島田劇場事件


 ごくり。
室内にいる者全員が、息を呑んで、じっと見ていた。
見ているのは、二人の人物。
 一人は、年は33,4歳、身長2m近い巨漢で、短く刈った髪に精悍な面立ち、筋骨逞しい身体をした、まるでプロレスラーのような人物。
もう一人は対照的に、痩身な男。
狐を思わせる面立ちで、顔はニコニコと笑っているが、油断のならない目つきをしている。
彼らは高級木材のテーブルを挟んで座っている。
その二人の間には、緊迫した空気が張り詰めていた。
「それでは島田さん、どうしてもうちの社長のお願いを聞き届けてはもらえないのですかな?」
ニコニコと笑いながら、だが目は笑っていない表情で、痩身の男――新見錦助(にいみきんすけ)は尋ねた。
「何度尋ねて来られても同じです。あなた方が推薦されるタレントをうちの番組で使うわけにはゆきません」
断固たる表情で筋骨逞しい男――島田魁次は答えた。
「いいでしょう。それではあなたのお答えを社長にお伝えいたしましょう。しかし」
一旦言葉を切ると、新見はもったいぶった様子で言った。
「その結果、後悔なさることになっても知りませんぞ」
「その言葉、そっくりあなた方にお返しいたしましょう」
「ホホホ・・・さすがあの島田魁の末裔ですな」
「あなた方こそ、祖先の方々に劣らないですね。色々な意味で」
島田の言葉に、新見は怒りの表情を見せそうになる。
だが、ようやくのことでこらえると、扉を荒々しく閉め、出て行った。

 数日後、水戸。
その郊外にそびえる和式の広大な屋敷。
畳を敷き詰めた広間に、新見の姿があった。
新見は平伏してかしこまっている。
新見の正面から2,3mほど奥、上座に一人の男が鎮座していた。
その男は年は37,8歳。
身長182センチ、色白の肌にがっちりとして引き締まった体格に、野性味を感じさせる面立ちをしている。
大きく丸に開いた扇の紋がついた羽二重の黒い紋付と白っぽい袴を着ている。
腰には鉄扇を差しており、背後には、大小刀をかけた刀掛けを置いていた。
彼の名は芹沢鴨継(せりざわかもつぐ)。
水戸を拠点として、北関東一帯を縄張りとする広域暴力団『芹沢組』組長であると同時に、その表の顔である芹沢興業の社長であった。
なお、その名前が示すように、あの芹沢鴨の子孫である。
勿論、新見も新見錦の子孫で、組のナンバー2と副社長をつとめていた。
「新見、島田のやつは何て言ってきやがった?」
盃を傾けながら芹沢は新見に尋ねる。
「以前と変わりません。最後通告を突きつけましたが、突っぱねました」
「そうか、やはりな」
驚きもせず、芹沢はそう言った。
島田興業は、真っ当な興業会社である。
芹沢らヤクザと深いつながりがあるような俳優を自分たちが制作する番組に使うわけがない。
「予想はしていたが、このままじゃあ俺達の沽券にも関わる。そうだな、新見」
「はい、組長」
「奴を何とかせにゃあ俺達が南関東の興業を握れねえ」
芹沢組は表稼業の方で、芸能・興行関係の事業をシノギとして行っていた。
だが、南関東は新撰グループ傘下の島田興業が芸能・興行関係の仕事に影響力を持っている。
そのため、南関東の興業を芹沢組が握ることができない。
「その上、新撰グループにゃあ俺たちは色々と煮え湯を飲まされてきた」
苦々しい表情で芹沢は言い捨てた。
彼らは芸能・興行関係の仕事を隠れ蓑に、麻薬や武器の密売買・闇金融・売春といった、あらゆる闇ビジネスをやっている。
しかし、新撰グループ傘下の警備保障会社や調査会社などが、芹沢組の縄張り内に進出するようになり、シノギがやりにくくなった。
新撰グループの警備会社や調査会社はなまじの警察より力量があるからだ。
彼らが地元警察に色々と助力したため、芹沢組傘下の組や店が検挙されたり、彼らの犯罪計画が実行前に嗅ぎつけられたことも一度や二度ではない。
そういう点からも、芹沢にとって、新撰グループ関係者は面白からぬ相手であった。
 「新見」
「はい、組長」
「やつを殺れ(とれ)」
「殺(と)りますか?」
「ああ。目の上のたんこぶは殺っちまうに限る。それに、先祖へのいい供養になる。新撰組の連中の子孫の命(タマ)ならな」
ぞっとするような笑みを浮かべると、芹沢はフフフッ、と低い声で笑う。
それに賛同するかのように、新見も冷たい笑みを浮かべた。
「組長の仰せのままに・・・。我らが祖先に賭けて・・・必ずや島田のタマをとって参ります」
「期待しているぜ・・・」
「お任せを・・・。秘策があります・・・」
新見はそういうと、確約するかのように、芹沢に対して、笑みを浮かべた。

