清河策動1



 紅蓮の炎が燃え盛っていた。
炎は畑という畑を焼き尽くしている。
一人の男があらん限りの声を絞って火を消せと喚いているが、あまりの炎の強さにどれほど水や消化剤をかけようが焼け石に水だった。
 別のところでは機銃を搭載したジープが銃を乱射しながら炎に向かって疾走している。
ライフルやロケット砲で武装した荒くれ男たちがジープを食い止めようとするが、ジープは弾幕やロケットをかいくぐり、一人の男目がけて突進してゆく。
やがて、畑の主である男の目にジープがはっきりと映し出される。
男は相手の狙いが自分であることに気付き、逃げようとする。
だが、それを見越したかのようにジープの後部座席から一人の男が超人的な跳躍を持って男に飛び掛る。
ジープと襲われた男の間には実に10mあまりの距離があった。
襲われた相手が気付いたときにはおのれの顔面に鉄拳がめり込んでいた。
男は白目を向くと同時に意識が薄れる。
意識が薄れながら、その男は自分を殴り倒した男とその部下達との会話の一部始終を聞いていた。
「ハラダ隊長!作戦終了しました!」
「よし。こいつら全員引っ立てろ!あと施設は全部破壊しろ!二度と使えねえようにするんだ!!」
「はい!」
意識を完全に失う直前、男が見たのは、自分の畑や精製工場が跡形もなく吹っ飛ばされる姿だった。

 それから数日後、中東・砂漠地帯のさるオアシスに構えられた宮殿。
アラビアンナイトにでも登場しそうなその豪奢な宮殿の一室から凄まじい怒号が外に漏れ聞えてきた。
 「おのれっ!おのれおのれおのれ~~~~~~~!!!!!!!」
激昂のあまりその男は我を失っていた。
その男は格好こそ中東の大富豪や王族と変わらなかったが、肌や髪の色が日本人であることを示していた。
背丈が高くすらりとしたその男は、目がギョロリとした面長なその顔をすさまじいまでの憤怒の表情に彩っている。
男の名は清河紘八(きよかわこうはち)。
かの清河八郎の末裔であり、中東での石油採掘業で莫大な富を得たやり手の日系ビジネスマンとして世間では知られている。
だが、彼にはとてつもない裏の顔があった。
彼はアフガニスタンやインドシナ半島に秘密裏に土地を持っている。
そこで麻薬や兵器の製造を行い、非合法なルートで売買し、それによって中東や東南アジアの反米組織をはじめとする世界各地のテロ・ゲリラ組織に対する支援を行っているのである。
その規模は相当なもので先進諸国政府のブラックリストにその名が掲載されているほどであった。
 しかし、そのテロの首魁の表情はまるで手負いの獣とでもいうほど凄まじいものであった。
それも無理はない。
彼が激怒するような知らせからインドシナから届いていたのである。
彼はタイ・ラオス・ビルマの「黄金の三角地帯」、麻薬の主生産地として悪名高いこの地域に麻薬の一台生産地を築いていた。
ここで製造した麻薬を日本や中国、さらにはアメリカへも輸出していたのである。
そしてそれによって得た資金をチベット人やウイグル人、あるいは東南アジア諸国のマイノリティーによるテロ組織の支援に当てていたのだ。
ところがそこの施設が徹底的に破壊されてしまったのである。
アジア主要国並びにアメリカへ輸出する分をここで生産していたため、アジア・アメリカ方面での活動に大きな悪影響を及ぼす事態であった。
 しかも、彼にとってなお怒りの火に油を注ぐかのように、それを実際に遂行したものたちは新撰グループの社員達だった。
原田率いる斉藤警備保障会社・海外部門の精鋭たちが、インドシナ三国政府から依頼を受けて完膚なきまでに壊滅させたのである。
原田とその部下達は今までにも各国政府の依頼を受けて、清河の息のかかった組織を壊滅させている。
幾度もそのような苦い経験をさせられたことと祖先がかつて彼らの祖先である新撰組関係者に裏切られた(清河にとっては、近藤勇たちが彼と袂をわかって会津藩のもとで新撰組を立ち上げたのは、崇拝する祖先に対する許し難き裏切り行為だったのである)事情が清河の新撰グループに対する憎悪と恨みの念を深めていた。
それは清河の日本における麻薬取引の主要な相手である芹沢組ですら一歩先を譲るほどのものであった。
「おのれ~~~。新撰グループめがああああ!!!!!!
清河は怒りの雄叫びを上げると、持っていた新聞を床に叩きつける。
同時に、傍らに置いてある電話の受話器を取ると、二言三言受話器に向かって話した。

