芹沢組動く2



  「先生、いってらっしゃいませ」
「ああ」
井上にそう言い置くと、近藤は館の正面前に止めてあった車の後部座席に乗り込む。
近藤は喪服に身を包んでいた。
これから辻斬りの犠牲になった門弟たちの葬儀に出席するのである。
車の扉を閉める前に、近藤は留守番の井上源吾郎と藤堂平太郎の顔を見やると、真剣な表情で言った。
「源さん、平太郎、気をつけてくれよ。最近やたら物騒だからな」
「わかってます。先生こそお気をつけて」
「ああ。それじゃあ行って来る」
近藤が車のドアを閉めると同時に、車が出発する。
その直後、物陰からホームレスのような身なりをした男が一人、携帯を取り出すとどこかへ電話をかける。
「へい・・・。近藤の野郎は確かに出かけたようです。へぇ、この目でしかと見ました。間違いありやせん」
男はヤクザさながらの言葉遣いでどこかへ電話する。
「わかりやした。じゃあ俺はこれで」
電話をし終えると男は素早くその場を去った。

 その一時間後、誠衛館。
一階の熟年者向け道場で井上が主婦の門下生を相手に指導をしていたときだった。
「大変です!井上先生!」
慌てた様子で若い門人が駆け込んできた。
「どうしたんだ?そんな慌てて」
井上がいぶかしむと、その門人は息せき切って話し出す。
「ど、どどど道場破りです!」
「何だって!?本当か?」
「はい!藤堂先生もやられてしまいました!」
「と、藤堂くんが!?」
井上は耳を疑った。
若いとはいえ、藤堂はかなりの力量の持ち主だ。
館の奥義の一つを極めたほどの彼がやられるとは思いも寄らなかった。
「わかった。すぐ行く」
井上はさっきまで指導していた主婦の門人たちにわけをいうと、出て行った。

 「おうおう!ここの主はどうした!!」
3階にある道場では、竹刀を肩に担いだ平山が挑発するような口振りで叫んでいた。
既に数人の門人が医務室へ運ばれており、その中には師範の藤堂も入っていた。
「私がお相手しましょう」
道場に入るなり、井上は平山にそう声をかけた。
平山は井上の方を振り向くと、右目でジッと井上を見る。
「あんたは?」
「ここの幹部の一人で井上源吾郎と申します」
「はーん。お前がか。あんたならいいや。相手してもらうか」
「わかりました」
井上はそういうと面をつけて竹刀を手にする。
それを見ると平山はこう尋ねた。
「さすがにアンタが相手じゃそれなりの準備させてもらうわ。構わねえな?」
井上が頷くと平山は指を鳴らす。
するとヤクザらしい男二人がバッグを二つ持って現れた。
男たちはバッグを置くと逃げるようにして去る。
平山は一つのバッグを空けると中から何かを取り出した。
取り出したのは耐火服。
(な、何だ!?)
予想もしないものが出てきたのでさすがの井上も驚いた。
平山はあっという間に耐火服を着込むともう一つのバッグを開ける。
中から取り出したのは、袋。
袋には小麦粉と書かれていた。
平山はその袋を引きちぎると、道場内に中身をぶちまける。
あっという間に練習場内は小麦粉の噴煙で充満した。
(小麦粉・・・耐火服・・・まさか!!)
井上の脳裏にある事件の記憶が蘇ってきた。
それはある大手空手道場で起こった事件だった。
かつて世界各地から五人の超人的な身体能力を持つ凶悪死刑囚が脱獄し、日本の東京に現れるという事件があった。
彼らは全員が逮捕されたのだが、それまでの間に渋川剛気をはじめとする高名な格闘家たちと凄まじい決闘を繰り広げた。
そのうちの一人にヘクター・ドイルというイギリス人がいた。
彼は空手界の巨人、愚地独歩の道場へ乗り込み、恐ろしいことに小麦粉を道場内に充満させ、火をつけて道場を爆破、館長の養子である愚地克己を含む多数の門弟に重傷を負わせるという事件を引き起こしていた。
格闘界でも屈指の大道場で起こった事件ゆえ、格闘界で知らない者は誰もいない。
そのため、平山の行動を見るやその事件のニュースがすぐにフラッシュバックしたのである。
「皆!逃げろ!」
必死の表情を浮かべて叫ぶや、火をつけさせまいと井上は平山に飛びかかる。
だが、井上が組み付くより先に平山がライターで火をつけた。
 耳がつんざかれるかと思うほどの轟音と地震かと思えるほどの衝撃が井上の全身を襲った。
井上は猛烈な勢いで壁に叩きつけられる。
「うぐおっ!」
クレーターが出来るほどの勢いで叩きつけられた井上に、熱風が襲いかかる。
まるでオーブンで焼かれているかのような感覚を覚え、また周囲が煙で完全に覆われているため、何も見えない。
(どこだ・・・どこに・・)
不意に、井上は正面にぞっとするほどの冷たい気配を感じた。
底冷えがする、氷のような闘気だった。
闘気を感じた方位に井上は目を向ける。
すると、煙の中にランランと光る眼光が一つだけ見受けられた。
(来る!)
殺気を感じた井上は竹刀を構える。
相手も井上の様子に気付いたのだろう、走り出したらしく足音が急速に近づいてくる。
足音が止まると同時に煙の中から木刀が突き出されてきた。
隙だらけの動きだったため井上は難なくかわす。
かわすと同時に気配の様子であたりをつけ、井上は竹刀で思い切り打ち込む。
だが、煙の中で井上は相手に受け止められるのを感じる。
次の瞬間、井上は胸部にとてつもない痛みを感じた。
(なっ・・・。い、いつの間に!!)
肋骨が数本へし折れたのを感じると同時に井上は驚愕の表情を浮かべる。
敵が攻撃を受け止めて切り返してきたのは予想できた。
だが、いつ打たれたのか全くわからなかったのだ。
あまりに切り返しが速いゆえに目で捕らえることが出来なかったのだろう。
だが、考えにふける暇は井上にはなかった。
井上が背を丸めると同時に木刀が真っ直ぐ突き出されてきたからだ。
木刀はもろに井上の腹部を突く。
突きの衝撃で後ろの壁に大きな穴が空いた。
コンクリートの破片が幾つも庭に落下する。
同時に井上も大穴から宙へ飛び出した。
吹っ飛ばされた井上はそのまま中庭へ落下する。
ドンッ!という音と共に、井上は背中から地面へ叩きつけられた。
「うぐおっ!」
井上は一度呻き、背を仰け反らせる。
その直後、意識を失った。

