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知られざる決闘



 うっそうと木々が生い茂る林の中、一人の男が切り株に腰かけていた。
男の年は34,5歳あたり、中背でがっしりとした逞しい力強い身体つきをしている。
髪は短めに切りそろえ、質実さを感じさせる顔立ちをしている。
身体には仕立てや材質のよいスーツを着ており、地位と財産のある者であることを暗に示していた。
男は布に包んだ細長いものを肩に立てかけ、両目を瞑ってじっと何かを待っている。
不意に、男は眉をピクリと動かした。
何かが地面を打つ音を聞き取ったのだ。
本当に小さな音だったが、男にはそれで充分だった。
音はこちらへ向かって段々と近づいている。
一分ほど立ったところで、男は目を開ける。
すると、男の正面、3mほどの距離を置いて別の男が立っていた。
 現れた男はこれまた変わっていた。
スーツの男とは対照的にすらりとした背の高い体格をしている。
無造作にはねた髪の下には涼やかな、だがどこかに白刃のような鋭さを秘めた面立ちをしている。
その目には光が無く、盲人であることを示していた。
細身の引き締まった身体には藍色の上着と水色のズボンを着、右手には杖をついていた。
杖は長さ1mほど、楕円の断面をした太くて真っ直ぐなもので朱色に塗ってある。
両端に金属製の石突のような金具をつけ、上端から23,4センチのあたりに二つの黒い鉄輪がはまっていた。
盲目の男はスーツの男の姿を認めると立ち止まる。
男はにやりと笑うと、スーツの男に声をかけた。
「久しぶりだなぁ、永倉さぁん」
盲人がそう声をかけると、永倉と呼ばれた男も返答する。
「あんたも変わりなさそうですな、河上さん」
スーツの男の名は永倉新造(ながくらしんぞう)。
新撰グループ傘下の永倉商事社長で誠衛館門人だ。
名前が示すように永倉新八の子孫だった。
盲人の男の方は河上彦市(かわかみげんいち)。
西日本でも有数の道場である維新館の師範である。
彼もまた、かの河上彦斎の子孫だった。
誠衛館と維新館の間では古くから交流があったため、二人は昔からの知り合いだった。
二人はかねてから野試合の約束をしており、今日がその日なのである。
河上はにやりと笑みを浮かべながら言い放つ。
「昨日は興奮して眠れなかったぜ。俺がどんな気持だったかぁわかるかい?」
「わかるぞ!初めて女と付き合ううぶな少年のような気持だったんだろう!?」
「そうだ!早く立ち会おうぞ!!」
「おお!」
永倉は大声で返事をすると、細長い包みを取る。
そして布を取って放り投げた。
布の下からは一本の日本刀が姿を現した。
永倉は柄を握るやすらりと抜き放つ。
刃をつぶし切先を丸めて刃引きにした刀身が陽光に反射してキラキラと煌くのを尻目に永倉は剣を中段に構える。
同じく河上も持っている杖を左腰に引き付け、右手で上端15センチくらいのところを、左手で杖の半ばくらいを持つ。
この朱塗りの杖の中には刃引きにした刀身が仕込んであった。

 二人は得物を構えたまま、じっとにらみ合う。
にらみ合いながらも、両者はジリジリと接近する。
亀のようなゆっくりとした歩みで両者は共に間合いを詰める。
一歩、また一歩と近づくごとに互いの息遣いが荒くなる。
同時に、二人の顔から噴き出す汗の量が増えた。
近づくごとに互いの身体から立ち昇る闘気が肌に迫ってくる。
まるで肌を焦がすような感触に二人とも緊張感を隠しきれないのだ。
(背筋が・・・ゾクゾクしてくる)
永倉は息を呑まずにはいられなかった。
接近するごとに喉の渇きがますますひどくなる。
河上の気迫がますます強く感じられ、彼の目には河上が実際よりも大きく、まるで巨人のように見えていた。
(何だって馬鹿なことやっているんだろう)
一瞬、そんな考えが頭をよぎる。
地位も財産もある人間がまるで子供のようにこんなことを本気になってやっている。
他の者が見たら馬鹿らしいと思うことは間違いない。
(だが、それがどうだというのだ)
曲がりなりにも剣を学んだ者ならば優れた腕前を持つものと腕を競いたいと思うのは当たり前ではないか。
彼は会社社長である前に一人の男、剣を学んだ者であった。
そう思いなおすと気が楽になる。
逆に、この状況が楽しくなってきた。
(さあ・・あんたの修業の成果!見せてもらおうか!)
永倉は心中で河上にそう叫ぶ。
それを見抜いたのか、河上がにやりと笑う。
(お望み通りにしてやるぜ!)
そう宣告してるかのようであった。

