研究所事件 



 12月某日、大阪の某大企業研究所。
PM2:00頃、警備員の一人が懐中電灯を片手に所内を見回っていた。
「ん?」
その警備員は、廊下を歩いていて、ふと、電気がついていることに気付いた。
(おかしいな・・・。もう全員出て行ったはず・・・・)
怪しんだ警備員は電気がついている部屋に近づいてゆく。
やがて、その部屋にたどり着いた警備員はあっと声をあげそうになった。
覆面をした連中が、室内の資料をあさっているのだ。
部屋の中はそれこそ、ひっくり返された資料だらけで足の踏み場もなかった。
「なっ。何して・・・」
警備員はそういうや、仲間に知らせようとする。
だが、それよりも侵入者達の方が早かった。
一人が襲い掛かるや、革棍棒で殴り倒したのである。
鈍い音と共に、警備員はゆっくりと床へ崩れ落ちる。
それと同時に、泥棒たちは盗み出した資料を抱えて足早に逃げ去った。

 「何とも・・・物騒な事件ですね・・・」
数日後、所長室で新聞を広げながら、山南敬介はそう言った。
「そうだろう?最近、その手の事件が多発しているらしい」
そう、一人の男が言った。
痩身で猛禽のような精悍な面立ちに、細い目と鋭い眼光。
斉藤一郎である。
「山崎さんところの会社に調査してもらったんだが、企業や大学の研究所から、様々な研究成果が盗まれているんだ。犯人や目的はわからないのだがね」
「それは由々しい問題ですね・・・」
新聞を置くと、山南はそう言った。
この研究所にも、新薬のデータをはじめ、重要な研究成果が幾つも保管されている。
つい先日、大阪で発生し、新聞でも報道されている事件は、人事ではなかった。
「それで、土方社長も心配されていてな。今日からここの警備を今までよりも強化してくれと頼まれたんだよ」
「私も賛成ですね。ここの職員の安全のこともありますしね」
山南は、新聞と斉藤が持ってきた書類を交互に見やる。
両者とも、事件を起こしている窃盗団のかなり荒っぽい手口を語っていた。
彼らはそれこそ、押し込み強盗のような、相当荒っぽい手段を平気で取っていた。
そのため、通常のこの手の窃盗事件よりも、職員へ危険が及ぶ可能性が高かったのである。
それゆえ、この研究所の警備のことで、斉藤が山南と打ち合わせにやってきていたのである。
というのも、ここの警備は斉藤警備会社が行っていたからだ。
これは、研究所に限らず、全ての新撰グループの関連施設にいえることである。
ちなみに、斉藤の会社だが、国内の業務は斉藤が、海外は原田が担当している。

ジリリリリリリリリリリリリッッッッッッッ!!!!!!
いきなり、所内に警報が響き渡った。
「何だ・・・」
斉藤はとっさに持っている杖をつかんで立ち上がる。
山南も同時にソファから腰をあげていた。
いきなり、扉が開いたかと思うや、野上主任が慌しい表情で駆け込んできた。
「どうしたんだ。野上君?」
「しょ・・・しょしょしょ所長っ・・・。か、かかかか火事ですっ!それも・・警報機の誤作動とかじゃないですっ!!本物ですっ!!」
「何だって!!すぐに皆を避難させるんだ!!」
山南がそう指示を下したときだった。
不意に、耳をつんざく甲高い音が外から聞えてきた。
「何だ・・・これは・・・」
「窓からだ・・・・」
山南、斉藤、ともに窓から外を覗く。
外を見るや否や、二人とも唖然と、我が目を疑った。
所長室めがけて飛んでくるのは、煙を後尾から引いた対戦車用ロケット弾。
所長室に突っ込み、室内を火だるまにしてしまうのは、時間の問題だった。

