青狼たちのある日



 試衛市随一の武術道場「誠衛館」。
土方社長の親友近藤勇蔵が館主を勤めるこの道場の一階の練習場から、楽しげな笑い声が聞えて来た。

 笑い声の主は三人の人物。
一人は既に我々にはお馴染みの土方社長。
もう一人は、土方と同じくらいの年で、猛禽を思わせる精悍な表情をした男。彼が、近藤勇蔵(こんどうゆうぞう)である。
残るもう一人は、全く新顔の男だった。

 その男は、年は20代後半といったところで、髪を短めに刈り上げており、右目を黒の眼帯で隠している。
近藤や土方に負けず劣らず無駄なく引き締まった肉体を迷彩服で隠しているが、や襟からちらりと見える胸板には、銃弾の痕がしっかりとついていた。
彼の名は原田左之次(はらださのつぐ)。
彼もまた、新撰グループ幹部の一員であった。

 「それにしても原田、また傷が増えたなあ」
「まあなあ、テロリストどもに鉛玉喰わされるとこだったからよぉ」
原田はけろりとした表情で言い放つ。
彼は、傭兵であった。
新撰グループは製薬業を主産業としているが、実は、もう一つメインにしているビジネスがあった。
それは、傭兵や護衛の派遣である。
原田はその傭兵・護衛派遣部門の隊長といえる存在であった。
彼はしばらく前まで、ネパール政府の依頼を受けて、ネパールに行っており、そこで新撰グループの傭兵達を率いて、テロリストの基地などを潰してきたのである。
なお、土方や近藤も、時として、正体を隠し、一人の兵卒として、原田の指揮の下、傭兵や護衛業に従事することがあった。
これは、それぞれの家に伝わる家訓「男児たるもの武を練り、祖先たる新撰組隊士たちの名を辱めぬこと」に従ってのことである。
彼らは、危険な紛争地帯において、護衛や兵士として時として飛び込み、実戦の中をかいくぐることで、自らの武術の腕を磨いてきたのである。 
だからこそ、彼らは一級の武技を身につけることが出来たのであった。

 「ところで、近藤さんよぉ。久し振りにたちあわねえかい?」
ニヤリと笑いながら、左之次は近藤に言った。
彼らにとって、立会いはお互いの技量を磨きあい、また友好を深める行為であり、何よりの楽しみであった。
「面白いな…。お前がどれだけの腕を上げたか、知りたいからな…。土方、立会いを頼むぞ」
そういうと、二人はそれぞれ、準備に入った。
近藤は、奥で酒の用意をしていた井上源吾郎に刃引き刀を持ってこさせる。
原田は、剣は用意しない。
代りに拳を構える。

 近藤は剣を、原田は拳を構えると、そのままじっとにらみあう。
そのまま、しばし、時が過ぎる。
先に動いたのは、原田だった。
原田は床を蹴って近藤に飛びかかる。
あっという間に、近藤の目前に迫った。
シュッ、という吐息と共に、原田は立て続けにパンチを数発放った。
しかし、近藤、それを見切り、ごくわずかだけ下がってかわす。
原田のパンチをすべてかわすや、近藤は踏み込み、剣で胴を薙ぎ払う。
鈍い音がし、原田の動きが一瞬、止まる。
そこへすかさず、近藤は原田の顔面にパンチを叩き込む。
近藤のパンチで原田は道場の後ろの壁に向かってふっとんだ。
すかさず、近藤は原田を追う。
しかし、原田もさるもの。
ふっとばされながらも、体勢を立て直し、無事着地する。
着地するや、原田は床を蹴って飛び上がり、空中からとび蹴りをくらわした。
カウンターが原田のとび蹴りがもろ近藤に決まり、彼は反対側の壁まで吹っ飛んだ。
近藤が起き上がったところへ、原田が蹴りをくりだして襲い掛かる。
原田の蹴りが近藤の腹をとらえた瞬間、全身が粉々になりそうなほどの衝撃が、近藤の身体を襲った。
その衝撃で思わず近藤はぶっ倒れる。
そこへすかさず、原田が肘打ちで追い討ち。
近藤はとっさに、転がってさけた。

 近藤は痛みをこらえながら立ち上がる。
立ち上がると、近藤は口を開いた。
「原田…。その技…。連衝撃(れんしょうげき)だな……」
「さすが近藤さんだな…。ああ、足でもやれるようになったのさ…」

 連衝撃。
それは、誠衛館に伝わる体術用奥義の一つ。
打撃をくりだし、それが当たるや、わずか75分の1秒の瞬間にすかさず第二撃を叩き込む。
これによって、本来打撃のさいに打った標的が持つ抵抗によって出来る無駄な衝撃がなくなり、完全に衝撃が伝わって石や仏像を破壊するほども威力を生み出す技である。
原田は、以前はこの技を拳でしか繰り出せなかったが、傭兵で腕を磨いたことにより、足でも繰り出せるようになったのであった。

 「なるほど、ならば俺もこの技で迎え撃つしかないな…」
そういうや、近藤は右肩を後ろにひき、左足を前に出して腰を落として中腰となり、右腕を引いて片手で剣を平らにして構え、左手を切っ先にそえるようにして、剣を構えた。
「誠衛館奥義……『突刃(とつじん)』…」
技名をつぶやいたと同時に、近藤は床を蹴った。
ドゴッッ!!
すさまじい音と共に、床が鳴り、近藤に踏まれた場所の床板が衝撃で抜けてしまう。
同時に、砲弾のようなすさまじい勢いで、近藤が原田めがけて突進した。
(速えええっっっっ!!!!!)
原田がそう思った瞬間には、左肩を突かれ、壁めがけて突き飛ばされていた。
激突と共に壁に大穴があき、原田は外の庭へ転がり落ちた。
 原田は立ち上がるも、全身を襲う痛みがかなりひどい。
原田は拳を構えようとするも、苦痛により、身体がいうことを聞かなかった。
「降参だよ、近藤さん。さすがに強えなあ」
「左之、お前もな。腕を上げたよ。突刃を使わなきゃお前はまだまだ戦えたはずだからな…」
そういうと、二人は試合を終える。
二人の傷に応急手当をしたあと、二人は再び土方ともども飲み始めた。

 ―完―
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