 30分ほど後、葬儀場。
その一室で近藤はぐったりとしていた。
ついさっき、犠牲になった門弟達が火葬されるのを見送ったところだ。
遺族の嘆き悲しむ姿を思い出すたびに近藤の心は鉛のように重くなった。
近藤が椅子に腰かけて休んでいると、慌しく扉が開いた。
何だと思ってドアの方を見やると山崎が深刻な表情で駆け込んできた。
「どうした?山さん?」
途端に近藤の顔つきが変わる。
「近藤さん・・・落ち着いて聞いてくれ・・・道場がやられた!」
「何だと!本当か!?」
「ああ・・・。いきなり道場破りらしい奴が現れて、そいつは源さんに勝負を挑んだかと思うと、道場内に小麦粉を充満させ、ライターで粉塵爆発を起こして道場を吹っ飛ばしたんだ!!」
「な・・何てことだ・・・!!」
近藤はあまりの事態に両拳をわななかせる。
「源さんは?平太郎たちはどうした!?」
「病院に運ばれた。幸い命に別状は無いらしい。だが、大怪我してるそうだ」
「すぐに病院に行くぞ!!」
近藤はそういうと慌しく出て行った。

 井上は病院のベッドの上で昏々と眠っていた。
身体中に包帯を巻き、鼻に管を通している。
その隣では平太郎や爆発に巻き込まれた弟子たちが何人も眠っていた。
「源さん・・・無念だったろう・・・。悔しいだろう・・・」
近藤は眠っている井上の手を握り締め、話しかける。
そのとき、不意に近藤の携帯が震動した。
「もしもし」
近藤が電話に出ると、知らない声が尋ねてくる。
「くくく・・・近藤さんかい?」
「ああ、そうだ。誰だ、お前さんは?」
「俺の置き土産は受け取ったようだな」
「何だと?」
「松本病院で寝転がっていやがる年寄りのことだよ。クックッ。馬鹿な野郎だ。弟子どもを助けようとしててめえから飛び込んできやがった。おかげでこんがり焼けたぜ」
電話の向こうから癇に障る調子で話しかけてくる。
友人を侮辱する言葉に、思わず近藤は声を荒げた。
「黙れ!源さんを侮辱する奴は許さん!貴様がやりおったな!」
「クックッ。ご明察だ。そうだ、てめえの弟子も年寄りの師範も俺がやったんだよ」
「貴様・・・いい度胸だな・・。どういうつもりだ・・」
近藤はブルブルと震えながら問いかける。
その表情は怒りで凄まじいものへ変化していた。
「俺のいるところを教えてやる。郊外にある廃工場だ。番地は・・・」
そういうと相手は番地を話す。
「クックッ。会うのを楽しみにしてるぜ。あばよ」
それだけいうと向こうは電話を切った。
 ガシャッ。
電話が砕け散る音と共に、近藤の掌中から携帯の破片がボロボロとこぼれ落ちる。
「ふざけおって・・・。誰だか知らんが、源さんたちの仇!放っておけるか!」
いきり立つや近藤は頭から湯気を出しながら病室を後にした。