「くそっ!」
斉藤は悪態の言葉をつくや、窓を開けて空中へ飛び出す。
空中で斉藤とロケット弾が対峙し、あっという間に双方とも間合いに入った。
「キエエエエエエエッッッッッッッ!!!!!」
斉藤は杖の上端を左手でつかむや、それを空中で振り回す。
杖が光に包まれ、幾条もの光の軌跡を空中で描いたかと思うと、ロケット弾が真っ二つに割れ、さらに信管部分も綺麗に切断される。
そのため、数m下の地面に落下しても爆発しなかった。
一呼吸置いて、斉藤は地面に着地する。
斉藤の左手には、杖が握られている。
光に包まれ、輝いていた。
この杖は何の変哲も無い、ただの杖だ。
だが、斉藤は誠衛館で修業を積んだことにより、気の術を身につけた。
杖が光っているのは、斉藤が気を杖にまとわせているからだ。
それにより、何の変哲も無いこの杖が、ロケット弾をも真っ二つにする武器に代ったのである。

 「全く・・・一体どうなってんだ・・」
思わず斉藤がそういう間もなく、更に大きな音が起こる。
斉藤が音のした方向を見やると、さらに呆れるようなことが起こった。
何と、数台のトラックが侵入してきたのだ。
トラックの荷台には、覆面をし、防弾着や銃で武装した連中がわんさかと乗っている。
(こいつら!!)
斉藤は侵入者を見るや、自分たちがついさっきまで話していた強盗団の一味だと確信した。
あまりにも手口が荒っぽいからだ。
泥棒というよりも、まるで軍隊の掠奪のようなその手口こそ、ついさっきまで警備を強化する原因として話していたものだからだ。
強盗団は斉藤の姿を見やると、無言で銃を構える。
十数を越える銃口が一斉に火を噴き、弾丸が斉藤めがけて雨霰と襲い掛かる。
「甘いわっ!!」
斉藤は右に左に、人間とは思えない速さで動いてかわす。
数回左右に動いて激しくかわすと、地面を蹴って飛び上がる。
斉藤は走るトラックの一台の上を飛び越えながら、気をまとった杖を空中で振り回す。
着地と同時に、トラックに真ん中から縦に亀裂が走る。
やがて、大きな音とともに、トラックは真っ二つに切断された。
同時に、荷台や運転席にいた者たち全員が投げ出され、地面に激突して、ある者は気絶し、別の者はウンウンうめいていた。
「つまらんものを・・・斬ってしまった・・・」
斉藤がそうつぶやく間もなく、別のトラックが襲い掛かる。
どうやら、その巨体と重量を生かしてひき潰すつもりらしい。
斉藤は逃げる素振りも見せず、無造作にトラックの前に立っている。
彼は左手に持っている杖を横に寝かせると、奇妙な呼吸を数回、繰り返す。
杖を包む光が輝きを増し、目を開けていられないほどに強い光を発しだした。
「喰らえ・・・発破突(はっぱとつ)っ!」
叫ぶと同時に、斉藤は気をまとった杖を真っ直ぐ繰り出す。
トラックの正面と斉藤の杖の先端が触れたと見えた瞬間だった。
ドォォォォォォォォンンンッッッッッ!!!!
壮絶な爆発が起こり、トラックの前面が思い切りひしゃげる。
トラックは馬がはね飛ぶような動きとともに、横転する。
荷台の男たちは悉く投げ出され、地面に転がった。

 斉藤が使ったのは、誠衛館に伝わる奥義の一つ『発破突』。
気を大量に注入した剣で片手平突きを繰り出し、敵の身体に刺さった瞬間、気を爆発させる。
その威力は今さっきの現象でわかる通り、凄まじい。
人間ならば跡形も無く粉微塵に吹っ飛んでしまう技であった。
「来るなら来てみろ・・・。一人たりとも入れんぞ!強盗ども!!」
斉藤は杖を構え、残るトラックに向かって、防壁と化したかのように、立ちはだかった。

