「どうしたんだい?キョロキョロしてさ?」
不意にあたりを見回したオオガミに、一緒に歩いていた青年神父が、怪訝な表情を浮かべて尋ねる。
神父は20歳くらい、腰まで届く金髪の持ち主で、明るい感じの整った面立ちをしている。
彼の名はエルヴィン。
オオガミの管轄区域内に教会がある縁で、オオガミと親しい間柄であった。
「いや・・。気のせいのようです。すみません」
「そ、そう?なら、いいんだけどさ」
「それより、早く教会に戻りましょう。これから、用意もありますでしょう?」
「そ、そうだね!皆も待っているし!!」
エルヴィン神父はハッとした表情を浮かべると、買い物袋を抱えて、急ぎ足になる。
オオガミも、買い物袋を抱え、あとへついていった。
「いやぁ、いつもすみませんねぇ。色々とお世話になってしまって」
「いいのです。これも憲兵の職務の内ですから。すみません。巡回がありますので、失礼いたします」
オオガミは敬礼をしながら、神父に言う。
そして、その場を去っていった。
「あれ・・?」
エルヴィンは、何かが落ちていることに気づく。
「これは・・」
拾ったものをエルヴィンはジッと見つめる。
拾ったのは、憲兵隊のマークが入ったボタン。
恐らく、制服から取れてしまったのだろう。
(届けてあげないと!?まだそんな遠くには行ってないはずだし!!)
神父はそう呟くと、ボタンを持って、道路の方へと出る。
すると、少し距離はあるものの、オオガミの後ろ姿を発見する。
思わず、エルヴィンが声をかけようとしたときだった。
突然、オオガミ目がけて、車が突っ込むように走って来る。
気付いたオオガミは、脇へ避けようとする。
だが、車はオオガミに対し、さらに勢いを増して迫って来る。
直後、鈍い音と共に、オオガミの小柄な身体が吹っ飛ばされた。
「!!!???」
目の前で起こった事態に、神父は愕然とする。
思わず声を上げようとするが、あまりの驚きに声が出ない。
その間に、車から目出し帽をかぶった男が降りたかと思うと、呻いているオオガミの頭を、砂を詰めた革製の棍棒で殴りつける。
オオガミが完全に気を失うと、放り込むように、後部座席へと乗せる。
そして、そのまま猛スピードで走り去った。
ようやく神父が我に返ったときには、車は完全に姿を消してしまっていた。
「ぅう・・・・」
オオガミは目を覚ますと、ガンガンと頭が割れるような感覚を覚える。
(この痛みは・・?そうだ!?確か・・・)
オオガミは車にはねられた上、降りて来た男に、棍棒で殴りつけられたことを思い出す。
(つまり・・・私はさらわれた・・誰に・・?何の為に?)
そのことを考えていた、まさにそのときだった。
不意に、扉が開く音が聞こえてきた。
思わずオオガミは顔を上げる。
なお、オオガミはうつ伏せの状態で、台に拘束されている。
「お前は・・・!?」
現れた男の顔を見るなり、思わずオオガミは声を上げる。
「フフ・・覚えていてくれましたか?オオガミ分隊長殿?」
「忘れるものか・・!?そうか・・お前だったか!?ヤッツイオ!?」
オオガミは不快感を込めて、ヤッツイオを見つめる。
ヤッツイオはオオガミの部下の一人だった。
だが、犯罪組織に、金銭と引き換えに、捜査情報を流していた。
その不正がバレ、当然のことながら、懲戒免職となった。
「その台詞・・そっくりお返ししましょう・・・」
ヤッツイオは鞭を舌なめずりしながら、言う。
その目には、憎しみの炎が宿り、キャンプファイヤーのように燃え上がっていた。
「そうか・・・。私への・・復讐か・・!?」
「そうです・・!!ふふふ・・。今から・・あなたに・・この上もなく・・恥ずかしくて、惨めな思いをさせてあげましょう!!」
ヤッツイオはオオガミの背後に回る。
そして、オオガミのズボンに手をかけると、おもむろに引き下ろす。
おかげで、オオガミの小ぶりなお尻があらわになってしまった。
「ふふ・・!!無様ですなぁ。己がクビにした男の前で、こんな恥ずかしい格好とはねぇ」
元部下の嘲笑に、オオガミは顔を赤らめる。
だが、言い返したりはしない。
ヤッツイオを喜ばせるような真似はしない。
そう考えているからだ。
「さてと・・。では・・ショータイムと行きましょう!!」
ヤッツイオはそう言うと、鞭を振り上げる。
そして、オオガミのお尻目がけ、振り下ろした。
バッシィーンッッ!!
「・・・!!」
鞭の強烈な打撃が、オオガミのお尻に叩きつけられる。
思わずオオガミは、苦痛に顔を歪める。
同時に、声を押し殺す。
ヤッツイオなどに、屈服しない。
そう決意しているからだ。
ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!