 試衛市北部、郊外にその工場はあった。
かなり年月が経っているらしく、壁や天井はボロボロになっており、所々穴が空いている。
その工場の正面へ一台の車が乗りつけた。
車は中古の普通乗用車。
どこの家庭にもありそうなやつだ。
車が止まると同時にドアが開き、一人の男が降りた。
車から出てきたのは近藤。
近藤は動きやすい格好になっており、手には日本刀を提げている。
刀を提げたまま、近藤は中へ進んでいった。
 内部へ足を踏み入れた近藤はあたりを警戒しながら歩みを進める。
不意に、彼は強烈な悪寒を覚えた。
(これは・・・殺気!)
あっという間に近藤の表情が変わる。
修羅場に身を置くもののそれであった。
同時に近藤は刀を身体に引き付け、左手の親指で鍔を押し上げる。
柄に手を伸ばし、いつでも抜き放てる体勢を取った。
 (どこだ・・・。どこにいる・・・)
じっと立った状態で、近藤は周囲の気配を探る。
殺気が一気に噴き出したかと思うほど強まった。
同時に背後に気配を感じ取る。
無意識に近藤は右へ動いていた。
それと歩を合わせるかのように、背後から白刃が振り下ろされる。
一瞬でも動くのが遅れていたら真っ二つに斬られていたところであった。
お返しとばかりに近藤は刀を抜き放つ。
抜くと同時に背後を向き、刃が襲ってきた方向めがけて突きかかる。
だが相手もそれに気付いていたのだろう、刃の届かないあたりまで下がっていた。

 近藤は刀を抜くと、相手と対峙する。
敵はゆっくりと暗がりの中から姿を現した。
現れたのは片目が潰れた見知らぬ男。
闇にまぎれる色合いの服に身を包み、日本刀を構えている。
男の身体からはぞっとするほど冷たい気が噴き出している。
近寄る者全てをおののかせ、心の奥底から凍らせてしまうかのようなそんな気だ。
同時に近藤は男のたった一つの目を見ていた。
男の目はどんよりとした鈍い光をたたえている。
とろんとしたその瞳は尋常の人間のものではなかった。
(あの目は・・・殺人者の目だ・・・)
一目で近藤にはそれがわかった。
 公式にはされていないが、近藤はその腕前ゆえに警察に頼まれ、凶悪な犯罪者を取り押さえるのに協力したことが何度かある。
それらはいずれもとんでもない連中で、人を殺傷した経験がありそれを何とも思っていない者たちばかりだった。
そういう手合いのいずれもがこのような目をしていた。
彼らにとっては人を殺すということは食事や排泄をするのと変わらないことなのである。
 「クックッ・・・どうやら期待できそうだな・・・」
「何者だ?」
「普通なら名乗ったりはせんだろうが、冥土の土産に教えてやる。芹沢組屈指の腕利きと知られた平山五太郎とは俺のことだ」
「やはり・・芹沢組か・・。貴様、俺を誘い出すために源さんや門人達に危害を加えおったな?」
「クックッ。ご名答。仲間思いなテメエのことだ。頭に血昇らせて一人でノコノコ飛び込んできおった!!」
平山は嘲笑するように言う。
「おのれ!皆の仇!!」
近藤は叫ぶや斬りかかる。
刃と刃がぶつかり、派手に火花を散らした。

