野上主任研究員の大失敗2 火災報知器


 
 「あれぇ・・・・。主任どこ行ったのかなぁ」
困ったという表情を浮かべながら、華奢な身体に童顔の、白衣姿の若者が書類の束を抱えながら廊下を歩いていた。
彼の名は会津久也。
ここ土方製薬の研究所で研究員助手を勤めていた。
久也が左右を見回しながら歩いていると、やがて給湯室のあたりへやって来た。
すると、久也は入り口あたりに、数人程度の小さな人だかりが出来ていることに気付く。
(何だろう?)
気になった久也は人だかりの後ろから、中を覗く。
中を見るや、彼は思わず抱えている書類を落としそうになった。

 「た、助けてえ・・・・」
給湯室の中では、一人の人物がそう声を上げていた。
声を出しているのは、20代後半の青い髪と目をした美青年。
野上秋成だった。
野上は、全裸姿でシンクタンクに腰を沈め、見事なまでにはまってしまい、抜け出せなくなってしまっていたのである。
「しゅ、主任・・・何してるんですか・・・?」
久也をはじめ、彼の下でチームとして働いているメンバーが集まり、呆れた表情でつぶやく。
「お風呂がないから給湯室を代わりにしようと思ったんだけど・・・は、はまっちゃって。た、助けて・・・・」
全員から盛大なため息が漏れる。
彼らは呆れつつも、シンクタンクから上司を引っ張り出した。

 「いやー、本当に助かったよ~。どうしようと思ってたんだよ~」
間延びした声で、秋成はそういう。
スタッフ達はやれやれといった表情を浮かべている。
「気をつけてくださいよ、主任・・。主任はどこかうっかりおっとりしてるんですから・・
・ ・」
「だ、大丈夫だよぉ」
(本当ですか?)
その場にいる者全員がそう聞きたげな表情だった。
「ふあああ・・・・・」
野上があくびをすると同時に、身体がガクンと揺れる。
「主任・・・また寝てないんですか・・・?」
「あ・・うん・・。でもまだ確認してないのが」
「久也くん、主任、仮眠室に連れてって」
「え~。大丈夫だよぉ」
「いいえ。主任はちゃんと休んでください」
女性研究員の一人がそういうと、久也が野上の手を引っ張って連れてゆく。
野上は名残惜しそうな表情を浮かべるが、久也に連れられて仮眠室へ向かっていった。

 「それじゃあ主任、しばらくしたら起こしに来ますからそれまで寝てて下さいね?」
「徹夜しても大丈夫なのに・・・・」
野上は不満そうに言うが、久也が何とか説得して寝付かせる。
やはり疲れていたのか、仮眠ベッドの上で、すぐに眠りに入った。
 その一時間ほどのち・・・。
「すぴー。すー」
秋成はぐっすりと寝ていた。
だが、ベッドの上ではない。
床の上だ。
ベッドの上で寝返りを打った際、見事なまでに床に転げ落ちていたのである。
だが、それでもぐっすりと寝入っている。
「う・・ん・・・」
不意に、秋成はゴロリと床を一度、転がった。
かと思うと、もう一回転がる。
しばらくすると、今度は数回、転がった。
最後に転がった際に、別の仮眠ベッドに頭をぶつける。
「うわ・・・痛た・・・・」
目を覚ました秋成は寝ぼけなまこで立ち上がる。
目覚めたばかりでボーッとしているせいか、視線も定まらず、足元もふらついている。
秋成は周りを確認しようとあたりを見回すが、そのとき、バランスを崩して倒れてしまった。
「うわっと!」
とっさに壁に手をつき、倒れるのを防ぐ。
秋成はほっとした表情を浮かべるが、自分の手を見て、表情が強張る。
彼の右手は、火災警報器にかかっていた。
しかも、ボタンをしっかりと押してしまっていた。

 ジリリリリリリリリリリリッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
研究所全体に火災警報が鳴り響く。
「うわあっ!火事だ!」
「早く避難しろー!」
あっという間に、所内は騒然とした状況になる。
職員達の姿が廊下に溢れ、一目散に各地の非常口に向かってどっと雪崩のように進んでゆく。
非常口という非常口から、職員がどっと吐き出され、駐車場や中庭にあふれ出した。
しばらくすると、甲高いサイレンと共に、消防車も駆けつけてくる。
警報が鳴ると同時に通報が入ったのである。
消防員たちは車を止めると、ホースを持って接近する。
だが、おかしいことに気がついた。
「おかしいな・・・。火が見えないぞ」
「本当だ。どこが燃えてるんだ?」
消防員も、避難した職員達も、火や煙が全く見えないことにいぶかしむ。
(うわあ~~~~。どうしよどうしよどうしよ~~~~)
秋成は自分がやらかしたことに、慌てふためいていた。
見つかるのが怖くなり、彼は他の職員たちの間にまぎれてこっそり去ろうとする。
だが、不意に誰かとぶつかった。
「あいたっ・・・だ、誰・・・!」
ぶつかった相手の顔を見るなり、野上は驚きそうになった。
目の前にいるのは、35歳くらい、端整で理知的な面立ちで、眼鏡をかけた男性。
ここの所長の山南敬介である。
「しょ・・・所長・・・」
ぎこちない表情で、野上は話しかける。
「野上くん。どちらへ行くんですか?」
山南は微笑を浮かべて尋ねる。
「あ・・・あのその・・・。ちょっと用事を思い出しまして・・・」
何とかごまかそうとする。
対して、山南はじっと見つめてくる。
射るような視線に、思わず秋成はたじろぐ。
「野上くん・・。隠していることがあったら正直に言う方が無難ですよ?」
山南はにっこりと笑いかける。
その一方で、野上の片腕をしっかりと捕まえてしまっていた。
野上と似たような、すらりとした細身の体型だというのに、強い力でがっしりと押さえられてしまっている。
振り切って逃げることは不可能だった。
「はい・・・」
野上は観念したのか、ポツリポツリと話し出した。

 「本当に申し訳ありません!!」
消防員たちに対し、野上秋代は平謝りに謝っていた。
秋成から事情を聞いた山南の連絡を受け、会社から急いで駆けつけたのだ。
「いえ、何事もなかったですからよかったですよ。ただ、これからは気をつけて下さいよ」
「はい・・・本当にすいません」
誤報だと聞いた職員達はざわざわと話し合っている。
「何だ、誤報か。よかった~」
「それにしても誰だよ。ベル押したのは。全く人騒がせだよなぁ」
やがて、消防車も去り、職員達も全員、研究所内へ戻っていった。

 ゴクリ。
廊下を歩きながら、秋成は息を飲み、戦々恐々とした心持ちにあった。
時々、彼はチラリチラリと前方に視線をやる。
そのたびごとに、前を歩く姉の背中が見えた。
姉の背中には、怒りのオーラが漂っている。
それがイヤというほど伝わってきた。
やがて、二人は仮眠室に入った。

 仮眠室に入ると、秋代は秋成と向き合う。
そのこめかみでは、青筋が浮かび上がり、引き攣っている。
「秋成・・・あんたって子は・・またしでかしてくれたわね・・・・」
怒りに震えた声で、秋代は言う。
「だ・・・だだだって・・・」
「だってじゃありません!どれだけ皆に迷惑かけたと思ってるの!!」
「ごめんなさい・・・・」
秋成はシュンとした表情を見せる。
「秋成・・・覚悟は出来てるわね?」
秋代はそういうと、ベッドをポンポンと叩いた。
「やっ!やだっ!姉さん!お尻はやだっ!」
秋成は両手でお尻を隠すや、後ずさる。
「我儘言うんじゃありません!悪いことしたのはお前でしょ!!」
そういうや、秋代は弟の腕を引っ張る。
あっという間に、秋成は仮眠ベッドに、お尻を突き出すようにしてうつ伏せにさせられてしまった。
さらに、白衣を捲り上げられた上、ズボンを降ろされてしまう。
あっという間に、雪のように白いお尻がむき出しになってしまった。
「全く・・・本当に何やってるのよ・・・」
呆れた表情で秋代はつぶやく。
「わざとじゃないってばぁ・・・」
今にも泣きそうな表情で秋成は言う。
「わざとやられたらたまんないわよ!!」
秋代はヒステリックな感じで叱りつける。
「ご・・ごめんなさい・・・」
姉の言葉に、反射的に秋成は謝る。
それを尻目に、秋代は手提げバッグから、何かを取り出した。
取り出したのは、穴あきパドル。
それを見た秋成の表情は青ざめていた。
「ね・・・姉さん・・・。もしかして・・・それで・・・ぶつの?」
恐る恐る、秋成は尋ねる。
「そうよ」
「お・・お願い姉さん・・・せめて・・・手にしてよ・・・」
秋成は哀願するが、容赦なく秋代は跳ね除ける。
「駄目よ。キッツ~イお仕置きじゃなきゃちゃんと反省できないでしょ」
「うう・・・」
「さあ、もっとお尻突き出しなさい!」
秋代の厳しい声と共に、秋成はお尻を突き出した。