 その同じ頃、所長室から直通の、特別なルートを使って山南は地下へ向かっていた。
地下室に入るや、彼は一目散にある場所へ向かう。
向かった先に立ちはだかるように聳え立っているのは、分厚い金属製の扉。
銀行の金庫のような代物だ。
ここは、この研究所の特別資料室。
最重要な資料やデータを厳重に保管してある場所だ。
その扉の前にちらほらと立つ、人影を見るや
「やはり・・・」
と山南はつぶやいた。
表で派手に陽動し、混乱の真っ只中で資料室に押し入り、中の研究資料を盗んでゆく。
そういう作戦だと睨んだのだ。
侵入者達は、山南の姿に気付くと、銃口を向ける。
ダダダダーンッ!
鼓膜が破れそうな音が鳴り響き、銃弾が山南に襲い掛かる。
山南は床を思い切り蹴るや、天井近くまで飛び上がり、銃弾を悉くかわす。
目だけを露出しているため、表情が見えない盗賊たちも、その目に驚きを浮かべていた。
山南は飛び上がると同時に、白衣のポケットから二つの品を取り出す。
一つはライター。
もう一つは、鶏卵。
鶏卵は中に何かを詰めてあるのか、一旦割ってそれをつなげ直した跡と、導火線がついている。
山南は鶏卵の導火線に火をつけると、強盗たちの真っ只中に向かって、投げつけた。
ボーンッ!
着地と同時に、卵が爆発した。
卵からは強烈な閃光と、奇妙な色の煙が噴き出した。
「ぎゃああっ!!!」
「めっ・・・目が痛ええええっっっっ!!!!!」
強盗たちは目を押さえ、呻いている。
ある者は閃光により、また別の者は噴き出した煙により、目をやられたのだ。
全員、子供が泣き叫ぶように、ボロボロと涙を流し、中にはかきむしるような動きをしている者もいる。
もはや、戦うどころではなかった。
着地と同時に、山南は侵入者達の間を駆け抜ける。
駆け抜けながら、パンチやキックを繰り出し、一人ずつノックアウトしていった。
数秒後には、一人残らず、強盗は倒されていた。
「ちょっと・・・薬が強すぎましたかね・・・・」
山南は、全員を倒したあと、そう言った。

 山南が投げたのは、一種の目潰し。
卵の中に、爆発する薬とともに、数種類の粉薬を入れておく。
導火線に火をつけて投げつけると、爆発して閃光を発し、同時に粉薬を周囲にばら撒く。
閃光、粉薬のどちらとも目に対して強烈な衝撃を与える効果があり、よほどのつわものでも、戦闘不能になる。
特に、粉薬の方はかなり強力で、吸い込めばしばらくは咳き込んでしまうほどである。
この目潰しは元々、さる捕物術の家に伝わっていた技であり、山南は昔の薬品の研究をしている際に、これを発見していた。
山南は製薬に携わる職業柄、薬の研究に余念が無い。
その研究範囲は広く、外国は勿論、昔の魔術師や忍者の薬、捕物用の目潰し薬などにも及んでいた。

 ゾワッ。
不意に、山南は冷たい水を頭から浴びせかけられたような寒気を背筋に感じる。
山南は背後に誰かがいることに気付く。
空気が切り裂かれる音と同時に、山南は右へ横に移動した。
直後、蛍光灯の光を反射して煌く日本刀が振り下ろされてくる。
日本刀は中途で止まると、横にいる山南めがけて横薙ぎに襲いかかろうとする。
山南はとっさに、左にタックルをする。
左半身に何かがぶつかった感触を覚える間もなく、誰かが横へ吹っ飛んだ。
吹っ飛ばされた人物は、空中で猫のように回転するや、着地する。
着地すると同時に、その男は、立ち上がった。

 男は年は35歳ぐらい、痩せぎすで、餓えた肉食獣を思わせるギラギラとした目をしている。
髪は逆立ってまるで鬼のようであり、上下ともに黒の服を着ており、その上にさらに同色のコートを着ており、ベルトに鞘を差している。
右手には、日本刀を引っさげていた。
「あなた・・・只者ではありませんね・・・・」
黒づくめの男から発せられる、尋常ならざる気に、山南は思わず尋ねる。
「へへへ・・・あしの強さがわかるんか・・・。いかにも・・・あしは岡田剣蔵(おかだけんぞう)ぜよ・・・」
「あの・・・」
山南は驚いた表情を浮かべた。