 それから数週間後・・・・。
「おお!ロミオ!あなたはどうしてロミオなの!!」
舞台の上で、ジュリエット役の女優が美しい声で叫ぶ。
その演技に、観衆はうっとりし、まるで熱に浮かされたような表情をしていた。
ここは、島田劇場(しまだげきじょう)。
試衛市の中心街に島田興業が持っている劇場だ。
ここでは日々、演劇は無論、漫才やマジックをはじめ、あらゆるショーが行われている。
その内容は本当に幅広く、演劇だけとってみても、オペラやシェークスピア劇、歌舞伎などといった日本や外国の伝統演劇から、新劇などの最新スタイルの演劇まで様々である。
今、この舞台では、日本国内でも名高い劇団により、「ロミオとジュリエット」が演じられていた。
そのボックス席に、島田の姿があった。
島田はボックス席の中で、一人の人物と隣り合って座っている。
その人物は、年は島田と同じくらい、茶色の髪と目をした、落ち着いた色合いに着物を着た、気品を感じさせる女性。
「いかがですか?」
島田が尋ねると、その女性はこの上もなくというくらい、満足した表情を浮かべて、言った。
「大満足ですわ。私(わたくし)、ロミオとジュリエットが何より大好きですの。こんな素晴らしいロミジュリを見せていただいて、嬉しいですわ」
「それは嬉しいですね。松平先生もご安心なさるでしょう」
松平先生とは、試衛市出身の若手衆議院議員松平容宗(まつだいらかたむね)のことである。
島田と一緒にいるのは、その夫人であった。
新撰グループは、松平氏を後援しており、プライベートな面でも親交がある。
そういう関係から、シェークスピア劇が大好きな夫人を、劇場に招待したのだ。
なお、島田興業は、この劇場をはじめ、全国各地に劇場やコンサートホールといった興行施設、テレビ番組企画・制作所やタレント育成学校などを持っている。
そして、芸能・興行の分野をグループ内で受け持ち、その方面で多大な活躍を見せていた。
実際、今活躍しているタレントやコメディアンなどの中には、ここをはじめとする島田興業傘下の劇場などから巣立っていったものたちも多数であった。

 それから一時間ほど経った頃であった。
島田たちがいるボックス席に通じる廊下を歩く男の姿があった。
その男は劇場内のレストランの制服である黒のベストとズボン、白のスーツといった姿をしている。
だが、とてもレストランのボーイとは思えない、剣呑な雰囲気をまとっていた。
ボーイらしき男は島田がいるボックス席の扉までやって来ると、ドアをノックする。
「失礼します」
ドアが開くと同時に、そのボーイは中へ入った。