 (うっ・・・怖いよぉ・・・)
仮眠ベッドの布団を両手でギュッと握り締めながら、秋成は恐怖におののいていた。
机にうつ伏せになっているので、姉の怒っている表情が見えない。
それだけに、恐ろしかった。
「行くわよ・・・」
静かな声とともに、秋代が手を振り上げる。
パドルが空を切る音が聞えたかと思ったほんの僅かあとだった。
バアアンッ!
肌を打つ音と共に、お尻を衝撃が走った。
「い・・痛っ!」
秋成は布団を握り締め、歯を食いしばって声を漏らす。
バンッ! バシッ! パチンッ! バアンッ!
「ひいっ!・・ぎゃあっ!・・ひゃああっ!・・ああんっ!」
バシッ! パアアンッ! パチィンッ! パーンッ!
「全く・・・この間といい・・・今日といい・・・」
バンッ! バシッ! パアアンッ! バンッ!
「やだっ!・・痛っ!・・ひいいんっ!・・やあっ!」
パーンッ! パアンッ! パチィンッ! ピシャアンッ!
「人騒がせなことばっかりして・・・あんたって子は!」
バアアンッ! バシィンッ! パチーンッ! バシィンッ!
「ごめんなさ~い!姉さんごめんなさ~い!」
秋成は必死でごめんなさいを連呼する。
最初から、秋代は容赦が無かった。
まるでお尻に電撃が走っているかのような、そんな痛みを一打ごとに感じていた。
「謝ればいいってものじゃないでしょ!」
バアアンッ!
ごめんなさいを連呼する弟に、秋代は強烈な一発をくらわせてやる。
あまりの痛みに、秋成は背を仰け反らせる。
「秋成・・・この間言っといたはずよね?今度何かやらかしたら、許さないって」
「そ・・そんなこと言ったって・・・・」
秋成は弁解しようとする。
「そんなことじゃありません!言いつけ守らないで!挙句の果てには皆に迷惑かけて!本っ当に悪い子!悪い子!」
バッシィンッ! ビッタアンッ! バッチィンッ! バシィィンッ!
「ひぎゃあっ!・・あああっ!・・ぎゃひいっ!・・ひいんっ!」
秋代はパドルをそれこそ怒りを込めて、思い切り秋成のお尻に叩きつける。
骨まで響きそうな衝撃が走り、秋成は悲鳴をあげる。
悲鳴をあげながら、秋成は布団をかきむしるように両腕を激しく動かす。
腕を動かしながら、お仕置きからのがれようというのか、ベッドの奥へ這って行こうとする。
だが、秋代は弟の腰を片手でがっしりつかんでしまうと、引き戻す。
「何してるの!逃げるんじゃありません!」
「だ・・だって・・痛いよ・・・」
「当たり前でしょう!お仕置きなんだから!逃げるなんて・・・ちゃんと反省してないようね・・・。もっとお仕置きが必要みたいね・・」
「や・・・やだよぉ・・ね、姉さぁん・・。も、もう反省・・したから」
「黙りなさい。たっぷり反省させてあげます」
そういうや、秋代はパドルを叩きつけた。
「ぎゃひいいんんんっ!!!!」
バンッ! バシッ! ビタアンッ! バアアンッ!
「いやっ!・・いやあっ!・・やだよっ!」
「『やだ』じゃありません!」
その後、一時間に渡って仮眠室には、絶叫と肌を打つ音、叱りつける声などが響き渡った。

 「ぐすっ。ひいんっ。痛いよお」
仮眠ベッドの上では、横にうつ伏せになった秋成が泣いていた。
その顔は涙と鼻水でグシャグシャになり、せっかくの美青年ぶりも台無しであった。
お尻もまた、すごい状態であった。
最初、雪のように白く綺麗だった姿は跡形も無い。
二周り近く大きな腫れ上がり、真っ赤に染まり切ったその姿は、熟れきった巨大なスモモという感じであった。
「秋成・・・反省した?」
弟の傍らでは、椅子に腰掛けた秋代が頭を撫でてやっている。
弟のお尻を叩いていた間の、あの怒りに満ちた様相はどこにもなく、声も表情も優しいものだった。
「ぐすっ・・・。し・・したよぉ・・・。だ・・だから・・もう、叩かないで・・・」
秋成は青い瞳に涙を浮かべて哀願する。
「叩かないわよ。でも、もう皆に迷惑かけることしちゃだめよ。わかってるわね?」
秋代は弟の顔を覗きこむと、念押しするように言う。
「わかったよぉ・・。約束するよぉ・・・」
「ふふふ・・いい子ね。えらいわ」
そういうと、秋代は弟の上体を起こす。
弟の身体を起こすと、優しく抱きしめてやる。
そして、秋成の背中をポンポンと優しく叩き、もう片方の手で頭を撫でてやる。
「ごめんね、秋成。お尻、痛かったでしょう?」
「う・・・うん。でも、大丈夫・・」

 ―完―
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