 岡田剣蔵。
幕末史に人斬り以蔵という異名で悪名高い剣士、岡田以蔵。
その血を引く男こそ、剣蔵だ。
若い頃は剣道界の明日を担う人材として大いに期待されたが、ある日の試合で、力加減を間違え、試合の相手を殺してしまうという事故を起こしてしまった。
むろん、事故ゆえ剣蔵は罪に問われることはなかった。
だが、これが彼の剣道生命に終止符を打ってしまい、彼は生きる為に闇の世界に足を踏み入れた。
そして今では、指名手配犯として、世間にその名を知られていた。

 「まさかこんなところで出会うとは・・・」
山南は驚愕に満ちた表情を浮かべる。
まさか指名手配犯がからんでくるとは思わなかったのだ。
「おまえさんには恨みもつらみもねえが、この中のものを盗んでくれば一生遊んでくらせる銭を出す奴がわんさかとおるじゃきに。気の毒じゃが渡してもらうじゃきに」
「残念ですが・・・そうはいきませんよ。ここの皆の血と汗の結晶ですから」
山南は静かな表情で言う。
「そんなら・・・こいつで獲るしかなかじゃき!」
剣蔵は刀をちらつかせる。
次の瞬間には、あっという間に間合いを詰めてきた。
剣蔵は目の前まで接近したかと思うや、姿を消す。
(消えた・・・いや、違う!)
山南は横に飛ぶ。
飛ぶや、またしても、後ろから刀が振り下ろされてきた。
「ちいっ!外したかっ」
剣蔵は舌打ちすると、残念そうに言う。
彼は驚異的な素早さで間合いを詰めたかと思うや、目から消えてしまうほどの速さで背後へ周り、後ろから切りかかったのである。
山南はよけはしたものの、白衣の背中に、斜めに切り傷を入れられている。
剣蔵の斬撃は確実に背中を捕らえていたのだ。
(何て・・・動きだ・・・・)
山南は思わず、冷や汗を浮かべた。
一瞬でも跳ぶのが遅れていたら、斜めに胴体を断ち切られていたところだった。
 (こん野郎・・・・)
一方、剣蔵も舌を巻いていた。
自分の力量を見抜いた以上、只者ではないのはわかっていた。
だが、自分の渾身の一刀を避けられるとは思っていなかった。
(こんなら・・・本気にならんと勝てんじゃきに!)
剣蔵は意を決すと、刀に意識を集め始めた。
「高まるじゃきに・・・あしの剣気・・・・」
奇妙な呼吸を剣蔵が繰り返す。
やがて、光の蛇が剣蔵の刀身に巻きついたかと思うと、剣蔵の刀は、光り輝き出した。
同時に、剣蔵は姿勢を変える。
背を丸めて前傾姿勢となった。
おかげで、今にも獲物に飛び掛らんとする、餓えた肉食獣という感じがますます強くなった。
「ぐるる・・・うっがあ―――――――――ッッッッッ!!!!!!!」
獣のごとき雄叫びを上げ、光る剣を振り上げ、剣蔵が襲い掛かってきた。
あっという間に山南の目の前に迫る。
「しゃあらあっ!」
叫ぶと同時に、剣蔵は刀を横薙ぎに一閃する。
山南はとっさに身を沈めてかわす。
気をまとった剣は赤色の美しい光の軌跡を描き、背後の金属扉に激突する。
刃は扉に弾かれるどころか、深々と扉に斬り込む。
厚さ30cm、溶岩にも、砲撃にも耐えうるほどの特殊合金で造り上げた扉を剣蔵の剣は難なく突き抜け、横一文字に、切った跡を残す。
 剣蔵の強力無比な横薙ぎを辛うじてかわした山南は、相手が剣を振りかぶりきって生じた僅かな隙をついて立ち上がる。