 刀同士がぶつかり、鍔迫り合いとなる。
互いに顔と顔がくっつくほど、刀が相手の肩や胸につきそうになるほど接近する。
刃同士ががっしりと組み合ったまま、二人は走り出す。
走りながらも二人は鍔迫り合いを続ける。
駆ける音と刃の噛み合う音とが奇妙に入り混じり、工場内にこだました。
「ふっ!」
突然、平山が肩をぶつけてくる。
その衝撃で近藤はほんの一瞬だが身体がかしいだ。
チャンスといわんばかりに平山は片手で横薙ぎに剣を繰り出す。
近藤は後ろに下がって切先をかわす。
彼の鼻先すれすれを切先が通り過ぎるや、近藤は右足を踏み込ませる。
踏み込むと同時に刀身を横に寝かせて突きを繰り出す。
平山は素早く刀を戻し、それを受け流す。
二つの切先がジャブのように、互いに相手に向かって幾度も繰り出される。
切先が動くごとに火花が飛び散った。
突きの応酬をしながら近藤は巧みに相手の左側へ向かって動く。
ジリジリと、焦りそうになる気持ちを押さえ、近藤は平山の左側へ回った。
平山の突きを受け流すや、近藤は彼の肩口を狙って切り込んだ。
よく鍛え上げられた刀身が平山の左肩めがけて振り下ろされる。
だが、金属同士が噛み合う音と共に、近藤の剣は空中で停止した。
平山の剣が受け止めたのだ。
受け止めたかと思った次の瞬間、平山の剣がぶれたかのように見えた。
ぶれたと思うや、平山の剣が消える。
その直後、近藤は自分の右ももに焼け付くような痛みを感じた。
 
 近藤が右ものをみやると、ズボンが切り裂かれている。
右ももには斜めに切り傷が走っている。
だが、切り傷があったのは一瞬だけでまるで魔法でもかけたかのように傷は自然にくっついてしまった。
だが、その代わり不思議なことが起こった。
傷が閉じると同時に、傷のついた箇所から青い染みが広がり、大きな斑点が生じたのである。
同時に、近藤は足に苦痛と違和感を感じる。
(動脈を斬られたか!!)
近藤はそう確信していた。
腿に出来た青い斑点が規模の大きい内出血だと気付いたのだ。
「クックッ・・・さすがに気付きやがったな。そうだ。俺は長年の修業のおかげである技を身につけた。俺は目では捉えられぬほどのスピードで剣を振るい、人を斬れる。あまりに速いもんだから斬っても皮膚と筋肉はくっついちまうのよ。だが、血管や内臓・骨は確実に断ち切る。だから外傷は全く無いのに内臓や動脈は斬られてる、切られた死体にゃあ内出血で妙な斑点が出来るなんつうおかしなことになるわけよ。へッへッ、名づけて『秘剣・稲光(ひけん・いなびかり)』よ。稲光は一瞬見えたと思ったらすぐに掻き消えて見えなくなっちまうからなぁ」
「ベラベラとしゃべるとは・・よほどおのれの技に自信があるようだな」
近藤の言葉に、平山はニヤリと笑う。
「今だかつて・・・俺の秘剣を破った奴はいない。貴様も葬ってやる」
 平山はそう宣言すると剣を構えなおす。
剣を構えると、平山はジリジリと近藤へ接近する。
一歩また一歩と刃が近藤に迫る。
両者の間合いがぶつかり合い、相手に届く範囲に互いが入った。
平山が剣を振りかぶるや腕ごと剣がかき消える。
剣が再び近藤の視界に現れると同時に、今度は左二の腕の内側が斬られ、袖の切り口から斑点が覗いている。
(くそっ・・・み、見えんっ・・・)
さすがの近藤も冷や汗をかいていた。
相手の攻撃が見えなくてはどこから来るかわからない。
どこから来るのかわからなければ防ぎようがない。
奴が必殺の一太刀を繰り出してくれば、内臓や骨を断たれてあの世行きは間違いないだろう。
再度剣がかき消えたかと思うや、今度はズボンの左ももに突いた跡が生じる。
「クックッ・・・そう簡単には死なせねえ。ペスト患者みてえに身体中斑点だらけにしてやる」
どこか狂気めいた光を片目に浮かべるや、平山は見えない剣を振り下ろしまくる。
あっという間に近藤の服はズタズタになり、見事なまでに鍛え上げられた上半身が露出している。
その姿は凄まじいものであった。
タンポンで真っ青な絵の具を身体中にこれでもかと言わんばかりにつけたかのように、あらゆる場所に青い斑点が浮かんでいる。
「くっ・・・ぬうぅ・・・」
近藤は立っているものの、だんだんと頭がクラクラとしてきた。
「クックックッ・・・身体のあっちこっちで血が詰まってきやがったな。脳味噌に酸素が足りなくなってきてんだろう?天下の近藤もざまあねえな」
「だ・・黙れ・・・」
近藤はそういうや突きを繰り出す。
だが、どことなく力が無い。
平山は難なくそれを受け止めると思い切り弾き飛ばした。
弾き飛ばされた剣は宙高く跳ね上がると、回転しながら落下する。
やがて数m離れた地点に突き刺さった。
 「さあてと・・・そろそろ始末してやるか・・・」
ようやくその気になったのか、平山はそういうと切先を近藤の腹に向ける。
剣がぶれたかと思うと掻き消えた。
平山は確かな手ごたえを感じると剣を抜こうとする。
だが、抜こうにも抜けない。
平山が一つしかない目をカッと見開いてみてみると、近藤が自分の腹に突き刺さった剣を両手でがっしりと握り締めていた。
「このときを・・・待っていた・・・」
近藤は腹に剣を突きたてられたまま、ニヤリと笑みを浮かべる。
「確かにお前の剣は速い。どんな奴でも目で捕らえるのは無理だろう。だから避けるのは無理だ。だが、身体に刺さってる僅かな瞬間ならそうもいかん」
「クッ・・・ちくしょうっ・・・」
平山は刃を引き抜こうとするが抜けない。
「無駄だ。肉を噛ませた。抜けはせん」
同時に近藤は両手に力を入れる。
亀裂が入る音と共に、平山の刀は二箇所でへし折れた。
「くそっ!」
とっさに平山は殴りかかろうとする。
近藤は平山の手を取るや、懐に入り込む。
平山の襟首を掴むや、背負い投げの要領で思い切り床に叩きつけた。
ドオオンン!
強烈な衝撃と共に平山は投げ倒される。
床に直径一メートルのクレーターが生じ、その上で平山は右目を向いて気絶していた。
 「くっ・・ちいとやっかいな相手だったな・・・」
近藤はそういうと、携帯電話を取り出す。
「ああ、もしもし。警察ですか?ええ。実は辻斬り犯を捕まえましてね。はい。そうです。郊外の廃工場です。すぐにパトカーをよこして下さい」