 10分ほどすると清河の部屋のドアが開き、二人の人物が入ってきた。
一人は身長180センチを越え、岩のようにがっしりとした力強い体格に日焼けした肌、修羅場を何度も経験したことを思わせる精悍な面立ちをした男。
この男の名は宮部鼎(みやべてい)。
清河の組織の戦闘部隊の主要な隊長の一人で、彼が行ったテロ行為は数知れず、テロ・ゲリラの世界では名の通った人物だ。
ちなみに、彼の祖先は池田屋事変で獅子奮迅の働きを見せ、近藤勇と死闘を演じた尊攘志士の巨魁・宮部鼎蔵である。
 もう一人は背丈高く、すらりとした身体に科学者用の白衣を纏い、目元の涼やかな美男子。
彼は伊東甲一(いとうこういち)。
伊東甲子太郎の血を引く人物で、兵器開発部門のトップとして清河の組織で働いていた。
「お呼びですか?清河首席同志?」
宮部は清河の前に立つと尋ねた。
ちなみに首席同志というのは、宮部をはじめとする部下達が清河を呼ぶときの敬称である。
彼らは自分たちを革命組織として位置づけているため、このような呼び方をしているのである。
「よく来てくれた、宮部同志、そして伊東同志よ。君たちにやってもらいたいことがある」
「何なりと。首席同志の仰せのままに」
「うむ。実は新撰グループの連中のことだ。奴らを何とかしてくれんかね。理由は言わずともわかるだろう?」
「はい。我らは常に奴らに煮え湯を飲まされてまいりました」
「そこでだ。奴らに一泡吹かせてやれ。手段は君たちに一切任せる。我らが開発した兵器を好きなだけ使え。伊東君、君も兵器面での協力を惜しまないでくれたまえ」
「はっ」
「ではすぐにも取り掛かってくれ」
清河の命を受けると二人はすぐにも部屋を去る。
二人の姿が消えると、清河は机上のシガレットケースからハバナ産葉巻を取り出すと、火をつけた。
「ふっふっふっ・・。新撰グループの奴らの慌てふためく様が目に浮かぶようだわ・・・」
清河は意地の悪い笑みを浮かべると、思い切り紫煙をふかした。


 二週間後、日本・試衛市。
土方製薬本社の近くにその店はあった。
こじんまりとした、こぎれいなその店は和風の居酒屋でカウンターもテーブルも客であふれている。
客は夜という時間帯を反映してか、仕事帰りのサラリーマンがほとんどだった。
カウンターの向こうでは一人の女性が忙しそうに客に酒や肴を出している。
せわしなげに働いているのは年は27,8歳、168cmくらいの健康的な身体つきに愛敬のある顔立ちをした若い女性だった。
「女将さん、枝豆とビール一丁!」
「はい毎度~」
中年の男性が注文をすると、明るい声で店主らしいその女性は注文された品を出す。
カウンターで酒を飲んでいた井上源吾郎は酒を飲みながら、カウンターの向こうにいる女性に話しかけた。
「何かご機嫌ですねぇ、政代(まさよ)さん」
「源さん、やっぱりわかるぅ?」
政代と呼ばれた女性はそう言うと井上に笑顔を見せる。
「もしかして原田さんが帰ってこられるんですか?」
「そうなんよ~。3ヶ月ぶりに左之が帰ってきはるんよ~。もう、うち嬉しくて嬉しくて今から待ち遠しいんやわ~~~~」
政代は京都弁混じりで矢継ぎ早に言うと、どこか浮かれたような素振りを見せる。
政代は原田の妻で、『八つ橋』という名の居酒屋をやっていた。
ちなみに井上をはじめとする新撰グループ・誠衛館の主要関係者たちはこの店の常連客である。
もっとも、ここに来るときは普通のサラリーマンや近所のおじさんといったお忍びスタイルなので、ここを贔屓にしているグループ企業の社員や館の門人たちも自分たちの社長や館長がこんな小さなこじんまりとした店に来ているとは気付いていないらしい。
 「そうですかぁ。原田さんが帰ってこられるんですか。それを聞いたら近藤先生も喜ばれるでしょうね」
「うち、空港まで迎えに行って驚かせてやろうと思うとるんよ?源さん、どう?」
「いいですねえ。原田さん、きっとびっくりするでしょうね。でも、喜んでくれるでしょうねえ」
「そう?」
「そうですよ。原田さん、帰ってこられると必ず道場にも顔出されるんですが、よく政代さんの話をしていきますからね」
「嫌やわぁ、源さんったら。恥ずかしいやないのぉ」
政代はそういうと照れくさそうな表情を浮かべ、顔をぽっと赤くする。
あの夫のことだ。
きっとあけすけにノロケ話を聞かせているに違いない。
「やっぱり・・目茶苦茶惚気てるん?源さん?」
「ええ。こっちまで当てられて顔が真っ赤になりそうなくらいですよ」
井上は苦笑を浮かべながらそう言った。