「はぁぁぁぁ――――――っっっっっっっ!!!!!!」
甲高い気合とともに、山南の両拳が剣蔵の身体に雨あられと打ち込まれる。
まるで拳の流星群といった連続攻撃で、剣蔵の身体は天井近くまで吹っ飛ばされる。
剣蔵は吹っ飛ばされながらも、地上の山南めがけ、剣を投げつける。
猛烈な勢いで剣が飛び、切先が山南の顔面めがけて襲い掛かってきた。
だが、山南はヤッ!という短い気合と同時に、剣を蹴り上げ、回し蹴りの要領で、蹴り返す。
剣が今度は剣蔵めがけて襲い掛かる。
同時に、山南も宙に飛び上がり、剣蔵めがけて飛び掛ってきた。
剣蔵は空中で白刃取りをし、刀をキャッチする。
だが、空中で山南が組み付き、そのまま剣蔵を下敷きにするように、落下した。

ドォォォォォンンッ!
床がへこみかけるほどの衝撃とともに、剣蔵は地面に叩きつけられる。
だが、彼はけろりとした様子で立ち上がる。
同時に、回し蹴りを仕掛けてきた。
山南はまともにくらい、姿勢を崩しかける。
「ふらっ!ふらっ!ふらふらふらふらふらあああっっっ!!!!」
剣蔵は左拳で嫌というほど、山南の顔面を殴りつける。
まるで起き上がりこぼしのように、山南の身体が前後に揺れる。
地面に山南が倒れると同時に、剣蔵は踏み付けを繰り出す。
山南は横に転がってかわすや、そのまま、剣蔵の足を蹴りで薙ぐ。
剣蔵が転ぶと同時に、山南は背中に馬乗りになり、両腕を取る。
腕を極めるつもりだ。
だが、剣蔵は勢いをつけて背を仰け反らせ、山南の顔面に頭突きをくれてやる。
「うっ!」
山南は衝撃で思わず離れてしまう。
そこをついた剣蔵は、すかさず起き上がり、剣を振り下ろしてくる。
「くっ!」
とっさに山南は薬仕込みの鶏卵を投げつけた。
鶏卵は空中で剣蔵の剣に切り裂かれる。
そこで中身が周りにばら撒かれ、それが剣蔵の片目に入る。
「ぐわあっ!め・・目がっ!!」
(今だっっ!!)
とっさに山南はラグビー選手のような低い姿勢でタックルし、剣蔵に組み付く。
組み付くや否や、床に二人ともども倒れた。
(たっぷり・・・目を廻してあげますよ)
山南はそういうと、剣蔵と組んだまま、ゴロゴロと床を高速回転しながら、転がりだす。
剣蔵の視界では、床が、天井が、四方の壁が、あらゆるものが転がって見えた。
二十回以上も転がると、山南は片足を使って蹴飛ばすように剣蔵を投げる。
投げられた剣蔵は、壁に叩きつけられ、床にずり落ちる。

 剣蔵はゆっくりと立ち上がった。
それを見た山南は、雰囲気が変わっていることに気付いた。
元々、ギラギラとした目であったが、それがさらに強くなっている。
「大した奴じゃきに・・・。学者と思ってナメてたぜよ・・・。じゃあが・・・強いじゃけん・・・。おまんに敬意を表して・・・あしの奥義で葬ってやるぜよ・・・」
剣蔵はそういうと、腰を落とす。
同時に、刀の柄を左脇腹のあたりまで引き、刃を上にして肩に当てるようにして構える。
「喰らうじゃきに・・・。秘剣・狂狼(ひけん・きょうろう)」
剣蔵は再び、奇妙な呼吸を繰り返す。
今度は刀だけでなく、全身が赤く光りだした。
同時に、床がガタガタと揺れる。
(こ・・・これはっっっ!!!!)
山南は周りの気の流れを感じ取った。
やつが部屋中の気を集め、自分の身体に取り込んでいるのだ。
(それも尋常な量じゃない!!)
やがて、剣蔵の身体を包む光が、ある物の形を取り出す。
光の形は狼、正確には口を大きく開いたその頭部だ。
「どおらああああっっっっっっっっっっっっ!!!!!」
裂帛の気合とともに、剣蔵が突進してきた。
それは赤い巨大な狼が、まるで獲物に飛び掛っているかのような光景であった。