 「何だ?」
島田は台を押しながら入ってきたボーイに、いぶかしむような視線を向ける。
「ご注文のワインをお届けに参りました」
「ワイン?注文した覚えはないぞ?」
「でも、ここでいいはずなんですがねえ」
そう言うやいなや、ボーイの表情が変わる。
まるで獰猛な肉食獣のような面相になったのだ。
瞬きする間の僅かな動きで、ボーイはワインが入っている氷水入りのボールに手を突っ込む。
引き出した手には、サイレンサーをつけたリボルバー拳銃が握られていた。
「死ねやっ!」
ヒットマンは引き金を引こうとする。
島田は猛烈な勢いで飛びかかり、床に組み倒すや、そのまま偽ボーイを抱えたまま、廊下に向かって転がり出る。
「ぐわっ!」
転がった衝撃で、偽ボーイは拳銃を取り落とす。
島田は素早く立ち上がるや、まだ倒れている偽ボーイの頭を蹴り飛ばし、気絶させる。
だが、息をつく間も無く、ヤクザのヒットマンと思しき連中が、サイレンサー付き拳銃を手にして、廊下の突き当りから現れた。
「ヒヒャーハハハハアアアッッッッ!!!!」
甲高く笑うや、やくざたちはめくらめっぽうに、弾丸が尽きるまで、撃ちまくる。
十数発の銃弾が島田の巨体めがけて襲い掛かる。
とっさに島田はかがむやいなや、両腕を床に向かって思い切り突き出した。
ドゴッ!
タイルを敷き詰めた廊下に島田の丸木のような剛腕が深々と突き刺さる。
「ふんぬっ!」
島田は気合と同時に腕を引っ張り出す。
すると、メキメキメキという、音と共に、コンクリ製の床を幅一メートル、高さ数十cm、厚さ15cmにも渡って剥ぎ取ってしまった。
床を剥ぎ取るや、島田はそれを盾にして、銃弾を防ぐ。
弾を防ぐと、今度は剥ぎ取ったコンクリの塊を投げつけた。
思わずヤクザたちはひるみ、後退する。
そこへ、島田は彼らめがけて突進した。
「やべえっ!!」
ヤクザたちは慌てふためいて逃げる。
「逃がすかっ!!」
島田はやくざ者たちを追いかける。
捕らえて警察に突き出そうと思ったのだ。
彼らを追って、島田は廊下の突き当りを曲がる。
曲がると同時に、何かが姿を現した。

 現れたのは、漆黒のスーツをまとった、20代後半くらいの若い男。
頭を完全にそり上げ、黒いサングラスをかけている。
男は、日本刀を下げていた。

 島田は、逃げ去ろうとする、ヒットマン連中を追おうとするが、スキンヘッドの男は、柄をつかむと静かに刀を抜き放ち、鞘を背後に投げ捨てるや、両手で中段に構え、立ちはだかる。
構えるやいなや、男は床を蹴った。
動いたかと思ったときには、既に男の姿は島田の目前にまで迫って来ていた。
(速い!)
驚く間もなく、スーツの男が剣を振るう。
刃は正確に、首筋めがけ、襲い掛かってきた。
(間に合わない!!)
背後に逃げても動脈を斬られる。
そう判断した島田はとっさに右手で刃をつかんだ。
通常ならば、日本刀の刃をつかめば、指が切り落されてしまう。
だが、島田の太い指は切り落されることはなかった。
それどころか、島田は手に力を込める。
バキィッ!という音と共に、刀が中途からへし折れた。
「握力も百を超えると刀をつかんで握りつぶすこともできる」
島田はそういうや、左フックを男の右顎に叩き込む。
男は衝撃で顔を横にそむけながら、吹っ飛んだ。
(何だ・・・?)
殴り飛ばすと同時に、島田は拳に違和感を感じた。
島田もまた、誠衛館の門人である。
彼の場合、生来力が強く、また剣よりも素手格闘の方に興味があったため、素手武術の部門に入門していた。
素手での組手なども経験したことがあったため、島田は人を殴った際の感触というのを知っていた。
頭部を殴れば、確かに堅い骨に当たる。
だが、拳に感じたのは骨の感触ではない。
それよりももっと堅い、まるで金属のような感触であった。
 島田が違和感について考える間もなく、男が立ち上がる。
男は、衝撃で、顎が完全に外れていた。
男は外れた顎に手をかけると、それを左右に動かす。
すると、ガシャンガシャンという、金属音が聞えてきた。
音の源は男の顎からだ。
(何なんだこいつは!?)
島田はそう思わずには、いられなかった。
男は顔の前で、両拳を構える。
と同時に、男の拳の中から、皮を突き破って、何かが姿を現した。
現れたのは、長さ10cmほどの金属製の爪。
爪の生えた拳を構えるや、男は再び、一気に間合いを詰めてくる。
間合いを詰めると同時に、男は拳を振り下ろしてくる。
島田は後退してかわすが、上着とシャツを切り裂かれる。
島田は意を決した表情を浮かべると、上着を脱ぎ捨てる。
そして、身体を左半身に開いて、両腕を構えた。