 不意に、河上が地面を思い切り蹴った。
永倉が気付いたときには、既に河上は永倉の懐に入っていた。
「チェエリヤァッッ!!」
奇妙な気合と共に河上が仕込杖の上端を握り締める。
キラッと杖の鉄輪の部分が煌いたかと思うや河上が逆手で抜刀し、永倉の腹めがけて斬りつけてきた。
「ぬうんっ!」
永倉はとっさに柄の部分で河上の斬撃を受け止める。
受け止めると同時に永倉は左手を柄から離し、河上の顔面めがけてパンチを繰り出す。
だが、河上は後ろに飛び退くや永倉のパンチをかわす。
(逃がすかっ!)
飛び退いた河上を追って今度は永倉が飛び掛る。
永倉は踏み込みながら突きを繰り出す。
二つの刃がぶつかり、火花を散らす。
同時に、二つの肉体が相撲取りの立会いのように激しくぶつかり合った。
 二人は顔と顔がくっつくぐらいに接近する。
永倉は両手で柄をしっかりと握り締めて河上を押しのけようとし、河上は鞘も用いて永倉の剣を押し返そうとする。
くっつき合ったまま、二人は幾度も回転し、立ち位置を目まぐるしく入れ替える。
グルグルと回転しながら、二人はあたりを移動する。
不規則な軌道を描いてあたりを移動しているうちに、不意に永倉はある木に背中をぶつけてしまう。
永倉はそれで一瞬、体勢が崩れる。
(好機!)
河上はすかさず永倉の胸めがけ、横薙ぎの一閃を繰り出す。
だが、姿勢を崩しつつも永倉はすかさず地面を蹴って4,5m近く飛び上がる。
目にも止まらぬ俊速で繰り出された河上の仕込杖は目標を外すや、永倉の後ろの木を直撃する。
 ドオン!
轟音が響いたかと思うと、直径50cm、高さ10mはあろう幹が仕込杖の当たった場所からメキメキとへし折れ、地面に倒れる。
同時に、飛び上がった永倉が河上目がけて急降下するようにして降りてきた。
永倉は河上の頭を狙い、空中から刃引き刀を振り下ろす。
空気が切り裂かれる鋭い音でそれを察知した河上はすかさず滑るようにして後ろへ飛び退く。
落ちてくる永倉の一撃は河上が立っていた場所の地面に叩きつけられた。
激しい音と共に大きな土塊が周りへ弾け飛んだ。
永倉の刀が叩きつけられたあたりには直径1mものクレーターが生じている。
永倉は切先を上げると、間合いを取って河上と再度対峙した。