 (速いっっっっ!!!!!!)
山南は敵にあまりのダッシュの早さにそう思った瞬間、強烈な衝撃を感じる。
気を纏った剣蔵が思い切り体当たりしてきたのだ。
まるで車にひかれたかのような、凄まじい衝撃を覚えるや否や、山南の身体は背後の扉めがけて吹っ飛んだ。
剣蔵はそのまま止まらず、金属扉に激突する。
激突と同時に、扉が大きく揺れた。
次の瞬間には、ミシミシッという音とともに扉に亀裂が広がる。
やがて、亀裂は扉全体に広がり、とてつもない轟音とともに、特殊合金の扉がガラガラと崩れ落ちた。

 「ちょうどうまい具合に空いたじゃきに・・・。それじゃあお宝を頂くじゃきに」
剣蔵はそう言うと、中へ足を踏み入れようとする。
「ま・・・待ちなさい・・・」
そこへ、背後から力を失った声が呼び止める。
剣蔵が振り返ると、白衣や顔を塵まみれにし、眼鏡も割れた山南が、ふらつきつつ立ち上がってくるところであった。
「何じゃあ・・・。死んどらんかったんかい」
剣蔵は舌打ちとともに、そう言った。
「絶対に・・・中のものは渡しませんよ・・・」
「ふん・・・・。そんなふらついた身体で、あしに勝てると思っとるんか?」
剣蔵は馬鹿にした様子で言う。
「思ってますよ」
山南は事も無げに、言い切った。
「何だと?」
「たぐいまれな剣の才覚を持ちながら・・・闇の世界に足を突っ込んだ人間に・・・。いや、他人の汗と努力の結晶を盗んで金儲けのネタにするような手合いに・・・私は負けるわけにはいかないんですよ」
「抜かしたな・・・。んなら今度こそ、仕留めてやるじゃきに」
剣蔵はニヤリと残酷そうな笑みを浮かべると、再び、狂狼の構えに入る。
対して、山南は足元が覚束ない。
それでも、ボクサーのように、両拳を構えた。
「これで終わりじゃきにっっっっっっ!!!!!」
赤い気を全身に纏い、剣蔵は再び突進する。
山南は逃げもせず、ただ迫り来る剣蔵に対し、突っ立っているように見えた。
だが、あともう少しで、山南の身体に達しようというぎりぎりの距離まで突っ込んできたときだった。
白衣のポケットから山南は黄色く塗った鶏卵を取り出す。
その導火線には火がついていた。
「えいっ!」
山南は叩きつけるようにして床に投げるや、すかさず両目と口を手で覆う。
ボォーンッ!
強烈な閃光と色のついた煙があたりに充満する。
剣蔵はまともに閃光を見、煙を吸い込んでしまった。
「ぐおええええっっっ・げへえっ!へえええっっっ」
剣蔵は両目をかきむしり、激しく咳き込む。
山南が持っている目潰し玉の中でも、最も強力なものであった。
それこそ、虎やライオンといった肉食猛獣ですら、戦闘不能にさせられるほどの代物だ。
ようやく、剣蔵のせきや涙がおさまる。
煙が晴れると同時に、山南の姿が現れた。
姿を現すと同時に、山南は両腕を伸ばす。
伸ばすや否や剣蔵をがっしりと捕らえてしまった。
「離しませんよ・・・。奥義・・・雷風落とし(らいふうおとし)っっ!」
山南は叫ぶと同時に、剣蔵をつかんだまま、ビデオの早送りをしたかのようなとてつもないスピードで回転しだす。
やがて、そのあまりの速さに山南の足元に風が集まってくる。
やがて、集まった風は竜巻を造り上げた。
竜巻が出来るや否や、中の目にいる山南は剣蔵の身体を竜巻中に放り出す。
剣蔵は竜巻に飲み込まれるや、ぐるぐると回転しながら急上昇してゆく。
途中、竜巻によって引き寄せられた瓦礫などが剣蔵の肉体を幾度と無く激しく叩きのめした。
全身に拳の乱打を浴びせられたかの衝撃に、剣蔵はうめき声を竜巻の中で上げる。
だが、竜巻の音にかき消される。
やがて、剣蔵の身体が勢いよく、竜巻から投げ出された。
「はああっ!」
剣蔵が竜巻から飛び出すや、山南も後を追うようにして飛び上がり、竜巻の外へ出る。
空中で山南は剣蔵に組み付くや、彼を下にして、真っ逆さまに急降下した。
ドオオオ――――ンンンッッッ!!!
まるで雷鳴が轟いたかのような音とともに、剣蔵は床へ叩きつけられる。
「がぼあっ!」
倒れたまま背を仰け反らせ、剣蔵は大きなうめき声をあげる。
直後、落下の衝撃で出来た直径一メートルほどのクレーターの中で、剣蔵は気を失った。