 (こいつは人間じゃない!!)
島田は、男の拳に生じた変化や殴ったときの感触で気付いた。
島田は知る由もないが、これは、世界征服を企むさる軍事組織が開発した人型ロボット兵器H-120。
芹沢組はそんな軍事組織とも取引関係にあり、新見が一体購入しておいたものだ。
既に、新見はこのロボットをヒットマンとして何度か用いており、芹沢組の勢力拡大のため、対立する組を潰させていた。
これ一台で、数十人分の戦闘力があるのだ。
H-120はあんぐりと間の抜けた感じで口を開く。
すると、何かノズルのようなものが、口の中から出てきた。
島田がいぶかしむ間もなく、ノズルから炎が噴き出した。
「なっ!」
とっさに島田は飛び退いて炎をかわす。
だが、同時に、ロボットが猛烈な速さで突進してきた。
ロボットは、島田の襟首を両手でひっつかむや、左右に思い切り、振り回す。
轟音と共に、島田は左右の壁に一回ずつ、叩きつけられる。
激突の衝撃で壁に穴が空き、ガラガラと瓦礫が崩れた。

 「なっ。何をしてるっ!!」
たちまち数人の警備員が駆けつけてきた。
「よせっ!来るな!」
島田は警備員達にそう呼びかける。
だが、彼らは劇場の持ち主が襲われているのを見るや、警棒を取り出し、不審者に立ち向かおうとする。
H-120は警棒を構えた警備員達を見やると、彼らに対して大きく口を開ける。
すると、再び炎が噴き出した。
「うわあああっっっ!!!!」
一部の警備員の身体に火がつき、悲鳴が上がる。
同時に、火災報知機が鳴り、天井からスプリンクラーで大量に水がまかれた。
ロボットは警備員達を片付けようと、彼らに接近しようとする。
「うおおおっっっっっっっっっっっ!!!!!!!」
そこへ島田が背後から組み付いた。
島田は組み付くや、数百キロはあるであろうロボットを背後へうっちゃる。
「行け!怪我人を早く運ぶんだ!!」
島田は警備員達にそう言い放つ。
警備員達ははっとした表情を浮かべると、やけどした仲間を背負って運ぶ。
島田は警備員達が去ったのを確認するや、ロボットに向かう。
ロボットは、まだ起き上がってはいない。
だが、島田に向かって左手を開いた。
空気の抜けるような音と共に、左手の掌からワイヤーが伸びる。
その先端が島田の身体にふれるや、強烈な衝撃が島田の身体を走った。
「ぬぐおっ!!」
島田はワイヤー式のスタンガンということに気付く。
気付くや、島田はワイヤーを片手でひっつかむ。
自慢の怪力で引きちぎろうというつもりだ。
無論、敵は高圧電流を流してくる。
つかんでいる手は勿論、体中に激痛が走る。
手からは、煙もあがっていた。
だが、島田は耐え切り、ワイヤーを引きちぎる。
引きちぎると同時に、島田は突進する。
気合と共に、島田はロボットの腹めがけ、拳を雨霰と繰り出した。
鋼鉄の鉄板を殴るような感触を覚えつつも、息の続く限り殴り続ける。
激しい乱打を食らわしたせいか、所々、H-120の身体にへこみが出来た。
島田は組み付くと同時に、足を刈って床にロボットを倒す。
倒すや否や、右腕を取り、両腕で激しくねじる。
金属のきしむ音とともに、腕が捻じ曲がりへし折れる、いや、それどころか、肩からもげた。
敵の片腕をもぎ取るや、島田は肩口の傷をみやる。
傷口からは、血も肉も見えず、代わりにあったのは、パイプや導線といった機械の部品。
(やっぱりそうか)
島田はもぎ取った腕を見るや、相手が人間ではないことを確信する。
H-120は右腕をもぎ取られても、ひるむことなく立ち上がる。
島田はもぎ取った右腕を相手の顔に叩きつける。
だが、ロボットは平気らしく、左腕を伸ばして、島田の頭をがっしりとつかむ。
つかむやいなや、ロボットは宙へ飛び上がる。
飛び上がるや、空中で島田の巨体をぐるぐると振り回す。
そして、床めがけて思い切り投げつけた。