 それから一週間後のこと・・・。
「源さん!退院おめでとう!」
近藤はそういうと、井上に退院祝いの品を差し出した。
「ありがとうございます、近藤先生。色々とお手数をかけてしまったようですね」
「いや、構わんよ。それにしても災難だったなぁ。源さん」
「はい。それより近藤先生こそ大丈夫なんですか?平山と斬り合ったのでしょう?」
「ハッハッハッ。さすがにあっちこっち斬られたが、医者の手当てがいいんだろうな。三四日したらけろりと治ったよ。ハッハッハッ」
近藤は何事もなかったかのようにカラカラと笑う。
「それにしても・・さすが芹沢組ですね。あんなとんでもない男を抱えているなんて」
「うむ。だが奴は刑務所送りになったよ。さすがにいくら芹沢組でもしばらくはなりを潜めるだろう。取引相手のシャドルーも壊滅状態になったようだし」
「ええ。でも油断は禁物ですね」
「なぁに。奴らが悪巧みを仕掛けてくればそのつど追い払えばいいのさ。それよりも源さん。東グループや二階堂グループから色々と見舞いの品をもらったからなぁ。こっちもお礼に何か送らないとなぁ。何がいいかなぁ」
「そうですね・・・どんなものが喜ばれるでしょうかねぇ・・・」

 同じ頃、芹沢組総本家。
「くそっ!平山がぱくられたか!」
芹沢は歯噛みして口惜しがる。
「はい。しかもシャドルーが南米で壊滅した模様です。それに調査したところでは、どうもハワードコネクションにしてやられたようです」
「ああ。だからシュトロハイム家が俺達との友好関係締結を渋ったわけだ」
芹沢は忌々しそうな表情で言う。
ハワードコネクションによる策謀は既に芹沢の耳に入っていた。
ギースにしてやられたことに芹沢は大きな不快感を隠しきれなかった。
「平山については私の方で何とか脱走させます」
「頼むぞ。奴はうちの大事な戦力だ。それにしても忌々しいのはギース・ハワードの野郎だ。この俺をダシに使いおって・・・」
芹沢は怒りを辛うじて抑えて言う。
「しかし奴の勢力は相当なものです。それに今は平山も動けぬ身。報復は無理かと」
「安心しろ。俺もそこまで馬鹿じゃねえ。だが、いつか奴には思い知らせてやる」
芹沢は憎々しげにそう言い放つ。
「それよりも目下急なのは平山の問題です」
「何かあるか?」
「はい」
「わかった。全て任せる」
「かしこまりました」
一ヵ月後、死刑になるはずだった平山が刑務所から脱獄というニュースが新聞の一面を飾り、大きく報道された。
同時に、ヨーロッパの方で芹沢組関係者と思われる人物が出没しているとの噂も聞かれるようになった。
噂によれば、芹沢組はシュトロハイム家をはじめとするヨーロッパの裏社会とのコンタクトを取っているとのことらしい。

 ―完―

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