 「はぁ・・はぁ・・・はぁぁ・・・・」
山南は荒い呼吸を数回すると、床に座り込む。
全身から汗がどっと噴き出し、服はびっしょりと濡れていた。
「山南さん!山南さん、大丈夫か!!」
声がしたかと思うと、斉藤とともに警官たちがどっと入ってきた。
「斉藤さん。無事でしたか!」
山南は斉藤の姿を見るなり、そういった。
「そりゃこっちの台詞だ。表の連中を防ぐので精一杯だったんでな。あんたは無事かとこっちに来る間、やきもきしていたんだ」
「そちらは大丈夫なようですね・・・」
「ああ・・・。5,60人はいたようだがな。まあ、数が多くて手こずったが。ん、そこにぶっ倒れてるのは岡田剣蔵じゃないのか?」
「ええ。彼が一連の事件の犯人だったようですね」
「何っ!」
斉藤だけでなく、通報によって研究所に駆けつけた警官たちも驚いた。
事件の雰囲気から相当な奴ではと密かに目星をつけていたのだが、まさか指名手配犯がからんでくるとは思いもしなかったのだ。
「それにしても・・こいつは腕はたつが、頭はそんなによくはないぞ」
「もしかしたら・・・黒幕がいるかもしれませんね・・・」
警官たちが気絶した剣蔵やその手下たちを担架にのせて連行していくのを尻目に、二人はそう話し合った。

 一時間後、東京帝国ホテルの一室。
そこで、一人の男が電話を取っていた。
目がぎょろりとした面長な顔立ちで、背丈が高くすらりとしている。
着ている高級スーツなどから、一見するとやり手のビジネスマンか実業家に見えた。
だが、どことなく危険な雰囲気をまとっている。
「そうか。失敗したか。始末はまかせる」
そういうと、男は受話器を置く。
男は、タバコを一本取り出すと、天井を見つめながら紫煙を吐き出した。
(失敗したか・・・。今まで得た研究を元に強力な兵器を開発し、諸国の革命勢力を援護しようと思ったが)
彼の名は清河紘八(きよかわこうはち)。
清河八郎の血筋を受け継ぐ者だ。
表向きはやり手のビジネスマンだが、裏では革命支援と称して、諸国のゲリラなどに武器の供与や人材の派遣などを行っていた。
今回も、諸企業から盗んだ研究成果でもって、新しい兵器を作り出し、それをゲリラなどにばら撒こうとしたのである。
(それにしても・・・新撰グループか。我が祖先のみならず、私の革命支援まで邪魔するとは!)
忌々しそうな表情を浮かべると、清河は再び、煙を吐き出した。

 ―完―
スポンサーサイト

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

comment

管理者にだけメッセージを送る

プロフィール

山田主水

Author:山田主水
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2投票
無料アクセス解析
FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード