすがの新見もあまりのダメージの蓄積にヨロヨロとしたどこか頼りない歩みだった。
だからこそ、何かの気配を感じても行動を起こすことも出来なかった。
 「ごおっ!!」
新見は右脇腹に緑色の光線を浴びる。
直後、新見は再度気絶した。
新見が気絶するや、茂みから数人の悪魔が姿を現す。
「うまくいったな」
「はい。あとは奴に偽の記憶を植え付けるだけです」
「それと死体の偽装工作もだろう。やれやれ・・・」
そういうと悪魔達はため息をつく。
彼らは悪魔連盟という、悪魔界の国連のような組織の職員で、悪魔を目撃した人間に対処する仕事を行う課の者たちだった。
悪魔の存在が人間にバレルと色々と不都合なことが生じるため、悪魔を目撃した人間を察知するや、すぐにも出動し、記憶操作をはじめとする証拠隠滅のための作業を行うのである。
 「こいつに・・見られたの・・確かバルツィーニ家の姫さんじゃねえか?」
「となるとあとでバルツィーニ家に注意状送るわけか・・・」
「名門バルツィーニ家の妹姫、悪魔連盟からの注意状を受けるか・・・名門も大変だよなぁ・・・」
「まあ、俺たち平にとっちゃあ面白い新聞ネタが出来るけどなぁ・・」
「おい!無駄口叩いてるんじゃねえ!さっさと死体に細工しろ!人間同士の抗争に見せかけるんだ!このヤクザにも敵に襲われて戦った記憶植えつけるんだ!」
「へえ~い」

  ―完―

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