 「ごぶあっ!!」
島田は床に叩きつけられ、思わず声を漏らす。
頭を押さえつつ、立ち上がるや、爪を出したロボットが襲い掛かってきた。
島田は、相撲取りのように、一瞬、床に両拳をつけてかがんだ体勢をとる。
まばたきする程度の、僅かな時間の後、猛烈な勢いで島田は敵めがけ、ぶちかましの要領で突進していた。
ドゴッ!
鈍い音とともに、激突する。
両者とも、衝撃で後へつんのめりそうになるが、すぐに体勢を戻す。
僅かに島田の方が体勢を立て直すのが早かった。
島田は丸太のような太い両腕を広げると、腕ごとH-120の胴体を抱え込んでしまう。
と同時に、ロボットの背中で手をがっしりと組んでしまうや、両腕に思い切り、力を込め始めた。
ロボットは大きく口を開く。
鋼鉄製の研ぎ澄まされた歯がちらちら見えたかと思うと、島田の首筋に思い切りかぶりついた。
「ぬぐおおおおおおおおおお」
首を襲う激痛に、島田は思わず声が出る。
だが、島田も負けてはいない。
両腕に意識を集中し、力を込める。
腕の筋肉が太くなり、血管が浮き出る。
島田は、通常とは異なった呼吸をし、気を練る。
そして気を両腕にひたすら送り込む。
「ふんごおおおっっっっ!!!!!」
裂帛の気合と共に、島田は両腕に力を込めた。
メキメキ・・・グシャアッ!
金属が悲鳴をあげる音とともに、腕ごとロボットの胴が、島田の剛腕に挟み潰され、切断される。
下半身はずるりと床へ倒れ落ち、上半身も、中途からどさりと床へ落ちる。
グシャグシャになった、細かい部品が、そのあと、島田の足元へ散らばった。

 「ふう・・・・」
ロボットを完全にさば折りで破壊すると、どっと気が抜けたのか、島田は床に座り込んだ。
同時に、大勢の足音が近づいてくる。
島田が足音の方向を振り向くと、警官や警備員、島田の秘書らが駆けつけてきた。
「大丈夫ですか!?」
島田の秘書がそう言って駆け寄る。
「ああ・・・。もう済んだ・・・」
島田はそう言ってロボットの残骸を指し示す。
「な、何ですか・・。これ・・・」
「俺にもわからん・・・。それより、夫人は?」
「大丈夫です。社長が侵入者を追っていったあと、無事、警備員達が保護しましたから」
「そうか。後で詫びにうかがわないといけないな」
警官達が現場検証をし、証拠物件であるロボットの残骸を調べるのを尻目に、秘書は上司につぶやく。
「それにしても社長・・・。派手にやりましたね・・・」
「仕方ないだろう。相手は機械だぞ。手加減しなきゃこっちがやられてた。『柱砕き(はしらくだき)』じゃなきゃあ倒せなかった」
柱砕き。
これは誠衛館に伝わる奥義の一つである。
見た目は相撲のさば折りだが、その破壊力は通常のさば折りとは全く比べ物にならない。
その名の通り太い柱や大木の幹をも砕き潰してしまうほどの破壊力を持つ技だ。
実際、誠衛館が素手格闘技の団体と共同で大会を開催した際、デモンストレーションで島田がこの技を披露したことがあるのだが、その際、本物の墓石をさらさらの砂に変えてしまったことがある。
「社長、首筋から血が」
秘書に言われて島田は始めて気付く。
どうやら、戦いに集中していたせいで、気付かなかったらしい。
「大丈夫だ。これくらい」
「駄目ですよ。化膿したらどうするんですか」
ちょうどそこへ医者もやって来る。
彼らから応急手当を受けると、その後、島田は事情聴取に向かった。

 数時間後、宇都宮市街。
その一等地にあるビル。
新見が組長をつとめる、錦山会(きんざんかい)の事務所だ。
その組長室に新見の姿があった。
「そうか・・・」
受話器に向かって新見はそう言った。
指揮を取った部下から、失敗の報告を受けたのである。
「やむを得ん。お前はフィリピンにでも高飛びしろ。下っ端の連中は捕まって何かうたうと面倒だ。消せ。ロボットのことはこちらで何とかする」
電話を切ると、新見はタバコに火をつけた。
(虎の子のH-120を返り討ちにするとは・・・。誠衛館の連中はやはりバケモンだな。しかし、それよりも組長にどう説明するかだ。下手したら俺が真っ二つに斬り殺されかねん)
新見はタバコをふかしながら、小一時間に渡って、芹沢への釈明を考えていた。

 ―完―
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