 その三日後、成田空港。
「はぁ・・・相も変わらず平和だなよぁ・・・」
空港内の到着ロビーに現れるや、原田は空港内を見回し、そうつぶやいた。
日本に帰ってくるたびに、彼の過ごす場所とのギャップを感じずにはいられない。
硝煙の匂いや矢玉飛び交う中で過ごす彼としては無理からぬものがあるだろうが。
原田がスーツケースをガラガラと引きながらロビー内を歩いていると、飛行機から降りた客を出迎える人々の姿が目についた。
 「あんた~~~~~~~~!!!!!」
不意に誰かが大きな声で呼びかけるのが聞えた。
出迎えの人々が集まっているあたりに原田はすぐに目をやる。
戦場で鍛え上げられた目がすぐに声の主を見つけた。
 声の主は政代。
政代はこぼれんばかりの笑みを浮かべ、ちぎれそうなくらい勢いよく手を振っている。
「おまさ~~~~~~~~~!!!!!!」
原田は妻の愛称を叫ぶや、スーツケースを放って飛び出した。
6,7メートルは離れていたにも関わらず、たった一跳びで政代の前に着地する。
その超人的な跳躍力に他の搭乗客や職員は呆気に取られた表情を浮かべる。
「あんた、お帰り~~~」
「おう!帰ったぜ!」
二人はそういうと互いに抱きしめ合う。
「んもう、3ヶ月も留守にするからうち寂しかったんよ」
「俺だって早くお前に会いたくてウズウズしてたんだぜぇ」
人が見ているのも構わず二人はアツアツカップルそのものの素振りを繰り広げる。
「さぁ、早く帰ろうやん」
「おう」
二人は互いに腕を組んで寄り添うとそのまま歩き出そうとしたときであった。

 数歩歩いたところで、突然原田が歩みを止めた。
「どうしたん?」
思わず政代は尋ねる。
何かを察知したのか、原田の表情が変わっていた。
久しぶりに帰国して愛妻に会った男の顔から、修羅場の渦中にいる男のそれへと変わっていたのだ。
「おまさ!俺から離れろ!」
「え?な、何でぇ!?」
「いいから!早く!」
言うなり原田は政代を突き飛ばす。
「痛あっ!何するん!?」
思わず抗議の言葉が口から出るが、夫の様子がおかしいことに気付くや、押し黙る。
原田の目は周りを油断なく警戒している。
そして、それは理由のないことではなかったことがすぐ明らかになった。

 突然利用客の間からおかしな一団が現れた。
全員が長いコートに身を包んだ男たちだ。
男たちの国籍は様々で、白人もいれば東洋系も黒人もいた。
原田は男たちのいずれもがコートの下に何かを隠し持っていることを瞬時に見抜く。
それと同時に連中はコートを思い切りひらめかせ、隠しているものを取り出した。
 コートの下から現れたのは銃。
それも短機関銃や突撃銃だ。
首領格らしい男が二言三言叫ぶや、男たちは一斉に銃を構える。
同時に、全ての銃口が原田目がけて一斉に火を噴いた。


 「あああ、あんたぁぁぁぁぁあああああ~~~~~~~~」
政代は目の前の光景に思わず絶叫する。
見知らぬ連中が現れたかと思うや、夫目がけて一斉に銃を乱射したのだ。
声を上げずにはいられなかった。
原田はとっさに床を蹴って飛び上がる。
銃弾の嵐はターゲットを見失うや、壁や床に小さな穴を蜂の巣の如く刻み付ける。
空薬莢が宙を舞い、十数もの銃口が激しく上下している間に、ロビー全体は騒然となる。
銃弾を逃れた原田はすかさず敵に真っ只中に飛び込んだ。
原田は敵の一人の顔にパンチを叩き込むや、持っていたライフル銃を奪い取る。
奪った銃を逆手に持つや、当たるを幸い周囲の敵を目茶苦茶に殴りつけた。
接近戦になったために敵も銃を撃てない。
撃てば味方に当たるからだ。
「殴れ!殴り倒せ!!」
襲撃者の一人が英語でしゃべる。
それを聞いた他の者が次々に銃を逆手に持つや、原田に撃ちかかろうとした。
「ってなめんじゃねええっっっ!!!!」
原田は叫ぶや、目にも止まらぬ勢いでキックの嵐を繰り出す。
数十もの蹴りの残像が現れ、ライフルで殴りかかろうとした者たちをことごとく吹っ飛ばした。
 政代は原田が襲撃者を悉く吹っ飛ばしたのを見てほっと息をつく。
だが、彼女が夫の方を向いた瞬間、彼の表情がまた変化したのを見た。
不審に思った瞬間、自分の足元に自分のとは別の影が出来ていることに気付く。
慌てて後ろを振り返るや、見知らぬ男がいた。
 いたのは屈強そのものの体格をした大柄な男。
宮部鼎だ。
政代が気付くや宮部は首筋めがけてチョップを打ち下ろす。
うっ、と小さな声でうめくや政代は気を失って床に崩れ落ちる。
「おまさ!」
原田は声を上げると宮部に飛びかかろうとする。
だが、それよりも早く宮部が脇に吊るしていた拳銃を抜き出した。
宮部が手にしたのは大きなリボルバー。
映画「ダーティハリー」でお馴染みの44マグナムだ。
 ドォン!ドォン!ドォン!
宮部は立て続けに三発、顔面を狙って銃弾を放つ。
正確無比な射撃で、相手がただの人間だったならば間違いなく当たっていただろう。
原田は巧みに左右に上体を反らして弾丸をかわす。
同時に敵から奪ったライフルを持ち替え、片手で狙いをつけようとする。
だが、片手で反動の大きい銃を撃ちながらもう片方の手で何かを投げた。
投げると同時に宮部は両目を隠す。
直後、目が潰れそうなくらい強烈な閃光が煌いた。
警察などが凶悪犯鎮圧に使う閃光手榴弾に似ていたが、その光はそれとは比べ物にならないほど強かった。
思わず現場から逃れようとしていた利用客、駆けつけようとしていた警備員の全員が閃光を受けたことで目を覆い、背を丸めた。
この手の閃光弾を受けた場合、誰もが本能的にそういう動きをするのだ。
だが、閃光を受けなかった宮部はその隙に逃げ出そうとする。
もう一人、身体を丸めなかった人間がいた。
 「逃がすかっ!!」
原田はまともに閃光を浴びたにも関わらず仁王立ちしていた。
彼は見えなくなった目の代りに耳と鼻を働かせる。
走って逃げようとする宮部の足音と体臭、肩に担がれている政代の体臭を原田は正確に察知すると、目が見えていないにも関わらず、正確に逃げる宮部の背中に狙いをつける。
「喰らいやがれ!クソッタレ!」
妻をさらおうとする不埒者に天誅の一弾を叩き込もうとした瞬間、全く別の方角から異様な音が聞えてきた。
 ズシンズシンという、内臓まで震わせそうな音が機械音と共に響いてくる。
ようやく視力が戻った原田は目の前に異様な存在を認識した。
「何だァ・・こいつは・・・」
思わず原田はつぶやいた。

 彼の目の前に立っているのはロボットだった。
そのロボットは身長は優に5mはある巨体で全体をアフリカのジャングルを思わせる緑色の塗装に塗られている。
顔は大きな楕円形で両眼は望遠鏡のように飛び出しており、口はクワガタムシのそれのようながっしりとしたハサミ型のアゴとなっている。
ロボットは肩の部分に一対、脇腹の部分にもう一対と計4本の腕を持っている。
脇腹から生えている一対の腕は肘から下が銃身になっており、上の両腕は手の部分がカニのようなハサミとなっている。
このロボットの名はトルクワス―2005。
伊東が開発した戦闘用ロボットだ。
彼はロボットを用いたテロ行為の為にこの兵器を開発していた。
今回、新撰グループのメンバーを抹殺する為に、この兵器を日本に持ち込んだのである。
「くそっ・・・こいつをぶっ潰さなきゃ、おまさをさらった野郎を追っかけられねぇって寸法かい・・・」
原田は忌々しげにつぶやくと、両拳を構え、大型ロボットと対峙し、ロボットを睨みつけた。

 ―続く―
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