「クク・・!フフ・・!ヌフフ・・!!」
ヤッツイオは、オオガミの小さなお尻に、容赦なく鞭を叩きつける。
ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!
「どうだ・・!どうだ・・!どうだ・・!小僧・・!!」
怒りと憎しみを込めて、ヤッツイオは、鞭を振るい続ける。
鞭はオオガミの小さなお尻に、容赦なく蚯蚓腫れを刻みつけてゆく。
やがて、蚯蚓腫れは幾重にも重なり、オオガミのお尻を赤く染めはじめる。
ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!
「・・ぅ・・・ぁ・・・っ・・・か・・・ぁ・・っく・・あ・・っ・・う・・!?」
さすがに、耐えきれなくなり、オオガミの口から、苦痛の声が漏れ始める。
だが、声を漏らしてしまいながらも、オオガミは耐えようとする。
ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!
「苦しいか!?痛いか!?ならば・・無様に泣き叫んで、許しを乞うてみるがいい!!」
ヤッツイオは憎悪に満ちた声で、鞭を叩きつけるように振るう。
ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!
「くっ!あっ!くぅああ!だ、誰が・・お・・お前などに・・!?くっ!あくっ!ううくぅ!?」
狂ったように叩きつけられる鞭の嵐に、オオガミは苦悶の声を上げ続ける。
だが、それでも、必死に耐える。
憲兵としての誇りが、オオガミを支えていた。
ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!
「くそっ!くそくそくそっ!くそくそくそっ!!」
怒りに任せ、ヤッツイオは鞭を振るい続ける。
鞭の音と、オオガミの苦悶の声が、部屋に響き続けた・・・。
「くっ!強情なガキめが!!」
ヤッツイオは怒りに任せ、床に鞭を叩きつけるように投げ捨てる。
オオガミのお尻は皮膚が破れて血が滲み、惨憺たる有様になっている。
捨てられた鞭も、血で赤く染まっていた。
オオガミは目尻に涙を浮かべ、荒い息を吐いている。
だが、それでも、ヤッツイオに、許しを乞うことはしていない。
「クソ!クソッ!?イチイチ癇に障るガキだぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!」
ヤッツイオは完全にキレてしまい、口調も変わる。
「泣きもしねぇ!許しも乞わねえ!!ムカつく!ムカッツク!イケすかねええええ!!!!!!!!!!!」
ヤッツイオは床を何度も何度も踏みつけ、叫ぶ。
「こうなったら・・・!!」
ヤッツイオは狂気に駆られた表情で、拳銃を取り出す。
拘束されたオオガミに狙いを定め、引き金を引こうとする。
ドンッッ!!
突然、ドアが開く音が聞こえてきた。
ハッとして、ヤッツイオはドアの方を振り向く。
同時に、乾いた音が部屋に響く。
「ぐ・・・!?」
右腕を撃ち抜かれ、ヤッツイオは銃を取り落し、膝をついて、床に座り込む。
直後、拳銃を構えたロッテンマイヤーが、武装した憲兵達を引き連れ、突入してきた。
「ほ・・本部・・長・・」
「よかった・・。生きていたか・・・」
ロッテンマイヤーはオオガミの方を見て、安堵の表情を浮かべる。
直後、ヤッツイオの方を振り向くが、そこには鬼気迫るロッテンマイヤーの姿があった。
「貴様・・!逆恨みの挙句に・・このような所業・・・。ただで・・済むと思うなよ」
その表情と声に、ヤッツイオは恐怖を覚える。
咄嗟に、腕の苦痛も忘れ、逃げ出そうとする。
だが、ロッテンマイヤーの出した足に引っかかり、転んでしまう。
「どこへ行く?そうだ。お前が牢に行く前に・・・・はなむけだ!!」
ロッテンマイヤーはヤッツイオを立たせた直後、ボクシングの構えを取る。
「ドラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ!!!!!!!!!!」
どこぞの少年漫画のような、裂帛の、長い掛け声と共に、ロッテンマイヤーの両拳が、嵐となって、ヤッツイオに襲いかかる。
「や・・ヤッダバア――――――ッッッッッッ!!!!!!!!!!」
漫画チックな断末魔と共に、ヤッツイオは壁に叩きつけられ、気絶する。
ヤッツイオの顔面は、拳の嵐で滅茶苦茶に腫れ上がっており、実の親が見ても、判別不可能かと思うほど、変わり果てていた。
「ふん・・!下種め!!」
ボコボコにされたヤッツイオに怒りと侮蔑の目を一瞬くれると、ロッテンマイヤーはオオガミの元へと向かう。
「分隊長・・・大丈夫か?」
「ほ、本部長・・申し訳・・ぐ・・!?」
「無理をするな。それにしても・・ひどい目に・・」
拘束を外しながら、ロッテンマイヤーは、オオガミが力尽きて、気を失ったことに気づく。
ロッテンマイヤーはブランケットでオオガミを包み込み、安堵の息を吐きながら、抱きかかえて、その場を後にした。
―完―
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