 (さすがだな・・。当たったらえらいことになるところだった)
永倉はチラリと打ち倒された木に目をやり、冷や汗をかく。
(本気にならねば、倒せない)
永倉はそれを明確に覚っていた。
 (何て野郎だ・・・)
同じように河上も永倉に舌を巻いていた。
永倉が地面に剣を叩きつけた際の音、肌で感じ取った衝撃などから河上は吹っ飛んだ範囲を正確に認識していた。
確かに彼は盲目だ。
だが、その分彼はそれを除くあらゆる感覚が異様に発達していた。
そのために目が見えずとも周囲の状況を正確に脳裏に描き出すことが出来るのだった。
(見事だぜ・・・それに敬意を表して・・・俺の本気を見せてやる!)
河上の表情に変化が起こる。
永倉はそれを見逃さなかった。
 河上は呼吸を整えると同時に、身体から闘気をじわりじわりと噴き出す。
(来る・・・!)
永倉はごくりと息を呑んだ。
河上は気を練るとそれを仕込杖に注ぎ込む。
やがて、仕込杖の刀身が緑色の光に包まれた。
 闘気を仕込杖にまとわせながら、河上は耳と鼻をヒクヒクと動かす。
耳は永倉の息遣いを、鼻は彼の汗と体臭を捉える。
「ふうむ・・・距離は5m、こっから・・左側か・・」
(当たって・・る・・)
永倉は既に知ってはいたにも関わらず、河上の驚異的聴力と嗅覚に驚きを禁じえなかった。
「構えは・・・中段・・平晴眼か・・・。おや、息がちいと荒くなりおったな・・。びっくりしたんだな・・・。へっへっへっ、今さら驚く何ざぁ修業が足りねえぜ」
見えない目を永倉の方に向けると、河上は再び口を開く。
「へぇへ・・・行くぜ」
河上はそうつぶやくと、闘気をまとった仕込杖を一旦鞘に仕舞う。
そして右足を一歩踏み出して上体を低く構え、右膝を立てながら左膝を大きく後ろに伸ばして地面すれすれに左膝を折った体勢で杖を腰に引きつけて構える。
右手を普通の持ち方で杖の上端に添えたかと思うと、河上は地面を蹴った。
小さな土くれがあがったかと思うや、河上は永倉の目の前にまで接近していた。
(速い!?)
永倉が気付いたときには避けきれない距離にまで接近されていた。
河上が抜刀したかと思うと光をまとった刀身が永倉の胸元目がけ、袈裟懸けに振り下ろされる。
ゴッ!
鋼鉄の棒で思い切り殴られたかのような凄まじい衝撃が永倉の胸に走る。
刀身が胸に思い切り当たったのだ。
(ぐう・・・あ、アバラが・・)
永倉は思わず声を漏らしそうになる。
アバラが3,4本やられたかもしれないと思ったのだ。
刃は猛烈な勢いでそのまま地面へ振り下ろされる。
刀身が地面に叩きつけられたそのときだった。
突然、永倉の足元が光った。
永倉が何だかと思う間もなく、光の柱が直径2m、高さ10mにもわたって地面から噴き上がった。
「ぐおおおおっっ!!!」
衝撃で永倉の身体は宙高く舞う。
光の柱が消えると同時に永倉は落下し、地面に叩きつけられた。
「ゴホッ!」
永倉は咳き込み、立ち上がろうとする。
服はボロボロになり、まるで蓑虫のような姿だった。
全身を痛みが狂ったように走り抜ける。
起き上がるだけでも肉体・精神の双方に猛烈な負担を強いざるを得なかった。
 「さすがだねぇ・・・起き上がってきたな」
河上は永倉が起き上がり、剣を構えたことに感心する。
「だが・・・」
河上は一旦言葉を切る。
そして、ニヤリと口元に笑みを浮かべた。
「それまでだな・・・。身体が悲鳴をあげてるな」
息遣い、汗の出方、筋肉のひきつりなどを鼻と耳で嗅ぎ取り、河上は永倉のコンディションを明確に見抜いていた。
もはや、彼は立つのもやっとだった。
顔には脂汗がどっと噴き出している。
身体は激痛でガクガクと震え、辛うじて剣を構えているといった状態だ。
だが、その目には未だ闘志を宿している。
 「大した・・男だよ・・お前さん・・だが、これでおしまいだ。あんたのその根性に敬意を表して・・・今度は100%の力で決めてやる」
そういうと、河上はさっきと同じ構えを取る。
先に用いた技で仕留めようという腹積もりだ。
彼が永倉にくらわせたのは「火山閃(かざんせん)」という技だ。
刀に闘気を込めて突進し、強烈な居合い斬りで敵を斬り、地面に剣を叩きつけて闘気の柱を打ち上げる。
それで敵を完全に吹っ飛ばすというわけである。
 「ハァ・・ハァ・・ハァァ・・」
永倉は両肩を激しく上下させ、荒い息を吐き出す。
身体の節々から上がる悲鳴を懸命にこらえ、息を整えようとする。
彼は立ち尽くしたまま、じっと河上を見つめている。
打ち込んでくれといわんばかりに刀をだらりと下げ、面から胸にかけて完全に隙だらけにしていた。
(こい・・さあ来い!)
永倉は荒い息の中でそう叫ぶ。
相手が襲い掛かるのを待ち構えながら、永倉は自らの闘気をおのれの腕と剣に注ぎ込む。
地面を蹴る音と共に、再び河上が永倉の目前に現れた。
今度は永倉の顔面目がけて闘気をまとった剣が襲い掛かる。
河上が命中を確信した瞬間、仕込杖が一瞬だが止まった。
僅かの間に河上は手から仕込が無くなったことを察知する。
永倉が闘気をまとわせた剣を刷り上げ、仕込杖を跳ね飛ばしたのだ。
(しまっ・・・!!)
河上が避けようとした瞬間、永倉は頭上へ振り上げた剣を思い切り打ちおろす。
その切先には雷状の闘気をまとっていた。
「ウオオオッッ!!」
裂帛の気合と共に永倉は刃引き刀を振り下ろす。
雷状の闘気を纏った切先は鈍い音と共に、河上の胸に叩きつけられた。
同時に雷光が河上の全身を駆け抜ける。
焼けるような痛みが河上の全身、脳天からつま先まで広がる。
「ぐ・・ぐぬおっ・・・」
河上はヨロヨロとよろめく。
体勢を保とうと悪戦苦闘しているようだったが、ついに力尽きたのか地面に仰向けに突っ伏すようにして倒れこみ、そのまま気絶した。
 「ハァ・・・・」
一方、永倉も地面にあぐらをかいて座り込む。
身体の節々が軋みを上げ、このままでは倒れそうだった。
(危うい・・・ところだった・・・)
気絶した河上を見やりながら永倉はそう思わずにはいられなかった。
(龍尾剣・雷が使えなかったらやられていた)
永倉はついさっきの出来事を思い返す。
河上の抜刀は凄まじい打ち込みだった。
返し技系の奥義である龍尾剣・雷でなければ、とても受け止めて反撃することは不可能だっただろう。
この技を使える体力を辛うじて残していた為に今日の立会いに勝利できたといえる。
(俺も・・・まだまだ・・だな・・・)
永倉はそう思うと携帯電話を取り出す。
(よかった・・こわれておらんな)
携帯が無事だったことにほっとすると、永倉は電話をかける。
「永倉だ・・。車を一台、郊外の森によこしてくれ。場所は・・・」

 
 ―完―
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